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インドの大学図書館における災害計画 (特集 災害と図書館)

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Academic year: 2021

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(1)

インドの大学図書館における災害計画 (特集 災害

と図書館)

著者

トリシャンジット カウール

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

210

ページ

36-39

発行年

2013-03

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003754

(2)

●インドにおける災害

  インドは、国土面積では世界第 七位(三二六万二二六三平方キロ メ ー ト ル )、 人 口 で は 世 界 第 二 位 ( 一 二 億 人 ) の 国 で あ る。 南 ア ジ ア に 位 置 し、 三 方 を ア ラ ビ ア 海、 インド洋、ベンガル湾に囲まれて いる。北にはヒマラヤ山脈が連な る。   インドは、 その自然地理的条件、 土地の特性、気候条件により、世 界で最も災害に見舞われやすい国 の一つとなっており、様々な種類 の自然災害にさらされている。こ れまで数々の災害を経験し、数千 もの人命が失われ、数百万人が家 を失い、人々の財産に多大な損害 が生じている。言うまでもなく災 害には自然災害だけでなく、人為 的災害が含まれる。 ◦  地震…インドは過去二〇年間で 一〇回の大地震を経験し、三万 五 〇 〇 〇 以 上 の 人 命 が 失 わ れ た。国土面積全体の約五八%の 地域が中程度から非常に高い震 度の地震が発生する危険にさら されている。ヒマラヤ山脈では 常に地殻変動が起きており、そ の結果として地震や地滑りが頻 発している。 ◦  洪水…ヒンドスタン平野では毎 年洪水が起きており、例年、数 千人が命を堕とし、数百人が家 を失い、八〇〇万ヘクタールの 農地が被害に遭っている。イン ドでは年間降水量の七五%がモ ンスーンの季節(六〜九月)に 集中している。そのため、この 時期にはほぼ全ての河川が増水 し、 土 砂 堆 積、 排 水 路 の 氾 濫、 土地の浸水が発生している。四 〇〇〇万ヘクタールの土地が洪 水に対し脆弱であり、毎年三〇 〇〇万人が洪水の影響を被って いる。洪水は乾燥地帯や半乾燥 地帯では深刻な干ばつをも引き 起 こ し て い る。 ( 国 土 面 積 の 約 一二%が洪水の起こりやすい地 域となっている。 ) ◦  サイクロンと津波…インドには 約八〇〇〇キロメートルの長い 海岸線があり、海岸線全域が津 波、サイクロン、高波、高潮な どの危険にさらされている。平 均して毎年五〜六回トロピカル サイクロンが直撃しており、そ のうち二〜三回は非常に激しい ものである。ベンガル湾でのサ イクロンの発生数はアラビア海 の約四倍である。毎年、東海岸 は サ イ ク ロ ン や 津 波 の 被 害 に 遭っている。オリッサスーパー サイクロン(一九九九年)やイ ンド洋大津波(二〇〇四年)で は数千人の命が奪われ、農地は 荒廃し、何十万人もの人々が家 を失った。最近ではチェンナイ のマドラス大学図書館が二〇〇 四 年 の 大 津 波 に よ る 被 害 に 遭 い、 水 害 が 報 告 さ れ て い る [ A m er ic an L ib ra ry A ss o cia -tion 2005 ]。 ◦  その他…火災、 干ばつ、 地滑り、 寒波、鉄道・航空・交通事故な ど で も 多 く の 犠 牲 が 出 て い る。 火災は図書館を跡形もなく破壊 してしまう可能性がある。例え ば、インド国内のナーランダ大 学およびタキシラ大学の図書館 やアフガニスタン、イラクの図 書館は、火災により破壊された 図書館の事例である。

 インドにおける災害管理:

制度的枠組み

  災害の発生頻度と激しさは深刻 さを増しており、政策立案者や行 政当局は、制度面や政策面の枠組 みを再検討し、インドにおける総 合的な災害管理の新たな枠組みを 構築することを迫られている。   二〇〇五年にインド議会で可決 された「災害管理法」により、災 害管理の包括的な法的・制度的枠 組みが構築され、 二〇〇九年に 「国 家災害管理政策」が承認された。   災害管理法(二〇〇五年)の要

災 害 と 図 書 館

(3)

