書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善
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(2) 90. 学校教育学研究,2006,第18巻. 1問題の所在. ・小学校1学年の漢字書字練習での指導. 我が国の小中学校の通常学級の中には,LD, ADHD,. 2−3 対象となる児童と所属. 高機能自閉症などの軽度発達障害が疑われる子どももた. 本教材の学習上の有効性を検証するために,兵庫県と. ちが63%含まれていることが文部科学省の調査で明ら. 滋賀県内の小学校の特殊学級を授業実践校として選んだ。. かになっている(文部科学省,2003,2004)。こうした子. 参加した児童は,小学校低学年で取り組んだ教科は国語. どもたちは,従来の特殊教育の対象ではないため,これ. の書字/読字の時間であった。. まで通常学級で特に何ら制度的な配慮や支援は受けてい なかった。一斉指導の中では個別化した読み書き等の指. 3 書字学習教材の開発. 導は困難であるため,このような子どもたちは,学習効 果が低く,二次的に,自信をなくしたり,友達からいじ. 3−1 開発した教材の背景. めを受けたり,不登校や対人関係のトラブルを抱えてい. 学習に障害ある生徒の中には,読むことよりも書くこ. たりするなど深刻な事態にある(上野,2003;上野,牟田,. とに大きな困難を示す者もいれば,読み書き,つまり文. 2001)。. 字の受容と表出の両方を苦手とする者もいる。前者は視. 軽度発達障害の子どもたちにとって,学習上の困難さ. 覚を通じて得た情報を受容する視覚認知よりも,そうし. の中で最も指導の必要性が高いのは読字と書字である場. た情報を文字や文として表出するために変換し,運動機. 合が多く,その読字と書字の困難さの両方を併せ持って. 能に伝える過程のどこかが首尾良く機能していないと考. いる場合もある(柘植,2003,2004)。ところが,その特. えられるし,後者は視覚認知にも問題があると考えられ. 別支援教室で,子どもたちに指導するための専門性を持っ. る。文字を書くためには,視覚情報の分析,統合,記憶. た教員は非常に少なく,まして適切な指導の方略や教材. や目と手の運動の調整などの複雑で高度な能力が必要で. となるとほとんど提供されていない状況である(朝野,. ある。. 成田,曽根,高木,西谷,2005)。. このため,こうした児童に対しては,文字や文などの 視覚情報を絵や図などの他の視覚情報と関連させて提示. 2研究方法. したり,目と手の運動の協議を図ったりするなど,複数 の感覚器官の能力を統合させる指導が考えられる。また,. 2−1 研究の目的. 文字を書き写させるいわゆる引写課題の遂行と,聞いた. 本研究では,以上のような軽度発達障害の児童の書字. ことを書かせるいわゆる聴写課題の遂行に差があるかな. 困難を改善するために,次のような目的を設定した。第. どの視点も指導の展開に取り入れることが肝要である。. 1は,読字と書字の基礎的な力を培う指導方法をタブレッ. なお,書字に困難を示す児童生徒の中には,描画などを. トPCで検討し,教師の指導技術の向上を図る。第2は,. 苦手とする者も多いので,易しい点結びや描画課題を取. 書字障害を示す子どもの典型的な学習パターンを踏まえ,. り入れるなどの工夫をした。. それを改善する教材を開発し教育現場での指導実践に活. かす。第3は,書字教材による指導の成果や知見を特別. 3−2 教材の機能要件. 支援教室や養護学校などで応用する方策を検討すること. 教材を使用する生徒と指導する教師は,生徒の学習軌. である。. 跡を確認することができる。また学習の進歩を自らで評 価できる環境を提供する。学習軌跡は前回の軌跡が自動. 2−2 教材の開発. 的に登録され,複雑な操作をしなくてもワンクリックで. 書字障害を示す子どもに対して,次のような教材を開. 再生できるような仕様にした。. 発し,それを使った指導方法の在り方をタブレットPC. 各項目毎に点数(スコア)を設けて,段階別に点数の. によって検討した。教材開発のコンセプトは,Frostigの. 表示を変えるなどの工夫によって,学習意欲を増すイン. 視知覚促進法を援用し,知覚能力が十分に発達していな. ターフェイスを盛り込んだ。. い子どもに読み書きの基礎能力を育成するために,次の ような構成とした。. 3−3 作成した教材仕様. ・協調運動(点つなぎ課題,迷路課題線なぞり課題). 作成した教材の仕様は以下のとおりである。. での指導. 1)管理者及び学習モード. ・視知覚操作(図と地の弁別課題選択抹消課題)で. ・管理者モード(教師用). の指導. 教師用管理モードには,ログインしている生徒に. ・ひらかなの書字練習での指導. ついて以下の内容を表示する。.
