〈論文〉ユートピア対ディストピア--ジョンの自殺の意味するもの
全文
(2) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. i 物 語 は ジ ョ ン の 自 殺 とい う 悲 劇 的 な 結 末 で 終 わ る が 、 ジ ョ ン の 自 殺 に 関 して 二 つ の 解 釈 が 存 在 す る 。 一 つ はthebnwの. 殺 到 す る 群 衆 が ジ ョ ン を 自殺 に 追 い や っ た と い う解 釈 で あ. り、 こ の 解 釈 はKeithM.May(116)やSisirkumarGhose(52)が は ジ ョ ン の く 性 の 抑 圧 〉 が 結 末 のorgyで EdgerlyFirchowが. 述 べ て い る 。 も う一 つ. 破 綻 し た 結 果 で あ る と す る 解 釈 で あ り、Peter. 何 度 も主 張 し(23,49,76)、CharlesM.Holmes(88-89)、KishorGandhi. (23)、GuineveraA.Nance(87)も. 同様 の意 見 を述 べ て い る。. ま ず 、 第 一 の 解 釈 で あ る ジ ョ ン の 自 殺 は 群 衆 の 殺 到 に よ る とす る 説 で あ る が 、 小 説 の 結 末 で 、 ジ ョ ン はthebnwの れ 、 た だ1人. 「西 欧 駐 在 総 統 」(26)のMustaphaMondに. 島流 しを拒 否 さ. 廃 嘘 の 灯 台 に 隠 れ 住 み 、 文 明 に 毒 さ れ な い 自然 の 生 活 を し よ う とす る 。 しか. し、 楽 し く生 活 し て い る 自 分 に 罰 を 与 え る た め 、 生 ま れ 故 郷 の 「野 蛮 人 保 護 地 区 」(35) の生 活 様 式 に従 い、 心 身 を清 め る た め に芥 子 を飲 み 自身 を鞭 打 つ 。 そ の 鞭 打 ち を見 物 に多 数 のthebnwの. 住 人 が 押 し寄 せ て く る 。KeithM.Mayが"Thesearebedlamscenes,for. theobtusecrueltyofthespectatorsisbroughttobearupononewhohasbecomequite lunatic,andwillshortlykillhimself`whilethebalanceofhismindisdisturbed'."(116) と述 べ て い る よ う に 、 ジ ョ ン の 自殺 は 、 そ の 群 衆 に 精 神 的 に 追 い 詰 め ら れ 、 ど こ に も逃 げ 場 が な く な っ た 結 果 で あ り、 安 住 の 地 の な い ジ ョ ン は 、 未 来 に 希 望 を 見 出 せ ず 、 孤 独 と絶 望 の 中 で 自殺 と い う 手 段 しか 残 さ れ て い な か っ た と い う解 釈 で あ る 。 ジ ョ ン の 自殺 の 引 き金 は 殺 到 した 群 衆 、 言 い 換 え れ ば ジ ョ ン はthebnwに る い は 殺 さ れ た と す る 解 釈 は 、BNWの 的 に 見 え る 。2BNWの thebnw対. 敗 北 した、 あ. 構 図 に 合 致 す る 単 純 明 快 な も の で あ り、 一 見 合 理. 物 語 の構 図 は、 結 末 の 総 統 と ジ ョ ンの 論 争 に象 徴 さ れ る よ う に、. ジ ョ ン と い う 図 式 で あ る 。 幸 福 だ と条 件 付 け られ て い る が 、 そ の 実 個 性 が 抹 殺. さ れ 、 人 間 の 尊 厳 が 剥 奪 さ れ たthebnwと. 、 不 幸 と苦 悩 を背 負 っ て い る か も しれ な い が 、. 自 由 な 精 神 を 堅 持 す る ジ ョ ン と の 対 立 の 構 図 で あ る 。 そ の ジ ョ ン がthebnwに あ る い は 殺 さ れ る こ と に よ り、 小 説 はthebnwの. 敗 北 す る、. 非 人 問 性 、 個 人 の 自 由 な 生 き方 を 阻 害. し、 人 間 性 を 収 奪 す る 社 会 体 制 、 を告 発 して い る と い う解 釈 で あ る 。 ジ ョ ン の 自 殺 はthe bnwの. デ ィス トピア性 を糾 弾 して い るの で あ る。. も う 一 つ の 可 能 性 、 〈 性 の 抑 圧 〉 の 破 綻 、 を 考 え る 場 合 に 注 目 した い の は 、 小 説 の 結 末 に お け る ジ ョ ン の 自 殺 直 前 の 文 章 で あ る 。 こ の 記 述 は 、 う っ か りす れ ば 見 逃 し て し ま い そ う な 数 行 で あ る が 、 ジ ョ ン の 自殺 直 前 の 心 理 を把 握 す る に は 唯 一 の 重 要 な 箇 所 で あ る 。. Itwasaftermidnightwhenthelastofthehelicopterstookitsflight.Stupefiedby soma,andexhaustedbyalong-drawnfrenzyofsensuality,theSavage(=John)lay. 一2一.
