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統一された中小企業会計指針策定への動き : 中小企業の会計をめぐる3研究報告書の比較

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(1)統一された中小企業会計指針策定への動き 中小企業の会計をめぐる3研究報告書の比較. 櫛 部 幸 子 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ. Ⅰ. 序 論 三つの研究報告書における会計処理 中小企業庁報告書で言及されていない会計処理 三つの研究報告書の相違点 結 論. 序 論.  最近に至るまで、我が国においては、中小企業の現状に即した統一された会計 基準が存在せず、商法上の計算書類に記載された当期純利益をもとに課税所得を 計算する確定決算主義により、税法を中心とした会計が行われていた。  2002年、中小企業庁は「中小企業の会計に関する研究会」を設置した。この研 究会では、中小企業の現状に即して統一された会計基準を作成し、この会計基準 にもとづく財務諸表を金融機関等に提示することにより、中小企業が信頼を得て 円滑な資金調達を行なうことを可能にし、中小企業の発展を目指すという目的が 掲げられた。そして、この目的をもとに中小企業の会計基準策定に向けた動きが 始まることとなった。   「中小企業の会計に関する研究会」は、 「中小企業の会計に関する研究会報告書」 (以下、中小企業庁報告書とする。)を2002年6月28日に公表した 1)。これに は、中小企業の経営状態に即した会計処理の規定が細かく示されている。  また、これを受けた実務家の動きとして、日本税理士会連合会が、2002年12 月19日に「中小会社会計基準研究会報告書」(以下、税理士会報告書とする。)を 1)経済産業省・中小企業庁「中小企業の会計に関する研究会報告書」、2002年。 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002888/ 1 /020628cyusyoukaikei.pdf#search=' 平成14年 中小企業の会計に関する研究会 '. 33.

(2) 統一された中小企業会計指針策定への動き 公表している 2)。また、日本公認会計士協会は、 「中小会社の会計のあり方に関す る研究報告」 (以下、会計士協会報告書とする。)を、2003年6月2日に公表して いる 3)。  中小企業庁報告書 4)と税理士会報告書 5)では、中小会社の会計基準の検討主体 について言及がなされていない。他方、会計士協会報告書 6)は中小会社の会計基 準のあり方を明確にする必要がある場合には、日本の会計基準設定主体である企 業会計基準委員会がこれを行なうべきであるとしている。  本稿では、中小企業庁報告書、税理士会報告書、会計士協会報告書という三つ の研究報告書において提示されている会計処理の比較を行なう。  これら三つの報告書における業務対象の範囲の違いや財務諸表作成目的の違い から生じる会計処理の違いは、後に実務上の混乱をきたすこととなる。この混乱 を解消するため、三者は後に歩み寄りを見せ、統一された新たな会計基準すなわ ち「中小企業の会計に関する指針」の策定へとつながるのである。   「中小企業の会計に関する研究会」が開かれ検討されていた2002年当時、商法 による規定があったが、その後に改正会社法が制定されるに至った。そこで、本 稿では、それぞれの時代に合わせて、商法と会社法の名称を使用する。本稿にお ける商法とは、2002年現在における商法である。  また、中小企業庁報告書は、対象となる会社を中小企業とし、税理士会報告書 と会計士協会報告書は、対象となる会社を中小会社としていることから、本稿に おいてもこれに準ずるものとする。. Ⅱ. 三つの研究報告書における会計処理.  中小企業庁報告書の構成  中小企業庁報告書は、 「中小企業の会計」を論じるにあたり、図表1のような構 成をとっている。. 2)日本税理士会連合会「中小会社会計基準研究会報告書」 、2002年。. http://www.zeikei.co.jp/Topics/chusyou.htm 3)柳澤義一著『新しい中小企業の会計実務早わかり』税務研究会出版局、2003年、65頁。 4)経済産業省・中小企業庁、前掲ホームページ。 5)日本税理士会連合会編集『中小会社 会計基準要覧』六法出版社、2003年、1-229頁。 6)柳澤義一、前掲書、66頁。. 34.

(3) 櫛 部 幸 子 図表1. 中小企業庁「中小企業の会計に関する研究会報告書」における 「中小企業の会計」の構成 7). Ⅰ.中小企業の会計(総論)    目 的    対象となる会社    判断の枠組み Ⅱ.中小企業の会計(各論)    中小企業の計算書類作成の基本的考え方    会計方針の変更    金銭債権    貸倒引当金    有価証券    棚卸資産    固定資産    繰延資産    引当金    退職給与引当金・退職給付債務    リース取引    費用・収益の計上    経過勘定項目    税効果会計    キャッシュフロー計算書    注記事項 Ⅲ.記 帳 Ⅳ.計算書類の開示.  以下においては、この構成に従い、三つの研究報告書における会計処理を述べ ることとする。.  目 的 ①中小企業庁報告書  中小企業庁報告書は、資金調達先の多様化や取引先の拡大を目指す中小企業に とって、信頼を得るための望ましい会計のあり方を明らかにすることを検討の目 的としている。  ここで中小企業における「望ましい会計のあり方」を支える計算書類とは、商法 の枠組みを基本とした計算書類であると考えられる。 7)経済産業省・中小企業庁、前掲ホームページ。. 35.

