「普遍主 義」 から見 た日本の 介護 保険制 度の再構 築 今任 啓 治 論文要 旨 日本の 介護 保険制 度は、 1997 年 12 月 に介護保 険法 が成立 した後、 準備期間 を経 て、2000 年の 4 月から 実施 に移され た。その 目 的は、主 に家族が 担っ ていた 介護を社 会的 な制度 で支える「 介護の 社 会化」、さ ら に は「 高齢 者の自 立支援」、「利 用者本 位の制度 作り 」等に あった。 制度 のも とで は、 利用者 は 市 町村 に申 請し、 要介 護認 定を 受け、 要 介護度に 応 じ たサー ビスを 選 択 で きる。 当初は、 要介 護度 1 から 5 の 5 段階 で構 成さ れて いた が 、 その 後の 改 正に より 、要 介護 状 態に なる のを防止 する ための 要支援給 付 1 と 2 が 設けられ 、現 在では 全 7 段 階 と な った 。保 険者は 、市町 村とさ れ、65 歳以上 を第 1 号被保 険者、40 歳 以 上 65 歳未満 を 第 2 号被保 険者と し て 、各々 から 保険料 が徴収さ れ る。 サー ビス を利 用する 際 の 利用 者負 担は、 家族 の状 況や 個人の 収 入にかか わら ず 、一 律 1 割負担の 応益 負 担であっ た。財 源は、国が 25% 、 都道府県 が 12.5% 、市町村 が 12.5% 、保険 料 50% の割 合で構成 され た。 し か し、以上の よう にスター トし た介護 保険制度 であ るが、その後、 財政的 な逼 迫等 を背 景に度 重な る法 改正 が行わ れた 結果 、制 度の性 格 には大 きな 変化 が生 じてい る。 介護 保険 制度の 理念 それ 自体 を変え て いくよ うな 、質 的な 改革が 行わ れた ので ある。 本論 文は 、こ の重要 な 変化を 、元 来普 遍主 義的な 性格 を有 した 制度の 、選 別主 義的 な方向 性 への変 化と して 位置 付ける とと もに 、将 来的に のぞ まし い改 革のあ り 方とし て、 普遍 主義 に則っ た制 度の 再構 築の必 要性 を提 起す るもの で ある。 ここ でい う「 普遍主 義」 とは 、ニ ーズ( この 場合 は介 護)が 存 在する 場合 は、 年齢 や所得 に関 係な く、 同一の 利用 料の もと に同一 の
サービス を受 給する 、とい う理念 であり 、「選別 主義 」と は 、サービス 受給要件 とし て、資 力調査を 伴っ ていた り、利用 料が異 なっ ていたり 、 年齢も 含め てサ ービ ス受給 者を 特定 の集 団に限 定す る、 とい う理念 を さ す 。 先行研 究に おけ る普 遍主義 ‐選 別主 義に 関する 議論 は、 それ ぞれ の 定義づ けに 関す るも のが中 心で あっ た。 また、 介護 保険 制度 に 関す る 研究は 多数 ある が、 普遍主 義‐ 選別 主義 を考察 軸と して 論じ たもの は ほとんど 存在 しない 。ここに、本 論文の 独創性 、研 究意義 が 存在する 。 本 論文は 、全 六章か ら構成さ れる 。 ま ず 第 Ⅰ 章 では 、介 護保険 制度 の変 容を 分析す るう えで の分 析枠 組 みとなる 、普遍 主義 と選別主 義に 関する 先行研究 を 検 討 す る とともに 、 そ の 定義 づけ を行う 。「普遍 主義 」につ い ては 、いくつ かの定 義がある 。 しかし 、本 論文 では 、平岡 公一 によ る 定 義、す なわ ち、 必要 のない と ころにサ ービ ス給付 を行う 必 要は ないた め 、「ニー ド判 定(要 介護認定 ) を行っ たう えで 、必 要なも のに 資力 調査 をせず に給 付を 行う こと、 所 得や年 齢等 によ って 対象を 限定 しな いこ と、利 用者 負担 につ いては 給 付対象者 に制 度上の 制限がな いこ と」と いう定義 を基 本に 据 える 。 第 Ⅱ 章 では 、介 護保 険制度 の現 状に つい て、認 定者 数と 利用 者数 、 介護費 用と 保険 料、 被保険 者・ 受給 者の 範囲、 要介 護認 定制 度、等 の 点に関 して の詳 細な 考察を 行う 。こ の点 に関し て、 とり わけ 重要な の は、要 介護 (要 支援 )認定 者数 とサ ービ ス受給 者数 の大 幅な 増加と 、 それに 伴う 介護 費用 の急増 であ る。 