石礫河川に組む自然に近い石積み落差工の設計
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(2) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 写真- 1. 鳥居川での礫段式落差工. 写真-2 岩岳川での段落ち式落差工 図-1 長谷川ら1) による中規模・小規模形 態からなる渓流形態の概念図. 礫列・礫段直下 のプールの深さ (多くは約 0.6m まで). 図-2 長谷川ら1) による山地河道での縦断河床形状:対平均河床比高(右端の引出し線と文字は著者による記入). 列・礫段河床の復元を試みている(写真-2)7).その工 法は,従来の高堰堤式落差工に対して低落差(数十 cm) 石組みを河床に分散して配置することから,筆者らはこ れを「分散型落差工」と呼んでいる. 本研究では,前半で分散型落差工と長谷川ら 1) による 礫床河川の流路形態の関係,および分散型落差工が河床 で安定するための構造設計の手法を検討して,後半でそ れを実際に試験した現場での追跡調査の結果を報告する. 以下,本論文では,渓流の流路を中・小規模形態に分 類し,横断方向に連なって形成されている大粒径の石礫 集団に対して,長谷川ら 1) の研究による礫列・礫段・段 落ちの呼称を用いる.. (交互砂州) ,および水深スケールの小規模形態(ステッ プ・プール)として分類されていた.それを長谷川 8) は 次のように整理している(図-1,2) . a) 小規模河床形態である礫列・礫段は,いずれも反砂 堆形成と分級作用を成因として射流下で形成される が,後者は水面波の共振条件のもとで生ずる. b) 中規模河床形態は交互砂州と同じものであるが,そ の前縁が落差の大きい段落ちを形成する. c) 川幅の 3~5 倍の波長の交互砂州が中規模形態の起 伏をつくり,その上に 5~10 個の礫列または礫段が 形成され小規模形態をなしている. そして礫列の波長と波高を求める次式(1) , (2)を導 いている.. 1 λ = 3.36 6.48 I - I 3. 2.礫床河川の河床形態と分散型落差工の配置. ∆ = 6.431I 5 / 6hc. 著者らは,大規模掘削などの改修が行われた礫床河川 の河床を安定させるため,多様な粒径集団の石礫を組む 分散型落差工により,礫列・礫段のある河床構造の復元 を試みている.その際,河道の平面形と河床形態の関係 に着目し,蛇行の半波長(砂州の 1 波長)の区間を単位 として,治水条件と調和する淵・瀬・砂州の復元を目差 した.礫列・礫段モデルは,現場の自然に近い河床から 構造や形を模式化し,設置間隔は現地の礫列・礫段間隔 を計測してそれを基準にしてきた. 一方,その河床形態は,長谷川ら 1) により渓流での谷 幅スケールの大規模形態,流路幅スケールの中規模形態. 1/ 6. hc . (1) (2). ここで, λ = 波長, I = 平均河床勾配, hc = (q2/g)1/3 = 限界水深, q = 単位幅流量, g = 重力加速度である. とくに,礫列,礫段が反砂堆形成と分級作用を成因と して射流下で形成されることは,分散型落差工の設置間 隔がそれらの構造の洪水時における安定性にも大きく 関係することを示している.筆者らが現地の河床形態か ら模式化しデザインした分散型落差工のモデルは,この 上記の研究成果と良く一致していた.その一例を 5.(2) で示す.. 491.
(3) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 3.分散型落差工の構造と形状のデザイン. を「根石」 ,縦の縁を「隅角」 ,上面を「天端」と称 し,特に重要な部分に最大級の「力石」を配置する.. 石組みの構造や形は,現場ごとに石礫の形状や大きさ に応じてその安定性を研究して試作した 6),7).横断方向に 敷設する分散型落差工の石組みは,最上段( 「天端」と 呼ぶ)を河床から若干出し,そのほぼ全体を河床に埋設 する構造としている.その最下段は,石組み直下に想定 される洗掘孔の底面よりも 0.5~1m 程深い位置とする. その石組み直下の予測洗掘深は自然に形成された礫 列・礫段のプールと同等としてきたが,これまで著者ら が現場ごとに測定した値は,礫段では 0.6m までが多か った.その傾向は,長谷川ら 1) の実測した渓流での,対 平均河床比高からも読み取れる(図-2) .その結果,石 積み段数は,直径 0.5~1m 程の石材を用いると,礫列モ デルは通常二段,礫段モデルは三・四段までである.そ して,落差工石組みの構造や形状のデザインは,出水時 でも大小の石礫が河床で安定している自然の造形によ る形や構造をモデルにした(写真-3) .. 写真-3 礫段河床形態(福岡県岩岳川) のめり 面. 計画河床高. 石材 胴 (控え). (2) 分散型落差工に応用した野石高石垣の構築様式 石垣構造は,法面勾配で石積みと石張りに分かれる. 石積みは勾配を 1 割(45 度)より急に石を積み,その総 重量で背後からの圧力に抵抗し,石張りは 1 割勾配より も緩く,石材の荷重を地盤に落として地表を覆いこれを 保護する構造である.その構築様式で前項に示した石礫 の堆積形態を再現するため,図-4 にこれを模式化した. 野石を使うわが国の伝統的な高石垣について,分散型 落差工の構築様式と共通する細部構造を,田淵 10),大久 保 11) らの解説から引用すると下記のようになる. ・石垣を強化する特殊部分を「役石」と呼び,最下層. 尻. 床掘ライン. 図-3 「のめり」の概念図 石積み. (1) 河床での石礫の堆積形態 自然の礫床河川における石礫の堆積形態には,河床に 石を組む際に参考となる一定の法則性が見出されている. 例えば,個々の石礫は上面が上流の河床へ緩やかに傾斜 して( 「のめり」と呼ぶ.図-3) ,縦断方向にインブリケ ーションと呼ばれる瓦状構造の重なり 9) がみられる(石 積みでは「崩れ積み」に類似し,高知県には「うろこ積 み」と呼ぶ構築法がある.図-4) .また上下に重なる石礫 は,下層の凹部へ上石が載って,縦横断方向で「人」の 字状となり,下部の石が上部の石を支え,上部の石は下 部の石が動水圧にさらされるのを防いでいる(図-4,5) . そして横断方向には,礫列・礫段が一定間隔で現れる. 著者らは,この石礫の堆積形態が,わが国の伝統技術 である野石高石垣の構築様式に共通する要素が多いこと を見出した.そして,これを分散型落差工の石組み様式 に応用している.その基本的要素は下記の通りである.. flow. うろこ積み. 「人」の字状の支え. flow. 環石. (a)石積様式と石張り(うろこ積み)様式 石張り(崩れ積み) うろこ積み. flow. 「人」の字状の支え 力石. (b)石張り(崩れ積みとうろこ積み)様式 図-4 石礫の堆積形態をモデルとした石組み縦断図 flow. 「ハ」の字状に開く. 環 石. 環石 力石 力石. 力石. (a)石礫堆積の平面形状 「人」の字状の支え 力石 環. 石. 力石. 力石 環石. (b)正面から見た石礫堆積の概念図 図-5 石礫の堆積形態をモデルとした石組みの平面・正面図. 492.