点は次のとおりである。 ⑴  国レベル、州レベル、県レベル で、それぞれ「国家災害管理局 (NDMA) 」、「州災害管理局 (S D M A )」 、「 県 災 害 管 理 局( D DMA) 」を設置。  ⑵  「国家災害対応部隊 (NDRF) 」 を編成。 ⑶  緊急時のための「国家災害準備 基金」と「州災害準備基金」を 設置。 ⑷  災害の被害軽減や応急措置に対 する出資者を取りまとめるため の「国立災害軽減研究所(NI DM)を設立。 ⑸  災害時の救助、復興、リスク軽 減の取り組みへの企業やNGO など多様な出資者の参加呼び込 み。 ⑹  NDMAの下に、内務大臣を委 員長として災害軽減に関する各 省庁の職務を監視、調整、監督 す る 中 央 執 行 委 員 会( N E C ) の設立。 ⑺  州レベルの救済および復興の担 当省庁を改称して 「災害管理省」 と し、 災 害 軽 減、 リ ス ク 軽 減、 防災準備、応急措置を所管。   NDMAは、一般市民の防災訓 練、 各 種 消 火 器、 消 防 士 の 訓 練、 都市における洪水管理などに関し て二〇一二年に数々の有益な文書 を刊行している(文末の文献一覧 を 参 照 さ れ た い )。 他 方 で、 災 害 管理法(二〇〇五年)や国家災害 管理政策(二〇〇九年)には、図 書館、博物館、公文書館等の防災 計画については一切言及されてい ない。それらの災害管理は州、 県、 地域の当局に委ねられているのと いうのが現状である。

 インド国内の大学図書館に

おける災害対策

  三五の州および連邦直轄領のう ち二七が災害の起こりやすい地域 で あ る。 化 学 攻 撃 や テ ロ 攻 撃 と いったその他の災害について予測 される脅威も加えると、インドの 国土全体が脆弱であり、早急な対 応と持続的な取り組みが求められ る[ Bhandari 2006 ]。インドは 高等教育のパイオニアであること を誇りとしており、約五五〇校も の大学がある。多くの大学図書館 は、図書、雑誌、学位論文、報告 書のほかにも、自筆稿本やその他 の希少文書など貴重な蔵書を揃え ている。災害は、どこでも、いつ でも前触れなく起こりうるもので あり、災害管理政策がない場合に はとりわけ甚大な永続的損失をも たらす可能性がある。学校は災害 に対して非常に脆弱であり、イン ドでは地震により人命や財産が失 われた事例が発生している。学生 や教員への防災訓練の取り組みが なされている。詳細は「災害管理 情 報 シ ス テ ム 」 ウ ェ ブ サ イ ト ( h tt p :/ /w w w .s ri st i.o rg /d m is / school_project ) を 参 照 さ れ た い。   本 稿 の 執 筆 に あ た り、 「 高 」 か ら「最高」の地震危険区域に所在 する大学一五校の大学図書館職員 に 無 作 為 で 電 話 で 連 絡 を 取 っ た。 その中で、災害計画を設けている 大学図書館はなく、消火器が設置 されているのみであった。図書館 職員への訓練は、消火器の設置時 に行われただけで、継続的には実 施されていない。防災訓練が過去 に実施されたことはない。大学図 書館職員等は、大学図書館の災害 計画に関して無頓着な様子であっ た。一部の大学図書館では煙・火 災 警 報 機 す ら 設 置 さ れ て お ら ず、 これまで何事もなかったので必要 ないと考えているようである。現 状を当然のこととみなすため、無 関心になってしまうのだ。大学図 書館員等は、大学内の他の部署で は災害管理のワークショップや訓 練を実施していると堂々と述べて いた。インド国内の大学図書館の ウェブサイトで災害計画に関する 情報がほとんど掲載されていない のは、このためである。   図書館情報学の文献、ウェブサ イト、非公式の情報源、大学図書 館職員への聞き取り調査での回答 な ど か ら 得 ら れ た 情 報 に 基 づ き、 インド国内の大学図書館はそれぞ れの図書館での災害計画を重要視 していないことが判明した。建物 に は 消 火 器 が 設 置 さ れ て い る が、 実際に使用されたことも、訓練に 用いられたこともない。こうした 訓練は存在しないに等しく、優先 順位の最後尾に追いやられている のである。残念ながら、 災害管理、 災害(緊急)計画、防災計画、リ スク評価・管理といった言葉を知 識の管理者たる図書館職員は、耳 にしたことがない。こうした分野 にはインドにおける図書館情報学 のカリキュラムでも十分な重要性 がおかれておらず、その結果、図 書館情報学を専攻する学生やその 教員の災害管理に対する意識の欠 落を招いている[ Kaur 2009 ]。   し かし 、 例 外 も あ る 。 イ ン ド 工 科 大 学 マ ド ラ ス 校 の 図 書 館 は 、 災 害 計 画 が 策 定 さ れ 、 実 施 さ れ て い

