小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究 : 「1つの対象の2つの動作」の問題場面に焦点を当てて
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第₂号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.2. 平 成 29 年 ₂ 月 February, 2017. 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる 速さの問題場面に関する研究 ―「1つの対象の2つの動作」の問題場面に焦点を当てて―. 渡 会 陽 平 北海道教育大学札幌校数学教育学研究室. A Study of Situations of Problems about Speed in Elementary School Mathematics under the Nature of Speed : Focusing on Situations of “One Object, Two Motions”. WATARAI Yohei Department of Mathematics Education, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿の目的は, 「1つの対象の2つの動作」の問題場面において用いられうる速さの性質を 明らかにすることである。そのために,「1つの対象の2つの動作」の問題場面における任意 に数値を設定することができる問題場面に共通する設定された条件を検討するとともに,その 条件がどのような速さの性質に基づくものであるのかについて検討した。 その結果,任意に数値を設定することができる問題場面の条件は「結論要素と同種の量の要 素が仮定要素として既知で,3種の量のうちのいずれか2つの量それぞれに1つずつ仮定関係 が既知として設定されていること」であり,この条件の背景には2つの速さの関係のある問題 場面における倍関係の性質があることを示した。そして,その性質を「1つの対象の2つの動 作」の問題場面において扱うことで, 「1つの対象の2つの動作」の問題場面に対する児童の 加法的な解釈を乗法的な解釈に拡げられる可能性があることを指摘し,そのための学習内容を 提案した。. 1.研究意図. ことが難しい量である。日本の算数教育を通して の速さの理解に関して渡会(2016)は,従来の算. 速さは異種の2量の割合として捉えられる量な. 数教育における速さの指導ではJangら(2014). ので,感覚的には分かるが概念の意味を理解する. が中国とシンガポールの小学校第6学年の児童を. 111.
(3) 渡 会 陽 平. 対象として実施した速さの問題の解決に関する調. という問題であり,この問題においては「往復で. 査において見られた「問題文に提示された条件を. 2時間かかった」という問題文の条件を用いなく. 無視した解決」の妥当性を説明することができな. ても解決できるので,後者の任意設定可能な問題. いことを指摘し,速さについてのよりよい理解の. 場面に分類される。. ためには従来の指導で扱われている速さの性質以. では,なぜ任意設定可能な問題場面では問題文. 外の速さの性質も扱い,速さに対する見方を拡げ. に提示されている数値を用いないで任意に設定し. る必要があると述べている。そして,渡会(2016). たとしても解決することができるのか。それを説. は小学校算数科の学習内容として扱うことのでき. 明する方法の1つとして,例えば次のような代数. る速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面. 的な解決による説明をすることができる。. を明らかにするために,1つの対象が2つの動作 を行うことで成り立つ速さの問題場面( 「1つ対. 行きにかかった時間を t1 ,帰りにかかっ. 象の2つの動作」の問題場面と略記する)の成立. た時間をt2 ,往復にかかった時間を tt とする. 条件の分析を行い,仮定の設定の仕方により場合. と,t1 + t2 = tt である。また,片道の道のり. 分けされた各問題場面の成立条件を明らかにした。. は等しいので速さと時間は反比例の関係にあ. しかしながら,それらの問題場面で用いられうる. る。よって,t1 = 3t2 。故に,tt = 4t2 だから. 速さの性質を明らかにするまでには至っていない。. t2 = tt / 4 。従って,往復の道のりは (120 ×. そこで本稿は, 「1つの対象の2つの動作」の. (tt / 4)) × 2 = 60tt だから,往復の平均の速さ. 問題場面において用いられうる速さの性質を明ら. は60tt / tt = 60より時速60kmである。. かにすることを目的とする。 このように往復の平均の速さを求める計算過程. 2.研究方法. において tt は消去されるから,tt は任意の数値で よい,即ち問題文に提示された数値を用いなくて. ⑴ 焦点を当てる速さの性質. もよいというように説明することはできる。しか. 渡会(2016)は「1つの対象の2つの動作」の問. しながら,これは代数的な方法によって結果とし. 題場面の成立条件の分析を行い,問題場面として. てはそうなることを示しているだけであって,速. 成立する場合には,⒤問題文に提示されている数. さのどのような性質に基づくことで問題文に提示. 値を全てそのまま用いなければならない問題場面. された条件を用いないで任意に設定してよいのか. と,ⅱ問題文に提示されている数値を用いずに任. を説明できているわけではない。. 意に設定することができる問題場面( “任意設定可. そこで,代数的な方法ではなく速さの性質を用. 能な問題場面” とする) に分類できることを示した。. いて説明するならば,例えば次のように説明する. 1.で挙げたJangら(2014)の調査問題の1つは,. ことができる。. 日曜の朝,レベッカと彼女の両親は大自然の. 速さが一定ならば時間と道のりは比例する. 風景を眺めに行った。目的地への道中,彼らは. から,平均の速さが定数ならば時間の和と道. 時速40kmでゆっくりと進んだ。帰り道では彼ら. のりの和も比例する。このことから,時間の. は時速120kmで進んだ。彼らが家に着いたとき,. 和と道のりの和がともに n 倍の関係で伴っ. 彼らは家を出発してから2時間外出していたこ. て変わっても平均の速さは変わらない。また,. とが分かった。往復の平均の速さを求めよ。た. 時間の和と道のりの和が伴って n 倍になる. だし,目的地にいた時間は無視せよ。. 関係は,行きにかかった時間 t1 ,帰りにか かった時間 t2 ,行きの道のり d1 ,帰りの道. 112.
