なたね油燃料の小形デイーゼル機関への適用 : 軽
油燃料による機関性能との比較
著者
浜崎 和則, 田中 義弘, 亀田 昭雄, 鍬光 一明, 上
村 正毅
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
28
ページ
13-18
別言語のタイトル
An application of rape-seed oil fuel to a
small diesel engine : comparisons of gas oil
and rape-seed oil on engine performance
なたね油燃料の小形デイーゼル機関への適用 : 軽
油燃料による機関性能との比較
著者
浜崎 和則, 田中 義弘, 亀田 昭雄, 鍬光 一明, 上
村 正毅
雑誌名
鹿児島大学工学部研究報告
巻
28
ページ
13-18
別言語のタイトル
An application of rape-seed oil fuel to a
small diesel engine : comparisons of gas oil
and rape-seed oil on engine performance
なたね油燃料の小形デイーゼル機関への適用
一軽油燃料による機関性能との比較一浜 崎 和 則 ・ 田 中 義 弘 ・ 亀 田 昭 雄
鍬光一明*・上村正毅*
(受理昭和61年5月31日) ANAPPLICATIONOFRAPE−SEEDOILFUELTOASMALLDIESELENGINE −COMPARISONSOFGASOILANDRAPE−SEEDOILONENGINEPERFORMANCE− KazunoriHAMASAKI,YoshihiroTANAKA,AkioKAMEDA,KazuakiKUWAMITSU,*andMasakiKAMIMURA*
Studiesofadaptingdieselenginetovegetableoilfuelsarebeingcontinuedwithaviewtode-velopingenergysources.Forthepurposeofapplicationofrape-seedoiltosmalldieselengines,a
precombustionchamberfour-cycledieselenginewasoperatedwithgasoilandrape-seedoilas
alternatefuels・Experimentalvariablesincludedenginespeedandpower・Theeffectsofthesevari-a
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-haustgastemperature,andcylinderpressurewasinvestigate。.
Engineperformancecharacteristicsfortherape−seedoilfuelwerestudiedandcomparedwith
baselinevaluesfornormaldieselfueloperatio、. 1 . 緒 目 エ ネ ル ギ 源 開 発 の 点 か ら 近 年 内 燃 機 関 用 代 替 燃 料 の 研 究 が 進 め ら れ て い る 。 そ の 中 で デ ィ ー ゼ ル 機 関 に 植 物油を使った研究'−6)がいくつか見られ性目されてい る。植物油は軽油に比べ発熱量が低く,高粘度で低揮 発性のため,機関を運転する場合には機関性能,排ガ ス,始動性,カーボンデポジットの堆積などが問題と なるが再生産できる点で有利である。本研究では小形 ディーゼル機関を用い,供試燃料である軽油と代替燃 料であるなたね油で発火運転し,両者を比較検討する ことにより,なたね油の機関性能に及ぼす影響を調べ た。 2 . な た ね 油 に つ い て 2 . 1 な た ね 油 の 利 点 な た ね 油 は 日 本 国 内 で 自 給 生 産 出 来 る 植 物 油 の な か *鹿児島大学大学院機械工学第二専攻 でアルコールより発熱量がかなり高く,他の植物油に も劣らない。国内で自給生産出来る主な植物油の高発 熱量の測定値を表lに示す。発熱量測定には島津製作 所製CA−3型燃研式自動ポンプ熱量計を使用した。 なたれは寒さにも強く乾燥に対しても抵抗力があり, あまり肥よくでない土地でも裁培可能である。そのう え,水田の裏作としても裁培でき日本各地で裁培可能 である。生産性を高めることが可能で,搾油率32% と大豆の搾油率18%に比較して高いことがわかっている。4.7)。表2に全国および鹿児島県におけるなた
