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場面を導入する大過去形

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場面を導入する大過去形

著者

宮脇 玲奈

雑誌名

年報・フランス研究

50

ページ

63-76

発行年

2016-12-25

URL

http://hdl.handle.net/10236/00025487

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場面を導入する大過去形

宮 脇 玲 奈

0.はじめに

大過去形は,しばしば段落の冒頭で用いられることがある。このような大過 去形について,春木(2000)は「前提的背景を表わす大過去」という章で,次 のように述べ,(01)をあげている。 パラグラフが大過去で始まる場合があるが,そのような場合,映画で言うな ら場面転換が行なわれ,時間的に飛んだ部分を要約して示し,今から述べる事 態にスムースに読者を引き入れるために大過去が用いられているように思え る(1)

(01)Nous étions rentrés à l’hôtel. Edmondsson qui s’était tout de suite désha­

billée, ne portait plus qu’une chemise bleu ciel, largement ouverte, et se baladait dans la chambre sur la pointe des pieds, une brosse à dents dans la

bouche.

「僕達は部屋へ戻った。すぐに服を脱いだ E は,大きく開けたブルー のシャツだけを着て,部屋の中を歩き回っていた」

(Toussaint, J­Ph., La Salle de Bain in 春木 2002, 192) このような大過去形は春木(2000)に記述されているように「新たな場面の 導入が主たる目的」であると考えられるため,本稿では「場面を導入する大過 去形」と呼ぶことにする。

本稿では,場面を導入する用法が大過去形の基本的な働きに由来することを 示し,それにある種の表現効果が伴うしくみを明らかにすることをめざす。

本稿であげる発話例は,Patrick Modiano の Livret de famille(1977),Pour

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que tu ne te perdes pas dans le quartier(2015)と Anne Wiazemsky の Jeune fille (2007)から引用したものである。 以下では,先行研究を紹介し(1),大過去形の基本的な働きを確認し(2), 次に場面を導入する大過去形の発話例を分析し(3),最後にその大過去形に伴 う表現効果のしくみを明らかにする(4)。

1.先行研究

この章では,Imbs(1960)と春木(2000, 2014)の順に場面を導入する大過 去形にかかわる記述を紹介する。 1.1. Imbs(1960) Imbs(1960)はフランス語時制を体系的に扱った論考である。この論考で は,段落や物語の冒頭に現れる大過去形について次のように述べて,(02)を あげている。

En tant qu’imparfait composé, le plus­que­parfait peut marquer une action ac­ complie, qui sert de fond de décor au début d’un récit :(...)

(Imbs 1960, 124) (02)Tous s’étaient agenouillés dans les ténèbres de la chapelle. Les trois frères

Baillard remercièrent à haute voix la Vierge de la profusion des grâces qu’ils avaient trouvées à Tilly. (Barrès in Imbs 1960, 124) そして,このような用法は大過去形の基本的な働きから来ていると次のよう に述べている。

La notion d’antériorité apparaît dès cet emploi, puisque le plus­que­parfait y in­ troduit une série de verbes ultérieurs  : la fonction générale du plus­que­parfait temporel est donc de marquer les actions accomplies(et donc antérieures)au moment où surviennent une ou plusieurs actions nouvelles, avec lesquelles il est lié, par la volonté du locuteur, à titre d’élément d’une situation. Sa valeur est à

