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(1)

ベンチャー企業の特徴とベンチャー・キャピタルの 意義,ベンチャー・キャピタル研究の意義

著者 赤石 篤紀

雑誌名 同志社商学

巻 57

号 6

ページ 119‑160

発行年 2006‑03‑15

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007344

(2)

ベンチャー企業の特徴とベンチャー・キャピタルの意義,

ベンチャー・キャピタル研究の意義

赤 石 篤 紀

1 はじめに

2 ベンチャー企業の特徴

3 ベンチャー企業の財務的特徴とベンチャー・キャピタル研究における基本問題 4 マクロ的視点に立ったベンチャー・キャピタル研究

──ベンチャー・キャピタル産業に関する研究──

5 ミクロ的視点に立ったベンチャー・キャピタル研究

──ベンチャー・キャピタルの投資行動に関する研究──

6 今後の研究課題

1 はじめ

1

1989

年のベルリンの壁の崩壊を契機とした旧ソ連,東欧の社会主義国家の崩壊は,

経済的にみると,計画経済管理システムの行き詰まりから生じたものであった。そし て,資本主義対社会主義(市場経済対計画経済)の

2

軸の対立構造が失われた昨今,世 界的に市場経済システムの再評価が行われている。それは,資本主義の旗手としての一 翼を担い,1990年代の世界経済を牽引してきた米国の市場経済システムを推し進めよ うとするグロバリゼーションの動きと地域的な文化風土,歴史的経緯,価値観といった 地域特性を重視するローカリゼーションの動きがせめぎ合う時代でもある。

このような

1990

年代以降の資本主義社会にあって,一貫してみられる

1

つの傾向が ある。それは,世界的にベンチャー・キャピタル(以下

VC)を通じたベンチャー企業

(以下

VB)への投資の増加である。第 1

図は,米国,欧州,アジア,そしてわが国の

VC

の新規投資額の推移を示したものである。同図表から,1990年以降,いずれの国,

地域においても

VC

の活動,すなわち

VC

による

VB

への投資が活発となっているこ とが窺える。では,なぜ今

VC

の活動が活発となっているのであろうか。

VC

は,VBを主たる投資対象とする金融機関である。そのため,VCの活動の活発 化は,VBへの関心が高まり,VBへの投資が増加していることを意味する。それゆ

────────────

本稿は,二村重博教授の退職記念号に上梓すべく拙稿(2004, 2005 b)を加筆・修正したものである。

これまでに二村教授に頂いたご厚情には遥かに及びませんが,感謝の意を込めまして本稿を上梓させて いただきます。むろん,本稿におけるありうべき過誤は,すべて筆者の責に帰するものであります。

511)1

(3)

え,上記の問いに答えるには,VBへの関心が高まっている理由についてまず考える必 要があろう。VBへの関心が高まっている背景には,大きく

3

つの側面がある。

1

つは,イノベーションの担い手として

VB

に固有の補完機能の役割(明石,1999,

p. 3)が求められている点である。VB

は市場規模が小さいあるいは既存の技術パラダ

イムとは異なるという理由で大企業において見過ごされる,あるいは適応できない特殊

・隙間ともいえる事業領域において潜在的なニーズを探索し,それを具現化する。そし て,このような大企業では適応できない市場や技術がやがて既存の市場や技術を代替す るイノベーションとなることが様々な産業において観察されている(Utterback, 1994 ;

Christensen, 1997)

。それだけに,消費者ニーズの多様化と技術革新のスピードが増して いる昨今,VBがイノベーション創造の先鞭をつけるという固有の役割が着目されてい るのである。

2

つめには,Microsoft社や

Intel

社,Genentech社といった,かつては

VB

であった 企業の華やかな成功物語があげられよう。また,上記企業だけでなく,コンピュータ・

ソフトウェアやバイオテクノロジー,情報通信など

21

世紀を担うといっても過言では ない産業において米国

VB

の台頭は著しい。これらの企業,そしてこれらの企業の潜 在能力を見抜き投資を行った投資家は,その後の情報技術ブームやバイオテクノロジー

・ブームに乗って

1990

年代を謳歌した。こうした

VB

の成功,さらには投資対象とし

1 1990年代のVCの新規投資額の推移

(出所:NVCA webサイト;EVCA, 2003 ; Asian Venture Capital Journal, 2002)

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

0(512

(4)

ての

VB

の魅力が

VB

に対する関心を高めているともいえる。

3

つめは,これらの企業に牽引される形で,1980年代に深刻な不況を経験した米国経 済が復活を遂げ,90年代に大きく躍進したことがあげられ

2

る。米国経済の躍進には,

シリコンバレーのような

VB

を中心としたクラスターが大きな原動力となってお

3

り,

これらのクラスターは当該地域の経済を活性化するとともに,不況によって失われた雇 用機会の創造にも一役買っている。また,これらのクラスターは,当該地域の競争力だ けでなく,先に述べたように国の競争力を高めている。それゆえ,国内地域の活性化と 雇用機会の確保といった地域振興の観点からも,VBに対する関心が高まっているので ある。

こうした理由により,VBへの関心が高まり,VBを投資対象とする

VC

への資金流 入が増加し,VCによる投資が増加しているのである。そして,VCに対する関心も高 まっているのである。しかし,ここで

1

つの疑問が生じる。なぜ,VBへの関心が高ま るとともに

VC

への資金流入が増加するのか,また

VC

に対する関心も高まるのかと いう問いである。その

1

つの答えは,一般投資家には

VB

への投資が難しく,VBを投 資対象とする

VC

が一般投資家と

VB

との間に介在しなければならないためである。

では,なぜ

VC

が一般投資家と

VB

の間に介在する必要性があるのであろうか。

本稿は,かかる問題を明らかにすることを端緒に,VCの意義,さらには

VC

研究の 意義ならびに今後の研究課題を明らかにすることを狙いとする。というのも,「なぜ

VC

が一般投資家と

VB

の間に介在する必要があるのか」という上記の問題こそが,VC研 究を行っていく上で礎となる基本的問題であるからであり,この基本的問題の上にこれ までの

VC

研究があると考えられるからである。

具体的には,まず第

2

節で,これまでになされた

VB

の諸定義を整理することを通 じて,VBの有する特徴を明らかにする。というのも,VCをもって

VB

と一般投資家 の間に介在させる

1

つの理由が,投資対象としての

VB

の特徴にあると考えられるか らである。続く第

3

節において,これら

VB

の特徴を,VBへの投資を考える際に考慮 すべき財務的な特徴に置き換え,VCを論じる上での基本問題を明らかにする。その上 で,VCに関する先行研究をそれぞれどのように位置付ければよいのか,その分類・整 理のための枠組みを明示する。そして,第

