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居場所の定義についての研究

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(1)

雑誌名 教育学論究

号 2

ページ 169‑177

発行年 2010‑12‑25

URL http://hdl.handle.net/10236/6580

(2)

居場所の定義についての研究

The study about the definition of the word ‘i―basyo’

藤 原 靖 浩

Abstract

There have been numerous studies regarding ‘i―basyo’(a psychological place where one feels one belongs)covering a range from childhood to old age. This study is one of the studies about ‘i―

basyo’. As one of such studies, the present study aims to investigate the definitions of the word ‘i―

basyo’ and to break them down into patterns. The author collected and sorted as many ‘i―basyo’

studies as possible within the four fields, pedagogy, sociology, psychology and educational psychology. As a result, ten common definitions were identified. The study enabled ‘i―basyo’ to be perceived in a more multifaceted manner, helping to provide more detailed verification regarding the process of creation, and acquisition, of ‘i―basyo’.

キーワード:居場所、類型

はじめに

本論文の目的は、現在まで、子どもから老人まで 幅広い世代を対象として数多く行われている居場所 研究の1つとして、これまで必ずしも十分に検討さ れてこなかった居場所の定義に注目し、それを類型 化することで、居場所研究の現状を検討し、居場所 とは何か明らかにすることにある。また、現在まで に行われてきた居場所研究を集成する中で、居場所 について批判的検討を加えることを目的としてい る。

1 .問題の所在

さて、居場所研究は極めて現代的なテーマであ る。居場所は現在日常的に使用される言葉である が、久田(2008)によると、居場所が「独特の意味 で 使 わ れ る よ う に な る の は、1970年 代 の こ と」

(p.65)であり、当初は「自分の存在を実感できる 場所といった意味のことば」(p.65)であった。1980 年代には子どもの不登校問題から居場所という言葉 がより異なる使われ方をするようになり、居場所が 不登校の子どもや若者の状況を表現し、支援を行う ための場としての意味を持つようになっていった。

次いで、文部省は1992年『登校拒否問題について

(最終報告)』を出し、「心の居場所」という言葉を 用いて不登校児童への対応を掲げた。この報告以 降、学校外の場所にも居場所という言葉が使用され るようになる。これに伴い、1990年代以降、居場所 について書かれた書籍や論文が増加する。次いで、

不登校の子どもが民間施設に通うことを承認する動 きが現れると、民間における居場所づくりの実践が 数多く報告されることになる。心理臨床の場面で も、「居場所がない」という感覚を抱く人々に対す る支援が検討され、成長過程における居場所の重要 性にも注目が集まった。さらに、学校外の適応指導 教室等の存在が浸透し始めると、子どもの居場所づ くりと称した自立支援活動、教育相談活動等も活発 になった。また、2004年の文部科学省の「地域子ど も教室事業」は子どもの居場所づくりを目的とする とされ、それに合わせて、民営の「フリースクール」

「フリースペース」等も居場所として捉えられるよ うになった。これだけを見ても、居場所が極めて現 代的なテーマであり、最近になって教育的な用語と して使用されるようになったことは十分に理解でき るだろう。しかし、このように様々な場面において 必要とされている居場所には根本的に大きな問題点 がある。それは、現在までに居場所については相当 数の研究が成されているにも関わらず、その定義が

Yasuhiro Fujiwara 大学院博士課程後期課程1年

〈審査論文〉2010.7.13 受稿 2010.10.4 受理

169

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一貫していないことである。現在までに行われてき た居場所研究のほぼすべてにおいて研究者独自の定 義が定めている。これによって、居場所の定義が煩 雑になっているのである。それにも関わらず、その 定義について整理・検討した研究はほとんど存在し ていない。これは小畑・伊藤(2003)が「居場所研 究者にとっては「居場所」の定義からして一つの課 題」(p.156)になっていると指摘していることか らも明らかである。

さらに、居場所の定義が確立していないことでい くつかの問題点も出てきている。例えば、居場所づ くりを行い「場」を創った時、そこが居場所となっ ているか判断する明確な基準は現在のところ無い。

