「映像メディア表現」の教材開発 (II) -フィルムを使ったダイレクト・アニメーション制作(出題と材料 編)-
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第57巻 第2号 JournalofHokkaidoUniversityofEducation(Education)Vol.57,No.2. 平成19年2月 February,2007. 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅱ) −フイルムを使ったダイレクト・アニメーション制作(出題と材料 編)−. 伊 藤 隆 介 北海道教育大学札幌枚 視覚・映像デザイン研究室. EducationalMethodsandMaterials. fortheUnderstandingMovingImageatSchooIs(2) −MaterialsforCamera−1ess Animation Films−. ITO Ryusuke DepartmentofArtEducation,SapporoCampus,HokkaidoUniversityofEducation. 概 要 往々にして簡易な映像玩具か,コンピュータを使用したマルチメディア実習に二分されがちな「映像メディ ア表現」の教育だが,その間をつなぐ教材として映画フイルムを使ったダイレクト・アニメーションの教材 を紹介する.手を使って動画をフイルムにじかに描き込むことにより,実材による絵画的アプローチを行い ながら,映像メディアの原理の理解や特性への意識を深める.この項では,教材のねらいや背景,その方法, 材料の研究などを中心に報告する.. 1.はじめに:フイルムを使った映像教育の 意味. コンピュータを利用した映像制作やアニメー. メディア表現」学習の基本になると考察する.. たとえば,映像玩具では楽しみながら映像の構 造を理解・表現ができた児童・生徒であっても, パソコンを使った実習ではまず機械(ツール)の. ション実習は,すでに学校現場でも行われつつあ. 使い方を習得する必要があることから,苦手意識. る.筆者はその教育効果に疑問をはさむものでは. や先入観を持つ場合も少なくない.また,コン. ないが,実りある実施のためには課題や解決すべ. ピュータ教室などの施設が整備されていない教育. き点は多いと考える.「アニメーション」や「マ. 現場では,数人で1台のパソコンを使ったグルー. ルチメディア」といった個別分野ではなく,写真. プ制作の授業形態となり,必ずしも全員が能動的. (映像の発明)からデジタルメディアにわたる「映. に実制作に関われないなど,実施上の問題もある.. 像」を体系的に理解する機会こそ,豊かな「映像. 今日,コンピュータによるアニメーション制作. 223.
(3) 伊 藤 隆 介. では,アプリケーションの機能を使うことによっ. ぶ技法は,フイルム・ペインティングあるいはシ. て,テレビ番組と遜色のない洗練された映像効果. ネカリグラフィとして,実験映画やアニメーショ. を容易に得ることができる.これは生徒たちの興. ンの技法として定着しているものである.カメラ. 味や感心を喚起する長所はあるものの,メディア. レス・アニメーション,シネカリグラフ(シネカ. 教育の初期段階から,容易に「既製品」らしい成. リ),フイルム・ドローイングなど,様々な名称. 果を得られる動画の自動生成機能(機械による中. で呼ばれている.カメラによる現実のイメージの. 割り等)などを使用させることには不安もある.. 撮影と定着を行うのではなく,イメージを映画. あまりに便利すぎ,リテラシー教育を通して映像. フイルムに直接描き込む・塗るという,絵画的な. の成り立ちを理解するというよりも,コンピュー. アプローチによって映像作品を制作し,上映する. タを使った表現や技術のブラックボックス化を助. 手法である.(図1). 長しまいかとも考えられなくない.. 映像メディアのリテラシー教育では,ときに ゆっくりしたペースで丁寧な学びも必要ではない L▼J. かと筆者は考えている.前稿ではフェナキスティ ●、. スコープ(驚き盤)やゾートロープといった「映. の具など従来の図工・美術教育の実材を使い,自. 区=. フイルム・ペインティング. 分の手を通した造形表現でありながら,よりいっ そう映像メディア表現の成り立ちを体感・意識で. ダイレクト・アニメーションの手法は,大きく. できる教材として「ダイレクト・アニメーション」. 二つに分類されている.透明な映画フイルム(い. を紹介するものである.. わゆる巣抜けフイルム)に,インクやマーカーな. 筆者は過去10年間,本学札幌校の学校教員養成. どで動画を描いていく技法である「フイルム・ペ. 課程,芸術文化課程美術コース,北海道の免許法. インティング」と,その反対に現像を通し黒色化. 