4

節と第

5

節で,これまでに蓄積されてきた

VC

研究を整理し,第

6

節で

VC

研究における課題を見出していくことにする。

────────────

Reynold=Hay(1999, 2000, 2001)では,1国の経済成長が,大きく既存企業(大企業と中小企業)の行

動と起業家活動(起業機会と起業能力)に依存するモデルを提示している。

このような観点から,「VB創造を促進するために地域がやるべきことは何か」という問題意識の下で 議論が展開されている。そこではVB創造を導くような環境要因を再び作り出すことによって,シリ コンバレーの経験を模倣しようという試みがしばしばみられるとともに,「果たしてそれが可能なのか」

という問題についても論じられるようになっている(Phan=Foo, 2004)

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 513)1

(5)

2 ベンチャー企業の特徴

本稿での主たる問題意識の

1

つは,「なぜ,VCが一般投資家と

VB

の間に介在しな ければならないのか」という点を明らかにすることにある。本節では,これらの問題を 明らかにする

1

つの手がかりとして,VCの投資対象である

VB

の特徴について,これ までになされてきた

VB

の定義に込められた意味内容を整理することで,考察してい くことにする。

1.定義にみるベンチャー企業の特徴 VB

という用語は和製英語であ

4

り,わが国においてこの用語が用いられたのは,国民 金融公庫総合研究所による新規開業実態調査にあるとされる(植藤,1999 : p. 2)。1970 年度に行われた「都市型新規開業実態調査」において,「最近登場する新しいタイプの 中小企業を一応

VB

と名付けることとする」と記述されるとともに,「VBの特徴とし ては,新技術を企業化したり,あるいは専門知識にもとづいて,新しい独自な影響方法 を開発するなど,他に先駆けて創造的活動を展開するパイオニア的な企業である」と,

ここにわが国において初めて

VB

という用語が用いられ,定義されたのである。

この調査時に,中心的な役割を果たしたのが中村秀一郎教授と清成忠男教授であっ た。その後,その両教授は改めて

VB

を次のように定義されている。すなわち,「VB とは,研究開発集約的,またはデザイン集約的な能力発揮型の創造的新規開業企業を意 味する。したがって,それらは小企業として出発するが,従来の新規開業小企業の場合 と違うのは,独自の存在理由を持ち,経営者自身が高度な専門能力と才能ある創造的な 人々をひきつけるに足りうる魅力ある事業を組織する企業家精神をもっており,高収益 事業である」としている(中村=清成,1971 : p. 10)。

その後,企業を取り巻く環境変化の中で,多くの論者によって新たな意味と内容をも った

VB

の定義が行われるに至

5

る。1971年の中村,清成両教授の

VB

の定義以降に指 摘された

VB

の諸定義をまとめたものが第

1

表である。同図表に示すように,多くの 論者がそれぞれの研究視点にのっとり,VBの定義を行っている。そこでの

VB

の定義 に共通してみられる特徴として,大きく以下の

4

点をあげることができる。

────────────

米国においてこれらの企業は必ずしもVBとは呼ばれていない。New Technology Company, New Ven- ture, Venture Operation, New Venture Company, Small Business Ventureなど多様な呼び方がなされている

(中 村=清 成,1971 : p. 10)。ま た,単 にVentureと す る 場 合 も あ る。Lerner=Pfirrman=Wupperfeld

(1997)においては,「R & Dに少なくとも10万マルクを支出する創業5年未満の企業」をNew Tech-

nology Based Firmsと定義し,これに資本を供給するVCの役割を分析している。

VBの定義を分類する試みもなされている。詳しくは,金井(2002)を参照されたい。

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

2(514

(6)

1

は,企業家精神を有しているという点である。そこでいう企業家精神には様々な 意味が包摂される。しかし,その根底にある意識は,Schumpeter(1961)のいう「新結

6

合」を遂行することを自らの機能とし,その遂行にあたって能動的に行為するというこ とである。すなわち,企業家精神を有しているということは,イノベーションの担い手 であり,経済発展の源泉である非連続的な変化を引き起こす原動

7

力としての役割を有す

────────────

Schumpeter(1961)は,経済生活を本質的に毎年同一軌道の循環が繰り返される局面と経済循環の軌道

を逸脱する変化の局面から捉え,経済発展の源泉を経済の領域内で内発的に起こる変化,つまり「経済 循環軌道の自発的および非連続的変化」であるとする。その上で,このような発展は,利用可能な多様 なモノや力を結合する生産方法の変更,つまり「新結合」によるイノベーションを通じてもたらされる ことを主張した。

様々な非連続な変化がイノベーションを生み,次世代の機軸となることは,Utterback(1994)に詳し い。

1 VBの諸定義 中 村 秀 一 郎

(1983)

研究開発型・デザイン開発型の新規開業企業である。それをより広義に捉えるなら,独 自の経営ノウハウにもとづいて既存の企業では満たし得ない新しい需要を開発し,新し い需要機会を創造した新企業を含めてよい。それは新しい独立の小企業としてスタート するが,新規開業企業一般と異なるのは,独自の製品,サービスを開発し,固有の市場 範囲を確保しているイノベーターであることである(p. 11)

鈴木克也

(1983)

中堅・中小企業でありながら,企業家精神あふれる経営者に率いられ,独自の高度な技 術や経営ノウハウを武器に,自らの力で新規の市場を切り開いていく若々しい企業(p.