そして、ある場所が居場所として十分な機能を果た していたとしても、定義が明確でないため、研究者 等がその場所を他の場所と比較しようとした場合、

それを比較することすらできない。これは居場所研 究が、「場」を超えた有益性を得られていないこと を意味している。また、「場」を超えた有益性が無 いということは、居場所が普遍的な評価を与えられ ていないことにも繋がるのである。このような定義 が確認できないことから起こってくる問題は論文の 中にも確認できる。中山・中山・浦!(2009)は選 択 性 緘 黙 の 児 童 の 適 応 を「居 場 所 作 り の 過 程」

(p.277)と捉え、その研究の中で児童の居場所の 獲得について「椅子に座れたのは、これからもこの 教室で活動をしていくと決めた、居場所を確定した 瞬間だったのではないかと考える」(p.281)とし ているが、その行動が本当に居場所の獲得と関連し ているかを判断することはできておらず、居場所の 獲得についてはそれ以上言及されていない。他に も、吉本(1993)1)や望月(2006)2)のように 居 場 所 という言葉の定義を明確にしないまま使用している 論文も目立つ。これも、居場所の定義が十分に検討 されていない、もしくは明らかにされていないため に起こってくる問題であろう。

そこで、本論文の目的は、現在までに行われた居 場所研究を概観し、その定義を整理・類型化するこ と、さらにその居場所の定義についての問題点を明 らかにすることにある。そのためにまず、第二章に

おいて居場所に関する研究を集成し、そこで述べら れている定義を整理・類型化する。その中で、従来 までの居場所に共通したものを見出すことで、居場 所という言葉の意味を正しく理解できると考えられ る。この定義の集成は、今までの居場所研究の課題 の1つであった居場所の定義に1つの解答を提示で きると考えられる。

2 .居場所という用語とその定義の集成

1 )居場所という用語

居場所の定義について述べる前に、居場所が極め て日本的な言葉であることを確認しておきたい。居 場所の考え方は非常に古典的な文献からも読み取る ことができ、居場所がアイデンティティや相互作用 とも関係したものであることが、様々な研究3)から 明らかになっている。しかし、国外では、日本のよ うに心理的側面を含めた居場所のような言葉の概念 がないために、研究はほとんど行われていないのが 現状である。中村(2005)もそれについては次のよ うに述べている。「「居場所」という言葉そのものを 検討した場合、「場」と 翻 訳 さ れ る 単 語 だ け で も

Place Field Setting など様々なものがある。

さらに「居る」と翻訳されるものもやはり多様で be live stay などがあげられるが、日本語の

「居る」という言葉が示す「身体性」を強く含んで 用いられるような単語は、筆者が検索したところお およそ見当たらない。このことから「居場所」とは、

日本独自の文化のなかで用いられる言葉とも考えら れよう。」(p.331)よって、本論文では居場所とい う言葉を日本的な言葉であると捉え、居場所の定義 を整理する際にも、日本の居場所研究の文献のみを 対象とする。これによって、より正確に居場所の実 態を捉えることができるだろう。また、居場所は教 育学を始め、建築学、医学等の論文でもその言葉を 確認でき、研究領域も幅広くなっている。本論文で は、その中でも特に研究数の多い教育学・社会学・

心理学・教育心理学の論文を中心に居場所研究がさ かんになりはじめた1990年前後、1990年以降の論文 や書籍の定義を整理し、それらを共通の類型として まとめることにした。論文や書籍は、タイトルに居

1)吉本均,1993,「「居場所としての授業」の創造―「心の教育」その歴史と実践」『現代教育科学』440号,pp.69―72.

2)望月直人,2006,「大学生は居場所をどう捉えているか」『教育科学セミナリー』第37集,pp.126―127.など 3)アイデンティティや相互作用については巡(1956)、吉本・深澤(1995)、山本(1996)、天野(2000)、小沢(2002)、

新谷(2004)、御旅屋(2008)等の研究を参照。

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場所が入るもの、キーワードに「居場所」を含むも のであり、その論文が対象とした世代等は特に限定 しなかった。

2 )居場所という用語の定義の集成

さて、本節では筆者が集成した居場所の定義を類 型化していくのであるが、実際に論文を集成すると 各研究者によって定められた居場所の定義が数多く 存在していた。そこで、筆者は教育学・社会学・心 理学・教育心理学における居場所の定義を列挙し、

それらに共通した内容を定め、それぞれを当てはめ ていく形で整理した。当初の研究では、教育学・社 会学、心理学・教育心理学という2つの大きな区分 けによって、整理を試みていたが、結果的に教育 学・社会学、心理学・教育心理学どちらも同様の類 型によって整理することが可能である点を発見し た。これは、これまでの教育学・社会学における居 場所の捉え方が単なる場としての機能だけでなく、