認走講習,札幌市10年者研修のカリキュラムなど. した乳剤(ポジフィルムの場合は未露光,ネガフィ. の一部として,ダイレクト・アニメーションの教. ルムの場合は感光済み)のフイルムを針やスク. 材を使った映像メディアの理解教育を行ってき. レーパーなどで削り取ってイメージを描く「シネ. た.同時に北海道立近代美術館,福岡アジア美術. カリグラフィ」である.多くの作品はこのバリエー. 館をはじめとする機関でも,市民向けのワーク. ションか,複合で作られている.. ショップを開催してきた.本ノ稿はその経験や蓄積. をまとめ,指導法のガイドライン作りを試みるも のである.. 3.教材としてのダイレクト・アニメーショ ンの意味. 2.ダイレクト・アニメーションとは何か この稿で「ダイレクト・アニメーション」と呼. 224. (1)手を使った映像表現のよろこび. ダイレクト・アニメーションでは,マーカーや 塗料などを使い,自らの手を使って制作画面(フイ. 一. て「映画フイルム」を再評価する.マーカーや絵. r. アまでの映像表現の広がりをつなぐメディアとし. j. この論文では,映像玩具や写真,デジタルメディ. ∵﹁. 早∵下∴∵Jぺ. のガイドラインを紹介した.. ザl皇. を教材として使い,映像原理を理解する動画教育. 茸藩. 像メディア表現」分野における歴史的な映像玩具.
(4) 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅲ). 賞を通して,コマ(フレーム)とコマ,継続的に 動く映像の関係を理解できる.. また,映像メディアの際立った特性に「サイズ 感の喪失」がある.映像メディアではオリジナル の情報(フイルムやテープ,DVD)は存在する が,映像そのものには(実材系の美術作品のよう な)実体としてのオリジナリティはなく,像も自. 由に拡大や縮小され投影される.児童生徒は上映 を通し,スクリーンに拡大された線画や描線に素 朴な驚きを感じ,映像メディアの特性を意識する 図2 也材でフイルムに直接イメージを措いてゆく (ノーマン・マタラレンの制作風景). ルム)に自由にイメージを作っていく.その基本. 的な技法や道具などは,映像制作というよりは絵 画や版画の制作に近い.(図2). 制作者は描く,塗る,貼る,こする,削るなど. とともに,解像度の問題を意識したり,日常の絵 画表現のデリケートさをも再認識できる.. 4.美術史におけるダイレクト・アニメーショ ヽ. ノ. (1)美術史的背景と意味. のタッチの多様な工夫と,手作業の面白さを味わ. フイルム・ペインティングヤシネカリグラフィ. うことができる.パソコンのアプリケーションで. といったダイレクト・アニメーションの手法によ. も現実のペンやブラシを模した様々な作画ツール. る映像作品は,映画史上しばしば登場するととも. が用意されているが,従来の図工・美術教育で使. に,現在も多くの作家たちによって手がけられて. 用されている実材的な材料(絵具やペンなど)を. いる.そのほとんどは物語的(ナラティブ)構造. 生かし,より味わい深い質感の映像作品が作れる. によるドラマの伝達ではなく,色彩や描画,質感. ことを知ることで,映像メディアの成り立ちと表. などを強調し,抽象的なイメージとリズムによっ. 現の自由さに気づくことができる.. て感覚に訴えかける作品である.テーマ性や物語. 前稿の映像玩具を使った授業例では,数枚から. 性に主題を置くのではなく,形態や動きの美しさ. 十数枚単位の動画の制作を行った.これは時間に. や多様さを表現した作品群は「ビジュアル・. して数秒間のアニメーションだが,今回の事例で. ミュージック(視覚的な音楽)」とも呼ばれ,美. は映画フイルムを使用し,映写機で上映するため,. 術における抽象絵画と問題意識や性格を共有して. さらに動画数を増やすことができ,数十秒以上の. いる.. 本格的な「映画」作品を完成することができる.. こういった抽象的映画の直接の起源となるのは. 1920年ころの前衛(アヴァンギャルド)映画であ (2)映像表現の賃毒性を知る. 一方,映像メディアは,絵画などの伝統的な表. る.構成主義,ダダイズム,シュールレアリスム などの美術家たち,たとえばフエルナン・レジェ,. 現とは違った特性を持つ.その代表的なものは「時. マン・レイ,マルセル・デュシャン,サルバドー. 間」を扱う表現だということである.. ル・ダリなどによってその技法や視覚的話法が発. ダイレクト・アニメーションでは,自分の手で. 見されている.当時の美術家たちの実験精神と「動. ひとコマ,ひとコマの動画表現を試みることでで,. き」の表現への興味が,映画という時間芸術の領. 時間の概念を物理的に体感,意識することができ. 域へ拡張していったと捉えられる.. るようになる(詳しくは後述).さらに上映,鑑. それ以降もダイレクト・アニメーションを始め. 225.
