ディジタルファブリケーション:5. ディジタルデザイン技術を活用した工作と手芸
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(2) ❖ 特集 ❖ ディジタルファブリケーション. 2). 図 -2 Li らのシステム を用いて既存 3 次元モデルからポップア ップカードを自動生成する様子.黒い線が切断,赤い線は山折り, 青い線は谷折り ©Xian-Ying Li, Included here by permission. 1). 図 -1 三谷らのシステム を用いて既存 3 次元モデルからペー パークラフトを自動生成する様子 © Jun Mitani, Included here by permission.. となる研究であり,この研究以降,ペーパークラフ トはもちろん,他の工作・手芸などを対象とした研 究がコンピュータグラフィクス業界で多々研究され,. 3). 図 -3 ステンシルデザインシステム Holly の利用シーン. 発表され続けている. ていくアートである.冬のクリスマスの時期に窓ガ. ■■ポップアップカード. ラスの装飾に使われたり,年賀状に使ったりした覚. 次に紹介するのはポップアップカードである.折. えのある方もいるだろう.このステンシル用の型版. り曲げた紙を開いたときに「お誕生日おめでとう!」. は常に 1 枚につながっているという制約を満たすよ. などと飛び出してくるカードをもらった覚えはない. うにデザインしなければならない.. だろうか? 実際にデザインしてみようとすると分. Holly. かると思うが,この「飛び出す絵本」も手作業で初. 柄をデザインしていくと,ユーザの描いた線を元に,. 心者がデザインするのは大変難しい.Li らは既存. 1 枚につながるという制約に基づいて対話的にステ. の 3 次元モデルと背景および地面になる面を指定す. ンシル型版を生成するシステムである(図 -3).結. ることで,90 度に開いたときに安定したポップア. 果はベクタデータとして出力できるため,カッター. 2). 3). は通常のドローソフトのように自由に図. ップカードになるような手法を提案した (図 -2).. プリンタなどを用いて本物のステンシル型版を簡単. この手法では生成されたすべての面が背景または. に作成することができ,ユーザはそれを用いて自由. 地面と平行になるように計算され,さらにつぶれ. に布や手紙,ポストカードなどにステンシルを施す. たりしないように「安定した形状」にする工夫を. ことができる.. 行っている.本手法を用いたソフトウェア「Paper Architecture Maker」. ☆2. がフリーで配布されてお. り,実際に好きな 3 次元モデルを入力してポップア ップカードを作ってみることができる.. コンピュータグラフィクスを用いた手芸 ■■ぬいぐるみ インタラクティブにぬいぐるみをデザインしてい 4). ■■ステンシルデザイン. くシステム Plushie. ステンシルとは穴のあいた紙の上にインクをのせ. スケッチインタフェースによってユーザが入力した. を紹介する.このシステムは. 形の輪郭線と物理的制約を元にぬいぐるみになる形 ☆ 2. 110. http://cg.cs.tsinghua.edu.cn/people/~xianying/. 情報処理 Vol.54 No.2 Feb. 2013. 状の 3 次元モデルを生成する.対応する型紙はユ.
(3) ディジタルデザイン技術を活用した工作と手芸 05. 4). 図 -4 Plushie. を用いたオリジナルなぬいぐるみデザイン 図 -6 スケッチインタフェースを用いて対話的に洋服をデザインす 6) る技術 © Philippe Decaudin, Included here by permission.. かをあらかじめ検討するために 3 次元モデルを制作 してからそれを元に型紙をデザインしていくことが 多いそうである. 5). Pillow 5). 図 -5 Pillow を用いて既存モデルへ縫い目をデザインしてぬい ぐるみやバルーンを作成する. は既存の 3 次元モデルを入力して,ユ. ーザがモデルの表面形状に沿って縫い目を描くと, システムが型紙を生成してくれるシステムである (図 -5).入力される 3 次元モデルは布で作られて. ーザが形状を変更するたびにリアルタイムに更新さ. いるということを考慮していない形状であるため,. れる.通常 3 次元モデリングとシミュレーション. 布の伸縮を考慮せずに出力された型紙を実際に縫い. は別々の過程で行われるが,Plushie ではモデリン. 合わせた形状は入力モデルと比較すると大きな差異. グを行いながら並行してシミュレーションを行うこ. が生じる.そのため,自動生成された型紙を使って. とで,布の特性を活かしたモデリングを効率良く行. 縫い合わせ,綿をつめた結果の形状をシミュレーシ. うことを提案している.