30 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1, p. 30-33
特集:新型コロナウイルスパンデミックにおける日本のプライマリ・ケア[活動報告]
新型コロナウイルス感染症拡大により外来・通所リハビ
リテーションへの参加が困難となった地域在住高齢者に
向けた自宅で実施可能な運動を紹介する動画の作成
Creation of a Home-based Exercise Video for Community-dwelling Older Adults Affected by the Spread of COVID-19
松垣竜太郎
1)村 松 圭 司
1)佐 伯
覚
2)松 田 晋 哉
1) Ryutaro Matsugaki1), Keiji Muramatsu1), Satoru Saeki2), Shinya Matsuda1)要 旨 新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴う介護事業所の休業・医療機関における通院リハビリテーションの 中止・利用者の自粛により,地域在住高齢者に対するリハビリテーション提供量の減少が懸念される.リハビ リテーション提供量の減少は身体活動量の低下を意味し,その後の廃用症候群の発生が危惧される.そのよう な状況を鑑みて,我々は地域在住高齢者に向けて自宅で簡単に実施できる運動を紹介する動画を作成した. Keywords :新型コロナウイルス感染症(COVID-19),リハビリテーション(rehabilitation),在宅運動(home-based exercise) はじめに 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)拡大 に伴い,2020 年 4 月 7 日から先行 7 都府県(東京都, 神奈川県,千葉県,埼玉県,大阪府,兵庫県,福岡県) で改正新型インフルエンザ等特別措置法に基づく緊急 事態宣言が発令され,同年 4 月 16 日には全都道府県に その範囲が拡大された1) . 感染拡大防止の観点から不要不急の外出,密閉空 間・密集場所・密接場面を避けることが喚起され2),同 年 4 月 20 日時点で全国の通所系・短期入所系施設の うち 1.13%(858/75,327 件),先行して緊急事態宣言が 発令された 7 都府県においては 1.69%(449/26,469 件) が感染防止のために休業していたことが明らかとなっ た3) .それに加え,医療機関における外来リハビリテー ションの中止・制限,自主的な利用自粛も生じており, 地域在住高齢者に対するリハビリテーション提供量の 減少が懸念される状況であった.感染拡大防止の観点 からはそのような状況は止むを得ないが,それに伴う 身体活動量低下による廃用症候群の発生が危惧され た. 上記状況を鑑みて,我々は地域在住高齢者に向けて 自宅でも簡単に実施できる運動方法を紹介する動画を 作成したのでその活動内容,活動を通して得られた課 題を報告する. 動画作成の経緯 筆者らの所属する産業医科大学の附属機関である産 業医科大学病院(以下,当院)では外来患者に対して もリハビリテーションが提供されていたが,COVID-19 拡大に伴い病院機能維持の観点から同年 3 月以降 規模を縮小していた.また,時期を同じくして自治体 の職員らから外出自粛に伴う身体活動量の低下や通所 リハビリテーションの利用自粛に伴う地域在住高齢者 の廃用症候群発生を危惧する声が聞かれていた.その ため,当院利用患者ならびに地域在住高齢者(日常生 活が完全に自立している高齢者から要介護 3 に相当す 1)産業医科大学医学部公衆衛生学教室 2)産業医科大学医学部リハビリテーション医学講座 著者連絡先:松垣竜太郎 産業医科大学医学部公衆衛生学教室[〒807-8555 福岡県北九州市医生ヶ丘 1-1] email: [email protected] (受付日:2020 年 8 月 17 日,採用日:2020 年 11 月 20 日) Ⓒ2021 日本プライマリ・ケア連合学会
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 31 る高齢者を想定)の運動量低下に伴う廃用症候群を予 防することを目的に同年 4 月 8 日から動画作成を開始 した. 動画作成の流れ 動画作成は産業医科大学公衆衛生学教室・リハビリ テーション医学講座の共同で行われた.動画作成の趣 旨を両部門で共有した後に両部門で運動項目を検討し た. 動画の構成 運動を紹介する動画は,1.運動の概要を説明する部, 2.具体的な方法と注意点を説明する部,3.動画のモ デルを見ながら運動を実践する部の 3 部構成とした. 動画には運動方法を説明する音声が含まれ,音声に対 応する字幕も表示させた. 運動項目 動画で紹介する運動は下肢の筋力増強訓練を中心に 検討した.
