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市民の主体的参加による協働まちづくり推進序説

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Title

市民の主体的参加による協働まちづくり推進序説

Author(s)

仁科 信春

Citation

福岡工業大学環境科学研究所所報 第11巻  P15-P23

Issue Date

2017-10

URI

http://hdl.handle.net/11478/781

Right

Type

Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

福岡工業大学 機関リポジトリ 

FITREPO

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市民の主体的参加による協働まちづくり推進序説

仁科 信春(岐阜経済大学経済学部) キーワード:協働,まちづくり,市民参加,アクション・リサーチ 1.はじめに 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、 少子高齢化の進行とともに、わが国の総人口は減少 傾向にあるとされる1)。このような状況は、コミュ ニティの崩壊を招くことにもつながる。そこに至ら なくても、祭りのような地域の伝統的な行事の運営 ばかりか、日常的な地域活動においてもこれを円滑 に継続していくことは難しくなっていく。 このとき、市民、団体、学校、事業者および行政 等による実効性の高い協働の取り組みは、コミュニ ティの活性化につながるものと考えられる。しかし ながら、このような地域の各主体による協働のまち づくりを推進していくためには、そこに関わる市民 の主体的な参加が不可欠であると考える。 そのためには、自身の住むまちのことに対して関 心をもつとともに、まちの問題や課題を他者と共有 し、地域全体で、そのことについて考えることが重 要である。 このことに関連し、これまでの報告から、ボラン ティア活動に対する関心と、その活動への行動志向 性との間には、有意な相関関係が認められた2)。こ れは、ボランティア活動への関心を高めることで、 ボランティアに参加する可能性を示している。 他方、現実の地域活動においては、参加者の少な いことが課題となっており、参加のあり方を考える 必要性が指摘された3)。地域活動に対して、一定の 関心が認められたとしても、それが参加行動に直結 するものではない。地域のことや地域の活動に関心 をもつことは重要である。しかしそこには、「関心」 を「参加」という行動に移すことの難しさを認める ことができる。 こうした状況を踏まえ、本稿では、地域の任意団 体である『島田市の循環型社会を考える会』のまち づくりに関する基本的な考え方と、その活動実績を 踏まえ、この任意団体の実践的な取り組みをとおし て、市民の主体的参加による協働まちづくりのあり 方に関する試論を提示するものである。 2.任意団体の概要 島田市の循環型社会を考える会(以下、本会)は、 静岡県島田市の任意団体である(代表:筆者)。平成 24 年 10 月に設立された。 本会は、島田市内の環境団体とネットワークを深 め、市民、団体、学校、事業者および行政との協働 による環境まちづくりや、資源循環型社会のあり方 を考えるとともに、これからの島田市の循環型社会 形成に向けたシステムの構築と、それにかかる実践 的な取り組みの推進を目的としている。 主な活動内容は、小学生を対象とした環境教育プ ログラムの企画・立案およびその実践的活動、市民 を対象とした環境セミナーの企画・運営およびその 開催、島田市の環境まちづくりを考えるための質問 紙調査の実施などである。 なお、平成25 年度から平成 27 年度までの3年間 における本会の活動の一部は、島田市まちづくり支 援事業の助成を受けた。また、質問紙調査は本会が 主催するものであるが、島田市教育委員会および調 査対象小学校の協力により実施されたものである。 3.手続き 本稿では、本会におけるこれまでの活動内容を分 析し、取り組みの成果とその有効性について検討を 加える。また、このことを踏まえ、市民の関心を高 め、主体的行動の実践に向けた「市民参加型プロジ ェクト」および地域の問題や課題を地域全体で考え る「全市的市民参加のプラットホーム」を仮説モデ ルとして提示する。 このプラットホームを基盤とし、アクション・リ サーチとして市民参加型プロジェクトを遂行するこ とにより、市民の積極的参加態度の形成、その行動 側面としての主体的参加行動の実践、多数の市民参 加による相互交流の促進とコミュニティの活性化が 期待できる。これらの視点から、持続的な協働まち づくりへの知見を得ようとするものである。

