総 説
REVIEW ARTICLE
ピコ秒レーザーによる刺青と皮膚良性色素性病変の治療
葛西 健一郎
葛西形成外科 (平成28 年 3 月 17 日受理,平成 28 年 5 月 11 日掲載決定,平成 29 年 1 月 12 日 J-STAGE 早期公開)Picosecond Laser Treatment for Tattoos and
Benign Cutaneous Pigmented Lesions
Kenichiro Kasai
Kasai Clinic for Plastic Surgery
(Received March 17, 2016, Accepted May 11, 2016, Advance Publication released online January 12, 2017)
要 旨 皮膚科レーザー領域では,照射時間幅を 1 ナノ秒未満に短縮したピコ秒レーザーが次々に発売され,新しい潮流に なりつつある.応力緩和時間理論は実際に働いていると考えられ,ピコ秒レーザーは,刺青除去についてはこれまで のナノ秒 Q スイッチレーザーを上回る有効性を発揮する.さらに,皮膚美容に対する応用の期待が高まっているが, こちらは現時点ではまだ根拠不足であり,今後の基礎研究の発展が待たれる. キーワード:刺青,Q スイッチレーザー,ピコ秒レーザー,光熱反応,光音響反応 Abstract
A series of picosecond lasers, having shorter pulse durations within less than 1 ns, are newly being used in the field of dermatologic laser surgery. Stress relaxation theory is considered to be involved in the actual setting, enabling higher efficiency in tattoo removal using picosecond lasers compared to conventional nanosecond Q-switched lasers. Furthermore, picosecond lasers are increasingly being anticipated to be used for aesthetic skin treatment. However, evidence for this aesthetic effect remains scarce thus far. Therefore, future studies on development of the technique are warranted.
Key words:tattoo, Q-switched laser, picosecond laser, photo-thermal reaction, photo-acoustic reaction
1. ピコ秒レーザー登場の背景 1.1 短パルスレーザー進化の歴史
皮膚色素性病変を治療するレーザーには,連続波レ ー ザ ー(Continuous Wave Laser: CWL)とパルスレーザ ー(Pulsed Laser: PL)がある.生体組織を表面から焼く だけの目的なら,その差は小さいが,除去したい特定 の構造物を選択的に分解するためには PL が有効であ る.Parrish らの提唱した選択的光熱分解理論1)によれ ば,①標的構造物に比較的吸収されやすい波長のレーザ ーを,②発生した熱が周囲に伝導して逃げる時間以内の 短時間のパルスとして作用させれば,その標的を高温に して選択的に分解することができる可能性がある.この 理論に基づいて,以下の 3 種のレーザーが実用化し,臨 床成績が飛躍的に向上した.その一つが,真皮毛細血 〒 541− 0053 大阪府大阪市中央区本町 3 −6 −4 本町ガーデンシティ 2F TEL: 06 −6251−2217 FAX: 06 −6282 −7790 (3 −6 −4 Hommachi, Chuo-ku, Osaka, Osaka, 541− 0053, Japan)
long duration time
short duration time
a. thermal diffusion b. thermal lock-in (rise in temporature
-> vaporization of the particle)