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la fois temporelle et situationnelle(2). 物語や段落の冒頭における使用が,大過去形の基本的な働きに基づくもので あるという点は,本稿の立場に通じるものである。しかしながら,本稿では, この大過去形は先行性を表わさないと考える。この用法の大過去形はインフォ ーマント調査したところ,単純過去形や複合過去形に置き換えることが可能で あることがわかった。大過去形を含めた三つの時制はいずれも新たな場面を導 入し,大過去形と単純過去形・複合過去形との違いはその場面における完了状 態にある事態を表しているところである。たしかに,“Les trois frères Baillard remercièrent(...)”からすると,大過去形で表された事態は時間的に先行して いることになるが,ここでの大過去形は新たな場面における状況を表している だけであって,次の事態に対して時間的に先行している事態として用いられて いるわけではないと考えられる。 1.2. 春木(2000, 2014) 1.2.1. 春木(2000) 春木(2000)では,「前提的背景を表わす大過去」として場面を導入する大 過去形を取り上げており,この用法の特徴として,「時間的に飛んだ部分を要 約する」や「物語の事態にスムースに読者を引き入れる」といった表現効果を 伴うことを指摘している。また,単純過去形にも場面転換を表す用法があると 指摘しており,その違いは次のようである。 単純過去で始まっても場面転換を示すことができるのは同じであるが,単 純過去は単に話の進行の一段階を示すだけであり,いわば場面転換により 話を進行させているだけであるのに対して,大過去の場合は,(付随的に) 話が進行するのはもちろんだが,それよりも新たな場面の導入が主たる目 的であり,大過去の使用によりその場面への導入を要約によってスムース なものにしているのである(3) 春木(2000)では,これ以上詳しいことについては触れられていない。 場面を導入する大過去形 65

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1.2.2. 春木(2014) 春木(2014)は,「場面を導入する大過去形」を論じたものではないが,中 村(2009)が提唱する認知モードの観点から大過去形の振る舞いを考察した重 要な論考である。この認知モードは D モードと I モードに分けられ,春木 (2014)は,D モードは「認知主体が認知対象である事態を外部からいわばメ タ認知的に把握する認知モード」であり,I モードは「認知主体が認知対象で ある事態を自らも認知領域の中にあって(身体的)インタラクションを通して 把握する認知モード」であると説明し,半過去形と大過去形を後者に分類して いる。 この論文では,半過去形・単純過去形・複合過去形,それぞれを基調とする テキストを扱い,時間的先行性を表わさない大過去形の働きを考察している。 半過去形を基調とするテキストでは,春木(2014)は Le Clézio の Mondo の分析に基づいて,大過去形が I モード的な語りにおいて事態を前景化する働 きがあることを指摘し,次のように述べている。 本来は事態が成立したことを表わす完了的な時制を用いることで,事態が より輪郭が明瞭で,より個別的なものとして把握され,際だちの高い事態 として提示されることになり,事態を前景化することができるからであ る(4) 単純過去形と複合過去形のそれぞれを基調とするテキストにおいても,大過 去形が事態を前景化する働きを持つことを指摘している。

(03)Nous nous arrêtions devant les vitrines des magasins. Nous nous attardâmes devant une bijouterie, entrâmes dans un café. C’était un établissement décoré de boiseries. Dans la salle sombre, assises sur des chaises en velours, des vieilles dames mangeaient des sorbets avec de longues cuillères, bu­ vaient du thé, des chocolats. Elles parlaient de manière feutrée. Edmondsson avait ouvert la carte devant moi. Je ne voulais rien boire, rien manger. La serveuse attendait devant la table. Comme sa présence me pesait, je com­ mandai une dame blanche−pour qu’elle s’éloignât.

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(Toussaint, J-Ph., La Salle de Bain in 春木 2014, 24) (03)では,カフェの様子が半過去形で書かれ,その中で「Edmondsson がメニ ューを開く」という行為が大過去形で書かれている。この大過去形について, 春木(2014)は時間的先行性で用いられているというわけではないと指摘し, 認知モード的な考えに基づいて次のように述べている。 単純過去で書かれて D モード的だった語りが,二人がカフェに入ってカ フェの様子が半過去で書かれた時点で I モード的に変化したのである。主 人公達と読者はいわばカフェという空間に共にいるのである。その物語の 中の現在においては,他の事態と差別化される必要のある事態は,大過去 で書くしかないのである(5) (03)の他にも大過去形の例をあげているが,大過去形はいずれも I モード的 な語りにおいて事態を前景化するという機能を持っていることを指摘してい る。 このように,春木(2014)では時間的先行性を表わさない大過去形の発話例 を分析している。本稿で扱う「場面を導入する大過去形」も 1.1. で述べたよ うに,時間的に先行した事態を表すために用いられているのではないため,時 間的先行性を表さない大過去形であると考えられる。