(3) ユ ー トピア 対 デ ィス トピ ア. sleepingintheheather.Thesunwasalreadyhighwhenheawoke.Helayfora moment,blinkinginowlishincomprehensionatthelight;thensuddenlyremembered everything. `Oh ,myGod,myGod1'Hecoveredhiseyeswithhishand.(212)O内. 筆 者. こ の 文 章 で は 、 ジ ョ ン の 心 理 は 決 して 直 接 に は 語 られ て い な い 。 語 り手 に 暗 示 さ れ て い る だ け で あ り、 ジ ョ ン の 気 持 ち の 推 測 は 読 み 手 に 委 ね ら れ て い る が 、 「「お お 、 神 様 、 神 様1」. 彼 は 手 で 眼 をお お っ た 」 とい う最 後 の 文 章 か ら は激 しい 悔 悟 と苦 悶 の 情 が うか が. え 、 こ の 錯 乱 が 自 殺 に 直 結 し た と考 え ら れ る 。 しか し、 重 要 な の は 、 そ れ に 先 立 っ て 何 を 思 い 出 し た の か で あ り、 思 い 出 し た の は 前 夜 の 出 来 事 、 「長 時 間 の 官 能 の 狂 乱 」 で あ っ た と考 え ら れ る 。 こ の 「長 時 間 の 官 能 の 狂 乱 」 に 関 し て 、PeterEdgerlyFirchowは. 次のよ. う に解 釈 し て い る 。. Intheend,however,desiretriumphsandtheSavageandLeninaconsummatetheir loveinanorgy-porgianclimax.WhentheSavageawakenstothememoryofwhathas happened,heknowshecannotlivewithsuchdefilement.(23). 更 に 、CharesM.Holmesは. 、 フ ロ イ ト(SigmundFreud)理. 論 を援 用 して 、 ジ ョンの 自. 殺 を 次 の よ う に 解 説 して い る 。. Johnhasbeencursedwithanid-and-superegosplit,awarbetweenidealsandthe sexualitythoseidealsrepress.StimulatedbyLeninatobothromanticloveand physicallust,hisresponseistopurgehisguiltingrotesquemasochisticways....When swarmsofvisitors,andLenina,arrivewherehehasbeenlivingalone,thebravenew worldhastrappedhimonceandforall.Hissuperegocollapsesinanorgy,andthe onlythingleftforhimisself-destruction.(88). 「長 時 間 の 官 能 の 狂 乱 」 の 解 釈 の 問 題 点 は 、 端 的 に 言 え ば 、 ジ ョ ン は 性 行 為 を した の か ど う か 、 と い う こ と に あ る が 、FirchowやHolmesの 結 末 のorgyで. ジ ョ ン はLeninaCrowneと. 解 釈 が 妥 当で は ない か 。 二 人 に よれ ば、. 性 行 為 を し、 そ れ を 翌 朝 目覚 め 、 前 夜 の 出 来 事. を 思 い 出 し、 自 殺 し た こ と に な る 。 敷 術 す れ ば 、 ジ ョ ン は ソ ー マ に よ っ て 精 神 も 肉 体 も緊 張 が 一 挙 に 弛 緩 し 、thebnwの. 住 人 た ち のorgy、. 乱 痴 気 騒 ぎ に不 可 抗 力 的 に 巻 き込 ま れ 、. 性 行 為 に よ る 「長 時 間 の 官 能 の 狂 乱 」 を 経 験 し、 そ の 衝 撃 で 自殺 し た 、 と い う 解 釈 で あ. 一3一.
(4) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. る。 そ れ で は 、orgyに. 巻 き 込 ま れ 性 交 を し た こ と が 、 何 故 自殺 し な け れ ば な ら な い ほ ど の 精. 神 的 な ダ メ ー ジ を ジ ョ ン に 与 え た の か と い う疑 念 が 生 じ る 。 通 常 、 性 行 為 は 人 間 の 健 全 な 営 み で あ り、 ま し てthebnwの. 住 人 に とって は 、性 行 為 は テ ニス をす るの と同様 の意 味 し. か 持 た な い 。 しか し、 ジ ョ ン に と っ て は 、 性 行 為 は 自殺 に 追 い 込 ま れ る ほ ど の 重 大 な 意 味 を持 って い た の で あ る。 ジ ョンの 性 行 為 の 忌 避 、 い わ ゆ る く性 の 抑 圧 〉 の原 因 は、 ジ ョンの 幼 少 年 時 代 の 家 庭 に 遡 る 。 ジ ョ ン は 「野 蛮 人 保 護 地 区 」 のMalpaisで. 生 ま れ 成 長 し た が 、 彼 の 母 、Lindaは. ル ペ イ ス へ 見 学 に 来 て 偶 然 置 き去 り に さ れ 、 そ こ で ジ ョ ン を 出 産 し たthebnwの thebnwの. マ. 女 性 で、. 社 会 規 範 に 従 っ て 近 隣 の 男 性 と 乱 交 を 繰 り返 す 。 母 の 乱 交 に 対 す る ジ ョ ン の 衝. 撃 、 怒 り は 、 男 の1人. 、Popeを. 時 、 手 に 入 っ たShakespeare劇. 憎 み 殺 そ う と し た 行 為 に も 表 出 して い る が 、 彼 が12歳. の. の台 詞 を使 って 表 現 され て い る。 シ ェイ ク ス ピア劇 の 台 詞. は 小 説 の 題 名 に も 使 用 さ れ て い る が 、3シ. ェ イ ク ス ピ ア 劇 は 人 間 の 感 情 の 振 幅 が 大 き く、. 人 間 の 喜 怒 哀 楽 、 愛 憎 な ど の 人 間 の 感 情 を 赤 裸 々 に 最 大 限 に 表 現 して お り、 ジ ョ ンの 激 し い 感 情 の 描 写 に 最 適 だ と 考 え ら れ た の で あ ろ う 。 次 は 、 ジ ョ ン の 怒 り、 嘆 き を 表 す Hamlet(1600頃)の. 台 詞 の一 部 で あ る。. Nay,buttolive Intheranksweatofanenseamedbed, Stew'dincorruption,honeyingandmakinglove Overthenastysty...(108). 母 の 乱 交 に 悩 み 、 怒 る ジ ョ ンの 気 持 ち が 、 夫 の 死 後 ま も な く夫 の 弟 と再 婚 し た 母 の 不 実 を 嘆 くハ ム レ ッ トの 心 境 に 託 し て 述 べ られ て お り、 ハ ム レ ッ トの 心 境 が ジ ョ ン の 気 持 ち の 鏡 像 に な っ て い る 。(Bakerll9) 母 の 乱 交 に対 す る ジ ョ ン の 気 持 ち を 的 確 に 表 現 す る も う一 つ の 言 葉 は 「恥 知 らず の 淫 売 」 (160,161)と. い う 言 葉 で あ る 。 こ れ は レ・一 ニ ナ が 裸 で 彼 に 迫 っ た 時 、 彼 が 激 怒 して 何 度 も. 浴 び せ た 罵 声 で あ る が 、thebnwの. 女 性 と して リ ン ダ と レー ニ ナ は 二 重 写 し に な っ て お り、. この 言 葉 は 母親 の行 為 に対 す る ジ ョンの強 い 嫌 悪 感 の 表 明 で あ る。 RobertS.Bakerが"Heprizeschastitybecauseofhisrevulsionforhismother's promiscuity."(139)と. 指 摘 し て い る よ う に 、4ジ ョ ン は 純 潔 を 重 視 し 、 純 潔 の 重 視 は 「野. 蛮 人 保 護 地 区 」 の 結 婚 制 度 と密 接 に 結 び 付 き 、 ジ ョ ン に と っ て 、 性 行 為 は 結 婚 と い う形 態 の 中 に の み 存 在 す る も の と な る 。 こ の よ う な 性 観 念 、 結 婚 観 を 持 つ ジ ョ ン はthebnwで. 一4一.