(5) 伊 藤 隆 介. とする抽象的映像は展開と深化を続けている.こ れらは「美術作品」ではなく「映画」であったり. 「ビデオ作品」であるが,いわゆる劇映画やテレ ビドラマとはその性格を異にする.内容的にはむ しろ,前衛の造形運動が「映像」というプロパー 領域に巻いた問題意識が,絵画や彫刻などの造形 領域と同じく継続的に展開していると捉えられ る.すなわち,「美術」と「映像メディア」とい. う対立項ではなく,「映像メディア」を使った美 術運動の流れとして取り扱うことが自然であろ 図3 マクラレン「No.1」(1940). う.. (2)ダイレクト・アニメーションの代表的な作家 たちとその作品. この領域を代表する作家には,カナダのノーマ ン・マクラレンがいる.フイルム・ペインティング,. シネカリグラフィなどを様々な手法を駆使した作 品で知られる.特に「映像幻想(原題:Begone DullCare」(1949)では,ジャズピアニスト・オ スカー・ピーターソンの即興演奏(インプロビ ゼーション)に合わせ,水彩絵画風からペンによ. る硬質な描画タッチ,引っ掻きによる直線の組み 合わせなどの画面のテクスチャーと,それぞれに 感覚的に符合する自由な動きの変化により,モダ ンジャズの転調を巧みに表現している.また映画 フイルムのサウンドトラック(光学音声の情報). に画像を配置した音のアニメーションなど,多く の実験を行っている.(図3,4) アメリカの映像作家ハリー・スミス(1923∼). は,1939年から1946年にかけてフイルム上のろう けつ染めによって,抽象的なアニメーション映画 の制作を行っている.色と形態による空間感を構 成するバウハウスの系列を組む作風だが,手描き. 図4 マクラレン「BlinkityBlank」(1954)フイル ムを削るシネカリグラフィの技法. の偶然性に富んだ質感が,そこに深みや動きの喜 びを与えている.消しゴムやびんの底などの日常. スミスの映画手法は絵画や版画の技法そのもので. 用品をインクに浸してフイルムに押しつけ,さら. ある.(図5). にペンなどでその跡をなぞることにより,複雑で. 芸術映画における私的ドキュメンタリー等の作. 絵画的な透明感のあるイメージを作り出してい. 品スタイルを確立したスタン・ブラッケイジ(ア. る.ほかにもマスキングの効果によるフイルムの. メリカ)も晩年,絵画的なアプローチの映像作品. 塗装,ステンシルの利用など,画家の出身である. を手がけている.大判のフイルム上に様々な成分. 226.
