双方錯誤の歴史的考察(3) : ドイツ法の分析
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(2) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). V.民法典編纂 (1)概説. 】V.で論じた学説の状況下で民法典編纂はどのように行われたのだろうか。 本節では,ドイツ民法典1間定時における錯誤規定および関連する規定について. 考察する。しかし,その前に,ドイツ民法典全体についてどのように制定され たかを概観することにしよう。ドイツ民法典の制定はおよそ以下のような経過 を辿った%. 1871年にドイツ帝国が成立し,ドイッにおける政治的統一が果たされた。 そのドイツ帝国では19世紀に,プロイセンー般ラント法,普通法,フランス法,. ザクセン法といった様々な法が通用しており.これを是正するために法の統一. が求められた㌔. 北ドイツ連邦憲法を引き継いだドイツ帝国では、1871年4月に,同憲法が 改正され,帝国憲法として施行されたが,そこでは民法全体の立法権限は認め られていなかった:)。その後,1873年の憲法改正によって,ドイツ帝国の立. 法権限が債務法から民法全体に拡張され,立法の法的根拠が得られるとn,翌 1874年に5名からなる準備委員会(Verl{ommission)が設置され,以下のよう. な基本方針がまとめられた。即ち,平田教授によれぱ「①既存の法典や草案 の中からモデルを一つ選び出してくるのではなく,それらの立法経験と普通法 学を顧慮しつつ独自の草案を作成すること,②委員個人の独立した草案起草と 委員会金体による編集作業とを結合すること,③法典は民法の全体を包括すべ きであるが,商法典は独立のものとして並立させる」こと,「④民法典はカス. イステdックではなく,指導原理と最も重要な掃結や例外を規定し体系化する こと」であるfi〕aその後,1874年7月に連郷参議院においてPapeらを始めと する11名からなる第一委員会のメンバーが決定さiz 9〕,その後Papeの原案に 従って,Gebhard(総開), v. Ktibel(摂務法). Johow(物権法)T PIanck(i家. 族法),Schmitt(相続法)という5名の部分草案起草者が決定きれた7}。 244.
(3) 双方錯誤の歴史的考察(3). それらの部分草案は,1879年から82年にかけて出来あがってき、1881年か. ら87年にかけて全体委員会で審議・編集され,1887年12月にPapeから宰相 Bismarckにli 一草案として提出された。この第一草案には,種々の観点から の批判(Glerke, Menger, Ehrlichら)があった帥。. その後,1890年4月に第二委員会が設置され,翌年4月から審議に入った が草案の一部(総則,債務法総則,債務法各則および物権法の一部)は第二 委員会以前に,ライヒ司法庁(Reichsjustizamt)の準備委員会(Vorkornmision). で修正審議にかけられており,その決定は帝国の提案として第二委員会に持ち. 込まれたy)。なお,第二委員会は,常任委員10名(後に11名),非常任委員. 12名(後に13名)であっとされるが常任委員の構成員は高級司法官吏7名, 教授3名,弁護士1名で,再任されたのは,Planck, Gebhard, v. Mandry, Rttgerだけであり,官僚的性格の強いものであった1・)。このようにライヒ司法. 庁準備委員会,第二委員会の審議を経てできた第二草案については,「基本的 に第一草案を土台にしてできており,実質的根本的変更はほとんどなく,法律 用語、文体,法制度の構成といった点で全面的に修正が施された。」と指摘さ. れている11)。そうして,第二草案は,1895年10月から翌年1月にかけて連邦 参議院で審議され,第三草案として帝国議会に提出された。. その後,ユ896年2月3日から,第三草案は,帝国議会において逐条審議が なされ,一般的シカーネの禁止,自筆遺言の導入などの変更を経て,1896年. 7月1日,帝国議会で圧倒的多数を以って可決され,同年8月18日Wilhelm2 世の裁可を得て法律として成立しt民法典(Btirgerliches GesetZbuch)として. 1896年8月24日の官報で公布され,1900年1月1日より施行された。. (2)部分草案. (i)ここではドイッ民法典制定時における錯誤草案について考察する]㌔. まず,本節では,第一草案のたたき台になったGebhard(1832−1907)の部 分草案総則ついて検討する。Gebhardの手になる部分草案総則の錯誤規定は, 245.
(4) 櫛浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月}. 基本的にt・a Savignyの錯誤論を引き継いだとものとされる13)。まずGebhardの. 意思表示に対する考え方を同人の手になる理由書に基づいて確認しておこう。. なぜなら,Gebhardはその錯誤草案において共通錯誤について全く考慮してい ないがそれは同入が拠って立つ意思理論の影響が大きいと考えられるからで ある。Gebhardはこれについておよそ以下のように述べる。. 普通法における通説によれば法的な効力(rechtllche Wirkungen)を有効 に生じさせる意恩表示の要素(Moment)は,表示によって窮らかに示された 法律行為上の意欲(Wollen)に認められ,法的な難力(rec撞iche Wirkungen). の発生に向けられている意欲だけが法律行為上の意欲として,表示にと玲有 効である。それにより,その表示が,ある法効果(Rechtserfelg>を意欲され たものとして特色づけるが,実際にはその法効果(Rechtserfolg)力宝意欲され ていないなら,意欲されたものとして特色づけられた法艶な離力(rechtlicl}e. Wirkung)は生じないということになる(意思ドダーマ)。ただしt心裡留繰を 考える場合にだけ,表示は心裡留保によ1?有効性を欠いているのだが,宥魏難. に程度の差はあれ,表示は肯効だとされる傾向がある1㌔ Gebhardによれば,法的な効力(rechtliche Wirkung)を意欲したとされて いたが.実際は意欲されていなかった場合には,意思表示は無効であるという 普通法通説における意思ドダマは,逓時,種々の且つ本質自§に異なづた立擾か. ら異議を唱えられている。この意思ドダマに代わるべきものについて種々の遜. 説を批判する説における見解の一致は見られないがそれちのき鰐爆で一致し ている重要な点はr現棄の意欲を表すものとして表示が根手方になされた場合,. 法秩序は,表意者が欲していたかどうかを考慮することなくtその表示に法麹 な効力(reehtliche Wirkung)を生じさせるということである咋. (ii){3ebhardは,以上のように学説の我融即ち,意思主義麓な立場を採 る普遜法遜説と表示主義麹な立場を霧る毒1;三摺説を論じたあと,およそ暴下のよ. うに述べて部分草案の採る立撰を明らかにする。. あらゆる立法は,私人に,より高次の考慮によロて翻墾された一定の柵内 顕{三.