(5) ユ ー トピア 対 デ ィス トピ ア. レ ー ニ ナ に 出 会 い 、 好 き に な り、 結 婚 し よ う と す る 。 しか し、 結 婚 制 度 が な く、 乱 交 が 社 会 規 範 と な っ て い るthebnwで. は 、 ジ ョ ン は レ ー ニ ナ と結 婚 で きず 、 性 を厳 し く抑 圧 し な. けれ ば な らな い。 ジ ョ ンの レ ー ニ ナ に 対 す る 愛 を 検 証 す る と、 ジ ョ ン が レ ー ニ ナ に 対 す る 愛 と 性 の 問 で 苦 悩 し葛 藤 し て い る こ とが よ く わ か る 。 ジ ョ ン は 最 初 マ ル ペ イ ス で レ ー ニ ナ に 出 会 っ た 時 か ら、 灯 台 で の 最 後 の 出 会 い ま で 、 彼 女 に 対 す る 性 的 欲 望 と そ の 抑 圧 の 連 続 で あ り、 ジ ョ ン の 心 の 葛 藤 を 表 出 す る 出 来 事 が 段 階 的 に 繰 り返 し発 生 す る 。 まず 、 ジ ョ ン は マ ル ペ イ ス の 宿 泊 所 で レー ニ ナ の寝 姿 に見 惚 れ て 以 来 、彼 女 を恋 す る よ うに な る。 が 、 そ の 時 す で に彼 女 の ジ ッパ ー を 引 きお ろ した い 誘 惑 に か ら れ る が 自 制 す る 。 ま た 、thebnwで. は ジ ョ ンは. レ ー ニ ナ を 避 け よ そ よ そ しい 態 度 を と る 。 ジ ョ ン は 自 身 の 性 衝動 を 強 く 自 覚 し て お り、 性 の 対 象 か ら遠 ざ か ろ う とす る の で あ る 。 ジ ョ ン の 拒 絶 反 応 が 最 高 潮 に 達 す る の は 、 レ ー ニ ナが 裸 で ジ ョン に迫 る 時 で あ る。 レ ー ニ ナ の 魅 力 を帯 び た 挑 発 行 為 に、 ジ ョン は彼 女 を 「世 界 の 何 よ り も愛 し て い る 」(157)が. 、 結 婚 す る ま で は と 自 制 し、 彼 女 を 乱 暴 に 追 い 払. う 。 最 後 に 廃 塘 の 灯 台 で の ジ ョ ン の 新 生 活 で 思 い 出 さ れ る の は 、 亡 くな っ た リ ン ダ で は な く レ ー ニ ナ で あ り、 追 い 払 っ て も 追 い 払 っ て も 、 抑 圧 さ れ て い た 願 望 が 再 び 意 識 の 表 面 に 現 れ る 。 ジ ョ ン は 自 身 の 性 欲 を 抑 え る の に 必 死 で あ り 、 彼 の 精 神 だ け で な く、 「彼 の た じ ろ ぐ 肉 体 は 逃 れ よ う も な く真 に 彼 女 を 意 識 し て お り」(207)、 (212)の. レ ー ニ ナ と 「反 逆 す る 肉 体 」(212)で. ジ ョ ン は 「堕 落 の 化 身 」. あ る我 が 身 を狂 っ た よ う に鞭 打 つ 。 そ の 夜. ジ ョ ン は ソ ー マ に よ っ て 緊 張 の 糸 が きれ た か の よ う に 「長 時 間 の 官 能 の 狂 乱 」(212)を 験 し、Holmesが. 指 摘 す る よ う に 、 ジ ョ ン の 超 自 我 はorgyで. 崩 壊 し(88)、. 体. ジ ョンは 自 身. に 対 す る 絶 望 と恥 辱 の 中 で 自 ら死 を 選 ん だ の で あ る 。 ジ ョ ン の 自殺 は ジ ョ ン の 生 き方 、 信 条 、 存 在 そ の も の に 関 わ る も の で あ り、 ジ ョ ン の 性 行 為 は 、 彼 の 一 番 大 事 な もの 、 最 も大 切 に 守 っ て き た もの を 自 ら 破 っ た の で あ り、 ジ ョ ン の 存 在 意 義 を根 底 か ら揺 さ ぶ る 行 為 と な っ た の で あ る 。5 ジ ョ ンの 自 殺 の 引 き 金 は 〈 群 衆 の 殺 到 〉 で あ る の か く 官 能 の 狂 乱 〉 で あ る の か 、 言 い 換 え れ ば ジ ョ ン はthebnwに. 敗 北 し た の か 、 あ る い は ジ ョ ンの 自殺 は 〈 性 の 抑 圧 〉 の 破 綻 の. 結 果 で あ る の か 、 二 者 択 一 を 特 定 す る の は 難 しい 問 題 で あ る 。 前 者 で あ れ ば 、 他 者 か らの 圧 力 とい う 意 味 で 外 的 要 因 、 後 者 だ とす れ ば 、 自殺 は ジ ョ ン の 性 格 、 生 き方 に 起 因 す る と い う意 味 で 内 的 要 因 と な る 。 ど ち ら も ジ ョ ン の 生 存 を 強 く脅 か す も の で あ り、 ジ ョ ン は い わ ば 内 憂 外 患 の 状 態 に 陥 っ て い た と言 う こ とが で き る 。 二 者 択 一 は 興 味 あ る 選 択 で あ る が 、 こ こ で は 見 方 を 変 え て 、 ど ち らか を 選 択 す る の で は な く、 二 つ の 要 因 と小 説 と の 関 係 を 考 え て み た い 。 外 的 要 因 は す で に 検 討 し た よ う に 、 小 説 の 構 図 は ジ ョ ン対thebnwで. あ り、 ジ ョ ン の 自殺 はthebnwの. 一5一. デ ィ ス トピア性 を告 発.
