博 士 ( 環 境 科 学 ) 伊 藤 文 紀
学 位 論 文 題 名
THE USEFULNESS OF A RED WOOD ANT FORMICA YESSENSIS FOREL (HYMENOPTERA : FORMICIDAE) FOR THE BIOLOGICAL CONTROL OF FOREST PESTS
(工ゾアカヤマアりによる森林害虫防除の有効性)
学位論文内容の要旨
樹 種の 構 成が 単純 な 植林地 や冷温帯・寒帯の森 林では,しばしば 森林害虫が大発生 し大きな問 題に なっ て いる 。害 虫 の大発 生に対して農薬によ る防除は効果的で あるが,害虫のみ ならず生態 系や 人間 に 対し て不 測 の悪影 響を及ぼすこと,そ してコストがかか りすぎることなど 多くの欠点 をも つ。 そ こで ,農 薬 の利用 も含めた様々な防除 方法を組み合わせ た総合防除の重要 性が強調さ れている。
ヨ 一口 ッ パで は19世 紀頃か らアカヤマアリ類を 森林害虫防除に利 用し,大きな成果 をあげてい る。 一方 日 本で は, か ってヨ ー口ッパでのアリ利 用の実態が紹介さ れたにもかかわら ず,アりは アブ ラム シ 類を 保護 す ること から害虫とみなされ てきた。しかし, 最近の研究では, アりはアブ ラム シ数 を 増加 させ る とは限 らず,逆に減少させ ることも知られて いる。そこで本研 究ではヨー ロッ パで 利 用さ れて い るアカ ヤマアリ類と近縁な エゾアカヤマアり を用いて,アリ― アブラムシ の共 生関 係 は植 物に 有 害なの か,またアりは重要 害虫に対して防除 効果があるのかを 調査し,森 林害虫防除にお けるアりの有効性を 検討した。
調査は新得町 のカラマ`ソ林,富 良野市のグイマ`ソ林および石狩浜のカシワ林で行った。いずれ の場 所で も エゾ アカ ヤ マアり の巣が林縁や林床に 多数分布している 。石狩浜カシワ林 の林緑部で は , 工 ゾ ア カ ヤ マ ア り の 巣 が 多 数 み ら れ る 地 域(AA)と こ の ア り が ほと ん どい ない 地 域(AR) があ る。 ア りが 害虫 類 に及 ぼす 影 響を 明ら か にするため ,この2地 域でカシワの主要 な食害者で ある ガ類 幼 虫と ゾウ ム シ類成 虫を定量採集し,生 活型及び種別にア りの影響を検討し た。アリー アブ ラム シ の共 生関 係 がカシ ワにとって有害が否 かを明らかにする ために,アりが多 い地域にお い て 防 蟻 剤 を 枝 の 根 元 に 塗 布 し た 枝(AE)と 塗 布 し な か っ た 枝(AF)を 設 定 し , ア ブ ラ ム シ 数 と ガ 類 幼 虫 数 を 定 期 的 に 数 え , 秋 に は 葉 の 消 失 量 を 測 定 し た 。 また ,AA地 域とAR地域 に
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おい てカシ ワの種 子の生 産量と 食害 量を調 査した 。カラ マツ 林とグ イマツ林では,アりが害虫類 に 及 ぼ す 影 響 を 明 ら か にす る た め にAF枝 とAE枝 を 設 定 し ,定 期 的 に 害 虫 個体 数 を 数 え た。
また ,アり が実際 にどん な昆虫 類を エサと して利 用して いる のかを 明らかにするために,アりが 巣 に 運 び 込 ん で き た 昆 虫 類 を 定 期 的 に 採 集 し た 。 以 下 に 主 な 結 果 を 述 べ る 。