(3) 91. 書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善. ◎生徒が練習した教材名と回数 ◎前回生徒が練習した軌跡,練習時間. 劇. /. ・生徒用モード. 護灘藻織輔繍鱗灘鞭慧. 生徒用学習モードでは,以下の内容を表示する。. ・騨聾藁鎌繍繕. 嘗. ◎各練習問題へのアクセス. …轟葉軸. G. ◎各練習問題の画面では,例題の表示. o. ◎前回の軌跡. o. 9. ■. φ. ,9...華. 燈. ◎項目毎の点数の表示が選べる。. レ/曝 〔3 臨. 2)教材の概要. (図3 線なぞり学習の画面). 本研究で開発した教材は,1)ひらがな48文字,2) 漢字(小学校一年生が学ぶ),3)点つなぎ, 4)線な ぞり, 5)迷路 から成る。. 自 ・〔;顛. 凶. >r. ▲. /. レ i. 鷹嚇 レ /雌臼憩 駄 (図1 漢字学習のインターフェイス画面). /豊・{》・. (図4 迷路学習の画面). 4 授業実践等の事例 本章では4名の児童の書字学習実践を取り上げ,教材 とタブレットPCの有効性を論じる。 4・1 児童1. 鉱撫糞r/. 4−1−1 授業実践の経緯. 書字の困難さを持つ通常学級の子どもの相談を受ける と,その子どもは,知的には通常の水準であっても,読 み書きや意味理解,コミュニケーション,対人関係など の困難さを併せ持っている場合が多い。いわゆる通常学 級の中で6.3%が該当するという軽度発達障害の視点で の対応が必要なケースである。そのような子どもは通常 学級の中で字を書くことの苦手さを日々感じ,学習にや る気を失っている場合もある。その子どもに書くことに. 興味を持たせ楽しく学習できる教材があればと以前から (図2 点つなぎ学習の画面). 考えていた。そこで,ことばの教室で対応している2事 例にっいてタブレットPCを用いた書字指導を試みた。 4・1−2 児童のプロフィール. A児は,就学前にことばの遅れを指摘され,ことばの 教室幼児部に通っていた。また,就学後もことばの教室 の学齢部に通級をしている。主訴としては,対人関係の.
(4) 92. 学校教育学研究,2006,第18巻. 取りにくさ,聴覚過敏,こだわり,文字の書字の困難さ. 2)目標:点つなぎの指導(モデルの形と筆順ををよ. があった。入学後,二二と注意集中の困難さから医療機. く見て正しく書く). 関を受診してメチルフェニデートの投薬を受けている。. *指導の順序. ①手本を見る 学習に関しては,知能は高く,知識も通常に比べてよ. ②点をつなぐ順序をシュミレーションで確認する. く知っている。しかし,書字に関しては困難さが見られ. ③自分が正しくかけることを納得するまで書いて 保存することを繰り返す。 ④履歴を順に見て上達したことを確認する。. る。一年生当初は筆圧コントロールが困難であり極端に. 筆圧の薄い文字しか書けず,その文字も形がとれず判読 に苦労するほとであった。2年生になって筆圧は安定し た。ただし形を間違って学習した文字はひらかなであっ. 4−1−5指導記録(45分の指導の中で書字指導の場面の. ても容易にひらかなの形を修正することが難しい状況で. 記録のみ). ある。 癬罵一. 4−1−3 心理検査の結果. 点つなぎ場面. 自分でやってみる 「すこし変」 保存する. 学習困難の検査法の一つであるKABCによれば,. 「よく見て,どこが違うかな」. (CA8:5) 二次処理瓢94,同時処理=lI3,認知処理過程=. 「もう一回挑戦して」. こが違うか気づいていない. 「○○くんはどこをめがけて. 間違いの気づきと訂正. 「ここが違う」. 105,習得二三16,継次処理く同時処理(1%),継歯処理. く習得度(1%)となった。この検査結果からは,認知処 理過程に比べて習得度が高く,学習の積み上げはできや. 「あっ間違えた,少し変」ど. いっていますか」. 「あそっか」. 「あっ気がついた」. すいこと,また,話を聞いたりすることや順序性のある. 「似てきた」. 処理をすることの苦手さに比べて,視覚的な操作課題が. 完成と繰り返し練習. 得意であることが考えられる。本児が書字や書き順が苦 手であることも三次処理の弱さとつながっていると考え ている。また,下位検査ではく数唱〉とく位置探し〉がw1. 「青」の漢字練習の場面. %であった。位置探しの弱い子どもが文字の形の取りに くいことは,小池ら(2002)が指摘している。. く。筆i順の間違いあり. 「パソコンの先生の書き順を 見てみよう」. 4−1−4 指導計画. 前述の結果から本山の場合,優位な視覚的な刺激を多. 「よく気がついたなあ」. 「今度はきれいに書いてみよ う」. く使うことが効果的と考えられる。