(6) 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅲ). メージを作り出している.そうして得られた表面 をペインティングナイフなどでさらに削ってタッ. チを加えたり,さらに液などを加えて反応を促し たり,複雑で有機的なイメージを作り出している. (図6,7) キネカリグラフィはアニメーション表現として. 以外にも,しばしば実写などの映画の特殊効果と して使われてきた.ケネス・アンガー(アメリカ). の「花火(FireWorks)」(1947)では,神秘性 を表現する効果として実写映像にアニメーション 図5 スミス「No.1」(1940). 的表現が加えられている.(その場合,光学合成 ではなく,撮影済みフイルムを直接引っ掻くこと によって加えられている.)また日本の特撮映画 でも,怪獣の発する怪光線などの表現に,直接フイ. ルムを削り取る方法が使われている.どちらもキ ネカリグラフィの鋭角的な絵画風の質感が,実写 映像に挿入されたときの異化作用を目的とした効 果であると考えられる. (ただしマクラレンの作品〔たとえば「色彩幻. 想」の一部〕では,フイルム・ペインティングに よって作られた動画素材の背景に,カメラ撮影さ 図6 ブラツケイジ「Nightmusic」(1986). れた手描きの絵画的素材を光学合成する〔オブチ カル・プリンターによる焼き込み等〕など,重層 的な映像表現を行っている.また,ブラッケイジ. の作品では70mmなど大判の映画フイルムの上に 描かれたイメージを16mmフイルムに再撮影して 制作されているが,これらの絵画的イメージの「静 止」,あるいは「動きの遅い表現」は,本項にお ける実践では取り扱わない.). 5.講義の内容とプロセス ここで紹介する講義例は,大学等で行われる一 般的なものである.講義時間や対象によってその 内容や時間配分は異なる.授業の主な流れは以卜 図7 ブラッケイジ「TheDanteQuartet」(1987). の通りである.. ① 映像原理と,映画の構造について(講義/ の塗料,溶剤などを混ぜ合わせて,時間をかけて. 90分∼). 化学反応を起こさせるなど,マーブリングやロー. 主に座学.. ルシャッハ検査の図像を連想させる心理的なイ. 前項で取り上げた映像玩具などの実物を手. 227.
(7) 伊 藤 隆 介. に取らせて紹介,あるいは制作すると,本教. もとに,日常見慣れたテレビや劇場アニメに. 材の意味についての理解も早く,映像の技術. おける,技術力や労力などの背景を想像させ. 史の理解も深まる.また映画フイルムの実物. る.. (コマ画の見える実写やアニメーションなど. ⑨ 後日,希望者にはフイルム返却,家庭での. の映像)などを事前に見せることも,構造を. 観賞用にビデオやDVDの配布を行う場合も. 知る意味で効果的である.. ある.. ② 材料(フイルム)の配布と観察(10分程度) 素材を渡して観察させる.. すでに巻いたものを渡すのでなく,ある一 定の長さのフイルム(例えば「講義机の長さ. 6.材料の研究 (1)ダイレクト・アニメーションの制作実習に必. の3倍」や「講義室の端から端まで」)を1. 要な基本的材料,用具. 人毎に切って渡す.これは映画における時間. この教材で指導者が用意する主な材料,機材は. の概念を把握させるため(後述)である.. 以下の通りである.. ・フイルム(8mmあるいは16mm映画規格の. ③ 出題と課題説明(15分程度). 実習を行う際のフイルムの規格などの注. クリアリーダー/素抜けフイルム). 意.(後述). ・画材(油性マジックなど). ・フイルム用映写機(8mmあるいは16mm映. ④ 制作(60分∼) 児童・生徒による動画制作.. 画用). 対象によるが,20∼30秒程度の作品だと60. ・フイルム巻き取り用リール. 分以内で完成できる場合が多い.. ・テープ・スプライサー(編集機材). ・リワインド. また,数秒程度の「試作」をさせて動画制. 作の勘をつかませたところで,共通テーマで. スプライサーやリワインドは用意できることが. 本番を制作させると,完成度の高い作品とな. 望ましいが,指導者の工夫などにより無くても実. る.(詳細は次稿). 習は可能である.. ⑤ 編集 編集機材(スプライサーとリール)で生徒. (2)フイルム. 作品を1本のリールにまとめる.. ⑥ 生徒作品の上映. フイルムは「クリアリーダー」と呼ばれる透明. のフイルム(素抜けフイルム)を使用する.これ. できるだけ大画面で上映する.. は乳剤(エマルジョン)が塗付されていない状態. 2,3回線り返し鑑賞することで,作品の. のアセテートベースだけのフイルムで,編集作業. 細部まで観察させる.. やポストプロダクションで使われる.. ⑦ 歴史的な作品の鑑賞 同じ制作法を高めた作品の鑑賞.. ダーをフイルム製造会社から購入する方法があ. これにより,絵画などの技法と映像芸術作. る.. 品の共通性などを気づかせる.(作品を制作. する前に見せる方法もあるが,生徒の想像力 や工夫を促す意味では「試作」と「本番」を 行う方が効果的である.). ⑧ ディスカッション等のまとめ 手作業によるアニメーション作りの体験を. 228. 入手は,現像所から購入する方法と,クリアリー. また以卜の要領で,指導者が自分自身で素抜け のフイルムを作ることもできる.. ① 現像処理による乳剤の除去 (白黒フイルム使用の場合). クリアリーダーは未露光のネガフィルム等 を現像所で処理を行って得ることができる..
