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未来の学習のための準備が学習者の信念に与える影響

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(1)

著者

吉田 英彰

雑誌名

東北大学大学院教育学研究科研究年報

69

1

ページ

155-170

発行年

2020-12-22

URL

http://hdl.handle.net/10097/00130142

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 本研究の目的は,小学校3年生の算数科において,通常指導の場合(条件1)と未来の学習のための 準備として新規の学習内容を試行した場合(条件2)を比較し,学習者の信念への影響を質的に明ら かにすることである。条件1,2の振り返り記述を質的に分析したところ,条件2では,「方略計画」,「結 果の予期」,「自己効力感」に関連する記述数が有意に増加した。「方略計画」は,自己調整学習の予見 段階における「課題分析」に,「結果の予期」と「自己効力感」は,予見段階の「自己動機づけ信念」に 位置づけられている(Zimmerman and Moylan, 2009)ことから,未来の学習のための準備が予見を 促し,学習を自己調整的に行うことが示唆された。自己効力感を高める未来の学習ための準備の在 り方,未来の学習のための準備が教科教育の領域で学習効果を高めるか検証することが課題である。 キーワード:未来の学習のための準備,新規の学習内容における既有知識,自己調整学習,主体的な学び

1 はじめに

 学習指導要領(文部科学省,2017)は,知識における理解の質を高め,資質・能力を育む「主体的・対話 的で深い学び」を求めている。主体的な学びは,「学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方 向性と関連付けながら,見通しを持って粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返って次につなげる「主 体的な学び」が実現できているか。子供自身が興味を持って積極的に取り組むとともに,学習活動を自ら 振り返り意味付けたり,身に付いた資質・能力を自覚したり,共有したりすることが重要である。」とされて いる(中央教育審議会,2016)。  主体的な学びに関する研究は,算数科において,学習意欲,主体性,動機づけ,近年ではアクティブラー ニングという視点で行われてきた。学習内容の領域では,生活や経験と関連させた問題の提示(例えば, 稲田 , 1981; 長谷川 , 1986; 加藤 , 1988)や算数のよさ,美しさ,多様性,不思議さ,発展性,発見することや 考えることの楽しさを感じる学習内容が意欲や関心を高めることが報告されている(例えば , 直江 , 1988; 書上 , 1997; 松沢 , 2010)。  学習方法の領域では,具体物操作が学習に見通しをもたせたり,理解を促したりするだけでなく,主体