(4) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. ・野石を使う用材(築石)は多様な形状を有するが,正 面になる「面」 ,面より少し奥で石積みの接合面とな る部分が「合場」 ,石垣の奥行きで胴部を「控え」 ,そ の先端部を「尻」と呼ぶ(図-6) . ・築石の間隙や背後を詰める拳大の小石を「栗石」と 呼び,特に尻の下で控えの勾配を固定する栗石を「尻 飼い」 ,胴の下の隙間を詰める栗石を「飼い盤」 ,尻と 尻の間へ打ち込む「胴飼い」 ,その胴部の間を詰める 「胴込め」 ,そして石垣の最深部で石垣背後の重量を 支える大径の栗石を「裏込め」と称する(図-6) . 10) 田淵 は以上のような点を共通要素として, 伝統的な 石垣の構築様式を,正面から見た築石接合面の線形構 造 (「目地」と呼ぶ)が横一直線に通る「整層積み」と, それが互いに噛合う「乱層積み」(写真-4)に大別してい る.筆者らは,分散型落差工の石組みには,自然の堆積 形態に近く,多様な方向からの外力に対して剪断抵抗の 大きい乱層積みを基本にしている.実際の石組みには, ほぼ同じ大きさの石材を揃えるため,同構築様式の中で も「谷積み」と称される様式を用いている. (3) 分散型落差工の石組み 著者らが,野石高石垣の構築様式を分散型落差工の構 築様式に応用した基本構造は,下記の通りである. a) 基本形 まず下部構造は,1~3 段の石組みを 1 割前後の勾配で 谷積み様式に準じて構築し,上段に天端石組みを敷設す る.その天端構造は,力石となる 3 個の大石を両端と中 央部に大石 2・3 個分離して上流側へ「ハ」の字状に開い て据え,その間に大石に準ずる用材 (「環石」と呼ぶ)を. (a) 平面図. 4.流体中の円弧状石組の安定性 著者らが分散型落差工を試作した現場は,かつて土砂 掘削などで大粒径の石礫が除かれて河床が流動化し,ま たその結果岩盤が露出した渓流である.その河床を元の 状態に近く復元しようとする礫列や礫段のモデルは,自 然の構造よりも安定した石組みが必要であると考えた. そこで構造の要となる力石は一定の安定条件を求め,ま た力石間に連結する用材は石造アーチの環石と共通する 要素も考えて,その構造的な特徴を導入した(図-7,8) . 以下にその二点から, 円弧状石組みの安定性を検討する.. (b) 縦断図 尻飼い 飼い盤. 裏込め 胴飼い 胴込め 合場. 直線状または円弧状に数個連結して,それらの間隙を大 小の栗石で充填する.そして,その上流側へ環石に準ず る大きさの用材( 「うろこ石」と呼ぶ)を瓦状に伏せて, 基礎部,天端部と合わせて一体的に構築する (図-4,5). この構造は,通常の石積み・石張りよりも高さに対し て石材の控えが長く,その上面を上流側に「のめり」と して 15~45 度傾けて,荷重を直接河床に伝えている.石 材を積み上げる石垣よりも安定した構造である. 力石は, その頂部を下部の石材上にせり出す崩れ積み様式も用い ている(高知県では「土佐積み」と呼ぶ.図-4(b)) . b) 礫列・礫段・段落ちのモデルと石積み高さ 河床勾配の比較的緩い河川での礫列モデルでは,石積 みは二・三段積みで,水面落差は 0.2m 程度,プール水 深は 0.6m まで,環石部の石垣高さは 1.0m 程である. 河床勾配の急な礫段モデルでは,石積みは三・四段積 みで,水面落差は 0.3m 程度,プール水深は 0.6m 前後, 環石部の石垣高さは 1.5~2.0m 程としている.特に段落 ち部では,石積みは三・四段積みで,水面落差を 0.4m 程とし,プール水深は 1.0m 以上,石垣高さは 2.0~2.5m 程としている.. 尻飼い 飼い盤 面 尻 胴(控え) 裏込め. 図-6 築石・栗石の役割と名称. 図-7 アーチ各部分の名称12). 写真-4 1576年(天正4年)築城の安土城の石垣. 493.
