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小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察 : 附属中学校での授業実践から

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Academic year: 2021

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(1)Title. 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察 : 附属中学校 での授業実践から. Author(s). 大石, 朋生. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 68(2): 527-536. Issue Date. 2018-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/9652. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察 ― 附属中学校での授業実践から ―. 大 石 朋 生 北海道教育大学旭川校 芸術・保健体育教育専攻 美術分野. A Study on the Utilization of Japanese Painting Material in Elementary and Junior High School Education OOISHI Tomoo Department of Painting, Asahikawa campus, Hokkaido University of Education. 概 要 本稿の目的は,日本画制作で使用される古典的な技法や材料を使った学習教材が小・中学校 現場で活用可能かどうか現状を把握し,生徒の日本美術への興味・関心を高める手がかりを見 出すことを目的としている。具体的な手法として,大学での演習授業及び附属中学校での鑑賞・ 制作実践の授業を通して,その結果を比較検討・考察して次の結論を得た。1古典的技術や材 料をより効果的に扱うために,生徒の学習環境に合わせた題材の設定や材料の選択・技術指導 が必要である。また「自由な制作体験」と「感受性を伝えるための技術」を往還させる指導の バランスが重要である。2古典的な技法や材料を扱うことで,日本美術への関心を高めるため の手がかりとなる。3日本美術への関心や風土への愛着が高まった状態で活動した生徒は,造 形活動に対しての興味を増し,自ら積極的に活動をする様子が多く見られる。このことから気 候風土に根ざした美的感情を軸とする美術的教養の育成は重視されるべきと考えられる。. 1.はじめに. 本研究で示される日本画で使用される技術や材 料を表す定義は,明治以前の伝統的技術・材料と. 1-1 本研究の目的. 現代日本画で使用されている技術・材料両方の意. 本研究の目的は,日本画の材料を使った学習が. 味を含んでいる。. 小・中の学校現場でどのように機能し,活用する ことが可能なのかを,授業実践を通じて現状を考. 1-2 先行研究. 察することである。. 小・中学校における日本画の材料を扱った直接 的な先行研究は多くない。しかし以下に挙げる研. 527.