例えば,筆順の指導. 集中してタブレットPCに書. 「紙で練習しよう」. でもパソコン等によるシュミレーションを使ったり,モ. 「少し違っている」. 練習2回目 練習3回目 練習4回目 鉛筆で紙に書く いつもより 丁寧に書いている. 自分でパソコンのモデルと比. デルと比較したり,自分の字の学習履歴を比べたりする. 較した. ことは得意な処理であるのではと考えた。指導の具体案. もう一度紙に書いて指導者に. は以下のように作成した。. 見せた. 1)目標:文字の指導(文字の形と筆順をモデルをよ. ●実際に児童が書いた文字. く見て正しく書く). A児が書いた文字で「正」の書き方の変化は以下に表. *指導の順序:. れている。. ①手本を見る ②読み方を聞く ③絵を見て意味を確認する ④画面上に書く ⑤書き順を確認する ⑥自分が正しくかけることを納得するまで書いて 保存することを繰り返す。 ⑦履歴を順に見て上達したことを確認する。. ⑧鉛筆で紙に書く ⑨紙に書いた字とパソコンの文字を見比べる。.
(5) 書字に幽難な児童へのタブレットPCヒの教材開発と指導改善. 93. 汎性発達障害の子どもで,検査結果からは聴覚入力より. 尚美『. も視覚入力優位でありながら,視覚的な文字形態や筆順. へのフィードバックが弱い子どもにタブレットPCを適 用した取り組みである。実際に,形や筆順が違っていて. ・i 閣1 》i. もこれまでの誓事的な指示によるフィードバックだけだ. と,本人窃信の気づきによる修正ではなく,雷われて修. 正するというレベルであった。タブレットPCでは直接 自分の書いた形や文字について書き順や形を自分自身で. ゐ♂テ (図5 指導前). 視覚的に確認し,間違いに気づくことができるという効 果がある。 (図6 携導後). タブレットPCによる書字の取り組みでは次のような 効果が観察された。. 1)紙に字を書くことの苦手さを実感している子ども. 4千6 無畜. にとって,タブレットPCを使おうとする意欲が出. 実践結果から推察されることは,①子どもの学習への. る。. 意欲が高まること,②形や筆順への視覚的なフィードバッ. 2)文字の形と筆順をパソコンが評訂してくれること. クが向上することである。. が楽しい。声で間違いを指摘するよりも,筆順シュ. 本章における事例としてはあげていないが,本ことば. ミレーーションを見て気づかせることができる。. の教室に三級している1年生の通常学級児童にもタブレッ. 3)学習履歴を大分で確認するという作業は,やり方. トPCを使った書字指導を鋼の指導員が試みた。その子. さえ知らせれば子どもは自分から進んでやっていく. どもの検査結果は,CA7:5, WiSC一議によればVIQ⇒6,. 特に至)の効果は大きく,何か書かされるということ. P玲司04,FIQ謡8である。.言語理解は弱いが視覚理解は. に強い抵抗感を示す子どもへの新たな書字練習方法とし. 良い。書字では形が取りにくい。自分のフルネームは書. ての可能性が大きいQ. けず名字を書くのが精一杯である。状況理解の困難さも. ある。この児童は,紙に字を書くことを大変嫌がる傾向. 4−2 児童2. がある。そこでタブレットPCを使ってみたところ,ひ. 4−2一で授業実践の経緯. らかなだけの練習の予定が,意外と本人がどんどん挑戦. 知的障害学級には,さまざまな学習上の困難を示す児. していき,「漢字を書きたい」と言って意欲的に取り組. 童がいる。そうした児童に対して,墓礎的な学力を習得. んだ。習っていない字まで練習しようとするほどで,紙. させることが学級の主たる目標となる。書字・識字指導. での練習をすごく嫌がるのに比べて対照的であった。以. は,主要な日課となっている。ここで取り上げる児童は,. 上のことから,通常学級在籍で知的遅れがない子どもの. ひらがなやカタカナの学習に興味を示し,一一人で学習で. 場合も,このタブレットPCの学習方法は興味と意欲を. きる。従ってタブレットPC上での教材の利用は有効で. 高めるということははっきり示すことができた。. はないかと考えられた。. 子どもが文字の形を間違えて書くことの原園は,「衝 動性」,「手先の不器用さ」,ド記憶間違い」などいろいろ. 4必2 児童のプ黛フィール. なタイプがあるだろう。2っの事例はどちらも高機能広. 嘩運紘・騨校・轍児爾 i診断名. 諸検査の結果 ・田申ビネー式. i。ダウン癒候群(H9・4). 1. 54 (H養5.1.2i). 隔. (国語). τ勃(騰). 身体・医学面 ・低身長. ・視力測定不能. i言語・コミュニケーション ・話し好きで,「あのなあ, わたし 1. 膿撒・搬続鋤雪窪磐・て一の・算一魍・響明瞭で聞・取…■ が割た.臓9) i.