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4.任意団体の活動内容 本会は、概ね、年に数回の活動を行ってきている。 主な活動内容を表1に示す。 4.1 地域における環境教育 小学生を対象とし、児童期における環境に関わる 体験学習によって、環境に配慮した行動を実践でき る素養を身につけることを、主な目的としている。 将来を担う地域の人材育成にもつながるものである。 これまでに、計 9 回を開催した。主な内容は、「誰に とっても安心して暮らすことのできるまちのあり 方」「体験学習:ブラインド・ウォーク、車いすによ る移動体験」「まちのよいところ」「野菜の種まき、 収穫」「堆肥づくり」「エコ・クッキング」などであ る。 4.2 環境セミナー 市民を対象とし、環境に関わる情報の提供や市民 の環境に対する意識の向上を目指すことを主眼とし ている。地域活動のリーダー育成および地域の人的 資源につなげようとするものである。これまでに、 計 7 回を実施した。 主なテーマは、「環境まちづくりに関するワーク ショップ」「環境人材育成講習」「環境活動と協働に 関するパネル・ディスカッション」「福祉のまちづく りシンポジウム」などである。 環境人材育成講習は、まちづくり、環境学習など に関わる団体のメンバーや社会貢献活動を実践して いる事業者を対象とするものである。ファシリテー ションやワークショップの入門編に関する内容とし た講習会である。 また、パネル・ディスカッションは、環境に関わ る活動を実践している団体や事業者による活動事例 を互いに認知・共有し、環境活動や社会貢献活動の よりよいあり方を考えることを目的とするものであ る。 4.3 質問紙調査 市民、団体、事業者を対象とし、廃棄物の再資源 化に関する意識と行動、地域活動に関する意識と行 動、環境や協働の取り組みに関する意識と行動を把 握することを目的とした。 市民調査は、小学校児童の保護者を対象とするも のであり、これまでに 2 回を実施した。主な調査項 目は、ごみ分別と再資源化に対する意識と行動、生 ごみ再資源化に対する意識、生ごみ堆肥の利用行動、 日常の環境配慮に関する意識と行動、ボランティア や生涯学習に対する意識と行動などである。 また、団体(NPO 法人・任意団体)および事業 者に対しては、1 回の質問紙調査を実施した。主な 調査項目は、地域の各主体との協働に関する意識と 実態、人材育成に関する実態、活動に対する課題や 問題点などである。 これらの質問紙調査の結果は、第 1 次集計報告お よび最終報告として、公開の場をもって市民に報告 している。 なお、これらの活動のほかに、「島田市くらし・消 費・環境展2016(以下、環境展)」への参加、しま だエコ活動報告、まちづくり事業報告、年度ごとの 本会の活動報告などを行っている。 時 期 主な活動内容 主対象 平成24年12月 第1回アンケート調査の実施 市 民 平成25年 2月 第1回アンケート調査報告(第1次) 市 民 平成25年 5月 地域の環境教育(1) 小学生 平成25年 7月 地域の環境教育(2) 小学生 平成25年 7月 環境セミナー(1) 市 民 平成25年 9月 地域の環境教育(3) 小学生 平成25年10月 地域の環境教育(4) 小学生 平成25年12月 地域の環境教育(5) 小学生 平成26年 2月 第1回アンケート調査報告(最終) 市 民 平成26年 2月 年度活動報告 市 民 平成26年10月 キャリア教育講演会 小学生 平成27年 1月 地域の環境教育(6) 小学生 平成27年 1月 環境セミナー(2) 市 民 平成27年 2月 地域の環境教育(7) 小学生 平成27年 2月 環境セミナー(3) 市 民 平成27年 2月 環境セミナー(4) 市 民 平成27年 2月 第2回アンケート調査報告(第1次) 行 政 平成27年 2月 年度活動報告 市 民 平成27年 7月 環境セミナー(5) 市 民 平成27年 8月 地域の環境教育(8) 小学生 平成27年12月 環境セミナー(6) 市 民 平成28年 2月 第2回アンケート調査報告(最終) 市 民 平成28年 2月 年度 活動報告 市 民 平成28年 4月 まちづくり事業報告 行 政 平成28年10月 環境展参加 市 民 平成28年10月 地域の環境教育(9) 小学生 平成28年11月 環境セミナー(7) 市 民 平成28年11月 行政への提言 行 政 表1  これまでの活動実績