(5) 双方錯誤の歴史的考察(3). で,その者が追求する目的を達成できるようにその法的関係を形成する可能性 を与えなければならないことは疑いがない。問題はt’立法がこの法的な創造力 (rechtssch6pferischer Macht)を認める場合に,現実に意欲されたことを基準. とするのがよいか,それとも意思に合致しない表示でも十分であるかという ことであるIs}。重要なのは,法律によって,表意者が法的な効力(rechtliche. Wirkung)を意欲したことを重視するのか,それとも相手方が信頼した表示 を重視するのかである。意思と表示が一致するという標準的な場合には,ど ちらも同じ目的を達するが,意思と表示が乖離する場合には異なる】7)。確か. にt法律は,表意者が現実に有する意思を実現するのであり,見せかけの意思 (Scheinwille)を実現するのではないことは、当然である。しかし,見せかけ の意思が実現されることが正当化される特別な場合があるIS)。それは,心裡留. 保(裏切りの意思)の場合および言葉による軽薄な戯れの場合,即ち,表意者 がある表明(AeuBerungen)をするとき,その内容については自覚しているが その表明で示されたことを意欲する目的でその表明をしなかったにもかかわら ず,相手方がその表明を表意者が真に考えたものと過責(Verschulden)なく 理解した場合の二つの場合である。この場合には,表示は有効となるID}。しか. し,意思と表示が無意識に乖離する場合は,全く異なっており,この場合に取 引における需要を考慮することで,意思ドグマを放棄すること及び別の原理を. 墓準として立てることは,債務上の契約では認められない2%個別の法制度お よび法関係において特別な保護が善意者に認められるべきであり,自らに過責 (Verschulden)がなく,見せかけの意思を真に受ける者が,見せかけの意思を. 信頼したために,表意者が見せかけの意思を真に受けた者に与えるつもりがな. いものを受け取るべきという内容の一般法則を認めることはt非常に懸念すべ きなのである。. 本草案は,裏切りの意思(Tauschungswille)および言葉による軽薄な戯れ (leichtfertiges Spiel mit Werten)に反対し,その限りで意思ドグマを破る。そ. の他においては,本草案は意思ドグマを基本方針と看倣す。本草案は信頼原理. 247.
(6) 横浜画際経済法学第17巻第3号(2009年3月). を拒絶し,特別な理由がこれに対して存在する場合に,善意を広範囲において 保護する特別な諸規定に委ねる。しかし,同時に表示の受け手に,契約が有効 であるとその者が信頼したことで生じた損害の賠償の請求を認める・21)。. 価)以上のように.Gebhardによれば裏切りの意思と言葉による軽簿な 戯れがある場合には,意思ドグマの例外として,意思表示は有効であるが,意 思と表示が無意識に乖離する場合には、原則として意思ドグマを基準とし,特 に善意者を保謹する必要がある揚合には個別の規定で対応するという。そして,. Gebhardは.この場合に表示の相手方に信頼利益の賠償を認めることで相手方 への配慮をし,意思ドグーマを広範囲に渡って認めるのである。表示の相手方に. 損書賠償請求を認めるという点でSavignyの見解とは異なるが,基本的に表意 者の意思のみを重視するという考え方はSaVignyの見解に通底する。. (iv)以上のような意思ドグマの理解のもとに,以下ではGebhardが起草し た部分草案総則の錯誤規定を考察する。部分草案総則では,どのような錯誤が. 法的に顧慮されるかについて,9S条,99条,105条で規定され,表意者の賠 償義務について100条で規定されているL”L)。 音B分葦二i案総貝‖98条. 「法檸行為の本質的な構成要素に関する錯誤ないし表示の誤り(lrrung)に 基づいて意思表示における寵意者の現藁の意恵が、表示において意欲されたも のとして表されたことと一致しない場合には,意患表示は無効である。」. 本裏では、法難行為の本質的な構成要素において錯誤ないし表示O誤1? (1. trang)があlj,それを璽由としてt意恩と表示が一致しない場合には無効 であるとされている。. 部勢薔案総則99条 「(1)とりわけ,その地の璽類の法津行為,法舞行為が別の対象に翻系する こξ,ま恕珪別の人との覇で法餐±行為が有効であることが意撞された捲合t法. 蓬行轟霞本質薗な構雇要素に灘しで意思と憲思壼藁が一致しないと認ぬら駐る 彗きである。 嚢目.
(7) 双方錯誤の歴史的考察(3). (2)人の取り違えは,表意者が真の状況を知っていたら表示をなさなかった であろうことが認められるべき場合にのみ,重要であるua}。」. 本条では,とくに意思と表示が不一致になる場合が具体に定められ(同1項),. 人における錯誤も,一定の場合に考慮されている(同2項)。. なお,理由書によれば部分草案総則98条,99条について,ある者 が,自らの意思に合致しない意思内容を表示したことに関して錯誤に陥っ. ている場合はt以下の三つのグループに還元される。即ち,①言い間違い (Sichversprechen),書き間違い(Sichverschreiben),仕損じ(Sichvergreifen) などの間違い(lrrung,Verirrung, Irrethun)の場合2・o。②意思の表出における 錯誤(lrrtUm in der Verlautbarung des Willens)の場合,たとえば,買う(kaufen). を貸す(leihen)と同じだと考えて,それに基づいて表示する場合,または, ある外国人が,ターラー(Tialer:ユ8世紀半ばまで用いられていたドイツ銀貨). と言うが,その者がターラーをマルク(Mark)だと考える場合である・%③ 表示の内容は,表示に向けられた意思と合致し,表示に用いた表記の意味も客 観的に誤っていないが,それにもかかわらず、法律行為または法律行為の特定 の構成要素を考慮すれば,表意者が誤った観念に支配されており,現実の状況 に照らせぱその者が意欲するつもりがない法的な効力(rechtliche Wirkung). を意欲したものとして表記したことを理由に,現実の意思と意欲したものとし て表記したことが合致しない場合である。この場合は,法律行為の内容および. 効力として表記されていることに関して表意者が不正確な観念を有している 2G}o. 部分草案総則100条 「(1)意欲したものとして表わしたことが現実に意欲したことと一致しない. 表示が相手方の契約当事者に到達する場合には,意思表示の表意者は,表示の 受け手が(表意者の)現実の意思を知らなかったか,知る必要がなかった限り において,この表示によって当該相手方当事者に生じた損害を賠償する責任を 負う。 249.
(8) 横浜倒際経済法学第17巻第3号{20D9年3月). (2)この責任は,表意者が委任した仲介人によって,意思が,全く想定外で ある諸事情の結果,不正確に伝達された場合には,生じない。」. 本条では,表意者による相手方への賠償責任が認められているが(同1項),. 想定外の諸事情に基づく仲介人による誤伝達の場合には排除されている(同2 項)。. 部分草案総則105条 「契約にあたって,一方の契約締結者が,自らが不利益を被るように,給付 目的物の性状に関して錯誤し,その性状のために当該給付目的物が取引におい て支配的な概念によれば異なった種類(Gattung・oder Art)に属するであろう 場合には,契約は錯誤者のために取消可能である。」. 本条では,目的物の性状錯誤について、一定の場合に,錯誤者のみが取消可 能であるとされている。文言上から,それはSavignyの唱えた異種物定式27}を 踏襲したものであると言って差支えないだろうas)。ただし1効果を錯誤者のみ. が取消可能とする点でSavignyのそれとは異なる。この規定について理由書で はt以下のような説明がされている。’. まず,Gebhardは, ZitelmannによるSavig且yの異種物定式に対する以下の. ような批判を指摘する。即ち,客体の同一性および性状に関する錯誤は,そ. の客体に基づいて,行為者の意図がすでに個別化されていたならば,心理的 に,決して動機における錯誤と異なったものではありえず,Ulpianusの実体. (oケ託α)理論を引き継いだSavignyによる異種物定式は立法論としては あり得るが,ローマ法には含まれていない鋤,という批判である:「°)。しかし,. Gebhardによれば, Zitelmannはt本質における錯誤(error in substantia:v. わゆる「性状錯誤」)が意思を排除する錯誤であることを否定しただけで,こ の場合にも,事情によっては,錯誤者を救済することを否定しいていないとい う31)。そして,部分草案が物の性状に関する錯誤を無視しようとするならば・. 現行の法状態との関係を断つことになってしまうので,性状錯誤を意思を排除. する錯誤としてではなく鋤,動機錯誤として考慮し,合目的的方法で,錯誤 250.