れの裁培面積と生産量を示す。鹿児島県の生産量は 1985年で全国の39.2%になり全国一である。温暖な 気候や休耕地を利用するなどして裁培面積の拡大をは かれば生産量の増加は十分考えられ,なたね生産最盛 期の1971年の生産量を上回ることも可能である。以 上のように,なたね油はわが国にとって石油の代替燃 料となる可能性ば高<,特に鹿児島県にとっては農業 振興,エネルギ源開発の点から恩恵が大きく,ディー ゼル機関燃料としての基礎研究を進めることは意義あ或加1 99
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14 低 発 熱 量 理 論 空 気 量 曇 り 点 比 重 動 粘 度 表 面 張 力 平均分子量;
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ることと考える。 表 l 植 物 油 の 高 発 熱 量 表 4 な た ね 油 の 脂 肪 酸 組 成 u986年九州農政局鹿児島統計情報事務所調べ) 脂 肪 酸 名 ミ リ ス チ ン 酸 ハ ル ミ チ ン 酸 パ ル ミ ト オ レ イ ン 酸 ス テ ア リ ン 酸 オ レ イ ン 酸 リ ノ ー ル 酸 リ ノ レ イ ン 酸 ア ラ キ ン 酸 エ イ コ セ ン 酸 エ イ コ サ ジ エ ン 酸 べ ヘ ン 酸 エ ル カ 酸 ド コ サ ジ エ ン 酸 リ グ ノ セ リ ン 酸 セ ラ コ レ イ ン 酸 そ の 他 C14H2802 C16H3202 C16H”o2 C18H元O2 C18HヨzlO2 C18H3202 C18H3002 C2oH4oO2 C20H3802 C2oH3602 C22H4402 C22H4202 C22H4002 C24H4802 C24H4602 1013473943761263 ●●●●●●●●●●●●●●●● 0401725000050000 1114
3.実験装置および方法 実 験 装 置 概 略 を 図 1 に 示 す 。 供 試 機 関 は 予 燃 焼 室 式 横形水冷四サイクルディーゼル機関で,主要諸元を表 6に示す。吸入空気量は,層流型空気流量計で測定し, 高発熱量kcal/k9 9490 8880 9420 9390 9370 9430 植 物 油 名 な た ね 油 ひ 童 し 油 オ リ ー ブ 油 大 臥 油 ご ま 油 つ ば き 油 表2全国と鹿児島県におけるなたれの栽培面積と生産量車
表 5 な た ね 油 お よ び 軽 油 の 諸 元 表 3 な た ね 油 類 の 規 格一崩蝋#
な た ね 油 8800 12.63 5.0 0.918 97.7 36.90 951.4 77.5 12.1 10.4 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第 2 8 号 ( 1 9 8 6 ) 2 . 2 な た ね 油 の 規 格 と 組 成 デ ィ ー ゼ ル 機 関 燃 料 と し て な た ね 油 を 使 用 す る 場 合,種子から採取したまま精製していないなたね原油 ではその成分において地方によりかなり差がある。し たがって,本実験では地方によって品質差がなく,ど こでも入手しやすいと言う理由で「植物油脂の日本農 林規格」にあるなたね油類の規格によるなたね油を使 用した。表3に日本農林規格によるなたね油類の規格 を示す。表4になたね油の脂肪酸組成8,9)を示す。 W $二
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2 . 3 な た ね 油 お よ び 軽 油 の 諸 元 表5になたね油および軽油の諸元を示す。なたね油 の低発熱量は表lの値よりKerl-Steuerの式'0)から 計算した水分の潜熱を差し引いて求めた。Manometer図l実験装置概略図