(3) 大 石 朋 生. 究は,日本画の材料を学習教材として扱った先行. る。改善の基本方針には,「美術文化の継承と創. 研究である。. 造への関心を高めるために,作品などのよさや美 しさを主体的に味わう活動や,我が国の美術や文. 蝦名は日本美術の特質を理解するために古典的. (3) と示されてお 化に関する指導を一層充実する」. 技法の中でも模写を取り上げ,授業実践を通して. り,日本美術への指導の充実が求められている。. (1). その有効性を指摘した。 さらに模写の実習は生. しかし実際の教育現場では授業時間の削減など. 徒の鑑賞に対する意識を深め,日本美術への興. で,多岐にわたる日本美術をどのように授業で紹. 味・関心を高めることから体験の深化としても有. 介したら良いか苦慮するケースが多く見られる。. 効であると指摘している。. また日本美術の中でも教材をどの様に選定すれば. また,川嶋・三橋・横田・竹内は美術教育にお. 良いか,また指導に活用するための教育法など,. ける毛筆画指導の有効性について言及している。. 教育における原理的な事柄が問題となってくる。. その具体として日本画材料の中でも毛筆や墨に着. さらに改正された教育基本法では「伝統や文化. 目し,学校教育の中で体験として素材を知ること. を尊重する態度を養うこと」が新たに規定され,. (2) の重要性について指摘している。. 美術科においても伝統的な教材を用いた題材の導 入など教材化の動きが加速している。中でも鑑賞. 1-3 対象範囲. 教育は早くから課題の取り扱いが始まり,小・中. 本研究では調査対象を教育大学美術教育分野の. 学校教科書への作品(屏風・障壁画・絵巻物・墨. 学生と附属中学校の生徒に絞った。大学生は,あ. 絵・近代日本画の紹介等)の掲載が増加し,古典. る程度の絵画制作や材料についての知識を持って. 美術の題材を扱う機会が増えたと言える。一方で. いる,美術分野の2年生を対象とした。対して中. 美術科専任教員の減少や複数校の兼任など,非常. 学生は日本画の材料や作品に対して初めて触れる. 勤講師の増大は美術文化に関わる専門的技能や知. であろう1年生を対象とし比較検討を行った。. 識を持った教員の減少を招き,伝統的な表現技法 を指導できる教員が学校にいない事態を招いた。. 1-4 研究方法. このことで専門的技能を持つ教員の確保が難しい. 附属中学校教員と授業内容について検討し題材. 学校では伝統的な材料を扱った教材や題材を指導. を設定した上で研究授業を行い,その内容と作品. できない点が早川によって指摘されている。(4). を考察することとする。クラスによる偏差をなく. 小・中学校の現場で専門外の教員であっても「美. すため,1学年3クラス同じ題材を設定し,総合. 術文化」「伝統文化」を伝えるための有効な題材. 的に結果を検証する。. や教材開発がより一層求められていると言える。. また, 古典的技術や材料に対する「知識」と「技 術」の有無が学校現場での普及を妨げるのかを検 証するために,ある程度の知識や技術を持った大 学生まで検証範囲を広げて授業実践を行う。. 2-2 美術教育史における日本画の材料を扱っ た教育の変遷 現在,学校教育の現場で日本画材料の使用は極 めて寡少であると言える。しかしながら現行の学. 2.美術教育における日本画の取り扱い 2-1 現行学習指導要領における日本画の取り 扱い. 習指導要領で求められている日本の美術・文化を 重視する態度を培うために,伝統的な絵画材料を 実際に活用することは価値があると考えられる。 現代日本画で主に使用される材料は明治以前から. 平成20年(2008)年8月の小学校学習指導要領. あった岩絵具・箔・墨が中心になってはいるもの. では,日本の美術の学習指導について示されてい. の,作家によっては水彩絵の具・アクリル絵の具. 528.