(5) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10 FL:揚力. アーチ背面線. flow. アーチ腹面線 FD:抗力. 環石. FF:最大静止摩擦力. 環石 Ww:石材の水中重量. 力石 (アーチ支点). FL:揚力. 力石. 力石 (アーチ支点). flow. flow. (アーチ支点). lV FD:抗力. 図-8 分散型落差工の石組. lA 支点. (1) 力石の安定条件 力石は構造の要として,大流量の出水時にも単独で安 定するよう,形状や大きさを以下のように検討した. まず流体中に静止する物体に働く力(図-9)を下に示 した式(3) , (4)の計算式から求め,その物体が上流か ら動水圧を受けても移動しない物体の形状や大きさを求 めた.. Ww:石材の水中重量. 図-9 滑動・転動に対する力の釣り合い 2L L L. その際,石材の形状は抗力係数や揚力係数に関係する. flow 面. 胴(控え) 面. 図-10 用材の安定計算において想定した形状. が,自然の川石では卵形や角錐形のように多様である. 一方,自然石を積む伝統的な石垣工法では,石材の面の. (a) 縦断図. 寸法に対して,奥側の控えを長くすることから,計算上. 力石. では胴部の長さを面の一辺の 1.5~2 倍として,設計上の. 面. 形状は図-10 に示す正角柱で取り扱った.現場では石材. 天端. (b) 下流から見た正面図 flow 環石. 胴(控え). 力石. 環石. 尻. の尻を上流側に向けて河床面下に下げ,天端を上流に傾 斜させることから,石材にかかる動水圧を安定モーメン. 図-11 安定計算上の物体(a 図の長方形)と実際の配石構造. トとして働かせることで,式(3) , (4)は安全側の式と して考えた(図-11(a)). なお,実河川で発生する部材への横方向からの動水圧 に対しては,力石の隣に並ぶ環石や下部の土台石組みと 共に群体として安定する構造とした(図-11(b)) . 計算過程は以下の通りである(図-9 参照) . V2 FD = C D・ ・A・ρ0 (抗力) 2 V2 FL = C L・ ・AL・ρ0 (揚力) 2 FF = µ(WW - FL ) (最大静止摩擦力) ρ WW = 1 - 0 W (石材の水中重量) ρ. CL:揚力係数 µ :静止摩擦係数 ρ0:流体の密度(kg/m3) ρ:石材の密度(kg/m3) W:石材の空中重量(kN) lA:抗力 FD の作用重心と転動時の支点との距離(m) lV:揚力 FL の作用重心と転動時の支点との距離(m) 図-10 より, 滑動・転動に対する安定条件を式 (7),(8) で表す. F SF < F (7) FD. (3) (4) (5) (6). SF <. ここに, V:流速(m/s) A :流れ方向の石材の投影面積(m2) AL:流れに垂直方向の石材の上方投影面積(m2) CD:抗力係数. (WW FL ・ ) lV FFD・l A. (8). ここに, SF :安全係数 上記の式(3)~(8)から FD, FL , FF, WW を消去し, 流速 V における力石が安定するための W の条件が式 (9) , (10)のように求まる.. 494.
(6) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. W>. V 2・ρ0 ρ 2・ 1 - 0 ρ 2. W>. V ・ρ0 2・ 1 -. ρ0 ρ. S ・ C ・A F D + C L・AL µ. l S F・C D・A・ A + C L・AL lV. (9). g h i. 線. RA. 以上のように,力石が流体中で静止する条件式は,現 場では石材天端にのめりを入れることや,環石や土台石 組みと一体化して施工することから,これを安全側の式 として考えた.そのうえで更に力石とともに地盤(河床 材料)の安定性も高めるため,力石は河床に 1/3 以上埋 設し, 上流側にはできる限りうろこ積みの処置を施した. (2) 円弧状石組みの構造 分散型落差工の構造は,石造アーチの構造(図-7)を 参考に,河床面に「スキューバック」にあたる両端と, 「クサビ石」にあたる中央部の計 3 箇所に大石( 「力石」) を配置し,この間に「アーチリング」にあたる「環石」 .両端と として数個の中小の石材を配置している(図-8) 中央の力石は安定した構造の要として,この石組み構造 はそれを支点とする二連の円弧状石組みと考え,その安 定性の検討は左半分の円弧状構造で行うこととする. 河床の横断方向に連ねる環石は,力石よりも若干小振 りで,3.(1) で述べた「河床での石礫の堆積形態」を 再現して,中小流量の出水には単独でも安定する大きさ の石材を設置する.そのうえで,環石は力石を両支点に して連結し,以下に示す石造アーチの安定条件を応用し て,大流量の洪水時にも維持される構造を目指すものと する.因みに環石は,その「尻」と「胴」の部分の 2/3 以上を河床面下に埋設する. a) 石造アーチの安定条件 円弧状石組みの安定は,石造アーチの静力学 12) の理 論を参考にした.その要約を次に示す. 左右対称アーチの左半分の図(図-12)で,W1,W2, … を各アーチ石に作用する荷重,H をクサビ石の点 C に作 用する推力,RA をスキューバックの点 A に作用する反力 とすれば,W,H,RA の諸力は釣り合って,クサビ石か らスキューバックに至る力の推移として図示されてい る. (a)図で CbegikA の多角形の力線はアーチに作用す る圧力線で,(b)図でその一部を拡大して示している. 一つの切石 pqmn では,pq 面で右隣の切石から圧縮を 受け, その力と荷重 W3 との合力 P が mn 面で左隣の切石 を圧縮する.この場合,圧縮力はアーチ部材の断面図心 を結ぶ軸線を外れている.圧縮力 P が mn 面に与える影 響を(c)図で考えると,P は面に垂直な圧力(垂面推力) N と,面に平行な剪断力 S とに分力できる.. 495. W4 W5. H. b C p. W1. N. g m. h. P. P. W2. q. e n. (a). e f. W3. k A. d. e. W2. 軸. j. (10). f. W3. (b). h. S. (c). 図-12 左右対称石造アーチの左半分の図 11). ここにおいて,各部材に働く圧力線と,部材の安定条 件が次のように整理される. 条件 1:推力 N の作用点 h が mn 間にあり,かつ e が過大でないこと 条件 2:mn 面での圧縮応力度が切石の許容圧縮応 力度より小さいこと (条件 1 と 2 によって,mn 面で相隣接する切石は 破壊して口を開くことはない.そのことによって, 部材の転倒を防ぎ,引っ張り力がかからないよう にする) 条件 3:mn 面の剪断抵抗が S より大きいこと (条件 3 によって,相隣接する切石が mn 面で剪断 移動することはない.) ここで,任意のアーチはその軸線が固定しているのに 対し,圧力線は荷重の載り方によって変化する.しかし, 上記の状態が全ての隣り合う石同士で保たれていれば, アーチは全体として安定している.著者らは,河床で横 断方向に連結する天然の礫列・礫段構造にも,石造アー チの石材安定条件と共通する要素が在ると判断し,分散 型落差工石組みの構造に応用した. b) 石造アーチの分散型落差工への応用 図-8 に示した二連の円弧状石組みで,左側半分の構造 にかかる圧力は,どの環石からも左右両隣へと合場面と 尻飼い石を通して伝わっていき,両端の力石によって支 えられる.これを石造アーチ左側半分の図(図-12)と対 応するように示すと,環石間の力の推移は,図-13 のよ うに表すことができる. ここで各環石に作用する荷重を W1,W2,W3,力石の 反力を R1,R2(アーチとの違いは,右端の力石が推力と してではなく反力として作用する)とする.各環石と両 隣の部材は「合場」と「胴飼い・胴込め栗石」で緊密に 接しているとすると,CbegA の多角形の力線は,環石に 作用する圧力線と考えることができる.また pqmn を石 造アーチの場合の 1 個の切石と考えれば,中央の環石は pq 面で右隣の環石から圧縮を受け,その力と荷重 W2 が 組み合わされた力 P が mn 面で左隣の石を圧縮する.こ.
