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海底遺跡における銅製文化財の腐食が抑制される発掘後の埋め戻し法の検討

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Academic year: 2021

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1.緒言 沿岸域に位置する遺跡において、沈没船などの文化財. が発見された場合、発掘後の引き上げが困難であるこ と、ならびに引き上げ後の保存処理、保管管理に莫大な 予算が必要であることなどから、現地の海底においてそ の保存を図ることが国際的に推奨されている1).沈没船 は船体を構成する木製文化財、および鉄釘などの鉄製文. 化財に加えて、積み荷としての陶磁器や銅製文化財など があり、種々の材質から構成される.そのため、海底に おいて沈没船の保存を図る場合、個々の材質の海底での 劣化を検討することで、その劣化が抑制される環境条件 を把握し、さらに、その環境を埋め戻しによって再現す ることが重要である.一方、海底での作業は陸上に比べ て制約が多く、現地での再発掘や埋め戻しの作業性の観 点から、現地の堆積物に加えて、土嚢や酸素不透過性シー トなどを用いた埋め戻しの効果の検討も必要と考えられ る.海外では沈没船の現地保存に関連した研究2)などが. [ 論 文 ]. 海底遺跡における銅製文化財の腐食が抑制される 発掘後の埋め戻し法の検討. 奈良文化財研究所 研究員・博士(人間・環境学)� 柳 田 明 進 琉球大学 教授・修士(文学)� 池 田 榮 史. 奈良文化財研究所 主任研究員・博士(工学)� 脇 谷 草一郎 奈良文化財研究所 研究員・博士(人間・環境学)� 松 田 和 貴. 奈良文化財研究所 埋蔵文化財センター長・博士(農学)� 髙 妻 洋 成. Study�on�Reburial�Method�for�The�Preservation�of�Copper�Artifacts�at�� The�Underwater�Archaeological�Site. � Nara�National�Research�Institute�for�Cultural�Properties,�Researcher,�Dr.�Human�and�Environment� �Akinobu�Yanagida � University�of�the�Ryukyus,�Professor,�Master�Lit.� �Yoshifumi�Ikeda � Nara�National�Research�Institute�for�Cultural�Properties,�Senior�Researcher,�Dr.�Eng.� �Soichiro�Wakiya � Nara�National�Research�Institute�for�Cultural�Properties,�Researcher,�Dr.�Human�and�Environment� �Kazutaka�Matsuda � Nara�National�Research�Institute�for�Cultural�Properties, � Director�of�the�Center�for�the�Archaeological�Operations,�Dr.�Agr.� �Yohsei�Kohdzuma. (Received�March�19,�2020�;�Accepted�May�11,�2020). To�evaluate�the�corrosion�mechanism�of�copper�artifacts�and�to�propose�the�effective�reburial�method�that� suppresses�the�corrosion�of�copper�artifacts�at�the�underwater�archaeological�site,�corrosion�tests�were�car- ried�out�at�the�Takashima�underwater�archaeological�site�using�copper�and�copper�with�wood.�The�results� of�the�corrosion�test�specified�that�corrosion�proceeded�by�the�effect�of�H2S�or�HS–even�in�dissolved�oxygen�. (DO)–depleted�conditions�at�the�underwater�archaeological�site.