1 はじめに
中学校学習指導要領の改訂が2017(平成29)年3月に行われ(以下、「新学習指導要領」と よぶ)、2021年度から全面的に実施される予定である。 新学習指導要領には、2008(平成20) 年改訂の学習指導要領(以下、「旧学習指導要領」とよぶ)における中学校をはじめとする小 学校や高等学校の社会科、地理歴史科、公民科の成果が報告されているが、十分に機能してい なかったり、不十分なところが少なくないことなど、いくつかの問題点が指摘された1)。新学 習指導要領では旧学習指導要領の枠組みや教育内容など基本的な姿勢を引き継ぐ一方で、「知 識・技能の習得」、「思考力・判断力・表現力等の育成」、「学びに向かう力・人間性等の涵養」 という3つの学力構成に具体化させて、めざすべき資質・能力を明確化している2)。このほか、 主体的・対話的で深い学びの実現にむけた授業改善や教育活動の質的向上をめざすカリキュラ ム・マネジメントなども示され、問題点の改善や教育の充実をめざそうとしているが、教える 側の技能や手腕、発想などの力量がより大きく求められそうである。とりわけ、経験の少ない 若き先生や教職課程に学ぶ学徒たちにとっては難易度の高い内容である。 昨今、中学校の現場では、学力の格差に加えて、学習意欲の格差があらわれ、生徒たちの間 に学習意欲の二極化が深刻化しているという状況下、野口克海はやる気や興味をなくしている 子どもたちに対して、関心や意欲をよびおこすような新たな視点での授業を提案している3)。 こういった教育現場で将来活躍すべき教員を養成する大学の教職課程、とりわけ教科教育法 ではどのような授業を展開し、学生の養成にあたればよいのだろうか。新学習指導要領の実践 にむけて、「経験の少ない先生にも社会科学習の組織化が簡単に理解でき、 質の高い授業を創 出」できるような「教科書」の必要性を池野範男が述べている4)が、この「教科書」を大学で社会科教育法における実践と課題
角
克
明*
Practice and Issues in Methodology of Social Studies
(KADO Katsuaki)
*近畿大学教職教育部非常勤講師 〔キーワード〕社会科教育法、学習指導要領、指導実践、教材 研究、調べる力
の「授業」と置き換えてみると、大学の教職課程における教科教育法の授業内容のヒントにな り得るように思える。 本稿では、筆者が近畿大学で担当経験のある中学校社会科3分野の教育法を中心に、その実 践と課題を探ってみたい。
2 社会科教育法の指導実践
近畿大学における教職課程の概要 近畿大学では、法学部・経済学部・経営学部・総合社会学部の全学科と文芸学部の文化・歴 史学科を対象に、中学校教諭1種免許「社会」と高等学校教諭1種免許「公民」が取得でき、 加えて法学部・総合社会学部の全学科と経済学部の経済学科、文芸学部の文化・歴史学科を対 象に、高等学校教諭1種免許「地理歴史」も取得できる。また、短期大学部では中学校教諭2 種免許「社会」が取得できるが、4 年制の学部とは履修条件などの仕組みが異なるため、ここ ではとりあげず、4 年制学部のみを対象とする。 教職をめざす学生は1年次から教職課程を受講することができるが、最初の「関門科目」と して「教職入門」の単位修得が必須とされる5)。なぜなら、この科目の単位修得者だけが「教 職に関する科目」6)の履修へすすむことができるという方式をとっているためである。 そのた め、「教職入門」は1年次前期の履修が好ましく、その他の「教職に関する科目」ははやくと も1年次後期からの履修開始となるが、「教科に関する科目」7)はこの限りではなく、「教職入 門」との並行履修が可能である。 本稿のテーマとなる中学校社会科や高等学校の地理歴史科、公民科の「教科教育法」は「教 職に関する科目」のうち、「教育課程及び指導法に関する科目」と位置づけられ8)、「教職入門」 の単位修得後、2 年次からの配当で、「社会科・地歴科教育法」と「社会科・公民科教育法」 がそれぞれⅠ~Ⅲと段階的に用意され(表1)、教育法の知識や技能を順序よく身につけられ るように設定されている。本来は、各教育法ともに「Ⅰ」→「Ⅱ」→「Ⅲ」の順に履修するこ とが望ましいが、制度上、例外が設けられている。 例えば、「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の履 修には「社会科・地歴科教育法Ⅰ」の修得が必要であるが、この科目が未履修であっても「社 会科・公民科教育法Ⅰ」を履修済みであれば、 履修可能となる。「社会科・公民科教育法Ⅱ」 を履修する場合にも適用される。また、各教育法は「Ⅰ」・「Ⅱ」とも必修科目であるが、中学 校の免許だけを取得する場合、「Ⅱ」は地歴科あるいは公民科のうち、 どちらか一方が選択必修科目となる。ただし、2019年度入学生からは中学校の場合でも「Ⅰ」・「Ⅱ」の両方が必修科 目に変更された。なお、「Ⅲ」は自由選択科目である。 ところで、近畿大学の教職課程ではすでに述べた「教職入門」のほかにも、「教職に関する 科目」の円滑な履修のために、「教職入門」を含む5つのチェックポイントを設けている。 チェックポイントとなる科目を履修するには、それまでに履修条件となる科目の単位修得が必 要となる。「教科教育法」は第4チェックポイントの「教育実習」履修条件に指定されている。 社会科教育法の段階的な到達目標 教職課程における「教科教育法」は教員としての資質や技能を身につけ、実践的指導力の基 礎を培い、実際に授業ができるように育成することが目標であり、この科目の役割であると考 えている。前節で述べたように、近畿大学では「社会科・地歴科教育法」・「社会科・公民科教 育法」ともにⅠ~Ⅲの段階に応じた授業が設定されているので、これらの目標を段階的に達成 してゆくことになる。各授業の内容や授業計画は担当者によって多少の差異はあるだろうが、 筆者は以下のように把握し、授業を組み立てている。 「Ⅰ」の授業では、対象の教科・科目について、まずは学習指導要領の要点を理解し、「内容」 や「内容の取扱い」を把握する。つづいて、年間あるいは単位時間の学習指導計画(指導案) の基礎を学ぶ。また、授業内容を組み立てたり、教材作成のさいに必要となる多面的で多角的 な「調べる力」を育成し、調べた結果などを口頭や文字などでうまく説明できるようになるた めの訓練を行う9)。 このような基礎的知識の学修と実践に必要な技能の養成は「Ⅱ」の授業以 降への土台形成の段階と位置づけられる。 表1 近畿大学で開講される社会科(地歴科・公民科)教育法 高等学校1) 中学校1) 履修開始 単位 科 目 名 必修 必修 2年次 2単位 社会科・地歴科教育法Ⅰ 必修 必修 2年次 2単位 社会科・公民科教育法Ⅰ 必修 どちらか一方 を選択必修2) 2年次 2単位 社会科・地歴科教育法Ⅱ 必修 2年次 2単位 社会科・公民科教育法Ⅱ 自由選択 自由選択 3年次 2単位 社会科・地歴科教育法Ⅲ 自由選択 自由選択 3年次 2単位 社会科・公民科教育法Ⅲ (注)1)1種免許状取得に関する条件。 2)2019年度入学生からは必修科目となる。
