修学旅行でのアレルギー等緊急時を想定したチームシミュレーション講習における効果と課題
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第69巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 69, No.2. 平 成 31 年 2 月 February, 2019. 修学旅行でのアレルギー等緊急時を想定した チームシミュレーション講習における効果と課題 山田 玲子・福田 博美*・藤井 紀子*・岡本 陽*・小川真由子** 北海道教育大学札幌校医科学看護学研究室 *. 愛知教育大学養護教育講座. **. 鈴鹿大学こども教育学部. The Problems and Effects of Team Simulation Exercises for an Allergic Emergency During a School Excursion YAMADA Reiko, FUKUDA Hiromi*, FUJII Noriko*, OKAMOTO Akira* and OGAWA Mayuko** Department of Clinical Science and Nursing, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education *. Department of School Health Sciences, Aichi University of Education **. Faculty of child education in Suzuka University. 概 要 食物アレルギー児童・生徒は年々増加しており,また学校での対応が必要な事例も数多く報 告されている。2015年(平成27年)に施行されたアレルギー疾患対策基本法第9条に定められ ている通り,学校は児童・生徒の安全,安心を確保するためにアレルギーの原因となるアレル ゲンの接触への予防に加え,アレルギーが発症し,さらに発展してアナフィラキシーに至った 場合への緊急時対応の体制を構築することが必要である。また,食物アナフィラキシーは突発 的に症状を呈する場合が多く,さらに運動などの要因により初発の事例も報告されている。発 症時には養護教諭や管理職が対応するだけではなく,居合わせた教職員が適切に判断し対応す る事が求められる。しかし,学校における児童・生徒の安全を守るために,アレルギー対応に 関する現職教育が必要であることは認知されているものの,自動体外式除細動器(AED)を 用いた一次救命処置(Basic Life Support: BLS)の講習などと比較すると,一般的に実施状況 は低い傾向にある。 そこで我々は,高等学校と大学の養護教育講座との連携により,特にアレルギー等緊急時を 想定したチームでの対応に焦点をしぼった講習を企画した。具体的には,修学旅行時に食物ア ナフィラキシーショックを起こした生徒を想定した高機能シミュレータを用いてグループ演習 を実施した。この研究の目的は,アレルギー等緊急時対応に関する講習会を受講した教員の受 講前後の自己評価の変化と感想等自由記述の内容を分析することから,チーム対応に焦点をお いた講習の効果と課題を考察することである。受講前後の自己評価の変化からは,アレルギー. 313.
(3) 山田 玲子・福田 博美・藤井 紀子・岡本 陽・小川真由子. 等緊急時の対応に関する研修を継続的に複数回受講することとシミュレータを使用するなど場 面を想定した講習の有効性が示唆された。そして対象者の自由記述からも,『緊急時における 教員同士の連携の大切さ』や『実際に対応する場面になっての困難』が受講者に理解され,緊 急事態はいつでも起こり得るとの危機意識を持ち,準備することの重要性に気付くなど,チー ムシュミレーション講習の効果が確認できた。. 応することになると,これらの教職員が不在の場. Ⅰ.はじめに. 合に対応が遅れるおそれがある。また,アレルギー. 現代の日本では食物アレルギ―有病率の増加に. 対応は抗アレルギー薬の服用やアドレナリン自己. 伴い,集団生活の中での誤食予防・緊急対応体制. 注射薬(エピペン®)の使用に伴う介助,救急車. の確立は大変重要な課題である。学校現場におい. の手配や誘導,かかりつけ医や学校医への連絡,. ても,2013年(平成25年)の文部科学省の調査に. 保護者への連絡等,複数人でのチーム対応が求め. おける食物アレルギー児童・生徒は小・中・高校. られる。そこでチームでの対応を想定した,教職. 1). あわせて4.5%であり,平成19年の2.6%より増加. 