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会計基準の国際化とわが国の立場

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Academic year: 2021

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会計基準の国際化とわが国の立場

著者 松本 敏史

雑誌名 同志社大学ワールドワイドビジネスレビュー

巻 10

ページ 183‑186

発行年 2009‑03‑31

権利 同志社大学ワールドワイドビジネス研究センター

URL http://doi.org/10.14988/re.2017.0000015959

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《分科会

2

投資環境の変化と日系企業のゆくえ》

会計基準の国際化とわが国の立場

松本 敏史

(同志社大学商学部教授)

会計ビッグバン

金融ビッグバンの一環として実施された会計ビッグバンにより,わが国の会計基準はそれま での原価主義を基調とする収益費用中心観的なものから,時価評価を大きく採り入れた資産・

負債中心観的なものへと大きくシフトした。この間に改正・新設された会計基準の主要なもの は以下のとおりである。

漓連結財務諸表重視(1997),滷キャッシュフロー計算書の導入(1998),澆税効果会計 の導入(1998),潺年金会計の導入(1998),潸金融商品の時価評価(1999),澁減損会計 の導入(2002),澀リース会計基準の変更(2003),潯低価法の強制と後入先出法の廃止

(2008),潛資産除却債務の計上(2008)

会計基準が変われば企業行動が変わる。それがマクロ経済に変化をもたらすことがある。そ の典型的事例が年金会計基準の導入であり,積立不足の償却に耐えられない多くの企業が確定 給付型年金から確定拠出型年金(いわゆる401 K)に移行した。それによって年金資産の運用 リスクが企業から従業員に移転する。また,金融商品の評価基準の変更により,従来取得原価 で評価されていた売買目的の有価証券や持合株が時価で評価されることになった。それによる ROEの大幅な低下とその変動を嫌う企業が相互持合株の大量売却を開始し,株価の下落に拍 車をかけた。それが自己資本比率規制による銀行の貸し餝がしの一因になったことは否めな い。

ここで改めて会計ビッグバンのポイントを整理しておこう。会計ビッグバンはわが国の会計 基準を国際的な会計基準(グローバルスタンダード)に切り替えるものであり,その実質は英 米型の会計基準,すなわち米国のFASB,あるいは国際会計基準委員会(IASB)のIAS & IFRS へのコンバージェンス(調整による統合)を意味する。

問題は日本基準との違いである。具体的に述べると,間接金融を基盤とし,商法(現在は会 社法)による配当可能利益の計算,税法による課税所得の計算,証券取引法(現在は金融商品

(3)

取引法)による企業内容の開示が一体となったわが国の会計基準は「分配可能利益の計算」を 主要な目的としてきた。これに対して,直接金融を基盤とし,配当計算,課税額計算,そして 企業内容の開示が相互に分離している英米型の会計基準は,「企業価値評価のための情報提 供」に目的を特化しており,その導入がわが国の会計制度との間に様々な形で摩擦を産み出す ことはいうまでもない。

誰にとって有用な会計情報か

財務会計の目的は資金提供者に対する情報提供にあり,その根幹をなす会計基準は主要な資 金提供者のニーズを志向する。ここで「会計ビッグバン以前」「現在」「近未来」さらに「IASB の目標」に分けてわが国の会計基準の変化を整理すると表1のとおりである。

ものづくりと英米型会計基準の不幸な出会い

表1にある純利益(稼得利益)は,収益(企業が市場に提供した財・サービスの価値)と費 用(収益を獲得するために消費した価値)の差額であり,事業活動の成果(経営効率の尺度)

を表す。これに対して,純資産の増加額を表す「包括利益」は,企業を売買する場合の投資成 果を表しており,英米型の会計基準,とりわけIASBが目標とする全面公正価値会計はいわゆ るヘッジファンドにとって有用な情報を提供する。しかし資産,負債の公正価値(時価等)と ともに大きく変動する包括利益は,仕入・製造・販売活動の成果を正しく反映しない。その点

1 主要な資金提供者と会計基準の変遷

会計ビッグバン以前 現在 近未来 IASBの目標 会計観 収益費用中心観 収益費用中心観&

資産負債中心観

収益費用中心観&

資産負債中心観 資産負債中心観 主要な基準 企業会計原則 企業会計基準 企業会計基準or IFRS IFRS 会計目的 収益力の表示 基本は収益力の表示 収益力&企業価値の表示 企業価値の表示 資産の評価基準 取得原価 一部公正価値 一部公正価値 完全公正価値 負債の評価基準 借入額・将来支出額 一部公正価値 一部公正価値 完全公正価値 利益の計算形式 純利益(稼得利益)

=収益−費用

純利益(稼得利益)

=収益−費用

包括利益=純利益+その 他の包括利益(評価差額)