(4) 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究. のり d2 がそれぞれ n 倍になっても保たれる。. 第2区間における速さ(v2),時間(t2),道のり(d2),. 従って,t1 ,t2 ,d1 ,d2 がそれぞれ n 倍にな. 全体の道のり(dt),全体の時間(tt),全体にお. る関係が保たれているならば,t1 ,t2 ,d1 ,. ける平均の速さ(vt)の9つの要素が関わり,こ. d2 の個々の数値は任意でよい。. れらの要素について v1 × t1 = d1 ,v2 × t2 = d2 , vt × tt = dt ,t1 + t2 = tt ,d1 + d2 = dt の 5 つ の 関. このようにJangら(2014)の調査問題ならば. 係が成り立つ。これら5つの関係を“構造関係”. 時間の和と道のりの和の比例関係を用いて説明で. とする。そしてこれら5つの構造関係について,. きるが,渡会(2016)の分類による任意設定可能. “乗 v1 × t1 = d1 ,v2 × t2 = d2 ,vt × tt = dt の3つを. な問題場面の全てが同様に説明できるわけではな. 法的構造関係”とし,t1 + t2 = tt ,d1 + d2 = dt の. い。渡会(2016)が示したように任意設定可能な. 2つを“加法的構造関係”とする。また,問題文. 問題場面が複数存在するということは,それらの. において提示される「v1 = 2v2」のような同種の. 問題場面に共通する「任意に数値を設定してよい. 2要素の関係を“仮定関係”,問題文において既. こと」の根拠となる事柄が存在し,それを速さの. 知数として提示されている要素を“仮定要素”,. 性質として表現することができるはずである。そ. そして問題文において求めるべき未知数として設. こで本稿では,任意設定可能な問題場面において. 定されている要素を“結論要素”とする。. 「任意に数値を設定してよいこと」の根拠となる. ② 問題場面の図表現の枠組み. 速さの性質を明らかにすることに焦点を当てる。. 「1つの対象の2つの動作」の問題場面におけ. ⑵ 研究方法. る5つの構造関係には相互関係があり,それを整. 上述の性質を明らかにするために,まず渡会. 理すると図1のように表される。そして,図1の. (2016)の示した「1つの対象の2つの動作」の. 相互関係を簡略化して図2のように表す。. 問題場面における任意設定可能な問題場面に共通 する設定された条件を明らかにする。次に,上記 で明らかにした条件に対して,任意設定可能な問 題場面で用いることのできるどのような速さの性 質が影響することにより,問題文に提示されてい る数値を用いずに任意に設定することができるの. 【図1】. 【図2】. かについて検討する。 そして,問題解決に用いられる構造関係と問題. 3.任意設定可能な問題場面に共通する設定 された条件 ⑴ 「1つの対象の2つの動作」の問題場面の分 類の枠組み. 文において設定される条件を併せて図3や図4の ように表す。図3, 図4における太線(┃と━) は解決に用いられる構造関係を表す。□は結論要 素として設定されていることを表し,●は必ず設 定されなければならない仮定要素を表す。いずれ. 渡会(2016)は「1つの対象の2つの動作」の. か1つが設定されていればよい仮定要素について. 問題場面の成立条件を分析するために, 「1つの. は代表の1つを ,他に可能性のある配置場所を. 対象の2つの動作」の問題場面を分類するための. で表す。また,2つの乗法的構造関係を横断す. 枠組みを設定している。. る は に囲まれた2つの要素の仮定関係が. ① 枠組みに用いられる用語. 設定されていることを表し,3つの乗法的構造関. 「1つの対象の2つの動作」の問題場面には,. 係を横断した は に囲まれた3つの要素の. , 時間 (t1) , 道のり (d1), 第1区間における速さ(v1). うちの両端の2つの仮定関係が設定されているこ. 113.