「Ⅱ」の授業では、「Ⅰ」の授業で学び、訓練したことを活用して、模擬授業を組み立て、実 践できるようになることが大きな到達目標であり、実際の到達点としたい。そのさいに、学習 指導計画を作成し、可能であれば、オリジナルな教材作成にも挑戦したい。ただし、注意しな ければならないのは、この段階で授業実践の基礎ができるようになっているかどうかである。 したがって、いまはやりの情報通信機器( ICT )などを使った応用的な授業ではない。誤解を まねかないように断っておくが、これらを使用する授業を決して否定するものではなく、授業 実践の確実な基礎づくりを行ったうえで応用段階へあゆむという「段階的な教育」が必要と考 えているのである。現在、筆者の担当する「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の授業では、学習指導 計画や教材などはすべて紙ベースで作成してもらい、学生に配布する。なぜならば、スクリー ンに映し出された情報はすぐさま消え去り、手元にも残らず、将来の活用・応用への可能性も 断ち切ってしまう。授業実践の初期には、こういった旧来の方法が何よりの教育効果をもたら すと考えるからである。 「Ⅲ」の授業では、「Ⅰ」・「Ⅱ」の授業で学び、訓練したことを活用して、応用的な授業実践 ができるようになることである。この段階では情報通信機器を使用した授業やアクティブ・ラー ニングを活用した授業などの実践や研究がはかられるべきである10)。教員としての技能の向上、 より確実な授業実践、オリジナルな教材開発などが進められ、高度な授業や探究された授業の 構築を模索する段階である。 新学習指導要領が語る「主体的・対話的で深い学び」や「カリ キュラム・マネジメント」なども視野にいれ、実践してゆく段階である。 模擬授業などの実践においては、「Ⅱ」から「Ⅲ」への段階で、 一般的な黒板に板書し、 紙 ベースの教材を用いて基礎的な授業実践ができるという土台形成が最初に求められ、基礎固め をしたあと、つぎの段階で電子黒板のような「多様な機能」を使用することにより、教育効果 を高め、授業の質的向上をはかることができ、深い学びへ導くことが可能となる。土台が形成 されていないのに、多様な機能や新しい指導方法を使うことで、よりよい授業ができたと誤解 し、満足されてしまうことが危惧される点である。 「社会科・公民科教育法Ⅰ」の指導実践 ここからは旧学習指導要領の時代から展開してきた「社会科・公民科教育法Ⅰ」(半期・2単 位)と「社会科・地歴科教育法Ⅰ」(半期・2単位)の指導実践について考察してゆきたい。一般 的な順序と異なり、公民科を先にとりあげるのは、筆者の指導実践頻度によるところが大きい。
「社会科・公民科教育法Ⅰ」の授業計画は表2に示した。 まず、 授業計画の全体構成をみる と、学習指導要領に関する学修が第2~4回に設けられ、学習指導要領の内容や改訂の要点な どを習得する。中学校社会科・公民的分野と高等学校公民科の双方を対象とするが、授業時間 の制約から中学校を優先的に学修し、高等学校については中学校の内容を基礎にして自宅学習 で対応する方法をとる。なお、 高等学校学習指導要領の改訂にあわせて、「現代社会」が「公 共」(2単位・必修)に置き換えられるため、 これらの「内容」や「内容の取扱い」などがど のように変化するのかを学ぶ必要がある。中学校・高等学校ともに、学習指導要領の「内容」 や「内容の取扱い」の学修は、この科目の到達目標のひとつになる。 つぎに、学習指導計画の基礎を学ぶ学修が第5~7回に設定される。年間学習指導計画は学 習指導要領の「内容」や「内容の取扱い」、「指導計画の作成と内容の取扱い」などと密接に関 係があり、各教科・科目の全体構成を知るうえでも重要で必要な学修である。以前はこういっ た理由から年間学習指導計画を作成し、学期末のレポートとして評価の対象としていた時期も あったが、最近は作成にあたってのポイントや留意点を学び、年間学習指導計画の事例を用い て、標準的な時間配分や100単位時間の授業テーマ(題目)などの基礎を学ぶにとどめている。 一方、単位時間の学習指導計画は各種授業での模擬授業実践や教育実習で実際に作成しなけれ ばならない。そのため、事例を用いて、その様式や内容を把握し、要点を学ぶことにしている。 ただし、この科目では基礎的事項に重点をおくため、単位時間の学習指導計画の作成は求めて いないが、近い将来に作成しなければならないことを説明し、自宅学習において実践すること 表2 「社会科・公民科教育法Ⅰ」の授業内容 授 業 内 容 回数 オリエンテーション・自己紹介 1 中学校社会科(公民的分野)の学習指導要領の趣旨と内容 2 公民科学習指導要領改訂の要点(現代社会) 3 公民科学習指導要領改訂の要点(政治・経済と倫理) 4 公民的分野の年間指導計画と学習指導要領の「内容」 5 公民科の年間指導計画と学習指導要領の「内容」 6 学習指導計画(指導案)の作成方法 7 「現代社会と生活」に関する単元内容について 8 「現代社会と生活」に関する単元をもとにしたグループ学習について 9 グループごとの学習テーマの検討 10 「現代社会と生活」についての発表(口頭発表・質疑応答)1 11 「現代社会と生活」についての発表(口頭発表・質疑応答)2 12 「現代社会と生活」についての発表(口頭発表・質疑応答)3 13 「現代社会と生活」についての発表(口頭発表・質疑応答)4 14 まとめ・レポート提出 15 定期試験 16