(4) 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察. やレジン等も使用することがある。明治以前に使. 治以前の古典材料としての良さも損なわれていな. 用されていた岩絵具・箔・墨が学校教育で使用さ. い水干絵具と,ドーサ引きされていない麻紙に活. れなくなった経緯として,林は「毛筆画時代の図. 用の可能性があることに着目し,教材活用の有無. 画教育は臨本を模写することになり,専門家の描. について検討する。. いた筆力の技巧を模倣することを目標とするもの となった」そのため「表現における3つの要素—. 3-1 大学・中学校の生徒の特徴. 感情・認識・技術—の中で表現の主体である人間. 附属中学校生徒の特徴を表すキーワードとし. にとって最も大切な感情の要素が無視された」と. て,「感受性・表現感覚の鋭さ」「未知の技術への. (5) 指摘している。. 興味・関心の高さ」「自分らしい表現への意欲」. このため岩絵の具は水彩絵の具,墨は筆が鉛筆. の三点に注目したい。. に置き換わり使用されなくなったとされている。. 大学生の特徴を表すキーワードとして, 「技術・. また明治以降フェノロサが日本に持ち込んだとさ. 知識の豊かさ」「鑑賞力の高さ」「評価や理解に対. れる水彩絵の具は大正2〜4年には一般的に知ら. するこだわり」を上げたい。すなわち大学生の特. れる画材となっており,結城素明や川合玉堂は水. 徴として,材料に対する知識や技術的な部分につ. 彩絵具を練習用として推奨している。. いては一通り理解が深まっていることが挙げられ. 大正期の日本画材料と現代のものを比較する. る。具体的には美術教育で扱われる題材の意味や. と,新岩絵具や合成絵具・顔彩などコストダウン. 目的を理解し,水彩絵の具やアクリル絵の具につ. や色数の豊富さなど使用上の選択肢が飛躍的に向. いては基本的な扱い方や描写力は備えている。. 上し,使用者のニーズに合わせた材料の選択が可 能となっている。だが現代においては下塗りの方. 3-2 日本画題材のテーマについて. 法とされる重ね塗りの決まりごとや,ぼかしに必. 前章で日本画材料の変遷についてまとめたとこ. 要だとされた色同士の組み合わせ方など,技法を. ろ日本美術への興味関心を高めるためには,日本. 構造的に理解する機会が少なく技術的な指導法,. 特有の風土に関係するテーマを設定した方が良い. 教授法が豊富だった大正期とは対照的に指導方法. との考えに至った。中学校生徒には感受性の豊か. の欠如が指摘されている。また,大正期から昭和. さを投影できるテーマとして「色や形を使って季. 初期は材料が高価で貴重だったことから薄塗りで. 節を表す」題材を設定した。その際,具体的な対. 描く技法が中心だったのに対し,材料が豊富な戦. 象物を描写するのではなく,抽象的な色や形の組. 後以降の日本画では,厚塗り中心の作品が多く見. み合わせから,イメージを膨らませることで表現. られるようになった。このように現代では日本画. の幅が広がることを期待しこのテーマを設定する. で使用されている材料でも安価で色数も豊富なも. に至った。. のが入手することができ学校現場での活用が可能. 一般的に日本画制作の特徴として,観察を重視. だと考えられる。そこで本研究では,日本画で使. しスケッチや構図の検討を重ねるといった特徴は. 用される明治以前の製法で作られた染料・泥・水. あるが,今回の研究テーマである日本画材料の活. 干絵の具を中心として教材に使用する。. 用という点からは「天然顔料が本来持っている美 しさ」や「水の流れ方や筆の動きによるダイナミ. 3. 本研究における日本画材料の選定・テー マ古典的技法について 1・2で学校教育の現状を鑑み検討した結果, 本研究では日本画材料の中でも比較的安価で,明. ズム」の方が「正確に物を表す」ことや「完成度 を高める」ことよりも重要であると考えたため, 今回はドーサを引いていない麻紙に膠を混ぜてい ない顔料を使って実践を行なった。 大学生には前述した目標に加え実際に外に出. 529.

