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卒業論文
「
Hα太陽望遠鏡による彩層の観測」
10s1―008 戎 隼人
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要旨
太陽は地球から最も近く、詳細に観測できる唯一の恒星である。 彩層は光球とコロナの間にある薄い大気であり、光球の上に1 万㎞近い厚みで存在 し、温度は数千から1万度程度である。その温度は、彩層の上のコロナに至ると10 0万度を超える。太陽内部から光球に向かって下がってきた温度が、彩層から上昇に 転ずるメカニズムは現在の太陽物理学の重要な問題になっている。 そのような彩層について、明星大学にある、Hα太陽望遠鏡を使って観測をし、Hα 線で見られる特徴的な構造とその時間変化を調べた。具体的には、太陽の自転周期の 半分程度の期間、数日おきに太陽Hα像を取得し、プロミネンスの識別と形態の違い、 ダークフィラメントの識別とその形態の時間変化、プラージュの識別とその時間変化 について、分析を行った。プラージュの時間変化については、いくつかのプラージュ についてその領域の一次元輝度分布を求め、その近傍にあった黒点の消長との関連を 調べた。 この卒業研究は、明星大学天文学教室において太陽Hα望遠鏡を用いた初めてのも のであり、先駆的な研究として、十分な成果を得た。3
目次
第1章 彩層とは 第2章 Hαとは 第3章 Hα太陽望遠鏡 第4章 観測と処理 第5章 観測結果 第6章 まとめ 参考文献 謝辞4
第1章
彩層とは
彩層は月が太陽を隠す、皆既日食の観測によって、初めて観測された。光球が 完全に隠された直後と、終わり際の光球が現れる直前に、淡紅色に輝く層が十数 秒現れる。この色鮮やかな色彩から彩層(chromosophere)と名付けられた。 彩層は光球とコロナの間に存在しており、数千㎞から一万㎞近い厚みがあり、 温度は数千から一万度ほどある。太陽内部の温度は光球に向かって下がっていく が、光球をこえ彩層にいたると温度は逆に上がり始め、その上のコロナは100 万度を超える高温になることが知られている。この光球から彩層に至る温度の逆 転現象がなぜ起こるかはまだ十分には明らかになっていない。 図1:太陽における光球からコロナまでの温度と密度の分布5
第2章
Hαとは
Hα線のことであり、可視光から近紫外線の領域にある水素のバルマー系列に 属するスペクトル線の一つである。 バルマー系列に属する線は4つあり、 Hα 線:波長 656.28nm Hβ 線:波長 486.13nm Hγ 線:波長 434.05nm Hδ 線:波長 410.17nm がある。 図2は光球から彩層に至る平均的大気モデルが示す温度―高度関係と、様々な 波長の連続光やスペクトル線が形成されるおよその高度を示している。Hα線は 彩層の中で形成されることがわかる。6 図2:光球から彩層にいたる太陽大気温度の高度依存性と、そこから観測される 各種スペクトル線発生領域。
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第3章
Hα太陽望遠鏡
太陽から発せられる Hα線を観測できる望遠鏡のことである。主に彩層の観測 に 有 効 な 望 遠 鏡 で あ る 。 今 回 使 う 望 遠 鏡 は 、「 コ ロ ナ ド Hα 太 陽 望 遠 鏡 SM2T-60/BF10」である。この望遠鏡のフィルターではエタロンタイプが使用され ている。 2 面の高反射フィルターを向き合わせたものを一般的に「エタロン」と呼ぶ。エ タロンフィルターはファブリ・ペロー干渉計の原理を用いている。 ファブリ・ペロー干渉計は、平行平面板に光がほぼ垂直に入射した時の干渉縞 を用いている。この干渉計は、表面が平面である2枚のガラスまたは石英板より 構成されている。内面は、反射率の高い膜がコートされ、かつ平行にされている ため、内部は空気の平行平面層になっている。2枚の板はコートされていない外 面の反射によるかく乱を避けるため、やや楔状に作られている。8
第4章
観測と処理
1. Hα太陽望遠鏡を用いて、太陽を観測する。 2. 観測日時「1 月 7 日~21 日 10 時~16 時まで」 3. 観測したデータをステライメージのHα画像補正を使い、修正する。 4. 修正したデータからマカリを使い、黒点領域周辺のプラージュなどの輝度の変 化を数値化して、グラフ化する。9
第5章
観測結果
図3:1月19日の太陽 Hα全面像 1. 太陽のHα全面画像 画像の太陽表面の黒点領域(活動領域とも呼ぶ)、その周辺のプラージュ領域、 フィラメントを除く領域を静穏領域と呼ぶ。そして静穏領域全体を覆う網目模様 は彩層網状構造、または彩層ネットワークと呼ばれるものである。彩層網状構造 を拡大したときに見える細かい筋模様をスピキュールと呼ぶ。彩層の中部から上 部にかけて存在する細長いジェット上の構造になっている。今回の望遠鏡の分解 能ではスピキュールの詳しい構造までは見ることはできなかった。1/19
10 図4:1月9日に見られたプロミネンス。 2. プロミネンス 図4の青の円部分には、プロミネンスと呼ばれる構造が見えている。これは太 陽の磁場によって浮いているプラズマである。コロナに比べると冷たく、数千~ 1万度程度である。大きく分けて静穏型と活動型がある。よく目にするアーチ状 のものは静穏型であり、ここに見えているものは静穏型とみられる。静穏型の特 徴は活動型に比べ、長期間維持されることで、中には数か月持つこともある。活 動型は静穏型には当てはまらない様々な特徴がみられるもので、噴出型やサージ、 スプレイなどがある。これらはそれぞれに形、質量、噴出速度、加速時間などに 特徴がみられる。今回はこれらの特徴を形で見るしかなかったが、図5に示され るように、噴出型とみられるものを一件だけとらえることができた。