(6) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. して い た。 そ れ で は、 内 的 要 因 を採 用 す れ ば、 小 説 との 関係 は ど うな る のか 。 内 的 要 因 と 小 説 との 関係 を検 討 した もの は皆 無 なの で、 内 的 要 因が 小 説 の意 味 を どの よ うに生 成 す る か を以 下 に考 察 してみ たい 。. ii thebnwは. 、HenryFordとSigmundFreudの. 思 想 を 土 台 に 、 フ ォー ドが 安 価 な 自動 車. の 大 量 生 産 に 成 功 し た1908年. を 紀 元 元 年 に 建 国 さ れ た 国 家 で あ り 、 現 在 フ ォ ー ド紀 元632. 年(西. あ る 。 小 説 中3章. 暦 に 直 せ ば2540年)で. で 総 統 はthebnwに. つ い て 言 及 し 、9年. 戦 争 、 経 済 大 崩 壊 、 世 界 統 制 、 暴 力 に よ る 弾 圧 な ど の 歴 史 を 語 り な が ら 、"Nowonder thosepoorpre-modernsweremadandwickedandmiserable.Theirworlddidn'tallow themtotakethingseasily,didn'tallowthemtobesane,virtuous,happy."(33)と. 、 それ. 以 前 、 い わ ゆ る 旧世 界 、 の 人 間 は不 幸 で あ っ た と断言 してい る。 これ は、 勿 論 自己 弁 護 で あ り、 旧 世 界 と対 比 し な が ら、 自 己 の 優 越 性 を 主 張 し て い る わ け で あ る が 、 基 本 的 に は thebnwの. 存 在 理 由 、 な ぜthebnwが. 建 国 さ れ た の か を 説 明 して い る と考 え る こ とが で き. る 。 こ こ で 重 要 な 点 は 、 旧 世 界 はthebnwと. 対 比 して 〈 不 幸 な 世 界 〉 、 〈 よ くな か っ た 旧. 世 界 〉 と 主 張 さ れ て い る こ と で あ る 。thebnwの. 前 提 と し て く よ くな か っ た 旧 世 界 〉 の 存. 在 が 想 定 され る 。 総 統 は く よ く な か っ た 旧 世 界 〉 の 不 幸 の 要 因 と し て"family,monogamy,romance"(31)、 あ る い は"mother,monogamy,romance"(32)を. 挙 げ 、 そ の 理 由 と して 、 愛 情 、 衝 動 、 精. 力 な どが 家 族 、 夫 婦 、 恋 人 に 排 他 的 に 集 中 し 、 激 し い 感 情 が 生 じ る か ら で あ る 、 と解 説 を 加 え て い る が 、 最 も攻 撃 して い る の は 家 族 の 弊 害 で あ る 。. OurFreudhadbeenthefirsttorevealtheappallingdangersoffamilylife.Theworld wasfulloffathers‐wasthereforefullofmisery;fullofmothers‐thereforeofevery kindofperversionfromsadismtochastity;fullofbrothers,sisters,uncles,aunts‐full ofmadnessandsuicide.(30). 旧 世 界 で は 、 家 族 生 活 の た め 、 悲 惨 、 サ デ ィズ ム 、 純 潔 、 狂 気 、 自 殺 が 充 満 して い た の で あ る 。 も う 一 つ 総 統 が 力 説 し て い る の は 、 人 間 が 抱 く欲 望 と 充 足 と の 関 係 に つ い て で あ り、 次 の よ う に 述 べ て い る 。. Impulsearrestedspillsover,andthefloodisfeeling,thefloodispassion,thefloodis evenmadness....Feelinglurksinthatintervaloftimebetweendesireandits. 一6一.
(7) ユ ー トピア 対 デ ィス トピ ア. consummation.Shortenthatinterval,breakdownallthoseoldunnecessarybarriers. (34-35). 人 間 は 欲 望 が 充 足 され な い と、 激 しい 感 情 とな って 現 れ 、 時 に は狂 気 に さ え な る の で あ る。 C.S.Fernsは"tirade"で. あ り、 小 説 の 弱 点 で あ る と批 判 し て い る が(144)、. 総統 のく よ. くなか った 旧 世 界 〉の 不 幸 に 関す る言 説 は、 誰 もそ の相 関 関係 に注 目 して い な いが 、 ジ ョ ン の 自 殺 に 結 び 付 く小 説 の 中 心 的 な 箇 所 で あ る 。 総 統 は く よ く な か っ た 旧 世 界 〉 の 不 幸 の 要 因 と し て"family,monogamy,romance"を. 指 摘 し て い る が 、 こ の 三 つ の 要 因 が ジ ョ ンの. 自 殺 の 内 的 要 因 と密 接 に 関 係 し て い る 。 ジ ョ ン の 自 殺 の 内 的 要 因 は す で に 考 察 し た が 、 そ の 内 的 要 因 に 総 統 の 言 説 を 適 用 す れ ば 、 まず 思 い 浮 か ぶ の は ジ ョ ン の 家 族 で あ る 。 ジ ョ ン は リ ン ダ が 「野 蛮 人 保 護 地 区 」 にTomakinと. 観 光 に 来 て 、 偶 然 置 き去 り に さ れ 、 そ こ で. ジ ョ ン を 出 産 した の で あ り、 本 来 生 ま れ る は ず が な か っ た 白 人 青 年 で あ る 。 リ ン ダ が 母 親 で 、 「中 央 ロ ン ド ン 人 工 艀 化 ・条 件 反 射 教 育 セ ン タ ー 」(1)の. 所 長 の トマ キ ンが 父 親 で あ. る 。 つ ま り、 ジ ョ ン は 登 場 人 物 中 唯 一 家 族 が 存 在 す る 。 家 族 の 悪 影 響 を 示 す の は リ ン ダ で あ る 。 リ ン ダ がthebnwの. 生 活 規 範 に 従 っ て 「野 蛮 人 保 護 地 区 」 で 近 隣 の 男 性 と乱 交 を し. た の で 、 ジ ョ ン は そ の 影 響 で 結 婚 ま で は と性 を 抑 圧 し、 レ ー ニ ナ と の 愛 と性 の 葛 藤 に 疲 れ 果 て 、 最 後 に は 性 の 抑 圧 が 破 綻 し て 自殺 し た の で あ る 。 母 、 リ ン ダ が 「家 族 生 活 の 恐 ろ し い 危 険 性 」 を 表 象 し て い る と 考 え る こ とが で き る 。 第 二 の 要 因 で あ るmonogamyも. ジ ョ ン の 自殺 で は 重 要 な役 割 を 演 じて い る 。 「野 蛮 人 保. 