(5) 大 石 朋 生. てスケッチをし,季節の色を探した上,各人で. 内2回はイメージを膨らませるための手段とし. テーマを設定して描いてもらい,中学生との比. て,屋外スケッチ等の構想に当てた。その後,膨. 較検討を行うこととした。. らませたイメージを高め,再検討するために互い のスケッチと表現したい感情の整合性・共感性を. 3-3 学習環境に合わせた技術について. 検討する機会を作品鑑賞により設けた。その際,. 作品を制作し表現を伝えるべく検討する上で今. 心に残った感情を具体的に言語化し共有した。そ. まで使用したことがない(扱いにくい)材料に対. の後,5回の授業時間を使って裏彩色・箔・揉み. し,どのように生徒が向き合うのかを検証するた. 紙等の古典技法により,言語化されたイメージを. めに,制作初期段階ではできる限り技術指導を行. 色彩と形によって表した。. わない方法をとった。このことで実際に作ってみ る・意味を考える・批評する(批評を聞く)・検. 4−1−3 結果と考察. 証を踏まえて新しいイメージを創出するという循. ① テーマについての考察. 環が生まれ,これを粘り強く支えることは美術科. 自由に実験的な表現を試みることができるテー. で育む「生きる力」そのものを主体的に身につけ. マの設定を理解し,肯定的に試作を試みる学生と. る土壌にもなりうると考えたからである。日本の. テーマや作業内容を考えすぎて,制作の手が止ま. 絵画に伝わる素材理解を深め,また素材との成り. る学生とに分化した。前者は,「北海道の冬の憂. 立ちと背景を知り,活用を試みることから大きな. 鬱な気分」 (写真1)や「帰宅時の胸に迫る空の色」. 振幅を持つ「美術文化」 「伝統文化」への興味関. (写真2・3)など作者が自信を持って表現し,. 心を高めることが期待できる。. 充実した内容と独自性の高い表現の合致が見られ た。また感情を言語化する段階では目立たなかっ. 3-4 大学・中学校の比較 . た学生でも,にじみや裏彩色の効果や形から触発. 古典材料に対する興味関心の高まりが,年齢に. されて情感が伝わってくる作品もあった。(写真. 応じてあるかどうかを検証するために大学・中学. 4)また「お腹を壊した際の苦しみと治った時の. 校の比較検討を行う。まず日本画の材料(水干絵. 喜び」のように,作品からはその感情や意図が読. 具)を滲む状態でどのように扱うのかを検証し,. み取れないものの,実験的に制作し興味深い試み. 加えて裏彩色で描き進める生徒と,表から彩色す. をする学生もあった。一方で制作の手が止まる学. る生徒の作品を鑑賞し表現の違いに気づくことが. 生の多くは,一度は抽象的な表現を試みたものの. できるか検証する。. 色が濁る事や,言語化されたイメージから外れる のではないかといった心配から作業が中断するよ. 4.日本画材料を使用しての授業実践. うだった。この場合,ある程度色遊びや別の紙で 試作を行い,その後再度制作に戻った。どうして. 4-1 大学での授業実践. もイメージを深めることが難しい場合は,具体的. 「材料研究としての日本画」. なモチーフを加える事で異なる観点から作品イ メージの再構築を試みた。(写真5)また,抽象. 4−1−1 題材設定の目標. 的なテーマは設定したものの具体的な描写で表現. 心に残った感情を色や形で表す. する経験が強すぎて,色や形を自由に扱うことが 困難な学生もいた。. 4−1−2 学習展開. ② 技術指導についての考察. 美術分野に所属する2年生を対象として全15回. ある程度の技術的経験を有している大学生では. の授業を行なった。. あるが,日本画で使用される画材は初めてという. 530.

(6) 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察. (写真3) 大学生作品 「帰宅時の胸に迫る空の色 (部分) 」. (写真1)大学生作品 「北海道の冬の憂鬱な気分」. (写真4)大学生作品「青い池」. 滲み方や垂らしこみなどの技法についても,表現 したい感情やイメージに合わせて独自に技術を発 展させながら制作に生かす様子が見られた。 ③ 作品の「描写」に関する考察 良い点として,こだわりを持って粘り強くイ メージから現れた形や空間を描写する態度が見ら れた点が挙げられる。反面,一度決めた描写スタ (写真2)大学生作品 「帰宅時の胸に迫る空の色」. イルを更新しながら制作することができず,制作 に飽きてしまう学生も見られた。このため途中何. こともあり興味・関心は高かった。特に裏彩色や. 度か互いの作品を鑑賞する時間を設け,作者以外. 箔押しは他の生徒の制作を見ながら,自分の仕事. が作品に持つ印象を,多角的に取り入れることの. に応用して反映させる学生が多数見られた。また,. 重要性について説明しながら制作を進めた。大学. 531.

(7) 大 石 朋 生. (写真5)大学生作品「カラス」 (写真7)大学生作品「朝露」. 現の面白さと,意図的に作った描写部分との融合 を試みながら制作を進めた。(写真6・7) 4-2 附属中学校での授業実践 「みんなで作る季節の色」 4−2−1 題材設定の目標 絵具のにじみによって得られる色や形の組み合 わせを楽しむ 4−2−2 学習展開 色や形で「季節」を表すというテーマで授業実 (写真6)大学生作品「天の川」. 践を行なった。 まず導入で実際の日本画作品の鑑賞と,古典材. 生の傾向として具体的な描写や写実に慣れている. 料がどのように作品に反映されるのか,実際に作. ためそこからはみ出すことに躊躇する傾向があ. 品を鑑賞した。鑑賞した作品は当該講師の作品を. り,自己評価の観点として面白さやダイナミック. 持ち込んだので,美術館では観ることができない. な表現よりも,丁寧で綺麗に描けているかどうか. 距離で,岩絵の具の鮮やかさや絵肌の美しさを体. を好む傾向が確認された。また完成度に対する強. 験した。. い意識を持っている学生も多く,偶然にできた表. その後,本時の作品例示と実際の制作を行った。. 532.

