1.はじめに 2020 年は,1964 年以来 55 年余りを経ての東京での オリンピック開催が予定され,年齢や地域,立場を超え て,日本の人々が世界の人々とスポーツをはじめ,様 々 な面での発信や交流を通して,国の内外で世界の人々と かかわりあう年であることが期待されていた。しかし, 2020 年初めから世界に広がった新型コロナウイルス (COVID-19)の感染拡大は,東京でのオリンピック開 催の延期,3 月期以降の幼稚園,小・中・高等学校での 休園・休校措置,4 月の緊急事態宣言を受けての外出自 粛などの生活面での制約という,日本で暮らす人々がこ れまでに経験したことがない日常の状況を生み出した。 大学においても,2020 年は,多くの学生・大学院生が, 3 月の卒業・修了式,4 月の入学式を経ずに,学び舎を 後にしたり,集ったりすることとなっ た。新入 生や在学 生は,いわゆる「3 密」を回避するために大学への入構, 教室での授業,図書館の利用などでの制約を余儀なくさ れ,制約は,現在も多くの大学で継続している(阿部・ 佐藤・土屋,2020)。 本実践は,2020 年,新型コロナウイルス感染拡大の中, 「3 密」回避のための大学への入構規制により,教室で の対面の授業ができないという制約で迎えた大学 1 年 次学生への,オンラインでの大学英語の授業の試みにつ いての実践報告である。実践では,インターネットを介 したオンライン英語授業の実践を,授業担当者による学 生の授業への参加・取り組みの様子の観察,学生からの 授業へのフィードバック・コメント,提出課題,授業 外 学習課題から概観し,教室での対面授業の実施ができな いという制約の中で実施した,オンラインによる大学英 語の授業の意義について議論する。 2.大学でのオンライン授業と新型コロナウイルス感染 拡大 2.1 大学でのオンライン授業 大学で実施するオンライン授業には,その性質,形態, 方法により,いくつか種類があげられる。 大学でのオンライン授業の性質は,そもそも教室で実 施する対面授業を補完する,ICT 活用や CALL 活用の e-learning の授業形態の 1 つとして,大学の授業の中 に 位 置 づ け ら れ て き た 経 緯 が あ り( 香 西・ 田 口, 2018),このことは,大学の英語を含む外国語科目でも 同様であった(杉村・武岡・尾崎,2008)。最近になり, 学習者が,スマートフォンやタブレット・コンピューター などのモバイル端末を利用して,時間や場所を問わずに, オンラインで授業を受けることができる MOOCs (Mas-sive Open Online Courses) と呼ばれる「大規模公開 オンライン講座」の導入も世界や日本の大学で幅広く進 みつつあるが(萱・小張,2013),現在までのところ, オンライン授業が,教室の対面授業にとって代わるまで の広がりは見せていない。 大学でのオンライン授業の形態には,(1) あらかじめ 録音・録画した授業をアップロード,配信するオンデマ ンド方式(非同時・非双方向)の授業と,(2) 通常の授 業の時間割通り,或いは,時間割に準 じて,リアルタイ ムで配信するリアルタイム方式(同時・双方向)の授業 の 2 つの形態がある(文部科学省,2018)。オンデマン ド方式の授業は,事前に録音・録画し,学習者は,時間 を自由に設定して,授業を受けることができ,必要に応 じて繰り返し視聴できる一方で,授業者と学習者間,学 習者相互の双方向性,共時性の交流の機会の確保が難し いこと,また,授業コンテンツの容量が大きく,アップ ロードのためのインターネットのインフラの整備が必要 といった特徴がある。リアルタイム方式の授業は,経時 的に授業計画に沿って,決まった時間帯を利用して時間 割どおりに授業を進めることができるが,通常の教室で の対面方式の授業と同じく,欠席があった場合の再受講 等の回復措置が取りにくいこと,授業者・学習者のリア ルタイムの授業アクセス環境(通信インフラの環境)に より,授業コンテンツの音声や映像の視聴中に,意図し ない乱れ や中断が生じることがある。
大学でのリアルタイム・オンライン英語授業の試み
A Practical Report on Real-Time Online University English Lessons under
the COVID-19 Outbreak
大嶋 秀樹
Hideki OSHIMA
滋賀大学