包括利益=純資産の 増加±資本取引 利益の性格 処分可能利益 企業活動の成果 企業活動の成果と評価損益 企業価値の増減 情報利用者

(資金提供者)

投資家,税務当局,

銀行等の債権者 投資家&投機家 投機家&投機家 投機家

☆投資家としての株主…株式の中長期保有,収益力の増加による配当の増加や株価の上昇を期待

☆投機家としての株主…株式の短期保有,企業自体が売買対象,企業価値の増加を期待

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で英米型の会計基準は物作りを重視するわが国の産業社会にとって好ましい会計基準とはいえ ない。

日本の選択

英米型の会計基準への収斂は規定の事実であり,米国SECによるIFRS の承認によって今 後このプロセスは加速されていく。このような状況の中で,日本の会計制度はいかにあるべき か。

まず,英米型会計基準への収斂にも2つのタイプがある。ひとつはコンバージェンス(わが 国の「企業会計基準」を IFRSと調整),いまひとつはアドプション(IFRS の自動的受け入 れ)である。

さらに連結財務諸表だけを作成する米国と異なり,わが国では連結財務諸表以外に個別財務 諸表が作成公表されている。そして個別財務諸表は会社法,税法とリンクしており,配当可能 利益,課税所得の計算基礎となっている。

このような状況のもとで日本が採りうる選択肢は次のようになる。

漓−「連結」「個別」ともにIFRSをアドプト 滷−「連結」のみIFRSをアドプト

澆−「連結」「個別」ともにIFRSとコンバージェンス 潺−「連結」のみIFRSとコンバージェンス

補足すると次のとおりである。

漓−「国際化=善,IFRSの全面受け入れ=国際化,IFRSの受け入れ=善」「連結の作成基準

=個別の作成基準」という立場を反映している。

滷−「個別」は会社法や税法とリンクしており,IFRSをアドプトすれば外国の基準設定機関 がわが国の法律を実質的に改変することになる。それを避けるために,IFRSは「連結」

にのみ適用し,「個別」は国内GAAPを適用する。

澆−「連結」「個別」ともに,IFRSと調整済みの会計基準を適用する。これは現行の方式で ある。

潺−「連結」で国際的動向に対応するが,その場合にもIFRS をそのまま受け入れるのでは なく,コンバージェンスした基準を適用。

このうち,蓋然性が高いのが潺,あるいは潺と滷の折衷案であり,具体的にはIFRSと「企 業会計基準」との選択適用をいう。その結果,わが国の会計制度は表2のように整理されるこ とになる。その際,個別の取り扱いが問題となるが,物作りを重視するわが国の場合,「個 別」は基本的に稼得・実現アプローチによる業績測定型(分配可能利益の計算)を志向すべき

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であると考える。

米国会計基準・国際会計基準の動向とそのあり方

──現代会計における信頼性の意味──

志賀 理

(同志社大学商学部教授)

は じ め に

現代のアメリカにおいては,将来の事象を認識するという会計実務・会計基準が次々に導入 されている。金融商品会計,減損会計,長期資産除却債務会計などがその典型である。それら の会計実務・会計基準は,公正価値をキー概念として,将来の事象を認識・計上するというも のである。金融商品会計は,デリバティブから生ずる未履行の権利・義務を資産・負債として 公正価値によって計上するというものである。長期資産除却債務会計では,長期資産の取得・

建設に際して発生したとされる除却債務の測定に対して,除却時に必要とされるであろう可能 性のある幅をもつ将来キャッシュ・アウトフローを見積もり,現在価値に割り引くという期待 キャッシュ・フロー・アプローチが採用されてい

1

る。市場価格だけでなく期待キャッシュ・フ ロー・アプローチのような見積・予測要素を含んだ測定技法を公正価値概念のなかに包摂し,

将来の事象を現在の財務諸表に認識・計上する会計実務・会計基準が進展しているのである。

そのような公正価値の使用は,今後もさらに増大する傾向にある。しかし他方で,FASBの 構成員のなかから,「歴史的原価は公正価値よりも目的適合的でないが,それよりも明らかに 信頼性があり,目的適合性と信頼性とのトレード・オフは公正価値よりもむしろ歴史的原価の ほうが優位であ

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る」と,公正価値測定の信頼性について懸念が表明されている。

2 今後のわが国の会計制度

会計基準 適用法令

国際資本市場公開会社 連結:IFRS型会計基準 個別:各国GAAP

当該国証券規制法 会社法(会社計算規則)

国内資本市場公開会社 連結:IFRS型会計基準 個別:企業会計基準

金証法(〔連結〕財務諸表規則)

会社法(会社計算規則)

中堅企業 個別:中小企業会計基準

税法基準 会社法(会社計算規則)

中小・零細企業 個別:税法基準 会社法(会社計算規則)

参照

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