(7) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. の関係は,各環石に作用する荷重の方向が同じであれば, 図-12 に共通する.その条件で,圧縮力と環石断面の図 心を結ぶ軸線との位置関係が前項の 4.(3) a)で述べた 状態を保てば,この円弧状石組みも全体として安定を保 つ状態をつくれると考えた. c) 円弧状石組みのアーチ構造との違いと共通点 以上の石造アーチ構造に対して,施工現場で石組みに 用いる野石は形や大きさが不揃いで,構造の軸線や腹背 面線の位置は多様に変化する.例えば,図-14 のように 控え長が揃わないこともあり得る.その際,石造アーチ では圧力線が腹背面線の外に出て崩落することがあって も,分散型落差工では,環石は河床面上にあって必ずし も崩壊・流失することはない. 石造アーチ構造と,分散型落差工の円弧状石組みとの 大きな違いと共通点は以下の通りである. ・円弧状石組みの環石は,中小流量の出水時には河床 に単独でも安定するように用材を配置する.この石材 を動かすほどの荷重がかかったとき,環石間に外力に よる圧力線が発生する. ・円弧状石組みは,支点の力石が安定していれば,環 石に多様な方向からの荷重がかかると,環石同士はそ れに抵抗して安定する新しい位置関係を求めて変位 することもある. ・環石の一部が欠損してアーチ状の連結が失われて も,他の環石は下部土台の支えと自身ののめり構造と によって安定する条件も有しており,欠損部が上流か ら石礫の補給を受ければまた新たな安定構造を再生 する(事例を後述する) . d) 安定する環石の連結要領 以上のことから,分散型落差工の円弧状石組みを, アーチの軸線やライズを決定するように設計する必要は なく,その安定条件としては,環石構造が,施工時や通 水後でも 4.(2) a)の条件 1~3 の関係を満たし易いよう に,以下の要領で設計または施工すればよいと考えた. ・条件 1, 2 の,環石の転倒を防ぎ,引っ張り力がか かり難くするために,各部材断面で圧力線ができるだ けその中央部近くを通るよう,力石間の間隔に対して 腹背面線間の幅を広くする(現実には約 1:0.3~0.5 程 を目安としている) .そのためには,環石の胴部の長 さ(控え長)を力石間の幅に対し十分大きくとること. 経験的にその控え長は力石の控え長の半分以上とし, 上流に向かって開いた 2 個の力石間に 4 個以内で配置 することを目安としている. ・構造の上流側河床が石材の底面より深く洗掘される と,下方からの転倒モーメントが発生する.これには うろこ積みや大粒径の石礫を埋め戻すことが有効で ある.. 496. W1. W2 p. W3 m f g. e 軸線 n. d. b. C R1. q. A. R2. 図-13 2 連円弧状石組みの左半分の図 W1 W2 W3. 圧. 力線. R1. R2. 図-14 現場で起こる可能性のある石組み構造. ・条件 2 の圧縮破壊は,通常,河川の工作物や自然の 堆積で起きることは稀である.風化岩やひび割れのあ る石材を用いないことで対処する. ・条件 3 の目地線での剪断移動対策は,目地線で発生 する剪断力を小さくする.そのため,上流へ「ハの字」 状に開いた 2 個の力石間に,環石を腹面線が上流に向 かって凸状となるように設置して,環石の目地線が腹 . 面線に対して直角になるように設置する(図-12(c)). 5.岩岳川での設計と工事後の変化と安定 (1) 検討対象区間の状況 福岡県を流れる岩岳川の源流域は土砂生産が盛んで, 分散型落差工を試作した山間部の岩屋橋地先(図-15)で は,その上下流を通して大量の巨礫を含む大小粒径の混 合砂礫で構成される交互砂州が発達していた(以下,玉 石や砂利などの小粒径の礫に対して,0.3~4m の大粒径 の礫を巨礫と呼び,4m を越す礫を巨大石と呼ぶ) .現場 は過去に改修のあった河道で,大量の巨礫が水面上に現 れて 15~20m 間隔で礫列状に集合している様子が見ら れたが,その巨礫の多くは底部分が河床から浮いて転が った状態で,大流量の出水時には移動していることが推 .流路は明瞭な淵が無く単調で,瀬・ 察された(写真-5).
