博 士 ( 獣 医 学 ) ア ル ムア フ ェ ル ナ ンデ ズ マ 1J ア テレ サ
学位論文題名
Development of molecular diagnostic tools for canine taeniosis
(犬 のテニア 科条虫症 に対する 分子生物 学的診断 法の開発)
学 位論文内容の要旨
テニア科 に分類されるテニア属とエキノコックス属条虫は家畜に大きな被害を 与えてい るのみな らず、人獣共通寄生虫として重要である。イヌ科動物はしぱし ば複数種 のテニア 科条虫に感染し糞便中に虫卵を排泄する。そのため、テニア科 条虫感染 症の予防 ・制圧には、終宿主としてのイヌ科動物における感染状況を把 握する必 要がある 。しかし、テニア科条虫の虫卵を形態学的に種レベルで鑑別診 断するこ とは困難 である。そこで本研究では、イヌ科動物を終宿主とするテニア 科条虫の 種レベル での分子生物学的診断法の開発を目的として、ミトコンドリア のNADH dehydrogenase subunitl(nadl)遺伝子を標的とした寄生虫種特異的オリゴ ヌクレオチドプローブ(species―specific oligonucleotide probe: S‑SONP)を設計し、
PCRドットブ ロツ卜ハイブリザイゼーション(PCR/dot blot)法とPCRリバースライ ンブロツ 卜ハイブ リザイゼ ーション(PCR/RLB)法の2つのDNA診断法を開発した。
まず、テニア科条虫のnadl遺伝子をPCR増幅するために、GenB ankに登録されて いるテニ ア科条虫 の同遺伝子の配列をアライメントし、保存されている塩基配列 からPCRプライマー(nadlTーFwとnadl T‑Rv)を設計した。これを用いて、世界各地 で採取され、形態学的にEchinococcus canadiensis、E.granulosus (genotype1)、E, multilocularis、E.vogeli、rcrassiceps、Fhydatigena、Fmulticeps、Fovis、お よぴTaenia taeniaeformむと同定されたテニア科条虫ならびにDipylidium caninum、 Mesocestoides vogaeと同定されたテニア科以外の条虫の成虫または幼虫から抽出 したgenomic DNA (gDNA)をテ ンプレー 卜にPCRを行なった。その結果、全てのサ ンプルでnadl遺伝子の 特異的な 増幅が確 認され、検出可能なgDNAの最低量は5pg であった。虫卵1個に含まれるgDNAは約8pgであることから、nadl T‑Fwとnadl T‑Rv プライマーを用いたPCR法は高感度であることが示された。
次に、E. canadiensむ以外の上記テニア科条虫について、nadl遺伝子の多型が認 められる 領域から8つの種にそれぞれ特異的なS‑SONPを設計し、digoxigeninで標 識したのち、PCR/dot blot法を実施した。その結果、各S‑SONPはそれぞれの標的と なる条虫 種に由来 するPCR産物 を特異的 に検出することができた。さらに本法を 野外サン プルの診 断に応用するため、ザンビア共和国で採取した49頭のイヌの糞 便からシ ョ糖浮遊 法で回収 したテニ ア科条虫卵 についてgDNAを抽出し、PCR/dot
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blot解析を行なった。その結果、42頭はFhydatigenaに、3頭はFmulticepsに、そ し て 4頭 は 両 種 に 混 合 感 染 し て い た こ と が 明 ら か と な っ た 。 PCR/RLB法では、 メンブラ ンに吸着 させた複 数のS‑SONPにビ オチン化したPCR 産物をハ イブリダ イズさせ るため、 陽性コントロールとしてPCR産物を共通に認 識するプ ローブが必要となる。そこで、上述の8つのS―SONPに加えて、条虫類一 般のnadl遺伝 子を共通 に認識す るオリゴヌクレオチドプローブ(ONP)とエキノコ ックス属nadl遺伝子を 共通に認 識するONPを 設計し、PCR/RLBを行なった。その 結果、条 虫類共通ONPは用いた全ての条虫に由来するPCR産物を、エキノコックス 属特異的ONPは用いた 全てのエ キノコッ クス属条 虫に由来 するPCR産物を検出し た。また 、8つのS‑SONPは 標的とす るテニア 科条虫種 に由来す るそれぞれのPCR 産物を特異的に検出することができた。
以上、本研究で開発したテニア科条虫のnadl遺伝子を標的としたPCR/dot blot法 とPCR/RLB法は、8種のテニア科条虫を種レベルで特異的に鑑別することが可能で あった。 また、PCR/dot blot法はテニア科条虫のゲノムDNAや虫卵由来DNAを高感 度に検出することが可能であり、さらに、テニア科条虫2種の混合感染も検出する ことがで きた。今 後、糞便 から抽出 したDNAを用いた検討が必要ではあるが、両 診断法はDNAシークエ ンサーを 用いなく とも実施が可能であり、テニア科条虫感 染 症 が 蔓 延 す る 発 展 途 上 国 の 検 査 機 関 な ど に お け る 活 用 が 期 待 さ れ る 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 教授 片倉 賢 副査 教授 杉本千尋
副査 教授 奥 祐三郎(鳥取大学)
副査 准教授 野中成晃(宮崎大学)
学 位 論 文 題 名
Development of molecular diagnostic tools for canine taeniosis
( 犬 の テ ニ ア 科 条 虫 症 に 対 す る 分 子 生 物 学 的 診 断 法 の 開 発 )