心理的な要素を多分に含んだものであったことを示 唆している。さらに、筆者は居場所の定義の集成に よって、それらすべてが10の類型に整理できること を発見した。10の類型は以下の通りである。また、

それぞれの類型にはどのような定義を含めるかを詳 細に記述している。

①社会生活の拠点となる物理的な意味での場 注1

これは、居場所本来の意味である物理的な「場」

という意味である。また、居場所は、現在のように 異なる意味でつかわれたとしても本来の物理的な

「場」としての意味を失ってはいない。心理学・教 育心理学では特に社会生活を行う場として、「最低 限の生理的欲求(食事・睡眠・排泄)を満たしてい る場」といった意味で使用されていた。この類型に は次のような定義が含まれる。「行動・活動の拠点」

「集まれる場所」「物理的空間としての場」「身をお く場所」「自分が居る場所」「毎日の生活の場」であ る。

②自由な場 注2

この自由な場には、漠然とした意味での自由以外 にいくつかの種類があることが分かった。よって筆 者はこの自由な場をより細かく類型化し、それぞれ に詳細な定義を含めることにした。

(1)管理・強制からの自由

これは「強制されない」「直接的な管理から離れ た場所や空間」「権利が保障されている」といった

定義が含まれる。

(2)活動・発言の自由

これは「自由に過ごすことができる」「好きなこ と、やりたいことができる」「自分の趣味や関心に 集中して取り組める場」「失敗を恐れる必要が無い 場」「自由に語れる、言いたいことが言える場」と いった定義が含まれる。

(3)時間・ペース・選択の自由

これは「いつでも来て、いつでも帰れる(出入り が自由である)場」「自分のペースでよい場」「一定 の時間が保障されている場」「行っても行かなくて もよい」、「子ども自身が選んだ場所」といった定義 が含まれる。

(4)大人や権力からの自由

これは子どもを中心とした居場所の類型である。

「大人から干渉・介入されない」「子どもの自治が成 立する(子どもだけで過ごせる)」「大人の目が行き 届き過ぎない、大人の目を避けられる場所」といっ た定義が含まれる。

(5)比較・評価からの自由

これは「誰かと比べられたり、評価されたりしな い」といった定義が含まれる。

(6)自由で開放感のある雰囲気

心理学・教育心理学を中心に用いられていた定義 である。これには「気楽に行ける・気軽に立ち寄れ る場」「誰からも脅かされない場」といった定義が 含まれる。

③居心地がよく、精神的に安心・安定していられる 場もしくは人間関係 注3

この定義で、精神的という言葉を使用しているの は、教育学・社会学でも子どもを中心にした研究が 多く、中島・廣出(2008)も述べているように「学 校問題の解決を中心に「居場所」を心理面から捉え ている研究」(p.133)が多いためである。この類 型には「ほっとできる場」「安心感がある、安らぎ を感じる」「精神的に安心できる、帰属できる場や 人間関係」「何もしなくても居られる場」「楽な場所」

「愛されていると感じる場」「保護されていると感じ る場」「落ち着けたり、くつろげたりする場」「不安 や恐怖をいささかは心安く感じられる場所」「心の 拠り所」「適応できる場所」といった定義が含まれ る。

④一人で過ごせる場 注4

常に一人でいるという意味ではない。一人になり

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たいときに一人になることができるといった意味合 いの類型である。「一人でも居られる場」「他者との 関わりを離れて自分を取り戻せる場」「一人で考え 事ができる場」「自分だけのスペース」といった定 義を含む。自分の部屋などの場所も、1人になれる 場合にはこれに含めて良い。

⑤休息、癒し、一時的な逃避の場 注5

この類型には「一休みの場」「心身の癒しや回復 の場」「憩いの場」「一時的なアジール(避難場所)