未来の学習のための準備が学習者の信念に与える影響

吉 田 英 彰

* *教育学研究科 博士課程後期

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的な学習を促すという見解が示されている(例えば,赤松 , 1977; 渡辺他,1990; 冨長 , 1991)。さらに,具 体物操作にゲームの要素を取り入れることで能力の低い児童や参加意識の低い児童も課題意識をもち, 学習に取り組むことが報告されている(例えば,井上・戸ケ崎 , 1984; 鈴木 , 1995; 岸浪 , 1996)。既有知識 を想起させることも,見通しを立て意欲的に学習に取り組むことに効果があるとされている(例えば,小林 , 1981; 崇高 , 1992; 高橋 , 1993)。  動機づけの領域では,挫折による自信喪失を排除する研究が杉山(1977)により行われ,取り扱う内容の 難易を調整することで成功感を与えることが重要だとしている。佐々木・荒木(1998)は,算数に対する不 安を解消するために,学習する内容が何に役に立つのか,どのような面白さがあるのかを伝えたり,算数 に対して爽快感や期待感をもたせたりすることが重要であると報告している。細谷他(2013)は,学業不振 の児童の中には,自分に能力がないように見えることを極力避けることが目標となり,努力をせず,学習を 回避することがあるため,学業不振の児童の実態を把握し,有能感をもたせる働きかけや,努力すること に意味があること,能力というものは訓練や努力によって進歩しうるものだという考えを児童に育てる働 きかけが必要だと述べている。  評価の領域では,関心・意欲・態度への評価方法に難しさを感じている教師は多いが,ノートや小テスト, 机間指導は有効だと報告されている(楠本 , 1993)。指導と評価の一体化を目指す上で,ノート指導が有 効だとする研究が多く見られる(例えば,杉澤 , 1985; 堀川 , 1993; 細水 , 1993)。形成的フィードバックに 着目した研究もある。形成的フィードバックのなかで,教師の状況描写的,探索的,証拠抽出的フィードバッ クや学習者の判断的,状況描写的,探索的,証拠抽出的フィードバックには,学習目標の達成の過程と子 どもたちの間の関係性を調整することが明らかにされている(山本,2015)。  このように,算数科では,主に学習内容,学習方法,動機づけ,評価の領域で主体的な学びについて研 究されてきたが,どの領域においても学習者の適切な評価がなされてこそ,主体的な学びを促すことがで きたと考えられる。しかし,評価をしても学習者の既有知識を捉えにくいという報告もある(加藤 , 1988; 松野 , 1990)。指導過程の途中でなされる評価は,形成的評価であり,指導と評価の一体化において不可 欠であるとされている(辰野・石田・北尾,2006)。形成的評価は,「教えたこと以外のことを問うてはならず, その結果は評価基準(の公開)とともに子どもたちにフィードバックすべきである」とされる(田中,2008)。 次の学習が復習する内容の学習であれば形成的評価は十分有効に機能するだろう。しかし,一時間ごと に学習が進んでいく授業の場合は,既習内容に新規の学習内容が加わる。指導と評価を一体化させるた めには,新規の学習内容における既有知識も評価して指導や学習に生かしていくべきであろう。  これまで,新規の学習内容を予習課題として行って評価し,適切な課題を選んだり,誤答を指導に生か したりする研究が報告されているが(望月 , 1981; 田中 , 1985),学習者のどのような信念に影響を与えるの かは実証的に明らかになっていない。近年,学習科学の領域で,これから行う学習の準備活動をする,「未 来の学習のための準備」の学習効果が示され,研究が進められている(例えば,Schwartz & Martin, 2004; Siler et al, 2013; Schneider & Blikstein, 2018)。先述の新規の学習内容を試行することは,未来の 学習の準備を行うことと言えるだろう。未来の学習のための準備に関する研究は,統計(Schwartz & Martin, 2004),芸術(Brouillette & Liane, 2009),健康(Mylopoulos et al, 2016)などの領域においてなさ

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条件1 条件2 通常指導 未来の学習 のための準 備有り (PFL 有り ) 通常指導 通常指導 PFL 振り返り 振り返り れているが,教科教育における学習効果や学習者の信念への影響については解明されていないことが多 い。  吉田(2020)は,算数科において通常指導の場合と新規の学習内容を試行した場合を比較し,学習にど のような影響があるか量的な研究を試みている。質問紙調査の結果を分析したところ,「次の時間に学習 することがわかっている」,「問題を解くことがおもしろい」,「問題を解くことに自信がある」という項目に ついて有意な差が見られた。新規の学習内容を事前に行うことは,学習内容を予見し,自己調整学習を促 す可能性があることが示されている。本研究では,教科教育の領域において,通常指導の場合と未来の 学習のための準備として新規の学習内容を試行した場合を比較し,質的な研究でも同様の結果が現れる か検証することとした。  本研究の目的は,小学校3年生の算数科において,通常指導の場合(条件1)と未来の学習のための準備 として新規の学習内容を試行した場合(条件2)を比較し,学習者の信念にどのような影響があるかを質的 に分析して明らかにすることである。