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5.地域における環境教育のあり方と実践的手法 これまで行ってきた児童を対象とする地域の環境 教育は、以下に示す本会の環境教育に対する基本的 な考え方に基づくものである。ここでは、地域にお ける環境教育のあり方とその実践的手法について概 要を提示する。 5.1 地域の環境教育の考え方 本会では、人間の発達における児童期の段階から、 さまざまな環境に関わる諸問題に対して、自身の「目 で見て」、「感じ」、「考える」ためのプログラムを企 画し、このプログラムを実践することで、児童の環 境教育に対する一助になることをめざすものとして いる。 このとき社会化の視点を考えるならば、地域全体 で子どもたちの環境意識を育てていく、ということ が重要である。地域社会が、そのメンバーとしてふ さわしい大人になるように、子どもたちを見守り育 てていくのである。 また、子どもたちは、年齢や職業など多様な人と の関わりのなかで、自身のあるべき行動を学んでい くものである。こうしたことの継続によって、地域 で生まれ育った子どもたちは、将来の地域の環境を 考える市民になっていくものと考える。 これらのことから、本会が提示する環境教育プロ グラムに対して、多くの市民や団体等の主体が関わ り、協働で推進していくことが重要であるといえる。 5.2 環境教育の目的と位置づけ 本会における地域の環境教育の目的は、次のとお りである。 (1)児童期における環境に関わる体験学習によっ て、環境に配慮した態度を形成し、青年期に 向けて態度と一貫した環境配慮の行動を実践 できるような素養を身につける。 (2)児童相互あるいは多様な人との社会的相互作 用をとおして、自身の行動を振り返り、児童 自身があるべき行動を考える。 (3)児童の保護者や広く市民の参加によって、児 童だけでなく、保護者や市民の環境配慮の意 識を高めたり、ライフスタイルの見直しなど につなげていく。 (4)地域の産業、地理、環境、まち、歴史、文化 を知り、学校教育における社会科や理科など の関心を高め、教科教育の一助になることを めざす。 ここで提示する環境教育プログラムは、本会が企 画・立案し、運営するものである。多くの活動は修 学時間外に実施され、参加は児童・保護者の判断に よるものである。この点において学校教育とは独立 のものであるが、教育的な観点から、学校および保 護者の意見をもとに、適宜修正を加えるものとする。 5.3 運営 (1)主催 本会が主催し、市内の他のいくつかの団体の協力 も得られながら推進していく。また、本環境教育プ ログラムは、地域社会のなかで子どもたちの成長を 見守っていくことに意義があると考えている。この ことから、この活動の遂行のために、広く市民のボ ランティアを公募する。ここでいう市民とは、市外 から通勤・通学している人も含まれる。 (2)環境教育プログラムの対象 本環境教育プログラムは、市内の小学校の児童を 対象とする。プログラムによっては、児童と保護者 の両者を対象とすることもある。プログラムへの参 加は自由である。市民の聴講や見学等は歓迎する。 なお、プログラムのテーマや課題によっては、人数 を制限することがある。 5.4 環境教育プログラムの概要 (1)概要 ①いくつかのテーマとそれぞれのテーマにおける個 別課題を設定する。テーマおよび個別課題は、そ の内容により、低学年用と高学年用を準備するこ とがある。前述したとおり、テーマや個別課題は、 学校や保護者の意見をもとに、適宜修正を加える。 ②個別課題は、資料学習、体験学習、プレゼンテー ションおよび振り返り学習によって構成される。 体験学習やプレゼンテーションのできない課題 の場合は、資料学習のみとする。これらのうち、 学校への出前授業とするものについては、資料学 習が中心となる。 A)資料学習 資料などを用いた学習、基本的な知識の修得、お よび体験学習における注意事項の伝達と周知を 行う。 B)体験学習 児童個人、グループまたは親子等による実体験で