大学で実施するオンライン授業では,オンデマンド方 式の授 業でも,リアルタイム方式の授業でも,授業コン テンツの配信は,インターネットによる通信への依存度 が高いが,オンデマンド方式の場合は,インターネット での配信・視聴のほかに,あらかじめ保存した録音・録 画メディア等への直接のアクセスによる授業の受講が, また,リアルタイム方式の授業の場合には,授業を行う 場所と受講する場所を専用の回線でつないでのテレビ会 議システム等を利用したリモート方式による授業の受講 も可能である。しかし,あらかじめ保存した録音・録画 メディア等への直接のアクセスによるオンデマンド方式 の授業の受講も,専用の回線でつないでのリモート方式 による授業の受講も,実施のための設備が大掛かりにな りがちで,専用の保守・管理のソフトウェアや設備の整 備,そのための人員の確保が必要で,利用形態や利用手 順が複雑になったり,利用設備を整えたり維持のために はコストがかさむという面がある。そのため,最近では, オンデマンド方式の授業であれば,リモート学習管理・ 支援システムの構築のための公開専用プラットフォー ム,Moodle (Moodle Pty Ltd) を利用して導入した各 大学のリモート学習管理・支援システム上へアップロー ド, ア ク セ ス し て の オ ン ラ イ ン 授 業 の 方 法( 小 山, 2009)を,リアルタイム方式の授業であれば,Teams (Microsoft Corporation)や Zoom (Zoom Video
Com-munications) といったリアルタイム方式のソフトウェ アを介してのインターネット上でのオンライン授業の方 法(安西,2020)を採用する例が多い。 2.2 新型コロナウイルス感染拡大を受けての大学での オンライン授業 前節で挙げた大学でのオンライン授業の状況は,教室 での対面授業の補完利用を前提とした,大学でのオンラ イン授業の状況をまとめたものである。しかし,教室で の対面の授業を補完する形で進展を遂げてきた大学での オンライン授業の状況は,2020 年初めから世界に広がっ た新型コロナウイルスの感染拡大の中迎えた新年度の 4 月から始まった学期には一転する。 従来,大学では,4 月当初から 4 月第 1 週にかけての 新入生・在学生を対象にした学生オリエンテーションや ガイダンスなどの年度初めの行事の後,4 月第 2 週には, 受講登録を経て,教室での対面の授業が始まるといった 年間のスケジュールを立てている場合が大半であった。 けれども,2020 年度は,年度始まりの 4 月初めの時期 を迎えても,新型コロナウイルスの感染拡大は終息の兆 しを見せず,多くの大学では,例年通りの 4 月初めか らの新学期の授業の開始を見合わせ,「3 密」を避ける ための通常の教室での対面授業に代わる授業の実施や実 施方法の検討を始めるという事態を迎えた。文部科学省 もこうした緊急事態を迎えた大学でのオンライン授業を はじめとする遠隔授業の検討を後押しした(文部科学省, 2020a)。 2020 年 4 月に文部科学省がまとめた,全国の国公私 立大学・高等専門学校を対象にした『新型コロナウイル ス感染症対策に関する大学等の対応状況について』の調 査(文部科学省 b,2020)によれば,「通常の授業開始 時期の延期や遠隔授業の実施」については,「決定また は検討中」との回答が,回答のあった 509 校のうち 488 校から出された。また,「多様なメディアを高度に 利用して教室外の学生に対して行う遠隔授業の活用に関 する検討状況」については,「実施または検討する方針」 との回答が,回答のあった 859 校のうち 760 校から出 されることとなった。 こうした新型コロナウイルスの感染拡大を受けての緊 急事態を背景に, 学生が大学に通学できなくても,大学 で教室での対面の授業が開講できなくても,学生が「3 密」を避けながら大学の授業を受けることができる選択 肢として,全国の大学で,オンラインでの授業の開講・ 実施の検討が本格化することとなった。 3.実践の目的 本実践は,新型コロナウイルスの感染拡大を受け,対 面授業に代えて実施した,大学英語のオンライン授業の 実践事例を報告する。本実践では,オンライン英語授業 の実践を,(1) 授業担当者による授業観察,(2) 学生か らのフィードバック・コメント,(3) 提出課題,(4) 授 業外学習課題から概観する。そのうえで,教室での対面 授業できない制約の中での,大学英語のオンライン授業 の意義について議論することを目的とする。 4.実践の方法 4.1 参加者 参加者は,近畿地区の A 大学教員養成系学部の 2020 年度入学の新入生 39 名の学生たちである。39 名の参 加者は,英語力によるクラス振り分け(プレースメント) を行わず,学籍番号の通番により,人数ごとに振り分け られた,同じ大学教養英語のクラスに属している。参加 者は,全員が小学校から英語を学び始め,小・中・高等 学校では,英語によるコミュニケーション能力を養うこ とを目標とした英語教育を経験している。