ޙႆɁ˿ͶᄑȽޙɆɥȬȲɔɁɝጸɒ
──絵本ワークショップの実践から考える──
太 田 早津美
Encouraging College Students to Active Learning
—Thinking from the Practice of Picture Book Workshop—Satsumi O
HTA ɂȫɔȾ 近年、様々な分野で人工知能(AI)の導入がなされており、少し前には予測不能であった ようなことが現実のものとなり、情報化やグローバル化といった社会的変化が急速に進んでい る。しかし、人工知能は進化しているとはいえ、現状ではまだ組み込まれた情報の中での判断 に過ぎない。その点、人間は個々の感情を豊かに表現しながら自己の判断を示すことができる。 そのことにより、目標として目指すところは同じでも、ものの考え方や方法に答えは㧝つでは ないという面白さがある。今後どのような社会的変化があろうと、その社会に対応しながら、 自分らしく生きていかねばならない。そうした中で、学校教育が長年取り組んできた「生きる 力」の育成を、大学教育においてもどのように高めていくかは社会人として巣立っていく大学 生の社会人基礎力(ジェネリックスキル)を身に付けていく学修課題として大変重要である。 経済産業省が2006年に発表した社会人基礎力に次いで、2019年に「人生100年時代の社会人基 礎力について」の中で、考え抜く力(シンキング)・前に踏み出す力(アクション)・チームで 働く力(チームワーク)の重要性を示している。またその新たな視点として、何を学ぶか・ど のように学ぶか・どう活躍するかについてもライフステージの各段階で意識していくことを求 めている。 2012年(平成24年)㧤月中央教育審議会は、「新たな未来を築くための大学教育の質的変換 に向けて∼生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ∼(答申)」を示し大学教育の 質的変換の重要性を述べている。この答申を受け、本学においても教員による講義形式の授業 から学習者の主体的・対話的な学習方法であるアクティブラーニングを取り入れた授業方法に 関心が高まっている。 筆者はそうした考え方をもとに、大学のゼミ活動において2015年より絵本ワークショップ の取り組みを行ってきた。ゼミ活動における学生の主体的で共同的な取り組みを通して、保育 者としての社会人基礎力(ジェネリックスキル)や実践力を高めていくことをねらいとして取り組んできた。2015年から2019年度までの㧡年間の取り組みを示しながら、絵本ワークショッ プにおいて学生の学びがどのように変化したかについて分析をするものである。 Ƌᴫፎటʹ˂ɹʁʱʍʡɁɝጸɒ ᴮᴫӁᣲӌɥᯚɔ˿ͶᄑȽޙɆɥऀȠҋȬፎటʹ˂ɹʁʱʍʡ 絵本ワークショップは、絵本の持つ魅力を最大限に生かせるよう、絵や内容からイメージし た遊び、造形、身体表現などで、絵本の世界観を楽しもうとする企画である。現在行われてい る絵本ワークショップや先行研究などでは、様々な活動や展開方法が紹介されている。 ワークショップを企画するにあたっては、テーマとなる絵本の選定が鍵となる。筆者が提案 するワークショップにおいては、絵本の持つイメージから企画した、造形活動や身体表現、ゲー ムを体感しようとするものである。そこで、なるべくストーリー性がない、イメージが多様化 しやすい絵本を選定するようアドバイスしている。その理由は、できるだけ絵本のストーリー 展開にとらわれず、絵本のタイトルから創造力を発揮し、様々な展開内容を企画し、子どもた ちを絵本の世界に引き込むためである。企画の第㧝段階としては、まずは学生が推薦したい絵 本を各自持ち寄り、その中からテーマにしたい絵本を決定するところから始まる。 こうしたディスカッションの中で絵本を絞り込み、どんな企画内容にしていくかを決定して いくことになる。創造力を膨らませ、主体的に討論をしていくことで方向性が決定されていく。 筆者は絵本のタイトルやその絵本の世界観をどういった形でワークショップを作り上げていく のかを検討するには、かなり柔軟な考え方や豊かな感性が必要であると感じている。 ᴯᴫፎటɁ˰ႜɥͶȬɞፎటʹ˂ɹʁʱʍʡɁ͙႕ ḻǽ͙႕ю߁ 筆者のゼミ活動は地域の幼稚園、保育所の園児と保護者を対象にしている。おおむね30か ら40組の親子を想定している。