(4) 統一された中小企業会計指針策定への動き  しかし、中小企業において、商法上の公正なる会計慣行が何であるかが明確に なっていないという問題点がある。その理由として、第二次世界大戦後の財閥解 体とそれによる分割会社の株式公開による証券の民主化の運動のなかで、大企業 の会計基準が制定され、大企業を対象とする企業会計原則のみでの合理化が進め られたことにより、中小企業の経理は放置されていたことが考えられる 8)。  商法における公正なる会計慣行の「公正」を「商業帳簿作成の目的(営業上の財 産および損益の状況を明らかにする目的)と照らして妥当である 9)」こととする ならば、大企業に当てはまる公正とは「債権者と株主との利害調整において公正」 という意味合いであると考えられる。中小企業と大企業では様々な特性の差があ り利害関係者も大きく異なるため、両者に全く同一の「公正なる会計慣行」を求め ることはかえって公正さを損なうものと考えられる。  そこで、商法における「公正なる会計慣行を斟酌すべし」という斟酌規定は適 用、解釈に選択の幅を有しているものと考えられる。中小企業における外部利害 関係者は、主に銀行などの融資先、債権者、取引先などである。この外部利害関 係者の意思決定に有用な信頼性の高い計算書類を作成・公開することが「公正」 につながり、中小企業の資金調達拡大につながると考えられる。そのためにも、 商法の目的・枠組みを前提としたうえでの税法・企業会計原則との兼ね合いの検 討や、実務を考慮した中小企業の会計の基準の設定が重要であると考えられる。 ②税理士会報告書  税理士会報告書は、中小会社の経営実態を明らかにし、かつ、会社債権者や取 引先をはじめとする計算書類の利用者にとって必要十分な情報開示を行なうこと を目的としている。さらに、商法上の計算書類を作成するに際して準拠すべき事 項を定めることを目的としている。 ③会計士協会報告書  会計士協会報告書は、多種多様な実務が混在しているため中小会社の計算書類 作成の方法が統一されていない現状を鑑み、中小会社の会計のあり方を明確にす ることを目的としている。商法改正により、インターネットを利用した計算書類 の公開が可能になり、今後は中小会社で積極的な開示を行なう会社が増えると考 えられるため、不特定多数の人々によって閲覧される計算書類は、統一された会 計基準に準拠して作成されなければならないとしている。また、中小会社の会計 8)武田隆二編『中小会社の会計』中央経済社、2003年、74頁。 9)武田隆二編、前掲書、73頁。. 36.

(5) 櫛 部 幸 子 のあり方を検討する動きは国際的にも検討され、注目されているとしている。.  対象となる会社 ①中小企業庁報告書  対象となる会社を、商法特例法上の小会社(資本金の額が一億円以下の株式会 社)で株式の公開を当面目指していない会社とし、公開会社、商法特例法上の大 会社の子会社は対象外としている。 ②税理士会報告書  対象となる会社を、証券取引法及び株式会社の監査等に関する商法の特例に関 する法律第2条の適用を受ける会社以外の株式会社としている。運用指針では、 合名会社、合資会社等もこの会計基準の対象とすることができるとしている。 ③会計士協会報告書  対象となる会社を、商法上の中会社、小会社としている。みなし大会社、公開 予定の中小会社は公開会社であるとして、対象外としている。また、連結の範囲 に含まれるため会計監査が求められる中小会社、証券取引法に基づく監査の対象 となる中会社も対象外としている。.  判断の枠組み ①中小企業庁報告書  中小企業の会計を考えるにあたり基本となる考え方を「判断の枠組み」とし、下 記の項目を掲げている。 ・債権者や取引先に有用な情報を提供し、経営者に理解しやすく過重負担になら ないこと。 ・実務に配慮したものであること。 ・会計処理の方法について、会社の環境や業態に応じた、選択の幅を有するもの であること。 ・簡便な方法で代替可能な場合、その選択が認められること。 ②税理士会報告書  判断の枠組みとして、中小会社が自らの事業の特殊性や会計処理能力をふま え、下請取引構造の変化、計算書類のインターネットによる公開、電子取引の進 展等に対応する必要性を考慮することとしている。  さらに、中小会社が経営状態を明らかにし、適時適切な情報開示を行いつつ、 37.

(6) 統一された中小企業会計指針策定への動き 資金調達の多様化や取引先の拡大に対応していくための具体的な会計基準を設定 する必要性をあげている。 ③会計士協会報告書  判断の枠組みとして、中小会社の株主や債権者等の利害関係者が固定的で少な く、閉鎖的であることを考慮すべきであるとしている。  また、中小会社では経営と所有の分離が行われておらず、人員や経済的負担能 力には限界があり内部統制も整備されていないこと、計算書類については課税所 得計算という必要性から税法基準又はそれに準じた規制に基づいて作成されてい ることをあげている。.  中小企業の計算書類作成の基本的考え方 ①中小企業庁報告書  中小企業の計算書類は、会社債権者や取引先をはじめとする計算書類の利用者 にとって必要十分な程度に、会社の財政状態および経営成績について真実の概観 を示すものでなければならないとしている。  商法における斟酌規定「公正なる会計慣行を斟酌すべし」の「公正」について、 「公正」の意味を上述のように「商業帳簿作成の目的(営業上の財産および損益の 状況を明らかにする目的)と照らして妥当である」こととするならば、中小企業庁 報告書における「会社の財政状態および経営成績について真実の概観」とは、まさ に「公正」を具体的に表現したものであると考えられる。これは、多種多様な中 小企業が計算書類を作成するにあたり、その基盤となるべき考えを示しているも のと考えられる。また、ここでの真実性とは、企業会計原則の一般原則と同じく、 絶対的な真実ではなく、相対的な真実をさすものである。  また、企業会計原則の「正規の簿記の原則」と「明瞭性の原則」は、商法第32 条1項、商法第33条1項と同趣旨である。  さらに、企業会計原則の「保守主義の原則」については、商法や中小企業庁報 告書において強制評価減など同趣旨と見られる会計処理が存在している。よっ て、中小企業庁報告書は、商法と企業会計原則の一般原則のどちらにも準拠して いるものと考えられる。 ②税理士会報告書  中小会社の計算書類は、配当可能利益を適正に表示するとともに、その経営に 資するために必要な情報を提供し、会社債権者や取引先をはじめとする計算書類 38.