いる.真皮メラノサイトーシスや各種母斑治療に対する 応用も試みられているが,まだまとまった報告はない. また,美容施術に対する応用も開始されているが,まだ まとまった報告はない. 2. ピコ秒レーザーの理論 2.1 熱閉じ込め(熱緩和時間理論) 熱緩和時間理論によれば,以下の現象が知られてい る.ある構造物が熱せられて高温になった場合にその熱 は周囲組織に伝導して逃げていくが,一定時間より長い 時間かかって熱した場合には物体は熱を受けながら逃 がしているだけであまり高温にはならない.この状態を 熱拡散(Fig.1(a))と呼ぶ.ところが一定時間より短い時 間で急速に熱した場合には,熱が周囲組織に伝導して逃 げる時間的余裕がないために,物体の温度は急上昇する. この状態を熱閉じ込め(Fig. 1(b))と呼ぶ14,15).熱閉じ 込めが成立すると物体は高温化して破壊される.熱閉じ 込めが成立するかどうかの時間的しきい値を熱緩和時間 と呼び,吸収係数や熱拡散率などによって決まるといわ れている. 2.2 応力閉じ込め(応力緩和時間理論) ナノ秒 Q スイッチレーザーは,いずれも刺青粒子の 管に対するパルス色素レーザーである.波長 590 nm 前 後,照射時間 0.5~3 ms の PL が,ポートワイン母斑や毛 細血管拡張症の治療を可能とした.2 番目は,刺青・真 皮メラノサイトーシスに対するナノ秒 Q スイッチレー ザーである.ナノ秒 Q スイッチルビーレーザー(QSRL/ 694 nm,20 ns)・ナノ秒 Q スイッチアレキサンドライ トレーザー(QSAL/ 755 nm,50 ns)・ナノ秒 Q スイッ チ Nd:YAG(QSYL/ 1064 nm,5-10 ns)の 3 種の PL が実 用化し,刺青と太田母斑の治療が可能となった.3 番目 は各種脱毛レーザーである.アレキサンドライト(755 nm)・ダイオード(810/ 940 nm)・Nd:YAG(1064 nm)な どのレーザーを 2~100 ms 程度の照射時間で用いること により,毛包を選択的に破壊して永久脱毛に近い臨床成 績をあげることが可能となった.これら 3 種類の PL の 開発により,皮膚外科治療におけるレーザーの地位はゆ るぎないものとなった. 1.2 ナノ秒 Q スイッチレーザー治療の確立と限界 1990 年から,1994 年にかけて,ナノ秒 Q スイッチレー ザーが相次いで実用化してその有効性が報告された2-4). それまでは,レーザーは皮膚表面の病変の治療には有効 である可能性があるが,まさか真皮内に埋入された刺青 粒子が選択的に破壊できるとは考えられていなかったた め,非常に驚きを持って迎えられた.そして,これらレ ーザーは全世界に急速に普及して,刺青治療に対する有 用性が証明されるところになった.それだけでなく,ア ジア諸国では非常に重要な疾患である太田母斑などの 真皮メラノサイトーシスの治療にも有効であることが分 かり,これらレーザーはもちろん老人斑などの表皮病変 にも有効であることから,アジアでは皮膚良性色素病 変治療の切り札の地位にまで登りつめた5).現在では, QSRL・QSYL・QSAL の 3 種のナノ秒 Q スイッチレー ザーは,刺青および真皮メラノサイトーシス治療の決定 版と考えられている.通常の太田母斑や ADM(後天性 真皮メラノサイトーシス)などは,数回以内の治療で完 全に除去可能であると考えられている.ところが,刺青 の場合は,多くの症例では有効であるものの,非常に多 数の治療回数がかかってしまうもの・特殊な色のみが取 れにくいもの・レーザー照射により汚く変色する場合が ある等の問題点6, 7)を有し,改善が期待されていた. 1.3 ピコ秒レーザーの実用化 レーザー装置を改良し,照射時間幅を 1 ns(ナノ秒= 10- 9秒)未満のピコ秒オーダーにすることにより,刺青 の臨床成績が向上する可能性があることはすでに指摘さ れていた8).しかし,それから 15 年もの間,ピコ秒レー ザーは市販されるまでには至らなかった.ところが,近 年の工業技術の進歩に伴って,2012 年 Cynosure 社が PicoSure®(755 nm/ 750 ps)を発売し,2013 年 Cutera 社が
Enlighten® (1064・532 nm/ 750 ps)を,Syneron Candela 社 が PicoWay®(1064・532 nm/ 450 ps)を発売し,さらに現 在では他の複数社もピコ秒レーザーを発売し始めている. これらのピコ秒レーザーは,ナノ秒 Q スイッチレーザー
に比べて刺青除去効果に優れ9),難しかった色も除去可
能であり10-12),変色も起こしにくい13)ことが報告されて
Fig.1 Mechanism of thermal lock-in. (Reproduced with permission from reference #14) (a) Thermal diffusion: Thermal infusion with a long period of time results in thermal diffusion. (b) Thermal lock-in: Thermal infusion within a short time results in thermal lock-in causing rise in temperature and vaporization of particle.