天候に左右されない企画にすることや、安全管理上の問題も あり、これまでは室内での企画にとどめている。絵本の世界観を体験するための方法はいろい ろ考えられるが、室内でできる方法での造形活動、身体表現、ゲーム性のある遊びなどで多様 な企画内容を考えている。オリジナリティのある企画にしていくために、活動に使用する材料 や教材にも工夫している。子どもたちが様々な活動を通し、絵本の世界をイメージしながら、 わくわくとした気持ちで楽しく体感してもらえるように、園児の発達にあった取り組みやすい 企画内容を考えないといけない。準備段階での主体的な企画案の提示や準備作業における共同 性やチームワークが必要となる。子どもに絵本の世界を体感してもらうためのイメージ作りを、 どのように伝えていくとよいかを全員が共有しながらワークショップの企画を丁寧に作り上げ ていくことが大変重要である。
は学生の企画力や、取り組みに対する一体感や協同性といった学生の取り組み姿勢に負うとこ ろも大きい。 Ḽǽʟɫʁʴʐ˂ʉ˂Ɂސ٣ そうした企画段階において重要な役割を果たすのがファシリテーター役の存在である。ファ シリテーター役は学生の主体的、共同的な学びに繋がる実践にしていくためのキーマンといえ る存在で、教員と連絡調整しながら、客観的な立場で学生の企画や準備を順調に進めていく役 割を担っている。学生はそうしたファシリテーターの様子を学びながら、当日においては各ブー スの担当者としてファシリテーターの役割を担い、参加した子どもたちが安全でより活動を楽 しめるように援助していくことになる。 ḽǽछஓɁํɟ 当日の活動がスムーズに行えるようにするためには、計画書の作成を行い、タイムテーブル や配置図、参加者名簿は事前に作成して、参加する学生が情報を共有しておくことが大切であ る。 はじめにテーマとした絵本の読み聞かせをして、子どもをその世界観に引き込んで行かねば ならない。学生には、子どもがその絵本の内容を理解し、その絵本からイメージした企画内容 に期待感を持たせる導入方法や、子どもがわくわくする体験ができるような場の盛り上げ方を 考えながら、臨機応変な対応や個々に応じた援助方法が求められる。まさに、実践者として必 要なスキルが求められる訳である。その上に、企画側としての会場の全体把握と学生間の連携 が必要となる。また、このワークショップは親子での参加が基本であることから、ワークショッ プを実践しながら親と子の関わり方も観察でき、今後の保育実践に役立てることができる活動 でもある。 筆者は、第㧝回目の絵本ワークショップは㧠年ゼミ生に実践させることにした。第㧝回目の 絵本は、作:長新太「もじゃもじゃしたものなーに?」に決まり、企画内容を考えることになっ た。そこで、企画運営をスムーズにしていくために、学生の中にリーダー役としてのファシリ テーターを作りゼミ担当者との連絡調整役とした。こうすることで学生がより主体的に動ける ようにと期待した。しかし、就職活動に忙しい㧠年生でもあり、まだゼミ生の取り組みに対す る意識に温度差があった事から、準備段階において作業負担に偏りができ、リーダー役が苦労 する結果になってしまった。そこで㧞回目からは㧟年ゼミ生が実践を行うことにした。
ƌᴫፎటʹ˂ɹʁʱʍʡɁᡇǽᴥࢳȞɜࢳᴦ ᴮᴫቼᴮوǽࢳɁᡇǽǽࢳఌஓᴥ٠ᴦǽȈɕȫɖɕȫɖȪȲɕɁȽ˂Ⱦᴼȉ 写真㧝 作:長新太 「もじゃもじゃしたものなーに?」 写真㧞 シュレッダーの紙で作った羊 2015年11月31日(土)名短付属幼稚園から16名の親子が参加。コミカルなタッチでもじゃ もじゃしたものを表現した文字のない絵本である。絵本からイメージした企画はシュレッ ダーの紙で作った羊、セーターをほどいた毛糸を使ったおじさんの顔、レコード巻きナイロ ンテープを割いたものを利用したトウモロコシ、きらきらモールのイソギンチャクなどの内 容となった。 特に毛糸をほどく活動は親子ともに盛り上がり、楽しんでいる様子が見られた。参加した 保護者アンケートには、「普段読み聞かせで終わっている絵本にもこんな楽しみ方があると は知らなかった。見ている親も楽しかった。」とあった。 毛糸のセーターをほ どくことなど普段やっ たことがないので、親 子とも大変喜びであっ た。ほどいたもじゃも じゃと丸まった毛糸を 不思議そうに見ながら おじさんの顔を作って いった。 イソギンチャクやトウモロコシ作りなどの制作は、子どものやっている作業をじっと見つめ ている親もいれば、ついつい手を出してしまいながら親も楽しむ様子が見られた。 写真㧟 もじゃもじゃ毛糸を 使ったおじさんの顔 写真㧠 親子でセーターをほどく