(9) 双方錯誤の歴史的考察{3). 者のみに取消権を認めて必要不可欠な保護を与えるべきだとする33)。つまりT. Gebhardは,性状錯誤の場合には,政策的な配慮で錯誤者だけに取消権を付与 するとしているのである。性状錯誤の規定が,他の錯誤規定が「表示された意 思の実現(Wirklichkeit)」という見出しのもとに置かれているのとは異なり.. 詐欺や強迫と同列のものとして「意思の影響」という見出しのもとに置かれて いることからも,Gebhardが意思ドグマと実用性との調和に配慮していたこと が伺える。また同時に,ここには,Savignyの異種物定式を批判したZitelmann. の影響力をGebhardの錯誤論の中に見て取ることができる。なお,ここで挙 げられている.性状錯誤は動機錯誤に他ならないというZitelmannの理論(一. 般に「個別化理論」と言われる)は,Flumeによる批判卸を受けるまでドイ ツ民法理論を支配してきたと指摘されている:5)。. (v)ここでは,これらの錯誤規定の意義を考察すること自体が目的ではな いので,それについては先行研究に譲る36)。当事者の双方が錯誤していること,. 即ち,錯誤の双方性ないし共通性という本稿での問題意識からみた場合に,部 分草案の錯誤規定にはそれについては何らの考慮も見られない。そのことは条. 文の文言からしても明らかである。Gebhardが上述したような意思ドグマに立 脚している以上,Savignyにおけると同じように,錯誤の双方性ないし共通性. が考慮されないというのはある意味当然だと言える。実際にGebhardは,理 由書において,性状錯誤の説明に閲して,性状錯誤の場合には契約の相手方も 錯誤しているかどうかは重要ではなく,問題なのは不真正錯誤;S7)であるとい っSavignyの見解を引き合いに出している3S}。さらに具体例を挙げつつ以下の ように説明する。即ち,買主が,器が金メッキされているに過ぎないことを知っ. ているが,売主は金だと看倣す場合,契約は有効である。買主は錯誤していな いし,錯誤している売主において保護されるべき法的利益は考えられない。逆 に,売主が現実には金製の器を金メッキされたものと看倣し,この錯誤に陥っ たまま,売却する場合,買主が共にその錯誤に陥っているとしても,または買 主が実際には金の器であることを知っていたとしても,契約は効果不発生であ 251.
(10) 揃浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). るという:m)。従って,GebhardによればSavignyと同じ理由で以って.錯誤 を考慮する場合に,その双方性ないし共通性への配慮は見られないし,そのこ とは錯誤の効果にも影響しない。. このように,ドイツ民法典における錯誤規律の立法過程において,部分草案 の段階で両当事者が錯誤していた場合についての考慮は見られない。むしろ, 理由書によれば、性状錯誤に関しては,相手方も錯誤していることは重要では ないとされているeこのように部分草案では,Savignyの錯誤論の影響が強かっ た4t°)。次に,第一草案を概撰する。. (3}第一草案4日. (i)以上のような部分草案に対して.1881年にはじまる第一委員会おいて は,当該草案はほとんど支持されず,「ほとんど全ての委員はt修正提案ない し変更提案した」とされる4㌔. 第一委員会の議事録によれば,部分草案総則98条,99条に関する主だった 争点としては,. ①錯誤に基づくあらゆる表示が無効であるか,または無効が目的物を考慮し て錯誤の状態(Beschaffenheit)に依存し,それに従って本質的な(顧慮される). 錯誤と非本質的な(顧慮されない)錯誤との間で区別されるべきであるかどう か,. ②本質的構成要素に関する錯誤と非本質的構成要素に関する錯誤の区別叫 ③顧慮される錯誤と顧慮されない錯誤の区別 を挙げることができる4・O。. ①については,Gebhardの理由書で挙げられた表示の誤り(lrrung)および 表出錯誤(Verlautbarungsirrthum)で以って特色づけられた錯誤の種類を排除 して,それより狭い意味における錯誤(lrrthum im engeren Sinne:以下「狭. 義の錯誤」とする)のみを検討すること,そうして狭義の錯誤について決議し たことを排除した表示の誤り(Irrung)と表出錯誤(Verlautbarungsirrthum) 252.
(11) 双方錯誤の歴史的考察(3}. の場合に拡張することが了解された“s}。表示の誤り(lrrung)と表出錯誤 (Verlautbarungsirrthum)という分類に対しては,一般に区別をするなら,表. 示行為における錯誤と表示の内容に関する錯誤という区別のみがなされうると. いう反論があったが,Gebhardの理由書が一度は表示の誤り(lrrung)と表出 錯誤(Verlautbarungsirr thum)という区別をしたが,この区別はおそらく実用. 的な効果をもたないだろうとの理由から、それ以上追及されなかった4% ②については,まず意思ドグマについて問題となった。即ち,意思ドグマは,. 意欲されなかったことを存在していない,つまり.無効として扱うことを要求 する。意思表示のあらゆる点は等価(gleichwertig)であり,意思が欠鉄する ならば意思は崩壊するA7}。従って,問題となりうるのは,一点の崩壊が表示 全部の崩壊となるのか,または,一点が崩壊したとしても,残余の部分の表示 がなされたかどうかという意味,そして一点が崩壊したとしても残余の部分の 表示がなされたと認められるべき場合,残余の表示は維持されるという意昧に おいて仮定的意思が認められるかどうか,である4S)。次いで,本質的構成要素. に関する錯誤と非本質的構成要素に関する錯誤の区別は,法的に明確な状態を 基礎付ける規定を要する,つまり,何が本質的であるか,何が非本質的である かを区別できる基準を付与することは避けて通れないが,従来の法が十分に示 しているように,この関係に確たる基準を見つけるあらゆる試みは徒労である ’tg)。そして,本質的構成要素に閤する錯誤と非本質的構成要素に関する錯誤を 区別することは断念された。. ③については、以上を受けて,以下のことが決議された。即ち,狭義の錯誤 の場合には,顧慮されるべき錯誤と顧慮されない錯誤との問で区別されること, この区別は表示の誤り(lrrung)と表出錯誤(『Verlatttbarungsirrthum)の場合. にも及ぶこと,それに従って,法典そのものにおいてこの区別と錯誤の関係が 言及されること,であるtn)。そしてT顧慮されるべき錯誤と顧慮されない錯誤. とを限界付ける目的で,いくつかの提案がなされ,以下のものが採用された。 即ち,. 253.