�In�the�case�of�the�copper�with�wood,�the� corrosion�rate�dramatically�increased�in�comparison�with�the�copper�samples�due�to�the�effects�of�wood�as� nutrient�salt� for�sulfate–reducing�bacteria.�These�results� indicate�that� it� is�necessary�to�control� the�mass� transfer�of�chemical�species�like�H2S,�HS–,�and�Cu+�for�suppression�of�corrosion�of�copper�artifacts�at�under- water�in�addition�to�DO–depleted�conditions.�The�results�of�the�study�also�suggest�that�covering�copper�ar- tifacts�using�porous�media�like�sandy�soil�is�an�effective�means�for�the�preservation�of�them.. Keywords: copper, corrosion, underwater environment, sulfide, microbiological induced corrosion, cultural properties, in–situ preservation. *. *〒630-8577 奈良県奈良市二条町2-9-1 Tel:0742-30-6847 Fax:0742-30-6846 E-mail:yanagida–[email protected]. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −167−. 蓄積されているが、国内ではその研究事例は乏しく、近 年、鷹島海底遺跡での沈没船の発見を契機に関心が高 まってきた状況にある.. 一般に海水は溶存酸素(DO:dissolved�oxygen)を含 むため、銅製文化財は発掘調査によって海水中に暴露さ れると速やかに劣化する.したがって、適切な埋め戻し を実施し、DOの供給が抑制される環境を作り出すこと で、銅製文化財の劣化を抑制する必要がある.一方で、 埋め戻しによりDOが枯渇し、還元環境に移行した場合、 硫黄を多量に含む海底ではH2S、HS−が生成する.銅は DO が枯渇した環境においても、H2S、HS−が共存する ことで、腐食が進行することが知られているため3)、還 元環境下での銅製文化財の腐食挙動の把握、さらに、こ のような腐食が抑制される埋め戻しを検討することも重 要である.. 本研究では鷹島海底遺跡において、海底環境の実測調 査をおこなうとともに、発掘以前の環境を模した堆積物 中、ならびに種々の埋め戻しを想定した環境下におい て、銅および木材を接触させた銅の暴露試験を実施し、 銅製文化財の腐食が抑制される環境条件を検討するとと もに、より効果的で効率的な埋め戻し法を提案すること を目的とした.. 2.実験方法 2.1 調査地. 環境計測および暴露試験は長崎県松浦市に位置する鷹 島の南岸の水深13.5�mの地点で実施した(Fig. 1a).鷹 島の南岸は国史跡鷹島神崎遺跡に指定されており、鎌倉 時代の蒙古襲来(元寇)に関連した文化財が出土するこ とで知られている.近年、物理探査および水中考古学に よる手法を融合させた学術調査によって、2012年、2015 年にそれぞれ元寇沈船が発見された4).これらの元寇沈 船は引き上げられることなく、現地海底にてその保存が 図られている.なお、調査地の堆積物は深度による粒度 の変化は少なく、シルト〜泥が占める割合が 30%と粗 粒な粒子から構成されている5).. 2.2 低層海水および堆積物の環境調査 調査地の海底面直上の低層海水の温度、DO濃度、な. らびに堆積物の DO 濃度、酸化還元電位(oxidation–re- duction�potential:ORP)、pH を測定した.低層海水の DO濃度、および温度は海底面から約20�cmの海水中に 計測機を設置し、15 分間隔で測定した.また、堆積物 は2019年12月8日に ϕ50×60�cmの塩化ビニル製の円筒 管を用いて、柱状試料として採取した.取り上げた後、 速やかに Unisense 社製マイクロセンサを用いて堆積物 の DO 濃度、ORP、pH を測定した.堆積物の表層から 深度 3�cm まではマイクロセンサをマイクロマニュピ レーターに取り付け、鉛直方向に1�mmの間隔で測定し、 それ以深は円筒管の側面を穿孔し、マイクロセンサを差 し込むことで測定した.. 2.3 暴露試験 2.3.1 供試体. 