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エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案

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(1)エチュード手法に依拠した コミュニケーションメソッドの開発と提案 大 江 ひ ろ 子 Key words:コミュニケーション,エチュード,ケースリード,ブレイン・ストーミング,KJ 法,リー ダーシップ. 1.研究の背景と問題意識. 経験できるかが重要であるとの問題提起を行っ て き た(大 江 2010a,2010b,2011a,2011b. 本研究 は,2010 年度 に,筆者 が 横浜国立大. ほか).これまで一貫して,ケースメソッドの. 学共同研究スタートアップ研究助成をいただい. 運用と振り返り,そしてフィードバックを繰り. て遂行してきた「次世代を担うリーダー育成の. 返す学生参加のワークショップにより,参加者. ためのコミュニケーションゲームの開発」プロ. の意欲を喚起し,興味をかきたて,当事者意識. ジェクトの途中経過をまとめたものである.そ. を持続して,問題に対峙する姿勢を培うような. もそも, 筆者が, この共同研究を開始するに至っ. 試みを重ねてきた.そうした問題意識や取り組. た背景には,世の中で指摘されている,若年層. みを具体的なスキームとして汎用的なモデルに. のコミュニケーション力の低下による協働体制. 昇華し,これを世に問い,様々な実践的な場面. 構築の難しさがある.この問題は,何も,大学. で実装するレベルを目指す趣旨から,「次世代. 生や新社会人の現場に限らず,世代を超え,小. を担うリーダー育成のためのコミュニケーショ. 学校などの初等教育の現場においても,大きな. ンゲームの開発」プロジェクトを共同開発に賛. 喫緊の課題として俎上に上っており,その解決. 同された ㈲ 四谷事務所様とともに行ってきた. に向けた取り組みは,関係省庁を巻き込んだ試. ところである.. 行錯誤の様相を呈してもいる.これまで筆者は,. 事実,実践的学びの重要性や有効性を巡る先. 日本危機管理学会に設置された「学校の危機管. 行的な知見には一定程度の蓄積があるし,これ. 理問題に関する研究部会」座長として本課題に. まで,筆者は,たとえば,ケースメソッドにのっ. 取り組むとともに,コミュニケーション論や情. とった学びの提案,特に,コミュニティにおけ. 報ネットワーク論が示唆するステイクホルダー. る社会問題の解決におけるステイクホルダーの. 間の協調行動促進,信頼醸成,互酬の規範によ. 振り返りと気づきの伝播に関する実証研究を. る問題解決の見地から,この問題への貢献策の. 行ってきた(大江・大倉・中野(2010a),大江. 模索を行ってきた.その中で,学生に代表され. (2010b),大江(2011a)ほ か).本稿 で は,こ. る若年層に,実践的な問題解決の擬似体験の場. れまでの研究成果をより実践的に活用するた. を提供することが有意義であり,また,チーム. め,横浜国立大学の共同研究スタートアップ助. 協働による問題の所在確認,問題解決の方策を. 成を受け,教育現場における学びの素材の提案. 実践的に提案するレッスンをどれだけ具体的に. を試みるものである..

(2) . (180). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 本稿の構成は,次のとおりである.まず,次. ムとそのためのツールの提案を行う.これによ. の第 2 節において,問題解決のための手法とし. り,ケースメソッドにおいて中核的役割を果た. てビジネスの現場で多用されている手法の中. すリーダーの位置付けをより明確にすることも. から,ブレイン・ストーミング,KJ 法,マイ. 可能となろう.. ンドマップの 3 手法の強みと特徴を概観した上 で,筆者が取り組んでいるケースメソッドに基. 2. 1 ブレイン・ストーミング法. づくグループ討議方式による問題解決の協働プ. 欧米ではこの手法を,リスク管理など実際の. ロセスをサーベイする.その上で,そこに用い. ビジネス現場において頻繁に活用している.本. るロールプレイングによるエチュード (練習曲). 節では,この手法を,主に,PMBOK との関係. の実践模様を紹介する.ここでのエチュード・. 性に着目して概観していく.ブレイン・ストー. ワークショップの実践とそこから得られた知見. ミング法は,米国の広告代理店の副社長を務め. を 巡 る 考察 は,既 に 刊行済 み の 大江(2010b,. たオズボーン(Osborn, A. F.)氏が開発した発. 2011a,2011b)に詳しい.. 想技法に端を発し,その意味するところは,文. 次に,第 3 節において,筆者の講義「企業環. 字通り,「課題を巡り,ブレイン(脳)でストー. 境システム論」を履修した学生の参加により実. ム(突撃)する」である.オズボーン自身は,. 施したワークショップから,①ケースリードの. 想像力豊かな発想は,①アイディアを引き出し,. 推進において重要だと思われる論点を参加者の. 可視化し,構造化する,②冷徹な判断により,. 経験と振り返りからマッピングし, その中から,. 発想されたアイディアを分析し,選別すること. ケースメソッドにおいて期待され,評価される. でケアする,との 2 つの文脈から説明している. リーダー像を洗い出し,②ケースリードの過程. ( Osborn, 1952a, 1952b, 1953/1979, 1955, 1956a,. から得られた論点を整理し,円滑な議論を支援. 1956b, 1962, 1964a, 1964b)オ ズ ボーン は,こ. する上で有効なワークシートを提案する.. れら 2 つの思考法をもって,決断に躊躇するよ. 最終節では,この考察の流れから,翻って,. うな場合にこそ,想像がアイディアを生み出す. ケース リード 参加者 が 評価 す る リーダーの 機. という信念を持つべきことを示唆している.. 能発揮の重要性が,参加者にいかに認識され,. 実際に運用する場合には,通常,進行役 1 名. また期待されているのかを確認するとともに,. を中心に複数名が集まり,ある検討テーマに対. リーダーシップのもとで,グループ構成員が問. してできるだけ多くのアイディアを出し合って. 題の所在を見極め,検討の道筋を検討し合い,. いく.その際,重要なのは量(アイディアの数). 設定された問題解決ゴールに向けての取り組み. であり,個々の質は問わない.これは,結果と. が円滑に行えるための支援の在り方に論考を加. して良質のアイディアが増える可能性を重んじ. える.. る,すなわち,「アイディアの質は量に比例す 2.問題解決のための手法. る」という考えに基づいている.そこで,重要 となるのが,以下の 4 点からなる実施ルールで. 現在,代表的な問題解決のための手法として. ある.. 活用されている 3 つのアプローチを取り上げ,. ①自由奔放. それぞれのエッセンスから問題解決のために動. 自由奔放なアイディアを歓迎する雰囲気づく. 員されるべき要素の洗い出しを行い,本研究が. りが重要である.奇抜なアイディアや一見テー. 貢献しうる余地を明確化し,潜在的次世代リー. マとは無関係に思えるアイディア,あるいは実. ダー候補者である大学生の意識や評価の視座か. 現不可能なアイディアに対してもグループがま. ら,リーダーシップ開発に貢献するカリキュラ. ずこれを歓迎することが求められる.こうした.

(3) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (181). . 図 1 ブレストの実践模様(2011.1.25). 雰囲気によって,参加者は自由にアイディアを. り,具体的な問題解決を目指すこととなる.図 1. 出す気持ちになる,そうした土壌づくりが第一. は,2011 年 1 月 25 日に実施したブレイン・ス. のルールである.. トーミングの模様である.当日は,「地域医療. ②批判厳禁. とコミュニティの相互支え合い」 というテーマ. メンバーが出したアイディアに対する批判は. のもと,問題解決を巡る討議を行ったが,課題. 厳禁される.参加者が「批判される」ことを恐. が,経営学を学ぶ参加メンバー(横浜国立大学. れ,萎縮することを排し,発話の制約やタブー. 大学院博士課程前期学生)にとって新たな論点. が排除されるようになる.. を多く含んでいたこともあり,逆に,斬新なア. ③質より量. イディアや,時に,荒唐無稽にも思える豊かな. アイディアを出す段階では,その良し悪しは. 発想からの発言が相次いだ.ここでは,メンバー. 判断できない.そこで進行役は参加メンバー全. の間に情報格差が殆どなく,各チームとも,進. 員が発言し,多様なアイディアが出されるよう. 行役のリーダーの指揮のもと,畳みかけるよう. 議論を活発化させていく.. な発言の織り為しは予定時間の 90 分ぎりぎり. ④便乗発展・連想・連結. まで繰り返された.. メンバーから出されたアイディアに相乗りす. ところで,ブレイン・ストーミングは,欧米. ることはもちろん,便乗することでアイディア. ではプロジェクトマネジメントにおけるリスク. を発展させることが歓迎される.相互のアイ. 抽出などの多くのビジネスシーンで多用されて. ディアに刺激され,新たな発見が生まれる側面. いる.事実,近年プロジェクトマネジメントの. に期待する.. グローバルなデファクトスタンダードになりつ つ あ る PMBOK( Project Management Body. こうしたルールのもとで参加者同士できるだ. of Knowledge)では,リスクマネジメントに. け多くのアイディアを出し合い,出尽くしたと. おける情報収集技法の 1 つとしてブレイン・ス. ころで,実際に使えそうなアイディアを絞り込. トーミ ン グ を 挙 げ て い る.PMBOK は,米国. んでいくのだが,ブレイン・ストーミング法に. の 非営利団体 で あ る Project Management . は整理の技術は盛り込まれていないため,次節. Institute(PMI)が,策定しているガイダンス. 以降で考察する KJ 法やマインドマップ等によ. の中で,42 の過程を提唱している.それらは,.