2.大過去形の基本的な働き

大過去形の働きを考察するには,曽我(2015)の記述が有効であると考え る。 完了用法と先行用法を支える大過去の基本的機能は「過去スペースまでに 行為が完了していること(=過去スペースまでに行為の開始から終了まで の全過程が実現していること)」を表すことであると考えられる(6) また,曽我(2015)において「過去スペース」という用語は,次のような文 によって導入されている。 その意識(7)を保ったまま,なんらかのきっかけである過去の場面(以下, 場面を導入する大過去形 67

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「過去スペース」)を想起してそこにいる気持になることがある(8) つまり,大過去形は,話し手が過去スペースにいる気持ちになって,それま でに完了した事態として捉える時に用いられる時制なのである。このような時 制の捉え方は春木(2014)の時制の捉え方と次のように対応しており,ほとん ど同じであると言える。 春木(2014) 曽我(2015) 認知主体 = 話し手 認知領域 = 過去スペース (身体的)インタラクション そこにいる気持ちになって = を通して事態を把握 事態を捉える 本稿では曽我(2015)の考えに基づいて,大過去形の基本的な用法を確認す る。(04),(05)は,それぞれ完了用法と先行用法の例である。

(04)Le lendemain matin, encore à moitié endormie, je rejoignis Robert Bresson dans la salle à manger. Il avait achevé son petit déjeuner et s’apprêtait à se rendre sur le lieu du tournage. (Anne Wiazemsky, Jeune fille, 130) (05)Mon frère a eu la sacoche de voyage et l’a toujours. Mais notre mère,

au-paravant, l’avait vidée de son contenu.

(Anne Wiazemsky, Hymnes à l’amour, 19) (04)では,語り手 Anne は出来事“je rejoignis(...)”をきっかけに,過去ス

ペースを開き,そこにいるような気持ちになって,「Robert Bresson が朝食を 食べ終えている」状態を捉えている。(05)では,語り手は“Mon frère a eu (...)”という出来事をきっかけに過去スペースを開き,そこにいる気持ちにな って,それよりも前に起こった出来事として“notre mère, (...),l’avait vidée (...)”を捉えている。

本稿で扱う場面を導入する大過去形も同様に,大過去形の基本的な働きで説 明できると考えられる。次章では,場面を導入する大過去形の実例を分析し, 大過去形で新たな場面を導入することでどのような表現効果を伴うのかを明ら

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かにする。

3.発話例の分析

場面を導入する大過去形には(06)−(10)のような例がある。はじめに, (06)−(08)の表現効果を考察する。

(06)Il était arrivé sous les arcades du Palais-Royal. Il avait marché sans but précis.

Mais, en traversant le pont des Arts et la cour du Louvre, il suivait un it-inéraire qui lui était familier dans son enfance. Il longeait ce qu’on appelle le Louvre des Antiquaires et il se souvint, au même endroit, des vitrines de Noël des Grands Magasins du Louvre.

(Patrick Modiano, Pour que tu ne te perdes pas dans le quartier, 76) (07)(Mag Bodard が Jean-Luc Godard を連れて昼食を食べに来ていて)

En bafouillant et d’une voix un peu perchée, Jean-Luc Godard avait d’em-blée exprimé sa curiosité à l’égard du film que nous étions en train de tourner. Il en aimait les thèmes, l’histoire. Lier les destins tragiques d’un âne et d’une jeune fille lui semblait une idée très émouvante et très poétique. Robert Bresson l’écoutait en silence, se contenant de hocher de temps en temps la tête en signe d’assentiment. Il avait cet air bien élevé et innocent que j’avais appris à déchiffrer et qui signifiait l’étendue de son ir-rémédiable ennui.(...)Alors il(9)évoqua ses lectures et plus longuement

Michaël, chien de cirque. (Anne Wiazemsky, Jeune fille, 188) (08)(Modiano の母が若かった頃の話。プロデューサー Openfeld 親子の映

画に出演することになる。)

Au début du film, elle jouait toute seule pendant une séquence. Elle rangeait sa chambre en chantant et elle répondait au téléphone. Félix Openfeld, qui assurait la mise en scène, avait décidé de suivre l’ordre chronologique de

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l’histoire.