(8) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 淵が必要な急流性生物の生息環境が損なわれていたと考 えられる. 2003 年に,当地先の岩屋橋から下流 245m の区間で河 床の掘削工事が行われ,その後に渓流環境を復元する目 的で河床に分散型落差工石組みを敷設した(図-16) . (以 下,岩屋橋から上流の工事非施工河道を a 区間,工事を 施工した下流の河道を b 区間と呼ぶ) . 34゜00'N. 33゜. 130゜30'E. 131゜00'. (2) 分散型落差工の設計 分散型落差工を計画したのは岩屋橋下流の交互砂州 1 波長区間で, 延長約 100m, 河道幅約 20m, 河床勾配 1/35, 計画高水流量 285m3/s の渓流である.その設置場所は, 現場で巨礫が礫列・礫段状に堆積していた 4 箇所の位置 としたが,その間隔は 15~20m(図-16)となった.因 みに現場での礫列の波長,波高を長谷川ら 1) の式(1),(2) から求めると 14.6m,0.9m となった.現場の波長が若干 大きいのは, 巨礫が動く状態によることも考えられるが, 波高は安定した礫段で計測した水面差 0.3m,プール深 0.6m の和 0.9m と一致した.なお河床掘削後に判明した が,砂州前縁の段落ち部(写真-5 で 5 列目)は,巨大石 や巨礫が安定した堆積状態であったためそのまま残した. 分散型落差工石組みの設計に当り,力石の規格を求め るために,設計流速を施工区間の不等流計算により算定 した.当区間の計画高水流量 285m3/s 時の流速は,最大 で 4.62m/s,最小で 3.19m/s であった.この結果から設計 4.(2) で示した式 (9)と式 (10) 流速を5.0m/s と定めて, から力石の規格を求めた.形状を正角柱(一辺の長さ L ×L×2L)と仮定して次の値を得た. 辺長:L = 0.86m 重量:W = 32.8kN(3.35tf) このクラス以上の石材は,現場で十分調達できたこと から,形状や重量がこれを十分満足する巨礫を円弧状石 ,環石の規格は力石より 組の力石として用い(図-10,11) も若干小振りなものとした.その結果から,基本的に 3 箇所の力石を基点とする,2 連の円弧状石組の構造と諸. 周防灘. 131゜30'. 福岡県. 豊前市. 大分県. 岩岳川. 枝川内川 0. 5km. 図-15 試験施工を行った位置 五列目(段落ち). 四列目 三列目 二列目 一列目 (段落ち). 写真-5 岩岳川試験施工区間で5列の礫列状巨礫 集団が堆積する河床(2002年). 平面配置図. a区間. 非施工区間. 施工区間:約 100m 掘削工事,分散型落差工施工. 砂州. b区間. flow. 岩屋橋 天然の岩盤と大粒径の石礫の 堆積による段落ち. 1 基目 砂州. 2 基目. 3 基目 4 基目. 縦断図 淵尻. 瀬頭. 淵尻. 瀬頭. 1 基目. 2 基目. 3 基目. 4 基目. 淵尻. 瀬頭. 淵尻. 図-16 分散型落差工の試験施工区間と配置. 497. 瀬頭.
(9) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 元を図-17 のように求めた. なお,力石の規格を求める上記の式に用いた条件を表 -1 に示した.抗力係数と揚力係数は, 「護岸の力学設計 法」13) では材料の形状により実験で定めることが基本と (a) 平面図. されるが,現場では多様な形状の自然石を使うため,こ れを一律に求めることは困難である.これに関しては, 著者らは 4.(1) で示した設計法に依っている.そして, 揚力係数は同図書での「法覆工の力学的安定性の照査」 の「滑動-単体」モデルを参考に,近似した形状の単体 ブロックの実験値からその安全側に値を求めた.抗力係 数は,中村 14) による人工魚礁での正角柱の部材(図-10 の形状)に側面から流れが当たる場合の係数を用いた. また摩擦係数は捨石と捨石の間における値を用いた.. Flow. 環石. 環石 力石 (アーチ支点). 石 力石 積 (アーチ支点) み 護 岸. (3) 工事完成後の分散型落差工の変化 当現場では,工事完成後の変化を継続して観察し記録 写真を残している.そこで完成時と,完成後 3 年を経て 数多くの洪水を受けた 2006 年 9 月,6 年を経た 2009 年 2 月の状態を比較した(表-2,図-18~20,写真-6~14). 因みに工事が完成した翌 2004 年の台風 21・23 号が通 過した時,10 トン級の巨大石(長径 3m を越す蹴球形) を含む大量の巨礫がこの現場を流下している. 前項で 3.4 トンの巨礫は安定するとしたが,計算上は底面全体が河 床に定着していることが条件である.その底面が船底式 に河床から遊離すれば接地面に堆積する中・小の礫は流 動し,巨礫や巨大石でも滑動や転倒が起こり得る. そうした状況下で観察した,分散型落差工の石組み構 造の安定性や動態を整理すると以下の通りとなる.. うろこ 積み 力石 (アーチ支点). 3.0m 内外. 3.0m 内外 弁慶石. (b) 下流からの正面図 平水位. 根石:3.9kN(0.4tf). 石積み護岸. 山手側. (右岸). (左岸). 力石. 環石. 力石. 環石. 力石. 力石:32.8kN(3.4tf))以上. (c) 1基目の落差工の縦断図 環石:11.8~16.7kN. 直径100~300mmの栗石で埋め戻し. (1.2~1.7tf) 力石 0.6m. うろこ積み: 1.8~16.7kN (1.2~1.7tf). 1 基目 2 基目. 天然の段落ち. 3 基目. 0.9m. 4 基目 (d) 2~4基目の落差工の縦断図 うろこ積みなし. 環石:11.8~16.7kN (1.2~1.7tf). 力石. 直径100~300mmの 栗石で埋め戻し. 図-18 完成直後の分散型落差工配置図 (2003 年 4 月) 新しく形成されつつある礫段. 0.6m 0.9m. 2. 1. 3 4. 図-17 試験施工において設置した落差工の構造と諸元 表-1 力石の規格算定のためのパラメータ. 脱落した天端環石. SF=1.2 SF:安全係数 CD:抗力係数 正角柱の CD=1.08 CL:揚力係数 正角柱の CL=0.3 ρ0:流体の密度 ρ0=1000kg/m3 ρ:石材の密度 ρ=2650kg/m3 A:射影面積 A=L2 m2 AL:鉛直射影面積 AL=2L2 m2 lA:支点-射影面図心間鉛直距離 lA=L/2 m lV:支点-重心間水平距離 lV=L m µ:静止摩擦係数 µ=0.8. 流下してきた巨大石. 図-19 完成後 3 年 5 ヶ月を経た河床の概況 (2006 年 9 月) 新しく形成された礫段. 2. 1. 3 4. 脱落した天端環石. 流下してきた巨大石. 図-20 完成後 5 年 10 ヶ月を経た河床の概況 (2009 年 2 月). 498.