(12) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 「表意者が真の事態を知っていたなら表示をなすつもりがなかったであろう. と認められるべき場合,錯誤は本質的且つ顧慮されるべきであり,その結果 表示は無効である。」. というものであるt“1)。そして,これを補完する提案として,. 「このことは,疑わしい場合には,とくに,別の種類の法律行為,法律行為 の別の目的物への関係または別の人びとの間での法律行為の有効性が意図され た場会に,認められるべきである。」. という文言が同じく採用され「・2〕,「表意者が真の事態を知っていたなら表示. をなすつもりがなかったであろうと認められるべき場合」の解釈規準が示され. たe続いて.以上の提案は,錯誤が行為の一部のみに関係する場合には,行為 全体が存続するかどうかについて情報を与えていないとの理由から,これにつ いて以下のような提案が提案がなされ,採用された53)。. 「意思表示の一部が顧慮されるべき錯誤に基づいて無効である場合,錯誤に 基づいて無効な部分を排除しても,行為がやはり成立しただろうということが 明らかにならない限り,行為全部が無効である。」. なお,この部分錯誤の規定は,現行ドイツ民法ユ39条[一部無効]のもとに なったものと指摘されている51)。第一委員会ではt結果として,以下のよう に決議された。即ち,. 「(ユ)現実の意思と表示された意思の不一致が表意者の錯誤を基礎にする場. 合,表意者が事態を知っていたならば表示をなさなかったであろうと認められ るべきときは,意思表示は無効である(顧慮される本質的錯誤)。 (2)後者の要件(VoraussetZung)が1荷たされない場合,錯誤は顧慮されない(非. 本質的錯誤)。異なった種類の法律行為,法律行為の別の目的物への関係また. は別の人びとの間での法律行為の有効性が意図された場合にはt疑わしい場合 には,当該要件は存在するものとする。. (3)意思表示の一部が錯誤に基づいて無効である場合,錯誤に基づいて無効 な部分を排除しても,取引がやはり成立しただろうということが明らかになら 254.
(13) 双方錯誤の歴史的考察(3). ない阻りt取引全部は無効である。」 というものであるSS)。 li 一委員会の多数派はこの決議によって、理論の要求. にも合致し,実務の需要にも応え,現行法との調和も十分に保たれていると考 えた開)。. (ii)部分草案105条(性状錯誤の場合に表意者による取消を認める規定) については,第一委員会での議論の結果,削除されることになった「・7]eそれは,. およそ以下のような理由による。即ち,種類の性状における錯誤は動機錯誤で あり,それ自体意思実現を排除するものではなく.これを部分草案のように取 消原因と認めるには理由が不十分である5S}。このような場合の錯誤者の救済 は,その他の法律上の救済によって扱われる。そのようなものとして,通常前 提とされた性状の性質保証(dicta et promissa),欠陥および蝦疵(Fehler und. M勤geD,・または欠訣(Fehelen)に対する担保責任に関する諸規定,売買契 約解除訴権(actio redhibitoria)に関する諸規定,および詐欺取消に関する諸 規定,前提の欠如などが挙げられている5・]。また,性状錯誤の規定を適用でき. る場合の基準を明確に定めることができないならば,この規定が多くの紛争を 生むきっかけになることに対する懸念も削除の理由として挙げられているe・)e. 価)第一委員会では,部分草案には現れていなかった合意欠如(fehlender Konsens)についても委員の提案に応えるかたちで,議論されているEt〕。これ については,以下の四つの提案がなされた。. 提案1 「双務の法律行為にあたり、一方当事者が相手方の表示を不正確に理解した が故に,当事者同士の意思の一致が欠ける場合には,錯誤の効果に関して行わ れた決議内容が準用される。」. 提案2 「当事者同士が契約を締結したものと看倣すが,個別の点に関して一致がな かった場合には,当事者同士が欠落している点に関して一致がなかったとして も,それにもかかわらず契約を締結したであろうと明らかにならないならば, 255.
(14) 柑Ii兵1到際経済法学nyOt S 17巻第3号 {2009ゴF 3月). 契約は無効である。」. 提案3 「i契約の締結のためになされた意思表示について,意思表示のひとつが意思. の欠鉄に基づいて部分的に無効である場合,一方当事者の表示の部分的な無効 に基づいて一致が達成されていなかった点に関する定めがなかったとしても両 当事者が契約を意欲したであろうことが明らかにならない限り,契約全部は締 結されていなかったものと看倣されるべきである。」 提案4fi2}. 「契約の締結のためになされた意思表示について,意思表示のひとつが意思 の欠fdtに基づいて部分的に無効である場合,一方当事者の表示の部分的な無効. に基づいて一致が達成されていなかった点に関する定めがなかったとしても両 当事者が契約を意欲したことが璃らかにならない限り、契約全部は締結されて いなかったものと看倣されるべきである。」. 以上の提案に対して,多数派によってT提案2が採用された。その理由として, 以下のことが挙げられている。即ち,提案ユは,誤解に基づく不合意(Dissens). にのみに閲しており,狭隣に過ぎること。加えてT提案1で想定された不合意 以外にも,当事者同士の表示が外部においては一致しているが,一方当事者な いし相手方当事者の側で意思と表示が完全に一致しているのではないことを理. 由に,ある点において不合意(Dissens)が存在するという場合がなお考慮に 値すること(提案2はこの場合をも含むものである).であるa3)。また,提案4は,. 錯誤の効果(上記v.(3)(i)参照)についての決議内容と到底合致しないし,. 現行法とも調和せず,i美務の需要もほとんど満たさない,と多数派により考え られたため採用されなかった6S)。. 結果として,不合意については,以下のことが決議された。即ち,. 「契約締結にあたり錯誤のために(または:誤解ないしその他の錯誤のため に),契約の一部を考慮して,意思の一一致が欠けている場合には,脱落してい. る点に関して取決めがなかったとしても契約が締結されていたであろうことが 256.
(15) 双方錯誤の歴史的考察{3) 明らかにならない限り,契約は無効である。」 というものである65)。ちなみに,不・一一Stが及んでいる契約の部分が重要では. なく,その他の点では契約が維持されるとき,不一致により生じる欠訣は法定 の規範によって填補されることが了解されたが,それは自明のことであるとし て明文化は不要とされたua)。. (iv)以上のように,第一委員会では,部分草案の錯誤規定は大幅に修正さ れた。ここで重要なのは,部分草案にはなかった不合意の規定が議論されたこ とである。しかし,第一委員会の時点では,不合意とは、一方当事者の誤解を 理由とした,または表示が外部では一致しているが,どちらかの当事者の側で 意思と表示が合致していないことを理由とした,ある点における不合意と考え られていることに注意が必要である。. (v)以上のような第一委員会における議論を経て、第一草案における錯誤 規定が成立した。個々の条文について見る前に,ここでも,まず,第一草案の 錯誤規定の立場を明確にするために.第一草案の意思表示一般に対する立場を. 確認しておく。理由書によればそれは以下のようなものである。 表意者によって表示において意欲されたものとして表記されたことが実際に は意欲されていなかった限りにおいて,意思と表示が一致しない場合,原則と なる考慮方法は二適りあり得る。現実に意欲されていることを重視するか,意 欲されたものとして表示されていることを重視するかである。第一の場合にお いて,意思表示は無効である。なぜならば,表示されたことは実際には意欲さ れていないし,意欲されたことは実際には表示されていないからである。第二 の場合においては,意思表示は有効である・r)。. 普通法の通説では,現実の意思に合致しない表示は無効として扱われてお り,とくにプロイセンー般ラント法,フランス民法典,ザクセン民法典,オー ストリア民法典およびチューリッヒ民法典,従ってヘッセン草案およびドレス デン草案,ならびにスイス債務法の諸立法も,そのような表示を原則として有 効としていない。指尊的な見解は,法的な効力を生み出すために表示を有用な. 257.