熱緩和時間より短い照射時間幅であったため,熱閉じ込 めは成立していると考えられる.しかし,ここで,もう ひとつの重要な現象「応力閉じ込め」について考えなけ ればならない. 応力緩和時間理論を簡単に説明すると,以下の通りで ある.熱を与えられた個体粒子は熱膨張する.その膨張 は波動となって周囲へ拡散する.これが通常起こってい る応力拡散である(Fig. 2(a)).ところが,熱の与えら れ方が,非常に極端に短い時間に集中して与えられた
(a)
(b)
long duration time
short duration time
a. stress (vibration) diffusion b. stress lock-in (rise in pressure
-> fracture of the particle)
コ秒 Nd:YAG レーザー(Pico-YAG: 1064・532 nm/ 450・
350 ps)である Syneron Candela 社製 PicoWay®を,臨床 使用しているが,これまで使用していたナノ秒 Q スイ ッチレーザー(QSRL・QSYL・QSAL)より大幅に効果が 高くなったことを実感している.通常の黒色刺青の除去 効果はナノ秒 Q スイッチレーザーの概略 2 倍程度(2 分 の 1 の回数で消失するの意味),多色の刺青の除去効果 はナノ秒 Q スイッチレーザーの数倍以上と考えられる. 以下の症例を参照されたい. ( 症 例 1)28 歳, 男 性. 前 腕 診 刺 青(Fig.3(a))Pico-Alex にて 4 回治療後 2 か月,刺青はおおむね除去され た(Fig.3(b)).ナノ秒 Q スイッチレーザーを用いた場 合はもっと多数回の治療が必要であったと考えられる. (症例 2)41 歳,男性の背部刺青(Fig.4(a)).QSYL 1 回 治療+Pico-Alex 5 回治療後 2 か月,刺青はおおむね除去 され,一時的色素沈着を残す(Fig.4(b)).この色素沈着 場合には,応力(波動)が逃げる時間が足りないため に「応力閉じ込め」が成立する14,15).閉じ込められ た応力は非常に高圧になり,粒子は破砕されることに なる(Fig.2(b)).ちょうど,熱閉じ込めが成立すると 物体が高温になるのと同じである.応力閉じ込めが成 立する時間的しきい値が応力緩和時間であるが,刺青 粒子の場合には 1 ナノ秒(1 ns=10-9秒)より少し短いく らいのところにあると考えられる.すなわち,これま でのナノ秒 Q スイッチレーザーは,いずれも刺青粒子 の応力緩和時間より長いパルス幅だったため,応力閉 じ込めは実現しなかった.それがピコ秒レーザーでは 応力閉じ込めが実現できるようになったわけである. 応力閉じ込めが実現するピコ秒レーザーでは,反応 がどう変わるかといえば,以下の点が予想されてい る.ナノ秒 Q スイッチレーザーまでのレーザーでは, 光と熱の反応による熱分解(光熱反応:photo-thermal reaction)しか起こらなかったものが,ピコ秒レーザーで は閉じ込められた応力による衝撃波による破壊反応(光 音響反応:photo-acoustic reaction)が加わるため,破壊 効率が向上する.そして,光の吸収による発熱の影響 が小さくなるため,色依存性が低下する.また,熱に よる悪影響が減少するため刺青の色調変化などの副作 用の可能性が低減する.などの変化が予想されている. これらの現象は一部臨床的に確認されているが,まだ すべてが確かめられたわけではない. 3. ピコ秒レーザーの適応 3.1 刺青 刺青の除去に関しては,ピコ秒レーザーはナノ秒 Q スイッチレーザーに比べて有効性が高いことが広く認 められつつある.筆者も 2014 年 2 月よりピコ秒アレキ サンドライトレーザー(Pico-Alex: 755 nm/ 550-750 ps) である Cynosure 社製 PicoSure®を,2015 年 5 月よりピ
Fig.2 Mechanism of stress lock-in. (Reproduced with permission from reference #14). (a) Stress diffusion: Mechanical stress generated with a long period of time results in stress (vibration) diffusion. (b) Stress lock-in: Mechanical stress generated within a very short period of time results in stress lock-in causing rise in pressure and fracture of the particle.