113) 中 小 企 業 庁

(1984)

独自の新しい優れた技術や経営ノウハウを武器として,積極的に経営を拡大しようとい う企業家精神旺盛な自主独立の中小企業

清成忠男

(1985)

ベンチャー・ビジネスとは,高度に知識集約的な革新的中小企業である。その企業行動 の特徴は,旺盛な企業家活動である(p. 163)

若杉敬明

(1985)

漓旺盛な企業家精神を持つ経営者に率いられ,滷独自の技術ないし独自の経営スタイル にもとづいた製品により,澆新規市場を開拓(しようと)している,潺独立の中小企業

(p. 132) 大滝精一

(1997)

漓製品・サービスあるいは事業の内容に一定の革新性をもち,滷新規市場の創造によっ て成長を志向するとともに,澆それに伴うリスクを適切に処理する必要性に直面した企 業(p. 152)

高城寛

(1998)

「研究開発集約的,またはデザイン開発集約的な能力発揮型の創造的新規開業企業」で ある。これらの企業の特徴は,例えば漓小企業として出発するが独自の存在理由をもっ ている,滷経営者自身が高度の専門能力をもっている,澆企業家精神に富んでいる,潺 高収益,急成長の企業である(p. 11)

松田修一

(1998)

成長意欲の強い起業家に率いられたリスクを恐れない若い企業で,製品や商品の独創 性,事業の独立性,社会性,さらに国際性をもった,何らかの新規性のある企業。そし て,最低限リスクを恐れず新しい領域に挑戦する若い企業であること(p. 16−17) 経 済 企 画 庁

(1999)

きわめて高い成長を達成する可能性を有するものの,その実現には不確実な要素が多 く,事業に失敗する可能性も高い企業(p. 223)

西村慶一

(1999)

企業家精神を有する経営者が,創造性に富んだ新しい技術やサービスによって,新市場 を開拓していく若い独立した中小企業であって,企業の社会的役割を認識しつつ,積極 的に経営拡大を行い,登録・上場を行う意欲のある企業(p. 131)

柳孝一

(2000)

高い志と成功意欲の強い企業家を中心とした,新しい事業への挑戦を行う中小企業で,

商品,サービス,あるいは経営システムに,イノベションにもとづく新規性があり,さ らに社会性,独立性,普遍性をもった企業(p. 5)

柳在相

(2003)

リスクを恐れないチャレンジ精神に溢れる起業家や経営チームによって導かれ,製品や サービスに独創性および社会性があり,さらに事業組織としての自立性の高い企業であ る(p. 46)

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 515)1

(7)

ることが自他ともに認められるかということを意味する。

2

は,独自の技術やノウハウにその存立基盤を置いているという点である。そし て,第

3

は,新しい需要を創造することを狙いとしている点である。これらの特徴は,

1

の特徴とも大きく関連する。なぜなら,企業家精神を有しているということは,経 済生活における同一軌道性からの逸脱を意図するから,当然にそれは新しい独自の技術 やノウハウが基盤となり,新しい需要を創造することを意味するためである。

4

の特徴は,中小企業であるという点である。これは「中小企業基本法」に規定さ れている量的な区分を図

8

る一方で,VBがトップのリーダーシップへの依存や経営資源 の脆弱性といった中小企業であるが故の質的特

9

徴を内在した企業体であることを意味す る。

したがって,これまでに行われた

VB

の定義から,VBを最大公約数的に広く捉える のであれば,VBとは,「漓独自の技術やノウハウにもとづいて,滷既存の企業では満 たしえない新しい需要機会を創造する,澆企業家精神に富んだ,潺中小企業」というこ とになる。

2.成長可能性を秘めた企業としての VB

しかし,第

1

表に示すように,VBに「成長性」あるいは「成長志向」を求める向き もある。そこには,第

1

節で述べたような経済の活性化や雇用機会の創造といった役割 がこれまで以上に

VB

に求められていることと関係している。つまり,VBといった場 合,そこには規模的成長を遂げていく中で地域経済や国家経済を活性化し,雇用機会を 新たに生み出していく存在としての社会的な期待が含まれると考えられ

10

る。

また,VCの観点からみた

VB

の成功とは,投資を行った

VB

が株式公開(Initial Pub-

lic Offering:以下 IPO)を行うまでに成長し,その株式が売却可能になることである。

これらの諸点を鑑みれば,今日の

VB

には成長性あるいは成長志向が求められ,また

────────────

199812月中小企業基本法の改正に伴い中小企業の量的定義は次のように改正されている。

業:従業員300 資本金3億円 業:従業員100 資本金1億円 業:従業員 50 資本金5000万円 サービス業:従業員100 資本金5000万円

例えば,中小企業の特徴として,漓所有と経営の一致,滷人間関係が密である,澆成り行き管理,潺経 営トップの人的条件に依存,潸大企業との済みわけ,澁経営資源の脆弱性があげられる(二場,1998, pp. 69−78)

0 わが国の今回のベンチャー・ブームは,1970年から1973年までの第一次ベンチャー・ブーム,1983 から1986年までの第二次ベンチャー・ブームに続く第三次ベンチャー・ブームとされる(山田,

1999)。過去2回のベンチャー・ブームは,金融制度の緩和,大企業の資金需要の相対的な低下,技術

革新といった要因によって刺激されたものであり,好況期にみられた。一方,今回の第三次ベンチャー

・ブームは,バブル崩壊後の不況時に起こったものであり,これまでのブームとは異なり,産業構造の 転換が背景にあると解釈されている(鹿住,1996;山田1999)

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

4(516

(8)

その意味内容に成長可能性が含まれると考えられる。少なくとも,VC研究の意義と課 題を模索する本稿にあっては欠くことのできない特性となる。

以上から,本稿ではこれまでになされた

VB

の定義「漓独自の技術やノウハウに基 づいて,滷既存の企業では満たしえない新しい需要企業を創造する,澆企業家精神に富 んだ,潺中小企業」に加えて,潸成長可能性という特性をもつ企業体を