1. カ シ ワ 上 に お い て , ア り の 世 話 を 受 け な い キ イロ ホ シ ブ チ アブ ラ ム シ はAE枝 よ りAF枝 で 個体数 が滅 少して いた。 逆にア りと共 生関 係をも つカシ ワホシ ブチアブラムシ撒アりが捕食 性 天 敵 か ら 保 護 し て い た た めAF枝 で 著 し く 個 体 数が 増 加 し た 。2種 の 合 計 個体 数 は カ シ ワ ホ シ ブ チ の 著 し い 増 加 に よ りAE枝 よ りAF枝 で 多 か っ た 。 ま た ,AF枝 上 の ハ タラ キ ア ル 個 体数と カシワ ホシブ チ個 体数にt注 正の相 関がみ られた 。
2.カ シワ上 のガ類 幼虫に 及ばす アり の影響 は,生 活型に よっ て異な り,葉 上で自 由生活 する幼 虫 や ル ー ズな シ ェル ター( 葉など でっく った 隠れ場 所)を っくる 幼虫 はアり の影響 で著し く個 体 数 が 滅 少し て いた 。当年 生枝の 髄部に 潜ん でいる 幼虫や 芽鱗の 裏側 で当年 生枝の 根元を 食害 し ている 幼虫 はアり の影響 をうけ ていな かっ た。ド ングり を食害 する幼虫はアりの影響で個体 数 が減少 してい た。
3.ア りはカ シワ上 のゾウ ムシ類 の合 計個体 数を滅 少させ てい た。ア りの影 響は種 類によ って異 ナ より, リン ゴヒゲ ナガゾ ウムシ とキア シチ ビアオ ゾウム シは成 虫がアりに捕食されるためAA 地 域 で個 体 数 が減少 してい た。 カシワ クチブ トゾウ ムシは 成虫 は攻撃 されず ,また ,幼 虫時 代 に 同 じ エ サ 資 源 を 利 用 す る 上 記2種 が ア り に よ って 減 少 す る ためAA地 域 でむ し ろ 個 体 数 は 増 加し た 。 カシワ ノミゾ ウム シは成 虫は攻 撃され ないが 幼生 期にア りに捕 食され るた めAA 地 域で個 体数 が少な かった 。
4.葉 を食害 するガ 類幼虫 やゾウ ムシ 個体数 がアり の影響 で減 少した 結果, 葉の損 失も有 意に滅 少 した。
5.ア ブラム シ数の 増加と いう損 失と ,葉の 損失量 の減少 とい う利益 のバラ ンスを 示すと 考えら れ る 種 子 生 産 量 は ,AA地 域 とAR地 域 問 で 有 意 差 は な か っ た 。 し か し , ガ幼 虫 な ど に 食害 さ れ た種 子 の 割 合 はAR地 域 で は73% で あっ た の に 対 し ,AA地 域で は48%と 有意に 少な かっ た 。 そ の 結 果 , 健 全 な ド ン グ り の 生 産 量 はAA地 域 に お い てAR地 域 の お よ そ2倍 に な っ て い たこと から ,カシ ワはアリ―アブラムシの共生関係から大きな利益を得ていると考えられる。
6. カ ラ マツ と グ イ マ ツ上 で は1種 のハ バチ 幼虫と3種 のガ類 幼虫 が優占 的にみ られた 。葉 上で シ ェ ルタ ー を っくら ず自由 生活 してい るミス ジヒメ カラマ ツハ バチ幼 虫と葉 で隙間 だら けの
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シェ ル ター をっ く るカ ラマ ` ソイ 卜ヒ キ ハマ キ幼 虫 はア りに 捕 食さ れAF枝 で個体数が滅少し て いた。ミノをっくるカラマ`ソ`ソ`ソミノガ幼虫はアりに捕食されないが,AF枝で個体数が少なかっ た。一方隙間な く葉を束ねたシェ ルターをっくるカラ マ`ソイトヒキハ マキ幼虫に対しては,アり の影響は小さか った。
以 上 の結 果か ら ,工 ゾア カヤマアり は葉上で自由生活を する幼虫やルーズ なシェルターをっ く るタ イ プに は効 果 的で あり ,しっかり としたシェルターを っくるタイプやア りが近ずきにくい 場 所に 生 活す る種 類 には 影響 が小さいこ とが明らかになった 。最近北海道にお いて大発生し森林 に 大被 害 を与 えた マ イマ イガ ・マツカレ ハ・カラマツハラア カハバチをはじめ とする重要害虫の 多 くは 自 由生 活を す るタ イプ である。こ のことから,工ゾァ カヤマアりは重要 害虫の大発生を抑 制 する 上 で効 果が あ ると 考え られる。そ して,アリ―アブラ ムシの共生関係は 必ずしも有害では な く有益な面も多 いことが明らかに なったことから,食 植昆虫に対する影 響という面から考えると,