護 地 区 」 で 生 育 し た ジ ョ ン は 、 奇 径 な 迷 信 … キ リ ス ト教 、 トー テ ム 信 仰 、 祖 先 崇 拝 な ど と 共 に 「結 婚 ・家 族 」 と い う 生 活 規 範 を 継 承 し(84-85)"nobody'ssupposedtobelongto morethanoneperson"(100)と. い う厳 格 な 「一 夫 一 妻 制 」 を 堅 持 し て い る 。 ジ ョ ン は 「野. 蛮 人 保 護 地 区 」 で は 好 き に な っ た 原 住 民 の 娘 と 結 婚 で き な か っ た が 、thebnwに. 来 て、. レ ー ニ ナ を 好 き に な り、 結 婚 し よ う と す る 。 彼 は 、 レ ー ニ ナ と初 対 面 の 時 、 レ ー ニ ナ に つ い て 、BernardMarxに. 「あ な た は 彼 女 と結 婚 し て い ま す か 」(115)と. と 聞 い て 安 堵 し た り、 マ ル ペ イ ス で は 「人 は 結 婚 」(157)し の 所 に 持 っ て ゆ く」(156)と. 尋 ね 、 そ うで ない. 、 「山 の ラ イ オ ン の 皮 を 女 性. い う結 婚 の 習 慣 を 語 っ て い る 。 しか し な が ら 、 結 婚 制 度 が な. く、"everyonebelongstoeveryoneelse"(31)と. 乱 交 が 生 活 規 範 と な っ て い るthebnw. で は 、 ジ ョ ン は レ ー ニ ナ を 好 い て も結 婚 で きず 、 か とい っ て 乱 交 に も参 加 で きず 、 ジ ョ ン が 希 求 し て い る 結 婚 に よ る 愛 と性 の 統 合 は で き な い 。 こ こ で ジ ョ ン は 愛 と性 の 内 的 葛 藤 状 態 、 自縄 自 縛 に 陥 り、 出 口 を 見 出 せ な い で い る 。 ジ ョ ン の 願 望 は 実 現 さ れ な い ま ま で あ り、 欲 求 不 満 だ け が 蓄 積 さ れ て い く。 こ の 欲 求 不 満 は 総 統 の 欲 望 充 足 論 の 正 し さ を 証 明 し. 一7一.
(8) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. て い る 。 こ の 性 の 抑 圧 は 、 レ ー ニ ナ が 裸 で ジ ョ ン に 迫 っ た 時 の よ う に 、 激 しい 感 情 と な っ て 表 出 し、 充 足 さ れ な い 性 欲 は 増 殖 を 繰 り返 し肥 大 化 し て い き、 最 後 に は 制 御 で き な く な り、 ジ ョ ン は 自滅 し た の で あ る 。 自滅 し た ジ ョ ン と は 対 照 的 に 、thebnwは. 人間の欲望 を. 解 放 し、 欲 求 即 充 足 の 社 会 で あ り、 充 足 で き な い 欲 望 は 抱 か な い よ う に 条 件 付 け られ た 社 会 で あ る。 romanceもfamily、monogamyと. 同 様 ジ ョ ン の 自殺 の 要 因 と な っ て い る 。romanceは. 意 味 が 分 か りに く い 面 が あ る が 、 こ の 場 合 は"romanticlove"(Baker93,Holmes88)か. ら. 推 測 で き る よ う に 、 好 き ・恋 し て い る と い う意 味 で あ り、 性 が 介 在 し な い と 考 え ら れ る 。 従 っ て 、 性 的 欲 望 を 意 識 して も抑 圧 し、 結 婚 しな け れ ば 性 欲 は 解 消 され な い。 ジ ョン と レ ー ニ ナ の 愛 と性 に 対 す る 差 異 か ら判 断 す る と、 ロ マ ンス を 代 表 す る ジ ョ ン は く 性 の な い 愛 〉 、 レ ー ニ ナ は く 愛 の な い 性 〉 と言 う こ と が で き る 。 family、monogamy、romanceは. 個 々 に論 じた が 、 そ れ ぞ れ の 要 因 は個 々 に独 立 してい. る の で は な く、 こ の 三 つ は 一 つ の 連 続 す る 過 程 で あ り、 人 を 好 き に な り、 結 婚 し、 子 を な し、 家 族 を 作 る の は く よ く な か っ た 旧 世 界 〉 で は 、 人 生 の 自 然 な 流 れ で あ り、 人 生 の 根 幹 を 成 す 営 み で あ る 。 し か し 、 こ れ ら は 人 間 関 係 を創 造 す る と 同 時 に 破 壊 も す る の で あ り、 一 歩 間 違 え ば 、 ジ ョ ン の 場 合 の よ う に 、 不 幸 の 源 に な る 。 そ れ 故 、thebnwで. は、 愛 、 結. 婚 、 家 族 は解体 され 、性 の充 足 のみ が 奨励 され て い る。 〈 よ く な か っ た 旧 世 界 〉 の 不 幸 の 元 凶 と な っ たfamily、monogamy、romanceを. 再現す. るの は ジ ョンで あ るが 、 旧 世 界 の 老 病 死 を具 現 す る の は ジ ョ ンの母 の リ ンダ で あ る。 リ ン ダ は 、 ジ ョ ン と共 に 「野 蛮 人 保 護 地 区 」 か らthebnwに で 過 ご し 「急 性 老 衰 」(163)に. よ り44歳. 「死 に 対 す る 条 件 反 射 教 育 」(166)と. 戻 っ て か らは、 一 日中 ソーマ 漬 け. で 死 亡 す る 。 リ ン ダ の 死 の 場 面 はthebnwの. 平 行 して叙 述 され 、 死 に対 す る二 つ の 対 照 的 な 態 度. が 語 ら れ て い る 。 ジ ョ ン は 、 母 と の 楽 しい 思 い 出 や 忌 ま わ しい 思 い 出 を 回 想 し な が ら、 死 の 恐 怖 、 死 の 悲 しみ 、 母 との 永 遠 の 悲 しみ に くれ る が 、 一 方 そ の 横 で 死 が 「最 も悲 惨 な 事 柄 」(170)で. あ る と 考 え な い よ う に 、 子 供 た ち に チ ョ コ レ ー トや 飲 み 物 を 与 え て 「死 に 対. す る 条 件 反 射 教 育 」 が 行 わ れ る 。thebnwは. 老 病 死 さ え 克 服 し、60歳. ま で 快 適 に 生 活 し、. 人 工 的 に 生 を終 え る の で あ る 。 現 在 フ ォ ー ド紀 元632年 形 も な い が 、thebnwで. で く よ く な か っ た 旧 世 界 〉 は 消 失 し て 久 し く、 そ の 痕 跡 は 影 も ジ ョ ン と リ ン ダ は 唯 一 人 為 的 に 時 空 を超 え て 、 〈 よ く な か っ た 旧. 世 界 〉 を 再 現 し て い る と言 う こ とが で き る 。 言 い 換 え れ ば 、 ジ ョ ン の 自 殺 は 、 総 統 の 言 説 の ド ラ マ 化 で あ り、 〈 よ く な か っ た 旧 世 界 〉 の 不 幸 の 要 因 で あ るfamily、monogamy、 romanceを. 材 料 に 不 幸 を 最 悪 の 形 で ドラ マ 化 した も の で あ る 。. PeterEdgerlyFirchowは. ジ ョ ン を"puzzling"(26)と. 一g一. 形 容 して い る が 、thebnwと. ジョ.