を促している。 以上の2つの重要なテーマは、全授業日程の前半部分を費やして学ぶ。後半は具体的な単元 内容を持ち出して「調べる力」を育成し、その結果をまとめ、口頭や文字などによって説明で きるような実習を実践する。具体的には中学校社会科・公民的分野をとりあげ、広く「現代社 会と生活」に関する内容、すなわち、現代社会の特色である少子高齢化・情報化・グローバル 化、日本の伝統的文化や多様な地域の文化の特色、市場のはたらきと経済、国民生活と政府の 役割、人権の尊重と日本国憲法の基本的原則、民主政治と政治参加を対象とした。これらのな かから、第1回目の授業で組成したグループごとにテーマを割り振り、グループ内ではその テーマに関する個別的な事象や現象などについて調べ、各自のテーマを決めてゆく。2018年度 までの指導実践では、各自のテーマ選定に関する事前学習を実施せずにこれらの授業を行った が、意外にもテーマ選定に大きな問題のある場合が少なくなかった。それで2019年度からは、 テーマ選定を実際に練習する機会を設け、そのうえで自分のテーマを選ぶように工夫した。大 学生だからできるだろうという過信をときには修正しなければならない。 「調べる力」はさまざまな情報源から特定のテーマに関する多様な情報を探し出すための重 要な力であり、近い将来に授業を組み立てたり、教材を作成するさいの基礎となる力である。 大学生の実力で多面的、多角的に調べて、その結果を5分程度の持ち時間で口頭発表する。発 表時には、以下の条件を必須として、紙ベースの資料作成を義務づけている11)。 ①テーマが掲載される検定教科書の該当箇所のコピー ②テーマに関する新聞記事のコピー ③テーマを説明するために必要な資料 紙ベースとするのは、教育現場ではまだまだ紙ベースで作成される印刷物などが少なくないた め、そのレイアウトや報告したいことがらの「見せ方」などの技能を研鑽させたい意向もはた らいている。また、紙ベースで手元に残すことは、資料としていつでも活用することが可能で あるといった利点もある。口頭発表後は簡単な質疑応答を行い、聞き手の受講生からは感想を 含む批評コメントをよせてもらう。それらを加味して、調べた内容は学期末にレポートとして 提出を求めている。 教員をめざす場合、口頭で教授したい内容を生徒にしっかりと伝えられるかどうかが重要な 技能となる。教授する内容や指導法などの充実はいうまでもないが、声の大きさやしゃべるス ピードなどの技能面がうまくゆかなければ、よりよい授業実践とはならない。このような技能
を身につけさせようとする初歩の段階として、上述したような口頭発表による基礎的な力を育 成する試みがこの科目に組み込まれている。模擬授業の前段階における実践と位置づけたい。 「社会科・公民科教育法Ⅰ」では、 すでに述べてきた口頭発表、 その配布資料、 質疑応答や コメント、学期末のレポートを総合評価したものと、学習指導要領を中心とした基礎的知識を 問う筆記試験による評価の双方で単位認定の評価としている。これは基礎的な知識と口頭発表 を中心とする実践の両面において、ある程度の力を身につけ、「社会科・公民科教育法Ⅱ」や その他の「教職に関する科目」、「教育実習」への基礎づくりができたかどうかという評価基準 である。 「社会科・地歴科教育法Ⅰ」の指導実践構想 いまのところ、新学習指導要領のもとでの「社会科・地歴科教育法Ⅰ」の指導実践経験がな いため、旧学習指導要領による同科目の指導実践をふまえて、新たな指導実践の構想を立案し、 考察してゆく。 「社会科・地歴科教育法Ⅰ」の授業計画は表3に示した。授業計画の全体構成をみると、「社 会科・公民科教育法Ⅰ」との共通点が多く、最初に学習指導要領の内容や改訂の要点などを学 び、 年間および単位時間の学習指導計画の学修へと進める。ただし、「社会科・地歴科教育法 表3 「社会科・地歴科教育法Ⅰ」の授業内容 授 業 内 容 回数 オリエンテーション・自己紹介 1 中学校社会科(地理的分野・歴史的分野)の学習指導要領の趣旨と内容 2 地理歴史科指導要領改訂の要点(地理) 3 地理歴史科指導要領改訂の要点(日本史・世界史) 4 地理的分野の年間指導計画と学習指導要領の「内容」 ※1 5 歴史的分野の年間指導計画と学習指導要領の「内容」 ※1 6 地理的分野・歴史的分野の学習指導計画(指導案)の作成方法 ※1 7 「地域調査」に関連する単元内容について 8 「地域調査」に関連する単元をもとにしたグループ学習について 9 グループごとの学習テーマの検討 10 「地域調査」実践報告(口頭発表・質疑応答)1 11 「地域調査」実践報告(口頭発表・質疑応答)2 12 「地域調査」実践報告(口頭発表・質疑応答)3 13 「地域調査」実践報告(口頭発表・質疑応答)4 14 まとめ・レポート提出 15 定期試験 16 (注)※1:高等学校(地理・日本史・世界史)については中学校の内容を基礎 にして自宅学習で対応する。
Ⅰ」の場合、中学校社会科だけでも地理的分野と歴史的分野の2分野、250単位時間におよび、 「社会科・公民科教育法Ⅰ」に比べて取り扱う分量が多くなる。 加えて、高等学校の地理、 日 本史、世界史に関する科目も対象としなければならず、自宅学習で補完しながら効率よく学修 する必要がある。地歴科でも学習指導要領の改訂で、必修科目として「地理総合」と「歴史総 合」(各2単位)、選択科目として「地理探究」、「日本史探究」、「世界史探究」(各3単位)が 新設されたため、これらの「内容」や「内容の取扱い」なども十分に学修する必要がある。 全授業日程の前半部分を学習指導要領と学習指導計画に関する学修にあてるのは、「社会科・ 公民科教育法Ⅰ」と同様の構成である。基礎的知識の学修は、どの科目においても初歩の段階 の必須条件と考えるからである。一方、後半部での口頭発表を含む「調べる力」を身につけて ゆく学修においても、同科目との共通点が少なくない。ただし、ここでのテーマは地理と歴史 の双方をカバーできるものでなければならない。「空間的な広がり」と「時間的な経過」をあ わせもつテーマとして、「地域」がある。地域はさまざまなスケールでとらえられ、 われわれ の生活の舞台でもある。中学校学習指導要領の「内容」をみると、地理的分野の大項目 C「日 本の様々な地域」のうち、「地域調査の手法」や「日本の地域的特色と地域区分」12)、歴史 的分野の大項目A「歴史との対話」のうち、「私たちと歴史」や「身近な地域の歴史」13)に 対応すべく「身近な地域の調査」がある。このような点から、ここでの学修においては任意の 身近な地域を選定し、その地域の地理や歴史を多面的、多角的に調べることを主眼におく。こ れらの学修によって、調べる力の育成と、その結果をまとめ、口頭や文字などによって説明で きるような技能を養う。 口頭発表から学期末のレポートまでの詳細は「社会科・公民科教育法Ⅰ」の場合と共通して いるが、口頭発表時の資料やレポートの条件は以下のようにする。 ①対象地域を地形図(縮尺1:25000、 あるいは1:50000、 都市地域については1:10000 でもよい)を図示すること ②現地調査の内容をふまえた資料を提示すること ③各種統計や情報からグラフまたは図を作成し表現すること いずれも、紙ベースで作成したうえで、受講生に配布し共有する。 本科目では、何よりも地形図からの読図、あるいは地形図への書き込みによる分析や表現方 法の習得など、地形図の活用や地形図に関する技能を身につけることが目標のひとつであるた め、地形図を必ず用いた調査や発表が義務づけられる。さらに、現地調査の実践を求めるのは、