としての場」「失敗や挫折に向き合い、次へのエネ ルギーを蓄える自己再生の場」「孤独を忘れられる 場」「自分と他者との距離の取り方を回復できる場」

「緩衝帯としての役割」といった定義が含まれる。

心理学・教育心理学ではストレスや何らかの事柄に 対する「避難所」といった意味で定義されているも のが多かった。

⑥役割が与えられる、所属感や満足感が感じられる 場 注6

この類型には「自分が必要とされている場」「生 き生きと充実して過ごせる場」「時間を忘れるほど 楽しい場」「その人にとって必要なものがあること」

「何かに関われること」「果たすべき役割があると感 じる場」「一人一人の存在が輝くための場」「活躍す る場があること」「期待されている、役に立ってい ると実感できる場」という定義が含まれる。また、

この類型に含まれる定義は教育学・社会学では比較 的早い段階から用いられていたものであるが、心理 学・教育心理学では2005年以降に研究が進められて きたようである。

⑦他者や社会とのつながりがある場 注7

ここでいう他者には友人や学校の教師、異年齢の 世代の人々、居場所にいるスタッフや指導者、地域 の人々、家族でも職場の人でも無い人なども含まれ る。大人同士、子ども同士、子どもと大人などの人 間関係もこれに含めることができる。ただし、ここ での人間関係は良好なものでなければならない。教 育心理学ではこの類型に含まれる定義がかなりの割 合で使用されている。この類型には「学校と関わり がある場」「コミュニケーションのトレーニングが できる場」「情報交換やお互いに助け合うことがで きる」「価値観を共有していると感じる」「誰かに会 える場」「他者との出会いがある」「会話を楽しむこ とができる場」「同世代が交流がなくても一緒に居 られる場」「対等な関係で他者と交流できる場」「異

年齢や他世代の人々が交流する場」といった定義を 含んでいる。

⑧遊びや活動を行う場、将来のための多様な学び・

体験ができる成長の場 注8

特に子どもを研究対象とした居場所研究の定義に おいてしばしば用いられる定義である。ここでの活 動は自発性を尊重して行われることも重要である。

この類型には「学びと成長の場」「自己形成と自己 育成の場」「人生の方向性や将来への目標・道筋を はっきりさせるための場」「将来の展望や目標を得 られる場」「大人になる準備をするための空間や人 間関係」「発達や成長を保障し、それを支える場」

「自分探しの場」「自己発揮・自己実現・自己決定を する場」「体験(社会的体験や体験活動を含む)や 経験(様々な価値観や生活スタイルを経験すること も含む)の場」「自分のやりたいことが見つけられ る場」「探求や創作活動ができる、もしくはそのよ うな活動を喚起する資源がある場」といった定義を 含む。

⑨自己の存在感・受容感を感じさせる場 注9

この類型には「自分を取り戻せる場」「自分が必 要とされている場」「自分が他者から受容・承認・

肯定されている、またはされていると感じる場」「自 分を表現できる場」「自信をもてる場」「自己の存在 感(アイデンティティ、自己同一性)、互いの存在 感を感じられる場」「個性を発見し、認め合う場」

「自分らしく居られる場」「依存の場」「存在が大切 にされる場」「ありのままの自分でいられ、それが 受け入れられている場と人間関係」「自分を開示で きる場」「自己を表出できる空間」「自発性が尊重さ れる場」「一人ひとりが大切にされる場」といった 定義を含む。教育学・社会学・心理学・教育心理 学、どの領域においてもしばしば用いられる定義で ある。

⑩安全な場 注1

この類型には「保護されていると感じる場」「安 全が保障されている場」という定義が含まれる。教 育学・社会学では比較的最近になって注目されるよ うになった定義である。

3 )居場所という用語の定義の類型化の効用につい て

以上が、本論文でまとめてきた居場所の定義であ る。ここで提示した10の類型は、教育学・社会学・

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心理学・教育心理学において共通している。おそら くこれらの分野において現在までに使用されてきた 居場所の定義はこの10の類型ですべて分類すること が可能であろう。また、この類型は、論文を集成す る際に研究対象とした世代を限定しなかったため、

子どもから大人にまで幅広く全てに適用することが できる。

ただし、ある場所を居場所として捉える時、この 10の類型すべてに当てはまらなくても、その場所を 居場所と呼ぶことができる。これは、研究者によっ て居場所の捉え方が異なっているからである。それ は、居場所を例えば、「他者に認められる場所」と して捉える人も居れば、「打ち込める対象がある場 所」として捉えるという個人差が生じるためであ る。つまり、ある場所を居場所として捉える際には、