その 結果、 介護 保険 制度 は財政 的 に逼迫 する こと にな り 、こ うし た現 状が 、度重 なる 法改 正の 背景に 存 在してい る 。 続く第 Ⅲ 章 では 、介 護保険 制度 が創 設さ れた歴 史的 経緯 を考 察す る ととも に、 それ が普 遍主義 的な 性格 を持 った制 度と して 発足 した点 を 述 べる 。 高 齢者 の介 護につ いて 歴史 的・ 沿革的 にみ ると 、介 護保険 制 度導入 前に は、 いわ ゆる 「 措置 制度 」 が とられ てき た が 、 高 齢化の 進 展にと もな う 要 介護 者の増 加、 社会 的入 院者の 増加 等に よる 高齢者 に
関する医 療・介護支 出 の急増 を背 景に 、2000 年に 介 護保 険制 度 が導入 さ れ た。 制 度 は、 ① 65 歳以 上を第 1 号被 保険者 、 40 歳 以上 65 歳未 満を第 2 号被保 険者 とし て保 険料を 徴収 し、 ②要 介護認 定を 受け た者 に対し て はサー ビス 内容 を自 己決 定 でき るサ ービ ス受給 権を 保障 する 、③サ ー ビス利用 につ いては 一律 1 割の自 己負担 とする 等 の点 で 、所 得や扶養 関係等 によ る選 別は 一切行 わず 、ニ ーズ 判定、 サー ビス 提供 、利用 者 負担の 面で すべ ての 高齢者 に同 じ基 準を 適用す る 、 普遍 主義 的な制 度 となって いた 。 第 Ⅳ 章 では 、創 設以 降行わ れた 度重 なる 介護保 険法 改正 につ いて 、 主 に 2005 年、 2011 年、 2014 年 に行わ れ た三回の 改正 を中心 に分析を 行 うと とも に、 そ の 結果、 開始 当初 は普 遍主義 的な 性格 を 有 してい た 制度が、徐々に 選別 主義的な 方向 性へと 変化して いく 過程を 記述する 。 ま ず 2005 年 度 改正 の内 容 は 、① 新予 防 給付 の創 設と 地域 支 援事 業の 創設、 ②施 設給 付の 住居費 と食 費の 個人 負担化 と補 足給 付の 創設、 ③ 地域密 着型 サ ー ビ ス と地域 包括 支援 セン ターの 創設 、等 であ った。 こ れによ り 、 介護 サ ー ビスへ のア クセ スと 選択権 の自 由が 制約 される 事 態が生 じた り 、 利用 者負担 につ いて も所 得によ って 差が 出 た りす る 結 果となっ た。 2011 年 度 の改 正で は、定 期巡回・随 時 対応型訪 問看 護介護 事業と介 護予防・日 常生活 支 援総合事 業(「総合 事 業」)が 、新た に導入 された。 この総合 事業 は、介 護サービ ス事 業では なく 健康 増進 事業で あるため 、 介護保 険制 度で 行う ことが 適切 か否 か 、 という 点で 問題 があ り、 ま た 運用面 では 運営 基準 や給付 額、 利用 料も 市町村 で決 定さ れる ため、 行 政主導の 仕組 みであ り、利 用 者本 位の制 度とは言 えな い もの だった 。 2014 年 に は 、①特 別養護老 人ホ ームの 入所要件 を 要 介護 3 以上に重 点化し、 ②一 定所得 以上の利 用者 負担を 2 割に増額 し、③ 所 得段階別 介護保険 料を 従来 ま での 6 段 階から 9 段 階に見直 す 、 など の 改正が行 われた 。こ れ に より 、特別 養護 老人 ホー ム利用 につ いて の選 択権が 大
幅に縮 小さ れる とと もに 、 同一 の 介 護サ ービス を受 けな がら 、所得 に よって 利用 料が 異な る こと にな った 。 ま た所得 段階 別保 険料 に つい て は 、 政 府に よる 低所 得者層 の負 担軽 減を 図ると いう 説明 とは 裏腹に 、 実 質的 に は 低所 得 者 層の方 が収 入対 比で みると 高い 保険 料を 支払っ て いる点が 明ら かとな った 。 以 上 のよ うに、介護 保険制度 は 、導 入当 初の普遍 主義 的な制 度から 、 改正のた びご とに選 別主義的 な制 度へと 、 大きく 変容 してき た 。 第 Ⅴ 章 では 、普 遍主 義―選 別主 義と いう 分析視 点か ら、 日本 、ド イ ツ、韓 国と いう 三か 国の介 護保 険制 度の 国際比 較 を 行う 。 