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11 図5:1月13日に見られた噴出型と思われるプロミネンス
12 図6:図4に示したプロミネンス近傍に見られるダークフィラメント 3. ダークフィラメント 図6の画像の矢印の先にある黒い染みのようなものをダークフィラメント と呼ぶ。太陽の縁上で見られるプロミネンスが上から見るとこのように 黒く見えることからこのような名称がついている。今回の観察では、1月 9日に縁上に見られたプロミネンスが、1月13日、15日と、上部から 見られることになってダークフィラメントになり、1月19日に反対側の 縁に移動しプロミネンスとしてまたみられる様子を観測することができた。 図7が、上から時系列順にそのプロミネンス、ダークフィラメント、 プロミネンスの変化を追った一連の画像である。
13 (a)
(b)
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14 (c) (d) 図7:(a)1月9日、(b)1月13日、(c)1月15日、(d)1月19日と動く、ダークフィラメ ントの見え方の変化。
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15 図8:1月9日に見られたプラージュの拡大図。 4. プラージュ 上部の図8(図4の拡大画像)の明るい部分をプラージュと呼ぶ。周りに比べ、 暗くなっている部分は黒点領域である。黒点領域のプラージュは磁場が強く、特に 明るく見える。逆にあまり明るくないプラージュは黒点領域が衰退したプラージュ である。今回はこのプラージュについて着目してマカリを使い、実際に黒点領域近 くのプラージュの輝度の変化について調べた。今回使った望遠鏡では黒点自体は多 少見えるが全体的に見づらい傾向があり、黒点の変化は国立天文台太陽観測所によ る図を参照した。
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2016 年 1 月 13 日
17 図10:図9で着目されたプラージュの一次元輝度分布
18 4.1 図10は図9の同じプラージュの輝度の推移をグラフ化したものである。 このプラージュ近くにあった黒点は、図13に丸で示された領域の上の方に 見えているもので、ここの黒点は時間によって拡大しており、活発になって いると予想され、実際に周りに比べると輝度の落ち方が顕著(黒さが増して いる)になっている。プラージュは9 日に比べると若干弱くなっているよう にも見えるがこれはもう一つの黒点の影響によるものだと考えられ、一つだ ったプラージュが二つになったせいだと考えられる。
19 2016 年 1 月 9 日
2016 年 1 月 13 日
20 図12:図11のプラージュ領域の一次元輝度分布の変化
4.2 図12は、図11で識別されたプラージュについての一次元輝度分布の変化を 見た図である。図13に見られるように、この黒点は4日間による変化はあまり なく、プラージュも黒点同様変化が少なく、全体的に変化が見られなかった。
21 図13:図9と図11のプラージュ領域近傍に見えていた黒点の1月9日1月13日の像
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2016 年 1 月 9 日
23 図15:図14で識別されたプラージュ領域の一次元輝度分布の2日おいた変化 4.3 図15は、図14に示されたプラージュ領域の 1/7~1/9 における一次元輝度 分布である。図15に見られるように黒点が弱くなっており、輝度のグラフでも 黒点を中心に7 日に比べ、9 日は分布がなだらかになってきている。プラージュ に関しては、変化がない内容だが、7 日に比べると輝度の変化の差が激しくなく なりつつあり、これは衰退していく兆しのようにも考えられる。
24 図15:図14のプラージュ領域にある黒点像
25 5. 考察 プロミネンスやダークフィラメントなどの基本的な現象を今回の望遠鏡でとら えることができた。噴出型とみられるプロミネンスに関しては今回使用した望遠 鏡の性能では断定が難しく、形状からの判断しかできなかった。速度方向などが わかれば詳細なプロミネンスの分類分けが可能になると考えられる。プラージュ に関しては、観測データから黒点領域の活性化と衰退がプラージュも同様に活性 化と衰退をしているように考えられる。ただ黒点領域の活性化と衰退がはじまっ たとしても 4.3 にもあるようにすぐに活性化と衰退がはじまるわけではないとわ かった。
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第6章
まとめ
今回の観測ではコロナド Hα 太陽望遠鏡 SM2T-60/BF10 を使い、Hα線で観測す る太陽での基本的な現象をとらえることができた。噴出型とみられるプロミネンスを とらえることができたのは今回の観測では一番の成果ではないかと思う。ただ今回の 観測は勉強不足や観測時間の不足が目立ち、Hα望遠鏡の知識が不十分なままで始め、 習熟するのに時間をかけすぎた。使える観測データを増やすことができればもう少し 幅広い議論ができたのではないかと思え、またフレアなどのなかなか見られない現象 もとらえる確率が増えたと思われる。しかし、本論文は、明星大学天文学研究室では じめての、太陽 Hα望遠鏡を用いたものである。上に述べたような反省点は、これか ら同様な研究を行う人へよき指針を与えることになると思われる。27
参考文献
• 最新画像で見る太陽 • MAシリーズ現代の天文学 太陽 • 国立天文台太陽観測所HP http://solarwww.mtk.nao.ac.jp/jp/solarobs.html28
謝辞
本研究を行うにあたり、井上先生、小野寺先生、日比野先生、大変お世話になりました。 一年間ありがとうございました。