銅製文化財および木製文化財と接触した銅製文化財を 模して、銅のみと木材を接触させた銅を試験に供した. C1100p を 30 L×30W×3T�mm に切り出し、耐水研磨紙 #800まで湿式研磨にて仕上げた後、洗浄したものを供 試体とした.また、供試体の片面に30 L×30W×10T�mm に切り出したマツ材を密着させた(以下、木材接触試料 と表記).各条件での試料数はn=5とした.. 2.3.2 各実験系の設定 実験の模式図をFig. 1bに示す.実験は2015年6月26日. 〜2016年5月16日、および2016年12月10日〜2017年12 月16日の約1年間の実験を2回実施した.以後、前者を 実験系1、および後者を実験系2と表記する.実験系1で はϕ125�mmの塩化ビニル製円筒管(以下、塩ビ管)の外 側に供試体をその中心の深度が1.5、20、60、100�cmとな るように固定した.実験系1–1では堆積物の状態を乱さ ないように留意し、供試体を堆積物中に設置した.また、 実験系1–2では砂質土を充填した土嚢を高さ1�m、幅6�m に積み重ね、供試体を設置した.実験系1–2では、水平 方向の物質移動の抑制に対して、後述する塩ビ管や酸素. Fig.�1 �Location�of�Takashima�underwater�site�and�schematic�of�the�corrosion�test�setup.�a:location�of�Takashima�island�and�investigation�area,�and�b:the� corrosion�test�setup.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −168−. 不透過性シートを利用出来なかったため、土嚢の厚みを 鉛直方向に対して水平方向に充分にとることで、その影 響を抑制した.実験系2では下端部を酸素不透過性シー トで覆ったϕ612�mmの塩ビ管の内部に、塩ビ板に固定し た供試体を深度5〜55�cmの10�cm間隔となるように設置 した.実験系2では、土嚢、酸素不透過性シートを交互 に重ねた状態(実験系2–1)、砂質土を充填した状態(実験 系2–2)、実験系2–1と同様に土嚢と酸素不透過性シート を用い、深度40〜60�cmを砂質土で充填した状態(実験 系2–3)を設定した.実験では実験系1–2の土嚢間、実験 系2–1の塩ビ管内にDO計を設置し、その挙動を測定した.. 2.3.3 評価法 各供試体に対して、光学顕微鏡を用いた表面状態の観. 察、腐食生成物の同定、および腐食速度を算出した.腐 食生成物の同定では微小部X線回折分析を用い、試料を 採取せず直接供試体を分析に供した.また、腐食速度の 算出では供試体を6�mol/L塩酸に3分間浸漬し、ブラシ を用いて腐食生成物を完全に除去した.さらに、蒸留水、 エタノールで超音波洗浄をおこなった後、充分に乾燥さ. せた銅の重量を測定し、重量の減少量を供試体の表面 積、密度、試験期間で除すことで、腐食速度を算出した.. 3.結果および考察 3.1 底層海水の温度、DOおよび堆積物の化学的性状. Fig. 2に調査地の底層海水の温度およびDO濃度の変 化を示す.低層海水温は、冬期に約 12℃まで低下し、 夏期に約24℃まで上昇した(Fig. 2a).一方で、DOは飽 和度に換算した場合、冬期においては概ね飽和した状態 が維持され、夏期では約40%まで低下した.現地のDO 濃度は夏期においても約4�mg/Lを維持していることか ら、海水中での銅の腐食は年間を通じて、DOの還元が カソード反応になると推察される.一方で、堆積物中の DO はその表面から深度 5�mm にかけて急激に低下し、 それ以深では枯渇した.堆積物のDOの測定は底層海水 中のDOが上昇する冬期に実施しており、環境が酸化的 な環境に移行した時期にあたる.それにもかかわらず、 堆積物中でDOが含まれる深度はその表層の5�mmであ ることから、堆積物の表層数ミリメートル以深では年間 を通じてDOが枯渇した環境にあると推測される.ORP は深度5�cmまでは約+250�mVを示すものの、それ以深 で急激に低下し、深度25�cmで–232�mVを示した.有機 物の一連の分解過程で硫酸塩還元菌(SRB:Sulfate–re- ducing�bacteria)による硫酸還元反応が生じるORP6)ま で低下していることから、現地の堆積物は硫化物イオン を含む強い還元環境にあると推測される.深度35�cmで 認められるORPの上昇は、柱状試料を採取する過程で、 その下部が外乱によって状態が変化した可能性も考慮す る必要があると考えられる.なお、堆積物のpHは表層 から深度35�cmまで概ね8の弱塩基性を示した.. 3.2 底層海水および堆積物中での腐食挙動 検出された腐食生成物の一覧をTable 1、腐食速度の. 