(4) . 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). (182). 䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱ផㅴ䈮䈍䈔䉎䋹䈧䈱䉣䊥䉝䈫䊑䊧䉴䊃 䌂䌓㹢⇣䈭䉎⷗⸃䠈ⴣ⓭䠈⊒⷗䠈หᗧ. 䂹 䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱▸࿐䉕ቯ䉄䉎. ~スコープ~ 䂹 䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱ല₸䈎䈧ലᨐ⊛䈭ㆇ༡䉕࿑䉎 䌾タイム (T) ・ コスト (C) ・ 品質 (Q) 䌾 䂹⤌⧊㻌䞉㻌㈨ᮏ䉕᦭ല䈮ᵴ↪䈜䉎. ೝ ỗ 䊶 ༐ ⿠. 䌾人的資源 ・ コミュニケーション 䌾 䂹 䊒䊨䉳䉢䉪䊃䉕ᚑഞ⵰䈮ቢੌ䈘䈞䉎. ೝ ỗ 䊶 ༐ ⿠. 䌾リスク ・ 調達 䌾. 䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱ో૕ᦨㆡ䉕ታ⃻䋽 統合. 図 2 PMBOK の骨格(9 つのエリア)とブレスト. 次の 5 つの基礎的プロセス群及び 9 つのナレッ. のフレームワーク──基本的な考え方,手順,. ジ分野にまたがる(図 2) .. ツールとして利用されており,日本でも経済 産業省を中心に PMBOK などに準拠したプロ. ◆ 5 つのプロセス群 :. ジェクトマネジメントの体系付けが進められて. 1.立ちあがり(Initiating). きた(芦屋会計事務所 2011).. 2.計画(Planning). こうしたフレームワークが要請される背景に. 3.実行(Executing). は,プ ロ ジェク ト の 短期化・低予算化 に 加 え. 4.監視(Monitoring and Controlling). て,プロジェクトを取り巻く環境の不確実性が. 5.終結(Closing). 増してきた中で,計画通りにプロジェクトを運 営することが困難になるケースが多い事情が挙. ◆ 9 つのナレッジ分野 :. げられよう.ダフィー(2007)は,このフレー. 1.統合(Project Integration Management). ムの中でも,必要なリソースを見きわめる,目. 2.スコープ(Project Scope Management). 標をはっきりと定める,途中で必要な修正を施. 3.タイム(Project Time Management). す,の 3 点の重要性を強調している.これは,. 4.コスト(Project Cost Management). 米国のマネジメントコースで強調されるポイン. 5.品質(Project Quality Management). トであるが,日本企業の組織風土や文化からす. 6.人的資源(Project Human Resource Management). ると,むしろ,ステイクホルダーとうまく話を. 7.コ ミュニ ケーション(Project Communications. つける,リスクを上手に管理する,といった要. Management). 素に関心を払うべきとの主張もある(田中・大. 8.リスク(Project Risk Management). 江 2010).その中で,田中らは,システムの. 9.調達(Project Procurement Management). プログラミングを例に,各ステイクホルダーの. PMBOK は,各種プロジェクトを実施する際. 関係性を,外・中・コンピュータとの関わり合.

(5) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (183). . 䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮䈱. ឭଏ⠪䋨㐿⊒䋩䈱ⷞὐ䋺㐿⊒䊒䊨䉶䉴䈫⺖㗴 ᖱႎ䊥䉴䉪ኻᔕ 䉰䊷䊎䉴ຠ⾰⏕଻. 䊙䊷䉬䊁䉞䊮䉫 ༡ᬺജ ᅷᒰᕈ䈱วᗧᒻᚑ. ᄖ䈱ੱ䈫䈱㑐䉒䉍 ડ↹┙᩺. ㆇ↪. ੐ᬺጀ 䉼䊷䊛㑆⺞ᢛ. ⷐઙቯ⟵䊶౒ㅢℂ⸃. 䉲䉴䊁䊛⚿ว. ⸳⸘. ਛ䈱ੱ䈫䈱㑐䉒䉍 䉲䉴䊁䊛ጀ 䉼䊷䊛ㆇ༡. 䉮䊮䊏䊠䊷䉺䈫䈱㑐䉒䉍 䉸䊐䊃䉡䉢䉝ጀ. 䊒䊨䉫䊤䊚䊮䉫. 図 3 開発プロセスと課題マップ 表 1 オズボーンの主な議論 主 張. 主な議論(原文)と出典. 想像力がなしえる範囲の広さ. “as a term, imagination covers a field so wide and so hazy that a leading educator has called it an area which psychologists fear to tread”(Osborn, 1952a, p. 3).. 潜在的想像力の活用. “each of us does have an Aladdinʼs lamp, and if we rub it hard enough, it can light our way to better living – just as that same lamp lit up the march of civilization”(Osborn, 1952b, p. 8).. 創造的思考 の 重要性 と 批判 の “it concentrates solely on creative thinking and excludes the discouragement and criticism 排除 which so often cramp imagination”(Osborn, 1952b, p. 272) ア イ ディア 発案時 の 質 よ り 量 “the more ideas you think up, the more likely you are to arrive at the potentially best leads ポリシー① to solution”(Osborn, 1953/1979 p. 124) 同上②. Research proved his hypothesis to depict groups producing 90 percent more ideas when judgment was suspended versus not suspending judgment( Osborn 1953/1979, 1962, 1964a).. 創造的成功のカギ. “deferment-of-judgment during ideative effort to keep the critical faculty from jamming the creative faculty”(Osborn, 1962). C P S ( C r e a t i v e P r o b l e m “ … the CPS process depicting three distinct components: fact-finding, idea-finding and Solving)プロセス solution-finding”(Osborn, chapter8, 1953/1979).. いの 3 つのフェーズに分割して,各フェーズの. する批判を排し,便乗・連結による協働の重要. プロセスにおける課題を認識し,個々に対処す. 性は,不確実性が増す中,ますます大きくなっ. べきことを説いている(図 3) .. ていこう.. いずれにせよ,各フェーズで望ましい道筋を. なお,表 1 に,オズボーンの主張とその概要. 探し出す上で,ブレイン・ストーミングが強調. を示す.彼の議論は,多くの著作に一貫して主.

(6) . (184). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 張 さ れ て い る が, 「想像力」と「自由 な 思考」. 並べ,カードを 1 枚ずつ類似印象のもの同士を. の計り知れない可能性について,互いに批判す. まとめてグループを作っていく.直感で分類さ. ることなく,量があればあるだけ,その中から. れた小グループには,できるだけ具体的な表現. 有意味なエッセンスが抽出される可能性が高ま. で見出しを付け,その後,中→大→さらに大き. ることを強調している.. な括りへ,とグルーピングを繰り返し,最終的 に 5,6 つ程度の大グループが構成されるよう. 2. 2 KJ 法. にする.. 前節で概観したブレイン・ストーミングが,. ③図解化. 発散の手法であるならば,本節で取り上げる. 次に,グループ間の関係をマッピングしてい. KJ 法は,収束の手法とも言えるであろう.つ. く.グループ間の関係(相互・対立・原因・結. まり,ブレイン・ストーミングが,新たなアイ. 果等)が分かるように線でつないだり,丸で囲. ディアを生み出すためのアプローチであるなら. んだりする図解化を,大→中→小グループの順. ば,KJ 法は,ブレイン・ストーミングなどに. に繰り返し,グループ相互の関係を見える化し. よって得られた多種多様なアイディアを整理. ていく.. し,所期の目標に向けて再編成し直して問題解. ④文章化. 決に向けた段取りを組む上で多用される手法と. 上記③で図解化したものを最後に文章化す. 言える.KJ 法という呼称が,考案した文化人. る.これにより,図解化の矛盾や誤りを発見す. 類学者の川喜田二郎氏の頭文字に由来すること. ることにも繋がる.最終的には図解化,文章化. は余りに有名であるが,川喜田(1967,1970). されたものを再度,議論に供し,検討課題の本. によれば,おおよそ,この手法は, 「フィール. 質を見極める作業を行う.. ドワークやブレイン・ストーミングを通じて得 られた膨大な情報を,直観に基づき整理,分類,. 発想法として著名なこの KJ 法を巡る研究に. 統合することで,問題の原因分析や解決策の導. おいて,最近では,情報ネットワークで結合さ. 出を行うアプローチ」であり,実際の組織や現. れた複数の計算機で協調して行う発想支援グ. 場の定性情報やデータの整理,品質管理,職場. ループウェア郡元の開発と実装提案,発想法と. の問題点解決などの場面で多用されている ( 『発. して著名な KJ 法をネットワークでつながれた. 想法』中公新書,1967 年; 『続・発想法』中公. 複数の計算機で協調して行うためのシステム開. 新書,1970 年) .その流れは,おおよそ以下の. 発や,KJ 法の成果を客観的に評価する手法開. ような流れに沿って行われるのが通例である.. 発等が主流となっており,KJ 法の結果得られ. ①キーワード収集. る文章に着目し,これに階層的意思決定法モデ. 情報やデータを要約したキーワードを書き出 1). ル(Value Analysis)を応用して定量的な評価. すためのカードを用意する .その際,第 3 者. 手法を提案する等の成果が得られている(たと. に誤解を与えないよう具体的,かつ簡潔な表現. えば,八木下ほか(1997,1998))このように,. で書き出すよう注意する.. KJ 法実施と実験を繰り返し行いながら改良を. ②グルーピング. 重ね,KJ 法は,教育現場や組織内における問. 書き出したカードを机やホワイトボード上に. 題解決,提案の現場で多々応用されている.一. . 1)カードは紙切れや付箋紙など何でも良いが全 て同じサイズであることが望ましい.カード 1 枚 にキーワード 1 つを書き出していくべきとされる.. 方,古 く か ら,KJ 法 の 運用 の 充実 や 進化 を 巡って,たとえば,齊藤ほか(2010)や横山ほ か(2010)は,ソーシャルワーカーとしてのス キルを学ぶ過程における学習支援スキームの提.