実際の地域に出かけて現地を多面的、多角的な目でとらえる力を養い、地理的、歴史的な内容 を調べて、口頭や文字などで発表や表現できるという基礎的な力をつけるためである。表現力 という観点では、調べた結果をどのようにみせるのかという技能へと結実させてゆく。 「社会科・地歴科教育法Ⅰ」では身近な地域の調査ができるかどうかと、口頭発表から学期 末のレポートに至る過程が評価の対象となる。 その一方で、「社会科・公民科教育法Ⅰ」と同 じく、学習指導要領を中心とした基礎的知識が重要であるため、筆記試験による評価を加える。
3 模擬授業と教材研究に関する指導実践
教育法「Ⅱ」あるいは「Ⅲ」における指導実践では授業実践の基礎を習得させるとともに、 教育活動の高度化、多様化へと拡大させてゆくことで技能の向上をはかりたい。具体的には、 模擬授業の完成度を高めるわけであるが、そこにはオリジナルな教材開発や多様な指導方法の 試行など、訓練と研究が繰り返されて授業実践を積み重ねてゆく。本章では、筆者が担当して いる「社会科・地歴科教育法Ⅱ」(半期・2単位)の指導実践をもとに、模擬授業の現状と課 題をまとめ、そこで提示した教材研究の事例を再検討したい。 模擬授業の実践報告 ① 「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の指導実践 「社会科・地歴科教育法Ⅱ」では受講者数によって異なるが、模擬授業は20~30分程度の所 要時分で実践している。これまで対象とする校種や教科・科目は自由に選択することにしてい たが、2019年度からは授業者自身が不得意とする教科・科目を実践するように要請した。これ は得意とする内容をもって授業を行うよりも、不得意な内容で授業を実践するほうがより鍛え られると考えたからである。 模擬授業の評価は、受講生が授業者の話すスピードや声の大きさ、授業展開として授業の導 入やまとめの適切さ、授業の流れやそのはやさ、教材や授業内容として板書やプリント教材の 充実度、発問の仕方やその内容、などのような点を授業参観しながら、図1に示した「模擬授 業評価報告書」に記入して行う。なお、模擬授業終了後には質疑応答も実施するが、時間が限 られるため、報告書に委ねるところが少なくない。ところで、この報告書は担当教員を経由せ ず、直接授業者に手渡す方法をとる。これは授業実践後のはやい段階で授業者が評価内容をみ ることによって、よかった点や悪かった点、改善すべき点などを明確に把握できると考えたからである。一方で、担当教 員の目を通さないというこ とは、「社会科・地歴科教育 法Ⅱ」の成績評価の対象に ならないと判断され、報告 書の充実度が保てるのかと いう点が危惧されるが、報 告書は記名式にしており、 授業者が報告書を読んでま とめる「発表内容に関する 報告書」には不真面目な評 価や所見などがあった場合、 当該学生をそこに記入する かたちで報告を求めている。 なお、この報告書にはよかっ た点や改善すべき点をまと めて報告するほか、「模擬 授業評価報告書」の「総評」 内容が論理的に優れている と評価できる学生を最高3 名から該当者なしまでの間で、記入するように指示している。将来、教職についたとき、生徒 の成績評価を行わねばならず、その練習と位置づけて実践している。 模擬授業の実践にあたっては、教科書の該当箇所、学習指導計画(模擬授業の所要時分に対 応したもの)、 必要とする教材などを紙ベースで用意し配布する。 これはすでに教育法「Ⅰ」 の指導実践でみたような点と同じ意図をもつ。 ② 模擬授業を参観した感想風覚書き ここ何年か、「社会科・地歴科教育法Ⅱ」を担当し模擬授業を参観してきたが、 そのなかで 感じたり考えたりしたことを書きとめておきたい。 図1 模擬授業評価報告書(2019年度版)
まず、授業形態について、授業者はどのような方法で授業を組み立ててゆくのだろうか。従 来の講義形式の授業を基本としつつ、アクティブ・ラーニングをどのように授業へ組み込んで ゆくのかという点に関心をよせる。参観では、授業全体に適用する場合と授業の一部に適用す る場合がみられた。前者の場合は経験の少ない授業者がグループ学習中心の授業構成のなかで、 どのように単元内容を学習させてゆくのかという課題がみられた。別の問題として、 生徒に ディスカッションすべき内容がうまく伝わっていないなど、計画から実践へというプロセスで の不具合があげられ、こういった方法での授業展開のむずかしさが感じられた。一方、後者の 場合は、講義形式の授業のなかにアクティブ・ラーニングを組み込む手法である。この方法で は、ディスカッションしやすいテーマの場面でアクティブ・ラーニングが適用できる利点をも つが、授業展開の流れのなかで違和感なく組み込まれているかという確認が必要となる。いず れの場合も、周到な準備や計画のもとで授業を展開し、何よりも経験を積むことが求められる。 いつも、模擬授業は学習指導計画をみながら参観している。なぜなら、これは授業の「設計 図」であり、あるいは授業の「シナリオ」であるからである。最近の参観から学習指導計画に 関する極めて重大な2つの問題点に気づいた。ひとつは「単元構成」そのものが未記載であっ たり、「学習指導要領の該当箇所」が明記されていないといった事例である。 もうひとつは、 「本時の展開」が簡略すぎて授業の内容や展開が不明確であり、学習指導計画と授業実践がう まくむすびつかない事例である。これらは授業の位置づけや展開という極めて重要なことがら を示す部分であり、ここが不備であるということは致命的な問題といえる。こういった場面に 遭遇するたびに、学習指導計画の学修を充実させることが極めて重要であるとかみしめる。ひ とつの提案として、教職課程の一連の学習において、学習指導計画の項目や内容の統一様式が 用意されてもよいのではないか。 授業がはじまると、教科書を読む場面によく出くわす。ここで、生徒が読む場合と教員が読 む場合とにわかれるが、どちらが教育効果をもたらすのか。最初からどちらか一方に断じるこ とはできないが、指導上の意図する内容によって優れたほうを選択することになる。例えば、 主体的な学びの一環では生徒に読ませ、授業が遅延したときには教員が読むことで配時の回復 をはかるというような場合が想定される。学習指導計画には、不測の事態に備えた柔軟な授業 展開のシナリオも必要である。 授業が進展してゆくと、教科書と連動させた教材が登場し、重要語句などを穴埋めさせる様 式のものがよくみられる。生徒が語句を「書く」ことによって、記憶に残す効果が期待される。