(7) 櫛 部 幸 子 の利用者にとって必要十分な程度に、当該会社の財政状態及び経営成績を的確に 示すものでなければならないとしている。 ③会計士協会報告書  適正な計算書類を作成する基礎となる会計基準は、会社の規模に関係なくあく までも一つであるべきであるが、中小会社の特性を考慮して、その適用方法に簡 便性を認めるとしている。  税法基準と中小会社の会計基準との関係については、税法基準はあくまでも課 税所得算定のための計算規定であって、会社の経営成績及び財政状態を適切に表 示するための会計基準としての規範にはなりえないとしている。しかし、中小会 社の会計基準に明文規定が無く、かつ税法の規定があり、会計上も妥当と考えら れるものや、税法の定める計算方法を用いても会計基準の趣旨に反しないものに ついては、簡便的に用いることを容認している。  商法と中小会社の会計基準との関係について、商法第32条第2項では「公正な る会計慣行を斟酌すべし」としていることから、中小会社の場合であっても一般 に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠すべきであるが、中小会社の特性 を鑑み配慮する必要があるとしている。   「会計基準は一つであるべき」という考えが中小会社に適合するかどうかにつ いても検討がなされている。本来、適正な計算書類を作成する基礎となる会計基 準は、会社の規模に関係なく一つであるべきである。しかし、中小会社の特性を 考慮し、また税法基準及び商法の観点からその適用方法に簡便法を認めるなど特 別の配慮を認める考え方を採用したとしても、中小会社の経済的・人的負担が特 に増えるとは考えられないと述べている。.  会計方針の変更 ①中小企業庁報告書  会計方針を変更する場合、その変更によって会社の財産および損益の状況をよ り正確に表示することを目的としていなければならないとしている。企業会計原 則の「継続性の原則」と、この「会計方針の変更」については、商法においても同 様の意向であると考えられる。  商法には、 「継続性の原則」について明文の規定はないものの、配当可能金額の 操作を目的とした会計方針の変更は認められていない。計算書類作成の恣意性を 排除する観点から、それ以外の会計方針の変更も基本的には望ましくないとして 39.

(8) 統一された中小企業会計指針策定への動き いるところから、 「継続性の原則」と同趣旨であると考えられる。  企業会計原則の「継続性の原則」では継続性を強く要請しているが、商法には 「継続性の原則」について明文の規定はなく、あくまでも公正なる会計慣行を目 的とする範囲内での要請である。よって、要請の程度は、企業会計原則の方が強 いものと考えられる。 ②税理士会報告書  複数の会計処理の方法が存する場合、適正な利益計算が行われるよう適切に選 択することとし、会計方法の変更は会社の財産及び損益の状況をより正確に表示 するためのもの等、合理的な理由がなければ行なうことができないこととしてい る。  運用指針においては、会計方法の変更が合理的であると認められるのは法人税 法施行令第30条、法人税法施行令第52条等により棚卸資産の評価方法や減価償 却資産の評価方法等の変更が承認された場合、その他、その変更に合理性がある 場合であるとしている。 ③会計士協会報告書  会計方針の変更について言及していない。.  金銭債権 ①中小企業庁報告書  金銭債権と貸倒引当金を、商法の規定をもとに次のように定めている。  商法第285条の4第1項では、金銭債権の評価について、原則として債権金額 を付すとし、 「市場価格のある金銭債権」については、時価評価することを認めて いる。中小企業庁報告書も金銭債権の会計処理について、同様の処理を要請して いる。また、金銭債権の取得価額と債権金額が異なる場合は、企業会計基準にお いて認められている償却原価法によって評価することが中小企業庁報告書におけ る金銭債権の会計処理においても認められているが、これはあくまでも取得価額 と債権金額の差額が金利の調整(利息の性質を有する)と認められる場合である。  また、デリバティブ取引のうち、投機目的で行なわれるデリバティブにより生 じる正味の債権債務については、時価の変動により利益を得ることを目的として いるものであるから、時価で評価することが適当であるとしている。これに対 し、企業の行なう銀行借入金や社債等による資金調達、預金や有価証券等の資金 運用に係る金利変動リスクをヘッジすることを目的としたデリバティブ取引は、 40.

(9) 櫛 部 幸 子 債権者や取引先にとって不測の損害を与える可能性がないため、リスクヘッジ対 象の銀行借入金等と一体で評価することが妥当であるとしている。  受取手形や売掛金などの金銭債権は、一般的に市場が無く、時価の変動により 利益を得ることを目的としておらず、また、将来の回収可能額で評価することが 理論上妥当であると考えられるため、取得原価や償却原価から貸倒見積高を控除 した回収可能額で評価することとしている。 ②税理士会報告書  金銭債権にはその債権金額を付さなければならないとし、債権金額より高い代 金で買い入れたときは相当の増額を、また、債権金額より低い代金で買い入れた とき、その他相当の理由がある場合、相当の減額をすることができるとしてい る。  市場価格のある金銭債権については、時価で評価することができるとし、デリ バティブ取引により生じる正味の債権及び債務については時価で評価するが、専 らリスクヘッジを目的とするものについては、ヘッジ対象とデリバティブを一体 で評価するとしている。  運用指針では、金銭債権を、預金、貯金、貸付金、売掛金、その他の債権とし ている。 ③会計士協会報告書  金銭債権について、債権金額と取得価額との差額に重要性が無い場合には償却 原価法を採用しないことができるとしている。.  貸倒引当金 ①中小企業庁報告書  貸倒引当金(取立不能見込額)の算定方法については、商法上詳細な定めが無 く、商法の解釈では、原則として個々の金銭債権につき算定することとしてお り、中小企業庁報告書においても同様の会計処理を要請している。  この算定方法については、税法の詳細な規定を参考にしつつ、商法の規定の枠 組みの中で算定方法を選択することも認められている。  さらに、 「金融商品に係る会計基準」に規定する算定方法を採用することも認め られており、これは、1999年、企業会計審議会により公表された「金融商品に係 る会計基準」によって整備が図られたものであり 10)、一般債権、貸倒懸念債権、 10)武田隆二編、前掲書、110頁。. 41.