(10) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 工作物位置 分散型落差工 1 基目 (最上流) (写真-6~8). 分散型落差工 2 基目 (写真-6~11). 分散型落差工 3 基目 (写真-6~14). 分散型落差工 4 基目 (写真-9) (写真-12~14). 落差工の状況 2006 年 9 月 2009 年 2 月 ・石組みの上部に上流側の砂州前縁部が延びてき ・石組み構造と淵は2006年の状態を維持している. て,落差工の上下流に大小の粒径の巨礫が段落ち 状に堆積している. ・表層の環石は工事完成時点から入れ替えが見られ るが,力石と石組みの構造は維持されて,淵の水 深も 60cm に維持されていた. ・3 年間で巨大石を含む大小の巨礫が流下していた. ・2006 年に欠落していた一部の天端石は部分的に 補給され,石組みの礫段構造と淵は維持されて ・その間,3・4 個の天端石が流失していたが,残っ いる. た環石と力石および下部構造は維持され,上流側 には砂礫を堆積させ,下流側には水深 60cm の淵 を形成していた. ・直上流に 10t 級の巨大石が流下して,4 基目の落 ・2006 年の時点で流下していた巨大石が川の中央 部に定着して, 4 基目の下流までは淵の状態が維 差工の下流まで河床が深く洗掘されており,石組 持されている. みの天端と中段の用材が半分ほど流失している. ・巨大石と両河岸との間に転石がはまって新たな天 ・石組み構造は,2006 年時点での半壊状態がほぼ そのまま維持されている. 然の礫段構造を形成していた. ・定着した巨大石と両岸の間に,流下してきた巨 ・巨大石直下の淵は水深 80cm で他の淵より深かっ 礫が挟まって安定し,天然の礫段構造が形成さ た. れている. ・巨大石からの深掘れがこの位置まで及び,石組み ・石組み構造は 2006 年時点での半壊状態がほぼそ の天端・中段・根石の構造が半分ほど流失したが, のまま維持されている. 残存する根石と両脇の力石に,新たな転石が重な ・2006 年時点で直下流の位置に形成されていた天 然の礫段構造は,その後安定した状態を維持し って新しい落差構造が形成されつつあった. ている. ・直下流の露岩による狭窄部に,新たな天然の礫段 構造が形成された. 表-2 落差工の変化. 2004 年から 2006 年にかけて,それぞれの上部を無数 の巨礫が通過して一部が左岸側に大量に堆積した.なか でも 1・2 基目の上部を通過した巨大石が 3 基目の上流側 .その間に 1・2 基目の石組 に留まっている(写真-6~8) みは環石の天端部が部分的に脱落したが,間もなく新し い石礫で補充されて回復し,2009 年にはそのままで構造 .また,ステップ・プール が安定している(写真-6~8) の下流の淵の深さも 0.6m が維持されて,下記のような 下流側で見られた石組み上流での深掘れは起きていない. 一方,3・4 基目の石組みは,流下してきた巨大石が上 流側に留まると,そこから 4 基目の下流まで河床が深く 洗掘され(水深 80cm 程) ,2 基の石組みはともに中段と 天端の構造が半壊した.しかし,残されたほぼ全数の根 石と右岸側に残された天端までの構造は,円弧状石組み の左岸側が部分流出したにもかかわらず維持されている .またその一方で,巨大石の横断方向と 4 (写真-9~14) 基目の直下に在った巨岩の横断方向には,新たな礫段構 造が自然に発生して,2009 年の時点では,それらは共に . 安定状態を保っている(写真-10,11,13,14) (4) 工事非施工 (a)区間との比較 河床変化の観察は,かつて改修履歴のある岩屋橋上流 の a 区間(交互砂州の 1 波長区間に当る)でも行っている .観察時期は,下流側での工事前と工事 (写真-15~17) 後の観察時期とほぼ同じである.それによると,河床に. 499. 堆積する大粒径の巨礫は,天然河床の安定した石礫の堆 積形態(3.(1))とは異なる状態が多く観察されている. 例えば,とくに大粒径の巨礫がいつも河床で一定間隔 の定位置に礫列状に堆積しているが,その巨礫の多くは 河床から遊離した状態であり, それらは大流量の出水 時に時々入れ替わっていることは明らかである(写真 .その結果, 安 -15,16,17 に「礫列-イ,ロ,ハ」で示した) 定した瀬や淵も形成されていないと推測される. 試験 施工では,同じ条件の河床で礫列状の巨礫が堆積してい た位置に分散型落差工を施工して既述のような結果を 得た. また,河幅全体で a 区間と b 区間を比較すると,澪筋 と土砂堆積で明らかな違いが観察された.河床が不安定 では澪筋の幅が常に縮小傾向で, な a 区間 (写真-15~17) 両側のヨシ群落が 2005 年に一度全面流出するが,2009 年には復活し始めている. 澪筋の石礫は流動しているが, その両サイドは堆積が進んでいる.これに対し,b 区間 (写真-5,6~8)では,拡幅して分散型落差工を施した水 路幅以上にヨシ帯は復活せず,むしろ澪筋幅が拡大して かつ河床が安定している.このことで明らかになったこ とは,福岡 3) の指摘する河床材料の粒度分布の変化がも たらす河道の変化で,河床低下,澪筋化,樹木群の繁茂 によって河積が縮小化し,河道の安定性確保と維持管理 が問題となっている多くの課題に対策の糸口を与えるこ とになると考えられる..
