博 士 ( 工 学 ) 橋 場 正 男
学 位 論 文 題 名
ブラウン管用内装材料のガス脱離・吸着特性の研究 学位論文内容の要旨
カ ラーテレ ピ用ブ ラウン管(CRT)に は大型化 および 高性能化 が求めら れてい る。CRT の寿命は陰極の電子放射率で決まり,陰極は管内のヌタン等の残留ガスにより劣化する。
こ の ため ,CRTの 製 造工 程 で は,真 空に封じ 切る前に べーキ ングによ る管内 の脱ガス 処 理が行わ れてい る。この べーキン グによ り管内の ガス放 出は大幅 に抑制 されるが , CRTの封止後においても管内の残留ガスをバリウム(Ba)蒸着膜で排気している。しかし,
CRTの 動 作 後で も 電 子衝 撃 や 壁温 の 上 昇な ど に よ ルガ ス が放出す るので ,CRTの 高性 能化 のため, 管内の ガス保持 量をさらに低減させるとともに,残留ガスを管壁に吸着さ せ る こと が 求 めら れ て いる 。CRT内 には空間 電位を制 御する ため,黒 鉛系の 塗布材が 使用 されてい る。こ の塗布材 からのガス放出量は,管内の他の部分に比べて大きい。塗 布材の成分は黒鉛,二酸化チタン(Ti0:)または酸化鉄(Fez0ユ)および水ガラスである。こ れら組成比の異なる塗布材が内壁に用いられている。
管内 の残留ガ スは, パリウム 蒸着膜のガス吸着特性および内装黒鉛材のガス脱離・吸 着特 性に強く 依存し ている。 しかし,これらの系統的評価は十分進んでいなかった。そ こで ,本論文 ではパ リウム蒸 着膜のメタンガスの吸着特性を調べるとともに,種々の内 装塗布材のガス保持特性および吸着特性を調べた。
本論 文 は 序論 を 含 め5章 か ら構 成 さ れて お り , 各章 の 概 要は 以 下 の通 り で ある 。 序論では,研究の背景および目的を示した。
第2章では ,ガス の保持特 性およ び吸着特 性の評価 に用い た昇温脱離分析装置,原子 組 成 分 析 装 置 , 表 面 形 態 観 察 装 置 お よ び 表 面 粗 さ 測 定 装 置 に つ い て 説 明 し た 。 第3章 で は,Ba蒸着 膜 にCRT内 の主 な 残 留 ガス で あ る水 素(H2)と, パリウム では吸 着が 難しいと されて いるメタ ン(CH4)の吸着特 性を調 べた。この実験において,Ba蒸着 膜はH。に 対して はかなり の吸着能 を示した。しかし,CH4に対する吸着能をもたなかっ た。CH4を除 去する ため,パ ラジウ ムを含有 したアル ミナ材 を用いた実験を行った。そ の結 果,水(Hz0)が共 存する場 合には ,H:Oが無 い場合 に比べて吸着能カが大きく増加 した 。残留ガ スとし てHっOが存 在する条件下で,この材料を適用するならCH。の残留ガ ス圧を低減できることを示している。
第4章で は ,内壁に用いら れる塗布材のガス保持特性とガス吸着特性を記している 。 塗布材は黒鉛,二酸 化チタン,水ガラスから構成されている。管壁には,黒 鉛と水ガラ ス から なる2成分 系塗 布材 およ び黒 鉛, 二酸化チタン, 水ガラスからなる3成分系塗 布 材が使用されている 。
構成材料のみに対 してガス保持量を測った結果,黒鉛が主なガス放出源で あった。主 な放出ガスはHっOとCO:であった。また,これらの構成材料のガス吸着量を測った結果,
黒 鉛が 主な ガス 吸着源であった。黒鉛と水ガラスからな る2成分系塗布材のガス保持 量 は,水ガラス成分が 多くなると表面が緻密になり,ベーキングによルガス抜 きしてもガ スが十分に抜けず, 大きくなった。一方,ガス吸着量は,水ガラス成分が多 いと緻密な 表 面 の た め , ガ ス が 吸 着 源 で あ る 黒 鉛 に 移 動 し に く く な り , 少 な く な っ た 。 黒鉛 およ び水 ガラスに二酸化チタンを加えた3成分系塗布材では,二酸化チタンの 混 合により,表面がか なルポーラスになり,ガス抜きも容易になるとともに, ガス吸着量 も大きくなった。す なわち,塗布材としては表面をポーラスにするなら,ガ ス抜きしや すくなるとともにガ ス吸着量も多くなることが分かった。これらの結果は塗 布材の組成 の最適化の指針とな るものである。
第5章では,論文全体の結論をまとめるととも に,今後の課題についても述べている。