VB

と定義 し,次節ではこれら定義に含まれる

VB

の特徴を財務的な特徴に置き換えて,「なぜ,

VC

が一般投資家と

VB

の間に介在するのか」という

VC

研究における基本問題を明ら かにしていくことにする。

3 ベンチャー企業の財務的特徴と ベンチャー・キャピタル研究における基本問題

前節において,われわれは,VBの定義を整理することを通じて

VB

の特徴をみてき た。こうした

VB

の特徴は,財務的にみると,漓情報の不透明性(informational opac-

ity)が高い,滷事前・事後の評価が難しい,澆情報の非対称性が生じやすい,潺リス

クが高い,という特徴に置き換えることができる。そのため,一般投資家や銀行などの 既存金融機関が資本を提供することが難しく

11, 12

なる。以下では,これら

VB

の財務的な 特徴を,VBの成長段階ごとに区分し,もう少し詳しくみていくことにする。

1.財務成長サイクルと情報の不透明性

漓情報の不透明性

2

図は,財務成長サイクル・モデルを示したものである(Berger=Udell, 1998)。 財務成長サイクルは,企業が成長し,実績を積み重ね,情報の不透明性を緩和していく につれて,資本調達上のニーズおよび選択肢がどのように変化するかを示したものであ

13

る。このモデルにおいて,企業の資本調達先を規定する要因として捉えられているもの

────────────

1 むろん,一般投資家からの投資を募るためには,公開市場において株式を公開しなければならず,株式 公開のためには果たさなければならない要件が存在する。しかし,仮にかような株式公開のための要件 がなく,一般投資家による投資が可能であったとしても,文中に示す理由により,一般投資家がVB に対する投資を行うには困難であろう。なお,わが国では新興企業を対象とした株式市場として,

JASDAQ, Mothers,ヘラクレスの3市場があるが,それぞれ株式公開にあたっての要件を設定してい

る。詳しくは,各市場のWebサイトを参照された。

Coval=Thakor(2005)は,悲観的な投資家から資本を調達しなければならない,楽観的な企業家を有

する経済社会において,両者の橋渡しを行うための投資を行うことが価値あることであると考える合理 的な金融仲介業者が内生的に生まれると論じている。

3 このモデルは企業の成長段階の各時点でどの資本調達源泉が重要になるかについての一般的な考え方を 示したものに過ぎず,ここで示されるように,ある資本源泉の始点と終点が決定的なものであることを 意図してはいない点に留意する必要がある。また,そこで対象となる企業が必ずしもVBではない点 にも留意する必要がある。

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 517)1

(9)

が情報の不透明性であり,創業間もない段階ほど情報の不透明性が高いとされ

15

る。

こうした情報の不透明性の存在は,次の問題を喚起する。すなわち,中小企業に関す る情報の不透明性が資本の需要者側である企業と資本の供給業者側である投資家ないし 金融機関との間に情報の非対称性(informational asymmetry)を生み出すという問題で ある。情報の非対称性が存在する場合,逆選択問題(adverse selection problem)やモラ ル・ハザード問題(moral hazard problem)を醸成し,多大なコストをもたらすことにな

16

る。したがって,情報の不透明性が高い段階ほど,その資本調達先は限定されることに なり,種々の資本制約に苛まれることになる。とりわけ,VBは,第

2

節でみたよう

────────────

4 図中のメザニン・キャピタルとは,優先債務と普通株の中間にある資本を指す。償還権付優先株式の形 をとる場合もあるが,ほとんどの場合,ワラントないし転換権が付与された劣後債の形をとる(Tim- mons, 1994:訳書p. 485)

5 情報の不透明性が生じる要因として,Berger=Udell(1998)は以下の4点をあげている(p. 616)。すな わち,漓中小企業は公開市場で絶えず継続して価格をつけられる取引証券を発行していない,滷外部資 金の拠出者と共有できるような監査済の財務諸表がない,澆情報の不透明性を克服するために,高い質 を伝える評判を確立するのが困難である,潺大企業と異なり,中小企業は一般に目に見えるような,あ るいはマスコミで広範に報道されるような契約を結ぶことはなく,労働者や供給業者や顧客との契約は 私的なものであることをあげている。

6 逆選択問題とは,契約交渉当事者の一方が契約から生じる相手の純利益を左右する事柄に関する私的情 報をもち,かつそのような契約内容に合意する者が,契約内容が相手にとって非常に不利となる私的情 報をもつ者である場合に生じる契約前の機会主義的行動を意味する。モラル・ハザード問題は,そもそ も効率益な結果をもたらすはずの行動を簡単には観察できず,そのために行動を実行する者が,他人の 利益を犠牲にして自己利益を追求することから発声するものであり,契約後の機会主義的行動から生じ るものである(Millgrom=Roberts, 1992:訳書p. 181, 664)

2 財務成長サイクル・モデ14

(出所:Berger=Udell, 1998, p. 623)

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

6(518

(10)

に,企業家精神にのっとり,これまでにない市場あるいは技術を基盤とした活動を行う ため,外部者と内部者の間には情報の隔たりが生じる可能性は高くなる。以下,成長段 階ごとの資本調達先の変遷について,順にみていこう。

滷企業の成長過程と資本調達先の変遷

まず創業段階に目を向けてみよう。この段階は,企業家が製品コンセプトあるいは事 業コンセプトを展開させている段階である。第

2

図に示すように,この段階の資本調達 源泉は,主として創業者の開業資金やエンジェル資金に依存す

17

る。この理由として,

Berger=Udell

は,漓創業段階にある企業は,最も情報の不透明性が高く,それゆえ金

融仲介業者からの外部資本を調達することが不可能であること,滷売掛金や棚卸資産,

機械設備のような担保として抵当に入れることのできる有形の資産をもつまで銀行ない し商業金融会社からの借入れを利用できないことをあげている(pp. 622−624)。その上 で,1993年の米国中小企業の資本調達源泉についての調査データから,漓たとえ創業 後間もない若い企業であっても,内部金融が外部金融を上回るものではなく,滷若い企 業に対する金融機関からの資本供給が当該モデルで想定されているよりも多いことを明 らかにしている。この点について,Berger=Udellは,金融機関による資本拠出の多く が,創業者の個人的な資産に対する担保や第三者の保証にもとづいて行われているた め,厳密な意味において外部金融とはいえず,内部金融の一部であると指摘している

(p.