(6) 94. 学校教育学研究,2006,第18巻. 4−2−3指導計画. たりして,なかなか定着しなかった。. タブレットPCを使って文字の形,読み方,書き方を 覚え,将来的に文字の読み書きができるようにする。具. 書字練習のステップを,タブレットPCで◎が3回に. 体的な手順は以下のとおりであった。. なるとノートでの単音練習3回,それが合格すると言葉. 1)目標の確認. 集めを3つというように,3段階に分けた。これは,3. 「今日は,○の字を練習しよう。」. 回・3つという数が,子どもたちにとって分かりやすい. 2)タブレットPCでの書字練習. 数であること,意欲の持続という点でも適当な回数であ. ・手本を見る。. ると判断したためである。このタブレットPCを使用す. ・書き順を知る。. るようになって,M児の意欲は高まり,「やりたい」とい. ・書いてみる。. う声が頻繁に聞かれた。また,集中して取り組む時間も. ・◎が一度ついても,連続3回◎が続くまで。. 長くなった。定着については,取り組み始めて日が浅く,. ・読みを覚える。. まだ検証し切れていない。以下,タブレットPCの長所. 3)ノートで練習する. と改善点を挙げてみる。. ・○の字を三回書く。(書き順や形が正しくないとき は,PCに戻って練習). (1)タブレットPCの長所. ・0のつく言葉を集める。. ①書いたらすぐに正解(◎)不正解(◎なし)が表示され,. ・ノートに書く。(3,4個集める。). 反応が早さが子どもの思考と合っている。. 4)合格シールを貼る. ②間違えた場合も,何度でも練習できる。 ③漢字の形・書き順・意味・音がセットで表示され,. 4−2−4 指導記録 (Tは教師,Cは児童) T:今日は,どの漢字を練習しようかな。. 記憶するのに適している。. ④ノートで練習している際にも,PCに戻って確かめ. C:これがいい。(金を指定). ることができる。. T:何て読むか知ってる?. ⑤パターンを覚えると自学自習の道具として活用でき. C:「かね」. る。. T:よく知ってるね。お金の金やね。それじゃあ,さっそ. (2)改善点. く練習しようか。. C:(ペンで練習を始める。しかし,◎がっかない。). T:おかしいなあ。どこがちがうんやろなあ。書く順番,. 合ってるかなあQ C:(書き順をクリックし確かめる。). Tl分かった?ここを先に書くんやね。いいか? C:うん。(2回目の挑戦) (⑥がついて,やったあ!と喜ぶ。). T:おめでとう。よかったなあ。じゃあ,あと2つ◎がつ. ①書き順を示すペンの動きが速い。画数が多くなると 分からない。. ②書き足して補正した文字に反応しない。(短いと思っ た線を書き足して,形を整えても◎がっかない). 4−3児童3 4−3−1 授業実践への経緯. くまで,がんばりよ!. この児童が所属する知的障害学級には,4人の児童が. C:(書いてみるが,◎がっかない。). 在籍しているが,どの児童についても書字・識字指導に. T:おかしいな。どこが違うんやろう。Mちゃん,ちがうと ころ見つかったか?. は,日頃から頭を悩ませていた。中でも1人の男児は,. C:ううん。 T:ここちがうかなあ。. と,手本と見比べながら,間違いの箇所を指摘する。 C:ほんまや。(もう一度挑戦。). なかなか文字が覚えられず,本人もそのことを気にして いた。毎日のように漢字を書かせたり,読ませたり,宿 題に出したりして定着を図ろうとしたがなかなかうまく いかず,指導方法を模索していた。折良く,パソコンに. (◎がもらえて,やったあ!と喜ぶ。). よる書字・識字指導の教材が提案された。その児童は以. T:これで⑥が二つ。あと一つでPCでの練習はおしまい。. 前よりパソコンが大好きであったので,このソフトによ. がんばりよ。. る指導が有効でないかと考え,授業に取り入れてみるこ. 以下略す。. とにした。. 4−2−5評価. 漢字を覚えたいと興味を持っていたM児は,漢字ドリ. 4−3−2 児童のプロフィール. 1)児童の様子や発達状態. ルを使って練習を重ねていた。なぞり書きや視写を繰り. 年齢 男児10歳(4年生) 知的発達障害. 返していたが,筆順が間違っていたり,形が不正確だっ. ・日常生活については,自立している。.