(8) 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅲ). ある. また,シネカリグラフィ用の乳剤付きフイ ルム(銀塩が黒化したフイルム)も同様のプ ロセスを通して得ることができる.そのため. にはネガフィルムを完全に感光させるため に,屋外や電灯の下で現像を行えばよい.. ② 撮影・現像処理による乳剤の除去 (8mmなどリバーサルフィルムの場合) 8mmフイルムでは既製のクリアリーダー の入手が難しいため,自作が必要となる.外. 国製の一部を除き,8mmフイルムはカラー リバーサルフィルム(反転フイルム)が主流 図8 16mmフイルムのクリアリーダー. (左). であるため,感光することが必要となる.. 一般的な方法はカメラを使い,明るい光源 また,以下の方法で容易に自作することもで. などを撮影して現像所に出し,イメージのな. きる.. いフイルムを制作する.ただし,この方法の. 使用する材料は以下の通り.. 場合はフイルムの各コマの間に境界線(カメ. ・ハイコントラスト用フイルム. ラのシャッターによる未露光部分)が残る場. (コダック社ハイコントラストポジティブ. 合がある. 自分で現像を行う場合は,カラースライド. フイルム7363など). ・白黒写真用現像液. (コダック社D−11,D−19,デクトール, 富士フイルム社パピトールなど) ・定着液 (コダック社Fixerなど). 現像処理の手順は以下の通り.. 用のE6・三浴現像処理(テテノールなど) を施すこともできる.この現像はファースト 現像,カラー現像,漂白定着処理,安定処理. から成る方式で,完全な暗室状態で行う必要 があるほか,現像液の温度や時間が繊細なた め,やや難易度が高い.. 1)現像液(コダック社−11,D−19)に2. これらの方法を使った場合は,撮影する光. 分程度浸す.その間は液を撹拝したり,フイ. 源の色彩を変えることにより,動画制作時の. ルムの位置を動かすなど,全体に液がまわ. 地(背景)の色もさまざまに選ぶことができ. るように注意する.. る.. 2)流水によるリンスを2分程度行う 3)定着液に4分程度浸す.. ③ 煮沸による乳剤の除去 そのほか,リバーサルフィルムの乳剤その. 4)再び流水による5∼15分程度の水洗い.. ものをはがし落とす方法もある.. 5)フイルムから水を切り,つるすなどして. 1)粉末タイプの洗濯用漂白剤(花王ワイド. 乾燥を行う.通常20分程度で使用できる.. ハイターなど)を,大さじ1杯あたり1リッ. 各液の温度は21℃程度が望ましい.上記の. トル程度の水に溶かす.. 時間はめやすであり,事前に少量のフイルム でテストを行う.セーフライト(濃い赤セロ ファンを貼った電灯でも可)の下で目視しな. がら各処理が行えなえるため,作業は容易で. 2)1の溶液を鍋に入れ,フイルムを浸して 5∼7分程度火にかけて煮る.. 3)フイルム上の乳剤がふやけ,はがれはじ めてきたら火をとめ,指などでていねいに. 229.