小学校以来, ペアやグループでの活動中心の英語の授業にも親しんで きた一方で,中学や高等学校での受験期には,知識中心 の記憶依存の受験勉強の経験も持っている。英語が比較 的得意な参加者もいれば,苦手とする参加者もいる。参 加者は,全員が,小・中・高等学校では,教室での対面 による英語の授業を受けてきており,大学入学まで,英 語を含めたすべての授業で,オンラインによる授業の経 験は無い。 4.2 実施したオンライン授業の実践 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,A 大学では, 3 月末の卒業式,4 月初めの入学式の中止,年度初めの 学生オリエンテーションのオンライン実施,4 月からの 滋賀大学教育実践研究論集 第 3 巻 2021
学生健康診断を除く大学構内への学生の入構規制,図書 館や食堂 などの施設の休止といった一連の対応が続き, 当初 4 月 8 日の教室での対面授業での春の学期の開講 は,4 月 20 日からのオンラインでの学期授業の開講へ と変更された。これに伴い,授業担当者は,教室での対 面による授業を前提とした授業シラバスを修正し,定期 試験の中止に伴う対応もシラバスに加えて,オンライン での授業を計画・実施することとなった。 A 大学でのオンライン授業には,オンデマンド方式, リアルタイム方式が採用された。 オンデマンド方式では, (1) 既存のリモート学習管理・支援システムのツー ルを利用した,事前録画の講義映像の録画視聴 によるオンライン授業, (2) リモート学習管理・支援システムへのアップロー ド文書で事前提示した,学習課題による e-learning でのオンライン授業 が候補として示された。 リアルタイム方式では, (3) Teams か ZOOM を利用した,対面によるオン ライン授業 が候補として示された。 授業担当者は,これらの 3 つのオ ンライン授業の候 補の中から 1 つ選択,もしくは,複数選択して組み合 わせることで,オンライン授業での春の学期の開講を行 うこととなった。 本実践では,対面によるリアルタイム方式をオンライ ン授業実施の候補として採用した。採択理由としては, 当該の授業が大学での授業経験が全くない新入生対象の 大学教養英語の授業であること,学生の互いのリアルタ イムの交流の機会を,授業を通じて設けることが可能で あること,学生の居所を問わず,毎週決まった時間に, 教員・学生間・学生相互の双方向性の授業の実施が可能 なことがあげられる。利用するソフトウェアについては, 授業途中の遅刻・早退も含め,授業の時間軸に沿った出 欠管理,ペアやグループ活動のためのグループ作成・管 理が簡便で,参加者への授業連絡が URL 送付だけで行 うことができ,スマーフォンでも参加者の受講が可能な 点を勘案し,ZOOM を使用することとした。授業や課 題についての連絡,資料の提示や授業課題の提出には, 既存の大学のリモート学習管理・支援システムを使用し た。 授業は,教室での対面授業のシラバスを,一部,オン ライン授業にあわせて修正のうえ,15 週分計画し,毎 週月曜日の午後 12 時 50 分から,各回 90 分間実施した。 15 週分の授業のうち,月曜休日振替授業の土曜実施分 1 回(6 月に実施)については,通常のリアルタイム方 式でのオンライン授業に加え,ZOOM の録画機能を利 用した授業の録画を,大学のリモート学習管理・支援シ ステムにアップロードし,受講者の土曜日のスケジュー ルに合わせたオンデマンド方式の授業受講も可能にした。 15 週のオンライン授業では各回の重点技能を明示し, 各回の授業の継続性と一貫性を確保したうえ で,授業を 通じて受講生の英語の「聞くこと」,「読むこと」,「話す こと(やりとり・発表)」,「書くこと」の技能の統合を 図ることに重点を置いて授業を実施した。授業の実施に あたっては,オンライン授業は対面での授業に比べ,教 員・学生間,学生相互の関係性の実感覚が希薄になりが ちであることから,毎回の授業で受講生が,教員・学生 間,学生相互の双方向性の交流を実感できる体験的な活 動の場面と活動機会の確保に留意した。 本実践で実施した各回のオンライン授業の内容,実施 した活動,各授業回の重点活動技能は,以下の表 1 の とおりである。 表 1 実施したオンライン授業の内容と活動の種類 ⾲ ᐇࡋࡓ࢜ࣥࣛࣥᤵᴗࡢෆᐜάືࡢ✀㢮 ᅇ ᤵᴗෆᐜ ᐇࡋࡓάື 㔜Ⅼᢏ⬟ 1 2 3 Orientation & speech preparation Self-introduction & exchange Essay writing based on self-introduction improvised self-introduction
presentation & exchange