(8) 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察. (写真11)ワークシート3 中学生生徒記述. の枯れた花や草の中にも命があるのではないかと 思った」や(写真9) 「冬の荒れている吹雪がかっ (写真8)「みんなで作る季節の色」ワークシート. こいいと思ったから」といった記述からも季節を 色や形で表すということへの興味が伺える。また,. チューブから出す絵具と違い,水簸された顔料を. 「今回学んだ色や形を使って次はどんな作品を作. 水で溶き,絵具を作るところから始めるため混乱. りたいですか?」という質問に対して,多くの生. が予想されたが,思いの外スムーズに着色の工程. 徒が「意外と失敗したと思っていても味があって,. まで進んだ。これは実際に日本画で使用する重い. 自分の気分・感じたことを形にしたり色に表した. 絵皿を使わずに,紙コップや紙皿を代用したこと. りできる」といった記述や「もっと大きな紙で形. が大きかった。その後,出来上がった作品の鑑賞. のあるものに貼り付けてみたい」など今回の実践. を行ない最後にワークシートに記入して終了した。. を肯定的に捉え,次回への興味や意欲へとつなげ. 考察は作品鑑賞とワークシートの双方から行. ているところからテーマが妥当だったと考えられ. なった。 (写真8). る。(写真10・11) ② 技術指導についての考察. 4−2−3 結果と考察. 生徒のワークシートに「自分で何を作っている. ① テーマについての考察. か分からないくらい不思議な感じがしたけど,自. ワークシートから見られるテーマへの反応は概 ね良好だった。これは,授業後の感想の中に「冬. (写真9)ワークシート1中学生生徒記述. (写真10)ワークシート2 中学生生徒記述. (写真12)中学生生徒作品. 533.

(9) 大 石 朋 生. (写真14)作品鑑賞の様子. (写真13)中学生生徒作品. 分的にはうまくいったと思います。 」といった記 述があり,この感想が初めて体験する材料におけ る技術の実際をよく物語っている。美術において 優良な材料とは生徒がそれぞれでの技術や技法を. (写真15)作品鑑賞の様子. 編み出し,それに材料の方が応える汎用性が求め られる。この点において日本画の材料は優良な素. から春を含む)の季節を選択した生徒が多かった。. 材といって良いと考える。教員が先んじてどの様. 実践を行なった時期が6月だったため,春や夏の. に使用すれば効果的かどうかを指導しすぎると,. 色彩を表現する生徒が多いのではと予想していた. 生徒の自由な表し方を奪うだけでなく顔料の持つ. が,北海道の気候・風土の中でも冬の気候が生徒. 本来の発色やダイナミックな筆の動きを損ないか. に与える印象として強く残り,気候・風土の影響. ねない。. が表現に現れたと言える。感想の記述を見ると冬. また,何人かの生徒は作品を3枚別の紙で制作. に対する肯定的なイメージが多かった,このこと. しそれらを組み合わせて季節の形のみに止まらず. で生徒が北海道の気候・風土に対して愛着を持っ. 情景描写や空間描写を試みていた。 (写真12・. て接しているということが確認できた。. 13)また別の何人かの生徒は,点描や吹き流しな. 制作終了後の作品鑑賞時に同じ季節の表現で. ど教えていない技術を使って描き方を変え,イ. あっても,表し方の違いによって捉え方の違いが. メージの表現を試みていた。このことは発想の豊. 描写の違いとして現れることが共有することがで. かさが技術や技法を創造するものであると考察で. きた。(写真14・15)このことで,同じ季節を取. きる。. り上げても日本画の用具・材料を扱うことで従来. ③ 作品の「描写」に関する考察. とは違った多様な感情表現が可能になるというこ. 生徒の作品を見たところ,「冬」(秋から冬,冬. とを示している。. 534.

