● 総 説 ●
高等植物の胚発生時における
ホメオボツクス遺伝子の発現様式と機能
佐藤
豊 ・千徳直樹 ・松岡
信
近年,高 等植物からホメオボックス遺伝子が多数単離され,形 態形成時におけるこれら
の遺伝子群の機能についての研究が盛んに行なわれている。動物の胚においてホメオボッ
クス遺伝子はパターン形成に重要な役割を果たしているが,高 等植物のホメオボックス遺
伝子は胚においてどのような役割を果たしているのだろうか?本
稿では,高 等植物の胚
発生時におけるホメオボックス遺伝子の発現を解析した最近の研究を紹介するとともに,高
等植物のホメオボックス遺伝子の機能について考えてみた。
Key words 【ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 】 【胚 発 生 】 【パ タ ー ン形 成 】 【in situハ イ ブ リダ イ ゼ ー シ ョ ン 】 は じめ に 高 等 植 物 は胚 発 生 過 程 に お い て2つ の 頂 端 分 裂 組 織(茎 頂 分 裂 組 織,根 端 分 裂 組 織)[→ 今 月 の Key Words(p.1875)]を 形 成 す る 。発 芽 後,こ れ ら の 分 裂 組 織 が,葉,茎,腋 芽,根 な ど の 器 官 を連 続 的 に 形 成 す る こ とに よ り胚 発 生 後 の 形 態 形 成 が 行 な わ れ る。 した が っ て,こ れ らの 分 裂 組 織 を っ く りだ す 胚 発 生 過 程 は,植 物 の基 本 的 体 制 を構 築 す る最 初 の 重 要 な 過 程 で あ る とい え る。 動 物 の胚 発 生 過 程 は シ ョウ ジ ョ ウバ エ をモ デ ル と し て 進 め られ た 遺 伝 学 的 お よび 分 子 生 物 学 的 研 究 の 結 果, 胚 発 生 を 制 御 す る遺 伝 的 プ ロ グ ラ ム に 関 す る い くつ か の モ デ ル が 提 唱 さ れ,こ れ に か か わ る多 くの 重 要 な遺 伝 子 が 単 離 さ れ て い る 。 な か で も,ホ メ オ ドメ イ ン と よ ば れ るDNA結 合 領 域 を含 む転 写 因 子(ホ メ オ ボ ック ス遺 伝 子)群 が 胚 の 極 性 や,体 節 の 決 定 に 関 し重 要 な 働 き を して い る こ とが 明 らか に さ れ て い る1)。 高 等 植 物 の ホ メオ ボ ック ス 遺 伝 子 は1991年 に トウ モ ロ コ シ のKNOTTED1遺 伝 子(KN1)と し てHakeら に よ り は じ め て 単 離 さ れ た2)。Knotted1変 異 体(Kn1) は,葉 脈 の 走 行 に 異 常 が み ら れ,葉 脈 に 沿 っ て結 び 目 (knot)の よ うな 突 起 を つ く る こ とか ら,Knottedと い う名 が つ け られ た(図1)。 その 後 の解 析 か ら,Knotted1 変 異 体(Kn1)は 優 性 の 変 異 で,野 生 型 遺 伝 子 の 発 現 量 の増 加 お よ び異 所 的 な発 現 に よ り葉 身 部 の 発 達 プ ロ グ ラ ム が 乱 さ れ る こ と に よ りひ き起 こ され る こ とが 明 ら か に さ れ た3)。一 方,in situハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン法 や,抗 体 を用 い た 組 織 染 色 な ど の 発 現 解 析 の 結 果 か ら,KN1遺 伝 子 は茎 頂 に発 現 し て い る こ とが 明 らか に な っ た3,4)。ま た,茎 頂 に お け る葉 原 基 の 予 定 発 生 領 域 でKN1遺 伝 子 は 発 現 が 抑 制 さ れ て い る こ と か ら, KN1遺 伝 子 の 機 能 とし て茎 頂 の 未 分 化 な細 胞 の維 持 お よ び 側 生 器 官 の発 生 に対 し抑 制 的 に働 い て い る こ とが 示 唆 さ れ て い る5)。そ の 後,ト ウ モ ロ コ シ,シ ロイ ヌナ ズ ナ,イ ネ,タ バ コ を は じ め,多 くの 植 物 種 か らホ メ オ ボ ッ クス 遺 伝 子 が 単 離 され て い る6∼9)。これ らの うち, ア ミノ 酸 配 列 の類 似 性 か らKN1型 に分 類 され るホ メオYutakaSato,Naoki Sentoku,Makoto Matsuoka,名 古 屋 大 学 生 物 分 子 応 答 研 究 セ ン タ ー(〒464-01 名 古 屋 市 千 種 区 不 老 町) [Nagoya University Bioscience Center, Furo-cho,Chikusa-ku,Nagoya 464-01,Japan]
Expression Patterns and Functions of Plant Homeobox Genes During Embryogenesis
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高等植物の胚発生時におけるホメオボックス遺伝子の発現様 式と機能 53 図2 高 等 植 物 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 分 類 こ れ ま で に 単 離 され た 高 等 植 物 の ホ メ オ ボ ッ クス 遺 伝 子 の ホ メオ ドメ イ ン のア ミノ酸 配 列 を参 考 に して5つ の グル ー プに分 類 した。 図1 トウ モ ロ コ シ のKnottedl変 異 体 に 形 成 さ れ る 葉 の 形 態 正 常 な葉 で は真 っ直 ぐ平 行 に走 って いる葉 脈 がKnotted1変 異 体 で は 不 規 則 な 走 行 を して い る。 また,葉 脈 に 沿 って と こ ろ ど ころ で 結 び 目(knot)の よ う な 隆 起 が 形 成 され て い る。 ボ ッ ク ス遺 伝 子 の 多 くが 栄 養 生 長 期 お よ び 生 殖 生 長 期 の 茎 頂 に発 現 が み られ る こ とか ら,こ の 型 に分 類 さ れ るホ メ オ ボ ック ス遺 伝 子 はKN1と 同 様 に 茎 頂 分 裂 組 織 の 未 分 化 状 態 の 維 持 や,側 生 器 官 の 発 生 に関 与 し て い る こ とが 予 想 され て い る。 ま た,KN1型 以 外 に もホ メ オ ドメ イ ンを もつ 遺 伝 子 が 数 種 類 単 離 さ れ て い る(図2)。 