(7) 95. 書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善. ・担任や友達とのコミュニケーションは普通に取れ. 4−3−4 指導記録. る。人なつっこく誰にでも気軽に話しかけること ができる。. ・1つのことに長時間集中して取り組むことが難し. 児童の活動. 指導上の留意点. 1.体の部分を表す漢. ・体の絵の中から,漢字で書き表す. 字を見つける。. い。しかし,自分が興味を持ったこと(例えば,. 工作,機械操作など)に対しては,集中できる時. ことのできる字(口・目・耳・手・. 足など)を探させる。 2.小黒板に書く。 ・小黒板に書かせることによって,. もある。. 3,字の間違いを見っ. 2)学習や行動上の困難な点 ・文字の認識に時間がかかる。ひらがなの読み書き. 自分の字を客観的に見させる。. ける。 ・手本になる文字と比べながら,間. ができるが,カタカナや1年生の漢字は定着して. 4. タブレッ トパソコ. 違いや曖昧になっている部分を見. いない。しばらくは覚えているが,使わないので. ンで書字練習する。. つけさせる。. 忘れてしまう。. ・書字練習(カタカナ・漢字)では,繰り返しの練. 5.. 書く。. 習になると集中が続かず,形の整った文字を書く ことができない。. ・間違った文字について練習させる が,書き順や画と画の接点,終筆 に気をつけるようにさせる。. 6.. ・ひらがなのみの文章であれば読むことができるが,. 鉛筆でプリントに. 覚えた漢字を使っ て文を完成させる。. 漢字が混じると指で一字一字押さえながら読むと. ・パソコンで練習した文字を鉛筆で プリントに書かせる。. 言った状態で,意味は理解できていない。. ・最初に書いた小黒板の字と比べて よくなったところ を見つけてほ. ・ひらがなで短文は作れるが,拗音・促音が抜けた. める。. り助詞を間違えたりすることが多い。. ・書き順を忘れたり,分からなくなっ. た字については,もう一度パソコ 4・3−3 指導計画. ンで確かめたり練習したりさせる。. 1)時間 ・通常は週二回,国語の時間に15分間パソコンによ. ・練習した漢字が抜いてある短文に 提示し,漢字を入れさせ,漢字の. る書字レッスンをする。. 使い方を知らせる。. 2)目標 ・文字を正しく丁寧に書く。. ・一年生の漢字の読み書きができる。. 書字の習熟度をチェックした結果は次のとおりである。. 1)平成16年11月下旬の考察:80字中54字正解. 3)指導の順序. 2)平成17年1月中旬の考察:80字中69字正解 つまずきやすい漢字は以下となった。. ①手本を見る。. ②読み方を聞く。. 1)書き順を間違えやすい漢字. ③画面上に書く。. (生・青・出・右・耳・花・円・気・女・田). 2)覚えにくい漢字. ④書き順が正しかったか. (村・耳・円・赤・音・虫・空・青・文). 確認する。. ⑤3回続けて◎が出るま. (入る・小さい・出る・立つ・正しい). 3)混同しやすい漢字. で書く。. ⑥自分で納得できる字が. (図7 学習する姿). (早と草,体と休,人と入). 書けたら保存する。 ⑦鉛筆で紙に3回書く。. 4・3占 評価. ⑧漢字を使った文を書く。. ●成果. ・ペンを画面にしっかり接触させて書かないと線が現 れないので,丁寧にゆっくり文字を書くという体験 をさせることができた。. ・手本と練習部分が並列しているため,見やすい。. ・書き順もその都度確認することができ,今までに身 に付いた書き順のまちがいに気づかせることができ る。.