(9) 伊 藤 隆 介. こそげおとす. 4)乳剤がフイルムからとれたら,15分程度 流水による水洗いを行う. 5)フイルムを乾燥させる.. ル系塗料「ロイ・イラステンド」等) ・染料(「ダイロン」など). ただし,乾燥後は経時とともに硬化し,上. 映毎に剥離しやすくなる材料もあるので,事 前のテストは必要である.. (3)画 材. これらの顔料を使う際には,筆や溶剤など. 映画フイルム上のイメージは,映写機のランプ. の準備も必要である.特にラッカー系塗料な. ハウス(電球)からの光によって,後方から照ら. ど揮発性の画材で制作する際には,十分に換. し出され(illuminated),そのイメージはレンズ. 気を行うなど注意する必要がある.. を通して,スクリーン上に拡大・映写される.つ まり影絵の投影の原理である.. 従って透過性の高い画材を使用する必要があ. ③ そのほかの材料 ペンや筆のほかにも,さまざまな材料や技 法が考えられる.児童・生徒が実際の制作や. る.アクリル絵具など不透明の画材を使った場合. 取り組みの中で,自由に発想,発見,工夫す. は,投影されるイメージはただの黒い影にしかな. る場合も多い.. らない.. 以下,代表的な材料例をあげる.. ① 油性マーカー 使用するフイルムはアセテート製で水性塗 料をはじぐ性質を持つため,油性などの顔料 を使用する必要がある.児童・生徒が動画を 描く各コマの画面は,16mmフイルムで縦 7.5mm・横11mm,8ミリフイルムで縦. ・小型のスタンプや印鑑を使用した転写. ・既製のシール,ステッカーを貼る.(この 場合,イメージは影になる.) ・インスタント・レタリング(転写シール) などを使ったタイポグラフイ.. ・スクリーントーンを使用した,網点などの. 4mm・横6.5mm程度と非常に小さいこと. パターン(網点). などを考慮すると,扱いが容易なのはペン先. ・転写による効果.. の太さ0.5∼1mm程度の油性マーカーであ. ・ボンドやセメダインなどをつかった透明感. る.とりわけ2芯製のマーカー(ZEBRA「マッ. の高いテクスチャー.. キー極細」,三菱「プロツキー細字丸芯+極細」. 技法も含めた詳細は,別項の作品の分析で. など)は,描画と色塗りの技法に使い分けら. 紹介する予定である.. れるため便利である.また,製図ペン(ロッ トリング)などを使用すると,より精密な描 写が可能になる. ② 光の透過性が高い塗料. そのほかに,以下のような塗料・顔料を使 うことによって,さまざまなテクスチャーや 表現を得ることができる.. ・フイルム用映写機(8mmあるいは16mm映 画用)は,サイレント用でかまわない.ただ し,8mm映写機の規格には,レギュラー8 (スタンダード8mm,ダブル8ともよぶ) 用と,スーパー8・シングル8用のものがあ. ・カラーインク(油性各種). る.現在市販されているフイルムを材料とす. ・プラモデル用クリアカラー(ラッカー系塗. る場合は,後者の機材を使用する.. 料「GSIクレオス・Mr.カラー」,アクリ ル系塗料「田宮模型タミヤカラー」等) ・インスタント式ステンドグラス塗料(樹脂 系塗料「ワシンステンドホビー」,アルコー. 230. (4)その他. 作品編集,上映用のリールは,最低2個必 要である.分解リールや巻き取り用のコアが あれば,編集や保存時に便利である. ・スプライサー(編集機材)はテープ式が簡易.