essay writing speaking listening speaking writing 4 5 6 7 8 Story reading in English at sight 1 Story reading in English at sight 2 Speaking about everyday things 1 Speaking about everyday things 2 Essay writing based on speaking
picking up key words & topics
story retelling in everyday English
planning & rehearsal
presentation & exchange
essay writing in English
reading reading speaking listening speaking writing 新型コロナウイルス感染拡大の状況下での大学でのリアルタイム・オンライン英語授業の試み
9 10 11 12 13 14 15 Listening to music in English 1 Listening to music in English 2 Story reading in English at sight 3 Story reading in English at sight 2 Speaking based on story reading 1 Speaking based on story reading 2 Essay writing based on story reading listening to popular English songs catching words & understanding
picking up key words & topics
story retelling in everyday English
planning & rehearsal
presentation & exchange
essay writing in English
listening listening reading reading speaking listening speaking writing オンライン授業で実施した活動の内容についての,技 能ごとの内訳は次のとおりである。 「聞くこと」に重点を置いた活動: ・ やり取り・発表の際の聞き手役の時の聞く活動 ・ インターネット・チャリティー・ライブ 『One World: Together at Home』 で取り上げられた楽曲から,受 講学生が中・高等学校の英語の授業などで親しんでき た曲を中心に取り上げて,音声面の発音の情報も交え ながら,歌詞の英語をキャッチして,聞こえる言葉か ら聞き取って,だんだんにキャッチできることばを増 やし,歌詞の内容,歌の背景を日常の英語で理解し, あらためて,聞くことの活動にもどり,リピーティン グ(repeating), シ ャ ド ー イ ン グ(shadowing) ま でを行う活動。 「読むこと」に重点を置いた活動: ・ 初見の英語の読み物を読み,音声化できない言葉は意 味の理解までたどり着かないことを伝え,まず,多少 の読みごまかしが可能な黙読,その後の読みごまかし のできない音読から,音声化できない言葉の拾い出し を行い,音声化できない言葉の音声指導,日常使われ る平易な英語での言い換えによる音声化できなかった 未知語の理解,理解できない物語中の文表現の日常語 での英語による英語での言い換えと理解をはかり,音 読の負荷をかけての読みながらの内容理解,音読の負 荷を取り除いての黙読によるスムーズな英語による英 語での内容理解,ストーリー・リテリング(story retelling)までの活動。 「話すこと」に重点を置いた活動: ・ 日本語で話す内容を考えない,英文原稿を作らない, 原稿を読まない,即興性のやり取りと発表を重視した 話すことの活動。 「話すこと」に重点を置いた活動では,英語から始めて, 英語で話す習慣を作ることに留意した。 活動では,まず,話す話題の内容が具体的にイメージ できる 4 語程度の英語のキーワードを,中学 3 年生か ら高校 1 年生ぐらいまでに学習した,各自が扱いやす い語彙から選んだ。 次に,各自が選んだ 4 語を使って,辞書を使わずに 即興で出すことができる語彙や表現で,具体例や経験を 交えて,話す内容を英語で具体化し,形にするための, 話す活動への準備の時間をとった。話す活動の準備には, キーワードのメモや話す表現の断片を英語で書き留める ことは認めたが,完成された英文を書き,英文を読んで 話すことは禁止した。 