Le premier jour de tournage avait été fixé le vendredi 10 mai 1940 aux stu-dios Sonor de Bruxelles. Ma mère s’y trouverait à dix heures et demie du matin.

Comme elle habitait Anvers, elle prendrait le train très tôt.

La veille, elle reçut une avance sur son cachet grâce à laquelle elle acheta une jolie mallette de cuir et des produits de beauté d’Elizabeth Arden.

(Patrick Modiano, Livret de famille, 51) (06)の前の段落は,主人公 Jean Daragane に近づいてくる二人の男女に疑念 を抱くところで終わり,一行空白を設けて,新たな場面を大過去形によって導 入している。それは,馴染みのある通りを歩いていて,子供の頃のある記憶を 思い出す場面であり,大過去形で表された事態はその場面に至るまでの背景的 な事態を表している。 語り手は Il が「子供の頃を思い出す」場面を想起し,その場面にいる気持 ちになって,事態“Il était arrivé(...).”と“Il avait marché(...).”を捉えてい る。ここでは過去スペースが「子供の頃を思い出す」場面であり,大過去形で 表された事態はその場面までに既に完了状態にある背景的な事態を表してい る。続く半過去形で表された事態は新たな場面での主人公 Il の行為として描 かれており,その場面までにあった事態を大過去形で説明的に描写しているの である。 (07)の段落は Mag Bodard が昼食の雰囲気をよくしようと努めている場面 であるが,“En bafouillant(...)”で新たな場面(「Jean Luc Godard が Robert Bresson に相手にされていない」場面)を導入している。

ここでは,“Jean-Luc Godard avait d’emblée exprimé(...)”という事態を,語 り手が新たな場面にいるような気持ちになって,その場面において既に完了状 態にある事態として表している。続く半過去形で描かれる Robert Bresson の態 度は新たな場面において語り手が眺めている事態として描かれており,大過去 形で表された事態はそれまでにあった事態を説明的に描写しているのである。

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(08)の“Au début du film,(...)”の段落は Modiano の母が出演する映画の 冒頭にかかわることが書かれているが,次の段落から映画の撮影日にかかわる ことが書かれている。

ここでは,語り手は,大過去形によって表された事態を語りの場において既 に完了状態にあるものとしてみなしており,“le vendredi 10 mai 1940”をきっ かけにその日の母の予定を思い描いている。この段落は大過去形によって既に 決められていた事態を描き,撮影日の予定を過去未来形によって描くことで, 次の段落で描かれる「撮影日の前日」の場面に関わる背景的な事態を表し,新 たな場面の準備をしているといえる。 次に,(09)−(10)の表現効果を考察する。 (09)(Anne が映画の製作に関われるのは新学期が始まるまでと決まってい た。最後の日,Anne はこれまでの日々を名残惜しんでいた。) Je l’avais entendu garer sa voiture dans la cour et je le regardais avancer vers moi. Son allure et sa démarche assurée avaient quelque chose de triomphant.

Comme cela lui arrivait parfois, Robert Bresson avait changé d’âge et c’est presque un jeune homme qui se glissa à mes côtés, sur le banc.

- Trois semaines! dit-il aussitôt. Et devant mon air ahuri :(...)

(Anne Wiazemsky, Jeune fille, 206) (10)Des assistants étaient dissimulés derrière des buissons. Ils devaient effrayer

l’âne pour l’obliger à surgir, comme guidé par la mémoire, dans le parc où il avait été heureux jadis quand il était un ânon choyé par Jacques et Marie enfants.

Diriger Balthazar, s’en faire obéir, s’était immédiatement avéré une tâche très compliquée qui avait mis les nerfs de toute l’équipe à rude épreuve. Comment le faire braire au bon moment et à la bonne place ? Car, pour braire, Balthazar savait braire, on l’entendait à des kilomètres et plusieurs plans avaient été interrompus à cause de lui.(...)

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Ce fut l’ingénieur du son Antoine Archimbaud qui trouva la solution en se débrouillant pour enregistrer loin de nous les braiments de Balthazar.