これ らはHD-ZIP型, HD-GL2型,HD-BEL1型,PHD-フ ィ ン ガ ー型 な ど に分 類 され て お り10),現 在 その 機 能 解 析 が 進 め られ て い る。 こ れ らの グル ー プ に 分 類 され る遺 伝 子 が,KNI型 に分 類 さ れ る ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 が 側 生 器 官 の 発 生 に 関 与 す る と考 え ら れ て い る よ う に,そ れ ぞ れ の グ ル ー プ ご と に何 か 共 通 の 生 命 現 象 を制 御 す る よ う に 機 能 分 化 し て い る か 否 か とい う疑 問 は興 味 の あ る と こ ろ で あ る 。 最 近,HD-GL2型 に分 類 さ れ る ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の グ ル ー プ が 表 皮 細 胞 の 分 化 ・形 成 に か か わ っ て い る こ と を示 唆 す る論 文 も報 告 され て お り21),今 後 グ ル ー プ ご との 機 能 分 化 に 関 し て も明 ら か に さ れ て い く こ とが 期 待 さ れ る。 は じ め に述 べ た よ う に,動 物 に お い て は ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 機 能 と し て胚 発 生 時 の パ タ ー ン形 成 に 関
与 してい る こ とが広 く知 られて い るが,そ れ で は高 等
植 物 にお いて は ど うで あ ろ うか?最
近 に な り,こ の
観 点 か らの研 究 が い くつか な され,動 物 の ホメオ ボ ッ
ク ス遺 伝子 と同様 に高 等植物 の ホ メオ ボ ックス遺伝 子
が胚 の領域 化 や器 官形成 の位 置 決定 にか かわ るこ とが
予想 され,注 目を集 めて い る。本 稿 で は高等植 物 の胚
発 生 時 にお け るホメオ ボ ッ クス遺 伝子 の機 能 につ い て
最 近 の話題 お よび筆 者 らの研究 データを交 え紹 介す る。
I.高 等植物の胚発生過程 とホメオボ ックス遺伝子
現在,高 等植 物 の胚 発生 過程 にお けるホ メオ ボ ック
ス遺伝 子の機能 解 析が盛 んに行 なわれている理 由 は3つ
あ る。1つ は,シ ョウジ ョウバ エの胚 発生 にお けるホメ
オ ボ ックス遺伝 子 の役 割 に関 す る研 究 のア ナ ロジー か
ら胚 発生 過程 にお ける胚 の領域 化 や,器 官分化 の位置
決定 な どにかかわ る可能性 が考 えられたか らであ る。2
つ 目 は,KN1型
に分 類 され るホ メオボ ックス遺伝 子 の
多 くが,栄 養 生長 期 の茎頂 分裂 組織 にその発 現が 観察
され る ことか ら,胚 発 生 時 におい て も茎 頂分裂 組 織 の
発生 ・分 化 のマ ーカ ー として利 用で きる ことであ る。3
つ 目 は,シ ロイ ヌナ ズナ の胚発 生致 死 の変異 株 の なか
に,ホ メオ ボックス遺 伝 子(STM)が
機 能 を失 った ため
にひ き起 こされ る変異 体 が みつか った こ とが あげ られ
る11)。
このstm1変 異体(shootmeristemless 1)は,胚 発
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54 蛋 白質 核 酸 酵素 Vol.42 No.11(1997)
生過 程 で子葉,胚 軸,幼 根 な
どの器官 は正 常 に形成 され る
が,茎 頂 分裂 組織 を形 成 す る
ことができな くなってお り,発
芽 はで きて もその後 の栄養 成
長 を行 な えな くな ってい る変
異株 で あ る12)。この変異 株 の
示 す表現 型 お よび胚発 生過 程
にお けるSTM遺
伝 子 の発 現
様式 か らSTM遺
伝 子 が胚 発
生過 程 にお ける茎 頂分 裂組 織
の分 化 にか かわ るこ とが示 さ
れた11)。KN1型 に分類 され る
ホメオ ボ ック ス遺 伝子 の機 能
欠先 型変 異 は現在 まで に この
stm1以 外 には報告 されておら
ず*1,高 等 植 物 のKN1型
ホ
メオ ボ ックス遺伝 子 の機能 が
直 接的 に示 され た唯一 の例 が
このSTM1遺
伝子 で あ る。
図3 イネ とシ ロイ ヌ ナ ズナ の 胚発 生 の 模 式 図胚 発 生過 程 にお ける ホメオ ボ ックス遺 伝子 の機 能 を
考 える際,ホ メオボ ックス遺伝 子 の発 現様 式 を時 間的 ・
空 間的 に詳 し く解 析 す る こ とに よ り,多 くの情報 が得
られ る こ とが期待 で きる。 そ こで,ま ず高等 植物 の胚
発 生過 程 を単子 葉植物 と双 子葉 植物 に分 けて簡単 に概
説 したの ち,そ れ らの過程 にお いて ホメオ ボ ック ス遺
伝 子 が どの よ うな機能 を果 た してい るのか につ い て考
えてみた い。
II.高 等 植物 の 胚発 生 様 式 高 等 植 物 の受 精 卵 は そ れ ぞ れ の種 に よ り定 め られ た 分 裂 パ タ ー ン に 従 い細 胞 分 裂 を く り返 し球 状 胚 を形 成 す る。 こ の 過 程 で 上 下 軸(apical-basal pattern)や 放 射 軸(radial pattern)と い っ た 軸 決 定 が 行 な わ れ る こ と に よ り球 状 胚 の 中 で の位 置 情 報 が 確 立 す る。 こ の よ う に して 確 立 した 位 置 情 報 を 基 に し て,そ の 後 発 生 す る各 器 官 が 正 しい 位 置 に形 成 され 胚 が 完 成 す る13)。ここ で は,単 子 葉 植 物 の 代 表 と して イ ネ を,ま た 双 子 葉 植 物 の代 表 と し て シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の胚 発 生 過 程 を そ れ ぞれ簡 単 に紹 介す る。
1.イ
ネの胚 発生 過程
イ ネの受精 卵 は受粉 後3日 目まで に,約100細
胞 か
らなる球状 胚 を形 成す る。 この間の細胞 分裂 様式 は,後
で 紹介 す る シロイ ヌナ ズナ な どの双子 葉植 物 に比 べて
比較 的不 規則 に行 なわれ る。 受粉 後4日 目 にな る と胚
の腹 側 に鞘 葉原基 が 分化 し,さ らにその下 側 に将来 茎
頂 分裂組 織 に な る領域 が膨 らみ として観察 され る よう