変化をFig. 3に示す.実験系1–1では、海水中および堆 積物中の深度1.5�cmに設置した供試体からは、褐色部で Cuprite(Cu2O)、 緑 色 部 で Paratacamite(Cu2(OH)3Cl) が検出された.深度60、100�cmでは暗灰色の薄い腐食 層が観察され、Chalcocite(Cu2S)が検出された.Fig. 3a より、腐食速度は海水中、および深度1.5�cmでは約0.022� mm/yを示し、深度とともに急激に低下し、深度60�cm 以深では約0.003�mm/yを示した.Fig. 4にCu–S–H2O系 の電位–pH 図を示す.なお、Fig. 4 の A1–A2–A3 の破線 はCu–H2O系での安定域と腐食域、不働態域の境界を示 す.Cu/Cu+、Cu/Cu2O の平衡電位は H2/H2O のそれに 比べて貴であり、熱力学的に銅はDOの還元のみがカソー ド反応となり腐食する.一方、H2S、HS−をともなう場合、 それぞれ式(1)、(2)の半反応式より、銅のアノード溶 解の平衡電位(Eeq)がH2/H2Oのそれより低下する3).. � 2Cu+H2S=Cu2S+2H++2e−� (1)� � Eeq=–0.305�–0.0591pH–�0.0295[H2S]� � � 2Cu+HS−=Cu2S+H++2e−� (2)� � Eeq=–0.511�–0.0295pH–�0.0295[HS−]�. Fig.�2 �Results�of� the�environmental� investigation�at�the�site.�a:change� in�DO�and�temperature�at� the�bottom�seawater,�and�c:vertical� change�of�DO�and�ORP�in�the�sediments.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −169−. これはFig. 4において安定域と腐食、不働態域の境界が A1–A2–A3 の破線からB1–B2–B3 の実線に変化することに 対応する.そのため、H2S、HS−が存在する場合、H2O の還元がカソード反応となり腐食が生じ得る.環境調査 の結果を考慮すると、海水中および深度1.5�cmの堆積物 中では、DOの還元がカソード反応となり、高い腐食速 度を示したと考えられる.また、それ以深の深度では DOが枯渇した還元環境が形成されており、深度が増加 するにつれてSRBの活動が活発となりH2S、HS−に富む 環境に変化する.その結果、H2Oの還元がカソード反応 となる腐食が生じたと推察される.なお、H2S、HS−に よる腐食速度はDOの還元によるそれに比べて約1/10で あり、銅製文化財の保存の観点では、まず、DOが枯渇 した環境を維持することが重要である.また、深度の増 加にともないDOなどの酸化剤の濃度が低下し、銅の腐 食電位が Fig. 4 の a → b のように低下すると考えられ、 腐食生成物が深度とともに Cuprite から Chalcocite に変 化する挙動は熱力学的な検討とよく整合する.. 3.3 埋め戻し環境下での腐食挙動 土嚢中に設置した実験系1–2では、深度の増加にとも. なう腐食速度の低下が緩慢であり、深度20�cm以深での 腐食速度は実験系1–1に比べて顕著に高かった(Fig. 3a). なお、深度100�cmの供試体で認められる腐食速度の低. 下は、下部の堆積物との接触の影響を受けていると考え られる. 腐食生成物としてすべての深度で Cuprite、 Paratacamiteが検出された.土嚢間のDOは底層海水と 同等の値を示しており、実験系2–1では土嚢間の隙間か らDOが移流によって供給されることで、著しく腐食が 進行したと考えられる.すなわち、土嚢による埋め戻し では、銅製文化財の保存の効果は低い.. 一方で、土嚢と酸素不透過性シートを用いた実験系 2–1では、土嚢のみの埋め戻し(実験系1–2)に比べて腐 食速度は約1/10に低下した.実験系2–1内部のDOは深 度10�cmでは冬期に断続的に増加するものの、夏期では 枯渇した.また、深度30、50�cmでは通年、DOは枯渇 した状態が維持された.実験系2–1では概ねDOが枯渇 した環境が形成されており、酸素不透過性シートによっ てDOの供給が抑制されることで、銅の腐食速度が顕著 に低下したと推察される.ただし、実験系2–1では深度 25�cm 以深の供試体から Chalcocite が検出されており、 DOの還元がカソード反応となる腐食は抑制されたもの の、H2S、HS−が介在した腐食が進行する状態にある.. 実験系2–2の腐食速度はすべての実験系で最も低い値 を示した.