造形の基礎訓練に関する一考察
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(2) 150. /ト. 林. 範. 夫. ための指針となり,暖味なイメージを具体化するための手掛りやヒントとなるoさらに, 学生同志が同じ条件や制約をどう克服していくのかといった,他者の発想や追究方法を 学ぶステージとしての意味もある。以上,基礎造形学習の内容をまとめると次のように なる。すなわち,基礎造形学習の目的は,作品を成立させている造形要素の生きた役割 を認識して様々な造形表現の世界を知り,有用な造形要素の構築作業(制作)を通して 基本的な造形表現の方法を身につけることにある。 一般的な造形の表現が多岐にわたって分化し,専門化しているのは周知の通りである が,分化したいずれの専門分野にしても最終的には物体や画面あるいは映像等で示され, イメージは目に見える形として表現される。表現された色や形には受け手を感動させる 美しいものから,内容が浅薄で印象に乏しく存在感の弱いもの,あるいは,単に注意を 引くためだけに奇をてらってグロテスクな表現に走り,見る人に不快感や嫌悪感を抱か せるものまで様々に存在する。美しく感じるか不快に感じるかは,個人的な価値親や好 みの領域に入るので一概に白黒を決めることはできないが,自己満足の範囲を超えて優 れた作品を完成させようとするなら,つくり手は制作にあたって,自らのうちに形や配 色のバランスを的確に判断できる美的価値基準を身につける必要が生じる。美晩に敏感 な目や鋭い造形感覚は,熟達した手と連動して完成度の高いフォルムの創出を可能にす る。そして,そういった能力や感覚は,自らの手を通して形態を模索していく造形体験 の蓄積とともに磨かれるものである。基礎的な造形訓練は,より高い美的価値基準を体 内化するための体験的過程であり,複雑な美の世界をつくっている材質,色彩,構造, 動き,規則性,ボリューム,リズム,バランス,コントラストなど基本的な造形要素を コントロールし,自律的な秩序ある統合形態へと組み立てていく創造的な造形訓練のプ ロセスといえる。. 基礎造形学習の成立 基礎造形学習の原型は1919年,ワイマールに設立された国立バウ-ウスの予備課程に 翻って見ることができる。この頃デザインと工芸は未分化な状態にあり,ミシンのよう. な機械であっても運和感なく工芸的,装飾的造形処理が施される時代だった。徒弟制度 の中から手工的な技能を習得して,指の感触を頼りに一品一品手作りで物をつくりあげ ていく職人技の造形世界である工芸に対し,・パウ-ウスの目指す造形は工芸の本質とも いえる手工をベースにしつつも,工芸的,装飾的造作を取り除いた機能的形態の追究で あり,また,工業や印刷の量産システムを通して製品化するシステマチックな造形,つ まりデザインであった。手工のスケールをはるかに超える大量生産システムの発達が必. 然的に求めた造形方法でも奉るデザインは,構想や計画部分が専門化した造形分野とし て,いずれ,手工技能の修行を積まなくても造形が可能な,あるいはデザイナーが必ず しもクラフトマンでなくてもよい,職人技の造形世界とは違った造形表現の世界として 新たな展開を遂げるのである。そのデザインの創成期に設立されたバウ-ウスの予備課 程は,工房教育を経て建築課程に至るパウ-ウスカリキュラムの中の導入部分に位置し,.