(Anne Wiazemsky, Jeune fille, 140) (09)では,前の段落のあとに一行空白を設け,大過去形によって新たな場面

を導入している。語り手 Anne は語りの現在において「滞在期間が延びたとい う報告を受ける」場面を想起して,そこにいる気持ちになっている。そして, その場面につながる出来事“Je l’avais entendu(...)”を振り返り,あらためて 「滞在期間が延びたという報告」にいたるまでの記憶を辿っている。 (06)−(08)と違って出来事に立ち会っているような印象を伴うのは,enten-dre という知覚にかかわる動詞が用いられることによって,駐車する音が聞こ えてくる感じを伴い,その出来事に立ち会っているような気持ちになるからだ と考えられる。 さらに,この前の場面では,主人公 Anne はまだ映画に関わっていたいの に,帰らないといけないことになっていた。そのため,彼女にとって「滞在期 間が延びたという報告をうけること」はとても重要な出来事であり,“Trois semaines! dit-il aussitôt.”を最初の出来事として際立たせるには,それまでの事 態を半過去形・大過去形で描く必要があるのだと考えられる。

(10)の“Diriger Balthazar,(...)”までの話は,バルタザール(ロバ)を驚か せるために待機している場面であるが,次の段落ではバルタザールに悩まされ る話が書かれており,新たな場面に転換している。

語り手 Anne は語りの場において「バルタザールの問題が解決する」場面を 想起し,その場面より前に起こった事態“Diriger Balthazar, (...),s’était im-médiatement avéré(...)”までさかのぼって,もう一度その事態に立ち会って いるような気持ちになり,次の段落の事態“Ce fut l’ingénieur(...)”までの記 憶を辿っている。そして,ここでも出来事として捉えられるのは immédiate-ment という急速完了を表す副詞によって,事態が起こることが意識されるた めであると考えられる。また,この例も(09)と同様に,大過去形によって導 入された場面において,解決策を見つけるという事態は最も重要な出来事であ

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り,これを最初の主要な出来事にするには,大過去形・半過去形によって,そ こに至るまでの事態を背景的に描く必要があるのである。

4.場面を導入するしくみ

3 章では,段落の冒頭で用いられる大過去形には,「導入する場面に立ち会 っているような効果」,「説明的な効果」,「出来事に立ち会っているような効 果」の三つの表現効果を伴うことが明らかになった。これらの表現効果を伴う しくみをこの章では,明らかにする。 「導入する場面に立ち会っているような効果」は,大過去形が過去スペース における事態を表すという特性と大過去形の基本的な働きに由来する。これら から,読み手は大過去形で表された事態を,導入する場面にいるような気持ち になって,新たな場面あるいは主要な出来事に至るまでの背景的な出来事とし て捉えることができるのだと考えられる。つまり,読み手はそれまでの背景的 な出来事を踏まえた上で新たな場面に位置することができることから,新たな 場面に立ち会っているような表現効果を伴うのだと考えられる。 「説明的」な効果は,大過去形の基本的な働きに由来する。(06)−(08)の大 過去形で表された事態は,導入する場面において既に行為が完了した状態にあ ることを表しており,その場面に至るまでの背景的な事態を描いている。その 結果,場面の説明をしていると捉えられるのだと考えられる。 「出来事に立ち会っているような効果」を伴うのは,3 章でも述べたように entendre のような知覚動詞や immédiatement のような副詞が用いられているこ とも出来事として捉えられていることに関係していると考えられる。また, (09),(10)の大過去形は,単純過去形で表されている出来事に付随するそれ までに完了した事態を表している。さらに,大過去形の特性により,語り手は 導入する場面にいる気持ちになって,その出来事に至るまでの事態を振り返 り,もう一度その事態に立ち会っているかのように事態を捉え直していると考 えられる。したがって,大過去形を用いることによって,読み手は,その事態 場面を導入する大過去形 73

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に立ち会い,主要な出来事に至るまでの事態を追っているような気持ちになる のだと考えられる。 また,インフォーマントによれば(06)−(10)は全て「語り手の意識」が感 じられるということであった。これは,大過去形を用いるとき,語り手が導入 する新たな場面にいる気持ちになって,事態を捉えることと関係している。つ まり,導入する場面において,既に完了状態にある事態を捉えている,あるい はさらに前の時期にさかのぼるという語り手の意識的な動きがあるからだとい える。