18, 19

626)

次に,企業が成長しある程度の規模になった段階をみてみよう。より具体的にいえ ば,この段階にある企業は製品がテストに成功し,本格的な商品化と生産のための資本 が必要となる企業である。そこでは,創業段階よりも情報の不透明性は和らぎ,VCや 銀行といった金融仲介業者からの資本提供がみられる。とりわけ,米国においては,こ の段階において

VC

が登場する(Berger=Udell, 1998, p. 616 ; Sahlman, 1990, p. 477)。 また,この段階にある企業でも,その利益のタイプにより資本調達構造は幾分異なる。

高い成長性と高いリスクを有する中小企業,すなわち

VB

は,エンジェルや

VC

から

────────────

7 例えば,Wetzel(1983)やFreear=Wetzel(1993)は,創業段階にある企業に対しては,エンジェルに よる投資額がVCによる投資額よりもはるかに大きいと推定している。また,Sahlman(1990)も,こ の段階の企業をシード(seed),スタートアップ段階と位置付け,この段階におけるVCの投資の割合 が小さいことを明らかにしている(p. 477)。さらに,Elitzur=Gavious(2003)は,エンジェルによっ て行われるシード段階の投資から退出段階までの,企業家,エンジェル,VCの間の関係を検証してい る。

なお,わが国における調査では,創業時の資本調達先として自己資金や家族・知人からの借入・出資 が上位にランク付けられる(忽名1998, pp. 128−129;中小企業庁,1999, p. 288)

Steier(2003)は,VBの資本調達における企業家の家族の役割に着目し,家族構成員の,VBに対する

投資決定についての議論を展開する。

Fluck=Holtz-Eakin=Rosen(1997)は,米国ウィスコンシン州の企業のデータを用いて,漓創業段階に

おいては外部金融が内部金融を上回ること,滷ライフ・サイクルの最初の7〜8年間は,外部金融の総 資本に占める割合が減少するが,その後増加することを明らかにしている。

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 519)1

(11)

株式資本を得るのに対して,安定した収益構造や建物や設備といった一般的な物的投入 要素をもつ中小企業は銀行やその他の金融機関からの外部負債を得る傾向が強い

(Berger=Udell, 1998 ; p. 615, 6

20

26)

その後,企業が成長し,実績をあげていけば,情報の透明性はおのずと増していき,

その段階で公開市場において株式や社債を発行することで広く一般投資家から資本を調 達することになる。この段階に至ると,VCは

VB

の株式を売却し,投資資金を回収す るとともに,利益を確定させる。

2.VB

投資のリスクの変遷

次に,成長段階に沿って変化する

VB

に対する

VC

の見方をみていこう。第

2

表 は,Ruhnka=Young(1991)と

Timmons(1997)で提示され て い る VC

VB

に 対 す る要求利益率を示したものである。同図表から,漓評価対象となる

VB

の成長段階に よって,VCの要求利益率が異なり,滷初期段階にある

VB

に対する投資ほど要求利益 率は高く,VBが成長していくにつれて要求利益率も減少していくことがわか

21

る。一般 に要求利益率はリスクが高くなるほど高くなるとされているから,成長段階によってリ スクが異なるということになり,初期段階にある

VB

ほどリスクが高いということに なる。このようなリスク認識に内在する考え方は,以下の

3

つである。

1

は,ビジネス・リスクの問題である。VBが株式公開に至るまでに,数々の変革 期を迎え,その変革期に必ず直面する経営上の課題が存在する(Griener, 1977 ; Gal-

braith, 1982 ; Churcill=Lewis, 1983;大滝 1997)

。すなわち,創業時点の企業ほど,株 式公開に至るまでに乗り越えるべき課題が多く,逆に株式公開間近の成長後期段階にあ

────────────

Ueda(2004)は,「VBが銀行からの資本調達を行うのか,それともVCからの資本調達を行うのか」

という選択問題について理論的に検証している。そこでは,漓企業家と資本提供者間の情報の非対称性 の程度と,滷知的所有権の保護の程度が,この選択問題に影響を与えることが示されている。

Kerins=Smith=Smith(2004)は,ハイテクIPOのデータベースを用いて,アーリー段階の企業におけ

る要求利益率(資本コスト)の推定を試みている。

2 VCの要求利益率

Timmons(1997) Ruhnka=Yong(1991)

rate of return 保有期間 rate of return risk of loss

Seed/Start-up First Second Expansion bridge/mezzanine LBOs

Turnarounds

50−100% 以上 40−60%

30−40%

20−30%

20−30%

30−50%

50%+

10年以上 5−10

4−7 3−5 1−3 3−5 3−5

Seed Start-up/First Third Forth Exit

73.0%

54.8%

42.2%

35.0%

35.0%

66.2%

53.0%

33.7%

20.9%

20.9%

(出所:Timmons, 1997 ; Ruhnka=Young, 1991)

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

8(520

(12)

る企業ほど,乗り越えてきた課題が多く,リスクが少ないとされる。Ruhnka=Young

(1987, 1991)では,損失の可能性が企業の成長の可能性に伴い,減少することが示さ れてもい

22

る。

2

は,潜在的に高い能力をもつ,優れた企業であっても,その評価が難しいという 問題である。とりわけ,VBは,第

2

節でみたように,企業家精神にのっとり,これま でにない市場あるいは技術を基盤とした活動を行うため,企業家自身にもその将来性お よび成長性が見極めにくい部分があり,外部者であればなおさらである。こうした事前

・事後の評価の難しさは情報の非対称性を生み,一般投資家からの資本をより困難にす ると同時に,成長初期段階にある企業に対する要求利益率をその分だけ高める要因とな る。

3

は,流動性リスクの問題,すなわち

VB

が株式を公開するまで基本的にその投 資を現金化できないという問題である。それゆえ,VBの成長初期段階で投資を行う と,VCの

VB

株式保有期間は長くなり,株式公開間近の

VB

に投資を行うとその株式 保有期間は短くなる。換言すれば,VB投資の流動性は成長初期段階ほど低く,企業が 成長するにつれて高まってくるのである。かかる観点に立てば,評価対象となる