になる。受 粉後5日 目になる と幼根 の原 基が分化 し,茎
頂 分裂組 織 か らは最初 の本 葉 で あ る第 一葉 の葉 原基 が
観 察 され る。 さ らに6日 目にな る と茎 頂分 裂組 織 か ら
第 二葉 が分 化 を始 め る。 イ ネの胚 発生 は,形 態的 に は
約9日 ですべ て完了 す る。 イネ は胚発 生過 程 において,
茎 頂分裂 組 織 お よび根端 分裂 組織 の2つ の分裂 組織 は
もち ろん の こ と,茎 頂分裂 組 織 か らさ らに第三 葉 まで
の3枚 の本 葉 を形成 したの ち に休 眠 す る(図3a)。
2.シ
ロイ ヌナ ズ ナの胚 発生 過程
双子 葉植 物 で あ るシロ イヌナ ズ ナは初期 胚発 生 にお
*1 KN1型 以 外 の ホ メ オ ボ ツ ク ス遺 伝 子 に つ い て は,BELL1お よびGL2の 機 能 欠 先 型 変 異(bell1,gl2)が み つ か っ て い る。 そ れ ぞ れ の変 異 体 を解 析 した 結 果,BELL1は 子 房 の形 成 に35),GL2は トラ イ コー ム の 形 成22)に 関与 して い る こ とが 示 さ れ て い る。Database
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高等植物の胚発生時におけるホ メオボ ックス遺伝子の発現様式 と機能 55 い て イ ネ に比 べ 規 則 的 な 細 胞 分 裂 が く り返 さ れ る。 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 受 精 卵 は,ま ず 上 下2つ の 大 き さ の 異 な る細 胞 に分 裂 す る。 上 側 に 位 置 す る小 さ な細 胞 は 頂 端 細 胞 と よばれ 胚 本 体 を形 成 す る細 胞 で あ る。 一 方,下 側 に位 置 す る 細 胞 は 基 部 細 胞 と よ ば れ,お も に 胚 柄 (suspensor)を 構 成 す る。 頂 端 細 胞 は さ ら に 上 下2つ の 細 胞 に 分 裂 し,そ の後 直 交 し た 縦 方 向 の 分 裂 を2回 く り返 す こ と に よ り8細 胞 に な る。 こ れ ら の細 胞 は次 に並 層 に 分 裂(細 胞 の 分 裂 面 が 球 状 の 表 面 に 沿 っ た 方 向 に 起 こ る細 胞 分 裂)す る こ と に よ り,原 表 皮 を構 成 す る 細 胞 と 内 側 の細 胞 が 区別 さ れ る 。 分 裂 が く り返 さ れ 球 状 胚 が 形 成 さ れ る と,そ の 後,子 葉 の 原 基 が胚 の 上 部 に突 出 す る。 この 時 期 の 胚 は心 臓 型 胚 と よ ばれ る。 心 臓 型 胚 は胚 軸 お よ び 子 葉 が 伸 長 す る こ とに よ り魚 雷 型 胚 とな る 。 こ の 時 期 に な っ て は じ め て2つ の 子 葉 の 原 基 の 間 に,茎 頂 分 裂 組 織 の 原 基 が 小 さ な細 胞 の 集 ま り と し て 観 察 さ れ る(図3b)。 III.胚 発生 過 程 に お ける ホメオ ボ ックス遺 伝 子 の発 現 とそ の 機 能 高 等 植 物 の 胚 発 生 過 程 に お け る ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 機 能 解 析 は,お も に イ ネ,ト ウ モ ロ コ シ,シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ な ど を材 料 と し て 用 い,胚 に お け る発 現 部 位 の 局 在 をin situハ イ ブ リダ イ ゼ ー シ ョン 法 や,抗 体 を 用 い た 組 織 染 色 法 で 調 べ る こ とに よ り行 な わ れ て い る。 こ こで は,お も にKN1型 に分 類 さ れ るホ メオ ボ ック ス 遺 伝 子 に つ い て の 研 究 を 紹 介 す る と と も に,個 々 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 胚 発 生 にお け る 役 割 に つ い て考 え て み た い 。 1.胚 発 生 過 程 に お け るKN1型 ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 発 現 す で に述 べ た よ う に,ト ウ モ ロ コ シ の ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子KN1は,栄 養 生 長 期 におい て茎 頂 分 裂 組 織 に 発 現 が 観 察 さ れ る4)。 こ の こ とか ら,Smithら はKN1 が 胚 発 生 過 程 に お い て茎 頂 組 織 の 分 子 マ ー カ ー と して 利 用 で き る と考 え,ト ウモ ロ コ シ の 胚 発 生 過 程 に お け るKN1の 発 現 様 式 をin situハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン 法 お よび抗 体 を用 い た組 織 染 色 法 に よ り解 析 した14)。そ の 結 果,茎 頂 分 裂 組 織 が 形 態 的 に 観 察 で き る以 前 の 胚 発 生 初 期 の球 状 胚 にお いてKN1の 発 現 は観 察 さ れ ない が,形 態 的 な 茎 頂 分 裂 組 織 の 分 化 と時 お よ び場 所 を 同 じ くして,KN1の 発 現 が 観 察 され る ことを報 告 した 。 す な わ ち,茎 頂 の 分 化 お よ び 形 態 形 成 が す で に 完 了 し た 胚 発 生 の 後 期 に お い て,KN1は 栄 養 生 長 期 と同 様 に茎 頂 に発 現 が 観 察 さ れ た 。 また,そ の細 胞 特 異 的 な 発 現 様 式(L1層 にmRNAの 局 在 が み られ な い,葉 原 基 お よ び 葉 原 基 の 予 定 発 生 領 域 の 細 胞 に お い て 発 現 が 抑 制 され て い る な ど)も 栄 養 生 長 期 の 茎 頂 に お け る発 現 様 式 と同 様 で あ っ た 。 この よ う に,い っ た ん 茎 頂 分 裂 組 織 が 形 成 さ れ る とKN1は 胚 発 生 を含 む 植 物 の一 生 を通 じ て 茎 頂 分 裂 組 織 に発 現 して い る こ と が 明 らか に な っ た 。 