(3) 151. 造形の基礎訓練に関する一考察. 工房での専門的な理論と実践を学ぶ前に,造形に対する基本的な考え方を身につける場 として学生全員が受講を義務づけられた課程であった。担当にはゲイ-ンで美術学校を 開いていた美術教師ヨ-ネス・イッテンが招かれてその任に当たった。イッテンはヴイ -ンでの造形教育を基にして,当時一般的に考えられていた模写中心の基礎教育はもと より,本課程への準備段階として位置付けられていた予備課程の枠をもはるかに超える 個性的な授業を展開した。イッテンはそこでバウ-ウス工房にとって役立つ学生の養成 というよりは,独自の造形理念に基づく個性と直感を重視した全人格的造形教育を行い, 「学生の創造力を解放し,学生に自然の素材について理解させ,視覚芸術におけるすべて の創造活動の基礎となっている基本原理を熟知せしめること+1)を意図した。彼の造形教 育はバウ-ウスのみならずその後の基礎造形教育の在り方を方向づけたが,直感重視の 教育方法に抵抗がなかった訳ではない。個人主義的な芸術家ではなく,建築という統合 体を前提にした現実的で造形力のあるアートディレクター的人材養成を目指していた校 長ワルター・グロピウスの教育理念と,自らがカリスマ的存在となって,直感的神秘的 な芸術家の体質を強調するイッテンの教育理念は相容れられることなく,. 1923年,イッ. テンはグロピウスらとの確執の後パウ-ウスを去るのである。既成概念を取り除き,追 形素材そのものの理解から新たに出発して造形原理を体得しようとするイッテンの直感 的創造教育には,構成主義やダダイズムあるいはピカソのパピエ・コレそしてそれに続 くアッサンブラージュの発想にも通ずる造形への姿勢が感じられ,イッテンの予備課程 教育もまた当時の新しい価値観を反映した,言わば現代美術の潮流の中から生じた波紋 の一つであったと考えることができるo 教科との対応 デザイン・工芸は別のいいかたをすれば,機能あるものへ美的なフォルムを与える造 形作業であり,そのフォルムは使用目的や生産性,コストあるいは流行といった様々な 外的要因によって影響を受けたり制限されたりする。従って,同じ造形の範噂にあって ち,自己の内部に生じた感動を純粋かつ自由に表現できる絵画や彫刻とは表現の自由さ が違う。外的な条件によってフォルムが方向づけられるデザインのようないわば対応型 の造形と,作品や素材という実体へ自己の手を通して主体的に働きかけながら新たなフ ォルムの発見や遭遇を重ねて,自律的な造形世界を追究し完成させていく内発型の造形 との違いである。. 勝見勝はこの点について,. 「絵画や彫刻の分野は,心の世界に重点があり,表現内容を. 生命とするし,デザインは頭のはたらきに重点があり,機能性を目的とするし,クラフ トは手のはたらきに重点があり,技巧の冴えを目ざしているといえる+2)と区別したうえ で,造形芸術一般と造形教育科目を,純美術と図画,デザインと構成・図案,クラフト と工作にそれぞれ対応させて関係づけている。つまり,工芸の学習では技術的なプロセ スがフォルムの形成と密接に関わる造形,たとえば,陶芸や染織,金工,木工など工芸 材料を通した表現が学習の主体となり,デザインの学習においては,様々な制約や条件.
(4) 152. 小. 林. 範. 夫. を形態のなかでどのように消化しどれだけ豊かに構想を練ることができるのかといった, 発想とその展開が端的にフォルムと結び付く造形学習が主になると考えられる。表現に. それほど手間がかからず,条件や制約によっ七作品の全体像や表現が方向づけられる課 題は,何をどうつくればよいのか右も左も分からない学生にとって取り付きやすく,未 知の表現方法を体得して自己の造形世界を広げることに役立つ。反面,あまり理詰めに ペーパープランを先行させると,実体をつくる手がおろそかになって造形的な実感が希 薄になり,結果的に発想も観念的でありふれたものになってしまう。デザイン教育の原 点であるバウ-ウスの教育課程においても,手工の熟達という基本はあらゆる芸術家に とって不可欠であり,そこに創造的形成の根源があるとして全員が材料と工作過程の学 習を要求された。この考え方は,デザイナーが必ずしもクラフトマンである必要のなく なった今でも生きており,l実際の現場でも制作者は扱う素材の性質や加工技術あるいは FP刷工程等を十分知ったうえで制作活動に従事している。当然,デザインの学習におい ても油土や石膏,舵,ポスターカラー等の基本的な表現材料から金属,木,陶,プラス チック,テキスタイルといったいわゆる実材に至るまで多くの素材を表現媒体として体 験した方がよいのである。材料からの発想は工芸がもつ特質のひとつであり,デザイン・ 工芸が一つの流れとして繋がるとより総合的で対応九. 具現力の高められる造形学習が. 実現できることになる。. 体感的没入 制約下の形態を探る学習でもあるデザイン・工芸の課題では,様々な制約,例えば機 能的制約,材料的制約,形態的制約,視覚的制約,あるいは製作技法上の制約等解決す べき条件を造形対象に応じて課すことになるが,そこで重要な.J5は,与えられた制約や 条件の中で自らの造形理念をいかに盛り込んで斬新なアイデアを絞り出し,豊かに形態 を表現するのかということである。単に,与えられた制約や条件を解決しただけでは十 分といえず,それらの解決と併せて豊かな造形表現を目指すところに造形訓練の意味が あり,そういった豊かな造癖表現は豊かな創造力に支えられて実現する.また,作品の 創作過程は,どの造形分野にしても大抵試行錯敦が伴うもので,どれほど計画をきちん と立てても新しい考えが当初とは違うかたちで現れて計画の変更を余儀なくされること もまれではない。そんな偶発的なあるいは予想外の事態は,実は,.造形の世界を面白く したり,造形と濃密に接触する好機と考えられ,そういった粁余曲折のある創造のダイ ナミズムが原因となって作者と作品が一体化し,思いを深く刻み込んだ作品がつくり上 げられていくのであるo問題はどのようにして造形と濃密に問われるよう学生を導いて 造形世界へ投入させるかである。授業前に喋想を行うことで知られたヨハネス・イッテ ンは既成概念にとらわれな;-直感的対応と個性の発達を強調し,学生の創造力を解放し ようとしたし,カリフォルニア州立大学のペテイ・エドワ-ズ教授は概念的思考の座で ある左脳と感覚的思考の座である右脳の働きの違いに着日し,左脳を抑えて右脳を優先 する描写法を試み,短期間に学生の描写力を向上させた。彼女の方法は,人物の描かれ.