認知されるその場所の状態が個々人によって異なる ということである。それらの個人差を解消するため に、本論文でまとめた10の類型は「ここであげた居 場所の類型に1つでも当てはめることが可能であれ ば、その場所が居場所になりえる可能性があると認 知してもよい」ということを付け加えておきたい。

以上のような定義の類型化は、居場所研究の大き な課題の1つであった「定義そのもの」に1つの答 えを提示したものである。なぜならこの10の類型が これまで居場所研究において用いられた定義を包括 したものであるからである。これは従来まで、各論 文・書籍において様々に用いられてきた居場所、も しくは今後行われるであろう居場所研究において、

非常に重要なものであると言える。これまである場 所が、居場所となっているのかを判断する明確な基 準は無かったことはすでに指摘した。ある場所が居 場所として十分な機能を果たしていたとしても、研 究者等がその場所を他の場所と比較しようとした場 合、それらを比較することもできなかったのであ る。本論文における居場所の定義の類型化は、これ らの問題を解決し、さらに今後の居場所研究に「場」

を超えた有益性を与えることになるであろう。

さらに言えば、この居場所の定義の類型化によっ て、居場所を非常に多面的な視点で見ることが可能 になったと筆者は考えている。これまで、ある場所 がそこに居る人にとって本当に居場所になっている かは個々人によって判断がなされていた。それを確 かめるために心理学や教育心理学では様々な実験も 行われてきた。しかし、この居場所の定義を利用す

れば、その人にとってある場所が居場所になってい るかをより広い視野で判断することができるのであ る。さらに言えば、上記した定義の内1つもしくは 2つでもそれを満たしていれば、そこは居場所にな る可能性を持っていることになる。ただし、それは 可能性であって、そこが居場所として本当に機能し ているかは明確ではない。それらを確認する方法と しては、インタビュー等を用いて実際にその場所で 行われている会話の内容を確認し、その場所が居場 所の類型に一致する機能を有しているかどうかを確 認する等が考えられる。

この他にも、この居場所の類型を用いることに よって居場所づくりの過程、つまり居場所の獲得等 もより明確に判断することができるようになったと 言える。第一章でも例にあげたが、中山・中山・浦

!(2009)の選択性緘黙の児童の「適応」について もう一度考えてみたい。中山・中山・浦!(2009)

は こ の 児 童 の「適 応」を「居 場 所 作 り の 過 程」

(p.277)と捉え、その研究の中で児童の居場所の 獲得について「椅子に座れたのは、これからもこの 教室で活動をしていくと決めた、居場所を確定した 瞬間だったのではないかと考える」(p.281)とし ているが、その行動が本当に居場所の獲得と関連し ているかを判断することはできておらず、居場所の 獲得についてはそれ以上言及されていない。ここ で、この例を、類型化した居場所の定義を利用して 考えた場合、「椅子に座れた瞬間」は類型①の「身 を置く場所」を決めたとして、その場所を居場所と した可能性を示唆することができる。さて、ここで 問題となるのは居場所の類型③との区別であろう。

類型③は「居心地がよく、精神的に安心・安定して いられる場もしくは人間関係」のことであるが、こ こでは椅子に座った理由をその児童が心理的に安 心・安定したと明確に述べることができない。よっ て、ここでは自分の身の置き場を得たと判断し、類 型①に当てはめることが適切であろう。ただし、実 際にこの現場に立ち会ってそれ以前の行動を観察す ることが許されるならば、類型③への分類も考慮し なければならない。その場所の状況や環境によっ て、どの類型に当てはめることが可能かについて は、今後より発展的な研究が求められる。

このように本論文で類型化した居場所の定義は、

これまでの居場所研究の課題の1つを解決しただけ でなく、今後の居場所研究においても非常に有用性

居場所の定義についての研究 173

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のあるものとなっていると考えられる。また、この 定義にはそれぞれの類型の中に、さらに細かい定義 を追加することが可能になっている。これらの類型 および定義を基本として、今後柔軟に社会の変化や 生活の変化等にも対応できるようになっていると言 える。今後研究が進められる中で、この居場所の定 義に何らかの定義の不足が見られた場合、これらに 修正を加えることによって、この類型及び定義を精 緻化していく必要があると考えられる。