(10) 統一された中小企業会計指針策定への動き 破産更正債権等に区分し、その区分ごとに貸倒見積高の算定方法が示されてい る。 ②税理士会報告書  貸倒引当金については、法的に債権が消滅した場合のほか、回収不能な債権に ついて、その金額を債権金額から控除しなければならないとしている。そして、 貸倒懸念の事由が生じている金銭債権は、その取立不能見込額を貸倒引当金とし て控除しなければならないとし、その他の金銭債権は、過去の貸倒実績率等に基 づき取立不能見込額を一括して計算し、これを貸倒引当金として控除することが できるとしている 11)。  運用指針では、法的に債権が消滅した場合とは、法人税基本通達9- 6- 112)に 該当する場合をいい、回収不能の場合とは、法人税基本通達9- 6- 213)及び法人 税基本通達9- 6- 314)に該当する場合をいうとしている。  貸倒懸念の事由が生じている金銭債権については、法人税法第52条第1項 15) 及び法人税法施行令第96条第1項 16)に掲げる事由が生じている金銭債権をいう とし、過去の貸倒実績率の計算は、法人税法施行令第97条 17)に定める方式によ ることができるとしている。  また、リスクヘッジを目的とするデリバティブ取引の評価については、ヘッジ 対象とデリバティブを一体で評価するとしている。 ③会計士協会報告書  金銭債権に対する貸倒引当金に対し、原則として「金融商品に係る会計基準」 及び「金融商品会計に関する実務指針」による会計処理を要請している。  しかし、一般債権(法人税法上の一括債権)の貸倒引当金計上方法については、 法人税法が規定する貸倒引当金の繰入限度額に明らかに不足する場合を除き、法 人税法の定める法定繰入率を用いた方法を合理的な方法として認めるとしてい る。  貸倒懸念債権、破産更正債権等(法人税法上の個別債権)については、各個別の 不良債権の実態に応じ処理すべきであるが、法人税法が規定する貸倒引当金の繰 入限度額に明らかに不足する場合を除き、法人税法上の規定による金額を計上す 11)法人税法第52条第2項。 12)法人税基本通達9- 6-1。 13)法人税基本通達9- 6-2。 14)法人税基本通達9- 6-3。 15)法人税法第52条第1項。 16)法人税法施行令第96条第1項。 17)法人税法施行令第97条。. 42.

(11) 櫛 部 幸 子 る方法も認めるとしている。.  有価証券 ①中小企業庁報告書  有価証券の評価について、商法は原価法の採用を認めており、市場価格のある 有価証券については原価法、低価法又は時価評価の採用を認めているが、中小企 業庁報告書においても同様の会計処理を要請している。  また、時価評価については「金融商品に係る会計基準」に定められているが、 中小企業庁報告書においても、売買目的有価証券については時価評価を行なうこ とを認めている。しかし、 「金融商品に係る会計基準」は、主として大会社の取引 が中心であるため、中小企業の取引実態に適合しない面が多々ある。そこで「金 融商品に係る会計基準」が保有目的による分類を行っているのに対し、中小企業 庁報告書では、市場価格の有無による分類を重視している 18)。また、「金融商品 に係る会計基準」が売買目的有価証券とその他有価証券を時価評価するのに対 し、中小企業庁報告書では、売買目的有価証券を除き原則として原価法とし、市 場価格のある有価証券については、原価法、低価法又は時価で評価することがで きるとして選択適応を認めている 19)。さらに「金融商品に係る会計基準で」は強 制評価減を共通の規定とし、低価法の適用は無いが、中小企業庁報告書では、低 価法の選択適用も認めていることなど両者において異なった処理が見られる 20)。  これは、中小企業の情報利用者が銀行、債権者、取引先などに限られ、もっぱ らキャッシュを生み出す力に関心が向けられるためであり、広い外部情報利用者 を対象とする「金融商品に係る会計基準」を適用することには無理があり、かえっ て実態に即さないものとなるからであると考える。  また、ここでは、取得原価の評価方法は、総平均法、移動平均法など一般的に 認められる方法によるとしている。原価法を採用した場合、有価証券の時価が取 得原価より著しく低い時は、将来回復の見込みがある場合を除いて、時価で評価 しなければならないとしており、強制評価減の実施を要請している。 ②税理士会報告書  有価証券の取得価額は、原則として取得代価及び取得に要した費用の合計額と し、有価証券は、移動平均法又は総平均法による原価法で評価することとしてい 18)武田隆二編、前掲書、114頁。 19)武田隆二編、前掲書、114頁。 20)武田隆二編、前掲書、114頁。. 43.

(12) 統一された中小企業会計指針策定への動き る。  例外として、市場価格のある有価証券を時価で評価することができるとしてい るが、子会社株式は、取得価額で評価しなければならないとしている。  市場価格のない有価証券については、その発行会社の資産状態が著しく悪化し たときは、相当の減額をしなければならないとしている。  原価法を採用した場合において、有価証券の時価が取得価額より著しく低いと きは、将来回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価で評価しなければ ならないとしている。  売買目的有価証券は、時価で評価しなければならないとしている。  運用指針では、有価証券とは、原則として、法人税法第2条第21項 21)に定め るものとし、子会社とは、その総株主の議決権の過半数を有している場合の当該 会社としている。  発行会社の資産状態が著しく悪化したときとは、例えば、1株当たりの純資産 価額が50%以上下落した場合とし、取得価額より著しく低いときとは、例えば 時価が50%以上下落した場合としている。  売買目的有価証券とは、取得した有価証券のうち、時価の変動により利益を得 る目的で保有するものをとし、有価証券は、事業年度終了のときにおいて有する 有価証券の銘柄の異なるごとに区分するとしている。 ③会計士協会報告書  有価証券の評価は、原則として「金融商品に係る会計基準」及び「金融商品会計 に関する実務指針」による会計処理を行なうとしている。  例外として、その他有価証券の期末評価において、評価差額の金額に重要性が ない場合には、時価評価は不要とすること、および、有価証券の減損処理におい て著しく下落したかどうかの判定においては法人税法の取り扱いを適用すること ができるとしている。.  固定資産 ①中小企業庁報告書  商法第34条では、固定資産に関して、毎決算期に「相当の償却」をしなければ ならないと定めているが、ここでの「相当の償却」とは計画的、合理的な一定の 減価償却の方法によって耐用年数にわたり償却することであり、減価償却を規則 21)法人税法第2条第21項。. 44.