こ の こ とか ら,Smithら は 胚 発 生 に お け る茎 頂 形 成 の 分 子 マ ー カ ー とし てKN1が 利 用 で き る こと を報 告 し て い る14)。 一 方,筆 者 ら の 研 究 グ ル ー プ は,こ れ ま で に イ ネ か らKN1型 に 分 類 され る ホ メ オ ボ ック ス遺 伝 子 を6種 類 単 離 し,こ の うちOSH1と 名 づ けた 遺 伝 子 が,そ の1次 構 造 類 似 性 か ら,イ ネ に お け るKN1の オ ル ソ ロガ ス遺 伝 子 で あ る と予 想 し て い た8)。 ま た,こ の こ とはOSH1 の 栄 養 生 長 期 に お け る茎 頂 近 傍 の発 現 パ タ ー ンがKN1 と類 似 して い る こ とか ら も裏 づ け られた 。 そ こで,OSH1 の 胚 発 生 過 程 に お け る発 現 様 式 に つ い てin situハ イ ブ リダ イ ゼ ー シ ョン法 に よ る解 析 を行 な った15)(図4)。 受 粉 後3日 目 まで の イ ネ の胚 は,顕 微 鏡 下 で 形 態 的 な器 官 分 化 が 観 察 で きな い球 状 胚 で あ る。OSH1の 発 現 は受 粉 後2日 目以 降 に 胚 の 腹 側,基 部 寄 りの 領 域 に観 察 さ れ た(図4a,b)。 この 領 域 は 将 来 茎 頂 分 裂 組 織 が 形 成 さ れ る領 域 で あ る。 こ の よ うにOSH1は 茎 頂 分 裂 組 織 の形 態 的 に観 察 で き る器 官 分 化 が 起 こ る以 前 に,茎 頂 分 裂 組 織 が 形 成 さ れ る領 域 に 発 現 し て い た 。 この こ と を確 か め る た め に,筆 者 ら は,イ ネ の胚 発 生 致 死 変 異 体 の1つ で あ るorl1(organless 1)変 異 体 の 胚 に お け るOSH1の 発 現 様 式 を調 べ た15)。orl1変 異 体 は 劣 性 単 一 因 子 に よ りひ き起 こ さ れ る 変 異 で,胚 発 生 の 過 程 で 器 官 分 化 を まっ た く行 な え ない 変 異 体 で あ る16)。orl1変 異 体 の 受 粉 後4日 目 の 球 状 胚 に お い て,OSH1は 同 時 期 の 野 生 型 胚 と ま っ た く同 じ発 現 様 式,す な わ ち 胚 の 腹 側,基 部 寄 りに そ の 発 現 が 観 察 され た(図4f)。 この こ とはOSH1が 茎 頂 分 裂 組 織 の器 官 分 化 とは独 立 的 に 茎 頂 分 裂 組 織 の 予 定 領 域 に発 現 して い る こ と を 示 して い る。 トウモ ロ コ シ のKN1が 胚 発 生 初 期 にお い て茎 頂 分 裂
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56 蛋 白質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.11(1997)
図4 イ ネ 胚 に お け る ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 発 現 様 式
イ ネ 胚 に お け るホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 発 現 様 式 をin situハ イ ブ リダ イ ゼ ー シ ョ ン法 に よ り解 析 した 。 柴 色 の シ グナ ル はBCKP-NBTに よ る発 色,ピ ンクの シ グ ナル はSigma FAST TM Fast Red TRに よ る発 色 を行 な っ た 。(a)受 粉 後2日 目の球 状 胚 に お けるOSH1の 発 現 様 式 。 紫 色 の シ グ ナ ル がOSH1の 発 現 を示 して い る 。(b)受 粉 後3日 目の 球 状 胚 に お け るOSH1の 発 現 様 式 。 ピ ン クの シ グナ ル がOSH1の 発 現 を示 して い る。(c)受 粉 後4日 目の 始 原 生 長 点 分 化 期 の胚 にお け るOSH1の 発 現 様 式 。 紫 色 の シ グ ナ ル がOSH1の 発 現 を 示 して い る 。(d)受 粉 後2日 目 の球 状 胚 に おい て はOSH15の 発 現 は検 出 され ない 。(e)受 粉 後3日 目 の球 状 胚 に お けるOSH15の 発 現 様 式 。 紫 色 の シ グナ ルがOSH15の 発 現 を示 して い る。(f)受 粉 後4日 目 のorl1変 異 体 の胚 に お け るOSH1の 発 現 様 式 。 紫 色 の シ グ ナ ル がOSH1の 発 現 を 示 して い る。(g)受 粉 後7日 目 の胚 に お けるOSH1の 発 現 様 式 。 紫 色 の シ グナ ル がOSH1の 発現 を 示 して い る。(h)受 粉 後7日 目 の 胚 にお け るOSH15の 発 現 様 式 。 ピ ン ク の シ グ ナ ル がOSH15の 発 現 を示 してい る。 パネ ル(a)
と(d),(b)と(e)お よ び(g)と(h)は 同一 切 片 を 二 重 染 色 法 に よ りOSH1とOSH15の 発 現 を 染 め 分 け て い る。(a),(d),(g),(h)に お い て は,紫 色 の シ グ ナ ル がOSH1の 発 現 を,ピ ン ク の シ グナ ルがOSH15の 発 現 を示 して いる 。(b),(e)に おい て は,ピ ン クの シ グナ ルがOSH1 の 発 現 を,紫 色 の シ グ ナ ル がOSH15の 発 現 を示 し て い る。sc:胚 盤,cp:鞘 葉,ep:芽鱗, vt:維 管 束 組 織p1:葉 原 器1,p2:葉 原 器2,矢 印:茎 頂 分 裂 組 織 矢 頭:幼 根 の 先端 。
組 織 の分化 と同時 にその発現 が観察 され るのに対 して,
OSH1は
茎 頂分 裂組 織 の器官 分化 以前 に独 立 的 に発 現
して い る ことが明 らか にな っ
た 。先 に も述 べ た と お り,
OSH1とKN1は1次
構 造 お
よび胚発 生後 の発現様 式 の特
徴が よ く似 ていることか ら,オ
ル ソロガス遺 伝 子で あ る と考
え られ るが,胚 発 生初 期 にお
い て は,こ の よ うに両 者 の発
現 に違 いが み られた。
受 粉後4日 目以 降 の野生 型
胚 で は茎 頂分 裂組 織 を は じめ
さま ざ まな器 官 の分化 が形 態
的 に観察 で きるようになる。 こ
の時期 のOSH1の
発現 は,ひ
き続 き胚 の腹側 に観 察 され る。
鞘 葉 原基 が胚 か ら突 出 して く