また,ユーザの入力をその. ョンしてユーザにリアルタイムで提示する.これに. まま型紙にしてしまうと裁縫してできる形は一回り. よりユーザは,実際に作る前にできあがりのぬいぐ. 小さくなってしまうが,物理シミュレーションを適. るみ形状を検証することが可能となるため,さらに. 用した結果がユーザの入力した外形に一致するよう. 縫い目を入れたりと,コンピュータ上で試行錯誤を. な型紙を生成する工夫などがされている.ユーザは. した上で実際にぬいぐるみやバルーンを作成できる.. そのような物理制約を気にすることなく,図 -4 の. バルーンは専門家がオリジナルデザインで制作する. ようにモデリング操作を行ってモデルを切断したり,. 際には 2 カ月の納期がかかっていたが,Pillow を. 突起生成したりしながら好きな形状をモデリングし. 使うことで 2 週間に短縮された事例もある.もちろ. ていけばよい.最後に自動生成された型紙をプリン. ん先に紹介した Plushie システムで出力された型紙. タで印刷して縫えば,自分だけのオリジナルなぬい. で同様のバルーンを作ることも可能である.. ぐるみを実際に作成できる.. ■■洋服 ■■バルーン. Decaudin らはスケッチインタフェースを用い. イベントブースやスキー場に行くと子どもたちが. て対話的に洋服をデザインする手法. 集まりそうな場所にキャラクタなどのバルーンが置. ユーザは 3 次元のマネキンの上にドレスなどの洋. いてあるのを目にしたことのある人も多いであろう.. 服の外形をデザインする(図 -6).システムはユー. このようなバルーンを制作する際も型紙設計の専門. ザの入力した線を元に「マネキンを横切った線は縫. 家が行っているが,どのような形状をデザインする. い合わせない」,「マネキンを横切らなかった線は縫. 6). を提案した.. 情報処理 Vol.54 No.2 Feb. 2013. 111.
(4) ❖ 特集 ❖ ディジタルファブリケーション. 図 -7 Beady デザインする. 7). では,ジェスチャインタフェースを用いて構造を. 図 -8 実際に制作するために,ワイヤ経路の自動計算,3 次元 7) CG による制作支援などもある. い合わせる」などのいくつかの制約に基づいて洋服 の形状を計算する.この形状を計算する際には可展 面. ☆3. になるような制約に基づいて 3 次元化を行う.. 図 -9 Plushie を用いたワークショップの様子(上段)と子ども たちによるオリジナルデザインのぬいぐるみ(下段). ドレープ(ひだ)の線も谷線,折れ線を定義してお くことで形状をデザインできる.. との制作手順ガイドの提示も行っている.. ■■ビーズデザイン. 一般ユーザを対象とした活動事例. 最後に 3 次元ビーズ作品のデザインおよび制作の 7). ためのインタラクティブなシステム Beady を紹介. 従来,大学における研究成果は論文や特許として. する.ビーズ制作とは 1 つ 1 つのビーズをテグスと. 発表されるにとどまっていることが多く,一般の人. 呼ばれる 1 本の糸でつないで作品を作るものである.. の目に触れることがあまりなかったが,近年はワー. ユーザは図 -7 のようにまずビーズ作品の構造を. クショップ,シンポジウムなどのかたちで一般を対. 表すデザインモデルを制作する.このモデルの辺は. 象として公開されることが増えてきた.上記で紹介. ビーズに対応しており,ビーズは単一種類を前提と. したぬいぐるみデザインシステム Plushie を用いた,. しているため, 「すべての辺の長さが等しいモデリ. 一般の子どもたちを対象にしたワークショップも. ング」をすることになる.システム内部ではユーザ. 日本科学未来館にて数回開催された(図 -9). また,. のモデリング中に常に近傍のビーズやテグスとの物. ステンシルデザインシステム Holly を用いたワーク. 理制約を考慮して計算しており,3 次元モデルの頂. ショップも開催され,好評であった(図 -10).自. 点はこのシミュレーションによって決定する.よっ. らの手で自分がデザインした“モノ”を作る体験は,. て,ユーザはジェスチャだけで構造をデザインして. 老若男女問わず楽しいものであり,モノづくり大国. いくことができるようなインタフェースを考案して. である日本にとってはこれからも大事にしていくべ. いる.また,図 -8 のようにメッシュモデルから適. き文化ではないだろうか.. 切なワイヤ経路を計算したり,手作業でビーズ作品. このように,学術的な研究成果としての発表の場. を制作するために 3 次元 CG を用いた 1 ステップご. とは別に,一般に対して研究成果をアピールするフ ィールドワークも大変重要である.体験する一般市. ☆ 3. 112. 可展面とは 1 枚の紙を伸び縮みさせずにできる曲面のこと.. 情報処理 Vol.54 No.2 Feb. 2013. 民・子どもたちが最先端の科学技術に触れることが.
