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点 滴潅漑に よる土壌水分環境の 制御におけるバイノヾス流の影響

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 中 川 進 平

学 位 論 文 題 名

点 滴潅漑に よる土壌水分環境の 制御におけるバイノヾス流の影響

学位 論文内容の要旨

  作物の根群域に少量多頻度潅漑する点滴潅漑は作物生育に最適な水分環境を構築することが 可能な潅漑技術であり,用水の節約に長じていることから,乾燥地においては効率的な潅漑方 法として早くから利用されてきた。また,潅漑に起因する塩類化や硝酸の地下水汚染等の防止 に対しても効果が期待されている。しかし,局所的な供給という概念と技術には最適な潅漑強 度と潅漑サイクルの決定という問題が残されている。このため,点滴による根群域への供給に は鉛直方向のみならず水平方向への土壌の浸入特性を明らかにする必要がある。我が国では点 滴潅漑に関する報告は少なく,適切な水管理と制御を行うためには,土壌中の水移動に関する 基礎的な研究が必要不可欠である。一方,土壌中の水移動にはダルシー則に従わない速い流れ として,マクロポアを流れるバイパス流が存在する。点滴潅漑において節水を期待するには,

根群域から下方への過剰な浸透の実態を明らかにする必要がある。

  既往の研究から点滴潅漑下の水移動にっいて残されている問題点を整理し,本論文では点滴 潅漑によって土壌水分環境を制御するために,1.成層土壌やマクロポアを有するような不均一 な土壌における点滴潅漑下の水移動について,とくに潅漑期間中の湿潤域の形成に関して検証 を行う。2.マクロポアを有する土壌において根群域からの浸透損失を評価し,効率的な潅漑を 行うための指標を明確にすることを目的とした。

  はじめに,耕起層と耕盤層からなるハウス土壌において,潅漑強度の大きい多孔ホースを用 いて湿潤域形成の実態と根群域から下方への過剰な浸透を明らかにし,潅漑効率を検討した。

湿潤域は浸潤初期段階に土壌表面で水平方向に拡大し,滴下孔直下において深さ方向に伸張す る逆凸型の湿潤域が形成された。時間経過の後,初期土壌水分が乾燥状態にある場合では水は 水平方向に浸潤せず,深さ方向に長軸をもつ楕円形状に湿潤域が形成された。これに対して湿 潤状態の場合では乾燥状態と比較すると等方向的な湿潤域の拡大が認められたが,透水性が異 なる表層と耕盤層の層界が湿潤域の形成に大きく影響し,表層の湿潤域は層界を中心に水平方 向に拡大した。根群域からの浸透は,初期土壌水分にかかわらずホース近傍の鉛直下方への浸 透が卓越 してお り,湿潤 状態では 長時間 の潅漑に より側 方にも浸 透が大 きくなった。

  また,均一系を対象としたダルシー則に基づく土壌水運動理論を用い,点滴潅漑下の水移動 への適用性について検討するため,土壌水分分布と時間との関係をシミュレーションした。そ の結果,計算値は表層では水平方向への浸潤を過大評価し,耕盤層では鉛直下方への浸潤を過 小評価することが示された。乾燥と湿潤の両水分状態とも浸潤現象を精確に表現できなかった ことは浸潤した水の一部が耕盤層に存在するマクロポアによルバイパス流を引き起こしたこと

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が原因であると説明づけた。水収支法を点滴潅漑下の水移動に適用し,バイパス流による浸透 損失量を明らかにした。これは,耕盤層に存在するマクロポアを移動する流れであり,長時間 に及ぶ潅漑は供給量に対するバイパス流による浸透損失量の割合を増大させることが示唆され た。

  過剰な浸透を引き起こす原因となるマクロポアと土壌の浸入特性の関係を明らかにするた め,負圧浸入計を用いた浸入試験を行った。はじめに負圧浸入計の負圧を段階的に変化させて 不飽和透水係数を算出するMultiple heads法の問題点について明らかにした。充填土壌の乾燥 密度を変化させて負圧浸入試験を行った結果,測定範囲内において不飽和透水係数が大きく変 化しない水分領域では,従来の室内定常法と比較した場合に差異が認められ,負圧浸入計法に よって算出した透水係数が過大となることが判った。水浸入圧を吸水過程において不飽和から 飽和に水 分状態が転じる圧カと定義すれば,不飽和透水係数の算出に広く用いられている Wooding式には水浸入圧が考慮されていない。上述した不飽和透水係数が大きく変化しない水 分領域は水浸入圧よりも大きな圧力領域であるとし,水浸入圧を簡便に判断する方法を提案し た。