インドの大学図書館における災害計画

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。 い く つ か の 特 長 を 停 電 電 源 装 置 が 用 意 ま た 火 災 警 報 器 が 各 て お り 、 職 員 が そ の 練 を 受 け て い る 。 図 象 と し た 防 災 訓 練 も る 。建 物 外 に は 消 火 て い る 。 ま た 、 ユ ニ ー テ ムと し て 、 洪 水 等 に 、 安 全 な 場 所 に 水 高 さ 約 一 メ ー ト ル の た 水 路 が 設 け ら れ て の 電 子 セ キ ュ リ テ ィ シ て い る 。 図 書 館 内 に 方 に 関 す る ガ イ ド ラ れ て い る 。 ま た 、 非 切 ら な け れ ば な ら な の ス イ ッ チ で こ れ を 行 る 単 一 ス イ ッ チ 制 御 も る 。 こ う し た 種 類の ゆ る 図 書 館 で 行 わ れ 待 さ れ る 。 詳 細 は 、 .o rg /H ar is hC ha n dr a. れ た い 。 め て い る。 し か し、 災害管理に関する教育を行ってい る。 「国内災害知識ネットワーク」 が、重要な図書館や災害リスク削 減に関わる機関やインドや世界の データベースをつなげる「ネット ワークのネットワーク」として構 築されることが模索された。この ネットワークは、サイバースペー スを通じて、知識を伝えて市民の 認識を高めたり、知識を基盤とし た取り組みを確立したり、防災訓 練プログラムを推進したりするこ とを目的としている(大きな可能 性を持つこのネットワークは未だ 構築の途上にあるため、残念なが ら 詳 細 な 情 報 は 得 ら れ な い ) [ N a tio n a l D is a st e r M a n a g e -m en t G u id eli n es -N at io n al D i-sa st er M an ag em en t In fo rm a-ti o n  a n d  C o m m u n ic a ti o n  System (NDMICS) 2011 ]。

●終わりに

  大学認定委員会は、大学を束ね る最高機関である。この大学認定 機関が全大学図書館に対して災害 計画の策定を義務づけるべきであ る。また、大学当局が災害計画の 策定および実施を取りはからわね ばならない。さらに、 図書館職員、 大学のエンジニア、建築士、そし て自校の図書館ですでに災害計画 を実施している専門家といえる図 書館職員などで構成されるチーム を編成して計画を策定するべきで ある。新規の建物であれば建設時 にこれを念頭に置くことができる が、すでに稼働している大学図書 館については、計画を策定し、そ の計画を字義上においても精神に おいてもしかるべく実施すべきで ある。図書館職員が定期的に訓練 を受け、防災訓練では図書館職員 のみならず、教員や学生も参加し て、緊急事態が起きた場合につい て認識させるようにしなければな らない。   インドにおける図書館と情報の 専門職員は、専門家の意見を聞い て、自校の図書館の災害計画を策 定する責任を負うべきである。図 書館協会がワークショップやセミ ナーを開催して、この見落とされ てきた分野の重要性に光を当てる ことが求められる。 ( T rishanjit Kaur / パ ン ジ ャ ー ブ 大 学図書館情報学部教授) 《参考文献》 ① A m er ic an L ib ra ry A ss o cia -tio n 2 0 0 5 . “S o u th A sia n li -b ra rie s h it h a rd b y ts u n a -m i” , A m e ri c a n L ib ra ri e s,  a va ila b le a t: w w w .a la .o rg / a la /a lo n lin e /c u rr e n tn e w s/ n ew sa rc h iv e/ 2 0 0 5 ab c/ ja n u -ary2005ab/tsunami.htm (ac -cessed April 5, 2007). ② B h a n d a ri, R . K . 2 0 0 6 . D i-saster management in India-a n e w a w a k e n in g . h tt p :/ / w w w .v itc d m m .o rg /jo u rn a l_ o n _d is a st er s. p d f (a cc es se d  A ugust 22, 2009). ③ Graham Matthews and, P aul  E d en 1 9 9 6 . “D is as te r m an -ag em en t tr ai n in g in li b ra r-ies ”, Library Review , V ol.45  Iss:1 pp.30-38. ④ N a tio n a l D is a st er M a n a ge -m en t H an d B o o k fo r T ra in -ing and Capacity Building of  Civil Defence and Sister Or -ga n is at io n s-A p u b lic at io n o f th e N at io n al D is as te r M an -ag em en t A u th o rit y, G o ve rn -ment of India. 2 parts, 2012  ISBN: 978-93-8044-02-6. ⑤ N a tio n a l D is a st er M a n a ge