工ゾアカヤマア りは森林害虫防除 に有効であるといえ る。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教 授 教 授 教 授 助 教授 助 教授
伊 藤 筒 井 五 十 嵐 福 田 片 倉
浩 司 澄 恒 夫 弘 巳 晴 雄
本 論 文 は , 工 ゾ ア カ ヤマ アり に よる 森林 害 虫防 除の 有 効性 にっ い て検 討し た もの であ る 。 緒言 では , ヨー 口ッ パ における アリ類を利用した 森林害虫防除の歴 史と,日本において アりは ア ブラ ムシ 類 との 共生 関 係から森 林害虫として見な されている現状を 述べるとともに,近 年のア り と植 物の 相 互作 用の 研 究か ら森 林 害虫 防除 に おけ るア リ 類の 評価 を 見直す必要性を述 べた。
結果 では , ヨー 口ッ パ で利用さ れているアカヤマ アリ類と近縁なエ ゾァカヤマアりが, 新得町 の カラ マツ 林 およ び富 良 野市 のグ イ マツ 林に お いて 針葉 樹 植林 地の 食 葉性害虫類に及ぼ す影響 と ,北 海道 石 狩浜 カシ ワ 林におい てこのアりがカシ ワ上の食葉性昆虫 とアブラムシ類に及 ぼす影 響 ,お よび そ れが カシ ワ にと って 有 益か 有害 か を示した。上 述の3力 所での調査から,工 ゾァカ
ヤマ アり の食葉 性害虫 (ガ類 やハバ チ類の幼虫など)に及ぼす影響はその生活型によって異なり,
葉上 で白 由生活 してい る種類 やル― ズな シェル ターを っくる 種類 はアり の影響 により個体数を滅 少さ せ, 当年生 枝の髄 部など アりと の接 触が少 ない場 所に生 活し ている 種類で は影響が小さいこ とを 明ら かにし た。ま た石狩 浜のカ シワ 上では ,工ゾ アカヤ マア りはア ブラム シ個体数を増加さ せる が, 食葉性 害虫個 体数を 著しく 減少 させ葉 の損失 量も減 少さ せるこ とを示 し,そして,この カシ ワに とって の損失 と利益 のどち らが 大きい かを種 子生産 量で 評価し ,ほぼ 等しいことを示し た。 しか し,工 ゾアカ ヤマア りは種 子食 害個体 数を減 少させ てお り,ア りは種 子を保護すること によ って カシワ に大き な利益 を与え てい ること を明ら かにし た。
以 上の結 果を考 察し, アり とアブ ラムシ の共生 関係は ,ア りがそ のほか の食植 昆虫類ヘ及ぼす 影響 を考 慮する と必ず しも植 物にと って 有害と はいえ ず,特 にし ばしば 大発生 する重要害虫の大 部分 はア りの影 響を受 けやす い自由 生活 をする 種類で あるこ とか ら,工 ゾァカ ヤマアりは森林害 虫防 除に 有用で あると 結諭さ れた。
本 論文は 動物と 植物と の相 互作用 の見地 から, 森林害 虫防 除に関 するエ ゾアカ ヤマアりの有効 性に っい て論じ たもの である 。精密 な実 験計画 に基づ ぃた豊 富な 実験結 果は, 生態系の構造を解 明 す る うえで 新たな 知見を 与え たもの と評価 される 。ま た英文12編,和 文1編の参 考論 文は, い づれ も国 際的に 評価の 高い学 術雑誌 に掲 載され たもの であり ,大 学院課 程にお いて研鑽した内容 や, 取得 単位の 評価と ともに ,審査 員一 同,申 請者は 博士( 環境 科学) の学位 を受けるにふさわ しい 資格 を有す るもの と判断 した。
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