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あり、フィールドワークおよび見学などを行う。 C)プレゼンテーション 実体験やフィールドワークなどによって得られ た資料をまとめ、ワークショップ形式などにより 発表を行う。 D)振り返り学習 感想、省察、認知や理解の児童相互の共有化など、 学習した内容を個人およびグループで確認する。 ③個別課題は、本会のメンバー、協力団体および市 民ボランティアを中心に実施する。市民ボランテ ィアは、本会の活動に賛同し、協力できる人であ れば特別な要件を設定しない。原則として、市内 に居住または通勤・通学する人とする。 児童の保護者および市民のなかには、テーマや個 別課題に一定の知識があったり、体験指導のできる 人もいるであろう。そうした人たちの主体的な参加 が求められる。また、特別な知識などがなくても、 児童の活動の支援をする人の協力も大いに必要であ る。児童の保護者、市民としての教職員、地域住民、 団体、事業者など多くの主体の協力が協働の取り組 みにつながっていくものと考える。 6.市民に対する環境セミナーの取り組み 本会がこれまでに行ってきた市民対象の環境セミ ナーについて、その基本的な考え方と概要を示す。 本会による独自の取り組みとして、「環境まちづ くりワークショップ」「環境人材育成講習」「パネル・ ディスカッション」を行った。また、本会と他の団 体や行政等との協働による取り組みでは、「生ごみの 自家処理方法」「エコ・クッキング」「福祉のまちづ くりシンポジウム」を開催した。 6.1 環境まちづくりワークショップ テーマ『環境まちづくりのあり方を考える』 (1)目的 循環型社会形成に取り組む自治体の事例から、島 田市の環境まちづくりを推進し、循環型社会を構築 するための基礎的な知見を得る。 (2)内容 ここでは、ワークショップ形式によって、次の4 つの視点から島田市の環境まちづくりについて考え ることとした。 視点1:地域資源となるもの 視点2:環境教育 視点3:地域の活性化 視点4:協働のあり方 参加者は2つのグループに分かれ、それぞれにお いて意見交換を行い、グループとしての考えをまと め、発表した。 6.2 環境人材育成講習 (1)ファシリテーション入門 本講習は、ファシリテーションの入門編として位 置づけ、その基本的な事項の理解をめざすものであ る。リーダーとなる人は、ファシリテーションの理 解とそのスキルを心得ておくことで、日々の仕事や 活動がよりよく進められていくものと考える。組織 のなかのリーダーとしての人材育成入門講座である。 主な内容は、ファシリテーションの意味すること、 ファシリテーションの活用の場、ファシリテータの 役割、ファシリテーション・スキルなどである。こ れらについて基礎的な事項を説明した後、参加者の 一名がファシリテータとなり、設定されたテーマに 関する意見交換がファシリテーションを踏まえたな かで実施された。 (2)ワークショップ入門 本講習は、ワークショップの入門編として位置づ け、その基本的な事項の理解を目的とした。環境学 習、まちづくり、教育、職員研修などにおいて、ワ ークショップの企画・運営・実践に関わる人材育成 のための入門講座である。 主な内容は、ワークショップの定義、必要性と問 題、ワークショップの企画と運営、ワークショップ の実際などである。 6.3 パネル・ディスカッション テーマ『環境活動と協働に関するパネル・ディス カッション』 (1)目的 島田市内の環境に関わる活動を実践している団 体や事業者による活動事例を互いに認知し、共有す ることで、環境活動や社会貢献活動のよりよいあり 方を考える。また、このことを今後のそれぞれの活 動の進展につなげていく。さらに、このパネル・デ ィスカッションをとおして、団体や事業者の活動を