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-m en t G u id el in es S ca lin g , T y p e o f E q u ip m e n t a n d  T ra in in g o f F ir e S er vic es A  p u b lic at io n o f th e N at io n al D is a st e r M a n a g e m e n t A u -th o rit y, G o ve rn m en t o f In -d ia . A p ril 2 0 1 2 IS B N : 9 7 8 -93-80440-13-2. ⑥ N a tio n a l D is a st er M a n a ge -m en t G u id el in es - N a tio n a l D is as te r M an ag em en t In fo r-m at io n a n d C o m m u n ic at io n  S ys te m ( N D M IC S ) 2 0 1 1 . A  p u b lic at io n o f th e N at io n al D is a st e r M a n a g e m e n t A u -thority ,Government of India  ISBN: 978-93-80440-12-5,  F ebruary 2012, New Delhi. ⑦ N a tio n a l D is a st er M a n a ge -m en t G u id el in es : M a n a g e-m en t o f U rb an F lo o d in g. A  p u b lic at io n o f th e N at io n al D is a st e r M a n a g e m e n t A u -th o rit y, G o ve rn m en t o f In -d ia . IS B N : 9 7 8 -9 3 -8 0 4 4 0 -0 9 -5 ,S ep te m b er 2 0 1 0 ,N ew  Delhi. ⑧ P e tr o s K o st a g io la s, I lia n a A ra ka , R o xa n a T h eo d o ro u , a n d G e o rg e B o k o s 2 0 1 1 . “D is a st er m a n a ge m en t a p -p ro a ch e s fo r a ca d e m ic l i-b ra rie s: a n is su e n o t to b e n e g le ct e d i n G re e ce ”, L i-br a ry M a n a ge m en t, V o l.3 2  Iss:8 pp.516-530. ⑨ Role of Libraries in Disaster  M a n a g e m e n t: E xp e ri e n c e fr o m N o rt h E as t In d ia V o l-ume:377, Library and Infor -m at io n S er vic es in A st ro n o-m y V : C om m on C h al le n ge s, U n co m m on S ol u tio n s P ag e:  3 1 3 A u th o rs : S at p at h y, K . C. ⑩ S ta te le ve l P ro gr am m es f o r S tr en gt h en in g D is as te rM an -ag em en t in In d ia 2 0 1 1 . In i-tiatives by Ministry of Home  A ffa ir s, G o vt . o f In d ia . N ew  D elh i: M in is tr y o f H o m e A f-fairs. Accessed at. ⑪ K au r, T ris h an jit 2 0 0 9 . “D i-saster planning in university  libraries in India: a neg lect -ed a re a ”, N ew L ib ra ry W or ld , V ol.110 Iss:3 pp.175-187. ⑫ K o ic h i S h iw a ku , a n d R a jib  S h aw , 2 0 0 8 . “P ro ac tiv e co -learning: a new paradigm in  d is as te r ed u ca tio n ”, D is as -ter Prevention and Manage -m en t, V o l.1 7 Is s: 2 p p .1 8 3 -198. ⑬ G u p ta , K a ila sh . D is a st e r M an ag em en t an d In d ia : R e-sp o n d in g In te rn all y an d S i-multaneously in Neighboring  C o u n tr ie s. R e p re se n ta tiv e for India of the International  A ss o ci a tio n o f E m er g en cy  M a n a ge rs , p u rs u in g P h .D . in Public Administration and  M a n a ge m en t, w ith s p ec ia l-iz at io n in E m er ge n cy M an -a g e m e n t a t U n iv e rs it y o f N o rth T ex as ,B o x # 3 1 1 3 4 0 , Denton, T exas 76203, USA. ⑭ Disaster Education in India-A S ta tu s  R e p o rt , M a rc h  2 0 0 8 . S u st ain ab le E n vir o n -m en t an d E co lo gic al D ev el-o p m en tS o cie ty D 1 1 P an ch -sh ee l E n cla ve , N ew D elh i - 1 1 0 0 1 7 S u p p o r te d  b y U N C R D h ttp :// n id m .g o v. in / P D F /p o li c ie s /n d m _ p o li -cy2009.pdf.

インドの大学図書館における災害計画

参照

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