  また,畑地と草地における負圧及び湛水条件下の浸入試験の結果から,耕起によって形成さ れた土塊間の孔隙 緻密な構造を有する下層土に存在する根穴や亀裂等のマクロポアが水移動 に影響を及ばす圧カを実験的に明らかにした。その結果,マクロポア流とマトリックス流を分 ける境界の圧カは‑5cm程度であった。さらに,これらのマクロポアを流れるバイパス流が湛 水浸潤に占める割合を定量化したところ,マクロポアの種類に関わらず80%以上に及ぶこと を明らかにした。

  マクロポア流とマトリックス流の境界圧カが決定されたことから,耕起によって形成された 土塊間のマクロポアを有する表層と根穴が発達している下層で構成される成層土壌の畑におい て,異なる潅水強度で点滴潅漑を行い,それぞれの潅水強度において根群域に対する湿潤域の 形成と潅水量に占めるパイパス流の程度を明らかした。浸潤初期段階において,湿潤域全体が 耕起層にある場合では供給された水は全て貯留され,下方への損失はなかったが,マクロポア が存在する耕盤層まで湿潤域が拡大すると,潅水強度を小さくした場合でもバイパス流が発生 した。潅漑強度が大きいほど耕起層の湿潤域は大きく形成されたが,潅水量に占めるバイパス 流の割合も増加し,バイパス流による損失を過大にした。

  さらに,マクロポア流とマ卜リックス流の境界圧をもとに耕起層の水移動のメカニズムを考 察し,耕起層と耕盤層で構成される成層土壌における効率的な点滴潅漑方法を検討した。耕起 層ではマトリックスとマクロポアの2重の土壌構造であり,両者の水移動が組み合わさって 湿潤域が形成される。マクロポアヘ水が浸入する境界圧に達する潅漑強度であれぱ,耕起層の 湿潤域はエミッター直下において鉛直方向に卓越した形状となる。耕盤層にマクロポアが存在 する土壌では,エミッター直下の耕起層と耕盤層の層界においてマトリックポテンシヤルが

‑5cmになる時間までがバイパス流を発生させない限界の時間である。これについて土壌表面 の浸潤前線の到達距離と時間の平方根の関係から,勾配が変化する時間がバイパス流発生の指 標となることが示された。

  本論文ではマクロポアが存在する不均一な土壌構造を有する成層土壌において点滴潅漑下の 湿潤域の形成を詳細に観察し,根群域からの浸透損失が主にバイパス流によるものであること を実験的に明らかにした。本研究で得られた成果は,効率の良い潅漑方法を計画するために貢 献できたと考えられる。

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学 位論文審 査の要旨 主査

副査 副査 副査

教授 教授 教授 助教授

長谷川 長澤 波多野 相馬

学 位 論 文 題 名

周一 徹明 隆介 尅之

点滴潅漑 による土壌水分環境の 制 御におけ るバイパス流の影響

  本 論 文 は5章 か ら な る 頁 数133の 和 文 論 文 で , 図 31, 表11, 引 用 文 献96を 含 ん で い る 。 他 に , 参 考 論 文4編 が 添 え ら れ て い る :

  作 物 の 根 群 域 に 少 量 多 頻 度 潅 漑 す る 点 滴 潅 漑 は 作 物 生 育 に 最 適 な 水 分 環 境 を 構 築 す る こ と が 可 能 な 潅 漑 技 術 で あ り , 用 水 の 節 約 に 長 じ て い る 。 し か し , 土 壌 中 の 水 移 動 に は ダ ル シ ー 則 に 従 わ な い 速 い 流 れ と し て , マ ク 口 ポ ア を 流 れ る バ イ バ ス 流 が 存 在 す る た め , 適 切 な 水 管 理 と 制 御 を 行 う た め に は 土 壌 中 の 水 移 動 に 関 す る 基 礎 的 な 研 究 が 必 要 不 可 欠 で あ る 。 し た が っ て , 節 水 を 期 待 す る ; ニ は , 根 群 域 か ら 下 方 へ の 過 剰 な 浸 透 の 実 態 を 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。 本 論 文 で は 点 滴 潅 漑 に よ っ て 土 壌 水 分 環 境 を 制 御 す る た め に ,1. 成 層 土 壌 や マ ク ロ ポ ア を 有 す る よ う な 不 均 一 な 土 壌 に お け る 点 滴 潅 漑 下 の 水 移 動 に つ い て , と く に 潅 水 期 間 中 の 湿 潤 域 の 形 成 に 関 し て 検 証 を 行 う 。2. マ ク ロ ポ ア を 有 す る 土 壌 に お い て 根 群 域 か ら の 浸 透 損 失 を 評 価 し , 効 率 的 な 潅 漑 を 行 う た め の 指 標 を 明 確 に す る こ と を 目 的 と し た 。