VB

の流動性も要求利益率に関係すると考えられる。

3.ベンチャー・キャピタル研究の基本問題と分類軸

漓ベンチャー・キャピタル研究における基本問題

漓情報の不透明性(informational opacity)が高い,滷事前・事後の評価が難しい,澆 情報の非対称性が生じやすい,潺リスクが高い,といった

VB

の財務的特徴から,VC の存在意義として,VBが抱える情報の不透明性とリスクの高さに対応するメカニズム を有している点を指摘することができる。

ここから,VCを研究対象として考える場合の

2

つの基本的問題が演繹され

23

る。その うちの

1

つが,「上記のような

VB

の抱える諸問題に対応するメカニズムを有する

VC

をどのようにして形成していくか」という問題であり,VC産業全体を対象とし,その 振興なり発展パターンを分析していくというものである。そしてもう

1

つが,「VCが どのようにして

VB

に内在する問題を解決しているのか」,すなわち

VC

の投資行動の

────────────

2 成長後期段階におけるリスク要因は,成長後期段階に至る前,すなわち成長初期段階から存在すること から,成長初期段階ほどリスクが高く,VCの要求利益率が高くなると考えられる。なお,Ruhnka=Young

(1987)は,VBの成長初期段階においては,「評価対象となるVBの事業や技術コンセプトの技術的・

経済的実行可能性」や「創業者の経営能力」といった企業内部の問題が主たるリスク要因として認知さ れているのに対して,VBThird StageFourth Stageといった成長後期段階に至ると,成長初期段階 で問題とされたリスク要因は薄れ,「予期しない競合企業の参入」や「IPOができない」といった企業 の外部環境で発生する問題が主たるリスク要因としてVCに認識されることを明らかにしている。

Wright=Roobie(1998)は,VCを検証するフレームワークとして,産業レベルの問題と企業レベルの

問題の2つの視角からVCを分析するフレームワークを提示している。

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 521)1

(13)

詳細に関する問題である。後者の

VC

の投資行動に関わる問題は,「情報の非対称性の 問題をどのように解決しているのか」,「リスクの高さにどのように対応しているのか」

といったこととなる。

滷ベンチャー・キャピタル研究の分類軸

上記のような「VC研究における基本問題」を第

1

の分類軸とすると,さらにこれに 加え,2つの分類軸,すなわち「米国

VC

を対象とする研究と米国外の

VC

を対象とす る研究」という分類軸と「研究の行われた年代」という分類軸を念頭に置くことが,こ れまでの

VC

研究を整理する上で有益となる。

2

の分類軸,すなわち「米国

VC

を対象とする研究と米国外の

VC

を対象とする 研究」という分類軸は,以下のような理由により設定される。VC産業が最も発展して いる国,そして

VC

産業について最も古い歴史を有する国が米国である。それだけ に,米国において最も

VC

に対する研究が蓄積されており,また

VC

の投資行動の詳 細についての議論が重ねられている。これに対して,米国以外の国々,すなわち欧州諸 国やわが国をはじめとするアジア諸国は,いわば

VB, VC

に牽引された米国経済の復 興を目の当たりにした国々である。そのため,これらの諸国における

VC

研究にあっ ては,まず米国の事例を学び,そこから自国

VC

の振興を考えていこうという姿勢が みられ,米国における

VC

研究とは幾分視点が異なる。

3

の分類軸,すなわち「研究の行われた年代」は,大きく以下の

3

つの年代区分,

漓1980年代,滷1990年代,澆2001年以降で設定できる。1980年代は米国において

VC

の投資額が増加し,VCに対する社会的な認知が次第に広がっていた時代である。この 時代は

VC

産業に学問的関心が向けられはじめ,VCの投資行動にも焦点が当てられて いった時代である。続く

1990

年代は

VB

に牽引される形で米国経済が好調に推移した 時代であり,VCの投資行動の詳細に関する議論が積極的に積み重ねられた時代でもあ る。この

1990

年代は,米国の成功を目の当たりにした欧米諸国ならびに日本といった 米国以外の国々においても

VB・VC

の関心が高まる時代である。そして,2001年以降 は米国においてネット・バブルが崩壊し,米国経済の成長が幾分鈍化した時代でもあ る。これに呼応してか,2000年前後になると,VCの投資行動に対する見方にも変化が みられ,VCの経済効果が再検証されたり,VCの経験がもたらす悪影響や

VC-VB

間 のコンフリクトなどが論じられるなど批判的な検討が行われるようになっている。

次節以降では,これらの

3

つの分類軸のうち,特に第

1

の分類軸,すなわち「VCの 基本問題」を念頭に置きながら,これまでになされてきた

VC

研究を分類整理し,今 後の課題を検討していくことにする。

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

0(522

(14)

4 マクロ的視点に立ったベンチャー・キャピタル研究

──ベンチャー・キャピタル産業に関する研究──

前節で述べたように,VC研究における

1

つの流れは,VC産業そのものを分析対象 とするものである。そして,そこでの問題意識は「VC産業の特徴はどこにあるの か」,「VC産業をいかにして育成していくか」,また「VC産業の進展は果たしてどのよ うな経済効果を有するのか」といった点にある。かかる問題意識の下で行われた先行研 究を米国・米国外と年代の区分に即して示したものが第

3

表である。以下では,このよ うなマクロ的視点に立った研究を,漓産業構造と成長パターンに関する研究と,滷VC の経済効果に関する研究の

2

つに区分し,整理していく。

1.産業構造と成長パターンに関する研究

「VC産業をどのようにして形成していくのか」という問題は,米国をはじめとする 世界各国の

VC

研究において共通してみられる問題意識である。このような問題意識 にのっとった研究は,第

3

表に示すように,米国においては

VC

の投資量が増え,VC が社会的に認知され始めた

1980

年初頭より,また米国外の国々においては,VBに牽 引された米国経済の活況を目の当たりにした

1990

年代より展開されるようになってい る。そこで,ここでは

VC

産業構造ないし成長パターンに関する研究を,さらに米国 と米国外の

VC

産業に関する研究に分類してみていくことにする。

漓米国

VC

産業に関する研究

3

表に示すように,マクロ的視点に立った研究は,1980年代初頭より盛んとなっ た。そこでの研究は,大きく

3

つの流れがみられる。

1

つは,資本量の推移,投資先産業や投資先

VB

の成長段階の割合などの産業記述を

3 マクロ的視点に立った研究の流れ

米国外

1980

1990

2000

・産業構造

・種々の政策との関係

・経済効果

・VCの利益率

・資本提供者の見方

・経済効果

・自国VC産業の特徴

・自国VC産業の発展

・他国VC産業との比較

・各国のVC産業の発展パターン比較

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 523)1

(15)