写真㧡 トウモロコシ作り 写真㧢 とうもろこし 写真㧣 きらきらモールのイソギンチャク 写真㧤 親子でイソギンチャク作り ᴯᴫቼᴯوǽࢳɁᡇǽࢳఌஓᴥ٠ᴦǽȈȝȬȪɁȮȞȗɝɚȦșȉ 2016年10月16日(土)名短付属幼稚園と近隣の保育 所の親子が参加。回転ずしのお寿司たちが、店を飛び 出して世界を回っていくという内容。おすしが旅行す る国をイメージしたおすし作りや、食べ物をイメージ した遊びを企画する。 この回から㧟年生が担当することになり、㧠年生は サポート役としてワークショップに参加する。 写真㧥 文:竹下 文子 絵:鈴木 まもる 「おすしのせかいりょこう」 絵本では、回転ずしが列を作って海外を旅行し、外国らしい建物や服装などの特色ある風景 が描かれている。ワークショップの企画では、インドではカレー寿司、南アメリカのアマゾン 川ではピラニア寿司、イタリアはピザ寿司などをイメージした創作寿司を作ったり、ピラニア 釣りコーナー等を企画する。発想の面白さもあり親子ともに楽しむ様子が見られた。
写真10 カレー寿司写真 写真11 ピラニア釣り 写真12 ピラニア寿司
写真13 ピザ寿司 写真14 ポテト投げとドーナツ投げ
ᴰᴫቼᴰوǽࢳɁᡇǽǽǽࢳఌஓᴥ٠ᴦǽȈȗɠȗɠʚʃȉ
2017年10月28日(土)は雨にもかかわらず、名古屋短期大学付属幼稚園や近隣の保育所 から34組の親子が参加。昨年からのリピーターもある。 いろいろバスの話は、赤いバスや黄色いバスや緑のバスがやってきて、赤いバスからは赤 のお客さん、黄色いバスからは黄色のお客さん、緑のバスからは緑のお客さんが降りてくる。 ワークショップではそれぞれの色のお客さんを作る。「赤のお客は何がある?」「タコ?」「ト マト?」など子どもたちは考えながら作っていた。ビニールシートの上にバスが走る道路も 作る。子どもたちからは「ここには信号機がいるね」「バスがぶつかって交通事故になちゃっ た…。」と会話をしながら、学生が牛乳パックで作ったカラフルなバスで遊びが広がっていた。 描画の画材にも工夫して、割りばし、スポンジ、タンポ、歯ブラシなどを使って制作活動 を企画する。 写真17 スポンジを使って描く 写真18 歯ブラシを使って描く 写真19 タンポを使って描く 写真20 作ったお客さんをバスに乗せて遊ぶ 写真21 バスを走らせて遊ぶ 今回は色塗りの用具にこだわってみた。手作りのスポンジ筆や歯ブラシ、タンポでバスに乗 るお客さんを作ることが目的である。色から想像できるお客さんは何があるか考えながら描く という企画である。赤はトマト? タコ? 黄色はバナナ? ひまわり? 青は魚? 等と親 に聞きながら描いていた。 男の子は牛乳パックで作ったバスをみんなで作った道路で走らせるのが楽しみなようで、な
かなか順番が回ってこない子どももあった。バスの台数を増やしておくべきだったと反省した。 ᴱᴫቼᴱوǽࢳɁᡇǽǽࢳఌஓǽǽȈȢɕɁȟȶȦșȉ 2018年10月20日 名短付属幼稚園、近隣の保育所と幼稚園か ら24名の親子が参加。 雲の子どもが学校でいろいろな形の雲になる練習をするが、 曇り空になる練習では間違えた形になってしまう。でも最後に は素敵な雲になるという話。 空の雲を実際に撮影して印刷する。その雲からから想像する 形を描いたり、雲のパズル、雷さんのフォトスポット、お面作 りを企画。 この回から読み聞かせにパワーポイントの映像も併用して使 い、会場の参加者全員に絵本の内容を見やすくした。 途中で雲のダンスの曲で踊るなど、企画にメリハリを入れる。 この後、㧞月に名東区の幼稚園でも㧡歳児に出前実践を行う。 写真22 作:みらい なな 絵:いけずみ ひろこ 「くものがっこう」 写真23 この雲何に見える? 写真24 OPP 袋に入れて描く 写真25 何に見えるか考えて描く 写真26 雲のパズル 写真27 パズルで遊ぶ 写真28 パズルで遊ぶ