員全員に対する現職教育を実施し,共通理解を図. している上,学校での対応が必要な事例も数多く. る必要性がある。前述のアレルギー疾患対策基本. 報告されている。2015年(平成27年)に施行され. 法第18条においても,学校等の教職員の研修の機. たアレルギー疾患対策基本法第9条に定められて. 会の確保についての事項が定められており,学校. いる通り,学校は児童・生徒の安全,安心を確保. におけるアレルギー対応は一部の教員だけに留ま. するためにアレルギーの原因となるアレルゲンの. るものではないことがわかる。. 接触への予防に加え,アレルギーが発症し,さら. 学校における児童・生徒の安全を守るために,. に発展してアナフィラキシーに至った場合への緊. アレルギー対応に関する現職教育が必要であるこ. 急時対応の体制を構築することが必要である2,3)。. とは認知されているものの,自動体外式除細動器. アレルギーをもつ子どもが学校に通う際には,. (AED) を 用 い た 一 次 救 命 処 置(Basic Life. 健康調査票等で学校に報告しており,学校でアレ. Support: BLS)の講習などと比較すると,一般的. ルギーを発症した場合,医師が記入した学校生活. に実施状況は低い傾向にある1,6,7)。そこで我々. 管理指導表(アレルギー疾患用)に基づき養護教. は附属高校の主導により,大学の養護教育講座と. 諭が容態の変化を観察し,必要に応じて抗アレル. の連携による現職教育を過去3回実施している。. ギー薬の服用や,場合によってはアドレナリン自. 4年目となる今回は,特に緊急時におけるチーム. 己注射薬(エピペン®)の使用が行われている。. での対応に焦点をしぼり,修学旅行時に食物アナ. しかしながらアナフィラキシーは進行が早く,短. フィラキシーショックを起こした生徒を想定した. 時間で生命の危険を伴う。アナフィラキシーに発. 高機能シミュレータを用いたグループ演習を実施. 展した場合,アレルギーを発症してから心停止ま. した。また,講習の効果と課題を考察するため,. での中央値はハチなどの昆虫毒の場合15分,また. 講習時に質問紙による調査を行ったので報告する。. 食物アレルギーの場合30分となっている4)。また, 食物依存性運動誘発アナフィラキシーは学校生活 の中で発症しやすく,既往を有さない初発の事例 も認められるなど突発的にアレルギー症状を呈す 5). Ⅱ.研究目的 この研究の目的は,アレルギー等緊急時対応に. る場合も想定しなければならない 。このためア. 関する講習会を受講した教員の受講前後の自己評. レルギー対応に関して養護教諭や管理職のみが対. 価の変化と感想等自由記述の内容を分析すること. 314.
(4) チームシミュレーション講習における効果と課題. から,チーム対応に焦点をおいた講習の効果と課. べた後,部屋に戻って体調不良となり,同室の. 題を考察することである。. 生徒が教員の部屋へ呼びに来ました。対応して ください。」. Ⅲ.対象および方法. 使用した器材: ・実施者の目線と会話の記録:サングラス型マ. 1.対象・時期. イクロSD対応ビデオカメラ(HD Camera. 対象:A大学附属高等学校教員27人(教諭25人,. Eyewear(1080P):ブロードウォッチ). 養護教諭1人,副校長1人) 時期:平成30年5月14日 2.修学旅行でのアレルギー等緊急時対応講習の 設計. ・全 体の様子の撮影:3DデジタルHDビデオ カメラレコーダー(HDR-TD20V:SONY) ・エピペン®トレーナー ・多職種連携ハイブリッドシミュレータ シナ. 本講習では次の表1に示した ⑴アレルギーの しくみと症状について基礎的な理解を得ている ⑵アナフィラキシー発症時にチームで対応するこ. リオ(京都科学) グループ演習の様子はビデオカメラで録画した が,今回の分析には使用しなかった。. とができる ⑶アドレナリン自己注射薬を投与す. 3.自己評価のための質問紙調査. ることができる,の以上3点を到達目標として設. 受講前後の対応の自己評価を確認するため,受. 定し,講習を行った。また,受講者である現職教. 講者に対して講習前と後に質問紙調査を行った。. 職員の対応に関する自己評価を質問紙により調査. 1)プレアンケート. し,講習前後の変化を確認した。. プレアンケートはアレルギー等緊急時対応に関. 本講習は60分で構成されていた。アレルギーの. する質問(1.アナフラキシーの判断ができる,. 基礎知識に関する講義,アドレナリン自己注射薬. 2.アドレナリン自己注射薬を投与する判断がで. の演習,緊急時対応の手順の確認に関する講義を. きる,3.アドレナリン自己注射薬を投与する手. 