る と,そ のす ぐ下 側 のOSH1
の発現 が み られ る領 域 が膨 ら
み,茎 頂分 裂組 織 が分 化 を開
始 す る(図4c)。
この時期以
降 の 胚 に お け る茎 頂 近 傍 の
OSH1の
発 現 は,Smithら
が
トウモ ロ コシの胚 発生 過程 に
お いて観 察 したKN1の
発 現
様 式 と同様 に,栄 養生 長期 に
お け る発現 様 式 と基 本 的 に同
様 で あ った(図4g)。 た だ し,
KN1が
胚 発 生時 においてのみ
幼 根 の原基 に発 現 が み られ る
点 と,OSH1が
胚 の芽鱗 とよ
ばれ る器 官周 辺 に発 現 してい
る点 は両者 の胚 発生 時 に特異
的 な発 現 と考 え られ る。
北野 らは多 数 のイネ胚 発生
突 然変 異体 が 示す表 現型 を観
察 す るこ とに よ り,胚 発 生 で
器 官形 成以 前 に働 くい くつ か
の遺伝 的制 御機構 の存在 を想
定 した17)。これによると,イ ネ
の胚発 生 にお ける器 官分 化過
程 に は,球 状 胚 の段 階 まで に先 端部-基 部,背 部-腹 部
とい った座 標 軸 が決定 され,球 状胚 にお け る大 まか な
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高等植物の胚発生時 におけるホメオボックス遺伝子の発現様式と機能 57
図5 想 定 さ れ る 胚 発 生 過 程 に お け る 器 官 分 化 の 制 御 機 構
sc:胚 盤,co:鞘 葉,ep:芽 鱗,vt=維 管 束 組 織,rd:幼 根,sam:茎 頂 分 裂 組 織 。
領域 決 定が な され る過程 が存 在 す る。 この よ うな大 ま
か な領 域決 定 が なされ たの ち に,器 官 の分化 位 置 の決
定,分 化 す る器 官 のサイズな どに関 す る制御 が加 わ り,
それ ぞれの器官 の形 態形成 に至 る と考 え られてい る(図
5)。
このモ デル に したが って,OSH1の
機 能 をその発現 様
式 か ら考 察す る と次の ような ことが考 え られる。OSH1
は球 状 胚 の段 階で胚 の腹 側,基 部 の特 定 の領 域 に発 現
して い る こ とか ら,軸 決定 が なされた の ちの過程 に位
置 づ けられ る(OSH1の
発 現が 特定 の領 域 に限定 されて
いるとい うことは,OSH1の
発 現 調節機構 自体が胚 の中
の位 置 情報 を受 け取 って いるはずであ る)。 また,orl1
変 異体 の球 状胚 にお いて も,野 生型 と変 わ らぬ発現 を
示 す こ とか ら,器 官分化 が な され る以 前 に,ま た は器
官分化 とは独立 に機 能 してい る こ とが予想 され る。 胚
発 生初 期 の球 状胚 でOSH1は
将 来 茎頂分 裂組 織 を形 成
す る領域 に発現 がみ られ ることから,OSH1は
軸 決定 に
よ り確 立 され た胚 の大雑 把 な位置 情報 を基 に,茎 頂 分
裂 組織 が形 成 され るべ き領 域 をよ り厳 密 に仕切 ってい
るよ うな働 き をして い るのか も しれ ない 。 また,胚 に
お け る茎頂 分 裂組織 が形 成 され た のち,す なわち胚 発
生後期 にお いて,OSH1は
栄 養生 長期 と同様 に茎頂 分
裂 組織 の維 持 や側 生器 官(イ ネ胚 の場 合,第 一 葉 か ら
第 三葉 まで)の 発 生 に関与 して い る と考 え られ る。 こ
の よ うにOSH1は
胚 発 生 にお いて茎 頂分 裂組 織 の形 成
と維持 とい う,少 な く とも2つ の異 な った機能 を もっ
て い るよ うで ある(図5)。
一 方
,ト ウモ ロ コ シのOSH1の
オル ソロガス遺伝 子
で ある と思われるKN1は,茎
頂 分裂 組織 が分 化す る以
前 の球 状胚 には発 現が観 察 されない14)。このことか らト
ウ モ ロ コ シ のKN1はOSH1 の よ う な胚 発 生 初 期 に お け る 機 能 は ない ように思 われ る。 同 じ イ ネ 科 植 物 で あ る トウ モ ロ コ シ と イ ネ の 間 で,KN1と OSH1の 発 現 にこ の よ う な 違 い が み られ るの は興 味 深 い 。 ト ウ モ ロ コ シ は進 化 の 過 程 で ゲ ノ ム の 重 複 を 数 多 く く り返 し て い る こ と を考 え る と,ト ウ モ ロ コ シの祖 先 種 で はKN1の 祖 先 遺 伝 子 もOSH1の よ う に 胚 発 生 の 過 程 で 多 機 能 だ った の か も しれ な い 。 と こ ろ が トウ モ ロ コ シ へ の 進 化 の 過 程 で,ゲ ノ ム の 重 複 に よ り祖 先 型KN1遺 伝 子 か ら新 た に 生 まれ た ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子 と祖 先 型KN1遺 伝 子 との 間 で機 能 分 化 が起 き た の か も しれ な い。 も し この仮 説 が正 し い とした ら,ト ウ モ ロ コ シ に お い て も,OSH1の よ うに球 状 胚 に お いて 茎 頂 予 定 領 域 を仕 切 る よ うな働 きをす るKN1以 外 のホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 の 存 在 が 予 想 さ れ るが,現 在 の と こ ろ み つ か っ て い な い 。 筆 者 ら は,こ れ まで 単 離 した6種 類 の イ ネKN1型 の ホ メ オ ボ ック ス遺 伝 子 の す べ て が 胚 に お い て 局 所 的 に 発 現 し て い る こ と を確 か め て い る。 これ らの うちOSH1 以 外 に も胚 に お い て 興 味 深 い 発 現 を示 す 遺 伝 子 が い く つ か あ る。OSH15と 名 づ けた 遺 伝 子 は,胚 発 生 後 の 成 長 過 程 で は,茎 頂 分 裂 組 織,花 序 分 裂 組 織,花 芽 分 裂 組 織 の い ず れ か か ら形 成 され る側 生 器 官 の 軸 へ の つ け 根 付 近 に リ ン グ 状 に 発 現 が 観 察 さ れ る(佐 藤 ら:未 発 表)。 一 方,受 粉 後3日 目の 胚 発 生 初 期 の球 状 胚 で は, OSH1と 同 様 に 茎 頂 分 裂 組 織 の 予 定 発 生 領 域 にOSH15の 発 現 は観 察 され る(図4b,e)。 しか し,OSH1