American College of Sports Medicine(ACSM)の作 成したガイドライン(ACSM s guidelines)では高齢者 に対する筋力増強訓練として週 2 回以上,8-10 種の大 筋群を用いる漸増抵抗運動または自重を用いた運動を 最大筋力の 40-50% の負荷で 1 日 1-3 セット(1 セット は 8-12 回)行なうことが推奨されている4) .本動画では ACSM s guideline の推奨を参考に,運動に関する知識 が無くとも誰でも自宅で実践できるよう,特別な道具 を用いず,簡単に,かつ安全に実施できる運動項目を 検討し,最終的に 8 項目を採用した(図 1). 工夫,配慮した点 本動画では,前額面,矢状面の動作を確認できるよ うモデルを 2 名配置し,対象者が適切な動きを理解で きるよう配慮した.また,適切な運動方法の理解を補 助するために運動中に意識すべき筋が明確になるよう に適宜説明を加えた.さらに,対象者の安全の確保の 観点から,立位を伴う運動については椅子等の支えと なるものを支持して行うように配慮した.なお,初め て運動を実践する動画利用者に向けて運動方法やその 注意点を詳細に説明する解説付き動画と,それらを理 解した利用者が使用するための詳細な解説を省略した 動画を作成し,DVD にはタイトル画面に両動画のサ ムネイルを設置し,利用者が任意で選択できるように 設定した. 動画の撮影 動画撮影は場所を当院リハビリテーション室,モデ ルは産業医科大学病院リハビリテーション部の理学療 法士とした. 動画の提供 作成した動画は編集後に,動画共有サイトへアップ ロ ー ド し(https://www.youtube.com/playlist?list= PLNPXv-N-b8T1vIpFDNFGde5Gy3g7Gf_qX),その情 報を social network service(SNS)や電子メールを活 用して広報した.その後,インターネットを利用しな い地域在住高齢者へ動画を提供するために DVD を制 作し,完成した DVD を入院・外来リハビリテーショ ン患者,希望のあった自治体に無償配布した.動画を 配布した自治体ではサロン等での運動実施時に活用す るほか,自治体窓口で「自宅で運動をおこないたい」と の希望のあった地域在住高齢者に対して配布するなど して活用された.動画利用者からは運動に対するきつ さの訴えは聴取されたものの,これまでに転倒等の有 害事象の発生は報告されていない. 考 察 我々は COVID-19 感染拡大の影響を受けて外来・ 通所リハビリテーションへの参加が困難となった地域 在住高齢者の身体活動量低下を抑制することを目的に 自宅で実施可能な運動を紹介する動画を作成した. 通常,外来・通所リハビリテーションで実践する運 動は利用者個々人の身体機能に応じてそれを維持・向 上させるための運動項目,回数,頻度,運動時間,負 荷量が設定される.一方,動画で紹介する運動は一律 の運動設定であり,低体力者にとっては「きつい(負 荷が強い)」と感じ,高体力者にとっては「楽である (負荷が低い)」と感じるものであると推察される.個 別性が無い点は本動画の限界であるが,本動画は高齢 者の身体機能低下の進行を遅らせることには寄与でき るものであり,地域在住高齢者に広く活用されること が期待される.また,動画は平時においても自宅での 継続的なリハビリテーションを行うことを支援する ツールとなり,リハビリテーションの効果をより高め ることが可能になる. 諸般の COVID-19 拡大により, 医療と介護の連携,外来・通所リハビリテーションと 訪問リハビリテーションの連携が今後ますます重要性 を増すことになる.既に諸外国では地域在住高齢者を 支える仕組みとして,ICT 機器を用いた遠隔リハビリ テーション(Telerehabilitation)が試みられているが,
32 日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 図 1 運動項目 (a)膝のばし運動,(b) 上げ運動,(c)つま先上げ運動,(d)股閉じ運動,(e)股開 き運動,(f)腹筋運動,(g)踵上げ運動,(h)立ち座り運動 なお,動画のモデルから顔写真が掲載されることについて了承を得ている. 臨床的効果,費用対効果や有害事象についてのエビデ ンスが不足している5) .今後,本邦でも今回紹介した動 画などのコンテンツを利用した遠隔リハビリテーショ ンの広がりが期待されるが,そのエビデンスの検証も 実施する必要がある. 本取り組みの課題は地域在住高齢者に対していかに して動画の存在を広く広報するかである.本邦におい ては 13-59 歳のインターネット利用率が 90% を超過 しているものの,70 歳代では 51.0%,80 歳以上では 21.5% であり高齢層においてはその普及率が高くはな い6) .また,動画共有サイトの利用率は 13-39 歳で 50% を上回るのに対して,70 歳代で 13.5%,80 歳以上では 3.5% となる6) .そのため,現時点では高齢者に情報を届 けるためには, SNS や動画共有サイトの活用に加え, テレビメディアや自治体の広報誌などアナログな手法 を活用する必要があるのかもしれない.また,動画を 提供することに加えてその後の在宅運動を実践させる ための支援も必要である.本取組では動画の効果につ いては確認,検証を行なっていないがその点は今後検 証が必要である. 今後,動画を広報するための手段の検討を重ねると ともに,今回のように新興感染症が発生した際の地域 在住高齢者への効果的な支援の方法,途切れなくリハ ビリテーションを提供するための社会システムを検討 していく必要がある. 謝 辞 動画撮影に協力頂いた産業医科大学実務研修セン
日本プライマリ・ケア連合学会誌 2021, vol. 44, no. 1 33 ター柴田喜幸准教授,産業医科大学病院リハビリテー ション部スタッフの皆様に心から感謝いたします. 利益相反 本活動および報告に関して,開示すべき利益相反は ない. 文 献 1)内閣官房.新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言.東 京:内 閣 官 房;2020. [revised 16 June 2020; cited 25 June 2020]. Available from: https://corona.go.jp/news/news_2 0200421_70.html
2)厚生労働省.新型コロナウイルス感染症について.東京: 厚 生 労 働 省;2020. [revised 24 April 2020; cited 25 June
2020]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisa kunitsuite/bunya/0000164708_00001.html#kokumin 3)厚生労働省.障害福祉サービス事業所に係る休業状況調
査 結 果(2020 年 4 月 22 日 時 点).東 京:厚 生 労 働 省; 2020. [revised 21 May 2020; cited 25 June 2020]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/000625055.pdf 4)AMERICAN COLLEGE of SPORTS MEIDICINE.
ACSM s Guidelines forExercise Testing and Prescription. 10th edition. WOLTERS KLUWER: 2018. 188-195. 5)Peretti A, Amenta F, Tayebati S, et al. Telerehabilitation:
Review of the State-of-the-Art and Areas of Application. JMIR Rehabil Assist Technol. 2017; 4(2): e7.
6)総務省.情報通信白書令和元年度版.東京:総務省;2019. [revised 12 December 2019; cited 25 June 2020]. Available from: https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepa per/ja/r01/pdf/index.html