前立腺がんスクリーニングの有効性を検証する
クラスタコホート研究
伊
藤
一
人
は じ め に わが国の前立腺がんの 2001年の男性の年齢調整がん 死亡率は, 前立腺がんは 8.4であり, 男性がんの中で 8番 目に高く, 男性におけるがん死亡原因の 4.2%を占めて いるが, 今後の死亡率の傾向は, 2000年の前立腺がん死 亡率の実測値に対して 2020年の推定値は 2.8倍になる と予測されている. 将来の死亡率増加を抑えるための対策を早急にとらな ければならないが, 現時点で前立腺がんの発生を抑える 1次予防法はないことから, 2次予防 (検診) が対策の中 心となる. 前立腺がん検診の有効性に関する最近の信頼 できる研究結果では,無作為化比較対照試験 (RCT)にお いて, 進行がんの罹患率が検診群で有意に低下し, また RCT 以外の研究では前立腺特異抗原 (PSA) を用いたス クリーニング導入後の前立腺がん死亡率の減少が報告さ れている. 現在,RCT は欧州と米国において研究が進行 中であるが, 欧米諸国においては, PSA スクリーニング がすでに一般に広まっているために, コントロール群に おけるコンタミネーションが大きな問題とされている. わが国においては, 現在 PSA スクリーニングの受診 率は低いため, 研究による介入をおこない検診暴露率を 欧米並みに引き上げた市町村と, 介入を行わない市町村 間の前立腺がんによる死亡率の比較検証が可能と えら れ, (財)前立腺研究財団の助成により前立腺がん検診研 究 (田中班) の対照研究が 2002年より開始されている. 研 究 の 概 要 対照研究は, 北海道,群馬県,広島県,長崎県より,PSA 検査による前立腺がん検診を積極的に実施介入するモデ ル地区と, 同じ道県において, 全く介入を行わない同規 模の対照地区を選定し, 両地区における転移がん罹患率 の変化, 前立腺がん死亡率の変化を比較する. わが国で は, 欧米先進諸国と違い一般住民に PSA 検診が広まっ ていないため, 対照地区のコンタミネーションを低く抑 えることが可能と推測される. また, わが国では欧米と 変わりのない治療システムが整備されていることから, 本研究の遂行に最適な国である. 同時に, 検診の有効性 の評価は, 死亡率減少効果のみではなく, QOL に関して も評価されることが重要であるとされている. また, 本 研究においては, モデル地区と対照地区において発見さ れた前立腺がんの QOL 調査を経時的におこなう. モデル地区は,本研究において「介入研究」を実施する 地区であり, 検診対象年齢, 検診方法, PSA 基準値, 精密 検査病院の条件, 生検方法について本研究で決められた 基準にそって 1次検診から, 精密検査を実施する地区を 指す. 対照地区では, モデル地区と同規模の市町村で, 本研 究内で定める前立腺がん検診に関する規定はなく, 各市 町村の方針に従い, 前立腺がん検診導入の有無は問わな い. 対照地区においては, 前立腺がん検診は未実施, ある いは検診の受診率は低い (対象者の 10%以下) と予測さ れる. 67 Kitakanto Med J 2009;59:67∼68 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科器官代謝制御学講座泌尿器科学 平成20年11月21日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科器官代謝制御学講座泌尿器科学 伊藤一人研究で検証される項目・新たな評価指標 モデル地区では, 1次検診結果, 2次検診結果の集計を 行い, 住民検診の暴露率を算出する. また, 住民検診以外 での PSA 検診の実態のより正確な把握のために, また, 検診受診者であっても, PSA 異常者への生検の実施状況 を把握するために, モデル地区の基幹病院における生検 実態調査を行なう. 基幹病院で行われたすべての生検の 実施の理由について, 検診と非検診由来の区別を行うこ とによって,その地区における PSA 検診暴露率 (compli-ance)に並んで重要な,検診の実施・実行状況の把握につ ながる検診受診を契機にした生検数 (effective compli-ance) の調査が可能になる. 対照地区では, 住民検診実施地区であれば, 年度ごと の検診受診者数 (初診・再診別)の把握,がん発見者数の 集計を行ない, 住民検診の PSA 検診暴露率 (contamina-tion) を算出する. また, モデル地区と同様に生検の実態 調査を行い, 検診を契機にした生検の施行数 (effective contamination) の把握をおこなう. また, 両地区ともに, 基幹病院におけるがん登録を実 施し, 発見契機によって, 1) 研究助成による住民検診発 見がん, 2) それ以外の検診発見がん, 3) 無症状, 本人の 精査希望による医療機関での PSA 検査による発見がん, 4)有症状発見がん,5)死亡小票発見がん,に けて登録 する. がん登録症例は, 以降, 定期的な予後調査を行う. さらに, 死亡小票による年齢調整前立腺がん死亡率の推 移を検証する. 研究の認容性の検証 研究の認容性について,県のモデル地区 (伊勢崎市)と 対照地区 (桐生市) における累積検診受診率 (暴露率) を 検証したところ, 伊勢崎市では研究開始 6年目である 2007年には 85.5%となった. 一方で, 対照地区である桐 生市では住民検診において以前より前立腺がん検診を 行っているが, 1992年から 2007年までの 16年間におけ る累積検診受診率は 12.1%であった. モデル地区の検診 受診のコンプライアンスは非常に良好であり, 対照地区 での PSA 検診のコンタミネーションは非常に低く, 本 研究の初期段階での目的を達成している. お わ り に 本研究は, モデル地区における 5年間の累積検診受診 率 60%をほぼ達成できると予測され, また対照地区にお いては, PSA 検診のコンタミネーションは低くなると予 測されていることから, PSA 検診システムの積極導入時 の前立腺がん死亡率の減少効果の検証が可能になると期 待される. また, モデル地区・対照地区において 2006年 度に発見されたがん症例の縦断的な QOL 調査を実施す ることは, 検診の QOL に与える影響についてのエビデ ンスを得るために極めて重要であることから, 本研究の 意義は極めて大きい. 文 献 1. がんの統計 03: 悪性新生物年齢調整死亡率, 主要部位 別・年 次 別 (昭 和 25年∼平 成 13年): available at: http://www.ncc.go.jp/jp/statistics/2003/data05. pdf: ac-cessed on July 27, 2004. 2. 黒石哲生, 広瀬かおる, 富永祐民, 他 : 日本のがん死亡の 将来予測.がん・統計白書 罹患/死亡/予後 2004(大 島明,黒石哲生,田島和雄,編),pp219-234,篠原出版新社, 2004.
3. Aus G, Bergdahl S, Lodding P, et al: Prostate cancer screening decreases the absolute risk of being diagnosed with advanced prostate cancer-results from a prospective, population-based randomized controlled trial. Eur Urol 51: 659-64, 2007.
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