15分,修学旅行の緊急時対応の演習として13人1. 技ができる,4.緊急時対応の手順を把握してい. グループとした演習8分を2回行った。演習後に. る,5.急変時に応援を適切に呼ぶことができる). 質疑応答10分の構成とした。アレルギーに関する. 5項目に関して,「良くできる」「できる」「少し. 講習がはじめての受講者が1人のみだったため,. できる」「あまりできない」「まったくできない」. 免疫学的な基礎知識を短縮した上で,チームでの. までの5段階で自己評価をおこなった。. 対応を強化するために建物を3階分使用した演習. 2)ポストアンケート. とした。. ポストアンケートはプレアンケートと同様の質 問に関する自己評価,および講習自体の感想を自 表1 到達目標. ⑴ アレルギーのしくみと症状について基礎的な 理解を得ている ⑵ アナフィラキシー発症時にチームで対応する ことができる ⑶ アドレナリン自己注射薬を投与することがで きる. 由記述で求めた。 3)講習前後でのアレルギー等緊急時対応に関す る自己評価の変化 講習の効果を評価するため,上述の受講者の自 己評価5項目について,受講の前後での変化をχ2 検定により評価した。 4.倫理的配慮. 場面設定:. 研究の実施にあたり,北海道教育大学倫理審査. 「修学旅行中の宿泊施設で食物アナフィラキシー. 委員会の承認(北教大研倫2018011004)を得た。. のある生徒が,アレルギー対応をした夕食を食. さらに対象者には口頭により研究の目的,方法,. 315.
(5) 山田 玲子・福田 博美・藤井 紀子・岡本 陽・小川真由子. プライバシーの保持,匿名性の保証,データの使. まりできない」「全くできない」を「できない」. 用範囲について説明し,同意を得たうえで実施し. 群に分けた場合,「1.アナフィラキシーの判断. た。. ができる」については,27人中21人が「できる」, 6人が「できない」と回答した。以下同様に「2. アドレナリン自己注射薬を投与する判断ができ. Ⅳ.結 果. る」について27人中22人が「できる」,5人が「で. 1.アレルギー等緊急時対応に関する講習の経験 回数. きない」と回答した。「3.アドレナリン自己注 射薬を投与する手技ができる」について27人中25. アレルギーに関する講習の受講経験を聞いたと. 人が「できる」,2人が「できない」と回答した。. ころ,27人中26人に受講経験があった。受講回数. 「4.緊急時対応の手順を把握している」につい. については,3回の人が最も多く18人(66.7%),. て27人中23人が「できる」,4人が「できない」. 次いで1回の人が4人(14.8%),2回2人(7.4%). と回答した。「5.急変時に応援を適切に呼ぶこ. 4回・5回・0回の人が1人(3.7%)であった。. とができる」について27人中24人が「できる」,. 2.受講前後での比較. 3人が「できない」と回答した。. プレアンケートは講習開始直後に受講者27人に. ポストアンケートは受講後に受講者27人に配布. 配布し,27人から回答を得た(回収率100%) 。プ. し,27人から回答を得た(回収率100%)。ポスト. レアンケートの結果を表2に示す。 「良くできる」. アンケートの結果を表3に示す。前述したプレア. 「できる」 「少しできる」までを「できる」群,「あ. ンケート同様に「できる」群と「できない」群に. 表2 プレアンケートの質問項目と自己評価 (人) できる 質問項目. 良く できる. できない 少し できる. できる. あまり できない. 全く できない. 1.アナフィラキシーの判断ができる. 0. 7. 14. 1. 5. 2.アドレナリン自己注射薬を投与する判断ができる. 0. 9. 13. 0. 5. 3.アドレナリン自己注射薬を投与する手技ができる. 1. 15. 9. 1. 1. 4.緊急時対応の手順を把握している. 1. 9. 13. 0. 4. 5.急変時に応援を適切に呼ぶことができる. 1. 12. 11. 0. 3. 表3 ポストアンケートの質問項目と自己評価 (人) できる 質問項目. 良く できる. できる. できない 少し できる. あまり できない. 全く できない. 1.アナフィラキシーの判断ができる. 0. 11. 14. 0. 2. 2.アドレナリン自己注射薬を投与する判断ができる. 0. 17. 9. 0. 1. 3.アドレナリン自己注射薬を投与する手技ができる. 5. 17. 4. 0. 1. 4.緊急時対応の手順を把握している. 2. 12. 11. 0. 2. 5.急変時に応援を適切に呼ぶことができる. 3. 11. 8. 0. 5. 316.