(5) 【図 2.1a】 【図 2.1a】 【図 2.1a】 【図 2.1a】 【図 2.1a】. 【図 2.1b】 【図 2.1b】 【図 2.1b】 【図 2.1b】 【図 2.1b】. 【図 3.1a】 【図 3.1a】 【図 3.1a】 【図 3.1a】 【図 3.1a】. 【図 3.1b】 【図 3.1b】 【図 3.1b】 【図 3.1b】 【図 3.1b】. 【図 3.2b】 【図 3.2b】 【図 3.2b】 【図 3.2b】 【図 3.2b】 【図 3.2b】 【図 3.2b】. 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図 3.3a】. 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図 3.3b】. 【図3.4a】 【図 3.4a】 【図3.5b】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】 【図 3.4a】 【図 3.5b】. 【図4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】 【図 4.1a】. 【図4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】 【図 4.1b】. 【図 4.2a】 【図 4.2b】 【図 4.2a】 【図4.2b】 【図 4.2b】 【図4.2a】 【図 4.2a】 【図 4.2b】 【図 4.2a】 【図 4.2b】 【図 4.2a】 【図 4.2b】 【図 4.2a】 【図 4.2b】 【図 4.2a】 【図 4.2b】. 【図 4.3a】 【図 4.3a】 【図4.3a】 【図 4.3a】 【図 4.3a】 【図 4.3a】 【図 4.3a】 【図 4.3a】. 【図 4.3b】 【図 4.3b】 【図4.3b】 【図 4.3b】 【図 4.3b】 【図 4.3b】 【図 4.3b】 【図 4.3b】. 【図 4.4a】 【図 4.4b】 【図 4.4a】 【図 4.4b】 【図 4.4a】 【図4.4b】 【図 4.4b】 【図4.4a】 【図 4.4a】 【図 4.4b】 【図 4.4a】 【図 4.4b】 【図 4.4a】 【図 4.4b】 【図 4.4a】 【図 4.4b】. 【図 4.5a】 【図 4.5a】 【図 4.5a】 【図4.5a】 【図 4.5a】 【図 4.5a】 【図 4.5a】 【図 4.5a】. 【図 4.5b】 【図 4.5b】 【図 4.5b】 【図4.5b】 【図 4.5b】 【図 4.5b】 【図 4.5b】 【図 4.5b】. 【図 4.6a】 【図 4.6b】 【図 4.6a】 【図 4.6b】 【図 4.6a】 【図 4.6b】 【図 4.6a】 【図4.6b】 【図 4.6b】 【図4.6a】 【図 4.6a】 【図 4.6b】 【図 4.6a】 【図 4.6b】 【図 4.6a】 【図 4.6b】. 【図 4.7a】 【図 4.7a】 【図 4.7a】 【図 4.7a】 【図4.7a】 【図 4.7a】 【図 4.7a】 【図 4.7a】. 【図 4.7b】 【図 4.7b】 【図 4.7b】 【図 4.7b】 【図4.7b】 【図 4.7b】 【図 4.7b】 【図 4.7b】. 【図 4.8a】 【図 4.8b】 【図 4.8a】 【図 4.8b】 【図 4.8a】 【図 4.8b】 【図 4.8a】 【図 4.8b】 【図 4.8a】 【図4.8b】 【図 4.8b】 【図4.8a】 【図 4.8a】 【図 4.8b】 【図 4.8a】 【図 4.8b】. 【図 4.9a】 【図 4.9a】 【図 4.9a】 【図 4.9a】 【図 4.9a】 【図4.9a】 【図 4.9a】 【図 4.9a】. 【図 4.9b】 【図 4.9b】 【図 4.9b】 【図 4.9b】 【図 4.9b】 【図4.9b】 【図 4.9b】 【図 4.9b】. 【図 4.10a】 【図 4.10b】 【図 4.10a】 【図 4.10b】 【図 4.10a】 【図 4.10b】 【図 4.10a】 【図 4.10b】 【図 4.10a】 【図 4.10b】 【図 4.10a】 【図4.10b】 【図 4.10b】 【図4.10a】 【図 4.10a】 【図 4.10b】. 【図 5.1a】 【図 5.1a】 【図 5.1a】 【図 5.1a】 【図 5.1a】 【図 5.1a】 【図5.1a】 【図 5.1a】. 【図 5.1b】 【図 5.1b】 【図 5.1b】 【図 5.1b】 【図 5.1b】 【図 5.1b】 【図5.1b】 【図 5.1b】. 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図 5.2a】 【図 5.2b】 【図5.2a】 【図 5.2a】 【図5.2b】 【図 5.2b】. 【図 5.3a】 【図 5.3a】 【図 5.3a】 【図 5.3a】 【図 5.3a】 【図 5.3a】 【図5.3a】 【図 5.3a】. 【図 5.3b】 【図 5.3b】 【図 5.3b】 【図 5.3b】 【図 5.3b】 【図 5.3b】 【図5.3b】 【図 5.3b】. 【図5.4a】. 【図5.5a】. 【図5.5b】. 渡 会 陽 平. 【図 3.2a】 【図 3.2a】 【図 3.2a】 【図 3.2a】 【図 3.2a】 【図 3.2a】 【図 3.2a】. とを表す。. 【図3】. 【図4】. よって,図3の場合ならば v1 × t1 = d1 と t1 + t2 = tt の2つの構造関係を用いる問題場面で,求 めるべき要素は v1 であり,tt と dt の数値,そし て t1 と t2 及び d1 と dt の同種の2要素の関係が問 題文において提示されていることを意味する。ま た,図4の場合ならば v1 × t1 = d1 と d1 + d2 = dt の2つの構造関係を用いる問題場面で,求めるべ き要素は v1 であり,tt の数値,d2 または dt の数 値,d2 と dt の同種の2要素の関係が問題文にお いて提示されていることを意味する。 ⑵ 任意設定可能な問題場面に共通する設定され た条件 渡会(2016)の分類により, 「1つの対象の2 つの動作」の問題場面における任意設定可能な問 題場面には以下のタイプがある註1。それぞれの 図は同じ図番号のaとbで対応しており,aの図に は無くてbの図には存在する要素が任意に設定可 能な要素になる。例えば,図2.1aの問題場面なら ば t1 ,t2 ,d1 ,d2 のいずれかの数値を任意に設 定しても解決することができ,図2.1bの問題場面 ならば問題文に提示されている t1 ,t2 ,d1 ,d2 の数値を用いないで t1 ,t2 ,d1 ,d2 のいずれか の数値を任意に設定しても解決することができる。. 【図 2.1a】 【図2.1b】 【図 2.1b】 【図2.1a】 【図 2.1a】 【図 2.1b】. 【図 3.1a】 【図3.1a】 【図 3.1a】. 【図 3.1b】 【図3.1b】 【図 3.1b】. 【図5.4b】. これらの問題場面に共通する設定された条件を 明らかにするために,まずこの中で最も単純な場 合である図2.1a,bに着目する。図2.1aは2つの乗 法的構造関係を解決に用い,結論要素と同種の量. 【図 3.2a】 【図 3.2b】 【図 3.2a】 【図3.2b】 【図 3.2b】 【図3.2a】. 【図 3.3a】 【図 3.3a】 【図3.3a】. 【図 3.3b】 【図 3.3b】 【図3.3b】. の要素が仮定要素として既知で,結論要素とは異 なる残り2つの量それぞれに結論要素と仮定要素 を含む2つの乗法的構造関係をつなぐ仮定関係が. 【図 3.4a】 114 【図 3.4a】. 【図 3.5b】 【図 3.5b】. 【図 4.1a】 【図 4.1a】. 【図 4.1b】 【図 4.1b】.
(6) 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究. 1つずつ既知として設定されている。2.1bと併せ. もよいと言える。図5.2a,bは任意設定可能な問題. るとこれらの場合には結論要素と異なる量の仮定. 場面の中で唯一仮定関係が1つしか設定されてい. 関係に含まれる要素のいずれかを任意に設定する. ない問題場面である。しかしながら,結論要素と. ことができると言える。. 同種の量の2つの要素が仮定関係として設定され. 図3.1a ~3.5bは2つの乗法的構造関係と1つの. ているので, 2つの要素間の関係は明らかである。. 加法的構造関係を解決に用いる問題場面であり,. つまり,同種の量の2つの要素が既知ならば,仮. 2つの乗法的構造関係を用いるところが図2.1a,. 定関係も既知と見なすことができる。よって,図. bと共通する。図2.1a,bの場合に図3.1a,bの場. 5.1a,bの場合についても上記の事柄は成り立つ。. 合も併せると,任意に設定できる要素は仮定関係. 以上より,「1つの対象の2つの動作」の問題. に含まれていなくても,結論要素と異なる量の要. 場面における任意設定可能な問題場面には少なく. 素ならば任意に設定できることになる。図3.2a,. とも2つの乗法的構造関係が関わっている。そし. b,図3.3a,bも併せると,仮定関係は結論要素と. て,結論要素と同種の量の要素が仮定要素として. 仮定要素を含む2つの乗法的構造関係をつなぐよ. 既知で,3種の量のうちのいずれか2つの量それ. うに設定されていなくても,結論要素と異なる残. ぞれに1つずつ仮定関係が既知として設定されて. りの2量それぞれに仮定関係が1つずつ既知とし. いるならば,結論要素と異なる量の要素のいずれ. て設定されていればよいことになる。図3.4a,b. かを任意に設定できると言える。. についても上記の事柄が成り立つ。 図4.1a ~4.10bは2つの乗法的構造関係と2つ の加法的構造関係を解決に用いる問題場面であ り,2つの乗法的構造関係を用いるところは図. 4.任意設定可能な問題場面における解決の 背景にある速さの性質についての検討. 2.1a ~3.4bまでと共通する。図4.1a ~4.10bについ. 3.において「1つの対象の2つの動作」の問. ても,結論要素と同種の量の要素が仮定要素とし. 題場面における任意設定可能な問題場面に共通す. て既知で,結論要素とは異なる残り2つの量それ. る設定された条件を明らかにした。その条件にお. ぞれに仮定関係が1つずつ設定されていれば,結. いては,任意設定可能な問題場面には少なくとも. 論要素と異なる量のいずれかの要素を任意に設定. 2つの乗法的構造関係が関わっていた。このこと. できると言える。. から,任意設定可能であることの背景には2つの. 図5.1a ~5.5bは3つの乗法的構造関係と2つの. 乗法的構造関係に関わる速さの性質が存在すると. 加法的構造関係を解決に用いる問題場面であり,. 考えられる。しかしながら,渡会(2016)の枠組. これまでの問題場面と同様に解決に2つの乗法的. みは複合的な速さの問題場面の分類には適してい. 構造関係が含まれている。結論要素と同種の量の. るが,それらの問題場面でなされる解決に関わる. 要素が仮定要素として既知で,結論要素とは異な. 速さの性質を特徴づけることには適していない。. る残り2つの量それぞれに仮定関係が1つずつ設. そこで本稿では,任意設定可能な問題場面の背. 定されていれば,結論要素と異なる量のいずれか. 景にある2つの乗法的構造関係に関わる速さの性. の要素を任意に設定できるということが図5.4a,. 質を顕在化するために,Vergnaud(1983)が提. b,図5.5a,bについても言える。図5.3a,bを併せ. 案した乗法的構造の枠組みを用いる。Vergnaud. ると,仮定関係は結論要素と異なる2つの量それ. は乗法・除法が関わる問題場面の全体を“乗法的. ぞれに1つずつ設定されている必要は無く,3種. 構造の概念野”として束ね,乗法的な概念の用い. の量のうちのいずれか2つの量それぞれに1つず. られる問題場面を乗法的構造の枠組みによって分. つ設定されていればよいことになる。そして,図. 類している。Vergnaudの乗法的構造の枠組みは. 5.2a,bを併せると結論要素が仮定関係に含まれて. 2つの量の比例関係を主軸として構成されるとこ. 115.