(13) 櫛 部 幸 子 的に行なうことを意味するものと解される 22)。これを踏まえ、中小企業庁報告書 では、中小企業における債権者や取引先にとって信頼性の高い計算書類を作成す るために、減価償却は、定率法、定額法等の規則的な方法を用いる必要があると している。また、実務を考慮し、重要性の見地から、減価償却資産のうち、少額 のものについては費用処理することが許されている。  しかし、中小企業の実務では、税法での損金算入限度額の範囲内で償却を行っ ていることが多く、法人税法第31条、法人税法施行令第12条、第13条、第48 条、第54条、第56条等により行われている現状がある。  減損の解釈についてもこの報告書では商法を踏まえている。商法では、減損と は、災害、事故等の物質的減損と、新製品、新技術等の機能的減損であるとして いるが、そこで問題となるのは、土地の評価下落による評価減が減損にあたるの かどうかということである。企業会計審議会の「固定資産の減損に係る会計基準」 における会計処理が「公正なる会計慣行」と解されるならば、商法上この土地の評 価減は、機能的、物理的減損が生じていなくても認められるものと解される 23)。 ②税理士会報告書  固定資産の取得価額を、購入代価又は製造費用、その資産を事業の用に供する ために直接要した費用等の合計額とし、減価償却資産のうち、取得価額が少額の ものについては、その取得した営業年度において費用処理することができるとし ている。  減価償却資産の減価償却は、定率法、定額法その他の方法に従い、毎期継続し て、規則的な償却を行なうこととし、減価償却資産の耐用年数は、個別の資産に ついて、その性質、用途に応じて会社が決定し、継続して適用することとしてい る。  固定資産について、予測できなかった機能低下及び物理的減損により資産価値 が下落した場合又は市場価格の下落により資産価値が著しく低下した場合には、 帳簿価額と時価との差額について減損額を控除しなければならないとしている。  運用指針では、固定資産とは、原則、法人税法第2条第22項 24)に定めるもの をいい、減価償却資産とは、法人税法第2条第23項 25)に定めるものとしている。  減価償却資産の耐用年数は、減価償却の耐用年数等に関する省令の定めによる 22)武田隆二編、前掲書、123頁。 23)武田隆二編、前掲書、123頁。 24)法人税法第2条第22項。 25)法人税法第2条第23項。. 45.

(14) 統一された中小企業会計指針策定への動き ことが出来ることとし、市場価格の下落により減損額を計上する場合とは、例え ば、市場価格が取得価額の50%以上下落したときとしている。 ③会計士協会報告書  中小会社に対し、法人税法による償却限度額を減価償却費として計上すること を会計上妥当として認めている。  圧縮記帳については、企業会計原則注解注24 「国庫補助金等によって取得した 資産について」及び日本公認会計士協会監査第一委員会報告書第43号「圧縮記帳 に関する監査上の取扱い」に従うこととしている。  租税特別措置法による特別償却については、重要性が乏しい場合には、特別償 却額を減価償却費として費用処理することができる。割増償却については、合理 的である限り、正規の減価償却として処理することができる。.  繰延資産 ①中小企業庁報告書  商法は、創立費、開業準備費、試験研究費・開発費、新株発行費、社債発行 費、社債発行差金及び建設利息の7項目の繰延資産の計上を認めている。これを 踏まえ、中小企業庁報告書においてもこの7項目を繰延資産として計上すること ができるとしている。また、法人税法の「公共的施設等の負担金」、「資産を賃借 するための権利金」 、「役務提供を受けるための権利金」、「広告宣伝用資産を贈与 した費用等」などのいわゆる「税法上の繰延資産」26)について、中小企業庁報告書 では列挙されておらず、長期前払費用として計上することとなり、これも商法を 踏まえた処理であると考えられる。 ②税理士会報告書  創立費、開業準備費、試験研究費・開発費、新株発行費、社債発行費、社債発 行差金及び建設利息を、繰延資産として計上することができるとしている。  繰延資産は、毎決算期において、商法に規定する年数以内の期間をもって均等 額以上の償却をしなければならないとし、前述の繰延資産以外のもので法人税法 に定められた繰延資産は、長期前払費用等として計上することができるとしてい る。  また、長期前払費用等を計上したときは、支出の効果が及ぶ期間に応じて償却 しなければならないとし、繰延資産のうち支出の対象となった資産について、価 26)法人税法施行令第14条。. 46.

(15) 櫛 部 幸 子 値が著しく下落した場合は、減損額を控除しなければならないとしている。  運用指針では、長期前払費用等として計上した法人税法上の繰延資産の支出の 効果の及ぶ期間は、法人税基本通達8- 2- 127)、法人税基本通達8- 2- 528)の定 めによることができるとしている。  長期前払費用等の支出の対象となる資産について、価値が著しく下落した場合 とは、その資産の価値が50%以上下落した場合等としている。 ③会計士協会報告書  繰延資産について言及していない。.  研究開発費 ①中小企業庁報告書  研究開発費の繰延計上を認めている。  企業会計基準では、研究開発費に該当する項目は全て発生時の費用とするとし ている。しかし、企業会計基準は基本的に大会社向けであり、そのまま中小企業 に当てはまるものではないと考えられ、中小企業庁報告書においては研究開発費 の繰延計上を認めている。 ②税理士会報告書  研究開発費について言及していない。 ③会計士協会報告書   「研究開発費等に係る会計基準」を適用し、研究開発費はすべて発生時に費用 処理することが望ましいが、商法上の繰延資産処理も認めることとしている。こ れは、法人税法上の任意償却と同じ取扱いである。また商法上における繰延資産 計上は、あくまでも任意規定である。.  引当金 ①中小企業庁報告書  商法における「引当金」は、資産の部に記載される「評価性引当金」と負債の部 に記載される「負債性引当金」に分けられ、さらに負債性引当金は「債務性のある 引当金」と「債務性のない引当金」に分けられるが、中小企業庁報告書では「負債 性引当金」のうちの「債務性のある引当金」を計上することし、 「債務性のない引当 27)法人税基本通達8-2-1。 28)法人税基本通達8-2-5。. 47.