(7) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (185). . 案や論点抽出において KJ 法を活用してもいる.. 開催,電子出版物の提供,図書及び記録の供覧,. また,KJ 法の応用系として,たとえば,株. 書籍 の 制作等 41 に わ たって お り,そ れ だ け,. 式会社日立製作所を出願人とする「アイデア抽. この手法の適用範囲の広さを示すものとなって. 出支援システム及び方法2)」が特許出願されて. いる.. いるが,そこでは, 「電子化を意識せずにペン 及び手書きの附箋を利用する場合と同等の手軽. 2. 3 マインドマップ. さで,カードや台紙に記入したキーワード等の. 支援ツールの豊富さで教育現場においても注. 情報を電子化する. 」との課題に対し,そのた. 目度を増している手法,マインドマップを最後. めの解決手段として,小型内蔵カメラ, メモリ,. に検討しよう.英国の思考学者であるトニー・. イメージ プ ロ セッサ,通信ユニットを備えた. ブザン氏が提唱したこの方法は,対象とする概. 入力デバイスと,入力デバイスによってどの紙. 念(キーワードやイメージ)を図の中央に置き,. のどの位置に情報が記入されたか等の情報を識. そこから連想できるキーワードやイメージを放. 別するための情報を埋め込み,無線タグが取り. 射線状に繋いで記録していく手法である.この. 付けられている用紙(カード及び台紙)を用い. 方法によって,見落とされがちな人間の記憶の. て,机上でブレイン・ストーミングや KJ 法を. 中にある複雑な概念やアイディアを可視化する. 行う手法が提案されている.記入されたペン情. ことができる.ツリー状に枝を張るように発展. 報,用紙情報及び無線タグの位置情報はサーバ. していくマップは,そのとっつきやすさから,. に送信される.サーバは, 「ペン情報,用紙情. 若年層向けの生涯教育現場でも様々な教材に取. 報,タグの位置情報を組合せ,それぞれの用紙. り込まれ,各方面で実験が繰り返されてもいる.. に記載された文字情報,用紙上の文字情報の位. 具体的な手順は以下の通りである.. 置情報,用紙の位置情報を算出し格納する.格. ①準備フェーズ. 納手段内の情報は,情報処理装置によって電子. A3 程度の大きさの紙と色ペンを数本用意す. 化された情報として閲覧できる. 」 (特許図書館. る.. DB 原文引用)とされているが,これなどは,. ②発想フェーズ. ICT による KJ 法の高度化を目指した発明と位. 検討テーマのイメージ化を行う.まず,紙の. 置づけることができよう.. 中心に検討テーマ(以下中心テーマと言う)を. なお, 「KJ 法」という名称自体は,商標登録. 書く.その際,発想が広がりやすくなるよう言. (第 4867036 号)さ れ て お り3),川喜田氏 の 研. 葉だけでなくイラストなどを書くことが推奨さ. 究を引き継ぐ株式会社川喜田研究所が権利を所. れる.. 有している.当該商標登録の商品及び役務の区. ─1 次キーワードの記載. 分並びに指定商品又は指定役務としては,録音. 中心テーマから連想されるキーワード(以下. 又は録画済み記録媒体の編集・複製,情報整理. 1 次キーワードと言う)を中心テーマの周りに. の方法・創造性開発の方法の教授,電子計算機. 書き出す.1 次キーワードはできるだけ早く,. ソフトウェアの使用方法の教授,技芸・スポー. たくさん書き出し,中心テーマと 1 次キーワー. ツ又は知識の教授,セミナーの企画・運営又は. ドを線で結んでいく. ─2 次キーワードの記載. . 2)出願番号:特許出願 2006─306682 出願日: 2006 年 11 月 13 日, 特 許 公 開 2008─123265 公 開 日 :2008 年 5 月 29 日 3)登録日:2005 年 5 月 27 日. 1 次 キーワード か ら さ ら に 連想 さ れ る キー ワード(以下 2 次キーワードと言う)を書き出 し,1 次キーワードと 2 次キーワードを線で結 ぶ.こちらもできるだけ早く,たくさん書き出.

(8) . (186). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). していく.以降,3 次→ 4 次→…とキーワード. ドと言う場合には,実際の問題解決に当たって. を細分化し,思いつかなくなるまでキーワード. 援用しうるスキルを実践的学習の場面で体得す. を書き出していく.. るために用いられる学びのメソッドという位置. ③整理統合フェーズ. 付けである.その意味からは,前節までで概観. 書き出したキーワードの中から類似している. してきた 3 つの手法が実際のビジネスシーンや. ものを近くに,異質なものを対比できるように. 研究の現場で実用されているのに比べ,いささ. 離すなど,書き出したマインドマップ全体を調. かその性格を異にする.このことは,本節で以. 整する.整理されたマインドマップを眺め,検. 降述べていくように,実際の社会経済の事例を. 討テーマの本質を見極めていく.. 簡略化,あるいは匿名化して作成されたケース を巡って議論する手法によることからも明らか. マインドマップの手順は以上のとおりである. なのであるが,このメソッドで体得したスキル. が,パソコンで使えるツール(フリーソフトも. は,そのまま実践的な問題解決の場面に有効性. ある)が登場していることもあって,マインド. が高いとされる(高木 2002).. マップは企業の品質改善プロジェクトなどの. このメソッドは,2 つのステップを踏んで行. 様々な場面で多用されるようになりつつある.. われる.まず,学習者がケース(事例)の中に. 英国 の Mind-mapping 社 で は,実際 に,一般. 問題を見出し,解決策を考える独習のステップ. の利用者が現場で作成したマインドマップを. である.議論に臨む前に自己の意見を固め発酵. マーケティングの一環として web ページ上で. させておく時間が必要なので,ケースを事前に. 公開 し,概念的 フ レーム ワーク や 活用 の ア プ. 配布し,議論のための準備をしてもらうことが. リケーションの普及拡大に努めてもいる(図 4. 必要となる.次に,ディスカッション・リーダー. 4). 及 び 5 ). ( http://www.mind-mapping.co.uk/. と,背景や意見の異なる複数の参加者との議論. mind-maps-examples/add-your-mind-maps.. を通して,個人の意思決定を強化させる段階で. htm2011.2.24 アクセス). ある.一人ひとりが自分の意見を論理的に説明. このように,ここまで,複数の問題解決型の. すること,異なる意見への敬意を払った上での. 手法は,それぞれにアプローチや特徴,ネーミ. 反論,参加者全員が建設的に円滑に議論を積み. ングが異なることは当然であるが,そのいずれ. 重ねようとする共同作業によって,問題を多面. も,解決策のみならず,問題の感知力も高める. 的にとらえていくプロセスに重きがある.ケー. ことができる.問題を構成するさまざまな要素. スメソッドは,ケーススタディのように奨励す. や原因,現象などと,それらの因果関係を可視. る一つの筋道や理論を理解する事例研究でも,. 化し,整理していく手段を提供している.. 全員の意見を一つにまとめるための話し合いで もなく,また,異なる意見に勝つための自己主. 2. 4 ケースメソッド. 張の場でもない.あくまでも,互いに異なる意. ケースメソッドとは,議論を通して学習者に. 見を尊重し合いながら,参加者同士の相互作用. 社会的な問題を多面的・立体的にとらえさせ,. によって問題を多面的・立体的にとらえていく. 自信をもって問題解決に向けて行動をとらせる. 共同作業であり,そのプロセスで自分の意見を. ための実践的な学習法と言える(大江ほか . 確かにしていく,個人の意思決定を支援するた. 2010:34─35) .すなわち,通常,ケースメソッ. めの議論の場である.. . 4)英 国 Mindmapping 社 へ の ヒ ヤ リ ン グ 時 (2010.8.3)に提供された資料を許諾をもとに掲載.. そのため,ケース・ディスカッションに臨む にあたり,他の議論との違いを,ディスカッショ ン・リーダーは参加者に明確に伝えておく必要.