(16) 柑i浜国際経済法学第17巻第3号 (2009年3月). ものにする決定的な事情が,表示によって明らかに示されたこれら効果の意欲 (Wollen)にあるという基礎的な見解(意思ドグマ)である6s}。. このように,理由書では,まず、意思と表示の不一致の場合には,表意者の 意思を重視する意思主義と,表意者が表示したことを重視する表示主義とがあ ることが指摘され,次いで,普逓法の逓説および諸立法において.意思ドグマ. (意思主義)が指導的立場であることを確認されているが,Gebhardによる部 分草案の理由書と同じように,近似この意思ドグマに対してさまざまな観点か ら異論が唱えられ,とくに表示主義的な観点が主張されていることが指摘され ているffJ)。そして,第一草案では意思ドグマ(意思主義)と表示主義(信頼原. 理)のどちらの立場が採用されるかについて,理由書では以下のように説明さ れている。. 法秩序はt個々人に,より高次の考慮によって制限された一定の柵内で,個々. 人の法的な関係を自由に形成する可能性を認めている。法的な効力を生み出す ことに向けられた意思には,この意思が認められることにより,効果(Folge). が与えられる。そして意図された法的な形成が生じるのである。なぜなら,そ のことが意欲されているからである。このことはt必然的に以下のことを導く。. 即ち,意思と表示が一致しない場合に,法律が表示に含まれている見せかけの 意思(Scheinwille)を実現するのではなく,表意者の意思が実際にそれが現実 になることに向けられている場合にのみ,法的な効力が生じることである。他 方において,以下のことが考慮に値する。即ち,表示の相手方が表意者の文言 を信用することができないならば,つまり,全く明瞭に外部に現れている表意 者の表示が,表示の穣手方に認識可能になっていない表意者の内心の意思が外 部に現れた表示とは別のものであったと証明されることによって,後に覆され るかもしれないならば,経済上の活動の安全性と自由は阻害されることになる 7e}。しかし,そのことはt原則として正しい意思ドグマの放棄を強制するので はない。それは.意思ドグマを実施するにあたって注意して行われ,懸念すべ き結果は承認されないという結果となるに過ぎない。外観に照らして暇疵のな 258.
(17) 双方錯誤の歴史的考察③. い表示を,善意で(gute Glaubens)表意者の現実の意思を表明したものと看 倣した者のために,そういった表示が表意者の現実の意思を表明したものとし て扱われなければならないという命題を一般に認めることは,あまりに広過ぎ る。もちろん,近時の立法は,取引の需要を考慮して可能な限り善意者を保護 する傾向があり,草案でもこのことは重大な範囲において現れている。しかし,. そうはいってもそのような保護は例外に過ぎず,特別な事情のもとで正当化さ れているのである。善意者の優遇は,表意者を犠牲にして行われる。表意者の. 状況に配慮しない信頼原理(Vertrauenmaxime)は,それが区別なく適用され るなら,信頼原理が防ぐ不当性よりもはるかに重要な不当性を招くことになる 刊)o. 第一草案は意思ドグマに従うが,その意思ドグマはさまざまな方向において 崩れている。それが関係する場合が多様であるので,意思ドグマという点で統 一的に形成することは許されない。表意者が自らの表示に責任を負わねばなら ないことは,取引利益がそのことを認め,且つ相手方が表意者の言葉を真に受 ける場合に,表意者の行動が同人にとって過度でないと言い得るものである限 り,一般に維i持される〒2)。. 以上のように,第一草案では,原則として意思ドグマが採用されているが, 取引利益と表示を信頼した相手方の保護が考慮され,一定の場合に(表意者に とってあまり大きな負担にならない限り),表意者が自らの表示に責任を負う 場合が認められている。原則として意思ドグマを採用するという第一草案の方 針は部分草案に通底するが,部分草案で認められた意思ドグマの例外(部分草 案では,「裏切りの意思」と「言葉による軽薄な戯れ」(V.(2)(ii)参照)が. 列挙されたにとどまる)と比べると,第一草案における意思ドグマの例外はよ り広く認められている。. (vi)以下では第一草案の錯誤規定について考察する。第一草案の錯誤規定は,. 98条,99条,101条.102条に規定されている。. 第一草案98条 259.
(18) 横浜国際経済法学第17巻{1‡3号(2009年3月). 「(1)現実の意思と表示された意思の一致が欠けていることが表意者の錯誤. に基づく場合において,表意者が事情を知っていたならば意思表示をなさな かったであろうと認められるべきときには,意思表示は無効である。そうでな い場合には,意思表示ほ有効である。. ②疑わしい場合には,異なった種類の法律行為,異なった目的物への法律 行為の関係または異なった人との聞での法律行為の有効性が意図されたなら ぱ意思表示がなされなかったと認められるべきである。」. 第一草案99条 「(1)98条の規定に従って無効と看倣され得る意思表示は,表意者に重過失 がある場合には,有効である。. (2)表意者に重過失ではない過失がある場合には,表意者は97条3項71)の 基準に従って表示の受け手に損害賠償の責任を負う。. (3)1項および2項の規定は,表示の受け手が錯誤を知っていたか,知らね ばならなかった場合には,適用されない。」. 第一草案100条 「契約の締結の際に,契約の一部を考慮して,契約を締結した者の意思の合 致が欠けている場合には,その部分に関する取決めがなかったとしても契約が 締結されていたであろうということが明らかにならない限り,契約全部が無効 である。」. 第一草案IOI条 「98条から100条の規定は,意思表示の表意者がその伝達について伸介者を 用いて,その仲介者が意思を不正確に伝達した場合には,準用される。」. 第一草案102条 「動機における錯誤は,法律が別段の定めをしない限り,法律行為の有効性 に影響を与えない。」. 以上のように,第一草案では錯誤規定において共通錯誤については何らの考 慮も見られない。それは,文言上からも明らかである。また理由書においても 260.
(19) 双方錯誤の歴史的考察(3). 共通錯誤に関する記述は見られない〒4)。第一草案でも,原則として意思ドグマ. が採用されている以上,その例外が部分草案よりも広がったとしても,錯誤を 考慮するにあたり一方の当事者の事情だけを考慮するという枠にとどまったも のといえる。しかし,第一委員会で議論されたように,不合意規定(第一草案. 100条)が錯誤規定と共に規律されていることが注目に値する。不合意の規定 について,理由書によれば,以下のように説明されている75)。. 契約締結にあたり,双方の意思の合i致が二通りの原因に基づいて欠けること がある。一つは,契約締結当事者の表示同士は,もちろん合致しているが,一一. 方の側でその意思と表示が一致してない場合である。このような表示は,意思 と表示の不一致(第一草案95条?e,},同97条から99条(錯誤に関する規定)). のために無効であり,それにより契約締結当事者同士の意思の一致が断たれる ことがある。もう一つは,契約締結当事者の各々一方の側で意思と表示が一致 するが,双方の表示が誤解のために一致せず,契約締結当事者がそのことを自 覚していなかったという場合(狭義の不合意)である。両方の場合は,前者は 第一草案1ユ4条 ”)の適用事例(Unterfall)であることは明らかだが,同じ法則 のもとに服するのが適切である7S)。. 狭義の不合意の場合には.双方の意思の一致が欠如することは,その欠如が 両当事者の意味においてないし一一方当事者のみの意味において本質的である点. に関係する限り,契約を有効としない。それに対して,当該点がTその点に関 する取決めがなかったとしても契約が締結されていたであろうと認められるべ き点として現れる場合,残余の取決めは効力をもちつづけ,無効な部分の消滅 によって生じる欠陥(LUcke)は,法律の補充的な規定に従って補われるべき である。何らかの関係において当事者の了解が欠ける場合に.狭義の不合意の 事例において契約を区別なく無効として,または締結されていないものとして. 取り扱うことは,第一草案78条2項酎によって要求されていないしtその他 の場合にも正当化されないs))。不合意の場合を第一草案78条2項のように厳 格に取り扱うと,現行法とも著しく相違するだろうしSl),可能な限り契約が維. 261.