(10) 小・中の学校教育における日本画材料の活用に関する考察. また,制作した作品を鑑賞教材として取り上げ. 応じたテーマの設定方法や,抽象的な色や形が創. 「冬の神秘的な美しさ」や「夏の多様な豊かさ」. り出す良さに気づくことによって,学校教育に活. といった風土に根ざした美意識や自己肯定感を共. 用の可能性があることがわかった。また,水彩絵. 有し,日本美術と結びつけて興味・関心を高めて. の具やアクリル絵の具とは逆に,滲みやすく乾き. いくことは効果的であるということが確認できた。. にくい絵具であるからこそ,何度も違った表し方 を試みることができる材料であると言える。様々. 5.おわりに. な試作を試みることで表現と鑑賞の関係性や,往 還の中からの気づきや発見が得られ,表現は広が. 本研究では,大学生と中学生の実践授業を比較. りを見せる。この学びのイメージこそ,美術で育. しながら,色彩とにじみによって現れた形との組. む「生きる力」そのものを主体的に身につけるプ. み合わせから想起される「季節」や「感情」を表. ロセスとなりうる。日本美術に材料の観点から理. す材料の可能性を探り,日本美術への関心を高め. 解を深め,素材の特性や扱い方を知り自分らしい. るための手がかりを獲得した。. 表し方や扱い方を模索することで,伝統文化への. 日本画の材料を活用した教材は,気候・風土に. 興味関心を高めることが期待できる。 また,日本画材料の中で今回は扱わなかった「絵 絹」や「岩絵の具」等の材料にも教材として,活 用の可能性があると考える。自分の手で作った岩 絵の具や泥絵具を,自作した紙に表現する行為は 生徒の意欲を高め,より高い学習効果を醸造する ことが期待できる。絵具や紙がどの様に作られる のか知ることができれば,日本美術への関心が高 まるだけでなく,生徒の美意識の高まりや生まれ 育った風土への愛着心を育てることも期待できる。 さらに,授業実践の中で見かけた何人かの生徒 は,筆で塗るだけではなく指やティッシュを使い, 自分の感覚で表現方法や技術を発展させている。 (写真16・17)この意欲を生かすためにも,安価. (写真16)絵の具を筆で塗る様子. で扱いやすい材料ばかりではなく,生徒の工夫が より顕在化しやすい描画材料を学校教育に導入し 活用することが必要だと感じた。. 引用文献 ⑴ 蝦名敦子(2003) 『鑑賞教育における複製や模写の問 題』−日本画の授業実践をケーススタディとして−美 術教育学24号 pp.113-125 ⑵ 川嶋渉,三橋卓,横田学,竹内晋平(2006) 『小学校 との連携による日本画教育の意味』京都市立芸術大学 紀要第61号 pp.59-63 ⑶ 文部科学省, (2008) 『小学校学習指導要領解説図画. (写真17)絵の具を指を使い塗る様子. 工作編平成20年8月』pp.44. 535.

(11) 大 石 朋 生. ⑷ 早川陽(2015)『日本画の水簸絵具とその美術教育に おける活用法に関する考察』学苑・初等教育学科紀要 No.896 pp.2-18 ⑸ 林蔓麗(1989)『近代日本図画教育方法史研究』 ,東 京大学出版会 pp.71 ⑹ 小野文子,間島秀徳(2016)『対西洋としての日本画 の創出と再考』大学美術教育学会「美術教育学研究」 第48号 pp.129-136 ⑺ 佐藤基樹,幸秀樹(2016)『図画工作科における水墨 画表現の可能性を探るための国際比較研究』大学美術 教育学会「美術教育学研究」第48号 pp.193-200. (旭川校准教授). 536.

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参照

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