写真29 お面作り 写真30 フォトスポット 写真31 お面をつけて雲のダンス 撮影したくもの写真をカラーコピーし、透明な袋に入れてその上からいろいろな雲の形から 連想する絵を描くようにした。学生の書いた見本をみて描く子もいたが、雲の形から連想した ものを描くことはなかなか難しそうだった。参加した親の方が楽しんでいたようにも思えた。 フォトスポットは大人気で、親子写真を撮り楽しむ様子が見られた。 ᴲᴫቼᴲوǽࢳɁᡇǽࢳఌஓᴥஓᴦǽͽᴷ̡֞܀Ȉɂɂɂɂɂȉ 写真32 作:五味太郎 「ははははは」 2019年10月13日(日) 前日は大型台風接近のため心配さ れたが、名短付属幼稚園、近隣の保育所から23組、30人の親 子が参加。 五味太郎さんの独特の絵とユニークな世界観が面白い絵本 をテーマに、「は」のつく遊びをいろいろ考えて企画。 はのつくもの釣り、葉っぱのフロッタージュ(写し絵)、箸 つかみゲーム、八の字線路、はがき作りなどのコーナーを作る。 参加者した保護者からは「子どもが興味をもって楽しそう にしていた。」「子どもが主体的に関われる内容だった。」「親 が一緒だったので安心して遊べた。」「子どもがじっくり遊ぶ 姿が可愛かった。」との声が聞かれた。 写真33 はのつくもの釣り 写真34 裏の○ąを確認する 写真35葉っぱのフロッタージュ 釣り上げた絵の裏に○ąが書いてある。はな…○ ばら…ą はさみ…○ ぱんだ…ą
写真36 箸つかみゲーム 写真37 はがき作り 写真38 八の字線路の電車遊び ƍᴫʹ˂ɹʁʱʍʡɁ ᴮᴫޙႆɁળɝᣌɝȞɜᐎțɞ ḻǽɬʽɻ˂ʒȾɛɞޙႆɁળɝᣌɝ 筆者は2018年度㧥名と2019年度㧤名のワークショップを行ったゼミ生にアンケートを行っ た。なお、このアンケートは倫理的配慮として研究目的とすることを説明し無記名で行う。 その結果、ワークショップの取り組みに対しては、ほとんどの学生が積極的に取り組めたと 回答していた。その陰で、企画をリードするファシリテーターとして活躍した学生の努力は大 きいと思われる。 ḧǽȈፎటʹ˂ɹʁʱʍʡɥᚐșȦȻȺȼɁɛșȽӌȟᡵȾ͇ȢȻ९șȞȉȾȷȗȹɁوኌ どちらの年度も「企画力」が身に付くと思うと回答している。2018年度実施学生は、グラ フ㧝のように企画力とともに実践力や臨機応変な対応力が身に付くとの回答も多く、自由記述 には異年齢の子どもとのかかわりや、とっさの対応が実践することで身に付くと述べている。 次に多かったのは、協調性が身に付くと回答しており、自由記述に「仲間とともに様々な意見 を出し合い、役割分担も決めて取り組むことができた。」「準備をするためにゼミ時間外では同 じ時間に集まれることが少なく、情報共有や役割分担が不可欠であった。そのため、ゼミ内の チームワークが高まった。」と記していることから、役割分担や連絡調整なども工夫しながら 協力して実施することの大切さに気づいたことが窺える。 2019年度実施学生はグラフ㧞のように企画力とともに計画性が身に付くとの回答が多かっ た。今回は準備の段階での遅れもあり、実施までの段取りや当日の状況を予測して配置を考え ることが十分できていなかった。そのこともあり、事前の細かな計画がいかに大切であるかを 学ぶことができたようである。次に多かったのは創造性や対応力が身に付くと回答しており、 準備段階での企画内容を検討する際の創造力や、予測できない子どもの行動へのとっさの対応 は、まだまだ実践が足りない㧟年生にとっては、直面してみて初めて分かるものであったよう だ。
〈アンケート結果1〉 2018 年度実施学生 絵本ワークショップで身につくと 思われる能力 10 8 6 4 2 0 協調性 計画性 対応力 技術力 実践力 企画力 創造性 グラフ㧝 対象者㧥名 回答者㧥名 2019 年実施学生 絵本ワークショップで身につくと 思われる能力 8 6 4 2 0 協調性 計画性 対応力 技術 力 実践力 企画力 創造性 グラフ㧞 対象者㧤名 回答者㧢名 Ḩǽ Ȉޙႆᒲᡵȟʹ˂ɹʁʱʍʡɥஃȪȹȼɁɛșȽȦȻȟޙɌȲȞȉȾȷȗȹɁᒲႏᜤᣖ وኌ 2018年実施の学生、2019年実施の学生ともに、企画や準備段階でのチームワークと話し合い、 情報の共有、計画性が大切であることを実践的に学んでおり、責任感、情報の共有と連絡調整、 臨機応変な対応力、協働性などの社会的基礎力がこうしたワークショップにも必要であること を記している。また、子どものイベントであることから、安全面での配慮の重要性にも気づく ことができたと記している。 ḼǽޙႆɁ˿ͶॴɁᑎȴ これまでの㧡年間の取り組みの中で卒業研究論文に絵本ワークショップをテーマに研究した 学生が㧞名いた。