(7) 渡 会 陽 平. ろに特徴があり,必然的に乗法的な概念は比例関. 複比例の構造においてM1 とM3 ,M2 とM3 はそ. 係と関連づけて説明できることになる。乗法的な. れぞれ比例関係にあるので,この構造は二重の単. 関 係 を 特 徴 づ け る 枠 組 み に は 他 に もSchwartz. 比例の構造として解釈することができる. (1988) の 内 包 量・ 外 延 量 の 枠 組 み やNesher. (Vergnaud,1983)。例えば,縦3cm,横5cm. (1988)の命題構造の枠組みがあるが,小学校算. の長方形の面積は3×5=15(cm2)というよう. 数科における速さの指導は比例関係と関連づけて. に直積の乗法によって求められるが,二重の単比. なされるから,小学校算数科での指導を視野に入. 例の構造による解釈をすれば,乗法3×5は ( 1. れ る と, 比 例 関 係 と 関 連 づ け る こ と の で き る. × 3) × 5として解釈される(図9)。つまり,. Vergnaudの乗法的構造の枠組みは速さの性質を. 複比例の構造における直積の乗法はスカラー演算. 特徴づけることに適しているのである。. 子を2回適用する操作として見なせるのである。. ⑴ Vergnaudの乗法的構造の枠組み. そして,この解釈は小学校算数科における面積・. Vergnaud(1983)は乗法的な問題場面を単比. 体積の求積の指導と合致している。. 例の構造と複比例の構造によって特徴づけてい る。単比例の構造は比例関係にある2つの測度空 間M1 ,M2 によって構成される構造である(図 5) 。図5において c が未知数の場合には乗法の 問題場面になり,M1 において1を b に対応させ るスカラー演算子「 × b」をM2 の a に適用する. 【図9】. 操作として乗法 a × b が説明される(図6)。 本稿においては,任意設定可能な問題場面にお ける解決の操作を乗法的構造の枠組みを用いて構 造上の操作として特徴づける。そして,特徴づけ られた構造上の操作をもとにして,解決の操作の 【図5】. 【図6】. 背景にある速さの性質について検討する。 ⑵ 任意設定可能な問題場面における解決の背景. 複比例の構造は2つの測度空間M1 ,M2 を第3. にある速さの性質についての検討. の測度空間M3 に直積で対応させる構造であり,a. 乗法的構造の枠組みを用いた任意設定可能な問. ∈ M1 ,b ∈ M2 ,c ∈ M3 ,1 ∈ M 1 と 1 ∈ M2 の 組. 題場面における解決の操作の特徴づけについて. に対応するM3 の要素. について,c = × (a ×. も,まず任意設定可能な問題場面の中で最も単純. b) が成り立つ(図7) 。例えば, 「(速さ v ) × (時. な場合である図2.1a,bのタイプに着目する。図. 間 t ) = (道のり d )」で解決できる速さの問題場. 10は図2.1aのタイプに属する問題場面である。そ. 面ならば時間,速さ,道のりの測度空間がそれぞ. して,図11は図10の問題場面において v1 を任意. れM1 ,M2 ,M3 で, = 1 ( 1 時 間 に 1km進 む. 設定した問題場面,つまり図2.1bのタイプに属す. 速さが時速1km)の複比例の構造を持つ(図8) 。. る問題場面である。. 【図10】 【図7】. 116. 【図8】. 【図11】.