準備の後は,書き留めたメモや表現の断片に時々目を やりながらのリハーサルの時間を十分にとり,スムーズ に話したい内容が口から出る頃を見計らって,ペアでの やり取り,4 名から 5 名程度のグループでの発表,クラ スでの発表,授業後には各自録音しての課題提出という 段階を経ながらの「話すこと」の活動をオンライン授業 で進めていった。 一連の「話すこと」に重点を置いた活動は,課題別に のべ 3 回実施した。取り上げたトピックは,1 回目は「自 己紹介」,2 回目は「朝起きて授業を受けるまでの出来事」 か「週末の出来事」,3 回目は「初見で読んだ物語から 3 語を選び,自分で選んだ 1 語を加えて,4 語のキーワー ドで,物語にちなんだスピーチ,やり取りを話すこと」 の 3 種類であった。1 回目は,各自がオンラインでクラ ス全体に発表し,これを授業担当者が評価し,2 回目, 3 回目の課題は,録音による音声ファイルでの提出課題 とした。 「書くこと」に重点を置いた活動: ・ 話すことの活動で各自が話した内容をもとに,英語で まとまった文章を書く活動。 一連の「書くこと」に重点を置いた活動は,課題別に のべ 3 回実施した。取り上げたトピックは,1 回目は「自 己紹介」,2 回目は「朝起きて授業を受けるまでの出来事」 か「週末の出来事」,3 回目は「初見で読んだ物語から 滋賀大学教育実践研究論集 第 3 巻 2021
3 語を選び,自分で選んだ 1 語を加えて,4 語のキーワー ドで,物語にちなんだスピーチ,やり取りを話すこと」 の 3 種類の「話すこと」に重点を置いた活動で取り上 げたトピックと同じ 3 種類のトピックであった。活動 の実施後は,授業中に書き上げた文章を各自で推敲した ものを授業課題として提出することを課した。 オンライン授業で取り上げた一連の活動は,参加者の 活動形態の違いにより,「個人で取り組む活動」,「相互 のやりとりで取り組む活動」,「クラス全体での活動」の 3 種類の活動形態に分類でき る。毎回の授業では,これ ら 3 種類の授業形態を組み合わせた活動を,授業を通 じて実施した。毎回の授業での活動は,各自で行う「個 人で取り組む活動」→ペアから始めて 4 名から 5 名程 度のグループで行う「相互のやりとりで取り組む活動」 →活動内容のクラス全体での発表と共有を行う「クラス 全体での活動」→授業の活動の成果を各自で振り返り確 かめる「個人で取り組む活動」の,活動サイクルのルー ティーンを採用して実施した。ペア,グループの編成は, ZOOM のランダムでのグループ分け機能を使い,毎回 の活動ごとに, 相手やメンバーを固定せず組み換えを 行った。 4.3 授業の観察,授業へのフィードバック・コメント, 授業課題,授業外学習課題 オンライン授業への参加者の取り組み状況について は, (1) 授業担当者による授業への参加(出席)状況と 授業観察, (2) 参加者からの授業へのフィードバック・コメント, (3) 授業課題, (4) 授業外学習課題 の資料から,参加者のオンライン授業,オンラインでの 英語の授業への取り組みの様子を概観した。 授業担当者によるオンライン授業の観察は,毎回の授 業で,呼名で出 席状況を確認した後,授業の実施と並行 して行い,気が付いたことは,授業の実施時や実施直後 に記録した。 参加者は,毎回,授業の感想,要望,質問などをフィー ドバック・コメントとして,A4 用紙に自由記述で記入 し,提出した。最終回には,オンライン授業が,参加者 にとって有用であったかどうかを,「はい」,「い いえ」 で回答し,学期の授業全体について振り返り,フィード バック・コメントとして,提出した。 他に,参加者は,授業課題として,授業で行った活動 のうち,「話すこと(発表)」については,実施した 3 回分の活動のうち,授業時間内で発表した 1 回分を除 いた,各自で録音した音声ファイル 2 回分を,「話すこ と(発表)」の活動を発展させた「書くこと」の活動に ついては,実施した 3 回分すべてを Word ファイルで, それぞれ提出した。 参加者に よる授業のフィードバック・コメント,授業 課題は,すべて,大学のリモート学習管理・支援システ ムを使用して提出した。授業外学習課題については,大 学で導入している e-leaning システムの Academic Ex-press(スーパー英語 .com)を学期に画面表示時間 15 時間以上(実学習時間 45 時間以上)取り組むことを課 題とし,参加者の取り組み状況を見ながら,授業担当者 は,参加者の取り組みの支援を実施した。 5.結果と考察 5.1 授業への参加状況と授業観察の結果 授業への参加状況からは,出席については,39 名の 参加者のうち,1 名の 2 回の欠席を除き,38 名が,す べてのオンライン授業に無欠席で参加した。