5.おわりに

本稿の目的は,場面を導入する用法が大過去形の基本的な働きに由来するこ とを示し,それにある種の表現効果が伴うしくみを明らかにすることであっ た。表現効果はそれぞれ「導入する場面に立ち会っているような効果」,「説明 的な効果」,「出来事に立ち会っているような効果」であり,これらの仕組みは 次のようにまとめられる。 (11)a. 導入する場面に立ち会っているような効果 大過去形が過去スペースにおける事態を表すという特性と大過去形 の基本的な働きから由来する。導入する場面にいるような気持ちに なって,そこに至るまでの事態を踏まえることができることから伴 う表現効果である。 b. 説明的な効果 大過去形が新たな場面において既に完了した行為を表し,その場面 に至るまでの背景的な事態を表すことができることから伴う表現効 果である。 c. 出来事に立ち会っているような効果 大過去形の基本的な働きと過去スペースにおける事態を表す時制で あることから,主要な出来事よりも前に起こった出来事を振りかえ 74 場面を導入する大過去形

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り,事態を捉え直しているような気持ちになっていることから伴う 表現効果である。 (11 b)は,それぞれ春木(2000)の「時間的に飛んだ部分を要約して示し, 今から述べる事態にスムースに読者を引き入れる」と関係していると考えられ る。(11 b)では,大過去形が新しい場面に至るまでの背景的な事態を表すこ とから「時間的に飛んだ部分を要約して示」すのであり,導入される場面に至 るまでにあった背景を読者は知ることができるため,「今から述べる事態にス ムースに読者を引き入れる」ことができるのだと考えられる。 場面を導入する大過去形の例のほとんどは「説明的な効果」を伴うことが多 く,出来事として事態を表す例は(09)と(10)の二例だけであった。これら の例から,「出来事に立ち会っているような効果」を伴うには,entendre のよ うな知覚動詞あるいは immédiatement のような副詞が必要ではないかと推測さ れるが,これに関しては,まだ引き続き検討が必要である。また,今回は,前 の段落とは時間的に飛んだ場面を導入する大過去形に考察をかぎったが,今後 は,章や物語の冒頭に出てくる大過去形も合わせて段落の冒頭に出てくる大過 去形の働きを検討していきたい。 注 ⑴ 春木(2000, 192) ⑵ Imbs(1960, 124) ⑶ 春木(2000, 193) ⑷ 春木(2014, 23) ⑸ 春木(2014, 26) ⑹ 曽我(2015, 189) ⑺ 「その意識」とは「話し手は,発話時点を中心とする現在という広がりにいると いう意識をもっている」(曽我 2015, 183)を踏まえた表現である。 ⑻ 曽我(2015, 183) ⑼ Il とは Jean-Luc Godard のことを指す。 参考文献 朝倉季雄(2002)『新フランス文法事典』白水社. 場面を導入する大過去形 75

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曽我祐典(2015)「過去のことを表すフランス語時制」『人文論究』65-1, 183-201. 西村淳子(2015)『フランス語時制論』春風社. 春木仁孝(2000)「現代フランス語の大過去のテンスとアスペクト」『言語文化研究』 26, 179-197. 春木仁孝(2007)「スキャニング操作と単純過去」『言語文化研究』33, 81-101. 春木仁孝(2014)「フランス語の時制と認知モード 時間的先行性を表わさない大過 去を中心に」春木仁孝・東郷雄二編『フランス語学の最前線 2』ひつじ書房,1-44.

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Nathan.

IMBS, P.(1960),L’emploi des temps verbaux en français moderne, Paris, Klincksieck.

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例文出典

MODIANO, P.(1977)Livret de famille, Gallimard.

MODIANO, P.(2015)Pour que tu ne te perdes pas dans le quartier, Gallimard.

WIAZEMSKY, A.(1966)Hymnes à l’amour, Gallimard.

WIAZEMSKY, A.(2007)Jeune fille, Gallimard.

(文学研究科博士課程後期課程) 76 場面を導入する大過去形

参照

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