(9) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). 図 4 マインドマップの表記例- 1 -(ICT と科学). 図 5 マインドマップの表記例- 2 -(子供向け ICT 教育システム). (187). .

(10) 10. (188). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). がある.ケース・ディスカッションにおける議 論の重要性は,考えを言葉にして発話するとこ. 3.ケースメソッド―エチュードによる 振り返りと気づきの伝播. ろにある.発言することで,より深く自分の理 論や意見を自覚することになる.また発言が他. 本節では,ケースを活用した学生参加型ワー. の参加者を刺激し,共感を促したり,思いがけ. クショップから,若年層のコミュニケーション. ない指摘を受けることもある.参加者同士が尊. の実態とそのスキルアップのためのキーワード. 敬し合う場となっていれば,個人の考えに膨ら. を抽出,相互作用や異なる見解を出し合い価値. みがもたらされよう.. 共創型の討議モデュールに分割,再構成の作業. こうした相互作用の結果から,参加者は議論. を継続.そこから,ティーチングキットを構成. 全体と自分の意見をもう一度俯瞰してメタ認知. するアプローチにより,学びの素材を構成して. することができる.このように,ケースメソッ. いく.. ドは唯一の正解を探すものではなく,それぞれ が自分なりに自分の意見に納得することが到達 点である.そのため,ケースメソッドで使用す. 3. 1 ケース討議からエチュードへ,学生発意 による進化のプロセス. るケースは,分析を加えて一つの帰結点にたど. フェーズ 1 として,まず,コミュニティにお. り着くように書かれたケーススタディのケース. ける商店街の個店の事業継続に関するケースを. とは異なり,問題を自分で発見し,多様な解決. 巡 る グ ループ 討議 を 行った.そ こ で は,テ キ. 策を議論できるように, 正解のない問いかけや,. ス ト『ケース で 学 ぶ コ ミュニ ティ── リ レー. いかようにも解釈が可能なエピソードが随所に. ションシップと問題解決の視点』(大江ほか . 描かれているのが特徴である.. 2010a)を用い,コミュニティに存在する日常. 他の手法と徹底的に違うのが,ケースメソッ. 的問題の所在の確認とその解決方策を探索す. ドでは,当初から,チーム協働のスタイルを念. る実践訓練を行った.図 6 は,2010 年 10 月 19. 頭に,リーダーの機能発揮を重視し,チーム構. 日 に 横浜国立大学経営学部生有志及 び 大学院. 成員の価値観の多様性や異なる見解に尊敬の念. 博士課程前期学生 の 参加 を 得 て 行った ワーク. を払いつつ,その違いを受け入れ,相互に協調. ショップの模様である.グループ討議をリード. しながら新たな価値を生み出す “プロセス” に. しているのは,大江ゼミナールにおいて,既に. 重きがある点である.そもそも,本研究は,コ. ケースメソッドの実験に参加し,その趣旨や,. ミュニケーションスキルの開発によるリーダー. 討議のコツを体験した学生ボランティアであ. シップの体得のための素材開発が目的であるの. る.また,大江(2011a)は,ICT を用いた振. で,むしろ,前 3 つの手法を加味しながら行う. り返りと気づきの伝播の増幅にも関心を払って. 複数の参加者が織りなすチーミングのプロセス. いるが,ここでのケース討議に当たっても,学. に関心を払っていく.. 生の発意により,ツイッターを用いた気づきの. それでは,本節における複数の手法の比較検. 伝播実験を行ったことを付記しておく.. 討の結果を踏まえ,次節において,実際に筆者. この日は,大江ほか(2010a)に採録されて. が行ってきたケースメソッドの発展系の過程を. いるケースをもとに,討議を行ったが,図 7 は,. 敷衍しながら,ケースに基づくロールプレイン. そのプロセスの白板の様子である.このケース. グ・エチュードの過程を観察し,翻って,本研. は,市街地調整により再開発が決まった駅前商. 究テーマである「次世代リーダー育成のための. 店街中華料理店の事業継続問題である.. コミュニケーションメソッド」の仮説的提示を. フェーズ 1 において,学生達が,ケースメソッ. 行っていこう.. ドにある程度慣れ,議論をリードする議長役も.

(11) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (189). 11. 図 6 ケースリードの模様(2011.10.19). 図 7 ケースリードのプロセス(同上). 一通り経験した段階で, フェーズ 2 に移行した.. 常的風景や当たり前の会話の根底に潜む社会問. そこでは, 「図書館」のケースをめぐる絵コン. 題に思いを馳せ,自由な発想で,問題の所在を. テを活用した演劇により,学生一人一人が登場. 確認する訓練を行った.. 人物になりきり,ケースの行間に潜む様々な日. 学生は 2 群に分かれ,第 1 班は脚本ライティ.

(12) 12. (190). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). 図 8 プロットを確認し合いながらエチュードの予行演習(2011.1.18). 図 9 ツイッターの画面. ングと自演→鑑賞,気づきのサイクルからケー. メディア上でバーチャルにフォロー討議する時. スの振り返りを行い,第 2 班は,ケースを巡る. 間を決めたりする上で,リアル・バーチャルで. ツイッターでの情報交換とケースに関する自由. のリーダー役の学生の負担は相当重くなり,ツ. 討議から,学びの素材としてのエッセンスを抽. イッター自体の運用が容易ではなかったことは. 出する作業に従事した. 図 8 は, 第 2 班がツイッ. 想定外であった.. ターでの情報交換を前にエチュードの進め方に. ツイッター上でのゼミナールメンバーのつぶ. 関するブレイン・ストーミングを行う模様であ. やきあいの模様の抜粋を図 9 に示す.なお,こ. る.. こで取り扱ったケース「図書館」は,本稿末尾. 第 2 班で試みたツイッターの利用は,当初,. 参考資料Aに添付する.. 共同作業のツールとして有効性を発揮するもの と期待 さ れ た.実際の運用では,チームメン. その間,@naonaoichinao はこのブログの紹介をした. バー間の価値共創に向けたやりとりやリーダー. り,あれこれ作業していたため,@n 君がその議事録を. シップ発揮や円滑な討議のための触媒機能が垣. まとめてくれたので,ここに一挙掲載です.. 間見られた.しかしながら,ルールを決めたり. ここで,1 つ断っておきたいのが,ツイッターに参加.

(13) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (191). 13. していなかった K 君が来てくれたこと.. >@n 君. 第三者である K 君や院生,四年生への報告を交えつ. たしか他の場所もあるよね.ただ,その問題点とし. つのディスカッションとなりました.. ては,ある特定のおじいちゃんがバス停が遠いからこ. >K 君(新規メンバー)への報告. れないってところ.その辺についてはどう思う?. ・Twitter を用いて,ロールプレイを行った感想 >@p 君(高校の囲碁部). >@p 君. 個人的にゼミで Twitter を使うのがだるかったです. 囲碁を使っている人々は市民の割合としては少ない.. 高校の囲碁部なのに,なんで図書館でやってたんだろ. 他の人のメリットを考える市政の立場を考えると,実. この場所で打ち込んできたのにもかかわらず,さび. 際難しいよね. しい 思い出が... 地元に囲碁を打てる環境があれば,そこでもいいん. >@s さん. じゃないかな.周りの人たちと協力して,行政に働き. 半分半分とか,もう少し対応できたんじゃないかなと. かけてみるのもありなんじゃない?. も思う.PC の使う目的もいろいろあるだろうし,設置 する規模も,大きい必要性があるかもわからないと思う.. >@y 君 初めの感想:さびしいなぁ. > @ y 君. もしなくなっちゃうなら,このような交流の場を「地. 半分半分が一番手っ取り早い解決策でもある.コミュ. 域囲碁部」とかとして活動していくのも面白いんじゃ. ニティの場を設けていく必要. ないかな >K 君 >@s さん. 半分半分とかで,いろんな人について考えることは. じいちゃんへの憐れみ,行政に対してなんでなんだ. 必要だよね. という気持ちと. 個人的な感想:いろんな人が図書館を利用したいと. 自分に対するメリット(PC の設置)は喜ばしい. 思っていることがすごいよね.みんなに大切にされて. 決まったことに対して言っても仕方ない. いるから,大切にしていきたい. 事前に言わなかったことも悪い じゃぁ,囲碁に参加していたサラリーマン側として >@n 君. のベストな解決策はどんなこと?. やっぱり寂しい. (サラリーマン)図書館で半々とかが良いな. 爺の立場的には,決定事項を報告されるのはきつい. (囲碁部)行政と話し合いを持てる場を探す→以前の. 市政だからこそ,市民の声を聞いていって欲しい. ような場が欲しい (次女)爺としては,その場が大切だったはず.行政. ここまでの各位に対する K 君の感想. へ意見を伝える手段が欲しい.半々とかが良いのでは?. サラリーマンとしての意見が一番次につながってい くように感じた. ・共通点としては. 爺の言ってた,決定事項として言われるのはつらい. ・囲碁スペースの確保のために,行政に働きかけよ. というのは分かるし,その辺に関しては,行政の問題 な気もする ほかのところがないなら,別の場所も必要かなぁ. うという意識を全員が持ち始めた →こ れは,ロールプレイを行い,感情移入があった からこその意見では?と感じる.