剛
年 全 図 裁 培 向 積 h a 県裁培 面積ha 対全国 割 合 $ 全 国 生産量t 県 生 産 量 t 対 全 国 割 合 $ 1971 1972 1976 1977 1980 1981 1982 1983 1984 1985 13700 10800 3740 3140 2470 2310 2090 1980 1710 1570 0000007651 3936305503 9652119876 651111 5544444444 0200575310 6791768222●●●●巳●●●●● 22800 15900 6210 5190 4140 3740 3760 3220 2700 2730 11500 7340 2030 1790 1810 1780 1600 1180 1180 1070 50.4 46.2 32.7 34.5 43.7 47.6 42.6 36.6 43.7 39.2三重T蓋
合 格 な た ね 油 精製なたね油 な た ね サ ラ ダ 油 一 般 状 態 な た ね 特 有 の 香味有し精澄 精 澄 で 香 味 良 好 左 も の 精澄で舌触り 良 く 香 味 良 好 色 (ロ髄論戦) 黄 2 0 以 下 赤2.0以下 黄 1 5 雌 ト 赤1.5以卜 水分およびき 」Lう雑物 0.20$以下 0.1$以下 同 存 比龍(-+器C) 0.906∼0.917 何 左 1回j fA 腿接皇華(15.C) 1.470∼1.474 同 左 同 左 冷 却 試 験 5時間30分精澄 酸 価 2.0以下 0.20以下 0.15以下 け ん 化 価 1 6 9 ∼ 1 8 2 同 左 同 左 よ う 素 価 9 5 ∼ 1 1 4 同 左 同 左 不 け ん 化 物 1.5$以下 同 左 同 左図4 15 浜崎・田中・亀田・鍬光・上村:なたね油燃料の小形ディーゼル機関への適用 表 6 供 試 機 関 諸 元 0 図2
0532
歩声U匡の﹃U﹃﹄﹄。[珂匡﹄の二︺①二屯﹄国00
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戸宝¥へ凶匡Cロー巨嗣産︵︶U[しご︺垣5さの YANMARNS−50C 75×75 331.3 3.31kW(4.5ps)/2000rpm 22.1 Deckel5B5 YDN−4SK1 14、9 機 関 名 内径×行程、、 行程容積c、] 定 格 出 刀 圧 縮 比 噴 射 ポ ン プ 噴 射 ノ ズ ル 噴 射 圧 力 M P a 機関直前のサージタンクⅡはルーツブロワにより常に そのときの大気圧に保ち大気吸入状態で実験した。機 関回転数を1200rpmから2000rpmまで200rpmおき に変化させ,JISB8013の試験方法により負荷を変化 させて実験した。冷却水温は90°C以上になったこと を確認して主燃焼室圧力,燃料消費量,排気温度など を測定した。なお負荷の制御には空冷うず電流制動形 電気動力計を使用し,排気温度はシリンダ壁より16 mmの位置で測定した。 1 2 0 0 1 4 0 0 1 6 0 0 1 8 0 0 Z O O O Enginespeedrpm 図3機関同転数の変化による正味熱効率 な差異は認められないが,なたね油は軽油に劣るとは 考えられず,3/4∼4/4負荷ではむしろなたね油 の方が有利であると考えられる。 4 . 2 燃 料 消 費 率 に つ い て 図4は機関回転数をパラメータとして燃料消費率と 負荷の関係を示した一例である。なたね油と軽油の場 4.実験結果および考察 4.1正味熱効率に与える機関回転数および負荷 の影響 図2,図3に正味熱効率に与える機関回転数および 負荷の影響について示す。図3を見ると,いずれの負 荷でも機関回転数が1600rpm以下ではなたね油の場 合が正味熱効率は高く,1600rpm付近で軽油となた ね油の正味熱効率は等しい。1600rpm以上の高速回 転では軽油の場合が高くなる。いずれの負荷において も1400rpm付近では5%程度の熱効率の改善が見ら れ,中低速回転においてはなたね油の方が正味熱効率 の点からは有利であることが認められる。このことは 図2の1400rpmの場合を見ても明らかである。2000 rpmの高速回転になると,なたね油と軽油での明らか 500 ZOOOrPm l400rPm Rape−secdoil Gasoil 9 三二瓦 ○① l lI