(16) 統一された中小企業会計指針策定への動き 金」については重要性の高いものについて計上することとしている。  ここでいう法的債務性のない引当金とは、商法第287条の2に規定する引当金 であるとし、これは負債性引当金であり法的債務性がなく、将来の支出に備える ための引当金を指すものであると考えられる。つまり修繕引当金などいわゆる 「債務性のない引当金」と呼ばれるものである。 ②税理士会報告書  引当金について、将来発生する可能性の高い費用又は損失が特定され、その発 生原因が当期以前の事象にあり、かつ、設定金額の見積もりを合理的に行ない得 るものについては、その見積金額を引当金に繰入れ、貸借対照表の負債の部に計 上しなければならないとしている。また、法的債務性のある引当金については、 未払費用等として貸借対照表の負債の部に計上する。  運用指針では、具体的な引当金として、返品調整引当金、製品保証等引当金、 賞与引当金、退職給与引当金、修繕引当金、返品債権特別勘定等をあげている。  また、退職給与引当金を除いた他の引当金の繰入方法は、1998年度改正前の 法人税法による繰入額の計算方法によることができるとしている。 ③会計士協会報告書  引当金は、企業会計原則注解注18「引当金について」に基づき、将来の特定の 費用又は損失であってその発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高 く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、計上しなければ ならないとしている。.  退職給与引当金・退職給付債務 ①中小企業庁報告書  退職給付債務について、会社が採用する退職給付制度に応じ、それぞれ異なっ た処理が求められている。  債務性のある引当金としては、就業規則等の定めに基づく内部積立の退職一時 金、厚生年金基金、適格退職年金、確定給付企業年金等、将来の追加拠出が見込 まれる退職給付制度を採用している会社での退職給与引当金が考えられる。これ は、従業員との関係で法的債務を負っていることになるため、当然、引当金の計 上が必要である。  内部積立の退職一時金についての引当金の計上に関しては、自己都合期末要支 給額のうち、将来の在職年数等を考慮した現在価値と考えられる金額を指標と 48.

(17) 櫛 部 幸 子 し、会社ごとに判断していくことが適当としている。また、会社の都合による退 職においても、将来の支出が見込まれる場合については、引当金を計上する必要 があるとしている。  中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、確定拠出型年金等の、追加拠 出が生じない制度を採用している会社は、毎期の掛金を拠出することで企業とし ての義務を果たしているという考えから、毎期の掛金を費用として処理すること が妥当であるとし、引当金を計上しないことができる。これは、会社が支給者に 対し法的債務を有しないか、支給財源が確保されているという理由から認められ ている処理である 29)。  退職規定がなく、退職金等の支払いに関する合意も存在しない会社において は、退職金の支払いについて法的債務を負っていないとも考えられるが、将来の 退職金支払いの可能性が高く、設定金額の見積もりを合理的に行なうことがで き、かつ重要性の高いものに対し、引当金を計上することとしている。これは、 商法第287条の2の引当金と同様の扱いである。 ②税理士会報告書  退職給与引当金について、内部積立の退職一時金、厚生年金基金、適格退職年 金、確定給付企業年金等、将来の追加拠出の可能性がある退職給付制度を採用し ている会社については、当該事業年度の自己都合等による期末要支給額のうち、 将来の在職年数等を考慮した現在価値と考えられる金額から年金資産を控除した 残額を、負債に計上することとしている。また、退職規定がなく、退職金等の支 払いに関する合意も存在しない会社において、将来の退職金支払いの可能性が高 く、設定金額の見積もりを合理的に行なうことができ、かつ重要性の高いものに ついては、退職給与引当金を計上するとしている。  しかし、中小企業退職金共済制度、特定退職金共済制度、確定拠出型年金等、 追加拠出が生じない制度を採用している会社については、毎期に支払うべき掛金 を費用処理する。  運用指針では、会社の実態を示す尺度として、従業員の残勤務年数、早期退職 勧告の有無等とし、現在価値については、原則として、自己都合による当期末要 支給額の100%相当額として計算するとしている。 ③会計士協会報告書  退職給付引当金について、「退職給付に係る会計基準」及び「退職給付会計に関 29)武田隆二編、前掲書、136頁。. 49.

(18) 統一された中小企業会計指針策定への動き する実務指針」による会計処理が原則であるが、実務指針においては、小規模企 業等(従業員300人未満等)に対する簡便法の適用を認めている。  退職金規定がなく、過去に退職金支払いの実績がなく、今後も支払予定がない 会社においては、退職給付引当金を計上する必要はないとしている。.  税効果会計 ①中小企業庁報告書  税効果会計については、有価証券報告書提出会社だけでなく商法特例法上の大 会社 30)に対しても税効果会計が「公正なる会計慣行」に当てはまるもの 31)とし、 適用されることが妥当であるとしている。また、企業会計基準で「税効果会計に 係る会計基準」の採用が義務付けられていることは、有価証券報告書提出会社は 一時差異の額が大きい場合が多く回収可能性も高いことから、妥当であると考え られる。  しかし、中小企業の場合、税法に準拠して財務諸表を作成しているケースが多 く、一時差異自体が小さいことが多い。よって、繰延税金資産や繰延税金負債の 金額が非常に小さく、また「重要性の原則」の適用からも採用しないことが妥当 であるとの考えがある 32)。  また、中小企業は経営の変動の幅が相対的に大きく、繰延税金資産の回収の確 実性を認識できない場合が多いため、税効果会計を採用すること自体が難しい場 合もあり、その採用を義務とするには至らないとしている。  そこで、中小企業庁報告書では、税効果会計は、会社の状況に応じて、金融機 関や取引先との関係も踏まえた上で、必要な場合には採用するとし、強制してい ない。 ②税理士会報告書  税効果会計について、一時差異が小さい場合等の重要性が低い場合、税効果会 計を採用する必要はなく、また繰越欠損金等に関する繰延税金資産の回収の確実 性が疑問視される場合には、繰延税金資産を計上しないこととするとしている。  会計処理上、重要性のある場合には、税効果会計を採用することとしている。 30) 2002年商法改正において、中会社(資本金1億円以上の大会社以外)において監査役会の会計監 査をうける旨の定款規定を認め株式市場の意向を組み入れ、この会社は商法特例法上みなし大会 社となった。 31)武田隆二編、前掲書、150頁。 32)武田隆二編、前掲書、150頁。. 50.