(9) ユ ー トピア 対 デ ィス トピ ア. ン と は 奇 妙 な 関 係 に あ る 。 ジ ョ ン はthebnwに (Baker136),"warrior"(Mayl11)な. 対 す る"critic"(Nance76),``antagonist". ど と 評 さ れ る が 、 こ の 見 解 は 、 ジ ョ ン をthebnwの. 是 非 、 つ ま り真 に く す ば ら しい 〉 の か ど うか を 検 証 す る 人 物 、 更 に はthebnwの. デ ィス ト. ピ ア 性 を 告 発 し、 そ の 不 当 性 を 立 証 す る 人 物 で あ る と の 解 釈 で あ る 。 し か し な が ら、 ジ ョ ンの 解 釈 は も う 一 つ 考 え ら れ る 。 ジ ョ ン のcriticな. ど と して の 解 釈 は 、thebnwを. る 立 場 か ら の 見 解 で あ る が 、 見 方 を 変 え 、 逆 の 立 場 か ら、 つ ま りthebnwの ば 、 ジ ョ ン の 解 釈 は 変 わ っ て くる 。thebnwの. 批判す. 立 場 か ら見 れ. 視 点 か ら見 れ ば 、 ジ ョ ンの 生 き 方 は 愚 か な 、. 不 幸 の 見 本 で あ り、 自 殺 は 自 ら招 い た 最 悪 の 結 果 で あ る 。 こ の 観 点 に 立 つ と 、thebnwは ジ ョ ン の よ う な 不 幸 な 人 生 を 過 ご さ な い よ う に 、 ジ ョ ン の 欠 陥 を根 本 的 に 是 正 した 社 会 で あ り、 ジ ョ ン はthebnwを. 正 当 化 す る 装 置 で あ る 。BNWは. 、 一 方 で は ユ ー トピ ア を構1築. し な が ら、 他 方 で は ユ ー トピ ア構 築 の 原 因 と な っ た 不 幸 な 世 界 を ジ ョ ン に 具 現 さ せ 、 小 説 に 説 得 性 を 持 た せ て い る と言 え る 。 ジ ョ ン はthebnwの 題 を 証 明 す る 人 物 で あ り、 ジ ョ ン はthebnwの してthebnwの. 不 当 性 と正 当 性 と い う相 反 す る 命. 不 当性 の立 証 を表 の 顔 とす れ ば 、裏 の顔 と. 正 当 性 を 実 証 す る とい う 二 面 性 を持 っ て い る 。. iii thebnwは. 、 ジ ョ ン の 不 幸 を な くす た め 、 人 間 が 生 殖 の 段 階 か ら壕 で 管 理 さ れ 、 揺 り籠. か ら墓 場 ま で 快 適 な 一 生 を 計 画 ・管 理 さ れ た 社 会 で あ り、HenryFosterやFannyCrowne は 何 も考 え ず に 生 活 を 享 受 して い る 。. Theworld'sstablenow.Peoplearehappy;theygetwhattheywant,andtheynever wantwhattheycan'tget.They'rewelloff;they'resafe;they'reneverill;they'renot afraidofdeath;they'reblissfullyignorantofpassionandoldage;they'replaguedwith nomothersorfathers;they'vegotnowives,orchildren,orloverstofeelstrongly about;they'resoconditionedthattheypracticallycan'thelpbehavingastheyought tobehave.(180). しか し な が ら 、 こ の ユ ー ト ピ ア を構 成 す る 前 景 化 さ れ た 道 具 立 て は 、 一 卵 か ら8∼96人 もの 同 一 の 人 間 を製 造 で き るBokanovsky'sProcess、 や 花 に 対 す る 「本 能 的 」 憎 悪 を 植 え つ け る(16)条 す 」 を12年. 間 、 毎 夜150回. 聞 く(62)よ. 一 例 を挙 げれ ば電気 シ ョックで 書 物 件 反 射 教 育 、 「い ま で は 全 員 が 幸 福 で. う な 睡 眠 学 習 、 性 的 に は 乱 交 、 キ リ ス ト教 と ア. ル コ ー ル の す べ て の 長 所 を 含 ん で い る ソ ー マ(45)、Alpha、Beta、Gamma、Delta、 Epsilonと. い う カ ー ス ト制 の 身 分 制 度 、 団 体 礼 拝 な ど で あ る が 、 そ の ま ま デ ィ ス トピ ア を. 一g一.