(11) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 4基目 3基目 2基目. 1基目 写真-6 2003年,石組完成直後のb区間 (岩屋橋から下流を望む). 2基目. 3基目. 4基目. 4基目 3基目. 4基目跡 3基目跡. 2基目. 2基目. 1基目. 1基目. 写真-7 2006年,巨大石(赤丸)を含む石 礫が大量に流下し,1・2基目の落 差工は維持されているが,3・4 基目は変化している(同左). 3基目. 写真-8 2009年,3・4基目に替わって新し い礫段が形成されたほかは, 2006年当時の河床形態は維持さ れ安定している. 2基目 新しい礫段. 2基目. 新しい礫段. (1). (2) 写真-9 2003 年 4 月.工事完成直後の 3・ 写真-10 2006 年,3 基目に接近した巨大 4 基目.上流に 2 基目が見える(番 石が下流を広く深く洗掘し,落 号は特定の大岩に付す/以下同 差工石組は根石と天端石の一部 様) を残して流失している (1). (2). 4基目. (1). 新しい礫段. 写真-11 2009 年,3 基目上流で落ち着い た巨大石を支点にして,自然に 円弧状石組みが形成されてい る.2 基目の落差石組みも安定し ている 4基目. 新しい礫段 (1). (2). 3基目. 3基目. 4基目. 3基目. 新しい礫段. 写真-12 2003 年 5 月工事完成直後の 3・ 4 基目周辺.施工区間の砂州前 縁部が,大岩付近で段落ち状に 現れれていた. 写真-13 2006年の3・4基目周辺.流下し た巨大石(丸印)による深掘れで 落差工石組は共に半壊し,代わ って新たな礫段と淵ができた. 新しい礫段. 礫列イ 礫列ロ 礫列ハ 写真-15 2002 年 6 月. (岩屋橋から上流 を望む)下流の工事に着手する 前の a 区間.河床には浮石状の 巨礫が堆積していた. (2). 礫列イ 礫列ロ 礫列ハ. 写真-14 2009 年の 3・4 基目跡周辺.2006 年当時とほぼ同じ状態を保ち, 新 しくできた 3 基の礫段は安定し ている. ②. 礫列イ 礫列ロ. 礫列ハ. 写真-16 2005 年 1 月. (同左)下流の工 事完成後 2 年目の a 区間.当区 間でも大小の巨礫が下流の落 差工施工区間に流出している. 500. 写真-17 2009 年 2 月. (同左)下流の工 事完成後 6 年目の a 区間.2002 年以来,河床で浮石状の巨礫が 堆積する状態は変わらない.
(12) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. 1 普段の環石は力石の間で押し合って,大きな外力がかか っても群体として安定している.. 3 天端環石は一部が流失しても,力石や下段に埋設した環 石は群体または単体で安定し,1,2 の状態を繰り返す.. 平面イメージ. 横断イメージ. 2 洪水の多様な外力を受けて環石の一部が脱落すると,横 方向の支持を失った環石も同様に不安定になり変位する.. 4 その後,力石間に石礫が補足されて機能が回復する.. 平面イメージ. 平面イメージ 図-21 1・2 基目の分散型落差工の変形と再安定化のメカニズム. 1 施工後河床を安定させている落差工の石組み.. 3 巨大石の移動が落差工の上流で止まると,その下流側の河 床が大きく洗掘され,環石は支持地盤を失い集団で脱落し た.. 2 上流から巨大石が河床の局所洗掘を伴いながら流下して きた.. 4 巨大石が別の石とかみ合い,新たな安定状態が生まれた.. 図-22 円弧状石組みの変形と再安定化のメカニズム(縦断イメージ). 6.そのほかの分散型落差工の施工事例 著者らによる初期(1991~97 年)の分散型落差工は, 工事で平坦化された河床で小水深の流れの多様化や景観 をより自然に近くする目的で,大きめの石を組み直す作 業を行っていた.石礫河川で,淵の復元や河床の安定化 にも用いるようになったのは 1997 年以降で, これまで下 記のような実績がある.全て,用材の個々の配置と,円 弧状の組み合わせ方は, 3.で述べた基本構造と同じで ある.岩岳川のように巨大石が流下してくる河川は稀で あったが,どの現場もほぼ共通してその目的を果たして おり,また石組み構造もその形状を維持している. ・1997~2000 年,長野県鳥居川での災害復旧工事で,床 固め護床工に 3.(1) で述べた石組み構造の基本形を試 .その後何度か変化を観察しているが, 作した(写真-1). 501. 基本的に変化はなかった.2010 年 2 月末,隣接する護岸 の災害復旧工事が行われ,この上部を工事用重機が走行 して周辺が掘り起こされたが,その攪乱を免れた石組み の半分ほどはほぼ当初の構造をとどめていた(河床勾配 i=1/45,30 年確立 Q=260 m3,同流速 v=8.6 m/s) ・2000 年,北海道の上ノ国ダム建設工事で,減勢工の護 床ブロックに替えた分散型落差工を,川幅の約 5 倍間隔 で蛇行の半波長区間に設置した.その後の河床と石組み は,瀬と淵とともによく安定している. (河床勾配 i=1/80, 3 放流量 Q=210 m ,設計流速 v=8.4 m/s) ・2003 年,高知県の程野谷川砂防堰堤の直下における渓 流の災害復旧工事で,現地発生の転石を用いて元のステ ップ・プール状の河床と,転石空石積みの河岸を復元し た.完成後 7 年を経過した 2010 年 2 月現在,構造全体に も築石そのものにも大きな変位・変形はない..