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周知し、広く市民の環境意識の醸成に寄与すること をめざす。 (2)内容 4団体、1事業者をパネラーとして招聘し、日頃 の活動実践例を報告する。それをもとに、主に以下 の項目について、会場に参集の市民も交えて、ディ スカッションを行う。 ①環境活動や社会貢献活動のあり方(課題、問題点、 改善案ほか) ②団体、事業者、市民、行政による協働のあり方(課 題、問題点、改善案ほか) ③市内の各主体における相互ネットワーク構築の意 義と活用 6.4 協働の取り組みの実際 (1)生ごみの自家処理方法に関する学習会 家庭から排出される生ごみを焼却処分とするの ではなく、堆肥に再資源化する方法等について学び、 廃棄物の減量化の促進、およびこうした活動を地域 に啓蒙していくことを目的とする。 生ごみを自家処理する方法はいくつかある。その 活動を実践している団体が、参加した市民に対して、 生ごみを焼却処分としない方法を説明した。 【協働主体:本会、団体(NPO を含む)】 (2)エコ・クッキング 家庭における環境に配慮した調理(食材の準備か らあと片付けまでを含む)の推進、食材(もの)を むだにしない(大切にする)こころの醸成、地場の 農産物の再認知、および省エネルギー化の促進を目 的とする。 エコ・クッキングに関する簡単なレクチャー、お よびメニューの調理方法について説明を行った後に、 参加者によるエコ・クッキングが実践された。親子 等を中心とする市民が参加した。 【協働主体:本会、NPO、事業者、行政】 (3)福祉のまちづくりシンポジウム 少子高齢、人口減少社会のなかで、今後の福祉を 考えるための話題を提供し、参加者の共通認識を得 ること、および市民の関心を高めることを目的とす る。福祉のあり方について、福祉現場の実態および 福祉のまちづくりに関する理論と政策の視点から、 団体の活動報告をもとに意見交換を行った。 福祉現場の視点からは、障がい者支援福祉団体 (NPO)からの報告を、また、理論と政策の視点か らは、本会による報告を行った。 【協働主体:本会、団体】 6.5 本会の取り組みの成果と有効性 前述したパネル・ディスカッションでは、それぞ れの組織の取り組みの報告と内容について意見交換 を行った。これをきっかけとし、本会からパネル・ ディスカッションに参加した団体に対して、協働の 取り組みを依頼し、家庭から排出される生ごみの処 理方法に関する学習会が実現した。パネル・ディス カッションは、多様な組織が実践している内容を知 ることで、一つの組織が単独で行うよりも、同じよ うな活動を行っているものが協働で行うことの意義 を認知するためのしかけとなった。 エコ・クッキングの協働の取り組みも、これと同 様である。ここでは、本会と団体だけでなく、事業 者や行政も協働主体となった。 シンポジウムでは、福祉団体に対し、福祉の現場 に携わる団体として、シンポジウムへの参加と活動 報告を依頼した。本会は、環境まちづくりに取り組 む団体であるが、「環境」の意味を広く捉えている。 ここでは、「環境」と「福祉」の関わりからまちづく りを考えていくものであり、福祉団体との協働の取 り組みを企画し、実践した。 これらのことから、本会が他の団体、事業者、行 政と協働の取り組みを実践した背景にパネル・ディ スカッションの開催があり、この企画および実践の 意義は大きいものとなった。 これまで当該地域において、このような活動はな されてきていない。それは、これまで協働に関する 取り組みを企画・運営していくこと、団体や事業者 に呼びかけパネル・ディスカッションを行う、とい ったことなどを実践しようということがなされてこ なかったことによる。 当該地域の団体や事業者のなかには、精力的に独 自の活動に取り組んでいるところもある。このとき、 まちづくりのあり方に関する専門的な視点から、団 体や事業者などを結びつけようとするコーディネー タとなるものが存在しなかったということは、協働 の取り組みを抑制することになっていたものと考え る。こうしたなかで、本会が主体的にこの役割を担 い、当該地域での協働の取り組みが実践されたこと は、一定の成果があったものと考える。