Fig.3 Case 1, tattoo on the forearm. (a) Before treatment, (b) Two months after 4 times treatment by Pico-Alex. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
Fig.4 Case 2, tattoo on the back. (a) Before treatment, (b) Two months after 1 time QSYL treatment and 5 times Pico-Alex treatment. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
は 1 年程度の経過で自然消退すると予想される.ナノ秒 Q スイッチレーザーで治療していた場合はもっと多数回 の治療が必要であったと考えられる. (症例 3)25 歳,女性.前胸部刺青(Fig.5(a)).Pico-Alex 1 回治療後 2 か月,青色・紫色の刺青は完全に除去されて いる(Fig.5(b)).本症例が示すように,青・紫色の刺青 に対しては,Pico-Alex が極めて有効である.これほどの 効果がナノ秒 Q スイッチレーザーで得られることはない. (症例 4)35 歳,女性.上腕部刺青.非常に多数の色が使 われているため,ナノ秒 Q スイッチレーザーで完全除去 するのは難しい症例と考えられる(Fig.6(a)).Pico-Alex 3 回治療後(Fig. 6(b)),どの色もそれなりに薄くなってい るが,黒・青・紫に対する効果が高い.Pico-Alex 5 回治 療後(Fig.6(c)),除去はかなり進んだが,赤・黄色の残存 が多い.そこで Pico-YAG(532 nm)を 1 回照射したところ, 赤・黄色の色素が劇的に除去された(Fig.6(d)).色素沈着 が消退するのを待って,さらに治療を進める予定である. 3.2 真皮メラノサイトーシス ピコ秒レーザーは,ナノ秒 Q スイッチレーザーと同様 に,真皮メラノサイトのメラノゾームを破壊できるはず であるから,真皮メラノサイトーシスに対して有効であ ると考えられる.学会でも症例報告は散見される.ただ し,大規模な集積研究はまだない.筆者は,真皮メラノ サイトーシスに対して,ピコ秒レーザーはナノ秒 Q スイ ッチレーザーと同様に有効であると予想しているが,今 後の研究が待たれる.そして,もしも,ピコ秒レーザー の方が,ナノ秒 Q スイッチレーザーより治療成績が勝る ことが証明されれば,真皮メラノサイトーシスの治療が また一歩進化するわけで,それは革命的なことである. (症例 5)2 歳,男児.左頬部太田母斑(Fig.7(a)).Pico-Alex にて 1 回治療後 4 か月,母斑の色調は著しく薄くな った(Fig.7(b)).ただし,本症例は,ナノ秒 Q スイッチ レーザーでも同様の好結果が得られた可能性がある. (症例 6)2 歳,男児.胸部・左上肢異所性蒙古斑.色調 がかなり濃いため自然消退は難しいと判断し,レーザー 治療を施行することになった(Fig.8(a)).肩から上肢に かけては QSRL,前胸部には Pico-Alex を照射した.照 射後 4 か月(Fig.8(b))の所見では,QSRL 照射部位には 特有の色素の活性化現象が見られ色調が増強しているよ うに見える.この色は,今後数か月かけてゆっくり薄く なってゆくことが予想される.それに対して Pico-Alex を照射した胸部では,照射後 4 か月の段階ですでに色調 が正常化している.この時点で治療効果の差は著明であ
Fig.5 Case 3, tattoo on the chest. (a) Before treatment, (b) Two months after 1 time Pico-Alex treatment. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
Fig.6 Case 4, tattoo on the upper arm. (a) Before treatment, (b) After 3 times treatment by Pico-Alex, (c) After 5 times treatment by Pico-Alex, (d) One month after five Pico-Alex plus one Pico-YAG (532) treatment. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
Fig.7 Case 5, Nevus of Ota on the left cheek. (a) Before treatment, (b) Four months after one treatment by Pico-Alex. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