(6) チームシミュレーション講習における効果と課題. 分けたプレアンケート同様に「できる」群と「で. ければならないのか大変参考になった」「シミュ. きない」群に分けた場合, 「1.アナフィラキシー. レータを使用しての講習は大変良かった」「それ. の判断ができるについては,27人が「できる」,. ぞれの役割がわかりづらいこともあるが,協力し. 2人が「できない」と回答した。. て対応する事の大切さは理解できた」「何事によ. 「2.注射薬を投与する判断ができる」につい. らず備えが大切だとよくわかった」「できるつも. て27人中26人が「できる」 ,1人が「できない」. りでいても,わかっていない点が多いこと,緊急. と回答した。 「3.アドレナリン自己注射薬を投. 場面での判断をすることの難しさを改めて知っ. 与する手技ができる」について27人中26人が「で. た」「自分の至らなさの確認につながった」「実際. きる」 ,1人が「できない」と回答した。「4.緊. の対応にはたくさんの人手が必要なのだというこ. 急時対応の手順を把握している」について27人中. とがシミュレーションをやることでよりよくわ. 25人が「できる」,2人が「できない」と回答した。. かった」「このようなリアリティのあるトレーニ. 「5.急変時に応援を適切に呼ぶことができる」. ングをもっと経験すべきだと感じた」「わからな. について27人中22人が「できる」 ,5人が「でき. いことがわかってとても良かった」「勉強になっ. ない」と回答した。. た」「出番がなかったおかげで客観的に動きをみ. 以上の結果について,受講者の自己評価の変化. ることが出来たので,どのように動くべきか冷静. をχ2検定により評価した(表4)が,すべての質. に見られた」という記述があった。. 問についてP>0.05となり,受講前と受講後の自. ⑵ 講習受講後に生じた疑問. 己評価では有意差は認められなかった。. 講習受講後に生じた疑問については,「誰がど. 3.自由記述から. んな役割を担うか分からないところで,どう動い. 自由記述には,27人中23人が記載していた。内. ていいかわからなかった」「教員への連絡等は教. 容を分類すると『講習に対する評価』 『講習受講. 員がやるべきか,生徒にまかせていいのか?」「胸. 後に生じた疑問』『講習の改善点』『その他』の4. 骨圧迫をベッド上でやっていいのか疑問,ホテル. つに分けられた。. のベッドは柔らかいので」という記述があった。. ⑴ 講習に対する評価. ⑶ 講習の改善点. 講習に対する評価として, 「緊張感のある実際. 講習の改善点については,「時間がないところ. の現場をイメージした講習で良い経験となった」. だとは思うが,ロールプレイを行う前に一度実際. 「救急時に教員同士がどうやって連携していかな. の動きを確認したかった,ただ,実際の現場の状. 表4 受講前後での自己評価の変化 質問項目 1.アナフィラキシーの判断ができる. 群 できる できない. 2.アドレナリン自己注射薬を投与する判断ができる. できる できない. 3.アドレナリン自己注射薬を投与する手技ができる. できる できない. 4.緊急時対応の手順を把握している. できる できない. 5.急変時に応援を適切に呼ぶことができる. できる できない. 受講前. 受講後. P値. 21. 25. 6. 2. 22. 26. 5. 1. 25. 26. 2. 1. 23. 25. 4. 2. 24. 22. 3. 5. P=0.125 P=0.830 P=0.552 P=0.083 P=0.125. 317.