の 発 現 が 観 察 さ れ る 受 粉 後2日 目 の 初 期 球 状 胚 に お い て,OSH15の 発 現 は観 察 さ れ な か った(図4a,d)。 こ の こ とか ら,OSH15はOSH1よ り後 の過 程 で機 能 して い る こ と が 推 測 さ れ る。 ま た,受 粉 後4日 目 の イ ネ 胚 発 生 突 然 変 異 体orl1の 胚 に お い て も,OSH15は 野 生 型 の 胚 と 変 わ ら ぬ 発 現 を 示 す こ とか ら,OSH15も OSH1と 同様 に 茎 頂 分 裂 組 織 が 分 化 す る以 前 に 茎 頂 分 裂 組 織 の 予 定 発 生 領 域 に 発 現 し て い る こ とが 明 らか に な った 。 胚 発 生 後 期 に は,OSH15は 栄 養 生 長 期 にお け る茎 頂 近 傍 の発 現 と類 似 し て お り,胚 発 生 時 に つ く ら
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58 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.1(1997)
れ る第一 葉 か ら第 三葉 の つ け根 付近 に リング状 に発現
が観 察 され た。興 味深 い こ とに,胚 盤 や,芽 鱗,鞘 葉
とい った,茎 頂分 裂組 織か ら形 成 され ない胚 の器 官 の
つ け根 に もOSH15の
リング状 の発 現 が観 察 された(図
4g,h)。 この よ うにKN1型
に分類 され る2つ のイネの
ホメオ ボ ックス遺伝 子OSH1とOSH15は,胚
発 生初
期 にお いて は発現 時期 にずれ が あ るものの 同 じ場 所 で
発現 し,器 官分化 が 進行 した胚 発生 後期 にお いて は異
な る発 現パ タ ー ンを示 して いた。
2.胚
発生 に おけ る植物 のホ メオ ボ ックス遺伝 子の機
能
胚発 生 にお いて植 物 の ホメオ ボ ックス遺伝 子 は,ど
の よ うな機 能 を果 た してい るの だ ろ うか?胚
発生 初
期 の野 生型 お よびorl1変 異体 の胚 におけ る発現パ ター
ンか ら,OSH1やOSH15は
茎 頂組織 の形 成 以前 のステ
ップ に関与 して い る ことが考 え られ る。 で は,具 体 的
にOSH1やOSH15は
どの よ うな働 きを してい るのだ
ろ うか?
シ ョウ ジ ョウバ エや 脊椎 動物 にお けるパ ター ン形成
機構 に関 す る研 究 か ら,胚 発 生 の プ ログ ラム につい て
い くつ かの重 要 な考 え方や,法 則性 が示 されている。 こ
れ らの研 究 に よ り明 らか に された ことは,実 際 に形態
形 成 に関与 す る遺 伝子 群 の発現 を統 括 的 に制 御 す る転
写 因子群 が存 在 し,こ れ らは,可 視 的 な構造 が形 成 さ
れ る以前 に将 来 の構造 に対 応 して空 間 的 に特 徴 的なパ
ター ンで発 現す る とい うこ とで あ る。 この ような特徴
的な発 現パ タ ー ンを示す転 写 因子群 自体 が形 態形 成 プ
ログ ラム を構 成 す る一員 で あ り,さ らに上位 で働 く形
態 形成 プログ ラム を通 じて広範 囲 にわ た る単純 な位 置
的情報 が局 所 的で位 置特 異 的な情 報へ と変 換 され てい
くこ とに よ り,こ れ らの下位 に働 く遺伝 子 が特徴 的 な
発 現 を示 すの に必 要 な発 現調 節が 行 なわれ て い る。
植物 の胚 発生 を考 えた とき,シ ョウ ジ ョウバ エや 脊
椎動物 の胚 発 生 にみ られ る ような体節 構造 が み あた ら
な い こ とか ら,形 態 形成 にお ける遺伝 子発 現制御 の階
層性(ギ ャ ップ遺伝 子 →セ グ メ ン トポ ラ リテ ィー遺 伝
子→ ホ メオ テ ィッ ク遺伝 子)に よる位 置情 報 の確立 は
期 待 で きな い。植 物 の胚 は胚 発生 にお いて どの よ うに
して位 置情 報 を確 立 して い るのか は現 在 の ところほ と
ん ど明 らか に され て いな い。筆者 らは イネの ホ メオ ボ
ックス遺伝 子OSH1やOSH15が
胚 にお いて器 官形 成
以 前 に茎 頂 分 裂 組 織 の 予 定 発 生 領 域 とい う特 定 の 領 域 で 発 現 して い る こ とを 明 らか に し た 。 これ に よ り植 物 の 胚 に お い て も実 際 の 形 態 形 成 を行 な う遺 伝 子 に対 し 上 位 に働 く と考 え られ る転 写 因 子 群 が 将 来,器 官 が 形 成 さ れ る場 に 特 徴 的 な 発 現 を し て い る こ とが 明 ら か に な っ た 。 さ ら に,こ れ らの 転 写 因 子 群 が シ ョウ ジ ョ ウ バ エ や 脊 椎 動 物 で の胚 発 生 に お い て そ の 位 置 情 報 の 確 立 に重 要 な働 き を して い る ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 で あ る 共 通 性 は 非 常 に興 味 深 い 。 OSH1やOSH15の 発 現 が どの よ うに調 節 され て,胚 発 生 初 期 に お い て 茎 頂 分 裂 組 織 の 予 定 発 生 領 域 に そ の 発 現 が 局 在 す る の か とい う疑 問 は,植 物 の 胚 発 生 にお い て 植 物 の 胚 が ど の よ う な メ カ ニ ズ ム で 位 置 情 報 を確 立 し て い るの か を 明 ら か に す る う え で 重 要 な 問 題 で あ る。 最 近 筆 者 ら は,イ ネ の初 期 胚 に お い て 非 常 に初 期 か ら発 現 が 認 め られ る ホ メオ ボ ッ クス 遺 伝 子OSH3の 発 現 を調 べ た と こ ろ,OSH3はOSH1の 発 現 が 観 察 さ れ る 以 前 か ら胚 全 体 に お い て 強 く発 現 して い る こ と を 見 い だ した(千 徳 ら:未 発 表)。 その 後,OSH1の 発 現 が 始 ま る 時 期 を 同 じ く し て,OSH1が 発 現 す る 領 域 で OSH3の 発 現 が 抑 制 さ れ た 。 この よ う な 発 現 パ タ ー ン は,OSH3とOSH1が 互 い に拮 抗 的 な 発 現 をす る こ と に よ り,胚 に お け る茎 頂 分 裂 組 織 形 成 の 位 置 情 報 が 確 立 さ れ て い る よ うに もみ え る。 