主として行ったり,その成長パターンを分析するものである。この研究の流れには,シ ード段階の資本供給量を記述する

Obermayer(1983)

,地域における

VC

産業の発展事 例としてノースカロライナ州の

VC

産業を取り上げる

Schell(1984)などが位置付けら

れる。

2

つめは,種々の政策と

VC

の関係性に関する分析である。ここには,キャピタル・

ゲイン減税と

VC

の投資量の関係を描く

Timmons(1981)や Brophy(1981)や Bygrave

=Shulman(1988),中小企業投資促進法(Small Business Investments Acts)を問題とす る

Schell(1982)

,中小企業投資育成会社(Small Business Investment Companies)に対 する中小企業庁の保証を考察する

Kleiman=Shulman(1992)

,1979年の従業員退職所 得保障法(Employment Retirement Income Security Act)プルーデントマンルール改正後 の

VC

資本の増加を描く

Gompers(1994)

,連邦政府の

R & D

補助金の効果を問題と する

Gifford(1997)などが位置付けられる。

3

つめは,VCの利益率に関する分析を行うものである。この研究の流れには,1978

−1984

年のファンドの利益率の推移を分析する

Bygrave=Fast=Khoylian=Vincent=Yue

(1988, 1989),VCの投資行動の変化が

VC

の利益率に与える影響を分析する

Stevenson

=Muzyka=Timmons(1986, 1987),VCイ ン デ ッ ク ス の 構 築 を 試 み る

Keeley=Turki

(1995),VCのリスク−リターン属性を考察する

Chiampiou=Kallatt(1989)や Chen=

Baierl=Kaplan(2002)

,Cochrane(2005)が位置付けられる。

4

つめは,資本提供者の

VC

に対する見方に関する分析である。ここには,事業会社 の戦略的な

VC

投資を描く

Winter=Murfin(1988)

,機関投資家のリスク感応性を分析 する

Brophy=Guthner(1988)

,機関投資家が

VC

ファンドを選別する際の基準を問題 とする

Fried=Hisrich(1989)

,資本提供者による

VC

企業のモニタリングを分析する

Robbie=Wright=Chiplin(1997)が位置付けられる。

滷米国外の

VC

産業に関する研究

欧州を初めとする米国外の地域や国々の

VC

産業は,米国と比べて後進となる。そ のため,これらの国々における

VC

産業に関する研究では,「どのような要因が

VC

産 業の形成において重要であるか」,あるいは「米国

VC

と比較して,当該国あるいは当 該地域の

VC

の特性あるいは成長パターンに違いがあるのか」といった問題意識の下 で,米国

VC

産業の特徴ならびに発展過程を論じたり,自国

VC

産業の特徴ならびに 発展過程を論じる傾向にあ

24

る。

欧州においては,Ooghe=Manigart=Fassin(1991),Manigart(1993, 1994)がその

VC

────────────

VCへの資金流入の増加とともに,米国VCの海外進出が増加している。それゆえ,米国VCの海外進 出に関する研究も行われるようになっている。こうした事象を捉えた研究としては,例えば,VCの国 際化を問題とするPatricof(1989)やWright=Pruthi=Lockett(2005),インドにおけるVC企業のリス ク査定と情報利用の検証を行うWright=Lockett=Pruthi(2002)などがある。

同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

2(524

(16)

産業の成長パターンを分析している。また,欧州では,政府や公的機関の果たす役割が 大きいことから,Leleux=Surlemont(2003)がこれら政府や公的機関の存在に留意しな がら

VC

産業の発展を分析している。さらに,国別でみると,米国

VC

とスウェーデ ン

VC

の比較を行う

Timmons(1982)

,米国

VC

とドイツ

VC

の特徴を比較する

Lerner

=Pfirrmann=Wupperfeld(1997),イギリスにおける資本提供者の

VC

に対する見方を 示す

Robbie=Murray(1992)やイギリスの VC

産業の変化,競争特性の変化を分析す

Murray(1995)がある。また,米国や欧州諸国,カナダやオーストラリアなど 19

国の

VC

の特徴と

VC

投資に影響を与える要因を検証する

Bygrave=Hay=Lopez-Garcia

=Reynolds(2001)がここに位置付けられる。

また,アジアでも,アジア諸国の

VC

振興策を対象とする後藤(1999),中国の

VC

産業を対象とする

Bruton=Ahlstrom(2003)がある。わが国でも,忽名(1997)

,濱田

(1998)など,VC産業の特徴や成長のパターンを考察する研究がみられる。

2.VC

の経済的効果

米国においては,VC産業の記述および

VC

産業の発展に関する研究と同時に,これ ら

VC

産業の育成を是とする上での前提条件ともいえる

VC

の経済的効果についての 検証が行われている。その背景には,「VC産業の発展がはたして新産業やイノベーシ ョンの創造に寄与しているのか」という問題意識の存在があると同時に,VCの発展が

VB

振興を表す代替変数となることがあげられる。こうした問題意識によった研究は,

VC

産業が社会的に認知されはじめた

1980

年代と,ネット・バブルの崩壊などの事象 により

VC

に対する懐疑的な見方が出てきた

2000

年前後にみられる。

こうした

VC

の経済効果に関する研究の流れには,中小企業の資本調達における

VC

の役割を分析する

Maire=Walker(1987)

,VCと新産業の発展の関係を分析する

Fast

(1982)や

Bygrave=Lange=Kotha=Stock(2001)

,VCとイノベーションの関係を検証 す る

Timmons=Bygrave(1986)