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7.市民参加型プロジェクト 本会のこれまでの取り組みの成果を踏まえ、ここ にいくつかのプロジェクトを提示する。本会の実践 的な手法を生かし、このプロジェクトを遂行するこ とで、これに参加した市民の地域活動への積極的参 加態度の形成と主体的参加行動への一貫性をめざす ものとする。 この市民参加型プロジェクトは、今日的な課題で ある環境や福祉に関わるテーマを設定し、市民(子 どもを含む)を対象としたまちづくりプロジェクト である。テーマの選定においては、できる限り多く の市民にとって関心が高いと想定されるものとした。 アクション・リサーチの手法により、プロジェク トの進行と活動に関わる質問紙調査結果を次期プロ ジェクトに反映し、改善されたプログラムによって、 プロジェクトを進めていくものとする。図1に基本 的なプロジェクトの流れを示す。 プロジェクトは、本会が主催し、町内会、団体、 学校、事業者、行政等との協働により実施する。こ こで提案する市民参加型プロジェクトのテーマ(A ~E)と視点を以下に提示する。 プロジェクトA 『ノーマライゼーション社会の実現に向けて』 福祉のまちづくり、偏見や差別のない社会形成、 自立的行動と社会参加の促進を主な視点とする。 プロジェクトB 『わかりやすいまちのためのサイン計画』 福祉と環境のまちづくり、ユニバーサル・デザイ ン、地域振興、地域外訪問者(異文化を含む)へ の情報提供を主な視点とする。 プロジェクトC 『地域の魅力発見と地域資源の発掘』 地域振興のまちづくり、地域外への情報発信、郷 土への愛着を主な視点とする。 プロジェクトD 『人材育成と人材活用のための地域教育』 環境のまちづくり、環境意識の醸成、人材育成、 リーダー育成、多様な人との関わりによる対人関 係づくり、食育、地産地消を主な視点とする。 プロジェクトE 『生ごみの堆肥化による食の地域循環と地産地消の すすめ』 環境のまちづくり、地域のバイオマス資源の利活 用、ごみの分別意識の高揚、環境行動の促進、地 場食材の認知、特産品の開発とブランド化による 地域振興を主な視点とする。 8.全市的市民参加のプラットホーム 8.1 関心(認知)から参加(行動)へ まちづくりは、そのまちに暮らす人のためのもの であって、そこに市民が関わることは当然のことで ある。できるかぎり多くの市民が関わることが望ま しい。何らかの関わりをもつことで、関心が生まれ ることもある。関心は、主体的行動への第一歩とな る。 市民の多くは、自身が暮らすまちは「住みやすい まち」であってほしいはずである。「住みにくいまち でもよい」と考える人は少ないであろう。 そうであるならば、「これからの自身の住むまち はどうあるべきか」「どのようなまちにしたいのか」 「どのようなまちであってほしいのか」ということ に対して、市民は一定の関心をもつものと思われる。 このような提示は、「関心」を「行動」に移行するき っかけになるものと考えられる。 また、このことで、市民の各自がまちの現状をき ちっと踏まえること、理解すること、認識すること、 問題を共有することは「自身の学び」であって、こ れがさらなる「関心の醸成」とよりよい「参加行動」 につなげることが期待できる。将来的には、市民に プロジェクト 実施前 質問紙調査 プロジェクト 実施 プロジェクト報告 次期プロジェクト への課題 新規質問紙調査 プロジェクト 中間報告 問題・課題検討 フィードバック フィードバック 図1 アクション・リサーチによるプロジェクトの流れ