その一方で、同じ理由から重要語句を黒板に板書することで、生徒がノートなどに「書く」こ とを促す指導法もあった。配布プリント(教材)への書き込みと板書との併用も効果的である。 教科書に語句が登場する当該箇所に下線を引いたり、着色を指示し、印象づける方法もある。 いずれも、旧来からの伝統的な指導法が実践されているが、記憶に残す効果や振り返り学習時 の目安となり、一定の教育効果が期待される。しかし別の見方をすれば、こういった授業のな かで、生徒が穴埋めや書き写すさいに、ただ機械的に記入するのではなく、何らかの思考をは たらかせて学習活動を展開させることも視野にいれて、実践してゆかねばならない。なお、板 書に関しては個性的な文字や書式などの特徴があらわれやすい。また、筆順の誤りや色使いの まずさなどははっきりと目に留まる。これらは練習を重ねることで克服できるので、日ごろか らの訓練が求められる。こういった外見上の諸問題も見逃すわけにはゆかないが、肝心の板書 内容の精査は必要で、厳選された語句や情報に限定しなければならない。 ところで、最近すっかり影をひそめてしまったのがさまざまな「小道具的な教材」を用いる 授業である。例えば、国旗や歴史上の人物の肖像画などをパネルにして提示する場面や、ビー チボールを地球に見立てて活用した事例がなつかしく想い出される。こういった発想は情報通 信機器やアクティブ・ラーニングがもてはやされる当世にあっても、もちあわせねばならない 「武器」になるはずである。 最後に、模擬授業の実践において、現場での授業実践との乖離を強く感じる場面がある。そ れは生徒役が大学生のため、発問に対する正答率が高く、ディスカッションを行ってもスムー ズすぎる場面が少なくない点である。注意しなければならないことは、このような成果をもっ て、よりよい授業ができたと思い込ませないようにすることである。なかなか、中学生や高校 生を相手にした授業ではそううまくゆかないことを伝え、発問に対する予想外の答えが返って きたときを想定した授業展開のシナリオを考えておくように助言している。模擬授業では、こ のような予期せぬ事態に対応する力を実践的に育成することはむずかしく、このような訓練は 教育実習を待たねばなるまい。 このように、模擬授業実践における諸問題が見え隠れするが、授業者の資質や技能を養うた めには新旧の指導法を問わず、とにかく「実践してみること」、「挑戦してみること」が重要で ある。そして、授業者はまず自身のよい点、悪い点を知って、よい点は進展させ、逆に悪い点 は改善・修正をはかってゆくことで、資質や技能を向上させ、授業実践の基礎を築いてゆくこ とができる。
教材研究の事例 オリジナルな教材を作成することは、かなり労力を必要とする。なぜならば、このような教 材作成のさいに求められる条件は、少なくとも、①学習指導要領に適したものであること、② 大きな教育効果が得られるものであること14)、が必須と考えられるからである。とくに、教材 である以上、①は重大な点であり、中学校社会科の新学習指導要領にあてはめてみると、例え ば、「小学校社会科の内容との関連及び各分野相互の有機的な関連を図る」15)ことが求められて いる点や、「調査や諸資料から、社会的事象に関する様々な情報を効果的に収集し、読み取り、 まとめる技能を身に付ける学習活動を重視する」16)点などがあげられる。 これらをふまえて、 「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の授業では模擬授業を実践する前の学修段階で、 つぎにとりあげ るような地理的分野と歴史的分野の双方、場合によっては公民的分野に関連する内容を含んだ 自作の教材を提示して受講生からの評価を求めている。これは、この学修を契機として、オリ ジナルな教材作成への取り組みが活発化することをねらいとしたものである。 図2は内務省地理局から1886(明治19)年3月に発行された「東京五千分壹実測図」(復刻 版)をベースマップとして、新橋停車場付近をとらえたものである。また、写真1は図2のA ~E地点のいずれかから撮影されたとみられる絵葉書画像である17)。 右奥に新橋停車場の駅舎 と駅前広場があり、左奥には逓信省電信局の立派な建物がみえる。この2つの資料をむすびつ け、写真1が図2のどの地点から撮影されたものなのかを思考させ、判断させる教材とした。 新橋停車場は日本初の鉄道営業開始という知名度の高い歴史情報として周知されており、近代 化の象徴として典型例である。しかし、この地図には鉄道線路と駅舎などの建物が描かれる一 方で、「新橋停車場」の記載がないため、 教材化にあたって図2の地図上で新橋停車場の位置 情報を正確に認識できるように加筆した。縮尺が1:5000の地図であるため、町名や丁目、番 地なども読みとれ、電信局や海軍兵学校などの主要な建物の情報も知り得ることができる。図 2では電信局が判断の大きなカギを握るため、○印を付している。この教材には、歴史地理的 な視点からいえば、明治期の地理空間が描写されており、歴史的にさかのぼった過去の地理空 間で読図などの地理的技能をともなった思考や判断が求められるという意図をもたせている。 ふつう、地理的分野では現代の地図と地理空間をむすびつけて理解させる構図で学習するが、 この構図をベースにして、明治期の地図と地理空間においても対応できるような技能を身につ けさせることを視野にいれる。思考の過程では地図に線を書き込んだり、地図上で距離や方位 を求めたりする作業も重要である。古い地図からさまざまな情報を読図することで、多面的・
図2 明治中期の新橋停車場付近 (「東京五千分壹実測図」の一部・原寸) 写真1 新橋停車場付近の風景
逓信省電信局
多角的な作業や思考(視点)の実践や養成をはかる点は、「作業的で具体的な体験を伴う学習 の充実を図る」18)という新学習指導要領に通じるところがある。 なお、 逓信省の所管であった 電信局が地図や絵葉書に登場したことをきっかけとして、当時の省庁や行政のしくみに関心を もち、現代社会とのちがいを知ることは公民的分野への橋渡しにもなる可能性を含んだ教材と いえるのではあるまいか。 時代はちがっても、新橋停車場や電信局の位置関係、電信局の前を流れる河川(あるいは運 河)などの見え方から撮影場所がA地点であると特定できる。意外とやさしいようにみえるが、 大学生であっても正答率が低くなる現実がある。 このような絵葉書画像と地図を組み合わせた教材のほかにも、絵葉書画像そのものが教材と なり得る場合がある。中学生や高校生向けに考案した教材ではないが、筆者は大学における一 般教養科目の授業のなかで、絵葉書画像を用いて、「日本各地の近代化」を読み解いてゆく手 法をとりいれている。「地域」の「近代化」をテーマとすることで、地理的側面だけではなく、 歴史や公民の内容ともむすびつく教材としての可能性が認められる。本稿ではこれらのなかか ら「交通の近代化」の一部をとりあげ、学生からのコメントを交えながら考えてみたい。 写真2は和歌山県にある西国2番札所・紀三井寺の山門をとらえた2枚の絵葉書画像である。 両者を比較すると、写真左には客待ちをしている人力車2台が写し出されているのに対し、写 真右には自動車が登場する。同じ紀三井寺山門前の風景であるが、2 枚の写真が撮影された間 に、人々の利用交通機関が明らかに変化しているのである。また、参詣客の服装に着目すると、 和装から洋装への変化がみられ、生活文化の変容が写し出されている。非常に単純ではあるが、 写真2 紀三井寺山門前における風景の変貌(左:人力車 右:自動車)