深度15�cmまでに設置した供試体では黒色の 腐食生成物が観察されるものの、それ以深の供試体は回 収直後では金属光沢をとどめていることが観察された. (Fig. 5).砂質土で埋め戻した場合、その間隙水での化 学種の物質移動は拡散が支配的になる.移流とは異な り、拡散による物質移動は極めて緩慢である.また、海 底では微生物の呼吸によって速やかにDOが消費される ため、堆積物中と同様に実験系2–2では砂質土中のDO が概ね枯渇した状態が形成されていると推測される.ま た、H2S、HS−が関与する銅の腐食では、銅への H2S、 HS−の拡散、Cu2Sの腐食層が形成された場合は腐食層 中のCu+の拡散によって反応が律されることが報告さ れている8)9).H2S、HS−、Cu+は、実験系2–1では土嚢 間を移流によって速やかに移動するのに対し、実験系 2–2では砂質土の間隙水中の拡散で移動するため、その 速度は極めて緩慢であると考えられる.その結果、実験 系2–2では実験系2–1に比べて腐食速度がさらに低下し. Fig.�3 Vertical�change�on�corrosion�rate�in�each�experiment.�a:Experimental�system�1,�and�b:Experimental�system�2.. Table�1 Corrosion�product�detected�in�each�experiment.. Experimental system 1 Experimental system 2 Depth (cm). 1-1 1-2 Depth (cm). 2-1 2-2 2-3 C CW C CW C CW C CW C CW. +5 (Seawater) Cu Cu 5 Cu Ch Cu Ch A Ch 15 Cu Cu - Ch A Ch. 1.5 A, Cu Ch A Cu 25 Ch Ch Cu Ch Ch Ch. 20 Cu * Cu Cu 35 Cu Ch Cu Ch Cu Ch 60 Ch * Cu Cu 45 Ch Ch - Ch Cu Cu 100 - * Cu Cu 55 Cu Ch Cu Ch Cu Ch. C: Copper, CW: Copper with wood, Cu: Cuprite (Cu2O), A: Atacamite group (Cu2 (OH)3Cl), Ch: Chalcocite (Cu2S),. -: Not detected, *: Could not pick the samples up.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −170−. たと推察される.したがって、砂質土のみによる埋め戻 しは、DO がカソード反応となる腐食の抑制、および H2S、HS−が介在した還元環境での腐食の抑制において 有効と考えられる.実験系2–3において、酸素不透過性 シートと土嚢中に設置した深度35�cmまでに比べて、砂 質土を充填した深度45�cm以深で腐食速度が低下したこ とも(Fig. 3b)、同様の要因と推測される.. 3.4 銅の腐食に及ぼす木材接触の影響 木材接触試料では、銅のみの場合に比べて腐食速度が. わずかに低下する場合と腐食速度が顕著に上昇する場合 が認められた.前者は実験系1–2(Fig. 3a)のDOを含む 環境での挙動、後者は実験系2–1〜3のDOが枯渇した環 境での挙動である(Fig. 3b).後者では黒色の厚い腐食 層からChalcociteが検出され、銅のみの場合に比べて木 材が接触した場合では腐食速度は約 10 倍に上昇した. (Fig. 5).なお、実験系1–1では設置の際に、木材接触 銅の多くが固定具から外れたため、供試体を回収するこ とが出来なかった.. 実験系 1–2 では銅の表面が木材に覆われることで、 DOの供給が抑制され、腐食速度が低下したと考えられ る.一方で、実験系2で認められた腐食速度の上昇は、 木材が微生物の活動に影響を及ぼしたことに起因すると 考えられる.木材接触銅では、銅近傍で木材由来の栄養 塩が豊富な状態が形成され、微生物の活動が活発にな り、極めて還元的な環境が形成される.SRBを含むベン トナイトに乳酸塩を添加した場合、銅が顕著に腐食する ことが報告されている10).木材接触銅においても木材の 腐朽にともない栄養塩が生じることで、SRBの活動が活 発となり、周辺のH2S、HS−濃度が上昇することで腐食 速度が顕著に増加した可能性がある.すなわち、海底の. ように硫黄を多く含む環境において、木材が銅と接触し た場合、著しく腐食が進行する可能性がある.また、木 材接触銅の腐食速度は土嚢中(実験系2–1)、砂質土中(実 験系2–2)で差異なく、これらの銅の腐食は木材が接触 していた面でのみ、顕著に進行している様子が観察され た.