(20) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 持されることがその利益である取引の需要に決して適合しないだろうmn。また,. 過失ある錯誤者の損害賠償義務を定める第一草案99条はT狭義の不合意の場 合には適用されないes)。. 以上のように,契約当事者各人の側では意思と表示は一致するが,無意識的 に,お互いの表示が一致しないという狭義の不合意については,その不合意が. 一方当事者ないし両当事者にとって本質的な点に関する場合にだけ,契約は有 効とされないのである。これについて以下の二点を指摘することができる。. 第一に,Savigny錯誤論からの明確な解放という点である。即ち,第一委員 会では,不合意は,一方当事者の誤解を理由とした,または表示が外部では一. 致しているがTどちらかの当事者の側で意思と表示が合致していないことを理 由としたtある点における不合意とされていたが.第一草案では,各当事者の 側で意思と表示は一致するが,お互いの表示が無意識的に合致しない場合(狭. 義の不合意)とされた。ここでいう狭義の不合意は,Savignyによって,錯誤 と考えられていたものである91)。従って,第一草案において,この不合意規定. が規律されたことは,第一一草案の錯誤規定がSavigny錯誤論から明確に解放さ れたことのひとつの証左といえる。 第二に,契約の尊重(favOr contractuS)という点である。即ち,条文の文言. や理由書からも明らかなように,不合意があってもなるべく契約が維持される べきという観点からこの規定は認められているのである。 なお,この規定は現行ドイツ民法155条[隠れた合意欠如]a「・)のもとになっ. たものであるが,それと関連する現行ドイツ民法154条[明白な合意の欠訣; 証書作成の欠如㍗のもとになった規定は,第一草案では78条において定めら れていたm)。. (vii)本稿のテーマと関連する事項として,ここでは前提論の立法への影響 について考察するnts)。第一・草案においては, Windscheidの提11昌した前提論が,. 主として742条以下などにおいて不当利得の一種として部分的に採用された nu}。しかしt第一草案742条で採用された「前提」は,将来に関するもののみ 262.
(21) 双方錯誤の歴史的考察(3). であり,Windscheidが11昌えたような現在および過去に関するものは含まれな かった。前提が将来の出来事のみに関するとされた理由は,理由書では,以下 のように説明されている。. 過去または現在に属する諸事情について表示された前提に基づいて給付がな. されたという場合にまで前提が拡大されるという見解が支配的であるようだ が,そのような場合にまで拡大すると,法的に非常に不安定になることは避け られないだろうge)。経験によれば,前提とされた事情が将来に属し,給付が目. 的を達成するために行われたと表示されている場合にだけ不当利得が認められ るならば,法的に非常に不安的になることはない。たとえば,和解(第一草案. 667条2項)の場合のように゜n,特別な場合にのみ,過去あるいは現在に属す る事情についての誤った前提が重要である叫。. 以上のように,Windscheidの前提論は第一草案において部分的に採用され たが,それはWindscheidの理論そのものではなく,将来に関する前提のみを 規定するものであった。過去または現在に関する前提が重要な場合には,和解 のように個々の規定で対応されていた。実際,第一草案においては,「法律行 為による効果を自己制限する一般的カテゴリーとしての前提論は,当時,立法 者の決定がそれを基礎にすることが躍躇われないように見えるほど完成されて いないし承認されていなかった」と否定的に評価されていたve)。さらに「前提. は,それが個別の場合において条件として理解されるべきでない限り,法律行 為の有効性に関係しない動機という意義を有するに過ぎない」とされPt),「前提」. は,いくつかの例外あるものの95),原則として動機であるとの評価を受けてい. たのである。このようにt第一草案において,前提論は非常に制限された役割 しか担っていなかったといえるos)。. なお,第一草案公表後この第一草案の規定に対して,Zitelmannは自身の 論文において,意思表示に関して前提論を採用するべきであるという主張を している97}。即ち,Zitelmannは,自らが提案する104a条において「表意者. 坑過去あるいは現在あるいは将来の,実際あるいは法的な事情に関して,錯 263.
(22) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月). 誤に陥ってないし不知で,意思表示をする場合で且つ,当該錯誤ないし不知 がなければ表意者が意思表示をしなかったであろうと認められるべきときは, 意思表示は不適切な前提においてなされている。」と述べ,意思表示において. 前提概念を採用している。この前提が生じない場合の効果は,104b条によれ ば,「受け手に対して表示を解消する(zurUcktreten)ことができる。」という ものであり,その清算方法は利得法によるとする(104c条)9s)。 Zitelmannが. ここで提案する前提概念は,第一草案742条において規律されているものよ りも広く,将来の事情のみならず,過去,現在の事情も含まれるとしており,. Windscheidの前提論に近似するものである。しかし,後述するように,この ようなZitelmannの擁誰があったにもかかわらず,前提は第二草案で姿を消す ことになる。. (v鋤以上のように,第一草案においても、錯誤規定に共通錯誤については 何らの考慮も見られない。またt第一委員会の議事録や第一草案の理由書にも. それについての言及は見られない。しかし,第一委員会の審議を経て第一草. 案において狭義の不合意が条文として明示されたことは注目に値する。両者 が各人の側で意思と表示が一致しているが,お互いの表示が無意識的に合致し. ないという狭義の不合意は,広い意昧で双方が錯誤する場合を定めているも のといってよいだろう。この規定の意義は,私見によれば,二つある。即ち, SaVigny錯誤論からの明確な解放および契約の尊重(favor contractUs)である。. 前者については,Savignyはこのような狭義の不合意を錯誤と考えていたが’ 第一草案では,未だ錯誤規定と関連して規律されているものの,明確に別物と されたことがその理由として挙げられる。後者については,理由書によれば,. 規定の趣旨とLて取引維持という観点が指摘されていること理由として挙げら れる。なお,錯誤法における契約の尊重(favor contractus)という傾向は,第. 一委員会において錯誤規定から分化した部分錯誤(一部無効)が第一草案114 条に規定されたことからも看取される。. また,Windscheidの提唱した前提諭については,第一草案では不当利得の 264.