(14) 14. (192). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). ・囲碁スペースいらないという立場が無いという意 見はないのかな? ・め んどくささの要素と,家族としての「大切にし たい」という考え方なのでは? ・ロールプレイをする上,問題を投げかける中での 難しさも色々あった.... 的にとらえ,自信をもって問題解決に向けて行 動をとれるようになるための実践的な学習法で ある.そして,必ず 2 つのステップを踏むこと が推奨される.まず,学習者がケース(事例) の中に問題を見出し,解決策を考える独習のス テップである.議論に臨む前に自己の意見を固 め発酵させておく時間がその後の議論を有効な. ここからも明らかなように,学生達は,ツ. ものにする(大江 ほか 2010a:32)からだ.. イートのプロセスを楽しみつつ個々人の感想や. 次に,ディスカッション・リーダーと,背景. 意見を述べあっているが,必ずしもツイッター. や意見の異なる複数の参加者との議論を通し. 上では各人の見解の一覧性は不十分であり,こ. て,個人の意思決定を強化させる段階である.. こに記載したツイートの履歴も第二班の班長が. 一人ひとりが自分の意見を論理的に説明するこ. ボランタリーに切り出し,ブログに貼り付けて. と,異なる意見への敬意を払った上での反論,. くれたものを利用している.振り返り,気づき. 参加者全員が建設的に円滑に議論を積み重ねよ. 合うスキームとしては,必ずしもツイッターが. うとする共同作業により,問題を多面的にとら. 簡便な手法というわけでもないというのが総意. えることが可能となる.. であったことを付記しておく.. 再度強調 し て お く が,ケース・ディス カッ. しかしながら,少なくともリアルでのやりと. ションは,ケーススタディのように奨励する一. りや語り合いをバーチャルな手法で補足するこ. つの筋道や理論を理解する事例研究でも,全員. とは,参加者の意識や参加意欲を高める上で有. の意見を一つにまとめるための話し合いでもな. 効であるとの意見が出されている.. いことには注意する必要がある.異なる意見に 勝つための自己主張を行う場でもない.あくま. 3. 2 ケースメソッドにおける期待されるリー ダー像. でも,互いに異なる意見を尊重し合いながら, 参加者同士の相互作用によって問題を多面的・. 前節でみたようなスキームを通じ,ケースを. 立体的にとらえていく共同作業のプロセスで,. 巡る問題所在の確認やその解決に向けた討議を. 自分の意見を明確に認識し,個人の意思決定を. 試みてきたところであるが,本プロジェクトの. 支援するための議論の体系である.. 総括 と し て,筆者 の 講義「企業環境 シ ス テ ム. そのため,ケース・ディスカッションに臨む. 論」を履修した学生の参加により実施したワー. にあたり,ケースメソッドのこうした特徴を十. クショップを行い,. 分に理解したチームリーダーは,趣旨を全員に. ①ケースメソッドの推進において重要だと思わ. 伝え各自の発言を促す役割を負う.参加者同士. れる論点を参加者の経験と振り返りからマッピ. の心地良い協働の場をいかに作れるかが最大の. ングし,. 債務である.そこで議論の自然な流れを止めな. ②ケースメソッドの過程で論点を整理し,円滑. いようにし,行き過ぎた自己主張はご法度であ. な議論を支援する上で有効なワークシートを提. る.また,参加者の意見を,安易に褒めたり,. 案する.. 面白いと評価するのは避けるべきとされる(大. 3. 2. 1 通説:これまで主張されてきたケース. 江 ほ か 2010a).こ の 点 は,2. 1 で 検討 し た ブ. メソッドにおけるリーダーシップ. レイン・ストーミングにおいては,「質より量」. ケースメソッドとは,ひと言で言うと,議論. の概念もあってか,発言が少ないメンバーに対. を通して学習者に社会的な問題を多面的・立体. し,リーダーがプレッシャーをかけることもよ.

(15) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (193). 15. しとして運用されることが多いのと徹底的に異. シップ経験は,果たして自ら問題を発見し解決. なる点である.大江ほか(2010a)の共著者で. に向けて行動する次世代リーダー育成に貢献し. もあるケースライターの大倉由利子氏は, 「否. うるのだろうか.この命題にすぐさま回答を出. 定はご法度」と,この点を特に強調する.ディ. すのはもちろん簡単ではない.しかし,リー. スカッション・リーダーが唯一の正しい答えを. ダー育成にこのメソッド経験は生きてくるであ. 知っているという姿勢で,誘導的に議論をする. ろうことを定性的に予測することは出来そうで. と,参加者が受け身になり,結果,発言が減り,. ある.ここでは,以下,この理由を整理してみ. 学習効果が喪失されるからである.. たい.. また,ディスカッション・リーダー自身も参. 先ほどから述べてきた多面的・立体的に問題. 加者の意見から学ぶ・教わるという姿勢で議論. をとらえるということは,社会の事象は個人に. に臨むことが重要とされる点は,リードする役. よって解釈が異なり,まったく同じとらえ方は. と言うよりは,触媒としての機能発揮が求めら. ないということを前提にしている.そのため,. れていることを意味してもいよう.そうするこ. 視点を固定することで,問題の境界を際立たせ. とで,参加者への尊敬の念が自然と伝わり,議. ることができる.それが自己の意見をしっかり. 論の場が和やかになる効果も期待できよう.筆. 持ち,これを意識し,相手に伝えることに繋がっ. 者 は,2010 年度 に 実験的 に 行った ケース リー. ていく.しかし,それは一面しかとらえていな. ドの経験から,ディスカッション・リーダーが. い.なるべく異質な考えを持つ多くの他者と. 担うべき最大の役割は,まさに,この触媒機能. 共に問題を明らかにしていき,ある事象を 360. の発揮であろうと考えている.仮に 1 対 1 で意. 度「多面的に」とらえることが重要となってく. 見の異なる者が議論すれば,互いに自己主張し. る.. 合い,どちらかが説得されるか圧倒されるまで. 次に,問題をミクロでとらえるのか,マクロ. 議論が続くか,どちらか一方が白旗を上げ(あ. でとらえるのかによっても解釈や解決方法は異. るいは議論を放棄し) ,まったく議論にならな. なることにも注意が必要だ.当事者の視点と俯. いか,あるいは,議論が噛み合わないまま時間. 瞰の視点という二面性である.目の前の現実の. が消費されていくかのいずれかになりかねな. 問題を解決することとその背後にある問題も解. い.これでは,そもそも討議の目的が達成され. 決するために大局的にとらえること,その両方. ないばかりか,参加者の心理的軋轢を生むこと. が求められる.これは,実社会に出ている社会. にもなりかねない.それでは,個人の考えを固. 人であれば,日々,直面していることでもあろ. める実践的訓練にはなりえない.そこにディス. う.. カッション・リーダーが入り,たとえ参加者 2. このように現実社会の問題は複雑に絡み合. 人の議論であっても,ファシリテイトする役割. い,さまざまな立場の関係者が事象や問題に関. が加わることで, 討議の流れ=化学反応が起き,. わっており,その解決は,一人では非常に困難. アウトプットが生まれる道が開かれる.この意. である.このことを踏まえ,関係者の協力を得. 味から,ケースメソッドでは,2. 1 から 2. 3 ま. ながら解決に導く上で,それぞれの関係者の立. でで取り上げた主な問題解決の手法にはない,. 場を理解し共感する力と,関係者の視点を統合. 相互作用性,化学反応の惹起に重点が置かれて. して問題を立体視する力が問題解決者──リー. いることは明らかである.. ダーに 必要 と なって く る.ま さ に,ケース メ. 3. 2. 2 ケース メ ソッド 実践 に 見 る リーダー. ソッドがリーダー育成に適する理由はここにあ. シップスキル醸成の可能性 それでは,ケースメソッドにおけるリーダー. る.このような 360 度の視点,ミクロとマク ロの視点から多視点で立体的に社会問題をとら.