(8) 96. 学校教育学研究,2006,第18巻. ・書くことと消すことが簡単にできるので,何度も繰 り返し練習させることができる。. ・絵や音声によって多角的に漢字をとらえさせること ができる。. ・タブレットPCを使うようになって,正しく書ける. 落ち着きがなく課題に集中して取り組めないことが 多い。 2)主な生育歴 ・1歳ごろ難聴になる。左中度・右軽度。 ・3歳ごろ,鼓膜に異常があり滲出性中耳炎が多発。. ようになった1年生の漢字が増. 両耳にチューブを入れる手術を行う。言葉の遅れが. える傾向にある。. あり,発達遅滞と診断される。 ・発音がうまくできず,コミュニケーションがとれな. ●改善点. ・ペンの角度や筆圧の加減により画面をなぞっていて も線として現れないことがある。. い状況で小学校に入学。 3)学習や行動上の問題点 ・書字では,視写が困難。ひらがな五十音の二一は20. ・画数の多い漢字になると書き順が分かりにくい。. 字程度しかできない。(図2). ・◎の判定が児童によっては甘く,本人が納得してい. ・なぞり書きでは,案内線からはみ出して書くことが. ない字になっても◎が出てしまうことがある。. ・何段階かチェック方法を変えられ,本人に合わせて 判定できることが望まれる。. ・今まで書いた字をすぐに見ることができれば,今書. よくあり,正確になぞって書くことが難しい。. ・注意集中が困難で,物の数を数え間違えたり,点を. 線で結ぶ課題ができなかったりすることが多い。ひ らがなで書かれた文字は,5文字までぐらいなら集. いた字との比較ができ,上達の過程を児童にも見せ. 中して読あるが,それ以上になると読むのが困難に. てやることができる。. なる。 ・フロスティッグ視知覚学習ブックからは,手と目の. ・今後,漢字め使い方(漢字が入った短文)も入れる ことができれば,日常の文作りにもつながるのでは. 正応の困難さがあると推察される。(図8). ないか。. ・算数は1ケタ+1ケタができるようになってきた。 国語では,漢字に興味を持ち始め,いくつか書いた. 4−3−6 まとめ. り読んだりできるようになってきた。. タブレットPCによる学習成果を結論づけるのは時期. ・絵は,線描で人間を描くとき,まだ細かい描写はで. 尚早ではあるが,児童の漢字に対する姿勢が変わってき. きないが,目や口,手,足など身体の部分を描き表. たこと,字を丁寧に書こうとする場面が多く見られるよ. わすことができるようになってきた。(図8). うになったこと,書き順を意識して書くようになったこ とである。このことは,担任にとって何より嬉しいこと であるQ. 児童にとって大好きなパソコンを使い,自ら文字の正 誤,自らの伸びやがんばりに気づかせることのできたこ の学習方法は,書字・識字指導に大変有効であったと考 えられる。. 図8フロスティッグ視知覚学習ブックの課題(左)と人物画(右). 4−4 児童4. 4−4−1授業実践への経緯. なぞり書きの案内線を首尾良くなぞれなかったり,具 体物の数え間違いなどが多い。読みも文字数が多くなる. ほど困難になるのでタブレットPCを使った授業実践で 改善ができるのでは考えた。. あ街‘け、 ぢ転iの いゾ. .つ陥ぴ :o…. 轣_4 つ嘗. ひε稽も老零ろ零. 乳ノ. や!㌔わ舞. ’一. ;ズな國/醗へ懲 お評す. 4−4−2 児童のプロフィール. 1)児童の様子や発達状態:小学2年の男児で生活年齢 は8歳。. 発音が不明瞭となることが多く,発話がやや困難な. ・で、にヅ…ほ㌢ が)凝せ、. .難献} 熱 51 く丸. @み沙1り捌. 言語発達遅滞児。聞く力があり,周りからの話しか けや質問には,よく返答できる。注意集中が困難で,. (図9 野州の練習結果).