(7) 山田 玲子・福田 博美・藤井 紀子・岡本 陽・小川真由子. 況は多様で臨機応変に,が大前提だったと思う」. でも述べられており,今回の調査でも継続的に複. 「シミュレーション時に立体図等や部屋配置図が. 数回受講することの有効性が示唆された。. ないとイメージがわかない,個別に名札(役割). 次に,受講前後での自己評価の変化をみてみる. がわかるようにやる必要がある」 「もう少し具体. と,χ2検定において有意差は認められなかった. 的に設定を伝えていただければより現実的なロー. ものの,5項目中4項目で受講後の方が「できる」. ルプレイができたのではないかと思う」 「発見者. 群が多くなり,今回の講習には一定の効果があっ. は誰がなるかわからないので,その役を練習する. たと考えられた。有意差がなかった要因として,. 必要があるかなと思った」 「役割を決めずにその. 前述したように今回の受講者は3回以上の受講経. 状況に対処する練習も必要なのかなと思った」. 験がある人が多いことがあげられる。一方で「5.. 「シミュレーションで体験したが,最後に正しい. 急変時に応援を適切に呼ぶことができる」という. 対応パターン例など見られると良い」 「修学旅行. 項目では,受講前よりも受講後の方が自己評価が. の場面では,誰が生徒で誰が動ける先生なのかは. 低下した人がおり,チームシミュレーション講習. わかっているので,役割をあらかじめ全員で確認. を行ったことで,実際の場面での困難な側面が認. する必要があったと思う」. 識できた結果ではないかと考える。これに関して. ⑷ その他. は古川ら9)が,緊急時対応の際に「チーム」とし. ここでは,感想や反省点,教員としての心構え. て動くための明確な役割分担が大切だと述べてお. や不安に関する記述があった。. り,常に有事を想定して日頃から「チーム」で訓. 「実際に起こったら行動できるかどうか不安」. 練を行い,自身の役割を意識して行動できるよう. 「実際の状況に少しでも近づけるため緊張感を. に備えておくことが重要だと考える。そのため. もってのぞんだ」「常に生徒の命を第一に考えた. に,継続的な教育とシミュレータを使用するなど. 行動をとりたい」「想定しておくことが大事だと. の場面を想定した講習が有効である。. ®. 思った」 「AED,エピペン は積極的に打つ,意 識がないなら打て…案外抜けていることが多くい. 2.アドレナリン自己注射薬(エピペン®)を投 与する手技について. くつかが3に下がってしまった」 「何よりも人を. 今回の対象者の特徴は,アンケートの設問「3.. 集めて指示をだすことが大事」 「教員の部屋がバ. アドレナリン自己注射薬を投与する手技ができ. ラバラだと呼ぶのも大変だと思った。部屋の配置. る」と答えた人が多いことである。講習前は25人. も考えないといけない」. (92.6%),講習後は26人(96.3%)が「できる」 と回答している。これは,昨年度の講習ではエピ ペン®トレーナーを用いた手技確認と実践を交え. Ⅴ.考 察. た講習を行っており,この講習を受講した人が27. 1.講習の受講回数と自己評価の変化. 人中25人いたことが,実践的な講習がいかに効果. 講習の受講者27人中18人(66.7%)は,同様の. 的であるかを示すものである。大野10)も,現職. アレルギー等対応に関する講習を3回受講した経. 教員へのエピペン®トレーナーを用いたロールプ. 験があり,4,5回受講経験のある人を含めると. レイを取り入れた講習を行った後には受講者の. 合計20人(74.1%)が複数回の講習受講者であっ. 94.0%がアナフィラキシーの緊急対応ができると. た。そのため,アンケート調査でも,5項目すべ. 答えており,実践場面の講習の有効性を述べてい. ての質問について「できる」群が21人(77.8%). る。実際に児童生徒に対し学校でエピペン®を使. 以上と多かった。受講回数が多いほど,食物アレ. 用することに関しては,教員の使用への抵抗感が. ®. ルギーやアドレナリン自己注射(エピペン )使. 大きいことが報告されており11),手技確認と実. 用に関する理解度が増加することは,先行研究8). 践を交えた講習を行うことで,この抵抗感を軽減. 318.