この要因は特定できていないものの、木材接触試料 の腐食反応は沖合からのSO42−、H2S、HS−などの供給 に律されているわけではなく、木材と隣接した箇所にお いて、銅のみの場合とは異なる機構で腐食が生じている と推測される.. 4.結語 海底遺跡において異なる条件下に銅および木材接触銅. を設置した暴露試験を実施し、銅製文化財の腐食が抑制 される環境条件を検討した.その結果、銅製文化財の腐 食、その保存に関して以下の結論が得られた.. (1)�低層海水中および堆積物のごく表層ではDOの還元 がカソード反応となり、腐食は速やかに進行する一 方、それ以深ではH2S、HS−が介在することでH2O の還元がカソード反応となる腐食が生じた.. (2)�木材が接触した場合、木材由来の栄養塩によって微 生物活動が促進され、H2S、HS−が介在した腐食が 顕著に進行すると推察された.. (3)�腐食が抑制される条件として DO の欠乏、および H2S、HS−などの物質移動が抑制されることが挙げ られる.. (4)�埋め戻しの観点では、砂質土のみで銅製文化財を埋 め戻し、その表面での物質移動を抑制することが効 果的である.作業の効率を考慮した方法の一つとし て銅製文化財の表面を土粒子で覆った後、土嚢と酸 素不透過性シートを用いてDOの供給を抑制する方 法(実験系2–3)が考えられた.. 謝辞 本研究を実施するにあたり松浦市教育委員会、國富株. 式会社長崎営業所の潜水士の方々、京都大学大学院生 Odkhuu�Angaragsuren氏、杜之岩氏、オオタニ彩子氏、. Fig.�4 �E�–�pH�diagram�of�the�Fe–S–H2O�system.�Cu2+=10−3�mol/L,�and� H2S,�HS−=10−3�mol/L.�Existing�thermodynamic�data7)�was�used� for�drawing�of�the�figure.�The�Broken�line�(A1–A2–A3)�indicates�a� boundary�for�the�stable�region�for�copper�in�the�Cu–H2O�system.. Fig.�5 �Samples� in�Experimental� system�2–2.�The�upper�pictures�show� copper� samples� and� the� lower�picture� shows� copper� samples� which�contacted�with�wood.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −171−. 藤井佐由里氏のご協力をいただいた.また、関西大学春 名匠教授より価値ある貴重なご助言をいただいた.本研 究 の 一 部 は 2019 年 度 科 学 研 究 費 補 助 金(18H05220、 18K12570)の補助を受けた.ここに謝意を表します.. 参考文献 � 1)�UNESCO,Convention on the protection of the. underwater cultural heritage,Paris,2001. � 2)�V.Richard:Conservation and Mgmt of Arch.sites,. 14(2012),169–181. � 3)�N.Taniguchi�and�M.Kawasaki:J.of Nucl Mater,. 379(2008),154–161.. � 4)� 池田榮史:考古学ジャーナル,735(2020),3–4. � 5)� 楮原京子,滝野義幸:日本地理学会発表要旨集,. (2016),100256. � 6)� 若月利之:最新土壌学,(1997),157–178. � 7)�W.Stumm,and� J.J.Morgan(eds.):Aquatic�. Chemistry�Third�edition,(1996),990–1003. � 8)�J.Smith,Z.Qin,K.King,L.Werme�and�D.W.. Shoesmith,:Corrosion,63(2007),135–143. � 9)�J.Chen,Z.Qin� and� D.W.Shoesmi th:J.. Electrochem.Soc.,157(2010),C338–345. 10)�Pedersen;J.Appl.Microbiol.,108(2010),1094–. 1104.. 銅と銅合金 第59巻1号(2020) Journal of Japan Institute of Copper Vol.59 No.1 (2020). −172−

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