2 研究の方法

(1)調査対象者  岩手県の公立小学校3年生29名(男子14名,女子15名)を参加者としたが,欠席や早退のために24名(男 子10名,女子14名)となった。 (2)調査方法  条件1は,算数科の「かけ算の筆算(1)」(東京書籍「新しい算数3上」)において通常指導を行ったあと, 授業の最後に自由記述式の振り返りを書かせた(図1)。条件2は,「かけ算の筆算(2)」(東京書籍「新しい 算数3年下」)において,授業の最後に未来の学習のための準備を行ったあとで自由記述式の振り返りを書 かせた(図1)。本研究では,学習者の学びの様子を文脈に即して理解したり解釈したりするために,条件 1(通常指導)と条件2(未来の学習のための準備有り)の振り返りを質的に比較し,考察をすることとした。 テキストデータは,質的研究分析支援ソフト NVivo12(2019)に取り込み,「これからの質的研究法」(秋田・ 藤江,2019)を援用して分析を行った。まず,頻出語の使用されている文脈を確認し,テキストデータから 帰納的にコードを導いた。さらに,自己調整学習の理論を踏まえた演繹的コーディングを併用し,教職経 験30年以上のベテラン教諭2名が検証作業を行った。その後,条件1と条件2における学びの様子を比較 し,考察を行うこととした。 図1 学習方法(条件1と条件2)

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(4)単元の学習指導計画  単元の学習指導計画は,条件1は表1,条件2は表2に示した。

3 結果

 まず,自由記述式振り返りコメントのテキストデータを用いてワードクラウドを作成した(図2 (条件1),図3(条件2))。ワードクラウドは,頻度が高いほど言葉が大きく,頻度が低いほど小さく 表示され,テキストデータの概要を俯瞰することができるからである。条件1の図2では,「筆算」,「問 題」,「難しい」,「分かる」,「練習」といった言葉が使われている頻度が高い。 表1 「かけ算の筆算(1)」(東京書籍「新しい算数3上」) 学習の内容 調査 1 何十×1位数の計算 自由記述式質問紙 2 何百×1位数の計算 自由記述式質問紙 3 2位数×1位数(部分積が1桁)の計算の仕方を考える 自由記述式質問紙 4 2位数×1位数(部分積が1桁)の筆算による計算 自由記述式質問紙 5 2位数×1位数(一の位の数との部分積が2桁)の筆算 6 2位数×1位数(十の位の数との部分積が2桁,及び部分積がみな2桁)の筆算 7 2位数×1位数(部分積を加えたときに百の位に繰り上がりあり)の筆算 表2 「かけ算の筆算(2)」(東京書籍「新しい算数3年下」) 学習の内容 調査 0 第1時の準備学習自由記述式質問紙 1 1位数×何十の計算 第2時の準備学習自由記述式質問紙 2 2位数×何十の計算 第3時の準備学習自由記述式質問紙 3 2位数×2位数(部分積が2桁)の筆算の仕方を考える 第4時の準備学習自由記述式質問紙 4 2位数×2位数(部分積が2桁)の筆算の仕方のまとめと適用問題 5 2位数×2位数(部分積が2,3桁)の筆算 6 2位数×2位数(定数の末尾に0がある)の簡便な筆算 7 3位数×2位数(空位なし)の筆算 8 3位数×2位数(空位あり)の筆算

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 条件2の図3では,「(〜し)たい」,「問題」,「自学」,「やる」,「良い」といった言葉のを振り返り で使用する頻度が高い。

図3 ワードクラウド(条件2) 図2 ワードクラウド(条件1)