(16) 16. (194). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). えようとする訓練を行い,異なる他者の立場や 意見を尊重しながら,自身の思考力を強化し,. 客員教授の計 3 名でのべ 5 時間をかけて行った (図 10).. 発話することで行動への第一歩を踏み出せる模. 図 11 は,KJ 法 の 過程 で 特徴的 に 浮 か び 上. 擬的体験が可能となるならば,ケースメソッド. がってきた学生の認知レベルにおける定性的な. に置いて実践的に擬似的な問題解決の過程を経. 論点の整理図である.あくまでブレスト段階で. 験し,リーダーシップを発揮する訓練を行って. あるが,概ね学生達は,ケースリードを有効に. おくことは,実社会でのリーダーのスキルアッ. 進める上で,ディスカッションリーダー(以下,. プにとって大いに意味をもつものとなろう.. 「DL」と略す.)の機能発揮が成否を握ると感. 現実問題として,実社会の諸問題の解決方法. じている様子が明らかとなった.. とは,関係者が協力し合うことであり,リー. ここから明らかになった点として,興味深い. ダーには関係者の持ち合せる力や資源を引き出. ことは,DL に期待すること,あるいは DL が. し統合し,解決に向けてリードする行動力が求. 発揮すべき機能としては,まず,繰り返し検討. められる.他者から協力を得るその基本は他者. テーマに立ち返ること,すなわち,問題の所在. の存在に敬意を払うことである.ケース・ディ. を明確にし,ゴールを決めた時点で,それ以降. スカッションを通して他者の多くの意見に触れ. の討議はゴール指向でテンポよく行われるべき. ることで,人がもつ無限の力を確認し,異なる. であり,そのために明確なベクトルを DL が随. 他者を敬う力を養うことも期待できよう.. 時確認すべきことが提示された.次に,メンバー. 3. 2. 3 学生達 の ケース リード に お け る リー. が口々に発言するコメントを,DL は確認をと. ダーシップ評価. り,必要に応じて具体的事象やイメージと関連. それでは,実際このケースリードに参加した. 付けて可視化する等,チームメンバーが共通認. 学生は,これをどう評価するであろうか.筆. 識を持てるような工夫をするべきこと等が提案. 者は,2011 年 2 月 1 日「企業環境システム論」. された.最後に,チームメンバーが個々に発言. の最終講義の時間を活用して学生の意見聴取を. をしていくプロセスにおいて,相槌を打ったり. 行った.主体の認知,定性的レベルであるが,. 笑顔で答えたり,意識して明るい声音を用いた. 講義のシラバスに沿い,学生達は,複数のケー. り,チーム全体が和やかな雰囲気の中で討議が. ス討議を経験し,グループ内での問題解決のプ. 進むように配意すべきことが提案された.. ロセスを 5 回以上経験し,その都度振り返りを. また,学生達の意見の中には,DL のみなら. 行った経験を踏まえ,問題提起を行った.. ず,ディスカッションに参加するメンバー全員. 学生達は,ケースリードの経験を踏まえ,実. の心構えとして,ブレストの極意でもある「便. 際にケースメソッドが有効かつ実効性あるもの. 乗歓迎」の精神を援用し,他者の発言を受け入. になるためには,いかなる要因が重要であると. れて,咀嚼し,その上に,自分の見解を乗せて. 考えるか, との問いに自由に回答してもらった.. いく手法により,発話者の協働作業感が高まる. この問いに対しては,98 名の学生が提案を行. といった意見が出された.また,異質性を認め. い,そこに記載されているキーワードを KJ 法. ることで,個々人は新たな気づきや発見が生ま. により書き出し,分類し,テーマの本質を見極. れうることから,異質な意見には,特に異質で. め る 作業 を 行った.こ の 作業 は,2011 年 2 月. あることを強調し,議論することで,ゴールに. 28 日及 び 3 月 2 日 の 2 日間 に わ た り,横浜国. 向かう上での糸口が見つかり,ケースにおける. 立大学経営学部の地域・環境実験室において,. 課題解決の道筋が見つかることもあることに留. 筆者,TA の森山亮二君及び協力を申し出てく. 意すべきとの意見があった.また,同じく,ブ. ださった本学共同研究推進センターの田中令子. レストの極意である「質より量」の精神によっ.

(17) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (195). 17. 図 10 ケースリード経験から出された討議に重要なファクターメモ (写真右は,KJ 法により論点を整理する過程の模様). 䉬䊷䉴䊜䉸䉾䊄䉕᦭ല䈮ㅴ䉄䉎਄䈪૗䈏㊀ⷐ䈎䋿 ⸛⼏䈮䈍䈔䉎㋕ೣ䋼㊀ⷐ3䉦᧦䋾㽲෻ኻ䈲䈇䛔䈔䈬ุቯ䈚䈭䈇㽳๺䉇䈎䈭㔓࿐᳇㽴౏ᐔ䈮⹤䈚⌀೶䈮⡞䈒. 䂹㽲㸢⼏⺰䈲䠈䉁䈝ฃ䈔䈩䈎䉌ᛩ䈕䉎䠈䊥䉝䊥䊁䉞䉕䉅䈦䈢⊒⹤䉕 䂹㽳㸢ᄙ᭽ᕈ䉕ฃ䈔౉䉏䉎䠈ᭉ䈚䉃䠈⺰ὐ䉕⛉䉍ㄟ䉃ㆊ⒟䈪䠈౒ㅢὐ䈫⋧㆑ὐ䉕ཷᐜ䈜䉎 䂹㽴㸢ჿ䈱䊂䉦䉟ᅛ䈳䈎䉍䈮ᖺ䉒䈘䉏䈭䈇䠈DL䈱౏ᐔᕈ䉕ᤨ䈮ଦ䈜䠈ᐳ䉍૏⟎䉅Ꮏᄦ. 䇼၂㑆⷗䈋䈢⺖㗴䇽 䃩 ⥄ಽ䈲䈬䈉ᕁ䉒䉏䉎䈣䉐䈉䠈䈖䉖䈭䈖䈫⸒䈦䈩᳓䉕䈘䈘䈭䈇䈎䠈ห⺞䈚䈭䈇䈫ህ䉒䉏䈭䈇䈎䠈ห⺞䈳䈎䉍䈚 䈩䈇䈢䉌㚍㣮䈮䈘䉏䈭䈇䈎䋿 䃩 㵰⚿⺰䈲৻䈧䈪䈲䈭䈇㵱䈮⥄✽⥄❈㸢ᄸ䉕ⴙ䈉௑ะ䈏↢䉁䉏䉎㸢ⴕ䈐ㆊ䈑䈢䉥䊥䉳䊅䊥䊁䉞䈱ㅊ᳞䈮⿛䉎. DL䈱ᯏ⢻⊒ើ 䊥䊷䉻䊷䈏䈭䈜䈼䈐䈖䈫䋼㊀ⷐ3䉦᧦䋾 㽲➅䉍㄰䈚┙䈤㄰䉎䠈㽳䊜䊮䊋䊷䈱ᗧ⷗䉕⷗䈋䉎ൻ䈜䉎䠈㽴㕖⸒⺆䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮 䂹㽲㸢᛼䈚䈧䈔䈭䈇䈔䈬䠈⥄ಽ䈱ᗧ⷗䈲᣿⏕䈮ᜬ䈧䈼䈚䋣䊶䊶䊶⥄ಽ䈏┙䈤૏⟎䉕⷗ᄬ䈉䈫䉼䊷䊛䈏䈹䉏䉎 䂹㽳㸢⼏⺰䉕㵰࿁䈜㵰䊶䊶䊶⇥䉂䈎䈔䉎䠈䈇䈤䈇䈤⏕⹺䈜䉎䠈䈠䉏䈢䉌ᚯ䈜䠈ᦨೋ䈫ᦨᓟ䈏⢄ᔃ 䂹㽴㸢㗩䈒䠈╉㗻䠈䊃䊷䊮䠈䈠䈚䈩䠈಴䈘䉏䈢ᗧ⷗䈱౒ㅢ䊁䊷䊙䉕⷗䈧䈔䠈౒᦭ 䊥䊷䉻䊷䈏᳇䉕㈩䉎䈼䈐䈖䈫㹢ᅷᒰᕈ䈮㈩ᗧ䠈䊜䊮䊋䊷䈱ᗧ⷗䉕䈧䈭䈓⸅ᇦ䈢䉏. 図 11 ケースメソッドにおいて重要と思われるポイント(ブレスト段階). て,限られた時間を有効に使う意味でも,極力. ることから,オズボーンが半世紀以上も前に提. 短時間に多種多様な意見を出し合うことで,そ. 示していた発想法セオリーが今日にも有効性を. こからメンバーのスタンスや意識の多様性を改. 発揮することを示す結果ともなっていよう.. めて認識し,それらのせめぎ合いの中から問題. これと同時に,おそらく,これまでのケース. 解決策を編み出していこうという意欲も生まれ. メソッドのいかなるテキストにも明示されてこ.