(8) チームシミュレーション講習における効果と課題. することができると考える。. 4.シミュレーション教育の効果と課題. 3.自由記述からの分析. 今回のアンケート調査と自由記述より,ロール. 対象者の自由記述からは,チームシミュレー. プレイやシミュレータを使用した講習の効果が示. ション講習の効果が示唆された。特に,『緊急時. 唆された。文部科学省の「学校給食における食物. における教員同士の連携の大切さ』や『実際に対. 12) においても,教職員へ啓 アレルギー対応指針」. 応する場面になっての困難』が受講者に理解され,. 発する方法としてシミュレーションを用いた研修. 危機意識を持ち準備することの重要性に気付くこ. が推奨されている。また,木村13)も「最も効果. とが出来たのではないだろうか。それが,「良い. 的な研修は,食物アナフィラキシーが起きたとき. 経験となった」 「大変参考になった」「勉強になっ. を想定してシミュレート(模擬訓練)すること」. た」という記述となり,有事を想定してのグルー. と述べている。シミュレーション教育 (simulation-. プでの訓練の有効性が講習に対する良い評価につ. based education, SBE)に詳しい阿部14)は,SBE. ながったのではないかと考える。また,疑問とし. は学習者の知識と技術の統合により実践力を強化. て表出された「誰がどんな役割を担うか…どう動. する教育としてその効果が世界的に実証されてい. いていいかわからなかった」や「…連絡は教員が. る こ と を 報 告 し て い る。 加 え て こ れ はactive. やるべきか,生徒にまかせていいのか」 ,講習の. learningによる学習であり,学習者が能動的に学. 改善点として表出された「実際の現場の状況は多. 習に取り組むという特徴があることやチームワー. 様で臨機応変に…」や「役割をあらかじめ全員で. クの強化をねらった教育の意義が示唆されている. 確認する必要があったと思う」も,前述の『緊急. ことも報告している。今回,我々が実施したチー. 時における教員同士の連携の大切さ』と『実際に. ムシミュレーション講習は,アレルギー等緊急事. 対応する場面になっての困難』と関連していると. 態が学校内や校外学習時に起こった場合の教職員. 考えられる。前述した古川ら9)は,食物アレルギー. の対応を実践的に訓練することのできるものであ. 即時型症状への対応を適切に教職員に指導する上. り,また教職員一人一人に危機意識を持ち準備す. での5つのポイントとして, 「チームとして動く. ることの重要性に気付くことが出来る内容であっ. Work as a team」「リスクを知るKnow the risk」. たと言える。さらにチームで行ったことで,緊急. 「プランを作るMake a plan」 「キットを用意す. 時の教員同士の連携や役割分担を明確にすること. るGet a kit」 「 プ ラ ン を 維 持 す るMaintain your. の必要性が認識できた。しかしその反面で,緊急. plan」をあげている。 「チーム」や「リスク」に. 時は誰が発見者になるかわからないことから,役. ついては,今回の講習で認識されたと考えられる. 割を決めずに臨機応変に対応する必要も考えら. ため,さらに今回の経験を活かして「チーム」と. れ,その訓練との兼ね合いも必要となるだろう。. しての役割分担を事前に検討するとともに,自身. また,自由記述にて講習の改善点としてあがって. が勤務する学校に在籍するアレルギー児の状態に. いた「立体図や部屋配置図」といった事前の場面. 対する正確な把握や事故が起きやすい状況の把握. 設定に関しては,どこまで詳細に設定し受講者に. などが大切である。「プランを作る・維持する」. 伝えるかは課題である。その理由として,緊急時. に関しては,各都道府県等の食物アレルギー緊急. はいつどこで発生するかわからず,状況により対. 時対応マニュアルを活用して説明し,さらに今回. 応や行動が変化する可能性があることとマニュア. のような講習を年1回程度継続的に実施していく. ル的な内容にすることで教職員同士がその場で考. ことが必要であると考える。また「キット」につ. えて行動することができなくなる恐れがあるから. いては,各学校で講習を実施してみて必要だと思. である。アレルギー等の基礎知識や緊急時対応す. われる物品をまとめて準備しておき,教職員全員. るための技術を持ち,チームで連携することの共. に周知するなどの対策が必要である。. 通理解を図った上で,誰かの指示を待つのではな. 319.