  マ ク ロ ポ ア を 有 す る 耕 起 層 と 耕 盤 層 か ら な る ハ ウ ス 土 壌 に お い て , 潅 水 強 度 の 大 き い 多 孔 ホ ー ス を 用 い て 湿 潤 域 形 成 の 実 態 と 根 群 域 か ら 下 方 へ の 過 剰 な 浸 透 , な ら び に 潅 漑 効 率 を 検 討 し た 。 湿 潤 域 は 浸 潤 初 期 段 階 に 土 壌 表 面 で 水 平 方 向 に 拡 大 し , 滴 下 孔 直 下 に お い て 深 さ 方 向 に 伸 張 す る 逆 凸 型 の 湿 潤 域 が 形 成 さ れ た 。 時 間 経 過 の 後 , 初 期 土 壌 水 分 が 乾 燥 状 態 に あ る 場 合 で は , 深 さ 方 向 に 長 軸 を も つ 楕 円 形 状 に 湿 潤 域 が 形 成 さ れ た 。 こ れ に 対 し て 湿 潤 状 態 の 場 合 で は 乾 燥 状 態 と 比 較 す る と 等 方 向 的 な 湿 潤 域 の 拡 大 が 認 め ら れ た 。 根 群 域 か ら の 浸 透 は , 初 期 土 壌 水 分 に か か わ ら ず ホ ー ス 近 傍 の 鉛 直 下 方 へ の 浸 透 が 卓 越 し て お り , 湿 潤 状 態 で は 長 時 間 の 潅 水 に よ り 側 方 に も 浸 透 量 が 多 く な っ た 。

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   ま た, 均一系を対象としたダルシー則に基づく土壌水運動理論を用い,点滴 潅漑 下の 土壌水分分布と時間との関係をシミュレーションした。その結果,計 算値 は表 層では水平方向への浸潤を過大評価し,耕盤層では鉛直下方への浸潤 を過 小評 価することが示された。乾燥と湿潤の両水分状態とも浸潤現象を精確 に表 現で きなかった。このことは浸潤した水の一部が耕盤層に存在するマクロ ポアによルノくイパス流を引き起ニしたニとが原因であると説明づけた:水収支 法を点滴潅漑下の水移動に適用し,耕盤層に存在するマクロポアを移動する/く イパ ス流 による浸透損失量を明らかにした。長時間に及ぶ潅水は供給量に対す るノ くイ ノくス流による浸透損失量の割合を増大させることが明確にされた:

   過 剰な 浸透を引き起こす原因となるマクロポアと土壌の浸入特性の関係を明 らか にす るため,負圧及び湛水条件下の浸入試験を行ったョその結果,根穴や 亀裂 ,耕 起によって形成された土塊間のマクロポア流とマトリックス流を分け る境 界圧 は‑5cm 程度であった。さらに,これらのマクロポアを流れるバイノく ス流 が湛 水浸潤に占める割合を定量化したところ,マクロポアの種類に関わら ず80 %以上に及ぶことを明らかにした。

   耕 起に よって形成された土塊間のマクロポアを有する表層と根穴が発達して いる 下層 で構成される成層土壌の畑において,異なる潅水強度で点滴潅漑を行 い, 根群 域に対する湿潤域の形成および潅水強度おバイパス流の関係を明らか した 。潅 水強度が大きいほど耕起層の湿潤域は大きく形成されたが,潅水量に 占め るバ イノくス流の割合も増加し,ノくイパス流による損失を過大にした。

   さ らに ,決定されたマクロポア流とマトリックス流の境界圧をもとに耕起層 の水 移動 のメカニズムを考察し,耕起層と耕盤層で構成される成層土壌におけ る効 率的 な点滴潅漑方法を検討した。耕起層ではマトリックスとマクロボアの 2 重の土 壌構 造で あり, 両者 の水 移動 が組み 合わさって湿潤域が形成される。

マク ロポ アヘ水が浸入する境界圧に達する潅水強度であれば,耕起層の湿潤域 はエ ミッ ター直下において鉛直方向に卓越した形状となる。耕盤層にマク口ホ アが 存在 する土壌では,エミッター直下の耕起層と耕盤層の層界においてマト リッ クポ テンシ ャル が‑5cm に なる時 間ま でが バイパ ス流 を発 生さ せない 限界 の潅 水時 間である。これについて土壌表面の浸潤前線の到達距離と時間の平方 根の 関係 から,勾配が変化する時間がバイパス流発生の指標となることが示さ れた。

   本 論文 ではマクロポアが存在する不均一な土壌構造を有する成層土壌におい

て点 滴潅 漑下の湿潤域の形成を詳細に観察し,根群域からの浸透損失が主にバ

イパ ス流 によるものであることを実験的に明らかにした。本論文で得られた成

果は ,効 率の良い点滴潅漑方法を計画するために貢献するとともに,学術的に

も高く評価される。よって審査員一同は,中川進平が博士(農学)の学位を受け

るのに十分な資格を有するものと認めた。

参照

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