牧野沙智「絵本の世界で保育する─絵本ワークショップを通して感じた絵本 の魅力─」(2015)(1)と後藤志保「絵本が子どもにもたらす影響─絵本ワークショップを体験し て感じたワークショップの魅力」(2017)(2)の㧞編がある。両者とも実践後にゼミ生からアンケー トを取っており、学生の絵本ワークショップに対する意識について回答を求めている。 それによると、牧野は、質問項目「今回のワークショップ全般について感じたこと」という 自由記述について、考察の中で「ワークショップが終わった後は楽しかったと口々に言ってお り、学生も楽しんでワークショップが行えていた、しかし、保育者としては単に楽しかったと いうだけで活動を済ませてはいけない。(中略)参加する学生全員のワークショップであるこ とを踏まえ、一人一人が意欲的に企画に参加できるように順序立てて計画していくべきであっ たと感じた。複数の人数で企画運営する際には情報共有が大切である。(中略)ワークショッ プを円滑に進めていくにはファシリテーター間のチームワークも必要である。これは保育の現 場でもいえることだ。保育者同士が十分に連携して活動を行うことで、子どもも安心して絵本 を楽しめるのである(牧野 2015)。」と述べている。
筆者は2015年の絵本ワークショップは、第㧝回目の企画であり反省点が多かったと感じて いる。それは、開催期日の設定時期や授業数は少ないが就職活動中の㧠年生を企画担当者にし てしまったことである。第㧝回目であったこともあり、絵本ワークショップのイメージがつか めない中で段取りの悪さから準備が遅れ、最後までファシリテーター役にかなりの負担がか かってしまった。ゼミ生の意識を高め、より協働性が高まるような配慮やサポートをすべきで あったと反省している。11月末の開催に向けての取り組みは、ほぼ就職活動を終えていると はいえ、就職活動に必死であった㧠年生にとってみれば、時間を取って十分な話し合いを設け ることが困難であったかと思われる。また、ゼミ活動としての絵本ワークショップの取り組み が理解できていない学生もいて、ファシリテーターでもあり、卒業論文の研究をしようとして いる学生が中心に動いていたように感じる。しかし、こうした振り返りの中で、学生たちが保 育者としての計画性、連携、協調性、協働性などの社会人基礎力(ジェネリック・スキル)の 重要性を学んでくれたものと期待している。 また、2016年の後藤は、質問項目「ゼミで絵本ワークショップを企画し、実施しましたが、 この取り組みを終えた感想をお聞かせください」という自由記述について、考察の中で「子ど もたちの活動に取り組む姿はイメージしたものとは違い、その場に合わせた臨機応変に対応す る力が欠かせないと実感した。運営する側はどうしても活動を進めていこうという気持ちで周 囲が見えなくなってしまうため、全員で協力しあうことも重要であるため、ワークショップを 通じてこの㧞つの力が特に回答が多かったのではないかと考える。(中略)意見交換をするこ とで、ワークショップという活動は学生自身の学びにもつながることが分かった。(中略)企 画を決める時には、リーダーが中心となって全員が納得できる企画を作り上げるため、何度も 話し合うことが重要であると学んだ。多数派の意見ばかり尊重するのでなく、少数派の意見も きちんと聞き時間をかけて企画・内容を構成していくことが、より良い絵本ワークショップを 作り上げていく方法ではないかと考えた(後藤 2017)。」と述べている。後藤は2016年の絵 本ワークショップのファシリテーター役を務めており、その経験から、後輩の2017年企画を より客観的に観察しながら、当日の担当者としても参加した上でアンケートの分析を行ってい る。このことから絵本ワークショップにおいて臨機応変な対応力や共同性、コミュニケーショ ン能力、リーダーシップなどの力を身に付けることの重要性を述べている。 牧野、後藤の論文からも絵本ワークショップの取り組みは、状況を見通し自分で考えて行動 する力が育つことが分かる。学生は子どもにわくわくする体験を提供することで、保育実践力 が身に付くわけだが、そこには学生の主体性が大きく影響していることが分かる。この力が今 後の保育に必要な専門職スキルの向上に繋がっていくことを期待する。 このように、ゼミ活動として取り組んだ絵本ワークショップに面白さを感じ、それを卒論研 究のテーマとして取り組んでくれたことも学生の主体性の育ちとして評価したい。