(13) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. ・2004~05 年,福岡県岩岳川の本論文の現場よりも数 km 上流で,篠瀬堰堤の直下流に魚類の定住利用と河床の安 定化を目指した渓床復元型全断面魚道を設置した.完成 後 5 年を経た 2010 年 2 月現在, 一部の石組みに脱落はあ ったものの,構造全体に安定しており生態学的な効果も あげている. (河床勾配 i=1/15,長 50m,幅 19m). 的とする構造物の設計と施工に有用であると考える. しかし,この工法により普遍的に治水施設の安全度を 高め,また環境復元のために役立てるためには,問題と なっている区間での主要な河床材料集団が,大きな掃流 力に安定的に対応できる澪筋幅はどの程度であるかとい った,石礫河川の移動床水理との関係 3) を調査・研究し ていくことが今後の課題である.. 7.まとめと今後の課題. 謝辞:本研究を行うにあたっては,福岡県豊前土木事務 所のご理解とご協力をいただき,また,北海道大学名誉 教授の長谷川和義氏には貴重なご示唆をいただいた.こ こに記して謝意を表する.. 以上のように,岩岳川はじめ多くの石礫河川で,礫列・ 礫段構造をモデルとした分散型落差工を設計して施工し た.それらのことから,以下のような知見が得られた. a) 一度河床から大粒径の石礫を掘り起こし,それらを 搬出または放置した状態にすると,計画高水時の流 速で安定する大きさ以上であっても,河床に載って 浮いた状態の巨礫や巨大石は,それ以下の流速でも 移動することがある. b) 大粒径の石礫を取り出して流動化し易くなった河床 を安定させるため,自然の礫列・礫段をモデルに分 散型落差工を設計する場合,対象区間は水路の中規 模形態の砂州長を単位に,小規模形態の礫列・礫段 の波長に合わせた間隔で配置すると,河床も分散型 落差工石組みも安定する. c) 分散型落差工の石組み構造は,洪水時に単独で安定 する形状・大きさの石材を求めて,これを両支点に それより若干小振りな石材を横断方向に円弧状に連 ねて,全石材の上面を上流側に傾斜して埋設すると 河床でよく安定する. d) 分散型落差工石組みの谷積み様式は,一部が変位ま たは脱落しても直ぐに全体の崩壊につながらず,ま た上流から石礫の補給があれば,自然に元の礫列・ 礫段状態が復元する可能性をもつ.ただし,上流側 の河床が大きく掘られ,組み石の下部から上方へ大 きな動水圧を受けると転倒・流出の可能性がある. e) この分散型落差工石組みが維持されれば,河川改修 により河床の平衡が破れていた河道で,澪筋の拡大 化とともに河床の安定化を促進することに寄与でき, 河床ではより多様な流れと瀬と淵の環境を維持する ことができる. 野石石積みの技術を使うと,自然が造形する石礫の堆 積形態を比較的容易に表現できる.また自然が作り出す 力学的な構造は,その環境条件に耐えられるほど強靭で かつ美しい.本研究は,河床の安定化や自然復元等を目. 参考文献 1). 2). 3). 4). 5). 6). 7) 8) 9). 10) 11) 12) 13) 14). 長谷川和義,鈴木俊行,張祐平:渓流のステップ・プ ール構造とそのハビタット特性,(財)河川環境管理財 団,河川環境総合研究所報告,第 13 号,pp.113-127, 2007. 黒田勇一,福岡捷二,山本輝,吉田和弘,井内拓馬: 礫床河川の澪筋形成機構と河床粒度分布特性,河川技 術論文集,第 11 巻,pp.363-368,2005. 福岡捷二:石礫河川の移動床水理の諸問題と解決への 道筋,土木学会/水工学委員会・海岸工学委員会,水 工学シリーズ 08-A-1,A-1-1-A-1-25,2008. 竜澤宏昌,林日出喜,長谷川和義:渓流の小規模河床 形態に関する研究-魚類等の生息環境保全対策への 応用を目指して-,土木学会論文集,No.656/II-52, pp.83-101,2000.8. 赤司信義,石川誠,平畑信彦,小野輝義:落差工によ る礫床河川の河床安定化に関する検討,河川技術論文 集,第 8 巻,pp.267-270,2002. 福留脩文:水と緑の生態学的保全・復元について-鳥 居川を事例として-,全国治水砂防協会主催「第 4 回 緑のゼミナール」テキスト,2000. 福留脩文:河川に活かす石積み技法,FRONT,No.221, pp.14-17,2007. 長谷川和義:河川上流域の河道地形,日本流体力学会 誌「ながれ」,第 24 巻,第 1 号,pp.15-26,2005. 貝塚爽平,太田陽子,小疇尚,小池一之,野上道男, 町田洋,米倉伸之編:写真と図で見る地形学,東京大 学出版会,pp.1-23,1995. 田淵実夫:石垣(ものと人間の文化史 15),法政大学 出版局,1975. 大久保森造,大久保森一:石積みの秘法とその解説, 理工図書,1994. 土木工学ハンドブック:第 11 編石工構造,第 3 章石 造アーチ,土木学会,技報堂,pp.776-787,1964. (財)国土開発技術研究センター編:護岸の力学設計法, 山海堂,1999. 中村充:水産土木学,工業時事通信社,1991. (2009. 8. 10 受付). 502.
(14) 土木学会論文集F Vol.66 No.4,490-503,2010.10. NEAR NATURAL DESIGN FOR MASONRY DROP WORKS IN MOUNTAIN RIVERS Shubun FUKUDOME, Takashi ARIKAWA, Yasushi NISHIYAMA and Shoji FUKUOKA In many cases, the existence of consolidation dam has been obstructing the passing of fishes, and it has been losing the environment of shoals and pools. To improve this problem, the authors constructed the group of low distributed drop works to the Iwatake River, Fukuoka Prefecture, for trial purposes, which united big and small boulders as the model of natural difference steps in the mountain river. Their basic form was the masonry arch, and was applied the stability theory of body in the flow. In the execution, Japanese traditional masonry technique was used. After the completion, we investigated the situation of river channel before and after floods and observed their structural changes after the floods. As a result, even if the stones or gravels between the keystones were moved, the steps are replenished and reproduced with stones from upstream because the keystones were stabilized. From the trial construction by the design method of riverbed structure learnt from nature, it was able to be confirmed that distributed drop works maintained shoals, pools, and bed height in mountain rivers.. 503.
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第1条
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