また は,OSH3がOSH1 に対 し て 形 態 形 成 プ ロ グ ラ ム の 上 位 に機 能 す る こ とに よ り,OSH1の 発 現 を調 節 して い る よ う に も考 え られ非 常 に 興 味 深 い。 筆 者 らが 解 析 し た イ ネのKN1型 ホ メオ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 は胚 発 生 過 程 に お い て そ れ ぞ れ が 特 徴 的 な 発 現 を示 し て い る。 この こ とか らKN1型 の ホ メオ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 が 胚 発 生 に お い て複 雑 な 遺 伝 子 発 現 ネ ッ トワ ー ク を構 築 し,こ れ らが 協 調 的 に作 用 す る こ と に よ り,胚 発 生 に お け る さ ま ざ まな 場 面 で の パ タ ー ン 形 成 に か か わ る とい っ た モ デ ル を考 え る こ と もで き る。 3.他 の ホ メ オ ボ ック ス 遺 伝 子 の 胚 発 生 に お ける 発 現 と機 能 前 述 のKN1型 以 外 に も高 等 植 物 の ホ メオ ボ ックス 遺 伝 子 の 胚 発 生 に お け る発 現 が 解 析 さ れ た 研 究 は い くつ か あ る。PHD-フ ィ ンガ ー グ ル ー プ に分 類 され る トウ モ ロ コ シのZmHOX1aは トウ モ ロ コ シ のShrunkenプ ロ モ ー タ ー に 結 合 す る因 子 と し て,サ ウ ス ウ ェ ス タ ン法 に よ り単 離 さ れ た18)。 そ の後,ZmHOX1aを プ ロー ブDatabase
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高等植物の胚発生時におけるホメオボ ックス遺伝子の発現様式と機能 59 に し てcDNAラ イ ブ ラ リー を ス ク リー ニ ン グ し,さ ら に,ZmHOX1b,ZmHOX2a,ZmHOX2bが 単 離 さ れた19)。ZmHOX1a,1bお よびZmHOX2a,2bは それ ぞ れ の ペ ア の 間 で1次 構 造 に 非 常 に 高 い 相 同 性 が み ら れ る ば か りか 発 現 パ ター ン も類 似 し て い る 。 さ ら に, ZmHOX1aと1bに つ い て は形 質 転 換 タバ コに過 剰 発 現 させ る と ま っ た く同 じ形 態 異 常 が ひ き起 こ さ れ る こ と か ら,両 者 は トウ モ ロ コ シ に お い て 重 複 した 機 能 を も っ て い る こ とが 推 測 され て い る19)。ZmHOX遺 伝 子 の 胚 発 生 に お け る発 現 は比 較 的 初 期 の胚(原 胚 期)以 降 に増 殖 が盛 ん な 分 裂 組 織 全 般 に観 察 され た20)。この 発 現 様 式 は,栄 養 生 長 期,生 殖 生 長 期 に も 同 様 に観 察 さ れ て い る。 この こ とか らZmHOX遺 伝 子 は,細 胞 の 増 殖 に必 須 な働 き を して い る と考 え ら れ て お り,形 態 形 成 と か か わ りが あ る か 否 か に つ い て は 明 らか で な い 。 また,HD-GL2グ ル ー プ に 分 類 さ れ る シ ロイ ヌ ナ ズ ナ のATML1は2細 胞 期 の 胚 に お い て も そ の発 現 が 観 察 され る21)。この とき,ATML1は 頂 端 細 胞 にの み発 現 し て お り,胚 の 中 の上 下 の パ タ ー ン形 成 機 構 の解 析 に お い て頂 端 細 胞 に発 現 す る最 も初 期 の 分 子 マ ー カ ー と し て 利 用 で き る と考 え られ て い る 。 シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 放 射 方 向 の 軸 決 定(radial pattern formation)は16
細 胞 期 以 前 に行 な わ れ る 。 そ の 結 果,8細 胞 期 か ら16
細 胞 期 に な る と き の細 胞 分 裂 が 並 層 方 向 に 起 こ る こ と
に よ り は じめ て 原 表 皮 が 形 成 され,原 表 皮 と 内部 細 胞
塊(inner cell mass)と が 細 胞 の 並 び で 区 別 で き る よ
う に な る。 こ の ときATML1の 発 現 は新 し く分 化 した 原 表 皮 に の み 観 察 さ れ る 。 魚 雷 型 胚 に な る と原 表 皮 に お け る発 現 は消 失 し,か わ りに 茎 頂 分 裂 組 織 のL1層 に 発 現 が 観 察 さ れ る。 発 芽 後 は,茎 頂 分 裂 組 織,花 序 分 裂 組 織,花 芽 分 裂 組 織 のL1層 にそ れ ぞれ 発 現 が観 察 さ れ る 。 こ の よ う な発 現 か らATML1は 茎 頂 分 裂 組 織 の L1層 を 含 む 表 皮 細 胞 に ア イ デ ン テ ィテ ィー を与 え る よ う な働 き を し て い る こ とが 考 え られ て い る21)。 興 味 深 い こ と に,HD-GL2グ ル ー プ に 分 類 さ れ る シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ のGL2,ATML1お よ び コ チ ョウ ラ ンの O39は す べ て 茎 頂 分 裂 組 織 のL1層,原 表 皮,表 皮 に 発 現 が 観 察 さ れ た22,23)。この こ とか ら,HD-KN1型 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 が 茎 頂 分 裂 組 織 の 形 成 と維 持 に か か わ る よ う に,HD-GL2グ ル ー プ に 分 類 され る ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子 は表 皮 細 胞 の 分 化 形 成 を制 御 す る よ う に特 殊 化 した グ ル ー プ で あ る と考 え る こ とが で き る。 お わ り に 本 稿 で は,高 等 植 物 の 胚 発 生 に お け る ホ メ オ ボ ツ クス 遺 伝 子 の 機 能 につ い てKN1型 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 を 中 心 に 考 え て きた 。 