(10) だが,セメント式でもかまわない.(ただし 接着に若干時間がかかる.). スプライサーが用意できない場合は,フイ ルムを配布せず,フイルムをリールからほど いて,生徒全員で一斉に描くというパフォー マンス的な方法も取れる. ・リワインド(フイルム巻き取り機)について は,映写機で代用できる.. 7.映画フイルムの規格に関わる描画のルール. ▼ ̄ ̄ の OD. 「盲「. 妄≠≡■ウ≡圭一l □ □ ロ ロ. 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅲ). 図9 16mmフイルム(左)と8mmフイルム(右). (1)動画の際のフイルムの位置・関係. ロ. の描画画面. フイルムの端には,カメラおよび映写機の機構. パーフォレーションのフイルムを使用する場合. するためのパーフォレーション・ホール(カギ穴). は,両側にホールがあるので上下左右の位置に掛. が開いている.. けかえることができる.). ロ. で,撮影時や上映時に正確なフイルム送りを実行. 販売されているフイルムにはその用途によっ. 材料であるフイルムを(リール等に)一時的に. て,片側にパーフォレーション・ホールのあるシ. 巻いた状態で,フイルムのいちばん外側の部分. 式のものと,. ロ. ングル・パーフォレーション(単孔). (「ヘッド」と呼ばれる)が時系列では開始地点. 両側にあるダブル・パーフォレーション(二孔). になり,巻き取った芯に近い部分(「テール」)が. のものがある.. 終了地点となる.. である.. ロ. 本実習で使用するフイルムの方式は以下の通り. また,映画を上映する場合,映写用レンズを通. すことにより,フイルム上のイメージは上下の位. ・16mmクリアリーダー:単孔,二孔あり. 置が反転して投影される.すなわち止像を結ぶた. ・16mmハイコントラスト・フイルム:二孔の. めには,通常の場合フイルムは天地が逆の位置で. み. ・16mm撮影用フイルム:単孔が多い ・8mmフイルム:単孔のみ 動画を描くためのは画面は,16mmフイルムの. 映写機に装填されている.. 以上を考慮し,フイルムに描画を行う際には画 面の上下左右の関係を正しく把握する必要があ る.正像を得られる位置とは,パーフォレーショ. 場合,ダブル・パーフォレーションのフイルムの. ン・ホールを左側にした位置で,巻き取ったフイ. 場合は4つのパーフォレーション・ホールを角と. ルムが下方・手前になるような状態である.. した矩形,8mmフイルムの場合はパーフォレー ション・ホールを上下の中心とした横の画面であ る.(図9). 通常の映写機では,片側にのみに掻き落とし. この上下左右の位置関係で動画を描き,描き終 わったフイルムのヘッドを上方に逃がしていく (描画済みのフイルムを上方手前の位置で巻き 取っていく)と,上映時に正俊を得られる.(図10). (フイルム送りのためのツメ)およびスプロケッ ト(フイルム送りのための歯車)が付けられてい. (2)フイルムによる時間概念の把握. るため,シングル・パーフォレーションのフイル. フイルムを使った教材における,他のメディア. ムを使用する場合には,動画の描写の際にも左右. にはない大きな特色に,時間の量的把握の容易さ. の正しい位置を意識する必要がある.(ダブル・. があげられる.ビデオやDVDの場合,映像情報. 231.
(11) 伊 藤 隆 介. ・1分=1,440コマ ・1,440コマ=およそ1092cm. 8mmフイルムの場合は以下の通り. ・1秒=18コマ. ・18コマ=およそ7.5cm ・1分=1,080コマ ・1.080コマ=およそ450cm. たとえば16mmフイルムの場合は,1秒がおよ そ18cmの長さとして認識されるということであ る.. 5秒の動きを生成するためには,120コマの動 画を描かねばならないが,120枚の単体の画を描 くというよりは,18cm分の連なる長さの中で動 図1016mmフイルムで描画を行う際の正俊を得る フイルム位置. きのタイミングを計算していくという意識が有効 である.. は信号としてカセットやディスクに記録されてい るため,作品の時間的長さによって,記録媒体の 大きさ・重さなどが変化することはない.. 一般的な映画カメラによる撮影,映写機による 上映時のフイルムスピードは以下の通りである.. ・16mm映画:24frm/sec (1秒間に24コマ送り). ・8mm映画(スーパー8およびシングル8) :18frm/sec (1秒間に18コマ送り). 