Ǝᴫʆʩ๊ӦȾȝȤɞɬɹʐɭʠʳ˂ʕʽɺȺɁޙɆ ᴮᴫޙႆɁፎటʹ˂ɹʁʱʍʡȾߦȬɞឧ ⑴絵本ワークショップの取り組みに対して学生はどのように感じていたかについて知るため に2018年・2019年の学生へのアンケートの中で、企画への参加意識についての回答を求めた。 その結果、ゼミ活動として取り組むことについては、全員の学生が理解して取り組んでいるこ とが分かり、意欲的に取り組もうとしていたことが窺える。しかし、企画や準備段階において は、個々の事情により積極的に関われなかった学生があったようだ。 表㧝〈アンケート結果㧞〉 質問項目 2018年参加学生 㧥名 (回答者㧥名) 2019年参加学生 㧤名 (回答者㧢名) 絵本ワークショップの企 画をゼミ活動として取り 組むことに理解できまし たか よく理解できた あまりできなかった 全くできなかった 㧥名 㧜名 㧜名 よく理解できた あまりできなかった 全くできなかった 㧢名 㧜名 㧜名 企画や準備について 積極的に参加できた あまりできなかった ほとんど関われなかった 人任せになってしまった 㧤名 㧝名 㧜名 㧜名 積極的に参加できた あまりできなかった ほとんど関われなかった 人任せになってしまった 㧠名 㧞名 㧜名 㧜名 ḧǽࢳɁʫʽʚ˂Ɂʆʩ๊ӦɋɁျᜓȾȷȗȹɁᒲႏᜤᣖ ・実習以外で子どもと関わることが少ないため、絵本ワークショップができて本当に良かった。 絵本を題材として、ゼミ生と先生とともに㧝から作り上げることで、子どもの立場になって遊 びを考えることができていい学びになった。 ・大学生になって、何かに向かって皆と協力して取り組む機会が少なかったので、その経験が できたことは貴重だったと思う。また、役割分担することで自分の担当コーナーに責任感を持 つことができた。 ・絵本ワークショップを通じて、ゼミの仲間と協力して取り組むことができたと思う。 ・みんなで協力して企画し、それが成功してとても嬉しかったし、やりがいのある活動であっ た。 ・絵本を題材としてゼミの仲間と企画や準備をすることで、活動を企画すること、保護者と関 わること、仲間と協力することなど、実践的な学びを多くすることができたと感じている。絵 本を読むだけに終わらず、そこから活動を計画することができると知り、想像の膨らませ方や 活動の展開のやり方を学ぶ機会となった。 ・ゼミ生同士が協力し子どもが楽しめるよう企画し、子どもにどう楽しさを伝えていくかを考 えることができた。 ・ゼミの仲間と団結力が生まれるし、関わるきっかけになると感じた。
・絵本ワークショップを通して友達の意見をたくさん聞いて、より良い企画を考えたり、制作 することができた。様々な意見や発想を知ることができた。 ḨǽࢳɁʫʽʚ˂Ɂʆʩ๊ӦɋɁျᜓȾȷȗȹɁᒲႏᜤᣖ ・絵本ワークショップの企画について、ゼミの先輩からアドバイスを受けたりして、(先輩と) 関わることができてよかった。 ・絵本を読むだけでは伝わり切らないことも、遊びを通して子どもたちに伝えられたと思う。 ・絵本の内容から遊びのコーナーを作るという発想を知ることができたので、今後の実習にも 役立ちそうだと思った。 ・実践を通して子どもや保護者とのかかわり方を学び、経験を積んでいける。 ・ゼミとして行うことで、先輩の経験者ならではの指導を受けたり、仲良しメンバーだけでな い、普段はあまり関わることのできないゼミのメンバーと行うことの大変さがあったり、新た な考え方が生まれたなどの㧟年ゼミ生らしい活動ができた。 ・勉強になったことが多かった。企画を㧝から考えることの大変さ、協力プレー、話し合いす る力がついた。 このアンケートからも窺えるように、学生の取り組みへの意識から、学生は絵本ワークショッ プの実践を通して、目標達成のためには、仲間と協力して主体的に取り組むことが重要である ことを体験的に学ぶことができたと言える。㧠年生のサポートも大きな役割を示している。 ᴯᴫፎటʹ˂ɹʁʱʍʡȾȝȤɞɬɹʐɭʠʳ˂ʕʽɺȺɁޙɆ これまでの㧡年間を振り返ってみても、絵本ワークショップの実践は、学生にとってアクティ ブラーニングにおける主体的で対話的な深い学びが習得できているということが学生のアン ケートからも感じられた。