(5) ディジタルデザイン技術を活用した工作と手芸 05. ンしようとしても知識や経験がなくてできなかった 人(子どもや主婦などの初心者)に対して,コンピ ュータを利用することで「創りだす体験」を経験で きるようにする,そのためのものである.これによ り,興味を持つユーザ層が増えることは世の中とし ても良いことであると考えられる. これからの工作・手芸は与えられたキットを使う だけではなく,一部分だけでも自分でデザインして みようかなと思う人が増えるかもしれない.また, デザインした作品をデータベースなどにアップする ことで,友人とデザインをシェアしたり,共同作品 をデザインしたりするようになるかもしれない.お ばあちゃんが孫のために,孫がおばあちゃんのため に,独自のデザインの何かをプレゼントし合うとい うようなことも増えるかもしれない.「創る」とい うのはとても素晴らしいことなのである. 図 -10 ステンシルデザインシステム Holly を使ったワークショ ップの様子. でき,科学に興味を持つ子どもの育成にも貢献でき る.筆者はこのようなアウトリーチ活動にも力を入 れて研究に取り組んでいる.. これからの工作と手芸 本稿では工作や手芸に関する最近の研究の中から いくつかを紹介したが,コンピュータグラフィクス とインタラクティブ技術のトップカンファレンスで ある ACM SIGGRAPH でもファブリケーションに 関する研究テーマが毎年多々発表されており,近年 注目されている分野の 1 つであることには間違いな い.SIGGRAPH ではほかにも“浮き彫り細工”や“影 絵”といった多くの身近なテーマを扱う研究が発表. 参考文献 1) Mitani, J. and Suzuki, H. : Making Papercraft Toys from Meshes using Strip-based Approximate Unfolding, ACM Transactions on Graphics (Proceedings of SIGGRAPH 2004), 23 (3), pp.259-263 (2004). 2) Li, X.-Y., Shen, C.-H., Huang, S.-S., Ju, T. and Hu, S.-M. : Popup : Automatic Paper Architectures from 3D Models, ACM Transactions on Graphics(Proceedings of SIGGRAPH 2010), 29 (4), article:111 (2010). 3) Igarashi, Y. and Igarashi, T. : Holly : A Drawing Editor for Designing Stencils, IEEE Computer Graphics and Applications, 30 (4), pp.8-14 (2010). 4)Mori, Y. and Igarashi, T. : Plushie : An Interactive Design System for Plush Toys, ACM Transactions on Graphics (Proceedings of SIGGRAPH 2007),26 (3), 45:1-8 (2007). 5) Igarashi, Y. and Igarashi, T. : Pillow : Interactive Flattening of a 3 D Model for Plush Toy Design, Lecture Notes in Computer Science, Springer ( SmartGraphics 2008 ) , Vol.5166/2008, pp.1-7 (2008). 6)Decaudin, P., Julius, D., Wither, J., Boissieux, L., Sheffer, A. and Cani, M.-P. : Virtual Garments : A Fully Geometric Approach for Clothing Design, Computer Graphics Forum (Eurographics 2006 Conference Proceedings), Vol.25, pp.625634 (2006). 7)Igarashi, Y., Igarashi, T. and Mitani, J. : Beady : Interactive Beadwork Design and Construction, ACM Transactions on Graphics (Proceedings of SIGGRAPH 2012), Vol.31, Issue 4, Article No.49 (2012). (2012 年 9 月 5 日受付). されている. これらの研究は決してこれまでの専門家の仕事に 取って代わろうとしているのではない.たとえば, ぬいぐるみデザインシステムができて素人でもデザ インができるようになったら,ぬいぐるみ設計士と いう職種がなくなるわけではない.これまでデザイ. ■. ■ 五十嵐悠紀(正会員)[email protected]. 2010 年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了.博士(工学). 2010 年より日本学術振興会特別研究員 PD(筑波大学).ACM SRC Grand Finalist,先端技術大賞最優秀文部科学大臣賞等受賞.コンピ ュータグラフィクス,ユーザインタフェースに関する研究に従事.. 情報処理 Vol.54 No.2 Feb. 2013. 113.
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