(5) 153. 造形の基礎訓練に関する一考察. た手本を上下逆にして模写の訓練を行うのであるが,この意表をつく方法によって学生 の主観的な既成概念が取り除かれ,結果的に人物の客観的な描写を可能にした。ヨハネ ス・イッテンとべテイ・エドワ-ズ両者の授業に共通する特徴は造形世界へ没入するた めの造形言語を何よりも優先して最初に感得させようとしている点であり,イメージを 形態化する場合も,概念的思考から造形思考-頭を切り替える何らかの工夫が必要であ ることを示している。従って,基礎造形の学習においても最初はできるだけ形態をイメ ージしやすい課題内容を設定すると同時に,工作技能の上達が目に見えて分かるような. 興味の途切れない肉体労働を用意し,造形息考へ容易に没入できる状態をつくることが 望ましい。そして,そういった頭脳と肉体両面からのアプローチは創造力と形態を結び 付けるパイプを太め,関連する様々なフォルムを直ちにイメージできる習慣を育むこと になるはずである。 おわりに. 制作意図を正確にあるいは感動的に第三者へ伝えるためには,形態そのものの追究だ けでなく,見られることに対する造形的な工夫や視覚伝達効果も無視できない。とりわ け工芸分野では,表現技術の巧拙や仕上げの出来がそのまま作品の質として見せ場にな ることもあり,時には見る人に決定的な印象を与える。儀舌に語るか言内々と伝えるか, 作品がつくり手のメッセージだとすれば,表現技術はつくり手の方言であり,ことばづ かいである。表現技術が芸術における最低の作法であると考える造形作家もいる。翻っ て,基礎造形の学習は,唆味なイメージを具体的なフォルムに転換するプロセス「形態 発想一造形表現一視覚伝達+の構図を軸に展開できる。換言すれば,基礎造形課程は唆 味なイメージと具体的なフォルムを繋ぐために必要な造形の作法を学ぶ課程なのかもし れない。. 軌後に掲載した写真は,大学2. ・. 3学年の授業で提出された課題作品の中から抜粋. したもので,制作期間は通常2週間から5週間,課題によっては2カ月程度かかってい る。 引用・参考文献 1 2 3 4 5 6. 58頁 バルコ出版1977 功訳 バウ-ウス ギリアン・ネイラー,利光 美術教育講座2巻 金子書房1955 井島 勉,豚見勝,高橋正人,室靖共編 美術出版社1970 造形芸術の基礎 ヨハネス・イッテン 内なる画家の眼 エルテ出版1992 ペテイ・エドワ-ズ,北村孝一訳 西武美術館1988 「ダダと構成主義+展カタログ 「パウ-ウス+展カタログ 東京国立近代美術館1971. 9頁.
(6) 154. +、林. 範. 夫. 紙の動物 課題内容 備 考. ケント紙の特性を生かして,できるだけ忠実に鳥を再現する。 素材の表現限界内でどれだけ対象のリアリティを追及できるかがポイント。鳥のフ ォルムを平面や二次曲面で構成することになるので,要所を押さえた単純化が求め.
(7) 造形の基礎訓練に関する一考察. 紙の動物 られる。一方,柔らかな羽根に覆われた鳥特有の雰囲気を出すには,羽根のデイテ-ルを克明 に追う必要もある。授業では,対象を正確に把握するため近くの動物園へ通って鳥のスケッチ を重ぬた。動物の表現は生命感と勢いが出れば成功。写真は成功例である。. 155.
(8) 156. 小. 林. 夫. 範. ネームプレート 課題内容 備 考. ネームプレートの制作を通して真空成型の工程を体験する。 自分の名前と簡単な装飾を弧成楕円内にレイアウトしてレリーフ表現し,その石膏 型から塩化ビニールの本体を真空成型する。この課題ではレタリングのある楕円プ.
(9) 造形の基礎訓練に関する一考察. ネームプレート レートをデザインするだけでなく油土,石膏,塩化ビニールの造形工程を連続して体験するこ とになるoレリーフ全体のボリュームや凹部の形状など真空成型のための形態的な制約がある ので成型の原理を理解したうえで形を決めかナればならない.. 157.