(19) 櫛 部 幸 子  運用指針では、繰延税金資産および繰延税金負債を計上する場合は、繰延税金 資産および繰延税金負債の主な内訳を注記することとしている。 ③会計士協会報告書  税効果会計について、「税効果会計に係る会計基準」及び「個別財務諸表におけ る税効果会計に関する実務指針」を適用するとし、繰延税金資産の回収可能性の 判断方法については、中小企業向けに別途簡素化された実務的で合理的な方法が 考慮されてよいとしている。. Ⅲ. 中小企業庁報告書で言及されていない会計処理.  中小企業庁報告書において、下記① - ⑤の項目のようにあえて言及していない 会計処理がある。 ①外貨建取引・外貨建資産等の換算 ②ソフトウェア ③収益・費用の範囲 ④後発事象 ⑤中間決算  これらは、中小企業の会計実務において金額が大きくない取引である。また中 小企業ではあまり起こらない取引であるなど、重要性が乏しい項目であると考え られる。  以下では、これらの会計処理について、税理士会報告書と会計士協会報告書が どのように取り扱っているかについて述べる。.  外貨建取引・外貨建資産等の換算 ①中小企業庁報告書  外貨建取引・外貨建資産等の換算について言及していない。 ②税理士会報告書  外貨建取引について、その金額の円換算額は、その外貨建取引を行った時にお ける外国為替の売買相場により換算した金額とすることとしている。  外貨建債権及び外貨建債務については、発生時換算法又は期末時換算法による こととし、ただし、その保有期間が1年未満のものについては、期末時換算法に よるとしている。外貨建有価証券のうち、売買目的有価証券については期末時換 51.

(20) 統一された中小企業会計指針策定への動き 算法により、それ以外の有価証券については発生時換算法又は期末時換算法によ ることとする。外貨預金については、発生時換算法又は期末時換算法によること とし、ただし、その満期が1年未満のものについては期末時換算法によるとして いる。外国通貨については期末時換算法によることとする。  運用指針では、外貨建取引、外貨建債権、外貨建債務、外貨建有価証券の評価 換算方法が規定されている。発生時換算法によるか期末時換算法によるかは、原 則として、法人税法第61条の8第1項 33)及び法人税法第61条の9第1項 34)に 定めるものとされている。  また、保有期間等が「1年未満」に該当するか否かは、期末時時点で判定するこ ととしている。 ③会計士協会報告書  外貨建取引について、原則として「外貨建取引等会計処理基準」による会計処 理を行い、例外として計算書類利用者の判断を著しく誤らせない限り、法人税法 の規定により継続適用している期末時換算法も妥当な方法として認めるとしてい る。.  ソフトウェア ①中小企業庁報告書  ソフトウェアについて言及していない。 ②税理士会報告書  ソフトウェアについて言及していない。 ③会計士協会報告  ソフトウェアについて、原則として「研究開発等に係る会計基準」及び「研究開 発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」による会計処理を行なうと している。また、例外として、実務負担上見込み販売数量に基づく償却方法の適 用が難しい場合には、法人税法の規定による計算を利用することも認められる。.  収益・費用の範囲 ①中小企業庁報告書 収益・費用の範囲について言及していない。 33)法人税法第61条の8第1項。 34)法人税法第61条の9第1項。. 52.

(21) 櫛 部 幸 子 ②税理士会報告書  無償(低額を含む)による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲り受 けについては、当該各取引に係る収益として計上しなければならないとし、会社 が納付する法人税等の税額及び会社の責に帰すこととなる罰科金等は、費用又は 損失に計上するとしている。  運用指針では、無償取引に係る収益の額は、当該資産の時価と取引価額の差額 又は当該役務に係る通常収受すべき対価と取引対価の差額によって算定し、収益 計上するとともに、寄付金等の費用や損失等の額を計上するとしている。  また、法人税額等の費用・損失計上は、税引後の利益計算であることを明確に するものであると述べている。 ③会計士協会報告書  収益・費用の範囲について言及していない。.  後発事象 ①中小企業庁報告書  後発事象について言及していない。 ②税理士会報告書  後発事象について言及していない。 ③会計士協会報告書  重要な後発事象の開示について、営業報告書において開示することとしてい る。また、修正後発事象の取り扱いについては、その内容及び重要性により、計 算書類の数値を変更することが必要になるとしている。.  中間決算 ①中小企業庁報告書  中間決算について言及していない。 ②税理士会報告書  中間決算について言及していない。 ③会計士協会報告書  中間決算について言及していない。  経過報告では、中間財務諸表を作成する場合は、「中間連結財務諸表等の作成 基準」を参考にするとしている。 53.

(22) 統一された中小企業会計指針策定への動き. Ⅳ. 三つの研究報告書の相違点.  以上の検討をふまえ、三つの研究報告書の相違点をまとめると、図表2のよう になる。 図表2. 三つの研究報告書の相違点 中小企業庁報告書. 対象となる会社. 税理士会報告書. 会計士協会報告書. 商法上の小会社で、株式 証券取引法及び株式会 商法上の中会社・小 の公開を当面目指して 社の監査等に関する商 会社とし、中小企業 いない会社。 法の特例に関する法律 庁報告書より範囲が 第2条の適用を受ける 広い。 会社以外の株式会社を 対象とし、合名会社・ 合資会社も含み、中小 企業庁報告書より範囲 が広い。. 中小企業の計算書 中小企業の計算書類は、 中 小 会 社 の 計 算 書 類 会計基準は、会社の 類作成の基本的考 会社債権者や取引先を は、配当可能利益を適 規模に関係なく一つ え方 はじめとする計算書類 正に表示する。また、 であるべきであると の利用者にとって必要 税法上の所得金額計算 し、中小会社の特性 十分な程度に、会社の財 には、法人税法第22条 を考慮しながらも、 政状態および経営成績 (各事業年度の所得の 簡便性を認め、税法 について真実の概観を 金額の計算)が用いら を容認する形をとっ 示すものでなければな れており、税理士会報 ている。 らない。商法と企業会計 告書においても同様で 原則の一般原則のどち あると解される。 らにも準拠しているも のと考えられる。 有価証券. 有価証券の評価につい て、商法の原価法を適用 している。 「金融商品に 係る会計基準」による会 計 処 理 を、任 意 適 用 す る。. 「金融商品に係る会計 基準」による会計処理 について言及していな い。. 研究開発費. 研究開発費は、繰延資産 研究開発費の会計処理 研究開発費等に係る 計上を認めている。 について言及していな 会計基準」を適用し、 い。 商法上の繰延資産計 上を任意適用する。. 貸倒引当金. 商法の解釈により原則 法人税法による会計処 「金融商品に係る会 として個々の金銭債権 理を行なう。 計基準」及び「金融商 につき算定し、 「金融商 品会計に関する実務 品に係る会計基準」や法 指針」を適用し、法人 人税法による会計処理 税法による会計処理 を任意適用する。 を任意適用する。. 54. 「金融商品に係る会 計基準」及び「金融商 品会計に関する実務 指針」による会計処 理を適用する。.