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 振り返りコメントからの帰納的なコーディングと自己調整学習の理論を踏まえた演繹的なコー ディングを併用し,導出したコード,条件1及び条件2における記述数,直接確率計算法で条件1と 条件2の記述数に有意な差があるかどうかを示したものが表3である。  条件1(通常指導)と条件2(未来の学習のための準備有り)でコードの記述数に有意な差が見られ たのは,課題分析における「方略計画(p=.000, 両側検定)」,自己動機づけにおける「結果の予期 (p=.007, 両側検定)」と「自己効力感(p=.031, 両側検定)」,難易度における「易しい(p=.001, 両側検 定)」,理解における「学習内容(p=.004, 両側検定)」と「課題方略(p=.043, 両側検定)」であった。また, 有意傾向を示したのは,難易度における「難しい(p=.080, 両側検定)」,自己評価における「できな かった(p=.098, 両側検定)」であった。有意差が認められたコードについて,記述の概要は以下に示 すものであった。 課題分析の「方略計画」については,次のような記述であった。 条件1(試行学習なし)では, ・家庭学習にもいっぱい書きたいです(児童21)。 ・家で練習とかをしたいです(児童23)。 条件2(試行学習あり)では, ・解き方を聞きたいです(児童2)。 ・問題で間違えてしまったので自学で復習をしたいです(児童4)。 ・2けたのかけ算を自学でもやりたい。(児童8) 表3 コードと記述数 大コード 中コード ( 準備学習なし )条件1 ( 準備学習あり )条件2 直接確率計算法1×2両側検定 課題分析 方略計画 4 34 ** 目標設定 1 6 ns 自己動機づけ 学習態度 5 7 ns 目標達成志向 15 9 ns 結果の予期 0 8 ** 自己効力感 0 6 * 課題興味 13 16 ns 難易度 易しい 13 1 ** 難しい 22 11 + 自己評価 できた 33 34 ns できなかった 13 24 + 理解 学習内容 18 4 ** 課題方略 18 7 *

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・新しく問題が出て,少し間違えたのを自学に練習したいです(児童15)。 自己動機づけの「結果の予期」は,次のような記述であった。 条件2(試行学習あり) ・明日の問題があまり自信がない(児童2)。 ・明日の学習が解けてよかった(児童9)。 ・問題を解くことができないので,自学でもやってみたい(児童10)。 ・次の問題は苦手そうなので頑張りたいです(児童12)。   「結果の予期」の記述から,未来の学習のための準備学習のあと,次の学習に対して学習者自身が 「できそうか」,「できなそうか」という学習の結果を予測していることが伺える。 自己動機づけの「自己効力感」は,条件2において次のような記述が見られた。 ・次にやる問題がよく分かって良かったです(児童7)。 ・明日の学習が解けてよかった(児童9)。 ・次の学習に知っていることが使えるので楽しみです(児童12)。 ・明日の問題も頑張ったらできたので良かったです(児童18)。 ・明日やる問題がよく分かりました。頑張ろうと思いました(児童20)。 試行学習の問題を解くことができた児童は自己効力感に関わる記述をしている。 難易度の「易しい」は,条件1において次のような記述が見られた。 ・簡単でしたが,1問間違えました(児童8)。 ・今日の勉強もとても簡単でした(児童18)。 ・簡単だったので良かったです(児童21)。 ・最初にやったことを覚えたら,簡単でした(児童24)。 ・慣れてきたら簡単でした(児童27)。 条件2においては記述数が1つに減少している。 難易度の「難しい」は条件1において,次のような記述が見られた。 ・筆算をして難しかったです。だんだん慣れていきます(児童4)。 ・繰り上がりはとにかく大変でした(児童8)。 ・最初はどうすればよいか分かりませんでした(児童12)。 ・最初の問題に戸惑ったけど,正解できてよかった(児童17)。 ・百の位に繰り上がると難しいけどできて良かったです(児童19)。 条件2では,次のような記述が見られた。 ・難しい計算でした(児童4)。 ・プリントの問題に戸惑ったけど,正解してよかった(児童17)。