(8) 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究. 図10,11における2つの仮定関係を t2 = t1 × + 1 ,v2 = v1 × 2 ( 1 , 2 ∈ ℝ ). とすると,図11の. も「 × ×. 2」される。よって,d2 = (d1 ×. 1). 2 = 1 2 d1 である。. 問題場面は一般的には以下の算術的な操作により 解決に用いられている設定された条件に着目す. 解決することができる。. ると,図12の解決では仮定要素及び仮定関係が全 「(速さ) × (時間) = (道のり)」の関係よ. て用いられているのに対して,図13の解決では仮. り t1 = d1 / v1 ,仮定関係より t2 =. 定要素 v1 が用いられていないという違いがある。. v2 =. 1 d1 / v1 ,. 2 v1 である。. つまり,図13の解決のほうが必要最低限の条件で. よって, 「(速さ) × (時間) = (道のり)」の. 解決していると言える。そして,その図13の解決. 関係より d2 =. は,解決に用いられている要素は道のりの測度空. 1 2 d1 である。. 間の要素だけで,時間と速さの測度空間の要素は 上記の解決における一連の操作は乗法的構造の. 解決に用いられていないところに特徴がある。即. 枠組みを用いると図12のように表される。つまり,. ち,結論要素の数値は結論要素の含まれる測度空. 「(速さ) × (時間) = (道のり)」の関係による操. 間の要素には依存するが,残り2つの測度空間の. 作は直積として,仮定関係による操作はスカラー. 要素には依存しないのである。従って,図11の問. 演算子の適用として表すことができる。. 題場面は必要最低限の条件で解決するならば図13 の解決をすることができるので,結論要素の数値 に影響しない結論要素を含まない測度空間の要素 ならば任意に設定することができるのである。 このように,図13のように解決できることが任 意設定可能であることの根拠になる。そこで,図. 【図12】. 【図13】. 13の解決の操作をもとにして速さの性質を記述す る。図13の解決では,2つの道のりの要素 d1 と. 上記のように図11の問題場面における解決の操. d2 の倍関係が時間の倍関係と速さの倍関係の積. 作が乗法的構造の操作として特徴づけられたが,. として求められている。故に,2つの速さの関係. この操作は図11の問題場面において v1 の数値を. についての次の性質が導かれる。. 任意に設定した後の操作を示したものであり,任 意設定可能であることの根拠が示されているわけ. 速さの性質1:速さの問題場面における倍関係. ではない。しかしながら,図12のように乗法的構. 2つの速さの関係 vi × ti = di ,vj × tj = dj. 造上の操作として表現したことにより,任意設定. について次の関係が成り立つ。(図14). 可能であることの根拠に関わる解決の仕方が顕在 化する。それは複比例の構造が二重の単比例の構. vj. tj dj × = vi ti di. 造であることを利用した解決で,図13の操作とし て表され,以下のような解決として説明される。 時間と道のりの測度空間は比例関係にある から,時間の要素が「 × りの要素も「 ×. 1」されれば道の. 1」される。また,速さと. 【図14】. 道のりの測度空間も比例関係にあるから,速 さの要素が「 ×. 2」されれば道のりの要素. そして,上記の性質が成り立つから任意設定可. 117.
(9) 渡 会 陽 平. 能であることの条件も速さの性質として表すこと ができる。. 5.指導への示唆 ⑴ 速さについての見方を拡げることのできる速. 速さの性質2:任意設定可能な問題場面の条件. さの性質. 2つの速さの関係のある問題場面におい. 4.において「1つの対象の2つの動作」の問. て,求めたい量と同種の量が1つ,3つの量. 題場面における任意設定可能な問題場面の背景に. のうちの2つの量の倍関係が既知ならば,求. ある速さの性質として2つの性質を明らかにし. めたい量と異なる量の数値を任意に設定でき. た。速さの性質2は“任意設定できること”その. る。. ものの判断と適用に関する性質であり,速さの性 質1は速さの性質2の前提になっている性質であ. 上記の速さの性質2が,図2.1a,bの問題場面. る。この2つの性質についての実際の指導を視野. 以外にも適用できるのかを確認する。図3.1a,b. に入れると,速さの性質2は任意設定可能な問題. の問題場面では2つの速さの関係に属さない要素. 場面だけに限定されるのに対して速さの性質1は. を任意に設定することができている。この場合に. 2つの速さの関係のある問題場面全てで成り立つ. ついては,例えば図3.1bにおいて仮定関係を t2 =. という汎用性の側面と,任意設定可能な問題場面. t1 ×. 1 とすると,t1 = (1 + 1) / tt である。即ち,. であったとしても敢えて速さの性質2を用いて任. 2つの速さの関係に属さない要素 tt を任意に設定. 意に数値を設定しなくても速さの性質1を用いて. するということは,2つの速さの関係に属する要. 倍関係の操作をするだけで解決できるという簡潔. 素 t1 を定めることになるので,2つの速さの関. 性の側面から,速さの性質1のほうが実用性のあ. 係に帰着され,速さの性質2を適用できるのであ. る性質であると言える。. る。. 速さの性質1は乗法的な性質としては決して特. 図3.2a,bの問題場面では2つの速さの関係を. 別なものではなく,むしろ当たり前の性質である。. つなぐ仮定関係が1つしか設定されていない。し. 例えば,「長方形について縦の長さが2倍,横の. かしながら,図3.2aにおいて仮定関係を tt = t2 ×. 長さが3倍になったら面積は6倍になる」という. 1 とすると,t1 = ( 1 - 1) t2 である。よって,2. 場合と同様の性質である。しかしながら,そんな. つの速さの関係をつながない仮定関係があったと. 当たり前の性質を児童が2つの速さの関係のある. しても,その仮定関係から2つの速さの関係をつ. 問題場面に適用することができるかと言えば,そ. なぐ倍関係を導くことができるので,この場合も. れは必ずしも容易ではないだろう。なぜなら,従. 2つの速さの関係に帰着でき,速さの性質2を適. 来の指導では例えば図15で表される「1つの対象. 用できる。. の2つの動作」の問題場面の解釈が「d1 + d2 と. 図3.3a,bか ら 図5.5a,bの 問 題 場 面 に つ い て. t1 + t2 という関係が成り立つ問題場面である」と. も,2つの速さの関係外の要素,仮定関係を扱う. いう加法的な解釈にとどまっていて,乗法的な問. 場合には,上記と同様に2つの速さの関係に帰着. 題場面としての解釈にまで至っていないと考えら. することができる。従って,渡会(2016)で示し. れるからである。. た任意設定可能な問題場面は全て速さの性質2を 適用できる問題場面である。. 【図15】. 118.