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0 1 2 3 4 BrfIkPh()rsepowcrkW 軸出力の変化による燃料消費率 1 2 3 4 BrakehorsepowerkW 軸出力の変化による正味熱効率 p〆 / ' 〆 / 〆 〃 ○Rape-sc(、doil−11/lOLoad l Z O O l 4 0 0 1 ( ) ( ) 0 1 8 0 0 2 0 0 0 Engin(》sp()(、。rpm 図5機関回転数の変イヒによる燃料消費率 合の変化の形について大きな差は見られない。いずれ の機関回転数においても負荷全域にわたり,なたね油 の方が燃料消費率は大きく平均して15%程度大きい。 ○Rape−seed の C a s o l Q 一 一 一 一 ベ ヶ ー ー ー ー く う050322
夢〆︺屋④一U一﹄﹄Q[毎E﹄︵︶二]Q二一︲︾︲﹃雲 一つL 2000rpm 400rpm ユ ー ー ベ 」 d ノ 〃〃
〆 / / くくく くく﹄﹄
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20 16 1 2 0 0 1 4 ( ) 0 1 6 0 ( ) 1 8 0 0 2 0 0 0 Engin〔、sp(、(、(1rpm 図8機関回転数の変化による空燃上上 なたね油の低発熱量は軽油の85.7%であり,正味熱 効率が同じならなたね油の燃料消費率は軽油の場合よ り16.7%高いことになる。このことは図5より正味 熱効率がなたね油と軽油でほぼ同じである1600rpm の値を比較すると,ほぼ理解される。また,図5より 機 関 回 転 数 の 変 化 に よ る 燃 料 消 費 率 の 変 化 は な た ね 油,軽油ともほぼ同じ傾向であり,変化の割合は負荷 による変化の割合ほど大きくない。 負荷を変化させた場合の充てん効率の例である。供試 機関の定格回転数である2000rpmの場合,いずれの 負荷でもいくらかなたね油の方が高い値を示してい る。しかし1400rpmの場合,軽油の方が5%程度充 てん効率が高い。これは図6からも分かるように中低 速回転でなたね油より軽油の場合が充てん効率が高
く,特に軽油の場合は1400rpmが最適,慣性特性数'1)
を与える機関回転数であると推測される。しかし,い ずれの機関回転数でも負荷が増加するにつれ充てん効 率が低下する傾向はなたね油,軽油とも同じである。 4 . 3 充 て ん 効 率 と 機 関 回 転 数 お よ び 負 荷 の 関 係 図6は負荷をパラメータとして,機関回転数を変化 させた場合の充てん効率の例である。いずれの負荷で も機関回転数1640rpm付近でなたね油と軽油の充て ん効率が逆転している。つまり1600rpm以下では軽 4 . 4 空 燃 比 に よ る 燃 焼 状 態 の 考 察 図8は負荷をパラメータとして機関回転数を変化さ せた場合の空燃比を示す。負荷が一定であれば機関回 転数の変化にかかわらず,なたね油軽油とも空燃比は ほぼ一定であると考えられる。また,機関回転数の全 域にわたり,いずれの負荷でもほぼ一定の割合でなた ね油は軽油の場合に比べ空燃比が小さい。いま,液体 燃料について次式12)より理論空気量Loを計算する。 Lo=4.31(8C/3+8h+S−O)kg/kg ただし1kgの燃料中に含まれる炭素,水素,酸素, 硫黄の重量をそれぞれC,h,O,S,kgとする。表5の組成 を用いて計算すると,軽油ではLo=14.37kg/kg, なたね油はLo=12.63kg/kgとなる。そこで,軽油5099
ヂニU匡○一U一﹄﹄④函匡︻函﹄⑯二○ 505099