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・少し難しかったけれど,学習してできるようになってうれしかったです(児童19)。 ・ちょっと戸惑ったところもあったので頑張りたいです(児童27)。 自己評価の「できなかった」は,条件1において次のような記述が見られた。 ・練習問題が一問間違ったから,次は全問正解したい(児童7)。 ・練習問題で2問間違えたので,次は100点を取りたいです(児童15) ・少し間違えてしまったので,間違えないようにしたいと思いました(児童22)。 条件2では,「できなかった」と記述した数が増加している。 ・間違えた問題があったので,次の問題には,間違えないようにちゃんと考えます(児童5) ・問題で間違えてしまったので,自学で復習をしたいです(児童6)。 ・間違いが多かったので,自学で練習をしたいです(児童7)。 ・間違えたけど,やり方が分かって良かったです(児童12)。 ・二問間違えたので,自学で練習してうまくなりたいです(児童15)。 理解の「学習内容」では,条件1で次のような記述が見られた。 ・かけ算で繰り上がりがあるなんて知りませんでした(児童12)。 ・百の位に繰り上がる筆算が分かって良かったです(児童16)。 ・掛け算の筆算ができるなんて思っていませんでした(児童19)。 ・昨日の勉強は10の位までだったけど,今日は違って100の位の数でびっくりしました(児童28)。 ・算数のことがよく分かって良かったです(児童29)。 条件2では,次の通りである。 ・何十の筆算が学べてよかったです(児童12)。 ・何十×何十の計算の仕方が分かって良かったです。次の学習も解きたいです(児童16)。 ・ 0のかけ算の筆算があるなんて知りませんでした。自学やプリントでも取り組みたいです(児童 21)。 ・筆算のことがいろいろ知れて良かったです(児童29)。 理解の「課題方略」における記述は,条件1で ・百の位に繰り上げることなどが分かって良かったです(児童1) ・筆算をすると楽なのが分かりました(児童10) ・かけ算の筆算の仕方が思ったとおりだった(児童12)。 ・1の位から順に計算することを初めて分かりました(児童17) ・今日,この筆算の正しいルールを知りました(児童25)。 条件2では,以下の通りであった。 ・0が出てくる筆算で,前やったことが使えて良かったです(児童1)。

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・この計算を覚えておいて,計算を思い出してやりたいと思いました(児童10) ・やり方が分かって良かった(児童12) ・いろいろなかけ算のやり方があるんだなと思いました(児童29)。  次に,条件1(通常指導)と条件2(未来の学習のための準備有り)において,コードに関連した記述 数の変化を図4で示した。 0 5 10 15 20 25 30 35 条件1(通常指導) 条件2(未来の学習のための準備有り) 図4 コード記述数の比較

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 未来の学習のための準備における解答結果は表4の通りであった。

4 考察

 課題分析における「方略計画」に関する記述が,条件1(通常指導)と比較して条件2(未来の学習の ための準備)では有意に増加している(p=.000, 両側検定)。未来の学習のための準備を行った場合 では,振り返りの記述から,問題を解いても自信が持てないため,解き方を聞きたいという学習方 略を検討していることが読み取ることができる。また,問題を解くことができないために自主学習 を行うという学習方略を検討した児童も見られた。未来の学習のための準備として行った学習内容 は,本時で学習した内容よりも発展的であり,難易度は上がる。未来の学習のための準備では,こ 表4 未来の学習のための準備における回答の結果 未来の学習のための準備問題 解答結果 人数 1 5人がけの長いすが30こあります。全部で何人すわれますか。 5×30=150 答え 150人 9 5×30=60 答え 60人 1 30×5=150 答え150人 9 30÷5=6 答え 6人 4 30+5=35 答え 35人 1 2 1枚12円の工作用紙を23枚買います。代金はいくらですか。 12×23 答え  276円 答え   26円 答え  246円 答え  236円 答え  272円 答え  278円 無答 10 5 4 2 1 1 1 3 86×30の筆算のしかたについて考えましょう。 答え  2580円 答え  2500円 答え  2620円 答え   240円 答え    32円 無答 15 2 1 1 1 4 4 ドーナツ1ふくろに4こ入って,36円で売っています。この ドーナツ12こ分の代金はいくらですか。 36×12=432答え 432円 14 12÷4=3 36×3=108 答え 108円 4 36÷4=9 9×12=108 答え 108円 3 12×4=48 答え48円 3