(23) 櫛 部 幸 子 退職給付引当金・ 「退職給付に係る会計基 「退職給付に係る会計 「退職給付に係る会 退職給付債務 準」による会計処理の適 基準」による会計処理 計基準」による会計 用について言及してい の適用について言及し 処理を適用する。 ない。 ていない。 税効果会計. 税効果会計は、会社の状 会計処理上重要性の高 「税効果会計に係る 況に応じ、金融機関や取 い場合、税効果会計を 会計基準」を適用す 引先との関係も踏まえ 採用する。 る。 た上で、必要な場合には 採用する。. (本稿「Ⅱ 三つの研究報告書の比較」をもとに、筆者作成。 ).  税理士会報告書、会計士協会報告書における「対象となる会社の範囲」は、中 会社を含め広いものとなっているが、この理由として、税理士、公認会計士は業 務の対象範囲が広いことが考えられる。  また、税理士会報告書の「中小企業の計算書類作成の基本的な考え方」にみられ る税法規定重視の意向は、当然のことであろう。  会計士協会報告書の「金銭債権等の評価額」 、「有価証券」、「ヘッジ会計」、 「貸 倒引当金」にみられる金融商品取引法による会計処理を優先する意向は、公認会 計士の業務対象を鑑みれば当然のことであると考えられる。   「研究開発費」 、 「退職給与引当金」については、中小企業ではこれらの取引金額 が少なく、取引自体の数が少ないという判断から、中小企業庁報告書では、 「研 究開発費等に係る会計基準」の任意適用を、「退職給与引当金」については独自の 方法の提示を行っているものと推測される。. Ⅴ. 結 論.  中小企業庁報告書の「中小企業の会計」には、以下のように、いくつかの特徴 的な点を見出すことができる。 ①対象となる会社を、商法特例法上の小会社(資本金の額が一億円以下の株式会 社)で株式の公開を当面目指していない会社に限定し、公開会社や商法特例法 上の大会社の子会社を対象外としたこと。 ②判断の枠組みのなかで、計算書類の利用者を主に債権者と取引先とし、この利 用者に有用な情報を示すとしたこと。 ③計算書類は経営者にとって理解しやすいものであり、経営者自身の経営状況の 把握に役立つものであるとしたこと。 ④確定決算主義を前提とした規定も含み、簡便な方法や代替的な方法などの選択 55.

(24) 統一された中小企業会計指針策定への動き ができ、経営の厳しい中小企業経営のコスト・ベネフィットが充分に考慮され ていること。  この中小企業庁報告書を受けて策定された税理士会報告書、会計士協会報告書 を中小企業庁報告書と比べると、会計処理の違いが多く見られた。例えば、上述 の、会計士協会報告書が「金銭債権等の評価額」 、「有価証券」、「ヘッジ会計」 、 「引当金」において、金融商品取引法による会計処理を優先する点がある。また 中小企業では取引金額が少なく取引自体の数が少ないという判断から、中小企業 庁報告書では「研究開発費等に係る会計基準」の任意適用を認めている点や、「退 職給与引当金」については独自の方法の提示を行っている点などである。この違 いは、税理士と公認会計士の業務対象の違い、および税法重視か金融商品取引法 重視かという意向の違いから生じるものであると考えられる。  この三つの研究報告書の会計処理の違いは、中小企業会計における実務上の混 乱を招くこととなった。  つまり、中小企業はどの会計基準を優先すればよいのか解らなくなり、中小企 業庁報告書が作られたそもそもの目的でもある「資金調達先の多様化や取引先の 拡大を目指す中小企業が、商法上の計算書類を作成するに際して準拠することが 望ましい会計のあり方を明らかにし、中小企業の資金調達に役立てる」というこ とが損なわれかねない事態が生じることとなった。  そこで、中小企業庁報告書、税理士会報告書、会計士協会報告書を統合する必 要性を生じることとなったのである。さらに、後に制定された会社法第374条の 規定により会計参与制度が導入され、会計参与が取締役と共同して計算書類を作 成することが望ましいと考えられるようになった。  このように、中小企業の経理の健全性を図る必要性が出できたことにより、統 一された中小企業の会計基準が必要となり、2005年の「中小企業の会計に関する 指針」35)の策定に拍車をかけることとなるのである。  その意味で、本稿においてとりあげたこの三つの研究報告書における会計処理 の違いは、後の統一された中小企業の会計基準策定の動きにおいても重要な意味 を持つと考えるものである。. (筆者は、関西学院大学大学院博士課程後期課程1年). 35)中小企業庁ホームページ『「中小企業の会計に関する指針」の公表について』、2005年。 http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/2005/050803.kaikei_shishin.htm. 56.

(25) 櫛 部 幸 子 参考文献. 武田隆二編『中小会社の会計』中央経済社、2003年。 柳澤義一著『新しい中小企業の会計実務早わかり』税務研究会出版局、2003年。 日本税理士会連合会編集『中小会社 会計基準要覧』六法出版社、2003年。. 参考ウェブページ 経済産業省・中小企業庁ホームページ「中小企業の会計に関する研究会報告書」。 http://www.meti.go.jp/kohosys/press/0002888/ 1 /020628cyusyoukaikei.pdf#search =' 平成14年中小企業の会計に関する研究会 '. 経済産業省・中小企業庁ホームページ『「中小企業の会計に関する指針」の公表に ついて』 。 http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/kaikei/2005/050803.kaikei_shishin.htm. 日本税理士会連合会ホームページ「中小会社会計基準研究会報告書」。 http://www.zeikei.co.jp/Topics/chusyou.htm. 57.

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