ゼミ担当者主導でなく、学生が主体的に企画を考え実施していくた めには、学生間の連携や協力が不可欠となる。企画の方向性や準備作業の方法について、細部 まで意見をすりあわせ、計画的に実行して行かねばならない。その際に、起きる多少の摩擦や 段取りの悪さを、㧟年ゼミチームとしてどのように解決していくかは社会人として働く上での 共同性、協調性というものにも繋がっていくと思われる。対立する問題に対し、他人とうまく 付き合いチームワークを図りながら、問題を処理し、解決していく協調的問題解決能力の習得 である。 前述のように、絵本ワークショップにおいてはファシリテーター役が重要な役割を果たすこ とになる。企画を進める中で、ファシリテーターがリーダーシップを取りながら、学生相互の 自由な発想や意見をうまく引き出し、子どもにわくわくした活動を提供できるように、学生自 身が楽しく実践に向けた準備に取り組めるようにしていく必要がある。ファシリテーターは、 ともすれば、自分で作業を抱え込んでしまう方が効率が上がるかもしれないが、仕事の割り振
テーター役が困ったときには教員としてのアドバイスやサポートが必要となることは言うまで もないが、学生ができるだけ主体的な取り組みができるよう見守ることも大切な役目として自 覚している。 現在、筆者のゼミでは㧟年生は子育て支援センターでの実習・手作り絵本作り・絵本ワーク ショップの実施を大きな活動の軸としながら、アクティブラーニングにより学生の興味関心を 引き出し卒業研究の準備をしている。㧟年生になり新たなゼミが編成されて集まった当初は、 学生相互の交流も少なく、話し合いも盛り上がりに欠けるところがあるが、絵本ワークショッ プを機に確実にゼミの雰囲気が変化してくることを感じている。 それは、絵本ワークショップの実践過程において学修した「考え抜く力」「前に踏み出す力」 「チームで働く力」という社会人基礎力を身に付けるための視点である「何を学ぶか」「どのよ うに学ぶか」「どう活躍するか」に気付くとともに、絵本ワークショップをやり切ったという 達成感がゼミの雰囲気を一変させるのではないかと考える。絵本ワークショップの準備などで 一緒に作業をしたり、担当ブースで一緒に子どもとの対応をした経験から、「今まではなかな か会話できていなかったゼミ生と話ができるようになり、楽しかった。」と話す学生もいる。 計画通りにはいかないこともあるかと思うが、企画に積極的に関わることで、小さな失敗を重 ねながら問題解決を学ぶところも大きい。 このように、アクティブラーニングは、学生の実践力、協調性、共同性といった個々の学び ばかりでなく、集団の質的変化があると考えられる。絵本ワークショップの実践に向けて、皆 が同じ目的に向かって動くことで集団が育つ。絵本ワークショップはこのことを確信できる取 り組みであると考える ƏᴫɑȻɔ 㧡年前の初企画からみると、絵本ワークショップへの取り組み意識や取り組み方法が定着し てきたこともあり、教員が特別フォローしなくても学生が主体的に取り組める場面は多くなっ てきたが、チラシ配布に関する地域の幼稚園や保育所への依頼などは、学生には思いつかない 準備段階の作業であり、間際になって慌ててしまうこともある。今後はスムーズに実施できる ためのマニュアル作りなども検討していきたい。ゼミ担当者としてのアプローチの仕方や援助 の仕方にまだまだ課題はあるので、開催時期の設定や他のゼミ活動との関連も含め検討し、今 後の進め方にも工夫が必要と考えている。 第㧞回目からは㧟年生の実践に㧠年生がサポート役として参加してきたことで、ゼミ生の縦 のつながりが深まった。また、㧠年生は自らの経験から客観的に㧟年生の実践を見ることがで き、適切にアドバイスができるようになっている。積極的に後輩サポートをしている姿を嬉し く感じている。 最後に、毎回ありがちなエピソードを紹介する。ワークショップはいくつかの活動コーナー があっても、子どもが好きなコーナーでやりたい活動をじっくりできる環境であってこそ、楽