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とって大いに意義のあるものになると考える。 「関心がない、あるいは関心が薄いということは、 現状に満足しているからである」という見方もある のかもしれない。しかし、仮に現状に満足していた としても、自身の暮らすまちのことに関心をもたな ければ、よりよいまちづくりを進めていくことはで きないものと考える。関心をもつこと、それを高め ていくことは、市民参加のまちづくりにおいて極め て重要なものと考える。 まちのことに高い関心をもつ市民であれば、自身 や家族の住むまちのあり方について、多様な意見や 提案がなされるはずである。それらの意見や提案に 対し、できる限り多くの市民が考え、行政の施策に むすびつけていく場が「全市的市民参加のプラット ホーム」である。 8.2 全市的市民参加のプラットホーム 本会が活動している静岡県島田市では、市民主体 のまちづくりを推進することを目的とした「島田市 ゆめ・みらい百人会議(以下、百人会議)」注)が設 置されている。公募によって市民がメンバーとなり、 そこで議論されたことが、行政の施策として検討さ れるようであり、この取り組みには一定の評価がな されるものと思われる。 しかしながら、百人会議のメンバーとなる市民の 選考のあり方、施策として提案された内容の妥当性、 さらに少数の市民の意見だけを施策として検討する ことの是非など、いくつかの点で疑問が残る。ごく 一部の市民のみしか関わっていないのであれば、そ れは市民主体のまちづくりであるとはいえない。ま た、実質的な協働の取り組みであるともいえない。 ここでは、優れた協働の取り組みを具現化するた めの、より実効性のある「全市的市民参加のプラッ トホーム」を仮説モデルとして提示する。 この基本的な考え方は、行政の施策として検討す る内容を、全市から求めるものである。ごく一部の 関心のある市民の意見だけを取り上げるのではなく、 できる限り多くの市民が関わりをもつ(関心をもっ てもらう)ことを主眼とする。 ここでは、行政区を①町内会・自治会、②小学校 区、③中学校区および④全市域の4層としてとらえ る。市民の意見を4段階で集約するものである。全 市域での議論は、最終段階である市民会議に諮るも のとする。図2に、プラットホームにおける議論の 流れを示す。 なお、町内会・自治会での議論の前に、市民に対 して質問紙調査を実施する。町内会・自治会では、 その集計結果を踏まえて、協議を進めていくことと する。質問紙調査は、まちのあり方に関する市民の 意識を調べるものであり、町内会で調査結果を開示 すれば、市民のプラットホームへの参加動機につな がるものと思われる。 概要は、次のとおりである。最初に、市内の各町 内会・自治会から世帯単位の意見を聴取し、これを 小学校区で協議する。そこでの協議内容は、町内会・ 自治会にフィードバックする。町内会等からの追加 意見を含め、小学校区で検討された意見を中学校区 で協議する。同様に、そこでの協議内容は、小学校 区にフィードバックする。小学校区からの追加意見 を含め、中学校区で検討された意見を全市域で協議 する。協議内容は、中学校区にフィードバックされ る。中学校区からの追加意見を含め、全市域で検討 された意見を市民会議で協議する。市民会議では、 全市域で集約された意見をもとに、具体的な計画案 を作成し、市民の最終意見および提案として市長(行 政)に答申する、というものである。以下に詳細を 示す。 (1)町内会・自治会レベル 町内会長等より各世帯に対し、質問紙調査の形で 意見聴取を求める。ここで第一次現状把握(問題把 握)を行う。質問紙調査結果の集計、町内会の開催、 町内会 自治会 図2 プラットホームにおける議論の流れ 小学校区 中学校区 全市域 市民会議 フィード バック フィード バック フィード バック 行政 答申