(23) 双方錯誤の歴史的考察(3). ひとつとして一般的規定としては将来に関するもののみが採用されたが,その 他は個別の規定にとどまっており,その役割はかなり限定されたものであった。. (4)第二草案. (i)以上のような第一草案は,ライヒ司法庁の準備委員会(Vorkommission). および第二委員会の審議を経て大きく様変わりする。 ライヒ司法庁の準備委員会では,Planck, B Orner, Struckmann, Achil正esら. によって,第一草案の錯誤規定について提案がなされた1’9)。ライヒ司法庁準備. 委員会では,まず1891年2月3日の第15回会議で以下のことが議論された。 同委員会では,第一草案98条(顧慮される錯誤についての条文)と同102条(動. 機錯誤を原則として無顧慮とする条文)について,意思と表示の不一致として の錯誤と動機の錯誤とを法典において区別することに疑問が呈され,第一草案. 102条を削除して,取引の外側に存在する動機とは対照的に,錯誤が表示の内 容,つまり,取引の構成要素に高められていることに関係するかどうかに照準 を合わせる方が適切だと看倣された1・・)。. そして,同一性錯誤ないし本質的な性状錯誤が単なる動機の錯誤と理解され. る場合この観点からすれば第一草案の文言は狭盤に過ぎることは疑いがない と幾人かの委員から強調されたがこの問題については.条文の文言によって 学説および実務を締め付けることは得策ではないとされた1°!)。さらに,表示 の内容に関する錯誤が本質的な錯誤と看倣されるべきかどうかを]1‖断するため. に,第一草案とは異なり,単に表意者の主観的な要因(表意者が事態を知って いたならば,意思表示をなさなかったこと)を基準とするのではなく,その要. 因をt表意者が事態を知っていた場合で,且つその場合を思慮分別を以って考 慮したなら意欲したであろうことを基準とすることにまで制限することが適切 だと看倣された1tr1)。. また,本質約な錯誤の効果は,無効ではなく取消可能のみが定められるべき ことが了解された1e:1}。これについての具体的な理由はここでは掲げられてい. 265.
(24) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月) ないMt)o. 次いで,翌日行われた第16回会議では,不合意を定めた第一草案100条が, 78a条によって事足りるという理由で,削除された燗)。なお78a条については,. 既に1891年1月23Hの第12回会議で以下のように審議されていた。それは およそ以下のようなものである。. ライヒ司法庁準備委員会では,当事者同士が契約を締結したものと看倣した が,あとになってはじめてある点に関して合意が実際には行われていなかった. と明らかになる場合には,第一草案78条(明らかな不合意に関する条文)の 例外を認めることが得策であるとの意図であった1ca)。第一草案ユ00条(無意. 識的な不合意に関する条文)がこの観点に立つが、以下のことがより適切であ. るとされた。即ち.この箇所(78条が規律されているところ)で無意識的な 不合意について規律すること,そして,契約締結者同士が,契約締結にあたり,. ある点に関して不合意があった場合に,契約が合意内容の限りで成立するとす るか,全く締結されていないものとするかの選択を突きつけられるとき,理性 的な方法によれば,制限された内容で契約が成立することに賛成したであろう と認められるべきとき,現実の合意内容が有効なままであることに照準を合わ せること,である]°7)。この結果,78a条は以下のように決議された。. 「当事者同士が契約にあたり,当該契約を締結したものと看倣したが,ある. 点に閏して実際には合意していなかった場合には,その点に関する定めがな かったとしても契約が締結されているであろうと明らかになる限りで,なされ た合意内容は有効である。」1°%. (ii)以上を受けて.ライヒ司法庁準備委員会では,以下のような錯誤規定 が決議された1°S)。. 97条 「(1)意思表示をなすにあたりその内容に関して錯誤に陥っていたか,また はその内容の表示を全くなそうとしなかった者は,事態を知っており且つその 場合を思慮分別を以って評価したならば表示をなさなかったであろうと認めら 266.
(25) 双方錯誤の歴史的考察(3). れるべきとき,表示を取消すことができる。. (2)表意者が伝達のために選択した人または機関(Veranstaltung)によって 表示が不正確に伝達された場合,錯誤と同等である。」. この文言構成は,B6rnerの提案に従ったものとされる11°〕。なお,ここで Btirnerは,取消可能が排除される場合で,相手方が錯誤を共にする場合には,. 錯誤がなかったであろう場合のように意思表示は有効である,という共通錯誤 を想定していると考えられる提案をLているが,採用されていない1川。. (iii)以上のようなライヒ司法庁準備委員会での審議を経て,第二委員会に. 提出された草案は,第二草案では以下のような文言に変わりt現行法とほぼ同 じ錯誤規定が成立する。. 第二草案94条 「(1)意思表示をするにあたってその内容に関して錯誤に陥っていたか,ま. たは当該内容の表示を全くするつもりがなかった者は,その者が状況を知って いたおり,且つその場合を思慮分別を以って評価したなら意思表示をしなかっ たであろうと認められるべき場合にはT表示を取消すことができる。. ②取引において本質的と看倣される人または物の性状に関する錯誤も表示 の内容に関する錯誤と看倣される。」. 第一草案の条文と比べると大きな様変わりをしているが,とくに以下の三点 が注目される。即ち,①錯誤の効果が無効から取消可能に変わったこと,②性. 状錯誤を顧慮する文言があること,③第一草案102条(動機錯誤の原則として の不顧慮)が削除されたことである。以下第二委員会の議事録に従って,これ らについて補足しておこう。. ①錯誤の効果を取消可能とする理由として、議事録によれば以下のことが挙 げられている。即ち,錯誤の効果を取消可能とすることは,プロイセンー般ラ ン1・法およびフランス民法などの広大な法領域において妥当する法に合致する. こと,第一草案に対する批判者だけでなく,連邦政府によっても錯誤の効果を 無効の代わりに取消可能とすることを薦められていたこと,表意者が本質的な 2G7.
(26) 横浜国際経済法学第17巻第3号{2009年3月). 錯誤に基づいて意思表示をしても,それを差し当たり有効なものとし,表示を 特別な意思行為(Willensakt)によって無効ならしめることを表意者の自由に 任せるならば,同人は不当な扱いを受けないこと,相手方が有効(wirl{sam). であると看倣した表示が,錯誤者が錯誤の主張をしないために,錯誤者の側で 有効であるとしても,相手方には不当ではないこと,である112]。. ②性状錯誤を顧慮する規定が再び採用された理由として,議事録によれば以 下のことが挙げられている。. 人または物の性状に関する錯誤についてTそれが単に動機における錯誤であ るとして,常に顧慮しない第一草案の立場は,取引の需要,妥当性(Billigkeit). および法の発rN’m}に適していない。そうした法の発展に見られるのは,性状. が取引において支配的な見解によれば本質的と看倣されるべき場合には、性状 に関する錯誤を顧慮されるものと看倣すということである。そして,性状錯誤 を取消原因として法的に顧慮する場合,そのことを法律で明らかにするのが得 策である11㌔. ③動機錯誤を原則として不顧慮とする第一草案102条の規定が肖1j除されたこ. とについて,議事録によれば以下の理由が挙げられている。即ち,動機錯誤と 行為意思における錯誤との問に境界線を引くことは到底できないので,「動機 錯誤」なる概念が詳細に説明されないなら,実務にとってたいして役立たない こと11S),当該規定は錯誤という概念を曖昧にしてしまうので,人における錯 誤(error in persona),客体における錯誤(error in corpore),そしてとくに性. 質における錯誤(error in qualitate)をi勤機錯誤として特色付けることは学説 に委ねられねばならないことilf・),顧慮されるべき錯誤の範囲を明確にすれば,. 顧慮されるべきでない錯誤も自ずと明確になること,であるll7,。. (iv)以上挙げた争点のほかに,議事録では,錯誤の認識可能性(相手方が 表意者の錯誤を知っていたか,知らねばならなかったこと)を取消可能の要件 とするかどうかについて議論されている。これについては興味深い指摘がある ので,紹介しておこう。それはおよそ以下のようなものである。 26s.