(18) 18. (196). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). なかったであろう論点も学生達の意識の中から. しておきたい.. 抽出することができた.それは,ある意味,日. 出された意見の中で多かったものは,まず,. 本の学生ならではの感想に裏付けられていると. そもそもテキストに掲載されているワークシー. も言えそうなのであるが,①議論の初期段階に. ト(本稿末尾 参考資料 B)は,グループディ. おける,出過ぎることへの懸念,②議論の展開. スカッション(以下「GD」と略す.)を進めや. において斬新な意見や異質な意見を発言するこ. すくするためではなく,GD の結果をきれいに. とで,目立ちたがり,ええかっこしいとレッテ. まとめやすくするための形式だと感じられたと. ルを張られることへの恐れ,さはさりながら,. いうものである.つまり GD のプロセスを省略. 議論を通じ,様子見しながら差し障りないこと. しているとの指摘である.では実際,学生達が. ばかりを発言した場合には,③迎合しすぎ,何. 経験した GD の進め方は,どのようなプロセス. ら貢献しないフリーライダーとして批判をされ. をたどったのであろうか.大まかには,①ケー. ないかとの懸念,の三重苦の様相である.この. スの流れや登場人物等の共有→②問題点の抽出. 三重苦状態を打破し,チームとして積極的な情. →③グループ内で取り扱いたい問題の抽出→④. 報交換を可能とするには,DL の積極的な機能. 活用すべきリソースの列挙→⑤代替案の提案→. 発揮が求められることは言うまでもない.. ⑥取り扱わなかった問題をそのリソースや代替. 前節でのいわゆる通説と比較し,特筆すべき. 案でカバーできないかの確認→⑦解決できない. ことは,あくまでも触媒機能発揮に重点がある. 問題があればそのフォロー,というものである.. 点であるが,ここで新たに浮き彫りとなった三. 換言すれば,この流れをワークシートに落とし. 重苦状態の打破を考えると,DLが発揮すべき. 込めば,密度の高い GD ができるのではないか. リーダーシップは,むしろ,ケースリードの前. との視点から学生 T さんより提案されたシー. 段階として行うべきラポールづくりにあるよう. トを図 12 に示す.. にも考えられる.ケースを有効に使い,実践的. ついで,議論の経験から,討議の出発点とし. な学びの素材としてこれの完成度を高めていく. て,<現在の状況>という項目を追加し,ケー. 上で,ケースリードに取り組むコアな時間の前. スの概要について全員が情報共有できるように. 後,まさにウォーミングアップとクールダウン. すべきことが提案された(図 13).この提案者. のプロセスこそがケースリードの成否を決する. である学生 F 君は,限られた時間の中でディ. と言えるのかもしれない.. スカッションする上で,貴重な時間を有効活用. 3. 2. 4 ケースメソッドにおけるワークシート. するためにも,議論の開始に当たり,状況がど. 提案. うなっているのか,ファクトを全員で把握する. 前節 で の 検討,問題解決 に お け る 次世代型. ──状況把握は個人で読み解くべきと主張しな. リーダーシップがうまく発揮されるフレームと. がらも,いったん全員で現在の状況がどういっ. 議論の流れを円滑化する装置としての役割を発. たものであるのかを共有した上で,ステイクホ. 揮してくれるはずである.本節では,実際に 7. ルダーが誰なのかを整理することで,その先の. 回のケース討議に参加した学生の発案により,. 議論がスムーズになる点を強調していた.どこ. それらケース討議の振り返りから,討議に資す. が問題なのか,誰の立場に立って議論を進め. るワークシートの改善提案をしてもらい,翻っ. ると誰に影響があってどういった結果になるの. て,コミュニケーションメソッドにおける重要. かがイメージしやすくなると言う.また誰の立. な討議ツールとなるワークシートの在り方に論. 場に立って考えるかを決める際に,何故その人. 考を加える.ここでも,ケース討議に参加した. の立場に立って考えるのかを決めるのもケース. 学生達から積極的な貢献がなされたことを付記. の全体を見てどこに影響を与えるべきなのかと.

(19) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). 1.ケースの全体像や流れを書き出そう. 2.1 で列挙したうち,問題や重要だと思ったことに下線を引こう 3.包括的に何が問題なのか集約しよう. 4.下の表で問題の良し悪しをつけていこう 誰. 誰. 誰. 短期的. 長期的. ○ × 5.4 を踏まえて誰の何を改善したいのか書こう 6.5 に集約した理由を書こう. 7.5 のために使えるリソースを洗い出そう 8.ではどんなリソースを使って,どう解決するのか書こう. 9.8 で考えられる問題点を挙げよう 10.9 をカバーする方法を書こう. 11.まとめよう. 図 12 学生 T さん提案のシート(議論のフロー①から⑥を網羅). (197). 19.

(20) 20. (198). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). ໧㗴ߪ૗߆                    ⃻࿷ߩ⁁ᴫ㧔ࠬ࠹࡯ࠢࡎ࡞࠳࡯࿑㧕 問題は何か 現在の状況(ステークホルダー図). ⺕ߩ┙႐ߦߥࠆߩ߆                ໧㗴ߪ૗߆ 誰の立場になるのか 問題は何か. どう意思決定するのか(解決方法) ߤ߁ᗧᕁ᳿ቯߔࠆߩ߆㧔⸃᳿ᣇᴺ㧕         ⺕ߩ┙႐ߦߥࠆߩ߆㧔ߥߗ㧕 誰の立場になるのか(なぜ). その理由 どう意思決定するのか(解決方法) ߘߩℂ↱                     ߤ߁ᗧᕁ᳿ቯߔࠆߩ߆㧔⸃᳿ᣇᴺ㧕. 代替案 その理由 ઍᦧ᩺                      ߘߩℂ↱. メモ 代替案 ⻠⟵ࡔࡕ                     ઍᦧ᩺                          ⻠⟵ࡔࡕ. メモ. ࿑⴫㧝㧠13 ࠬࠦ࡯ࡊࠍᛠីߔࠆߚ߼ߩ‫⃻ޟ‬࿷ߩ⁁ᴫߣࠬ࠹࡯ࠢࡎ࡞࠳࡯࿑‫ޠ‬ㅊ⸥ဳ. 図 13 スコープを把握するための「現在の状況とステークホルダー図」追記型  ߥ߅‫⚻ޔ‬༡ቇᓤߣߒߡ‫ౕࠅࠃޔ‬૕⊛ߥ⚻༡਄⽸₂ߒ߁ࠆឭ᩺ࠍߒߡ޿ߊߦߪߤ߁ߔߴ߈ ߆‫߁޿ߣޔ‬໧㗴ឭ⿠ࠍⴕߞߚߩߪ Y ำߢ޽ࠆ‫ޔߦ߆⏕ޕ‬MOT ߩ⻠⟵ߦ߅޿ߡ‫ޔ‬ୄ⍑⚻༡ቇ ࠍᮡ᭙ߔࠆ᧻ፉ(2010)ߪ‫ߩ࡯ࠪ࡜࠹࡝ࠬࡀࠫࡆޔ‬ቇ߮߇೨ឭߦ޽ࠆߎߣߢࠤ࡯ࠬࡔ࠰࠶࠼ߩ いったことと,そこに焦点を定めたことでケー 関係性に関する全体像を共有化しておくこと ቇ߮ߪ᦭ലߣߥࠆߣᒝ⺞ߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬ታ㓙ߦ‫ޔ‬ᮮᵿ࿖ᄢߦ߅ߌࠆࠤ࡯ࠬ࡝࡯࠼ࠍⴕߞߚ㓙ߦ スの問題点の中の何を変えることができるのか は,議論の過程でスコープを常に把握しながら, ߽‫ޔ‬ળ⸘ቇኾ᡹⠪੤߃ߚࡐ࡯࠲࡯߿ࠕࡦ࠰࠾࡯ߩ⚻༡ᚢ⇛⺰ࠍ⋓ࠅㄟࠎߛ⼏⺰ࠍⴕߞߚࠣ を考えることができて良いのではないか,と説 議論の揺らぎや立場の入れ替えのインパクトを ࡞࡯ࡊߪ‫ޔ‬ᚢ⇛ࠦࡦࠨ࡞࠹ࠖࡦࠣ⊛ឭ᩺ࠍⴕ߁਄ߢ‫⚻ࠆ޿ߡࠇ߹ߎߒߣ⪭ߦࠬ࡯ࠤޔ‬ℂ㑐 明していた. 推し量る視点を持つ上で,有効であることが期 ଥߩ࠺࡯࠲ߦᵈᗧࠍᛄ޿‫ߦ߆޿ޔ‬೑⋉ࠍ਄ߍࠆߴ߈߆‫ߞ޿ߣޔ߆ࠆߔ߁ߤߪߦ߼ߚߩߘޔ‬ この議論は,実は重要な論点を網羅してい 待できる. ߚⷞὐ߆ࠄߩ⼏⺰߇ߐ߆ࠎߦ߅ߎߥࠊࠇߚ‫ޕ‬ る.前節で概観したブレイン・ストーミングが. なお,経営学徒として,より具体的な経営上. ታ㓙࠺ࠖࠬࠞ࠶࡚ࠪࡦߩ㓙ߦ߽ߚߣ߃߫‫ޔ‬ኻ⽎໡ᐫߩ෼⋉Ⴧᄢ࿃ᢙࠍ‫˜ޚ‬٤˜٤㧩෼⋉ 有効な方策とされる PMBOK では, 「統合」以 貢献しうる提案をしていくにはどうすべきか,. 外の ะ਄‫ߦ࡞࠺ࡕߚߞ޿ߣޔ‬Ᏹߦ┙ߜ㄰ࠅ‫⸃ޔ‬᳿ߔߴ߈໧㗴ὐࠍ࿃ᢙಽ⸃ߔࠆߎߣߢࠊ߆ࠅ߿ 8 要素の中で,ある要素に変更が発生した という問題提起を行ったのは Y 君である.確 ߔߊ⼏⺰ߒ‫⽸ߦ࠻ࠬ࡟ࡉߩ࡯ࡃࡦࡔࡓ࡯࠴ޔ‬₂ߒߡ޿ߚ‫ߩ࠴࡯ࡠࡊࠕߩߎޕ‬೑ὐߣߒߡߪ ら,それが影響する要素を識別し,その要素に かに,MOT の講義において,俯瞰経営学を標 Ԙታ㓙ડᬺߦ౉ߞߡ߆ࠄ⥄りߩࡁ࡞ࡑࠍ㆐ᚑߔࠆߚ߼ߩᚢ⇛╷ቯߦᓎߦ┙ߟ‫ޔ‬ԙታ㓙ߦ੐ ついても適切に対処していくことの重要性を説 榜する松島(2010)は,ビジネスリテラシーの ᬺᚢ⇛ࠍ᭴▽ߔࠆ㓙ߦߪᔕ↪น⢻ߥࡈ࡟࡯ࡓࡢ࡯ࠢߢ޽ࠆ‫ࡄࠬࡀࠫࡆޔࠄ߆ߣߎ߁޿ߣޔ‬ く.第 9 の要素「統合」を円滑に進めるために 学びが前提にあることでケースメソッドの学び. は,スコープ変更のインパクトを吸収し,プロ. は有効となる点を強調している.実際に,横浜. ジェクトをマネジメントする上で,F 君が強調. 国立大学でケースリードを行った際にも,会計. していた,現在の状況とステイク・ホルダーの. 学専攻者を交え,ポーターやアンソニーの経営.