(9) 97. 書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善. 4−4−3 指導計画. 1)目標. 図6のタブレットPCによるトレーニングでは,だい たいどの文字も案内線に沿ってかなり正確に書くことが. 大きく案内線をはみ出して書いてしまう文字をでき. できた。途中で丸める部分がある文字は,トレーニング. るだけ正確になぞって書くことができるようになる。. 前(図11)に比べて案内線からのはみ出し方が若干小さ. 2)指導計画. くなった。また,「そ」は“ろ”の形にならず,正しい. ①紙になぞり書き(1時間). 形で書くことができた。さらに「よ」は,横画と縦画の. ②苦手な文字についてタブレットPCでなぞり書き. 接するところを突き出さずに書くことができた。. 練習(10時間). トレーニング後,紙に書いたなぞり書きでは(図13),. ③紙になぞり書き(1時間). 「お」「よ」は図llのトレーニング前とあまり変わらない. 3)タブレットPCを使った授業1時間の展開. が,「こ」「に」「ぬ」は大きくはみ出さなくなったとい. ①めあての確認. うことができる。また,よく“ろ”という形になった. ②筆順の確認(アニメーションで). 「そ」は,反り返りの方向を意識して正しい形でなぞれ. ③タブレットPCで練習(3回“よくできました”. るようになってきたということができる。さらに,以前. をもらえるまで). なかった“はね”を書くようになってきたことが「お」. ④紙でなぞり書きのおさらい. 「こ」で確認できる。. 4)指導の展開 本四には,書字に於いては,以下のような問題があ. 表1:「そ」の字を“ろ”の形で書いた回数(平成筍年9月. る。それらの問題の解消をすることが本実践の目標. から平成17年1月まで). である◎実際の指導では,筆順の順に数を唱えなが. “ろ”と. 正しい形で. ら,「そこで,とんがって。」「.くるつと丸めて。」な. 曹「た回数. 曹「た回数. 視写. 6. 1. 7. なぞり書き. 6. 3. 9. タブレットPC. 0. 5. 5. ど声をかげながら行った。そしてがんばったご褒美 として本ソフトに付属している「判別ゲーム」をで きるようにした。. 練習回数の. @合計. ・「あ」「お」「す」「ぬ」「ね」「み」「め」「ゆ」な. ど途中に丸める部分がある文字が,大きく案内 図11 トレーニング前の文字. 線からはみ出してしまうことが多い。(図3) 。「こ」や「に」など書くのがやさしいと思われる. 文字も,案内線からはみ出して書いてしまうこ とがある。(図3). お. 響. そ. に ぬ } 図12 タブレットPCでトレーニングした文字. よ. ・「ほ」と「よ」は,横画と今暁の接する部分がと きどき突き出てしまう。(図10). ・視野では,「に」が鏡文字になり,「そ」がよく. 図13 トレーニング後の文字. 「ろ」となってしまう。(図玉0). 4−4−5評価. 零下は,この取り組みで案内線に近づいて書けるよう. になってきており,また“はね”をつけて書いたり, “反り返りの方向”など細部に目を向けて正しい形で書 くことができなかった文字を書くことができるようになっ 図10 「そ」の視写(左)となぞり書き(右). てきたということができる。 「お」と「よ」は,あまり変化がなかったが,タブレッ. 4−44 指導青田録. トPCでトレーニングした時はほぼ案内線に近づけて書. 図10に示すように,以前からよく案内線から大きくは. くことができており,今後紙に書く時も案内線に近づけ. み出して書いてしまう「お」「こ」「に」「ぬ」の字,視. て書くことができるようになることが期待される。. 写やなぞり書きで“ろ”という形によくなってしまう. 本実践は,紙では3.5センチ四方のマスに書き,タブ. 「そ」の字,そして横画と縦画の接するところをよく突. レットPCでは9センチ×8センチの枠内に書いた。そ. き出して書いてしまう「よ」の字について,タブレット. のため大きな動作で書く練習を行うことができた。大き. PCを使ったトレーニングによる効果を調べてみた。. く書くことで細部にも目が向き始めたと推察される。ま.
(10) 98. 学校教育学研究,2006,第18巻. た,タブレットPCによるトレーニングでは,紙に書く. 調査. のと異なる緊張感が伴っていたと思われる。. 今回の授業実践では,他のタブレット製品のペン. いつもの紙に書く練習ではないということが本児に集. を試行してみたが,使う上での感触に大きな相違. 中をさせるこどになったのではと考えられる。それは,. はなかった。それ以外のペンの材質を調査するの. 表1から伺うことができる。二二で「そ」を“ろ”の形. は時間的に困難であった。. で書いた割合は約86%,なぞり書きで「そ」を“ろ”と 書いた割合は約67%で,視写だけでなくなぞり書きでも. 5総合的な評価. よく“ろ”と書いてしまうのだが,タブレットPCの練 は,タブレットpcではかなり集中して取り組んだとい. 5−1教師について 教師に対しては次のような成果が上がったと考えられ. うことが推察できる。. る。. 習では,一度も“ろ”と書いていない。このように本児. 