テ ニ ア 科 に 分 類 さ れ る テ ニ ア 属 と エ キ ノ コ ッ ク ス 属 条 虫 は家 畜に 大き な被 害を 与 え て い る の み な ら ず 、 人 獣 共 通 寄 生 虫 と し て 重 要 で あ る 。イ ヌ科 動物 はし ぱし ば 複 数 種 の テ ニ ア 科 条 虫 に 感 染 し 、 糞 便 中 に 家 畜 や 人 へ の 感染 源と なる 虫卵 を排 泄 す る 。 そ の た め 、 テ ニ ア 科 条 虫 感 染 症 の 予 防 ・ 制 圧 に は 、終 宿主 とし ての イヌ 科 動 物 に お け る 感 染 状 況 を 把 握 す る 必 要 が あ る 。 し か し 、 終宿 主生 体検 査法 であ る 虫 卵 検 査 に お い て 、 テ ニ ア 科 条 虫 の 虫 卵 を 形 態 学 的 に 種 レベ ルで 鑑別 診断 する こ と は 困 難 で あ る 。 そ こ で 本 研 究 で は 、 イ ヌ 科 動 物 を 終 宿 主と する テニ ア科 条虫 の 種 レ ベ ル で の 分 子 生 物 学 的 診 断 法 の 開 発 を 目 的 と し て 、 ミト コン ドリ アのNADH dehydrogenase subunit l(nadl) 遺伝子を標的とした寄生虫種特異的オリゴヌク レオ チドプローブ(species‑specific oligonucleotide probe: S‑SONP)を設計し、PCRドット ブ ロ ッ ト ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン(PCR/dot blot)法とPCRリ バー スラ イン ブロ ット ハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン(PCRJRLB)法 の2つ のDNA診 断 法 を 開 発 し た 。 ま ず 、 テ ニ ア 科 条 虫 のnadl遺 伝 子 をPCR増 幅 す る た め に 、GenBankに登 録さ れて い る テ ニ ア 科 条 虫 の 同 遺 伝 子 の 配 列 を ア ラ イ メ ン ト し 、 保 存さ れて いる 塩基 配列 か らPCRプ ラ イ マ ー(nadlT―Fwとnadl T‑Rv)を 設計 した 。こ れを 用い て、 世界 各地 で 採 取 さ れ 、 形 態 学 / 遺 伝 学 的 にEchinococcus canadensis、E.granulosus、E multilocularis、E,vogeli、Taenia.crassiceps、Fhydatigena、Fmulticeps、Fovis、 およ びF taeniaeら′mむと同定されたテニア科条虫な らびにDなグffめHmcロnf門甜m、 MeJ〇c8Jr。fdeぷvDgロ8と同 定さ れたテニア科以外の条虫の成虫または幼虫から 抽出 し たgenomicDNA(gDNA) を テ ン プ レ ー ト にPCRを 行 な っ た 。 そ の 結 果 、 全 て の サ ン プ ルで 門口d´ 遺 伝子 の特 異的 な増 幅が 確認 され 、検 出可 能な テン プレ ー トDNAの 最 低 量 は5pgで あ っ た 。 こ の 量 は 虫 卵1個 に 含 ま れ るgDNA量 よ り は る か に 少 な ぃ ことから、門口加T ̄Fwと門口d|T―RVプライマーを用いたPCR法は高感度であることが 示された。
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次に、E. canadensis以外の上記テニア科条虫にっいて、nadl遺伝子の多型が認め られる領域から8つの種にそれぞれ特異的なSーSONPを設計し、digoxigeninで標識 したのち、PCR/dot blot法を実施した。その結果、各S‑SONPはそれぞれの標的とな る条 虫種に由来 するPCR産物 を特異的 に検出す ることができた。さらに本法を野 外サ ンプルの診 断に応用するため、ザンビア共和国で採取した49頭のイヌの糞便 から ショ糖浮遊 法で回収 したテニ ア科条虫 卵(5‑10個)にっいてgDNAを抽出し、
PCR/dot blot解析を行なった。その結果、46頭がFhydatigenaに、7頭がFmulticeps に感 染しており 、そのう ちの4頭は 而種に混 合感染していたことが明らかとなっ た。
PCR/RLB法で は、メンブ レンに吸 着させた 複数のS―SONPにビオチン化したPCR 産物 をハイブリ ダイズさ せるため 、陽性コ ン卜ロー ルとしてPCR産物を共通に認 識す るプローブ が必要と なる。そ こで、上 述の8つのS‑SONPに加えて、条虫類一 般のnadl遺伝子を共 通に認識 するオリ ゴヌクレ オチドプローブ(ONP)とエキノコ ッ クス属nadl遺伝 子を共通 に認識す るONPを設計 し、PCR/RLBを行 なった。 その 結果 、条虫類共 通ONPは用いた全ての条虫に由来するPCR産物を、エキノコックス 属 特異的ONPは用 いた全て のエキノ コックス 属条虫に 由来するPCR産物を検出 し た 。また、8つ のS‑SONPは標的 とするテ ニア科条 虫種に由 来するそ れぞれのPCR 産物を特異的に検出することができた。
以上、本研究で開発したテニア科条虫のnadl遺伝子を標的としたPCR/dot blot法 とPCR/RLB法 は、8種のテニア科条虫を種レベルで特異的に鑑別することを可能と するものであり、DNAシークエンサーを用いなくとも実施が可能であることから、
テニ ア科条虫感 染症が蔓延する発展途上国の検査機関などにおける活用が期待さ れる。
よって、審査委員一同は、上記博士論文提出者アルムア・フェルナンデス・マリア・
テレサ君の博士論文は、北海道大学大学院獣医学研究科規程第6条の規定による本研究 科の行う博士論文の審査等に合格と認めた。
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