(10) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 形 作 る こ とに な る。 こ の よ う な 道 具 立 て の 目 指 す と こ ろ は"thatisthesecretofhappinessandvirtuelikingwhatyou'vegottodo.Allconditioningaimsatthat:makingpeopleliketheir unescapablesocialdestiny."(12)で. あ る 。thebnwで. は、 幸 福 と は、 人 々 に 隷 属 を愛 す. る よ う に させ る こ と を 意 味 す る の で あ る 。(xiv) thebnwの. 人 々 は 幸 福 に 暮 ら して い る が 、 そ の 実 態 は テ ク ノ ロ ジ ー を 利 用 して 組 織 的 に. 計 画 ・管 理 さ れ た 全 体 主 義 的 ユ ー ト ピ ア 社 会 で あ り、 人 々 は 、 徹 底 的 な 管 理 ・統 制 に よ り 自 由 が 奪 わ れ 、 「逃 れ ら れ な い 運 命 」、 言 い 換 え れ ば 「隷 属 」 を 無 自覚 に 甘 受 す る よ う に 条 件 付 け ら れ た 社 会 で あ る 。 こ の 目 的 を 達 成 す る た め に 、StephenJayGreenblattが"Man, inusinghisreasontocreatetheultimatelifeofpleasure,hasceasedtobeman."(97) と指 摘 し て い る よ う に 人 間 を 改 造 し、 人 間 自体 を 変 え た の で あ る 。 以 前 は 神 の 領 域 と考 え られ て い た 人 間 そ の もの に 、 高 度 に 発 達 した テ ク ノ ロ ジ ー の メ ス が 入 っ た の で あ る 。 thebnwの. デ ィス トピ ア 的 側 面 を 実 証 す る の が バ ー ナ ー ド、HelmholtsWatson、. レー ニ. ナ の 三 人 の 登 場 人 物 で あ る 。 バ ー ナ ー ドは 心 理 学 者 で 睡 眠 教 育 の 専 門 家 で あ り、thebnw の 中 で 唯 一 内 部 か ら体 制 に 疑 問 を 呈 し、 反 対 の 声 を 上 げ る 人 物 で あ る 。 彼 は 「血 液 代 用 液 中 に ア ル コ ー ル が 混 入 」(72)し. た 結 果 、 ア ル フ ァの 標 準 身 長 よ り7セ. 欠 陥 は 一 種 の 意 識 過 剰 を 生 み 」(57)、 分 自 身 の 独 立 し た 思 考 」(186)を. ン チ 低 い 。 「肉 体 的. 彼 は 劣 等 感 と孤 独 に 苛 ま れ 、 自意 識 に 目覚 め 、 「自. 持 つ よ う に な り、"whatwoulditbelikeifIcould,ifI. werefree-notenslavedbymyconditioning"(75)と. 考 え る。 しか しなが ら、バ ー ナ ー. ドの 個 人 と し て の 自 意 識 の テ ー マ は 、BNWで. は ほ とん ど深 ま らな い。. ヘ ル ム ホ ル ッ と レ ー ニ ナ は バ ー ナ ー ドと は 異 な る 問 題 を 抱 え て い る 。 二 人 は 精 神 が 囚 わ れ 、 自 由 な 思 考 が で き な い 人 間 で あ る 。 情 緒 工 学 大 学 、 創 作 学 部 の 講 師 で ス ロ ー ガ ンや 睡 眠 教 育 用 詩 句 を創 作 し て い る 天 才 の ヘ ル ム ホ ル ッ は 、 詩 作 に 目覚 め る が 、 ど の よ う に 自 分 の考 え を表 現 して よいか わか らない 。 最 後 は、 詩 作 に適 した風 や 嵐 が 多 い フ ォー ク ラ ン ド 諸 島 に 島 流 し を 宣 告 さ れ 、 喜 ん で 従 う。 ま た 、 レ ー ニ ナ は1人 は い け な い とい う 規 則 を 破 り、 フ ォス タ ー と4ヶ. の 男 性 と 長 期 間 付 き合 っ て. 月 間付 き合 って い る、 変 人 と評 判 の バ ー. ナ ー ド と付 き合 い 、 「野 蛮 人 保 護 地 区 」 に 行 く、 あ る い は ジ ョ ン を 好 き に な り裸 で 誘 惑 し 手 酷 く拒 否 さ れ る が 、 何 故 拒 否 さ れ た の か 理 解 で き な い な ど 、thebnwの. 社 会 か ら食 み 出. し、 人 間 と して の 覚 醒 の 可 能 性 が 感 じ ら れ る が 、 条 件 付 け が 障 害 と な り、 自 由 な 人 間 と し て 目覚 め な い 。 二 人 は 、 「精 神 操 作 の 犠 牲 者 は 、 自 分 が 犠 牲 者 で あ る こ と が わ か ら な い 」 (BraveNewWorldRevisited154)実. 例 で あ り、 特 に レ・一 ニ ナ は 、 「私 は 自 由 よ 。 と て もす. ば ら し い 時 を 過 ご す 自 由 が あ る わ 。 今 で は 全 員 が 幸 せ よ 」(75)と 断 で き る よ うに、 条 件付 け の犠 牲 者 で あ る。. 一10一. 述 べ て い る こ とか ら判.