ヂエU屋①戸U﹁﹄﹄の凶匡︻函﹄旬二○ 言40、町画 1 2 0 0 1 4 0 0 1 6 0 0 ] 8 0 0 Z O O O Engincspeedrpm 図6機関回転数の変イヒによる充てん効率 二30 0 浬 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第 2 8 号 ( 1 9 8 6 ) 表 7 空 気 過 剰 率 油の場合が,1700rpm以上の高速回転ではなたね油 の場合が充てん効率が高い。軽油の場合1400rpmを 頂点として2000rpmの高速回転で充てん効率は最低 となるのに対し,なたね油の場合1800rpmを頂点と して低速回転で充てん効率は最低となる。機関回転数 に対する両者の充てん効率の傾向が異なるのは燃料の 違いにより,シリンダ内の燃焼状態が異なり燃焼室お よびシリンダ壁温の違いによって吸排気系における慣 性効果が効果的に作用する機関回転数が異なってくる からであろう。図7は機関回転数をパラメータとして G;Gasoil。L;Rape-seedoil 一 一一一2000rpmへ①L−−−−,400rpm
へ ∼ 、①、、 ○Rape−seedoil へ ⅦL 1 2 3 BrakehorsepowerkW 軸出力の変化による充てん効率 0 図7 | ‐ 四 、「ー
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) ) し17 100 となたね油の理論空気量と空燃比を用いて機関回転 数,負荷ごとに空気過剰率を計算すると表7のように なる。表7よりなたね油は軽油に比べ空気過剰率が小 さく,したがってなたね油の場合の空燃比が軽油の場 合に比べほぼ一定の割合で小さいのはなたね油の成分 組成によるもので,特になたね油に10.40%(重量) の酸素が含まれているためであると考えられる。 rpmの上死点付近における圧力は低速回転1200rpm のそれよりいくらか高いが,逆に最高圧力は低速回転 の方が高くなっている。最高圧力はいずれの機関回転 数でもなたね油の場合が高い傾向がある。このことは 4.6で述べるようになたね油の場合,軽油に比べ着 火遅れが短く燃焼期間が短縮されるからであると考え る'3)。 4 . 5 排 気 温 度 お よ び 燃 焼 室 圧 力 に つ い て 図9は負荷を変化させた場合の機関回転数の違いに よる排気温度の一例を示す。1800rpmではなたね油 の場合が軽油の場合よりわずかに高く,1400rpm以 下の低速回転では逆になたね油の場合はわずかに低い 4.6燃料'性状の違いによる機関'性能への影響 燃料として軽油となたね油を比較した場合,次の点 が大きな違いと考えられる。 i)なたね油は軽油にくらべ粘度,比重,表面張力 が大きい。 ii)なたね油はその成分組成に飽和肪脂酸と不飽和 肪脂酸があり,酸素が重量で10.4%含まれて いるが軽油には含まれていない。 i)はディーゼル機関においては燃料噴霧特性(粒度 分布,分散度,貫通度)に影響を及ぼし,また棚沢ら が間欠噴射に対して与えている平均粒径の式'4)から 粘度,比重,表面張力が大きいなたね油は粒度分布が 単純な形ではなく,軽油よりも噴霧特性が悪くなると 推測される。さらに,なたね油の比重,粘度はB重 油のそれとかなり近い値であり重質油燃料と同じよう な噴霧特性が予想できる。重質油燃料に関して,矢野 ら'5)は噴霧の分散角度および到達距離についての和 栗らの式'6)を用いて検討を加えている。それによる と微粒化が十分であれば到達距離,分散角とも燃料に よって大差ないが,実際の機関の場合は低負荷で空気 密 度 が 大 幅 に 低 下 し 微 粒 化 が 悪 化 す る た め 軽 油 と 重 油 では噴霧に吸引される空気流に差を生じ,重油の到達 距離が大きくなり燃焼室へ衝突する量が多くなると予 想している。したがって,なたね油では軽油に比べ分 散角が小さく,火炎長さの長い貫通力のある噴霧にな ると予想できる。しかし,長尾'2)によれば供試機関 の よ う な 予 燃 焼 室 式 デ ィ ー ゼ ル 機 関 で は 十 分 霧 化 さ せ るより,噴霧分散角の小さい単孔ノズルまたはピント ル型ノズルを用いたほうが噴口近くで着火でき,最初 の 噴 流 で 主 燃 焼 室 へ 噴 出 で き る の で 主 燃 焼 室 の 燃 焼 が 早く起るとしている。このことから考えると,なたね 油の方が軽油より上記の性質にすぐれていると考えら れ着火時期も早くなっていると思われる。ii)につい て は 次 の よ う な こ と が 考 え ら れ る 。 一 般 に 軽 油 が 燃 焼 する場合,メタン,エタン,エチレン,アセチレンな どの簡単な構造をもった低分子量炭化水素に分解し,