(10) 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究. 渡会(2016)において述べた通り,本研究は児. きの速さは1.5÷1=1.5となり,この場合も時速. 童の速さについての見方を拡げるために,小学校. 1.5kmとなる。このように時間や道のりの数値を. 算数科の学習内容として扱うことのできる速さの. どのように設定したとしても,登山口からキャン. 性質を用いて解決できる速さの問題場面を明らか. プ場まで進むときの速さは時速1.5kmになるか. にすることを目的としている。それ故に,速さの. ら,求めたい速さはどうやら時速1.5kmになりそ. 問題場面の加法的な解釈を超えて乗法的な解釈に. うではある。しかしながら,この結論を認めるた. まで拡げることのできる速さの性質1を適用でき. めには,どうして時間や道のりの数値を任意に設. る問題場面を学習内容として扱うことには価値が. 定しているにもかかわらず結果が同じ速さになる. あると考える。. のかという新たに生じた問いを解決しなければな. ⑵ 速さの性質1を扱うための学習内容. らない。. 速さの性質1を学習するために,例えば図2.1a. そこで,新たに生じた問いについて,任意に数. のタイプに属する次の問題場面を扱うとする。. 値を設定しても成り立つことの根拠を探る活動を する。その活動において,時間と道のりの比例関. 日曜日にA君は家から山の上のキャンプ場. 係と速さと道のりの比例関係に基づいて図13の解. まで歩いていった。家から登山口までは平坦. 決が成り立つことを見い出し,図13の解決を根拠. な道だったため時速6kmで順調に進むこと. として任意設定できることを確認する。さらに,. ができた。しかし,登山口からキャンプ場ま. 図13の解決で用いられている時間と道のりの比例. で進むときには坂道だったため,道のりの長. 関係と速さと道のりの比例関係から2つの速さの. さは家から登山口までの半分だったにもかか. 関係のある問題場面において成り立つ速さの性質. わらず,2倍の時間がかかってしまった。登. 1を新たな速さの性質としてまとめる。そして,. 山口からキャンプ場まで進んでいたときの速. この性質は既習の乗法的の問題場面において当た. さはどれだけか。. り前に成り立っていた乗法的な性質であるが,今 回扱ったような加法的に捉えられる速さの問題場. この問題場面では,提示されている条件に対し. 面に対しても適用できるということを確認するこ. て「(速さ) × (時間) = (道のり)」の関係を適用. とで,乗法的な性質の適用範囲に対する児童の認. することができないため,小学校算数科の学習段. 識を拡げることができるだろう。. 階では時間や道のりの数値を任意に設定しなけれ. ⑶ 速さと道のりの比例関係を扱うための学習内. ばならない。例えば家から登山口までにかかった. 容. 時間を1時間と仮定すると,家から登山口までの. ⑵で示したように,任意に数値を設定できるこ. 道のりは6×1=6(km),登山口からキャンプ. との根拠を説明するためには時間と道のりの比例. 場までの道のりは6÷2=3(km),登山口から. 関係と速さと道のりの比例関係を用いなければな. キャンプ場までにかかった時間は1×2=2(時. らないが,現在の小学校算数科では速さと道のり. 間)だから,登山口からキャンプ場まで進んでい. の比例関係は学習内容として扱われていない。. るときの速さは3÷2=1.5より時速1.5kmとな. 従って,速さの性質1を小学校算数科の学習内容. る。また,家から登山口までの道のりを3kmと. に取り入れるならば,併せて速さと道のりの比例. 仮定すると,家から登山口までにかかった時間は. 関係も学習内容に取り入れる必要がある。. 3÷6=0.5(時間),登山口からキャンプ場まで. 例えば,速さと道のりの比例関係を学習するた. にかかった時間は0.5×2=1(時間) ,登山口か. めの問題場面としては次の問題場面が考えられる。. らキャンプ場までの道のりは3÷2=1.5(時間) だから,登山口からキャンプ場まで進んでいると. A車とB車が高速道路を同時に出発し,A. 119.