流れている現実の時間(実運動)を,ある一定. 8.まとめ 近年,アメリカやヨーロッパでは,動画による 映像表現を,「映画」や「テレビ」,「ビデオ」,「デ. ジタル表現」といった技術の違いや表現・情報配 給(配信)の形態で分類するのではなく,横断的 に「movingimage(動く映像)」と総称する動 きがある.「メディア・リテラシー」教育におい ては,フツテージやシークエンスといった要素を,. 情報伝達のための最小単位として論じられがちで ある.しかし,それらは物語的な情報を伝えるた. の基準(上記の速度)でコマに分解していく映画. めの撮影・編集のための単位であって,文章にお. というメディアは,「時間の物質化」にほかなら. ける「文節」に近い.むしろ「文字」に近い最小. ない.. 単位がコマ毎の「image」であり,このひとつひ. ビデオテープやDVDなどの信号メディアとは. とつは描かれた「画」や撮影された「写真」であ. 違い,撮影成果がコマ単位の映像(写真)という. る.それらが連なって「劇映画」に代表される「意. 可視情報へと変換されていくため,児童・生徒に. 味」や「物語」を作り出すことはあるものの,本. とっても時間概念を「量」として把握しやすい.. 稿で取り上げた映画フイルムを使ったダイレク. とりわけ,時間の継続を帯状の「長さ」に置き換. ト・アニメーションの制作では,「mOVingimage」. えて実感することができる.. の表現単位がむしろ「絵画(あるいは写真)の延. 16mmフイルムの場合の,時間と材料の物理的 長さの関係は以下の通りである. ・1秒=24コマ. ・24コマ=およそ18.2cm. 232. 長」に近いことを理解させることに重点を置いて いる.. 実習を通して毎回感じたのは,ビデオやそれに 続くデジタルメディア教材の一般化に伴い,「視.
(12) 「映像メディア表現」の教材開発(Ⅲ). 聴覚教育」分野では手を触れる機会は少なくなっ た映画フイルムが,「映像メディア表現」とりわ け原理原理の理解については最も効果的な媒体だ ということである.その理由はフイルム表現が 「movingimage」で最も歴史が古いものであり, その機構も単純,直裁的であるがゆえに,児童・. 生徒にも体感的に理解しやすいということだろ. ・ノーマン・マクラレン(西鴫憲生編・訳),「フイルム. ワークショップ」ダゲレオ出版 ・シェルドン・レナン(波多野哲朗・訳),「アンダーグ ラウンド映画」三一書房,1969 ・イーストマン・コダック・カンパニー,「コダック・ス. チューデントフィルムメーカーズハンドブック」コダッ ク株式会社,1990. ・Robert Russett・Cecile Starr,「Experimental Animation」DaCapoPress,1988. う.手描きの動画がスクリーン上で動くのを見た ときの彼らの反応は,「ハイテクな機器による処. (札幌校助教授). 理」へのそれではなく,「手品」を鑑賞する際の 歓声に近かった.日常,映画やテレビを通して洗. 練された映像処理やCGI(computergenerated image)を見慣れているはずの彼らの見せる「驚 き」は,19世紀の映画発明時の観客たちの驚きと. 同質ではないかという印象も強く,フイルムとい う媒体が未だ持つシンプルな訴求力と可能性を再 発見させられた. 次満では,実際の作品例を参照しながら,ダイ レクト・アニメーションにおける児童・生徒の作. 品の傾向について分析していくとともに,その評 価の基準について考察する.これにより「映像メ ディア表現」領域における,より効果的な現場で の指導のあり方や鑑賞法等についても研究を深め ていきたい. さらに,ダイレクト・アニメーションがデジタ. ルメディアなどと関わることにより,今日的な表 現を生み出す可能性についても,実践例を通して 紹介していく.. 参考文献 ・太田曜,「造形の素材としての映画フイルム」東京造形 大学研究報③,2002 ・佐藤博昭・西村智弘編,「スーパー・アヴァンギャルド 映像術」フイルムアート社,2002 ・P.アダムス.シトニー編(石崎浩一郎・訳),「アメ リカの実験映画」フイルムアート社,1972 ・ブラッケージ・アイズ実行委員会編,「ブラッケージ・. アイズ2003−2004」ミストラルジャパン,2003 ・中島興,「12人の作家によるアニメーションフイルムの 作り方」日本アニメーション協会編・主婦と生活社, 1980. 233.
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