Fig.8 Case 6, ectopic mongolian spot on the chest and upper extremity. (a) Before treatment, (b) Four months after one treatment by Pico-Alex (chest) and QSRL (arm). (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
(a) (b)
る.問題はこの結果をどう解釈するかだが,2 種のレー ザーの効果の程度そのものに差があると考えるのが正し いのか,両者の照射方法や出力の適正さに差があったと 考えるのが正しいのか,治療後の色素排出の機序・速度 に差があると考えるのが正しいのか,現時点では何とも 言えず,今後の検討が待たれる. 3.3 シミ 老人斑・雀卵斑などのいわゆる「シミ」に対するナノ 秒 Q スイッチレーザーの有効性に関しては,一定のコン センサスが得られていると考えられる.もちろんピコ秒レ ーザーでも,同様以上の有効性を得られることが十分期 待できる.学会でも症例報告が散見されるが,大規模な 集積研究はまだない.高めのフルエンスで 1 回で除去す るのが正しいのか,低めのフルエンスで繰り返し治療を 行うのが正しいのか,この点もまだはっきりしていない. (症例 7)47 歳,女性.右頬部に老人性色素斑を認め る(Fig.9(a)).Pico-Alex 3.5 J/㎠にて治療を施行した. 病変部は治療直後は白色を呈し(Fig.9(b)),その後茶褐 色の痂皮形成し,10 日後に脱落した後に色素斑は消失 していた(Fig.9(c)).治療後 1 か月(Fig.9(d)),若干の marginal pigmentation を認めるが,徐々に周囲となじんで きている.ここまでの経過は,QSRL によって老人性色 素斑を治療した場合の経過に極めて似ている.Pico-Alex は QSRL と同様の使用が可能であることが示唆される. (症例 8)47 歳,女性.顔面全体の美容を希望し来院し た(Fig.10(a)).Pico-Alex を散在性色素斑に 3 J/㎠でス ポット照射したのちに顔面皮膚全体に 0.4 J/㎠で照射す る治療を 1 か月間隔で 2 回施行した.この照射方法で は,形成される痂皮がごく軽く,日常生活の支障が少な く包帯が不要である点から,患者に受け入れやすく,繰 り返し治療が行いやすい.2 回治療後 1 か月(Fig.10(b)), 色素斑の数や濃さが減少している.こうした,ピコ秒レ ーザーを「弱く」「繰り返し」照射する治療法の是非は 今後十分慎重に検討する必要がある.老人斑に対しては 有効である可能性が高いと思われるが,低フルエンス照 射で ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)に効果が得 られるのかどうか,また肝斑に対して照射した場合にレ ーザートーニング(低フルエンス QSYL 治療)と同様の 重篤な副作用16)が発生しないのかどうかという問題を 含めて,十分な検討が必要であろう. (a) (b) (c) (d)
Fig.9 Case 7, solar lentigo on the right cheek. (a) Before treatment, (b) Immediately after treatment, the lesion
shows immediate whitening phenomenon. (c) Ten days after treatment, the pigment of the lesion was removed. (d) One months after treatment, the lesion keeps white with subtle marginal hyperpigmentation. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.)
Fig.10 Case 8, disseminated solar lentigines on the face. (a) Before treatment, (b) One months after 2 times treatment using Pico-Alex with middle fluence at pigment spot and with low fluence on the whole face. (For interpretation of the references to color in this figure legend, the reader is refered to the web version of this article.) (a) (b) 3.4 シワなど美容(rejuvenation) 皮膚の張り・毛穴の改善など,顔面全体の美容目的で ピコ秒レーザーを利用しようとする動きがある.ピコ秒 レーザーを,特殊レンズを用いて細かなスポット状に当 てる,いわゆる fractional laser のような照射を行うと美 容的効果が高いという説もある.米国・アジア・オセア ニアの美容皮膚科のあいだでは,ひとつのブームと言え る状況になっているが,エビデンスレベルの高い報告は まだなく,ふくれあがった期待と商売が先行している面 が大きいと考えられる.臨床応用を推進する前に充分な 基礎研究を行う必要があると言えよう. 4. 問題点と今後の展望 4.1 刺青治療理論の深化 刺青治療器として,ピコ秒レーザーはナノ秒 Q スイ ッチレーザーに比べてかなり効果が向上したことは間違