以上 ,著 者はCRTの 残留 ガス であ るメ タン の分 圧に 対す る効 果的 な低減方法を論 じ た。また,ガスの主 要な放出源である内装塗布材料について系統的にガス保 持特性およ び ガ ス 吸 着 特 性 を 調 ベ , 残 留 ガ ス 圧 の 低 減 に 必 要 な 表 面 構 造 を 提 案 し た 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ブラウン管用内装材料のガス脱離・吸着特性の研究
カラ ー テレ ピ用 ブラ ウン 管(CRT)に 対し て高 性能 化,長寿 命化が求められている。
CRTの寿 命はCH。 ガス によ るカ ソー ド の劣 化に より 決る 。CRTの 製 造工 程で は, ベー キ ング に よる 脱ガ ス処 理及 びバリウム(Ba)蒸着膜による残留 ガスの排気が行われてい る 。し か し,Baで はCH4を 排気 でき な いこ と,CH4を生 成す るH20及びC02が 内装 塗布 材 料か ら 多量 に放 出さ れる ことが問題になっている。このた めICH4に対する排気法を 開発 するとともに,内装塗布材料からのガス放出を抑えるた めガス保持量を低減する必 要 が あ る 。 ま た , 内 装 塗 布 材 料 の ガ ス 吸 着 能 を 高 め る こ と も 求 め ら れ て い る 。 本論 文 では ,こ のよ うなCRTの 課題に対して,CH4を排気・ 除去できる方法を開発す ると ともに,ガス保持量が少なくかっガス吸着量を増大させ る内装塗布材料を提案する こ とを目的としている。このため ,CH4の排気に効果が期待さ れるバラジウム(Pd)含有 ア ルミナ材を用いてCH4排気実験を行った。また,組成と成分 系が異なる種々の内装塗 布 材料 に 対し て, ガス 保持 量を評価するとともに,CH4の生成源であるH20とCO:の吸 着量 についても評価した。これらの結果をもとに,ガス保持 量が少なく,ガス吸着量を 増加 できる塗布材料について提案した。
CH4排 気実 験で は,Ba蒸 着膜 のみ で はCH4を 排気 でき ない こと を 示す とと もに ,Pd 含 有 ア ル ミ ナ 材 はH20の 共 存 下 で はCH4をH2とCOに 分 解 す る こ と を 示 し た 。CRTを 真 空に 封 じ切 った 直後 には 管内 に多 量のCH4とHz0が存 在す る。 従 って ,Pd含有 アル ミ ナ材 をBa蒸 着膜 とと もに 使用 する なら ,ま ずCH4がPd含有 アルミナ材により分解さ れ ,分 解 生成 物はBaに より 排気されることになる。本論文で は,カソードを劣化する CH。を 排 気・ 除去 する ため ,Pd含有アルミナ材の併用を提案 した。また,少量のPd含 有 ア ル ミ ナ 材 の 使 用 でCRT内 の 全CH4量 を 取 り 除 く こ と が で き る こ と を 示 し た 。 種々 の 塗布 材料 のガ ス脱 離実 験か ら, 主な 放出 ガス はCH4の生成源となるC02とH20
明 揚
明 子
友 武
惣 優
野 戸
貫 畑
日 榎
大 廣
授 授
授 授
教
教 教
救 助
査 査
査 査
主 副
副 副
であること,また水ガラス含有量が少ない塗布材料からはガスが抜け易く,ガス保持量 が少ないことを明らかにした。特に,水ガラスと黒鉛からなる塗布材料に粒径の小さな Ti02パウダーを入れると,構造がポーラスにぬり,ガス保持量が著しく低減することを 示した。ガス吸着実験から,CO:およびH:Oの吸着量は構造がポーラスになるとともに 増加し,水ガラスと黒鉛からなる塗布材料にTi02パウダーを入れた3成分材料では吸 着量は格段に増えることを明らかにした。
これらのガス保持量と吸着量の評価から,現在,主に使用されている水ガラスと黒鉛 からなる2成分材料の代わりにポーラスな材料を使用するなら,CH4生成量を減らせる とともに,CH4の生成源となるCOユ及びH:Oの吸着量を増加させて,管内の残留ガスを 大きく低減できることを示している。本論文では,カソードを劣化させるCH4の生成源 となるガスの保持量の低減及び吸着量の増加のため,ポーラスな塗布材料の使用を提案 している。ポーラスな材料の使用により,製造工程でのべーキング処理温度も約100℃ 低下でき,これはCRTの低コスト化に大きく寄与する。
これを要するに,著者は,CRT内のCH4に対する排気法を提案するとともに,CH4生 成量を低減する塗布材料の構造についても明らかにし,くニRTの長寿命化を可能にした も ので あ りI表面 工 学 およ び 真 空工 学 に貢 献 す ると こ ろ大 な る もの が ある 。 よって著者は,北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。