遅刻につい ては,欠席のあった参加者の遅刻が 10 回,他に 1 名が 7 回遅刻したが,いずれも授業開始から 10 分以内の遅 刻であった。オンライン授業当初は,インターネットの 接続が授業中不安定になる参加者もいたが,参加者の映 像参加を音声参加に変更し接続負荷を軽減することで, 状況は改善した。 授業者による授業観察からは,授業中は,「聞くこと」 の活動中以外は,参加者はマイクをオンにして授業に参 加し,「話すこと」の活動での発表・やりとり,「読むこ と」の活動での音読など,声を出す活動では,積極的に 声を出して活動に参加していたことが確認できた。ペア やグループで活動場面では,参加者は声を出して積極的 に活動に取り組んでいた。聞くこと,書くことの活動で も,メモをしたり書いたりしながら,活動に集中して取 り組んでいた。授業観察からは,参加者の主体的な授業 への取り組み姿勢を確認することができた。 5.2 フィードバック・コメントの結果 5.2.1 毎回の授業のフィードバック・コメント 参加者からの毎回の授業のフィードバック・コメント は,欠席があった 1 名を除いて,38 名の参加者から毎 回の授業後の提出があった。 フィードバック・コメントからは,オンライン授業で あることに関するコメントと英語の授業に関するコメン トの 2 種類のコメントを得ることができた。 2 種類のそれぞれのコメントの内訳は以下のとおりで ある。2 種類のコメントからは,それぞれ, オンライン授業であることに関するコメント: ・ 4 月当初は大学への登学のないオンライン授業に戸 惑ったり,不安を訴えるコメントが多く, ・ その後,5 月の授業を迎えるころには,毎週決まった 時間に開講するリアルタイム方式のオンラインでの, 毎回の大学教養英語授業への参加が楽しみで,授業が 楽しいというコメントが増えていったこと, ・ さらに,参加者が受講した春の学期の授業の中で,当
該授業は数少ない,リアルタイム方式の対面によるオ ンライン授業で,受講場所の違いを超えて,同じ時間 を共有できる授業(他の授業の大半はオンデマンド方 式で双方向性や一体感を感じにくい)というコメント が多かったこと を確認することができ, オンラインの英語の授業に関するコメント: ・ 体験的な活動中心の参加型リアルタイム方式でのオン ライン授業で,授業担当者・参加者間,参加者相互の 双方向性が確保されていて,新入生としての連帯感を 授業で共有しながら,英語を学ぶことができているこ と, ・ ZOOM の板書機能を使った平易な日常の英語での語 彙や表現の説明がわかりやすかったこと, ・ 英語で英語を理解したり,英語で考えて英語で発信す ることの具体的な実体感がだんだんにつかめるように なってきたこと, ・ オンライン授業は画面を通した授業ではあるが,教室 での対面授業に比べ, 1 対 1 で英語を学ぶ実感を強く 持てること を確かめることができた。 5.2.2 オンライン授業の有用性,授業全体の振り返り のフィードバック・コメント 本実践を通じてのオンライン授業の 有用性について は,39 名中, 35 名が「はい」,4 名が「いいえ」 と回答した。 15 回の授業全体の振り返りコメントからは,オンラ イン授業に関するコメントと英語の授業に関するコメン トの 2 種類のコメントを得ることができた。 2 種類のそれぞれのコメントの内訳は以下のとおりで ある。 オンライン授業に関するコメント: ・ オンライン授業ではあったが,離れている参加者との 相互の英語での活動を通じて,毎回みんなと一緒に授 業を受けている連帯感を強く感じたこと, ・ オンライン授業ではあったけど授業が丁寧だったと感 じたこと, ・ リアルタイム方式で,毎週の課題をためず取り組みや すかったこと, ・ 安心して授業を受けることができたこと, ・ オンライン授業だからできる活動の良さ,メリットを 感じたこと, オンラインの英語の授業に関するコメント: ・ 授業を通じて,自分で,英語で聞いたり,読んだり, 話したり,書いたりすることができるようになったこ とが増えてきたと感じたこと, ・ 毎回のフィードバック・コメントでの質問の解説で英 語への学びを深めることができたこと, ・ 音読やグループワーク,海外アーティストの音楽での リスニングが楽しかったこと, ・ 高等学校までの英語の学び直しができたこと, ・ 英語を学ぶ楽しさを大切にしたいと感じることができ たこと, ・ 英語への苦手意識が和らいだこと, ・ コロンとセミコロンの意味・使い分けのことを初めて 知ったこと, ・ 毎週の英語の授業の時間が自分にとって充実した時間 であったこと, ・ 英語のアクティブな活動の楽しさを感じたこと, ・ 英語の 4 技能が授業でバランスよく取り入れられて いたこと , ・ 授業で英語の新たな学びを感じることができたこと ・ オンラインで音声でのやりとりが多く,英語の音声を 意識して,英語での授業の活動に取り組むようになっ たこと が参加者からの授業全体を通じての振り返りのフィード バック・コメントとして挙げられた。 