ま ず、保 険 料の徴 収方 法に つい て は 、 ドイ ツと 韓国 では、 介護 保険 料は 医療保 険 料と一 緒に 徴収 する ため定 率制 がと られ ている が、 日本 は所 得段階 別 定額制 をと って いる 。 この 制度 のも とで は、 所 得の 高低 によ り保険 料 率に差 が出 るた め、 一種の 資力 調査 に基 づく格 差が 発生 する 。その 結 果、日 本の 制度 では 低所得 者の 収入 対比 負担率 が 結 果的 に高 くなっ て いる。 この 点で は、 ドイツ ・韓 国の 方が 普遍主 義的 とい える 。給付 の 対 象 者に つい て は 、ドイツで は年 齢制限 がなく 、日 本と韓 国 は 65 歳 以 上の 者か 65 歳 未満 であ れば 特定 疾病 の 者で なけ れば サー ビ ス利 用が できな い 。 日本 と韓 国の制 度は 、こ の点 では普 遍主 義と は言 えない 。 サービ ス 利 用料 につ いては 、ド イツ は保 険給付 範囲 内で あれ ば無料 、 韓 国 は 20% また は 15%とな ってお り、普 遍主義 的 であ る。日 本では所 得 に 応じ て 1 割また は 2 割負担と なって おり 、所 得の 高低を 調べる一 種 の資 力調 査 が 行 わ れるた め 、 普遍 主義 的では ない 。ま た、 低所得 者 に対す る保 険料 ・利 用料減 免 制 度に つい ては 、 ドイ ツ・ 韓国 が公費 負 担である のに 対し、日本の場 合は 介護保 険財源か ら支 出 して いるため 、 給付に 差が 生じ てい る。こ の点 から も 、 日本の 制度 は 普 遍主 義から 外 れ て いる とい えよう 。 最後 の第 Ⅵ 章 では 、今後 の望 まし い改 革の方 向性 とし て、 保険 料 と 被保険 者・ 受給 者の 範囲、 要介 護認 定制 度と予 防給 付、 利用 者負担 と 補足給 付、 とい う三 点につ いて 、普 遍主 義に則 った 介護 保険 制度の 再
構築を 提起 す る 。 制 度の再 構築 にあ たり 、本論 文で は 以 下の 五点を 提 言 す る 。①40 歳以上 、65 歳未 満の 者は 特 定疾病等 でな ければ 介護保険 の対象 者と はな らな いとい う現 行の 給付 要件を 撤廃 した うえ で、被 保 険 者 を 20 歳以 上と し、給 付の 対象 者 は 0 歳以上と する 、② 介護保険 料 につい ては 、現 行の 所得段 階別 保険 料を 廃止し 、所 得対 比 「 定率 制 」 とし、低 所得 者への 減免制度 は介 護保険 法第 142 条に 則り保 険者が行 う、③ 予防 給付 と総 合支援 事業 等は 公費 で行う こと が原 則で あり、 介 護保険給 付 の 対象外 とする 、④利 用者負 担は 一律 15%と し、段階的に 20%ま で 引 き上 げる 、⑤補 足給 付は 介護 保険の 対象 外と し、 生活保 護 制度によ りカ バーす るものと する 。 2018 年 の介 護保 険 法改 正案 を み ると、「地 域包 括ケ アシ ス テム の深 化・推 進」 と「 介護 保険制 度の 持続 可能 性の 確 保」 を2 本柱 とし、 こ のうち 前者 では 、「 地域共 生社 会」 に向 けた取 組の 推進 を謳 ってい る。 具体的 には 、 介 護保 険サー ビス 事業 者が 、障害 福祉 サー ビス の指定 を 受 け やす くす る 等 の 措置によ り 、基 準緩 和を行お うと いうも のである 。 たとえ ば、 介護 保険 の通 所 介護 と障 害者 福祉の 放課 後デ イサ ービス の 一体的 提供 を図 る 。 これに より 、 従 来ま で、特 定疾 病以 外の 障害者 は 介護保 険サ ービ スが 受けら れな かっ たも のが 、 障害 者で も介 護ニー ズ があれ ば介 護保 険サ ービス 事業 所が 提供 するサ ービ スを 受け ること が 可能とな る 。この こ とは、まさ に 、本 論 文 で結論 付け た「 介 護ニーズ 」 判定を 受け た者 は、 等しく サー ビス を受 けるこ とが 出来 るこ とへの 、 すなわ ち普 遍 主 義的 な制度 の再 構築 への 第一歩 とい える 。 こ の点で 、 本 論 文の 提言 の実現 可能性が 薄 い という 批判は当 たら ない 。