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れまでの既有知識を用いて試行を行うこととなるが,使用する方略に修正や調整が必要となったた め,学習方略に関連する振り返りの記述が増加したと考えられる。  条件2(未来の学習のための準備有り)では,「結果の予期」にあたる記述が表出されている。未来 の学習のための準備は,新規の学習内容を認知し,内在する宣言的知識や必要とされる手続き的知 識がどのようなものかメタ認知的モニタリングを行う機会となる。学習者自身が,新規の学習内容 についてメタ認知的モニタリングをすることにより,学習の結果を見通すことができるようになっ たと考えられる。  条件2(未来の学習のための準備有り)では,「自己効力感」に関する記述が有意に増加している (p=.031, 両側検定)。Bandura(1977)は,達成経験が,特定の課題に対して「できそうだ」という信 念(自己効力感)を生み出すとしている。未来の学習のための準備では,これから学習する内容につ いて試行を行ったが,既習の知識を用いて問題を解くことができた場合に達成経験となり,自己効 力感が増加すると考えられる。一方で,未来の学習のための準備で行う学習内容が難しすぎると, 問題を解くことができず,達成経験とはならない。この場合は,自己効力感が減少する恐れがある。 未来の学習のための準備を行う際は,学習者の理解状況を把握した上で,適切な難易度の課題を用 意して試行させる必要があるだろう。  何を理解したのか,どのような方略を使うと良いかが分かったとする記述は,条件2(未来の学習 のための準備有り)において有意に減少している。これは,未来の学習のための準備により,学習内 容の理解が妨げられたことを示しているのだろうか。Schwartz & Martin(2004)は,未来の学習の ための準備を行うことにより,学習への転移が促されたとしている。しかし,未来の学習のための 準備に関する研究は,教科教育の領域ではまだ充分に行われておらず,今後は学習の効果を検証し ていくことが求められる。条件2(未来の学習のための準備有り)で記述数が最も増加したのは「方 略計画」である。「結果の予期(p=.007, 両側検定)」や「自己効力感(p=.031, 両側検定)」も有意に増加 している。このことから,未来の学習のための準備により,児童の学習への関心が次に学習する内 容に向けられた可能性が考えられる。  自己評価の「できなかった」に関する振り返りの記述が,条件1(通常指導)と条件2(未来の学習の ための準備有り)において有意傾向の差を示している(p=.098, 両側検定)。未来の学習のための準 備は,新規の学習内容であり,まだ習っていない学習であるため問題を解答することに難しさがあっ たと考えられる。難易度の「難しい」に関する記述は,条件1(通常指導)と比較し,条件2(未来の学 習のための準備有り)では減少しており有意傾向を示している(p=.080, 両側検定)。但し,「難しい」 に関する記述数は条件1(通常指導)より減少しているが,他のコードと比較して記述数が少ないと も言えない。条件1(通常指導)において自己評価の「できなかった」に関する記述を見ると,間違え た問題はあったが,「次は全問正解したい」,「次は間違えないようにしたい。」とある。条件2(未来 の学習のための準備有り)では,間違えた問題はあったが,「次は間違えないようによく考える。」,「自 学で復習をする。」,「やり方がわかった。」とあり,これからの学習方略を検討していることを伺う ことができる。このことから,「できなかった」ということが,課題に対して達成状況を自己評価す

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るだけでなく,課題を分析して課題解決に向けて方略を検討していると考えられる。  未来の学習のための準備における回答の結果は,表4で示した通りである。第1時で試行した学 習内容は,「5人がけの長椅子30脚に何人座れるか」であった。学習する前ではあるが,「5×30= 150 150人」と正しい式と答えを自力で導き出している学習者が9人いる事がわかった。式と答え を正しく解答できたとしても,どの程度理解をしているかは授業の中で確認をすることが必要であ る。それを踏まえた上で,より難易度の高い課題を用意することにより,学習者の変容を生み出す ことができると考える。一方で,「30×5=150 150人」と回答した学習者は9人いる。かけ算は「ひ とつ分の数がいくつ分あるか」を考慮して立式するが,ひとつ分の椅子に5人座り,それが30脚分あ るという問題の設定を把握できていないために,30×5という式になったと考えられる。「30÷5= 6 6人」や「30+5=35 35人」といった回答もあったが,「30×5=150 150人」と回答した学習 者と同様に問題把握に課題が見られる。  第3時では,「86×30の筆算」について,15名が正しく解答することができた。第2時の「12×23 の筆算」の学習で学んだやり方を適用して筆算をしたのではないかと考えられる。ただ,30の一の 位の0をどのように計算したら良いかや,十の位の3の計算の答えをどの位から書いたら良いのか 確認が必要である。  このように,未来の学習のための準備において解答を分析することで新規の学習内容における既 有知識を事前に把握することができる。教師は,未来の学習のための準備を評価することで,学習 者の実態に応じて課題解決に焦点化した学習を構想することができるであろう。