動 物 の胚 発 生 に お い て ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子 は体 軸 の 決 定 や 体 節 の 形 成 と い っ た パ タ ー ン形 成 を 支 配 す る遺 伝 子 と し て 形 態 形 成 を制 御 す る遺 伝 子 カ ス ケー ドの 上 位 に位 置 してい る。 高 等 植 物 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 も胚 発 生 過 程 に お い て 器 官 形 成 以 前 に局 所 的 な 発 現 を 示 して い る こ と か ら形 態 形 成 を制 御 す る遺 伝 子 カ ス ケ ー ドの な か に 位 置 し て い る こ とが 予 想 さ れ る 。 一 方 で,高 等 植 物 の 胚 は シ ョ ウ ジ ョ ウ バ エ や 動 物 の 胚 に み られ る よ う な体 節 構 造 を 取 っ て い な い た め,シ ョ ウ ジ ョ ウバ エ や 動 物 の研 究 か ら明 ら か に さ れ た 遺 伝 子 発 現 調 節 の カ ス ケ ー ドに よ っ て 支 配 さ れ る パ タ ー ン 形 成 機 構 を そ の ま ま 当 て は め る こ と は で き な い 。 植 物 の 胚 発 生 過 程 に お け る軸 決 定 や 器 官 分 化 を行 な う た め の パ タ ー ン形 成 機 構 を理 解 し て い く う え で,さ らに 具 体 的 に ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子 の機 能 を記 述 す る 必 要 が あ る。 現 在,高 等 植 物 の ホ メ オ ボ ッ ク ス遺 伝 子 は お もにin situハ イ ブ リ ダ イ ゼ ー シ ョ ン法 な どに よ る 発 現 解 析 の 結 果 や,ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 を過 剰 に 発 現 した りア ンチ セ ン スRNAの 発 現 に よ りセ ン スRNA の 発 現 が 抑 制 さ れ た 形 質 転 換 植 物 が 示 す 表 現 型 か ら そ の 機 能 が 推 定 さ れ て い る7,8,9,24∼30)。KN1型 の ホ メ オ ボ ック ス遺 伝 子 も,お も に そ の 発 現 解 析 や 形 質 転 換 植 物 を 用 い た 解 析 か ら形 態 形 成 へ の か か わ りが 示 唆 さ れ て い る が,形 態 形 成 に お け る具 体 的 な役 割 が 明 らか に さ れ た の は シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ のSTMだ け で あ る。 この こ と の 最 大 の理 由 はstm変 異 体 以 外 にKN1型 の ホメ オボ ッ ク ス 遺 伝 子 が 機 能 を 失 っ た 変 異 体 が 同 定 さ れ て い な い こ とに よ る 。 最 近 に な り,植 物 に お い て も相 同 組 換 え法 や タ ギ ン グ 法 に よ り特 定 の遺 伝 子 を破 壊 す る こ とが 可 能 に な り つ つ あ る31,32)。今 後 この よ う な方 法 でKN1型 の ホ メオ ボ ッ クス遺 伝 子 が 機 能 を失 った 変 異 体 が 得 られれ ば,そ の 機 能 が 具 体 的 に 明 らか に され る もの と期 待 され る。 ま た,高 等 植 物 の 胚 発 生 に お け る遺 伝 的 制 御 機構 を 明 らか に す る こ と を 目 的 に,胚 発 生 に関 連 す る多 数 の 変 異 株 が,シ ロイ ヌ ナズ ナ13,33),イネ16),ト ウモ ロコ シ34) か ら単 離 され て い る。 これ ら の変 異 株 に お け る ホ メオ ボ ッ ク ス遺 伝 子 の発 現 を解 析 す る こ とに よ り,個 々 の ホ メ オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 と他 の 遺 伝 子 と の 関 係 や,ホ メ
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60 蛋 白 質 核 酸 酵 素 Vol.42 No.11(1997) オ ボ ッ ク ス 遺 伝 子 が か か わ る胚 発 生 の 制 御 に お け る遺 伝 子 発 現 の カ ス ケ ー ドの 実 在 を 明 らか に で き るか も し れ な い 。 本稿で述べ られ た筆者 らの研 究 は長戸康郎博 士(東 京大学農 学 部),北 野英 己博 士(名 古屋大学農学部)と の共同研究 で行 なわれ た もので ある。 この場 を借 りてお礼 申し上 げます。
文
献
1) Ingham, P. W. : Nature, 335, 25-34 (1988)
2) Vollbrecht, E., Veit, B., Sinha, N., Hake, S. :
Nature, 350, 241-243 (1991)
3) Smith, L. G., Greene, B., Veit, B., Hake, S. :
Development, 116, 21-30 (1992)
4) Jackson, D., Veit, B., Hake, S. : Development, 120,
405-413 (1994)
5)
Smith, L. G., Hake, S.: Can. J. Bot., 72, 617-625
(1994)
6) Kerstetter,
R., Vollbrecht, E., Lowe, B., Veit, B.,
Yamaguchi, J., Hake, S. : Plant Cell, 6,1877-1887
(1994)
7)
Lincoln, C., Long, J., Yamaguchi, J., Serikawa, K.,
Hake, S. : Plant Cell, 6, 1859-1876 (1994)
8) Matsuoka, M., Ichikawa, H., Saito, A., Tada, Y.,
Fujimura, T., Kano-Murakami,
Y. : Plant Cell, 5,
1
039-1048 (1993)
9) Tamaoki,
M., Sato, Y., Matsuoka,
M.: Genes
Genet. Systems, 72, 1-8 (1997)
10)田 坂 昌 生:蛋 白 質 核 酸 酵 素,40,1033-1042(1995)