だれがみてもそれらの変化に気づくところが、大学生だけではなく中学生や高校生向けの教材 としても、通用するのではあるまいか。ただし、現代っ子にとって人力車は、観光地で観光客 が乗るものという認識をもっており、ときの富裕層がビジネスや観光など多様な目的で、いま のタクシーのように利用した乗物だと説明すれば、驚きの目でみられてしまう。なお、人力車 から自動車への変革期を特定するには絵葉書情報だけではむずかしく、その他の文献や資料か らの情報を待たねばならない。 ところで、このような交通変革はいっきに進行したのだろうか。一般的には移行期をともな うことが少なくなかった。写真3は大正期ごろの東京日本橋付近を撮影したものであるが、人 力車や荷車(大八車)のような旧来の交通に加え、路面電車や乗合自動車(バス)といった近 代的な交通が混在している。多くの人々が歩いているなか、自転車に乗る人もみられる。ここ には、都市交通の近代化過程における移行期がとらえられている。このように、陸上交通は身 近な乗物であるため、各地の絵葉書に写し込まれていることが多く、身近な地域の変化をとら える教材としても活用できる。 大正後期には空の旅が提供されるようになる。写真4は1922(大正11)年6月に設立された 民間航空会社・日本航空輸送研究所が拠点としていた大阪府・堺大浜飛行場(写真上)と地方 の飛行場の例として道後温泉を擁する愛媛県・松山近傍の 梅津 寺 飛行場(写真下)である。写ばいしん じ 真上のなかで、海岸に黒くみえるのは多くの群衆であるが、彼らはここでいったい何をしてい るのだろうかと切り出す。海面に目をやると、沖合いに向かって水上飛行機が出発してゆく場 面である。実は、ここが飛行場(空港)で、群衆が飛行機で旅立つ人を見送っている場面が撮 写真3 新旧交通が混在する東京日本橋の風景
影されていると解説する。同社は堺大浜から九州・四国・紀伊半島方面へ定期航空路線を拡大 してゆくが、写真下には遠く堺大浜から到着した水上飛行機と乗客らしき数人の人影が撮影さ れている。航空輸送の黎明期には滑走路ではなく、海面から飛行機の離発着が行われたため、 海岸から船に乗るような感 覚で飛行機を利用したと説 明すると、「驚いた」とか、 「考えもできない」という コメントが返ってきた。 一方、海岸から旅立つ交 通機関といえば、船があっ た。明治・大正・昭和戦前 期を通して、船舶は内外航 路を問わず一般的な利用交 通機関であったため、各地 への航路ネットワークが整 備されていた。港湾を舞台 に出会いと別れのシーンが 展開されていたことを解説 したあと、写真5をみせて、 再び何をしている風景かと 問いかける。人力車が海に はいり、船には乗客が乗っ ている。これは海陸連絡の 風景、すなわち大型の汽船 が直接接岸できないため、 艀船 によって海岸付近に到はしけ 着した場面がとらえられて いると解説する。この説明 に対する学生の疑問は、な 写真4 黎明期における航空機の離発着風景 (上:堺大浜飛行場 下:梅津寺飛行場) 写真5 伊予西条港における海陸連絡風景
ぜ人力車が海にはいっているのかという点であったが、桟橋などの港湾設備が未整備の寄港地 では艀船からであっても直接上陸できないため、 俥 夫 が気をきかせて艀船まで迎車、あるいはしゃ ふ 客待ちをしていたのである。人力車に乗らない乗船客は足を海水に濡らしながらの上陸を余儀 なくされたと謎解きをする。このような海岸でみられた2つの場面に対して、たいへん印象に 残ったとするコメントが数多く寄せられた。 ここでとりあげたわずかな絵葉書画像の事例からだけでも、 大学生は現在ではみられなく なった風景に関心や興味を示した。ならば、中学生や高校生にも通ずるところがあるのではな いか。そう考えるとき、絵葉書画像に教材としての価値が見い出せ、これらが広く活用される ことに期待をよせる。
4 社会科教育法の指導実践と教職課程に関する履修や学修の実態
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8年度前期におけるアンケート調査からの分析―
2018年度前期に開講された「社会科・公民科教育法Ⅰ」と「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の受 講生を対象として、彼らの教職課程に関する履修や学修の実態を知るため、アンケート調査を 実施していた。実施日は2018年7月26・27日であり、前期授業日程の最終日にあたる。 した がって、筆者の担当する授業をほぼ履修し終えたあとの状況で回答したことになる。本稿では それらの内容から、これまで論じてきた指導実践における成果や課題と対応させながら考察し てゆく。なお、アンケート回答者数は84名で、このうち「社会科・公民科教育法Ⅰ」の受講生 は67名(80%)、「社会科・地歴科教育法Ⅱ」の受講生は17名(20%)である。また、双方の科 目を同時履修していた受講生が数名いたが、後者の科目でのみ回答をお願いし、重複回答を避 けている。 まず最初に、アンケート回答者の所属学部(図3)と学年構成(図4)を示した。とくに、 特定の学部に偏っているわけではなく、学年構成は2年次、3 年次が中心となる。なお、1 年 次が皆無となっているのは、すでに述べたように、これらの科目が2年次からの配当であるた 図3 アンケート回答者の所属学部 図4 アンケート回答者の学年構成めである。 つぎに、学習指導要領の存在を知った時期・授業やはじめて学修した授業・方法について質 問した結果が図5・図6である。学習指導要領の存在は「教職入門」を受講して知ったという 回答が最も多く、52%を占める。ついで、大学入学以前から知っていたとする回答が43%に達 した。これは教職に関する関心をはやくも高校生までの段階でもっていたということであり、 非常に頼もしい限りである。ただし、「教職入門」以外の教職科目で知ったとする回答も少数 ながらみられ19)、第1チェックポイントの「教職入門」でその存在を習得できなかった学生も いることがわかった。