しかし、筆者はこの類型化によって、居場所につ いていくつかの問題点も浮上してきたと考える。次 章では、この居場所の問題点について述べた上で、

本論文をまとめていきたい。

3 .居場所の問題点

1 )居場所の曖昧さについて

本論文の居場所の定義の類型化の有用性について はすでに述べた。しかし、この類型化は有用性と同 時に居場所が曖昧であるかを証明した結果となっ た。本来、「定義」とはある言葉の正確な意味や用 法について、人々の間で共通の認識を抱くために定 められているものである。そもそも定義とは何かと いうような根源的な命題にここで触れることはしな いが、一般的にある言葉が人々の間で共通の認識が されていなければそれは定義とは呼べず、学問の上 では使用が敬遠されるべき言葉となるのである。そ の点で言えば、居場所は言葉を用いる人によって、

上で上げた類型のようにその場その場によって用途 が異なることになる。このような理由からこれまで 居場所は各研究者によって、独自の定義が用いられ てきたのであろう。この曖昧さをいかにして回避す るか、これは今後十分な検討を加える必要がある大 きな問題点である。しかしながら、これまでこのよ うな居場所の曖昧さについては、これまで研究者の 間ではほとんど議論されてこなかった。それは、居 場所が厳然として、「ある」と全ての人が認識して いるからであり、子どもや老人など全ての人にとっ て居場所が必要だと考えられているからであろう。

筆者自身も居場所は全ての人にとって必要で、かつ 重要な場所であるという認識は十分に持っている。

このような曖昧さをいかにして解決するかという永 続的な命題については今後も検討されていく必要が あるだろう。

2 )ヴァーチャルな世界における居場所について もう1つの問題点としてあげられるのが、本論文 の居場所の定義にはヴァーチャルな世界の居場所、

特に携帯電話等に関する定義や項目が全く含まれて いないことである。大谷・本間・加川(2010)の調 査によれば、高校生の携帯電話の所持率は95%を超 えているという結果になっている。本論文では、特 に世代や年齢を限定していないが、今後子どもの居 場 所 等 に つ い て 研 究 を 進 め る 場 合、こ の よ う な ヴァーチャルな世界の居場所を無視して研究を進め ることはできないのではないだろうか。本論文の定 義を見るに、現在のところ携帯電話等、いわゆる ヴァーチャルな世界の居場所については、ほとんど 研究がなされていない。これは、今後の居場所研究 において検討されるべき重要な視点になると考えら れる。

現代社会のように非常に電子機器の発達した社会 に生活している以上、携帯電話や電子掲示板等、

ヴァーチャルの世界における居場所についても考察 される必要があると考えられる。また、そのような ヴァーチャルな世界に関連して、テレビや映画、書 籍などその時代を反映したものに関する居場所研究 も進められる必要があるだろう。その中で、各時代 に適した居場所を考察し、新しい居場所の形を模索 していく必要があるかもしれない。

さて、筆者はここまで居場所研究の問題点につい て述べてきた。これらの問題点を受けて、最後に本 論文のまとめをしていきたい。

おわりに

筆者は、本論文で行ったこの居場所の定義の類型 化は今後の居場所研究に重要な示唆を与えるものと なったと考えている。まずこの類型化によって、こ れまでの居場所の研究の課題の1つであった「居場 所の定義」そのものに1つの解答を提示することが できた。さらに、居場所をより多面的に捉える事が 可能になったことで、居場所づくりの過程や居場所 の獲得についてもより詳しく検証することや居場所 であると考えられるいくつかの場所どうしを同じ基 準で比較・検討することができるようになったと言 えるのではないだろうか。

しかし、反対にこれらの定義の類型化は、居場所 という言葉の曖昧さや今後の居場所研究の課題を含 めたいくつかの解決すべき問題点も提示することと 教 育 学 論 究 第 2 号 2010

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なった。このような問題点を受けて、今後は居場所 についてこの定義を利用したより深い研究を行って いく必要があるだろう。また、筆者が本論文の中で 類型化した居場所の定義には、今後時代が移ってい く中で新しい居場所が発見されてきた場合、それら を定義として追加していくことが可能である。その 中で新しい類型も発見されていく可能性も示唆され る。

ここまで見ても分かる通り居場所には未だ考察す るべき視点が多く残されている。今後は上記したよ うな問題を含め、居場所について、筆者のまとめた 類型等も参考により発展した居場所研究が行われる ことを期待して、本論文のまとめとしたい。

参考文献

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―17.

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居場所の定義についての研究 177

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