(10) 158. 小. 林. 範. 夫. ジグソウノヾズル. 課題内容 備 考. ある形態から別の形態へ変身するジグソウパズルを木材によって制作する。 ばらばらの断片をはめ込んで一つの絵にするジグソウパズルの考えを一歩進め,断 片の集合が二つの表情をつくるとしたらどのような玩具に発展できるのかを考え,.
(11) 造形の基礎訓練に関する一考察. ジグソウパズル. アイデアを木材によって具体化する。この課題では,かんなの使い方と刃の研ぎ方,丸鋸や帯 鋸・糸鋸による木材の切断,木地仕上げと彩色仕上げによる塗装等木材の加工と塗装仕上げの 工程を一通り学ぶことになる。木材の工作作業にウエイトを置いた課題なので,形態的にはで. 159、.
(12) 160. 小. 林. 範. 夫. ジグソウノヾズル. きるだけ自由に発想できるよう方向づけをした。前頁左上の作品はピカソの絵をレリーフにつ くり直したもので,おもて面は原画の色彩がそのまま再現されているが,裏面には作者独自の 配色が施されている.前頁右の作品は大きさの違う立方体が棒の一枚板に様々な角度ではめ込.
(13) 造形の基礎訓練に関する一考察. ジグソウパズル まれた美しい仕上げの作品である。立方体が平板に変身する次の作品はパーツが立体的に組み 合わせられるよう工夫された難しい構造だが,さらに,木材の種類を変えてマチエールにも変 化をつけようと工夫している。. 161.
(14) 162. 小. 林. 範. 夫. 針金による立体構成 課題内容 備 考. Ⅰ. 針金でつくった立方体の対辺を任意の針金線で結び,立方体の密度を高める。 半田付けによる針金の接合練習が主になっている課題。形の性格を同じくする針金 を何本も接合して立方体の空間を埋め,個性的な立体を構成する。.
(15) 造形の基礎訓練に関する一考察. 針金による立体構成ⅠⅠ 課題内容 備 考. 一対の弧状プレートを三角柱内に吊り下げ,動くオブジェを制作する。 針金という素材は繊細な表現に向いている。扇紙形の枠内へ線画のように針金を半 田付けして装飾し,指でゆらすと凪がオブジェを通り抜ける。. 163.
(16) 164. /ト 林. 範. 夫. ブリキのくず入れ 課題内容 備 考. ブリキ板を使って,実際に使えるくず入れを制作する。 簡単な加工だけで組み立てた金属容券。写真はブリキ板を折り曲げてボルトで接合 したものと半田付けで円錐をつくりアクリルの台に載せたもの。.
(17) 造形の基礎訓練に関する一考察. 和紙のランプシェード 課題内容 考 備. ニつの立方体から成る相貫立体をフレームと和紙でつくり,電球を取り付ける。 立方体を相貫させてできる幾何立体を竹ひごや針金で組み立て,その上に和紙を貼 る。相貫線が折り目線となるので正確な展開図を描かなければならか-。. 165.
(18) 166. /ト. 林. 範. 夫. 石と木による素材構成 課題内容 備 考. 石と木が融合する形を考える。 異質な素材を一体化するとどうなるだろうか。上は型枠にセメントを流し込んで木 を閉じ込め,下は石をパテで固定し接合部分に木目を描いて同化させた。.
(19) 造形の基礎訓練に関する一考察. 小石の利用 課題内容 備 考. 小石を使って作品をつくる。 小石の形を顔になぞらえた似顔絵はよく見かけるが,ここでは小石をそのまま利用 している。そんな小石を生かすも殺すも演出次第,道具立がものを言う。. 167.
(20) 168. 小. 林. 範. 夫.
(21) 造形の基礎訓練に関する一考察. ユニット構成 課題内容 備 考. 底面が正方形の立体をケント紙でつくり,同じ立体を集合して構成する。 単体では何の変哲もない形でも,無数に集まるとそれまでになかった迫力や雰囲気 が現れてくる。同じユニットを並べて新たな表面構造の表情を探る。. 169.
(22) 17・0. 小. 林. 範. 夫. 透かし彫りの立方体 課題内容 備. 考. ケント紙による立方体の各面に自由なパターンを描いてナイフで切り抜き,切り絵 で構成した透かし彫りの立方体をつくる。 丹念で忍耐強いナイフの切り抜き作業が繊細で優美な仕上がりをもたらす。.
(23) 造形の基礎訓練に関する一考察. ジャンクアニマル. 課題内容 考 備. 廃材や身近な既製品を再構成して別の何かにつくり替える。 この表現の元祖は何と言ってもピカソ。サドルと-ンドルでつくった牛の頭や,玩 具の自動車を使った猿が有名。ひらめきとユーモアのセンスが欠かせない。. 171.
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