そこで,肝斑という慢性メラニン過剰の状態に対して QSYL を低フルエンスで頻回に照射するという治療法(レ ーザートーニング:LT)が生まれることになった.LT は, 施術を繰り返している間はメラニンが減るので効果が出 ているように見えるが,施術を中止すると速やかに再発 し,場合によってはむしろ濃くなる(rebound)ことや難 治性の白斑を形成する場合があることが問題となってい る17).LT も,そろそろ流行のピークを過ぎてきたように 見受けられる.そうすると,次に肝斑に適用されるのは 間違いなくピコ秒レーザーであろう.ピコ秒レーザーは, ナノ秒 Q スイッチレーザーよりもパルス幅が短いので, LT と比べて同等以上のメラニン減少効果が得られると考 えられる.しかし,本質的な作用機序は LT と変わらな いので,使用法によっては LT と同様の副作用がさらに 多数発生することが予想される.十分慎重に治験を行っ てから一般に普及させる必要がある18)ことを強調したい. 5. まとめ 皮膚科領域におけるピコ秒レーザー登場の背景と,臨 床使用の現状・今後の課題について述べた.ピコ秒レー ザーは,刺青治療機器としては確実に革新的機器である ことが間違いないが,皮膚美容器・肝斑治療器として は,現在雨後のタケノコのように多数上市されている新 治療器のひとつに過ぎない可能性が高いことを指摘して おく.いずれにせよ,販売の拡大を急ぐ前に,基礎研究 を積み重ねる必要がある. 利益相反の開示 開示すべき利益相反なし. 参考文献
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いない.応力緩和時間理論とその結果であるところの光 音響反応は確実に働いていると考えられる.しかし,ま だいくつか分らないこともある. まず,ナノ秒よりピコ秒の方が良いとひとことで言っ ても,本当に理想的な照射時間幅はどこにあるのかとい う点である.筆者のこれまでの臨床経験では,同じ Pico-Alex を用いた場合でも 750 ps よりも 550 ps を用いた方 が全体的に良好な反応を得る印象がある一方,逆の方が よく色素が取れた症例もある.ほとんどの症例において, ナノ秒レーザーよりピコ秒レーザーの方が良く色素が取 れる印象があるが,1 例だけナノ秒レーザーの方が刺青 色素がよく取れた例がある.将来,ピコ秒レーザーより 短いフェムト秒レーザーの実用化も計画されているよう だが,どのような刺青にはどの程度の照射時間幅が望ま しいのかという点につき,詳細な検討が必要である. 次に,色依存性についての問題がある.当初,ピコ秒 レーザーでは光音響効果が主体となるため,色依存性は なくなる,すなわちどんな色の刺青でも同じように取れ るようになると期待されていた.ところが,実際には, ナノ秒 Q スイッチレーザーより色依存性は少なくなっ たものの,確かに色依存性が残っている15)ことが明ら かになった.(前記症例 4 参照).刺青の色と,最適なレ ーザーの種類によって,検討が望まれる. さらに,レーザーによる刺青変色の問題がある.ナノ 秒 Q スイッチレーザーにより,刺青の色調変化が起こ り,むしろ目立つようになってしまうことがあることが 知られている.ピコ秒レーザーになれば,光熱反応より 光音響反応が主体になるとすれば,レーザーによる刺青 色調変化は比較的起こりにくいと考えられる.筆者の経 験では,ナノ秒 Q スイッチレーザーにより変色を来し た肌色のアートメークがピコ秒レーザーにより変色を来 さずに除去できた症例があった反面,ピコ秒レーザーで もナノ秒レーザーと同様に変色を来した症例も経験して いる.この点も今後の検討課題である. ピコ秒レーザーにより,刺青治療が大幅に進化したこ とは間違いないが,今後さらに刺青治療理論を深化させ る必要がある. 4.2 ノーダウンタイム美容機器としてのピコ秒レーザー 以上のように,ピコ秒レーザーは刺青治療の目的には 非常に優れた効果を発揮することが明らかになりつつあ る.さらに,ピコ秒レーザーの特性を生かして,ノーダ ウンタイム美容器として利用しようという試みが盛んで ある.現在,治療によって包帯などで社会活動に支障を 来すことなく(ノーダウンタイム)施術を受けて美容的効 果を得るというふれこみの治療器が多数販売されている. しかし,こうした機器の効果に関する科学的根拠(エビ デンス)は総じて低く,期待のみが先行している傾向が ある.ピコ秒レーザーのノーダウンタイム美容器として の利用についても,しっかりとした科学的根拠が証明で きるかどうかの岐路に立たされているように思われる. 4.3 肝斑に対する適応について ナノ秒以下の短パルスレーザーは,周囲組織への影響 を最小にしながらメラノゾームを破壊することができる.
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