しめるものと考えている。筆者のゼミの絵本ワークショップでは毎回㧠から㧡程度のコーナー を作るので、どのコーナーに参加したかを確認し、子どもがスタンプをもらう楽しみも考えて スタンプラリーのカードを作っている。しかし、参加する親子を見ていると、子どもは気に入っ た遊びをもっとやりたいけれど、親はすべてのコーナーを回りスタンプを押してもらえるよう 子どもに促している様子が見られる。子どもはもっとやりたいとぐずってしまい、最後にはふ てくされた態度をとる子どもがいたりする。企画側としては、子どもが面白いと思って興味を もってもらえれば喜ばしいことなのでじっくり遊んでもらえれば良いし、一旦は場を離れても、 また戻って活動を続けてもらっても構わないと思っている。筆者は、ワークショップとは子ど もの活動を制限することなく、子どもが興味関心をもった活動を自由にじっくり楽しむもので あると考えているからである。そうした自由な活動の中で、子どもの感性や創造性を育んでい きたいと考えている。筆者はこうした、子どもと親の反応をじっくり観察しながら、子どもの 気持ちを理解し、臨機応変に対応していく実践力を学生たちに身に付けて欲しいと期待してい る。 いずれにせよ、子どもがわくわくするような企画を計画し実践をしていくためには、学生自 身が、絵本ワークショップの取り組みの意義を理解して楽しみ、主体的に取り組む意欲が必要 である。ゼミ活動としての絵本ワークショップが、主体的で対話的な深い学びのアクティブラー ニングとしての一定の成果を上げてきたことは学生アンケートからも読み取れた。将来多くの 学生が保育職、幼稚園教諭として社会に巣立つ時に身に付けて欲しい社会人基礎力(ジェネリッ クスキル)が、絵本ワークショップという目標に向けてゼミ仲間が協力して、企画・準備・実 践をする中で少しずつ育ってきていることも確信できた。学生一人一人の主体性だけでなく、 集団の質の高まりを感じられるようになってきたことも評価したい。㧡年間の絵本ワーク ショップの実践を振り返ることで、ゼミ集団の質的変化も感じとることができた。学生一人一 人の絵本ワークショップの取り組みの理解度の変化も感じられた。こうした変化により㧝回目 の実践に比べ確実にゼミ生の主体性は高まっていると感じている。 絵本ワークショップの企画内容や絵本のイメージからの展開方法は㧝つではない。絵本を読 み取る力、感性や創造力の違いがあることから様々な方法があると思うので、企画者からの一 方的な活動提供に終わらず、子どもがわくわくするような取り組みにしていくためには、主催 者側の柔軟な発想による企画と活動の展開が必要であると考える。学生にはそうした柔軟な発 想ができるような感性を育むとともに、心が豊かなになるような様々なことを学生時代に経験 して欲しい。こうした体験学習を基盤に、専門職としてのスキルが向上できるように生涯学び 続けてくれることを願っている。現場の保育の質を高めるために、養成校が質の高い保育士を 養成して現場に送り出す使命があると考える。そうしたスキルを高めていく㧝つの方法として、 絵本ワークショップでのアクティブラーニングを捉えたい。 名短付属幼稚園をはじめ、近隣の保育所からのリピーターも増え、毎回楽しみにしている親
*なお、写真については倫理的配慮として、毎回参加者にワークショップの記録と学生指導のため の研究に活用することを説明し、許可を取り撮影している。また、アンケートについては、桜花学 園大学の人を対象とする研究倫理審査会からの承認を受けていることを付記する。 ऀႊ୫စ ⑴ 牧野沙智 2015年 太田ゼミ卒業研究論文集 P. 20 ⑵ 後藤志保 2017年 太田ゼミ卒業研究論文集 P. 18 Վᐎ୫စˁՎᐎ୳ ・槇英子 仲本美央 瀧直也 松山恵美子「絵本でつくるワークショップ─体感しよう絵本の世界 ─」(萌文書林)2014 ・仲本美央 樋口正春:編著 読みあう活動研究会:著「絵本から広がる遊びの世界」(風鳴舎) 2017 ・中川素子 編「絵本ワークショップ」(朝倉書店) 2014 ・経済産業省産業経済政策室「人生100年時代の社会人基礎力について」(経済産業省) 2018 ・中央教育審議会「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて ∼生涯学び続け、主体 的に考える力を育成する大学へ∼」(答申) (文部科学省) 2012 ・上田敏丈 勝浦眞仁 加藤信子 加藤望 青木文美 上村晶 水落浩志 太田早津美「保育者養 成校におけるアクティブ・ラーニング活用の実態と課題に関する研究─日本保育士養成協議会研 究発表論文集を対象として─」(名古屋市立大学大学院人間文化研究科 人間文化研究第28号) 2017 (受理日 2020年㧝月㧢日)