000000005432
。◎。﹄.臼己﹄①QEの]m毎m]ぬ二心二×四 傾向がある。このことから図2の正味熱効率の傾向を 考えると,機関回転数1600rpmを境にして高速回転 ではなたね油の排気損失が大きいので正味熱効率は低 く,逆に低速回転ではなたね油の排気損失が小さく, 正味熱効率は高くなるものと推察される。図10はなた ね油と軽油の場合の主燃焼室圧力波形の一例を示す。 いずれの燃料でも供試機関の定格回転数である2000:
笈
二
ク 浜崎・田中・亀田・鍬光・上村:なたね油燃料の小形ディーゼル機関への適用876543210
⑯邑室①﹄こめ、。﹄ユ 2 3 BrakehorsepowerkW 軸出力の変イヒによる排気i品度 0 図9」
1
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BDC−120−60TDC60120BDCBDC−120−60TDC6C120BDC CrankangleoCACrankangle◎CA 図 1 0 主 燃 料 室 圧 力 〕00rpm。「RaDe-seedl-ZOOC18 鹿 児 島 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第 2 8 号 ( 1 9 8 6 ) 複雑な燃焼過程を経て中間生成物である酢酸,酪酸, シュウ酸,プロピオン酸などの飽和肪脂酸が生成され, これが分解して炭酸ガスや水蒸気となる。なたね油の 成分組成は飽和肪脂酸と不飽和肪脂酸であり燃焼室内 の高温高圧下では噴射と同時にこれらが分解するので 中間生成物が軽油にくらべ早く発生することが考えら れる。そのため軽油の場合より着火遅れが短く,燃焼 期間が短縮され最高圧力が上昇すると思われる。また, なたね油は軽油にくらべ粘度が高いために始動性にい くらか問題があると考えられたが,外気温度0°Cで 増速手動により始動実験を行なったところ,軽油にく らべ多少時間はかかるがなたね油だけで十分始動でき ることを確認した。しかし,機関を始動した後暖機運 転中異常燃焼があるが,機関が十分暖まればなくなる。 これについては今後解決しなければならない問題であ ろう。 5 . 結 巨 予燃焼室式小形ディーゼル機関を使って,なたね 油燃料の機関性能に及ぼす影響について軽油燃料と比 較研究した結果を要約すると次のとおりである。 (1)負荷の変化にかかわらず,高速回転では軽油の場 合が正味熱効率は高いが,中低速回転ではなたね油の 場合が高い。供試機関では機関回転数1400rpmにお い て な た ね 油 の 場 合 5 % 程 度 の 正 味 熱 効 率 の 改 善 が 見られた。 (2)負荷の変化にかかわらず,いずれの機関回転数に おいてもなたね油の場合,燃料消費率は平均して15 %程度大きく,この差は軽油となたね油の低発熱量 の差にほぼ等しい。 (3)負荷の変化にかかわらず,機関回転数全域にわた り,ほぼ一定の割合でなたね油は軽油に比べ空燃比, 空気過剰率が小さい。これはなたね油の成分組成に酸 素が含まれているからであると考えられる。 (4)なたね油は軽油の場合に比べ高速回転で排気温度 は高く,中低速回転でなたね油の場合,排気温度は低 くなる。 (5)なたね油は軽油の場合に比べ成分組成から着火遅 れが短く,燃焼期間が短縮されると考えられるので機 関回転数全域にわたり主燃焼室最高圧力が軽油より高 いのであろう。 (6)なたね油は始動‘性にも困難はなく,予燃焼室式小 形 四 サ イ ク ル デ ィ ー ゼ ル 機 関 の 代 替 燃 料 と し て は 有 望 であると考える。 本研究は鹿児島市持留製油株式会社製のなたね油を 使用して実験し,なたね油の分析結果等については資 料の一部を同社より頂いた。また,なたね裁培面積と 生産量については九州農政局鹿児島統計‘情報事務所の 資料によった。ここに記して謝意を表します。終りに 実験に協力された,当時四年生の池田清和,中嶋達夫, 村田昌信君に感謝します。 文 献