(9) 山田 玲子・福田 博美・藤井 紀子・岡本 陽・小川真由子. く,自らが考えて最善の対応をとることができる. 6)井奥加奈,小切間美保,白石龍生:大阪府下の小学. ような講習を行うことが望まれる。個人個人が臨. 校を中心とした食物アレルギーに対する教員の実態と. 機応変に対応できる実践力を培うためには,どの ような講習・研修が適切であるかが今後の検討課 題である。. 問題点,大阪教育大学紀要59⑴,53-68,2010 7)康井洋介,徳村光明,井ノ口美香子ほか:慶應保健 研究,32⑴,55-59,2014 8)村井宏生,伊藤尚弘,川﨑亜希子ほか:食物アレル ギー・アナフィラキシーに関する講習の反復受講効果 と講習内容の問題点,日本小児アレルギー学会誌,32 ⑴,127-135,2018. Ⅵ.結 語. 9)古川真弓,佐々木真利,赤澤晃:学校・園への食物. 今回,我々は高等学校と大学の養護教育講座と の連携により,特にアレルギー等緊急時を想定し たチームでの対応に焦点をしぼった講習を企画・ 実施した。その結果,受講前後の対象者による自. アレルギー救急対応の指導,日本小児アレルギー学会 誌,28⑵,249-256,2014 10)大野泰子:今日の食物アレルギー対応と学校-エピ ペン®トレーナー講習による救急対応の向上-,鈴鹿短 期大学紀要,第35巻,25-35,2015. 己評価の変化からは,アレルギー等緊急時の対応. 11)村井 宏生,藤澤 和郎,岡崎 新太郎ほか:エピペン®. に関する研修を継続的に複数回受講することとシ. 実技指導を加えた食物アレルギーに関する講習会は,. ミュレータを使用するなど場面を想定した講習の. 学校関係者のアナフィラキシー対応意識を改善する, 日本小児アレルギー学会誌,27⑷,566-573,2013. 有効性が示唆された。さらに自由記述からも,. 12)文部科学省:学校給食における食物アレルギー対応. 『緊急時における教員同士の連携の大切さ』や『実. 指針,Available at: http://www.mext.go.jp/component/. 際に対応する場面になっての困難』が受講者に理. a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2015/. 解され,緊急事態はいつでも起こり得るとの危機 意識を持ち, 準備することの重要性に気付くなど, チームシュミレーション講習の効果が確認できた。. 03/26/1355518_1.pdf, 9/11/2018 13)木村彰宏:食物アナフィラキシーの既往がある子ど もの学校での対応,学校給食アレルギー事故防止マニュ アル,合同出版,43-53,2014 14)阿部幸恵:医療におけるシミュレーション教育,日 本集中治療医学会雑誌,23,13-20,2016. 【付 記】 本研究はJSPS科研費JP17K04835,JP18K02842 の助成を受けたものである。. (山田 玲子 札幌校准教授) (福田 博美 愛知教育大学教授) (藤井 紀子 愛知教育大学非常勤講師) (岡本 陽 愛知教育大学准教授) (小川真由子 鈴鹿大学助教) . 引用文献 1)財団法人日本学校保健会:平成25年度学校生活にお ける健康管理に関する調査事業報告書,2013 2)厚生労働省:アレルギー疾患対策基本法,2015 3)浅田知恵:教員養成の段階における食物アレルギー 対応に関する指導の必要性と課題,教職キャリアセン ター紀要,Vol.3,59-65,2018 4)Pumphrey RSH:Lessons for management of anaphylaxis from a study of fatal reactions, Allergy 30 ⑻, 1144-1150, 2000 5)海老澤恭子,廣原紀恵:高等学校における食物依存 性運動誘発アナフィラキシーの対応事例,茨城大学教 育学部紀要(教育科学編)61号,229-236,2012. 320.
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