(11) ユ ー トピア 対 デ ィス トピ ア. な ぜBNWは. ユ ー ト ピ ア と デ ィ ス トピ ア と い う相 反 す る 評 価 を 得 る の だ ろ うか 。 こ の 疑. 問 に 関 係 す る の は 、HuxleyのBNW執 Huxleyで. 筆 時 の 意 図 で あ る 。Huxleyは. 、LetteYsof、gldous. 、執 筆 の動 機 を次 の よ うに述 べ てい る。. Iamwritinganovelaboutthefuture[.BN瑚. 一. 〇nthehorroroftheWellsianUtopia. andarevoltagainstit.Verydifficult.Ihavehardlyenoughimaginationtodealwith suchasubject.Butitisnonethelessinterestingwork.(348). Huxleyの. 意 図 は 、H.G.WellsのMenLikeGods(1923)(Firchow58)な. どに お け る科 学. の 進 歩 に 対 す る 楽 観 的 な 考 え に 反 発 し、 人 間 生 活 に お け る 科 学 技 術 の 応 用 の 恐 ろ しい 結 果 を 示 す こ と で あ っ た 。 言 い 換 え れ ば 、Huxleyが. 描 こ う と した の は 、 ユ ー トピ ア の 夢 で は な. く、 テ ク ノ ロ ジ ー を 応 用 した ユ ー ト ピ ア の 悪 夢 と も 言 う べ き も の で あ り、BNWは. この 難. 解 な構 想 が 見 事 に結 実 し た 小 説 で あ る 。 HuxleyはBNWを. どの よ うに評 価 した の だ ろ うか 。 小 説 内 で は結 末 の 総 統 と ジ ョンの. 論 争 が 示 す よ う に 、 明 確 な 判 断 を 控 え て い る が 、Huxleyは (1874-1948)の. 、 巻 頭 言 でNicolasBerdiaeff. 言 葉 を 引 用 して 、 彼 自 身 の 考 え を 表 明 し て い る 。Huxleyは. 、 ユ ー トピア は. 実 現 可 能 で あ る が 、 「ユ ー ト ピ ア の 決 定 的 な 実 現 を い か に し て 避 け る べ き か 」(v)と 問 題 を 提 起 して い る よ う に 、BNWは. いう. ユ ー ト ピ ア 実 現 に よ り発 生 す る 悪 夢 を 描 い た 小 説 で. あ る。 BNWの. 中 に ユ ー トピ ア と デ ィ ス ト ピ ア と い う相 反 す る もの が 並 存 して い る 。 ユ ー ト ピ. ァ と デ ィス トピ ァ は 光 と陰 、 表 と 裏 の よ う に 共 存 し て い る の で あ り、 こ の 二 つ は メ ビ ウ ス の 帯(M6biusstrip)の. よ う に つ な が っ て い る 。 つ ま り、 ユ ー ト ピ ア を辿 っ て い る と、 い. つ の ま に か デ ィ ス トピ ア に な り、 ま た 不 思 議 な こ と に ユ ー トピ ア に 戻 る の で あ り、 あ る 断 面 を 切 れ ば ユ ー トピ ア の 夢 が 語 られ 、 別 の 断 面 を 切 れ ば デ ィ ス トピ ア の 悪 夢 が 展 開 す る の で あ る 。 こ の よ う にBNWは. 二 極 の 相 容 れ な い 二 つ の 意 味 を 内 包 し て お り、 ど ち らか の 意. 味 に帰 着 で きな い ので あ る。. 注 1. 印 刷 間 違 い か 、 原 文 で はdistopiaと 9々. デ ィ ス. ト ピ ア 小 説 を 考 察. himself"(96)と. 3. な って い る。. し て い るChadWalshは"BNWconquers.Hehangs. 述 べ て い る。. 題 名 はTheTempest(1611)のMirandaの. 台 詞 か ら とっ て い る。 ま た、 ジ ョンの 気. 一11一.
(12) 教 養 ・外 国 語 教 育 セ ン ター 紀 要. 持 ち の表 現 に しば しば シ ェ イ ク ス ピア劇 の台 詞 が 使 用 され てい る。. 4. RobertS.Bakerは. リン ダ の乱 交 とジ ョンの 純 潔 の重 視 との 因果 関係 に つ い て 詳 し く. 検 討 し て い る(116-141)。. 5. 20世. 紀 前 半 く 性 の 抑 圧 〉 と 言 え ばSigmundFreudで. あ り 、RobertS.Bakerが"the. Savage'sautobiographyisaFreudiancasestudyofchildhoodneurosis"(108)と べ て い る よ う に 、 ジ ョ ン の 人 物 創 造 は フ ロ イ トの 影 響 が 大 き い 。. 主要参考文献. Baker,RobertS.BraveNewWorld:History,Science,andDystopia.Boston:Twayne Publishers,1990. Bowering,Peter.AldousHuxley:aStudyoftheMajorNovels.London:TheAthlone Press,1968. Ferns,ChristopherS.AldousHuxley:Novelist.London:TheAthlonePress,1980. Firchow,PeterEdgerly.TheEndofUtopia:AStudyofAldousHuxley'sBraveNew World.Lewisburge:BucknellUniversityPress,1984. Gandhi,Kishor.AldousHuxley:TheSearch/or∫)erennialReligion.NewDelhi:ArnoldHeinemann,1980. Ghose,Sisirkumar.AldousHuxley:ACynicalSalvationist.Bombay:AsiaPublishing House,1962. Greenblatt,StephenJay.ThreeModernSatirists:Waugh,Orwell,andHuxley.New Haven:YaleUniversityPress,1965. Holmes,CharlesM.AldousHuxleyandtheWのitoReality.Bloomington:Indiana UniversityPress,1970. Huxley,Aldous.BraveNewWorld.London:Chatto&Windus,1967. BraveNewWorldRevisited.London:Chatto&Windus,1974. May,KeithM.AldousHuxley.London:Elek,1972. Meckier,Jerome.AldousHuxley:SatireandStructure.London:Chatto&Windus,1969. Nance,GuineveraA.AldousHuxley.NewYork:Continuum,1988. Smith,Grover.LettersofAldousHuxley.London:Chatto&Windus,1969. Walsh,Chad.FrornUtopiatoNightmare.London:GeoffreyBles,1962. Watts,HaroldH.AldousHuxley.NewYork:TwaynePublishers,1969. 川 端 香 男 里. 「ユ ー. ト ピ ア の 幻 想 』(講. 談 社 学 術 文 庫)講. 一12一. 談 社 、1993年. 述.
(13)
関連したドキュメント
[11] Karsai J., On the asymptotic behaviour of solution of second order linear differential equations with small damping, Acta Math. 61
In [11], they even discussed the interior gradient estimates of solutions of a second order parabolic system of divergence form with inclusions which can touch another inclusions..
The idea of applying (implicit) Runge-Kutta methods to a reformulated form instead of DAEs of standard form was first proposed in [11, 12], and it is shown that the
The response of bodies to external stimuli is characterized by the many ways in which bodies store energy, how they release this energy that is stored, the various ways in which
Abstract. The backward heat problem is known to be ill possed, which has lead to the design of several regularization methods. In this article we apply the method of filtering out
L. It is shown that the right-sided, left-sided, and symmetric maximal functions of any measurable function can be integrable only simultaneously. The analogous statement is proved