学習指導要領の内容をはじめて学修した科目については、教科教育法が 48%、その他の教職科目が44%と拮抗しており、後者のなかでは「教職入門」が70%を占めた。 なお、4割をこえる受講生が大学入学以前から知っていたという学習指導要領であったが、そ の内容を授業で学ぶ以前に独自に学習していたという回答は6%にとどまっている。このよう に、関門科目である「教職入門」で学習指導要領の存在を知り、その内容を学修するという流 れがみえてくる。アンケート結果をあてはめてみると、44名が「教職入門」で学習指導要領の 存在を知り、その内容を学ぶと答えたのが26名であるため、この流れで内容まで学修した受講 生は約6割になるが、全受講生のなかでは約3割を占めるにすぎない。これに対し、この内容 を教科教育法ではじめて学修したとする回答は約半数に達する。改めて、教科教育法における 学習指導要領の学修の重要性が示唆される。 つづいて、 授業実践の経験について質問したところ(図7)、 学習指導計画の作成は「経験 あり」が71%、「経験なし」が29%となり、 教科教育法の履修後とはいえ、作成したことのあ る受講生が2/3をこえる高い割合となっている。筆者の担当する「社会科・公民科教育法Ⅰ」 では、学習指導計画の作成が義務づけられていない点を考慮すると、他の科目での実践や筆者 図5 学習指導要領の存在を知った時期・授業 図6 学習指導要領をはじめて学修した授業・方法
の授業を受けたあとの自宅での自主的な実践 によるものと考えられる。模擬授業の実践に ついてみてみると、「経験あり」が48%、「経 験なし」が52%であり、約半数の受講生が模 擬授業を経験している。「社会科・地歴科教 育法Ⅱ」の受講生は学習指導計画の作成と模 擬授業の実践が課されるため、必ず双方を経 験することになるが、「社会科・公民科教育 法Ⅰ」の受講生のなかにも模擬授業の経験者 が少なくないことを知り得た。オリジナルな 教材を作成した経験については、「経験あり」 が38%、「経験なし」が62%となり、経験し ていない受講生が6割をこえた。しかし、オ リジナルな教材といっても、穴埋めプリント のような比較的短時間で作成できる自作の教 材から、現地調査を行って情報を収集し、そ れらを地図やグラフに表現するような時間を かけて作成する教材まで、さまざまなレベルがあり、どの程度の教材をイメージして回答した のかにもよるが、自分で作成するというハードルの高さが反映されている結果があらわれた。 このように、図7を通覧してみると、「学習指導計画の作成」→「模擬授業の実践」→「オリ ジナルな教材の作成」という順で、未経験の受講生が増加してゆくが、これは教科教育法で学 び実践するときの「学修順序」や「難易度」に即していると思われる。 近年、アクティブ・ラーニングのような指導法や情報通信機器を用いる授業などが注目され ているが、受講生はこれらをどの程度理解しているのだろうか。まずは、アクティブ・ラーニ ングと、情報通信機器の代表として電子黒板の知名度について、単に知っているかどうか質問 した結果が図8である。アクティブ・ラーニングを知っていると回答したのは92%、知らない とする回答は8%にとどまった。一方、電子黒板を知っているとする回答は77%、知らないと いう回答が23%であった。さすがに、アクティブ・ラーニングを知らないとする受講生は1割 を下回っているが、電子黒板になると2割をこえる受講生が知らないと回答した。しかしなが 図8 アクティブ・ラーニングと電子黒板の知名度 図7 授業実践に関する経験
ら、両者を知っている受講生が多数を占めていることは確かであり、これらに対する受講生の 関心は高いとみてよい。ところで、電子黒板を知っているとした受講生が8割にせまるなか、 実際に電子黒板を使用したことのある受講生はどれほどいるのだろうか。図示していないが、 使用経験のある受講生はわずか4%にすぎなかった。おそらく、受講生自身が中学生や高校生 の頃に電子黒板を使用した授業を受けた経験がほとんどなかったのではないかと思われ、身近 なものとして定着していない可能性が高い。ゆえに、電子黒板などの情報通信機器を利用する 授業実践の訓練や授業の質的向上にむけた活用などの研究が必要である。
5 おわりに
本稿では、社会科教育法の指導実践とその課題についてみてきたが、指導実践にあたっては 段階的学修の重要性を論じた。指導実践の経験から、教科教育法Ⅰ~Ⅲ相互、および教科教育 法と「教職に関する科目」間で、授業担当者による場合も含め、教授内容の重複や欠落が発生 し得ることがわかってきたので、教職課程の科目をこえた連携の必要性を感じる。例えば、学 習指導計画の学修や作成の指導にあたっては、その項目や内容などを統一(共通)様式として 学修させることができないものだろうか。そうすれば、科目をこえても同じ様式で学修するこ とができ、よりよい学びへ結実すると考えられる。また、別の事例として、理想論といわれる かもしれないが、教職課程の科目間での学修内容の配分(割り当て)を明確化し、学生が合理 的に学修できる体制をとる必要があるのではないか。とくに、科目間の境界領域や科目をこえ た共通部分の学修では双方の科目で重複した学修となってしまう恐れがある。逆に、双方で譲 り合って学修しない場合も想定できる。例えば、第4章でみたアンケート調査でははじめて学 習指導要領を学修した時期や科目が多様となってあらわれ、学修の有無が混在する学生集団に 対して、どの程度の授業レベル、あるいは内容で授業を展開すればよいのかという問題がつき まとうところにもあらわれている。 なお、「理想論」とみるのは、 これらを実践したり展開す るにはさまざまな制約や困難があり、すぐさま完全なかたちでの実現はむずかしいと思われる からであるが、新学習指導要領が求める授業実践ができるような教員を養成するためには、段 階的にでも充実させてゆくことが好ましいように思う。 もうひとつ別の指導実践として、筆者がかつて看護学校で授業を担当していたときの経験か ら学んだことを教職課程においても実践しなければならないと思っている。看護学校では授業 がはじまる前の休み時間に、クラス代表が配布物や用意すべきもの、連絡事項などを確認するため、担当教員のもとへ訪ね来て、教室に戻ったあとには配布物を配り、授業をはじめる準備 を完了させておくのである。 こういった役割を学生に与えることによって、「主体的に学ぶ自 覚」を認識させることができる。「あまえさせてはいけない」という主任教員のことばととも に、「人間」や「いのち」に関わる医療系職業訓練学校のきびしい姿勢が深く印象に残ってい る。 ならば、「人間の育成」に関わる教員養成系(教育系職業訓練)の指導においても、 こう いった視点や姿勢が必要ではないかと思い、第2章や第3章でみた口頭発表や模擬授業時に配 布する資料を講師控室までとりに来て、授業がはじまるまでに配布を完了させておくように要 請し、2019年度から実践にふみきった。