(21) エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江). (199). 21. 戦略論を盛り込んだ議論を行ったグループは,. 可能性なしとはせず,見逃してはいけない事実. 戦略コンサルティング的提案を行う上で,ケー. を見逃すこともありえよう.そこでは,松島. スに落としこまれている経理関係のデータに注. (2010)が強調するように,議論のフレームワー. 意を払い,いかに利益を上げるべきか,そのた. クを明確にし,参加する学生のバックラウンド. めにはどうするか,といった視点からの議論を. や専攻分野などのバランスを考えながら,ケー. さかんに行っていた.たとえば,対象商店の収. スリードのプロセスにおいて,柔軟に要素を組. 益増大を考える際に,〇×○×○=収益向上,. み合わせて討議していくことが求められよう.. といったモデルに常に立ち返り,解決すべき問 題点を因数分解することでわかりやすく議論 し, チームメンバーのブレストに貢献していた.. 4.おわりに―ケースメソッド, リーダーシップ, 物語性の提案. このアプローチの利点としては①実際企業に. 関係構築・調整スキル,非言語スキル,尊敬. 入ってから自身のノルマを達成するための戦略. スキル等,今日の社会人に要請されるスキルを. 策定に役に立つ,②実際に事業戦略を構築する. 綿密に洗い出し,ソーシャルワーカーのスキル. 際には応用可能なフレームワークである,とい. 育成に,ブレストやチーム討議の有効性を実証. うことから,ビジネスパーソンにとって不可欠. した横山・田中(2010)は,学生対象に行った. である問題解決能力を鍛えることができる,実. アンケートの結果から,受信・発信スキルの重. 践的学び・擬似的問題解決の場に応用がきく,. 要性を主張した.そして,何よりも,スキルの. と説明していた.. 要素は相互に関係性をもち,それらを統合して. Y 君は,こうした問題意識から,ワークシー. 体感できるためには,物語性を盛り込んだ様々. トの意思決定(解決方法)の欄を 「コミュニティ. なケースに学生たちが取り組み,討議参加者の. 視座」から解決方法と「〇×○×○=収益の視. スタンスや発言を受け止め,咀嚼することの訓. 座」からの論理的な解決方法の二つに分解する. 練をまず行うべきと結論付けている.. ことを提案していた.このようにコミュニティ. また,プロジェクトマネジメントの視点から,. の視座からの社会学的視点と収益要素の因数分. 実践的学びを昇華し,実際の社会や企業におけ. 解からの論理的視点に分けることで,現実的に. る 運用 の 有効性 を 維持・向上 す る た め に,ミ. 問題点を捉え,ロジカルに問題点を考察する事. ニッツの重要性を指摘する山本(2007)は,実. が可能になり,より企業の実態に近い実践的な. 際,企業や組織体にいて,プロジェクトを進め. 議論を行うことが可能となることは確かであろ. る上では,すでに様々なツールが用いられ,定. う.将来要請されるであろう問題解決能力,つ. 番となっている(たとえばキックオフにあたっ. まり自身の目標に向け戦略を策定するスキルを. ては,当該プロジェクトに参加するメンバー間. 身につけることが可能になるとの主張である.. のラポールづくりを行い,プロジェクトの支援. しかしこのような分解の問題点としては議論の. 組織は,進捗を確認し,情報共有を行うための. 幅を狭める可能性がありうる点にも留意が必要. 進捗確認レポート(ステイタスメモ)を多用す. であろう. 「デカルトの呪縛」という言葉に表. る等)が,実際には,それらのレポートを作成. されるように西洋的な論理的思考は問題点を分. すること自体が目的化し,紙を作成して安心す. 解し捉えるべき要素を明確にする一方で,必ず. るというよくあるあい路にはまり込んでしまう. しも正しさへ導く方法ではないのかもしれな. と指摘している.そうした場面において,山本. い.以上に挙げられた因数分解を用いた解決方. は,必然的に作成される議事録=ミニッツの有. 法に拘り過ぎると, 「数値データに基づいて常. 効活用を勧めるのである.そして,議事録のテ. に正しくなければいけない」という呪縛に陥る. ンプレートを事前に熟考し,工夫して用意して.

(22) 22. (200). 横浜国際社会科学研究 第 16 巻第 2 号(2011 年 8 月). おくことで,無駄な作業をすることなく,討議. ことの背景には,実際にケースリードに参加し. のプロセスが,そのまま記録され,常にその議. た学生の感想から浮き彫りとなった三重苦の実. 事録に立ち返り,論点を確認しながら共通認識. 態や,DL に期待される機能が実際には,個々. の醸成が可能となると主張しているのだ.会議. 人のキャラクターや,場の雰囲気に左右されが. のプロセスを物語として再現し, 物語を復唱し,. ちな事情も大きいのかもしれない.少なくとも,. 敷衍することで,討議のプロセスの論点をより. ケースメソッドのケースの解釈において,本稿. 明確化し,振り返ることも可能となろう.. で試みたように,ケースの物語性を大切に,エ. 企業や組織体に根付いている問題解決の手法. チュード手法によりメンバーが実際の登場人物. は数多い.実社会への橋渡し機能を発揮すべき. になりきり考察するフレームは,ケースメソッ. 大学や高等教育の現場において,実践的な学び. ドの有効性を高めうるものと評価できるように. の要請がいや増して高まっていく中,そのため. 思われる.. の有効な素材や手法として期待が高まっている. こうした実態をしっかり踏まえ,さらに学生. ケースメソッドへの関心は今後もいや増してい. を交えた実験を繰り返し,それらを踏まえた. こう.しかしながら,ブレストや日本発の KJ. 実装可能 な コ ミュニ ケーション ス キ ル 醸成 カ. 法などが,すでに一般用語として社会経済活動. リキュラム構築を目指していくことで,次世代. の現場にしっかり根付いているように見受けら. を担う若者たちが,実践の現場で伸び伸びと問. れるのに対し,ケースリードが米国のビジネス. 題解決や価値共創に貢献していくことができれ. スクールで生み出され,日本に上陸して何年も. ば,これ以上の喜びはない.. 経過しながら,いまだ,定着感が感じられない.

(23) 本ケースは,大江・大倉・中野(2011)pp. 87─89 より共著者の許諾を得て転載. . 参考資料 A エチュード手法に依拠したコミュニケーションメソッドの開発と提案(大江) (201) 23.

図 4 マインドマップの表記例- 1 -(ICT と科学)

参照

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