5.3 授業課題の結果 5.3.1 授業課題「話すこと(発表)」 授業課題「話すこと(発表)」の 3 回分の課題は,選 んだキーワードをもとに英語で 1 分程度の即興での発 表を考えて話す課題で,1 回目の課題は,オンライン授 業の中で参加者 39 名全員が発表を終えた。2 回目と 3 回目は,音声ファイルでの提出で,2 回目は,38 名,3 回目は,33 名の参加者からの提 出があった。発表・提 出のあった課題は,すべて,キーワードを使い,英語で 1 分程度の即興の発表を行うという課題作成条件を満た していた。提出のあった課題は,言語面(音声・語彙・ 文法),内容面(構成や展開・内容のまとめ方),パフォー マンス面(話すことの流暢さ・発表の音声での伝え方) について,5 段階の 評価を行った。評価結果は,表 2 に 示す。 表 2「話すこと(発表)」の課題評価 ᤵᴗㄢ㢟ࡢ⤖ᯝ ᤵᴗㄢ㢟ࠕヰࡍࡇ㸦Ⓨ⾲㸧ࠖ ⾲ ࠕヰࡍࡇ㸦Ⓨ⾲㸧ࠖࡢㄢ㢟ホ౯ ㄢ㢟 ホ౯ᖹᆒ SD n 1 ᅇ 2 ᅇ 3 ᅇ 4.51 4.41 4.79 0.51 0.63 0.52 39 38 33 ⾲ ࠕ᭩ࡃࡇࠖࡢㄢ㢟ホ౯ ᤵᴗእᏛ⩦ㄢ㢟ࡢ⤖ᯝ ⪃ᐹ 滋賀大学教育実践研究論集 第 3 巻 2021 68
評定平均は,課題内容による難易を反映し,第 2 回 の課題がやや低い傾向があるが,それぞれの参加者の提 出課題を個別に見てみると,回を重ねるごとに,言語面, 内 容面,パフォーマンス面のそれぞれで質的な向上の様 子を認めることができた。 5.3.2 授業課題 「書くこと」 授業課題 「書くこと」 の 3 回分の課題は,授業課題 「話 すこと(発表)」 の 3 回分の課題をもとに,15 文から 20 文程度の量で,まとまった内容の英語の文章を書く 課題で,文書ファイルで提出した。39 名の参加者のうち, 1 回目は,37 名,2 回目は,36 名,3 回目は,36 名か らの課題の提出があった。提出のあった課題は,すべて, 「話すこと(発表)」 の 3 回分の課題をもとに,15 文か ら 20 文程度の量で,まとまった内容の英語の文章を書 くという課題作成条件を満たしていた。提出のあった課 題は,言語面(音声・語彙・文法),内容面(構成や展開・ 内容のまとめ方)について,5 段階の評価を行った。評 価結果は,表 3 に示す。 評定平均は,課題内容による難易の違いに関わらず, 回を追うごとに評価が上昇していた。それぞれの参加者 の提出課題を個別に見てみると,回を重ねるごとに,言 語面,内容面のそれぞれで質的な向上の様子を認めるこ とができた。 表 3「書くこと」の課題評価 ᤵᴗㄢ㢟ࡢ⤖ᯝ ᤵᴗㄢ㢟ࠕヰࡍࡇ㸦Ⓨ⾲㸧ࠖ ⾲ ࠕヰࡍࡇ㸦Ⓨ⾲㸧ࠖࡢㄢ㢟ホ౯ ⾲ ࠕ᭩ࡃࡇࠖࡢㄢ㢟ホ౯ ㄢ㢟 ホ౯ᖹᆒ SD n 1 ᅇ 2 ᅇ 3 ᅇ 4.38 4.43 4.69 0.63 0.55 0.57 37 36 36 ᤵᴗእᏛ⩦ㄢ㢟ࡢ⤖ᯝ ⪃ᐹ 5.4 授業外学習課題の結果 授業外学習課題の e-leaning システムの Academic Express に,画面表示時間 15 時間以上(実学習時間 45 時間以上)取り組む課題では,8 月初めの期限まで に取り組んだ総時間は,39 名の参加者のうち,0 時間 が 1 名,0 ~ 5 時 間 が 4 名,5 ~ 10 時 間 が 3 名, 10 ~ 15 時間が 2 名,15 ~ 20 時間が 26 名,20 ~ 30 時間が 1 名,30 ~ 40 時間が 1 名,40 時間以上が 1 名 であった。 5.5 考察 授業への参加状況結果からは,遅刻・欠席のあった 2 名を除き,37 名の参加者は,毎回授業に無遅刻・無欠 席で参加していたことが明らかになった。 授業観察からは,参加者は,毎回の授業で実施した活 動に,怠けることなく,積極的に参加し,取り組んでい る様子がうかがえた。 授業の有用性についての質問の集計結果からは,オン ライン授業の有用性を答える回答が多く見られた。 毎回の授業,期末の授業全体の振り返りのフードバッ ク・コメントからは,オンラインでの授業の実施という ことに関しては,参加者は,4 月当初は,教室での対面 の授業のない中でのオンライン授業で,授業内容や授業 の進め方については不安を抱える様子を多くの参加者が 示していたことが明らかになった。その後,オンライン 授業を経験する中で,毎週時間割通りに進むリアルタイ ム方式の,英語による体験的な活動中心の参加型オンラ イン授業によって,授業担当者・参加者間,参加者相互 の双方向性(Swain & Lapkin, 1998; Swain, 2000)が 確保され,連帯感を授業参加者間で共有しながら,英語 を学ぶことができることを感じていく様子がうかがえ た。