筆者が教室まで持参し配布していた2018年度までと比 べて、スムーズに発表や模擬授業が開始できたと思われるので、学生の自覚がよびおこされた よい結果とみている。 しかしながら、その一方で危惧される問題点が山積する。いくつかの代表例をあげてみると、 「発表や模擬授業中にねむる学生がいた。授業中に堂々と飲み物を飲む学生がいた。 授業中に 席を立って一時退室する学生がいた。授業中に繰り返し繰り返し伝えた内容がまったく伝わっ ていない学生がいた。」。こういった学生がひとりやふたりでないところが問題である。これら は当世学生の多くにとって大学での日常風景と映る場面であり、罪悪感なしに無意識的に行う 行為かもしれないが、こういった「学生」を中学生や高校生に授業をする「教員」と置き換え た場合、だれしもふさわしくないと思ったり、マイナスの評価が与えられ、教員失格の烙印は 免れない。「教員をめざす学生」としての資質や姿勢がきびしく問われなければならない。 そ して、何よりも教職課程の授業を受講するということは、教員になるための職業訓練に参加し ているということを自覚させねばなるまい。 このような点をかみしめながら、一歩一歩であるが、よりより指導実践をめざしたい。 付 記 本稿(本文)では、基本的に西暦表記としているが、便宜をはかるために昭和期以前につい ては和暦を併用表記した。また、学習指導要領などで和暦表記の場合、同様の意味合いで西暦 も添えている。この点を断っておきたい。 注 1)文部科学省(2018):『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』、 東洋館出版
社、3頁。 2)前掲1)、3 5頁。 3)野口克海(2008):「今、学校現場に期待すること」、朝倉啓爾・伊藤純郎・橋本康弘編『中 学社会をよりよく理解する。』、日本文教出版、6 9頁。 4)池野範男(2017):「中学校社会科 期待するもの」、井田仁康・中尾敏朗・橋本康弘編『授 業が変わる!新しい中学社会のポイント』、日本文教出版、4 5頁。 5)冨岡勝(2018):「「教職入門」導入期について ―「教職入門」FD 研修会での資料―」、 『近畿大学教育論叢』293、123131頁。 6)本稿では2018年度入学生までに適用される教職課程の概要について述べているが、2019年 度入学生以降ではつぎのような変更点がみられる。「教職に関する科目」は「教育の基礎的 理解に関する科目」・「道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関 する科目」・「教育実践に関する科目」・「各教科の指導法(情報機器及び教材の活用を含む。)」 に読みかえることとなる。 7)2019年度入学生以降では「教科及び教科の指導法に関する科目」のうちの「教科に関する 専門的事項」に読みかえることとなる。 8)2019年度入学生以降では「教科及び教科の指導法に関する科目」のうちの「各教科の指導 法(情報機器及び教材の活用を含む。)」に読みかえることとなる。 9)近畿大学での実践報告の事例として、以下がある。①辰己勝(2007):「社会科教育法にお ける「地域調査」の実践について」、『近畿大学教育論叢』182、3949頁。②辰己勝(2015): 「教職課程におけるアクティブ・ラーニングの実践」、『地理』6012、4047頁。 10)近畿大学での実践報告の事例として、 以下がある。 下村隆之(2017):「社会科における ICT を活用した教材開発の可能性 ―社会科教育法の授業実践より―」、『近畿大学教育論叢』 292、1 15頁。 11)検定教科書の該当箇所を掲載する意味は教職課程、つまり将来は授業や教材を作成するた めの「調べる力」であることを意識させるためである。新聞記事を求めるのは社会科全体、 とくに公民的分野ではそれらが教材や授業の情報源となり、リアルタイムの最新情報である 場合も少なくないからである。活用例は数多く報告されているが、一例として以下をあげて おく。①産経新聞「学びの現場で 教材に新聞授業が変わる」(2017年4月16日付)、②産 経新聞「学びの現場で 新聞活用で読解力アップ」(2017年4月17日付)、③産経新聞「学
びの現場で 「深い学び」工夫重ね」(2017年4月18日付)。新聞記事はアクティブ・ラー ニングの教材にもなりやすく、新聞記事を活用するための練習と位置づけている。テーマを 説明するための資料は、説明したいことをどのように伝えるかというときに、その「見せ方」 や表現方法といった技能育成へつながるものである。 12)前掲1)、203204頁。 13)前掲1)、207頁。 14)ここでいう「大きな教育効果」とは、検定教科書に記載される教材を上回る効果やそれら の隙間を補完する教材としての効果をさす。 15)前掲1)、217頁。「指導計画の作成と内容の取扱い」1の。 16)前掲1)、218頁。「指導計画の作成と内容の取扱い」2の。 17)日本における絵葉書の発行は、制度上からみて、私製葉書が認可された1900(明治33)年 10月を嚆矢とする見方が一般的である(例えば、佐藤健二(1994):『風景の生産・風景の解 放 メディアのアルケオロジー』、 講談社、4042頁)。これ以降、絵葉書はイベント記念や 時事的ニュースとして記録されたり、著名な名所旧跡や風光明媚な風景など観光用みやげと して販売され、企業の広告や年賀の挨拶状まで、時代や地域を問わず、多種多様なものが幅 広く世に出されてきた。そのため、地理的な風景や人々の生活文化などについては、絵葉書 を通して比較的容易に過去の画像をみることができる。しかしながら、絵葉書には撮影年次 を明記したものが極めて少なく、いつの画像であるかはそこに写っている事物やスタンプ押 印の場合の日付、実際使用されたものの場合は消印や日付署名、絵葉書の様式(通信面)な どから推定するしか方法がない。絵葉書には年代を特定しにくいという短所がある。また、 膨大な種類が発行されているので、 その全容を把握することができず、「もくじ」のない状 態で意中の画像に出会えるかという問題がないわけではない。それでも、最近は大学や図書 館などで絵葉書ライブラリーが充実されつつあり、所蔵の絵葉書資料をインターネット上に 公開している場合も少なくないし、地域や事象をテーマとした絵葉書アーカイブ的な書籍も 散見できるので、絵葉書を活用する環境は序々に整備されつつある。 18)前掲16)。 19)回答総数は4であった。 このうち「教育課程・方法論」が1、「特別活動の理論と方法」 が1、残りの2は科目名が未記載という構成である。