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結果の開示、追加意見の聴取を経て、町内会として の意見をまとめる。 (2)小学校区レベル 町内会長等(町内会代表者)をメンバーとする意 見交換の場として位置づける。ここでは、公開ワー クショップ形式での進行とし、議論の透明性を高め るものとする。各町内の意見について議論し、小学 校区としての意見をまとめる。これを各町内会へフ ィードバックする。 (3)中学校区レベル 小学校区の代表者をメンバーとする意見交換の 場とする。公開ワークショップ形式で実施する。小 学校区の意見について議論し、中学校区としての意 見をまとめる。これを小学校区へフィードバックす る。 (4)全市レベル 中学校区の代表者をメンバーとする意見交換の 場とする。これまでと同様に、公開ワークショップ 形式で行う。中学校区の意見について議論し、全市 域としての意見をまとめる。これを中学校区へフィ ードバックする。 (5)市民会議 市民会議のメンバーは、公募市民、有識者、団体・ 事業者の代表者および行政職員で構成される。ここ では、全市レベルでの議論を踏まえて課題を設定し、 課題ごとにワーキング・グループを設置する。ワー キング・グループのメンバーは、市民会議のメンバ ーのほか、課題ごとに市民を募る(公募市民)とと もに、各課題に対して専門的視点から助言できるも の(専門家、研究者等)を招聘する。また、あわせ て課題ごとに行政職員を配置する。 ワーキング・グループは、当該課題に対する現状 の把握、問題解決のための課題設定、解決方法等に ついて協議する。また、問題解決に向けた協働の取 り組みの実施計画を作成し、協議結果の開示および 評価を行う。 また、最終報告として、市民会議の全体会を公開 ワークショップ形式で実施し、課題ごとの事業計画 案を市長(行政)に答申する。この答申をもって、 市民会議は解散する。 9.検証に向けて 本会の児童を対象とした地域の環境教育は、環境 教育プログラムにしたがって実施してきた。その内 容は、市民参加型プロジェクトA~E のすべての分 野を包含するものである。また、市民を対象とした 環境セミナーでは、プロジェクトB を除き、これ以 外の分野は、これまでの活動に含まれている。 本稿で提案した市民参加型プロジェクトは、これ に参加した市民の地域活動への積極的態度が形成さ れ、その態度と一貫性のある主体的参加行動が実践 されることをめざすものである。現状において、児 童および市民の態度形成は不明であり、効果は認め られていない。 本会の今後の活動において、市民参加型プロジェ クトの内容に沿った取り組みを行うとともに、参加 した児童および市民の態度調査を実施し、プロジェ クトの有効性を検証していく。 また、地域の主体による協働の取り組みを実施し た場合に、どのような成果が得られたのかを明確に しておくことが必要である。これは、協働の取り組 みの評価方法を明らかにするということである。客 観的な形や数値などで、誰もが容易に認知できるよ うな仕組みを構築しておく必要があると考える。 注)島田市ゆめ・みらい百人会議の概要4) これは、市民が自主的に幅広い分野から参加する市 民主体のまちづくりを推進するために設置された(平 成25 年 10 月)。公募に応じた市民のなかから島田市 長が委嘱するものである。百人会議では、島田市のま ちづくりに関する事項およびまちづくりを推進するた めに必要な事項について協議する。任期は2 年とし、 再任を妨げない。百人会議でまとめた提案や意見は、 行政に提出する。 第1 期ゆめ・みらい百人会議は、平成 25 年 10 月、 公募による100 名あまりの市民が市長より委嘱され、 7 つの分科会に分かれて活動が開始された。 また、平成28 年 3 月、第 2 期ゆめ・みらい百人会 議が開始した。委員は、公募による38 名の市民である。 4 つの分科会による活動が進行中である。

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参考文献 1)国立社会保障・人口問題研究所ホームページ, http://www.ipss.go.jp 2)仁科信春,地域活動に関する行動実態からみた 協働支援の方向性,福岡工業大学環境科学研究 所所報Vol.9,pp.59-65,2015 3)仁科信春,コミュニティの活性化に向けた協働 まちづくりに関する考察,日本福祉のまちづく り学会第19 回全国大会梗概集,地域社会・生 活支援1 SS4B-2,2016 4)島田市ホームページ,ゆめ・みらい百人会議, http://www.city.shimada.shizuoka.jp 5)仁科信春,環境まちづくりに向けた任意団体の 取り組みに関する考察,日本建築学会大会学術 講演梗概集(関東)都市計画,pp.153-154,2015 6)仁科信春,環境まちづくりに向けた任意団体の 取り組みに関する考察(2),日本建築学会大 会 学 術 講 演 梗 概 集 ( 中 国 ) 都 市 計 画 , pp.1007-1008,2017 7) 仁科信春,日常の環境配慮に関わる態度と行動, 福岡工業大学環境科学研究所所報 Vol.8, pp.35-43,2014 8)仁科信春,住民主導によるまちづくり支援に関 する基礎的検討、日本心理学会第 71 回大会発 表論文集,p.1278,2007 9)仁科信春,住民主導によるまちづくり支援に関 する基礎的検討(2),日本心理学会第72 回大 会発表論文集,p.1442,2008 10)仁科信春,全市民が考え、行動するための取り 組み(例)-実効性のある住民参加のあり方を考 える-,島田市への提言資料,2016 11)総務省統計局ホームページ,国勢調査, http://www.stat.go.jp (平成29年8月23日受付)

参照

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