,VCと 特 許 率 の 関 係 を 検 証 す る

Kortum=Lerner

(2000),LAN産業創造における

VC

の役割をケーススタディによって明らかにする

VonBurg=Kenny(2002)が分類される。また,リスク資本のみを投下することが必ず

しも高い質の企業家精神の創造につながらないと主張する

Venkataraman(2004)も当

該研究の流れに位置付けることができる。

5 ミクロ的視点に立ったベンチャー・キャピタル研究

──ベンチャー・キャピタルの投資行動に関する研究──

前節でみたような

VC

産業そのものを考察対象とするマクロ的側面からの研究に対

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 525)1

(17)

して,

VC

研究にはもう

1

つの流れがある。それは,「VCが,どのようにしてこれら

VB

に内在する問題を解決しているのであろうか」という問題である。言い方を換えれば,

VC

の存在意義をさらに細部にわたって検証しようという試みである。

3

節でみたように,VB投資においては,評価の難しさ,リスクの高さ,情報問題 への対応が大きな問題となる。また,VBの特徴として各種の経営資源の不足もあげら れる。これらの諸問題のため,VB投資にあたっては,評価はいうまでもなく,評価以 外の活動も重要なものと認識され

25

る。その結果,「VCがどのように投資活動を行って いるのか」,もう少し詳しく言えば,「VCはどのように

VB

の抱える諸問題に対応して いるのか」という問題が

VC

研究の

1

つの柱として存在することとなるのである。

1.VC

の投資プロセス

先にも述べたように,VCの投資活動は,単に投資案件たる

VB

を評価し,投資を行 うだけではない。そのため,「VCがどのように投資活動を行っているのか」という問 題意識の下,多段階からなる

VC

の投資プロセスの解明が

1

つの重要な研究領域とし て展開されている。同時に,この研究領域は,それぞれの研究対象となる問題を明確に 区分していく上でも重要な意味をもつ。この投資プロセスを明らかにする試みとして は,Wells(1974),Tyebjee=Bruno(1984),Silver(1985),Hall(1989),Fried=Hisrich

(1994)があげられる。

4

表は,これらの論者が明らかにした投資プロセスを最大公約数的に捉え,漓探

────────────

Baum=Silverman(2004)は,VCを,VBの将来の潜在能力を見極めることのできる スカウト とし

ての側面と,潜在能力を体現できるように手助けをする コーチ としての側面があることを明示して いる。

4 VCの投資プロセスとミクロ的視点に立った研究(米国)

年代 投資前 投資決定 投資後

漓探索 滷選別 澆評価 潺契約と交渉 潸関与活動 澁退出 1980

1990

2000

・ネットワークを通じた情報の 収集

・形式的な基準を通じた投資パ ターンの形成

・評価基準

・意思決定支援 システム

・契約構造

・交渉プロセス

・段階的投資

・証券設計

・各種条項

・概要

・価値付加性

・価値を与える 具体的活動

・関与に影響を 与える要因

・IPO

・M & A

財務上 の課題

・情報問題

→逆選択問題の緩和

・リスクの削減

・評価の難しさ

・投資後の情報問題への対応

→モラル・ハザード問題の緩

・リスクの削減

・情報問題への対応

・リスクの削減

→資源の脆弱性の補完

・公開のタイミング 同志社商学 第57巻 第6号(26年3月)

4(526

(18)

索,滷選別,澆評価,潺契約,潸関与活動,澁退出の

6

段階に置き換え,さらに

6

つの 段階において議論されている

VC

の行動,VCの行動が議論された年代,VB投資に関 わる財務上の問題を併せて表記したものである。以下では,この

6

段階の投資プロセス を念頭におきながら,VC研究の分類・整理を行っていくこととする。

2.VC

の投資パターン

4

表にも示すように,VCの投資プロセスには,投資案を詳細に評価する前段階と して,投資先となる

VB

との接触を行う探索と,形式的な基準に沿って数多くの案件 から精査を行う案件を絞り込む選別の

2

つの段階が存在する。これらの段階において は,漓ネットワークの利用と滷形式的な基準の適用を通じた投資パターンの選択による 情報問題(特に逆選択問題)の緩和とリスク削減が問題とされ,その解決を図ることが

VC

の主眼とな

26

る。

漓ネットワークの利用

ネットワーク利用に関する研究には,情報収集を中心とした

VC

の包括的なネット ワーク利用を分析する研究とネットワーク利用の

1

手法である共同投資(syndication)

に焦点を当てた研究の

2

つの側面がある。

前者には,ネットワークの利用頻度に影響を与える要因を分析する

Bygrave=Tim- mons(1986)

,エンジェルと

VC

のネットワーク利用の違いについて比較検討する

Fiet

(1991, 1995 a, 1995 b, 1996),さらにはイギリス

VC

のネットワーク利用に焦点を当て る

Lockett=Wright(1999)や Lockett=Murray=Wright(2002)が位置付けられる。

後者のネットワークの利用の

1

手法である共同投資に焦点を当てた研究には,

Bygrave

1987, 1988

) や

Lerner

1994 a

),

Steier

Greenwood

1995

),

DeClercq

Leuven

(2003),Wright=Lockett(2003)がある。また,英国

VC

においては,マネジメント・

バイアウトおよびマネジメント・バイインが中心となることから,これらの共同投資に 焦点を当てる

Chiplin=Robbie=Wright(1997)もこの領域に分類され

27

る。

滷VCの投資パターン

VC

は選別段階において,形式的な基準にのっとり,数多くの案件からより精査な評 価を行う案件を絞り込む。言い方を換えれば,ほとんどの案件が精読されることなく,

短時間で,VCの投資基準に合致するか否かという観点から棄却される。この段階で適

────────────

Amit=Glosten=Muller(1990 a, 1990 b)は,逆選択問題が存在するため,VCが投資を行うVBの失敗

率がVCに投資を求めないVBの失敗率よりも高くなると指摘する。

7 バイアウトについては,米国よりも欧州のVCがバイアウトを得意とするため,もっぱら欧州におけ る 研 究 が 盛 ん で あ る。バ イ ア ウ ト に つ い て の 研 究 と し て は,Wright=Chiplin=Thompson=Robbie

(1990),Wright=Thompson=Robbie(1992),Wright=Robbie=Romanet=Thompson et al.(1993),Wright

=Robbie=Thompson=Starkey(1994),Muzyka=Hay(1994)などがある。

ベンチャー・キャピタル研究の意義(赤石) 527)1

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