また,授業回を重ねるごとに,オンライン授業への 不安感は解消されていったことが読み取れた。 オンラインでの英語の授業に関しては,授業で取り上 げた活動については,英語で取り組む体験的な活動を通 して音声や発音をこれまで以上に意識して英語を学べた こと,英語でのアクティブな活動に取り組むことの楽し さ,体験的な英語の活動を通じて英語を学ぶことで得ら れる達成感,受験の強制感を感じずに高等学校まで学ん だ英語の学び直しができること,英語を学ぶことの楽し さを実感できたことを,それぞれ確認することができた。 発表や提出のあった「話すこと(発表)」と「書くこと」 の授業課題からは,課題への取り組みを重ねるごとに, 言語面(音声・語彙・文法),内容面(課題内容の構成 や展開),パフォーマンス面(話すことの流暢さ・発表 の音声での伝え方)のそれぞれに質の向上の様子をうか がうことができた。 授業外学習課題への取り組みについては,参加者の多 くが,授業外の e-learning に,授業外学習の時間を設 定して取り組んでいたことが明らかになった。 オンライン授業への参加者の取り組み状況について は,授業担当者による参加(出席)確認と授業観察,参 加者からの授業へのフィードバック・コメント,授業課 題,授業外学習課題から,総じて,参加者は,英語を体 験的に使いながら英語を学ぶことへの主体性を感じて, オンライン方式での授業,オンラインでの英語の授業に 前向きに,積極的に取り組めていたこと,授業課題・授 業外課題には継続して取り組めていたこと,授業課題の 内容については,課題への取り組みを通して課題内容の 質の向上が認められたことが明らかになった。 本実践は,新型コロナウイルス感染拡大の状況を迎え, 教室での対面授業の実施ができないという外的な制約の 中で実施した緊急避難的な動機に端を発するオンライン での大学教養英語の授業実践ではあったが,参加者から のフィードバック・コメント,授業の有用性についての 質問への回答,授業課題・授業外学習課題への取り組み 状況からは,オンライン方式という授業形態,オンライ ンでの英語の授業ということのそれぞれに関して,参加 者からの一定程度の肯定的な受け止めが認められた。ま た,授業課題の評価からは,授業期間を通じて,言語・ 69
内容・パフォーマンス面での課題内容の質の向上を確か めることができた。 6.おわりに 本実践の目的は,インターネットを介したオンライン 英語授業の実践を,授業への参加・取り組みの観察,授 業へのフィードバック・コメント,提出課題,授業外学 習課題から概観し,教室での対面授業の実施ができない という制約の中で実施した,オンラインによる大学英語 の授業の意義について議論することであった。本実践は, 新型コロナウイルス感染拡大というネガティブな外的環 境の中で始まった取り組みではあったが,実践を通して, 参加者に,インターネットを介したオンライン英語授業 で英語を学ぶことへの一定の意義を感じてもらえること ができた。 本実践では,もっぱらリアルタイム方式のオンライン 授業の実践事例について論じた。そのため,本実践では, 他の方式のオンライン授業や教室での対面方式の授業と の比較,比較による効果の検証や考察までは及ばなかっ た。 今後は,他の方式のオンライン授業や教室での対面方 式の授業との比較,異なる授業形態の併用による授業へ の相乗的効果についても検証や考察を進めていきたい。 また,授業形態の違い通じてうかがえる授業参加者の英 語 力の達成度や到達度,オンライン方式の授業を取り入 れることでの授業参加者の英語力の向上への効果といっ た点についても議論を深めたい。 参考文献 阿部朋美・佐藤剛志・土屋亮 (2020, August 5) 「友達 ゼロ,消えた大学生の日常「ディズニーはよいの に 」」.『 朝 日 新 聞 Digital』.https://www.asahi. com/articles/ASN8475T3N70UTIL054.html 安西弥生 (2020) 「ZOOM を活用したオンライン国際協 働型学習の基礎研究」.『CRET 年報』 第 5 号 : 37-40. 萱忠義・小張敬之 (2013) 「オンライン講義を利用した モバイル英語教育」.『モバイル学会誌』 3(2): 41-46. 香西佳美・田口真奈 (2018)「M OOC での授業実践の経験 を通した大学教員の授業力量形成- Technological Pedagogical Content Knowledge(TPA CK) の
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