以上のような事柄が今回の実践で判明し,タブレット. ①字と書字の基礎的な力を培う指導方法をタブレット. PCによるトレーニングの効果が推察された。. PCで検討し,教師の指導技術の向上を図れた。 ②その過程で,書字障害を示す子どもの典型的な学習. 4−4−5 課題. パターンを踏まえ,それを改善する教材を開発し教. 今後の課題としては,タブレットPCでの成果を他の 学習にどうっなげていくかである。PCを使っての学習. 育現場での指導実践に生かせた。. は本児にとっては意欲づけと書字への導入の要素が強い。. 記する方策を検討できた。. PCを使って学習したことから,通常の鉛筆とノートを. ④教師間の研修でこうした教材の活用法や指導方法を. 使った学習に何らかのかたちでつなげていく必要がある。. 紹介できた。. そうしなければ,PCを使った学習もいっか遊びの要素. ⑤校内の研究活動の一環として書字,読字学習に取り. ばかりが強くなってしまい,新たな意欲や自信へとつな. 組めた。. ③その成果や知見を特別支援教室や養護学校などで応. がっていかないのではないかと思える。. 今後,以上のことを念頭において指導にあたる必要が. 5−2 児童生徒について. ある。また,書字については自信をつけることができた. ・つなぎや迷路学習などで書字に必要な直線,曲線を. が,読字についてはそこまで至っていない。本四の状態. 書く練習ができた。. から,読字についてはまだまだ時間がかかるだろうと思. ・読字と書字に対する学習意欲を高めることができた。. われるため,今後も継続的な指導を行い,読字への意欲. ・文字の形と筆順をパソコンが評価してくれることを. づけを図りたい。. 理解させることができた。. ・声で間違いを指摘するよりも,筆順シュミレーショ. 4−7実践のまとめ. ンを見て気づかせることができた。. 以上4名の書字困難を示す児童に対するタブレット PCと教材を使った授業実践を報告した。その結果,次. ・学習の履歴を自分で確認することができれば,子ど. のような課題が浮き彫りとなり,更に検討を行う必要が. ・直接自分の書いた形や文字について書き順や形を自. ある。. 分自身で視覚的に確認し,間違いに気づくことがで. 1)こどもの手や目の動き等から心理的背景を探る仕. きるようになったQ. もは自分から進んでやっていくことが判明した。. 掛けについての継続研究。. 目と手の引照動作が,子どもの書字能力に強く関. 6 終わりに. 連していることは識者の一致するところである。. 従って,書字の前段階の能力として,直線や曲線. 本研究では漢字やひらがな学習や点つなぎ課題,線な. を描く練習は欠かせない。今回の教材作成の仕様. ぞり課題,迷路課題などの協調運動を促進する教材など. の中に,線つなぎ,迷路,点つなぎ課題を入れた. も開発した。さらに,それらを使った指導の方略や指導. 理由はこれである。目と手の丁丁関係を子どもな. 方法が分担者の中で頻繁に討議され,その討議結果が教. りに認識することが,書字に対する心理的な不安. 材の改良に反映された。. やバリアーを除くのに有効であることが,今回の. 授業実践の事例をとおして,書字学習教材とタブレッ. 授業実践から判明した。今後,教材等を通して真. トPCを用いた学習と指導方法において,子どもに成長. 理的背景を探れるような形にしたい。. が見られるということが判明した。障害児の漢字に対. 2)タブレットのペン材質などハード要件についての. する姿勢が変わってきたこと,字を丁寧に書こうとする.
(11) 書字に困難な児童へのタブレットPC上の教材開発と指導改善. 場面が多く見られるようになったこと,書き順を意識 して書くようになったことが報告されている。教師の側 も軽度発達障害児の指導方法に新しい知見を得ており, こうした教材の有用性が確認されている。. 引用文献 小池俊英・雲井未歓・渡邉健治・上野一彦(2002).LD児の漢字 学習とその支援,北大路書房.. 文部科学省(2004).小・中学校におけるLD, ADHD,高機能自. 閉症等の児童生徒への教育的支援を行う体制整備の実施状況 調査結果について.. 文部科学省(2004).小・中学校におけるLD(学習障害), ADHD. (注意欠陥/多動性障害),高機能自閉症の児童生徒への教育 支援体制の整備のためのガイドライン(試案),東洋館出版社. 朝野浩・成田滋・曽根秀樹・栢木隆太郎・西谷淳(2005), LD・ADHD・高機能自閉症等理解啓発ハンドアウト.日本支 援教育実践学会.. 柘植雅義(2003).学習障害(LD)理解とサポートのために, 中央公論新社.. 柘植雅義(2004),学習者の多様なニーズと教育政策.勤草書房. 上野一彦(2003).LD(学習障害)とADHD(注意欠陥多動性障害). 講談社.. 上野一彦・牟田悦子(2001).LDの教育学校におけるLDの判断 と指導.日本文化科学社.. 注 本研究は,財団法人コンピュータ教育開発センターに. よる平成16年度「Eスクエア・アドバンスIT活用教育推 進プロジェクト」による研究助成を受けた。研究支援に 対して謝意を表する。 (2005.9.12受稿,2005.10.19受理). 99.
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