(27) 双方錯誤の歴史的考察(3). 取消可能の要件としてt顧慮されるべき錯誤が存在することでは不十分で, 相手方が錯誤を知っていたか,知らねばならなかったことが加えられるべきだ という提案がされた11S}。しかしtこれはオーストリア民法典以外の現行法と. 相違するし,オーストリア民法典の立場もしばしば鋭く批判されている。もっ とも,目下のところ,上記の(相手方の認識可能性を錯誤顧慮の要件とする). 提案が基礎にする表示理論に傾倒する潮流があるが,相手方の認識可能性を要 求するという点までその潮流に従うのは懸念されるべきであり,原則として意 恩理論も表示理論も採らない立場を維持するならば,とくに両者の理論のどち らも純粋には,つまり本質的な修正なしに,採用されないならば,錯誤者と相 手方または第三者の対立する利益を可能な限り融和させて,妥当性(Billigkeit). の要求に相応しい法を創出することが重要である11”)。従って,この立場から 錯誤の認識可能性を要求する提案は否定される12°)。. 以上のように,第二員会では,錯誤について,意思理論も表示理論も原則と して純粋には採用せず,錯誤と相手方または第三者の対立する利益を可能な限 り融和させて,妥当な結果を導くことが重要であるとされている。議事録によ. れば錯誤の効果を取消可能とした上で,錯誤者と相手方または第三者の対立 する利益については,具体的な多様な関係に最もよく適するものとして損害賠 償請求権による調整を提供することが至当であろうというt:1)。しかし,意思. 理論も表示理論も原則としてとらず,錯誤者と相手方または第三者の利益を融 和させて,妥当性の要求に相応しい法を創出するという指摘に鑑みれば、もは や一方当事者だけが錯誤する場合に拘泥することなく.表意者と相手方が同一 の錯誤に陥っていたという共通錯誤の場合を考慮する余地があったと思われる が、ここではそのことへの言及は見られない。. (v)以上のように第二草案でも錯誤規定においては第一草案と同様に共通 錯誤の考慮は見られない。ライヒ司法庁準備委員会においてB6rnerによって、 共通錯誤についての提案があったに留まる。従って、部分草案から第二草案ま. での審議を経て成立した現行ドイツ民法における錯誤規定(BGB119条[錯誤 269.
(28) 横浜国際経済法学第17巻第3号(2009年3月}. に基づく取消可能性]IZL’))は、もっぱら一方当事者が錯誤する場合のみを念頭. に置いた規定だといえる。他方,第一草案では錯誤規定と関連して規律されて. いた不合意規定(第一草案100条)は,ライヒ司法庁準備委員会および第二委 員会での審議を経て,第二草案では明らかな不合意(116条1es))の後ろである 117条に移されたIu・t)。条文の場所が移動した理由は,議事録によれば,無意識. 的な不合意を扱う第一草案100条は明らかな不合意と関連して規定されるのが よいという体系的観点によるものである115}。こうして,錯誤規定と関連して 第一草案で「意思欠酷」という見出しのもとに規定された無意識的な不合意は,. 第二草案においては「契約締結jという見出しのもとに明らかな不合意と共に 規定されることになる。ここに双方が錯誤する場合の一つである狭義の不合意 が錯誤から分離し,独立のものとして規定されたことが明らかになる。. (vi)ここでは,第二草案における前提論についてみることにしよう。前提 に関する規定である第一草案742条は,上述したように前提論を採用するべき というZitelmannによる論文での主張があったものの,第二草案では削除され た。その理由は,議事録によれば,およそ以下のようなものである。. 第一草案742条は,Windscheidの前提論を基礎にしているが,それによっ て取引の安全性が危険にさらされるが故に、前提は民法典の基礎に相応しくな いと確信されたことを理由に,第二委員会では誰もそれを支持しなかった12% また,近時,前提が判例および学説に与える影響も減少しつつあるt27)・当事. 者双方が,同人らが前提とした事情をその発生が確実だと看倣したが故に,そ の事情に触れないままであったが,あとになってもその事情が発生しないまま. である場合,第一草案はr将来の出来事に配慮して,前提を考慮しようとする が,その場合,前提と動機の間での区別がその判断にとって暖味になり,実務 が誤って契約外に存在する動機の影響を顧慮することになるという危険が生じ る12H)。非常に重要な契約の場合に,法律は,特別規定の設置によって劇,本 質的な意義があるに相応しい諸事情の欠如の影響を定めてはいるが,立法者は.. 一般には,信義誠実および取引膿行を指摘することで満足しなければならず 270.
(29) 双方錯誤の歴史的考察(3) 裁判所がそれで以ってやり繰りするだろうことを期待しなければならない1:1°)。. 以上のように,第一草案742条が第二草案で削除された理由としては,取引 の安全の考慮,前提と動機の区別が陵昧なことが挙げられている。他方.前提 の問題の一般的な解決は信義則および取引慣行に委ねられねばならないと指摘 されていることは,民法典制定後において,ライヒ裁判所が共通錯誤が問題と. なった事例に信義則を用いて解決するようになったという観点から興味深い。 なお,ここで議事録が問題にしている「前提」は、一方当事者による前提では なく,当事者双方による前提であることに注意が必要である。 (vii)以上見たように,第一草案での錯誤規定は、ライヒ司法庁準備委員会. および第二委員会の審議を経て,第二草案において大きな変容を被ったが,第 一草案と同じく共通錯誤に関する考慮は見られない。. 第二委員会の議事録に見られるように、錯誤について,意思理論も表示理論 も原則としてとらず,錯誤者と相手方または第三者の利益を融和させて.妥当. 性の要求に相応しい法を創出するという指摘に鑑みれば表意者と相手方が同 一の錯誤に陥っていたという共通錯誤の場合を立法段階において考慮する余地. があったと思われるがTこれについては何らの指摘もないe 双方が錯誤する場合のひとつである無意識的な不合意の規定は,第一草案で は未だその他の錯誤規定と関連して規定されていたが,第二草案では,ライヒ 司法庁準備委員会での審議を経て、錯誤から分離され,「意思の欠訣」の見出 しから,「契約締結」の見出しに移され,明らかな不合意の規定と関連して規 律された。つまり,無意識的な不合意が第二草案において完全に錯誤から分離 独立したのである。また,その規定の趣旨は,第一草案と同じく,可能な限り の取引の維持であるという点も注目される。. Windscheidの前提論を基礎とする第一草案742条は,取引の安全の考慮, 前提と動機の区別が暖昧なこと,そのような問題の一般的な解決は信義則およ び取引慣行に委ねられねばならないことを理由に第二草案では姿を消すことに なった。 271.
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