(11) 渡 会 陽 平. 車は時速80km,B車は時速100kmで進んだ。. 基づくものであるのかについて検討した。. A車が140km進んだとき,B車は何km進ん. その結果,任意設定可能な問題場面の条件は「結. でいるか。. 論要素と同種の量の要素が仮定要素として既知 で,3種の量のうちのいずれか2つの量それぞれ. この問題場面は「2つの対象の1つの動作」の. に1つずつ仮定関係が既知として設定されている. 問題場面で, 「(速さ) × (時間) = (道のり)」の関. こと」であり,この条件の背景には2つの速さの. 係を適用することで「A車が140km進むのにかか. 関係のある問題場面における倍関係の性質がある. る時間は140 ÷ 80 = 7 / 4(時間)だから,A車が. ことを示した。そして,その性質を「1つの対象. 140km進 ん だ と き に B 車 は100 × (7 / 4) = 175. の2つの動作」の問題場面において扱うことで,. (km)進んでいる。」と解決することができる。. 「1つの対象の2つの動作」の問題場面に対する. 一方で,速さの定義に基づけば,時速1kmなら. 児童の加法的な解釈を乗法的な解釈に拡げられる. ば1時間で1km進み,時速2kmならば1時間に. 可能性があることを指摘した。. 2時間進むから,速さが一定ならば速さと道のり. しかしながら,「1つの対象の2つの動作」の. は比例すると言える。よって, 「速さが100 ÷ 80. 問題場面に対する児童の解釈が加法的な解釈にと. = 5 / 4(倍)になっているから,道のりも 5 / 4. どまっているということについてはまだ仮説であ. 倍になる。従って,140 × (5 / 4) = 175(km)進. るので,児童の解釈の実態を明らかにすることが. む。 」と速さと道のりの比例関係を用いた解決を. 今後の課題である。. することもできる。解決の手続きだけ見れば,ど ちらも除法と乗法を1回ずつ使っている。しかし ながら,前者の解決は手続きが最短になる場合を. 註. 示しただけで,実際の児童の解決では「1時間に. 1.提示されている図2.1aから図5.5bの問題場面は,個々. 80km進むから,あと60km進むのにどれだけ時間. の問題場面を示しているのではなく,同じタイプの問. がかかるか。 」という量の分割や「7 / 4 時間は1 時間45分だから,…」という時間の変換が行われ. 題場面の代表となる1つの場合を示している。例えば, 図2.1aの場合ならば,乗法的構造関係の選び方が3通り あり,その3通りそれぞれにおいて結論要素の配置場. ることが想定される。つまり,この問題場面にお. 所の選び方が6通りある。これにより仮定要素1ヶ所. いて時間の要素を扱う場合には,手間がかかるこ. と仮定関係2ヶ所の配置場所は定まるから,図2.1aと同. とが予想されるのである。従って,上記の2つの 解法を比較することで,後者の解決における時間 の要素を扱わないことによる簡潔さが顕在化し, 速さと道のりの比例関係に着目して解決すること のよさを実感することができるのである。. じタイプの問題場面は3 × 6 = 18通りある。これらの 代表として図2.1aが示されている。. 引用・参考文献 Jang, C., Hwang, S., & Cai, J. (2014). Chinese and Singaporean sixth-grade students’ strategies for. 6.まとめと今後の課題 本稿の目的は, 「1つの対象の2つの動作」の. solving problems about speed. Educational Studies in Mathematics, 87 ⑴, 27-50. Nesher, P. (1988). Multiplicative school word problems: Theoretical approaches and empirical findings. In J.. 問題場面において用いられうる速さの性質を明ら. Hiebert & M. Behr (Eds.), Number concepts and. かにすることであった。そのために,「1つの対. operations in the middle grades, Hillsdale: Lawrence. 象の2つの動作」の問題場面における任意設定可 能な問題場面に共通する設定された条件を検討す るとともに,その条件がどのような速さの性質に. 120. Erlbaun Associates, 19-40. Schwartz, J. (1988). Intensive quantity and referent transforming arithmetic operations. In J. Hiebert & M. Behr (Eds.), Number concepts and operations in the.
(12) 小学校算数科における速さの性質を用いて解決できる速さの問題場面に関する研究. middle grades, Hillsdale: Lawrence Erlbaun Associates, 41-52. Vergnaud, G. (1983). Multiplicative structures. In R. Lesh & M. Landau (Eds.), Acquisition of mathematics concepts and processes, New York; Tokyo: Academic Press, 127-175. 渡会陽平(2016).「小学校算数科における速さの性質を 用いて解決できる速さの問題場面に関する研究―「1 つの対象の2つの動作」の問題場面の成立条件につい ての分析―」 .北海道教育大学研究紀要 教育科学編 第67巻 第1号.237-254.. (札幌校特任講師). 121.
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