5 結論

 本研究では,通常指導の場合(条件1)と未来の学習のための準備として新規の学習内容を試行し た場合(条件2)を比較し,学習者の信念にどのような影響があるか質的に分析して明らかにするこ とであった。  未来の学習のための準備を行うことで,どのように学習をしていくかという「方略計画」,学習の 結果がどうなるかという「結果の予期」,「自己効力感」に関連する記述数が有意に増加した。「方略 計画」は,自己調整学習の予見段階における「課題分析」に,「結果の予期」と「自己効力感」は,予見 段階の「自己動機づけ信念」に位置づけられている(Zimmerman and Moylan, 2009)。未来の学習 のための準備を行うことは,これから行う学習の予見となり,学習を自己調整的に行うことを促す と考えられる。吉田(2020)は,算数の学習において未来の学習のための準備を行い,予見段階,遂 行段階,自己内省段階の各段階でマイクロ分析を用いて量的に学習の様相を分析した結果,未来の 学習のための準備として新規の学習内容を試行することは,自己調整学習を促す可能性があるとし ている。本研究の結果は,未来の学習のための準備が学習の予見を促し,自己調整学習を促すこと を質的な分析で支持するものと考えられる。

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6 今後の課題

 今後の課題としては次の2点が挙げられる。まず,未来の学習のための準備として,新規の学習 内容を試行させたときに,できるだけ多くの児童に達成経験をもたせる取り組み方をすることであ る。未来の学習のための準備として取り組む問題に解答できないと,自己効力感が低下し,主体的 な学びにならない懸念がある。Schneider & Blikstein(2015)によると,未来の学習のための準備は, グループで相互作用的に学習を行った方が効果的になるとしている。未来の学習のための準備を行 うときに,個人で取り組む場合と集団で取り組む場合を比較し,達成経験や自己効力感にどのよう な影響があるのか検討する必要がある。  次に,教科教育の領域で,未来の学習のための準備に学習効果があるのか実証的に明らかにする ことである。未来の学習のための準備に関する研究が主体的で深い学びの実現につながるか検証し ていきたい。 引用文献 赤松旬(1977). 「学習意欲を育てる指導法の研究:楽しく学ぶ算数」,『日本数学教育学会誌』,59(10), pp.196-199 秋田喜代美・藤江康彦(2019). 『これからの質的研究法 15の事例にみる学校教育実践研究』,東京図書,pp.2-39 Bandura(1977). Self-efficacy: Toward a Unifying Theory of Behavioral Change, Psychological Review, vol. 84,

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The purpose of this study was to compare the effects on learners' beliefs in third-grade math class in the case of regular instruction (Condition 1) and when new learning content was attempted as preparation for future learning (Condition 2), and to conduct qualitative analysis to clarify the effects on learners' beliefs. A qualitative analysis of the reflections in conditions 2 showed that the number of statements related to strategic planning, outcome expectations, and self-efficacy increased significantly. Since strategic planning is positioned as task analysis in the foresight phase of self-regulated learning, and outcome expectations and self-efficacy are positioned as self-motivating beliefs in the foresight phase (Zimmerman and Moylan, 2009), preparing for future learning is an important factor. It was suggested that preparing for future learning was foresight and that learning was self-regulating. The future tasks were discussed in terms of how to prepare for future learning to increase self-efficacy and to examine whether preparation for future learning will increase the effectiveness of learning in the realm of academic education.

Keywords:preparation for future learning, prior knowledge in new learning content, self-regulated learning, active learning

The Impact of Preparing for Future Learning on

Learners' Beliefs

Hideaki YOSHIDA

(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)

参照

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