太田Stageの発 達課題 に適応し た教材 の開発 と
サ ーモグ ラフィに よる教育 効果検 討の可 能性
三 星 喬 史
天根哲治
1 研究目的 発 達 障 害 の 自 立 及 び 社 会 参 加 と そ の 生 活 全 般 に わ た る 支 援 を は か る こ と を 目 的 と し て 、 2005年 に 発 達 障 害 者 支 援 法 が 施 行 さ れ た 。 ま た 、 学 校 教 育 法 の 一 部 が 改 正 さ れ 、 特 殊 教 育 と い う 概 念 が 改 め ら れ 、 幼 児 、 児 童 、 生 徒 一 人 ひ と り の 教 育 的 ニ ー ズ を 把 握 し、適切な指導およて必要な支援を行う特別支援教育が2007年度より実施されている。 中 で も 自 立 活 動 の 指 導 は 、 個 々 の 児 童 生 徒 の 障 害 の 状 態 な ど に 応 じ て 、 障 害 に よ る 学 習 上 ま た は 生 活 上 の 困 難 を 改 善 、 克 服 し よ う と す る 取 り 組 み を 促 す 教 育 活 動 で あ り 、 個 々 の 障 害 の 状 態 や 発 達 の 段 階 な ど に 応 じ て 指 導 内 容 、 指 導 方 法 を 工 夫 す る 必 要 が あ る。 D校 で は 、 太 田 Stageを 使 用 し児 童 の 認 知 発 達 を 測 定 し て い る 。し か し 、 各Stageに あ っ た 教 材 で あ る か ど う か の 根 拠 は 明 確 に は な っ て い な い 。 そ こ で 、 教 師 た ち か ら 現 在 児 童 に 対 し て 使 用 し て い る 教 材 に つ い て ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 い 、 そ の 使 用 理 由 、 児 童 がそ の 教 材 を 使 用 し た 変 化 、 教 師 の 感 じ て い る 教 材 の 有 用 感 を 聞 き 取 る 。 ま た 、「認 知 発 達 治 療 の 実 践 マ ニ ュ ア ル 」 を 教 師 と 共 に 読 み 込 み 、 StageⅠ ~ StageⅢ -2の 児 童 の 認 知 構 造 の 特 徴 と 発 達 課 題 を つ か み 共 有 す る 。 そ し て 、 現 在 使 用 し て い る 教 材 の 適 否 を 判 断 し 、 新 た な 改 良 点 を 付 け 加 え た り 、 新 し い 教 材 を 作 成 し た り す る 。 改 良 し た り 新 た に 作 成 し た り し た 教 材 を 使 用 し た 学 習 で 、 児 童 の 頭 部 皮 膚 温 度 を 測 定 し て 、 そ の 教 材への興味、有用性について可能性を探る。 2 研究方法 (1)調査対象者 A県 B市 内 の 特 別 支 援 学 校 に 勤 務 す る 教 師 お よ び 特 別 支 援 学 校 に 在 籍 す る 小 学 生 児童を対象とした。 (2)調査時期 2013年9月初旬から2014年2月末日まで (3)調査方法 研究Ⅰ 教師に対してのアンケート調査 研究Ⅱ 教材の改良や新しい教材を開発しての自立活動授業 研究Ⅲ 児童の授業中の前頭前野の温度変化および頭部の皮膚表面温度の変化 ( 4 )D校 の 管 理 職 お よ び 教 師 の 了 解 の も と 教 職 員 に ア ン ケ ー ト 調 査 を 行 っ た 。 ま た 、保護者に対して説明書を配布し、同意の得られた児童を調査対象とした。 (5 )ア ン ケー ト 内容 太田 ス テー ジ 使用 して い る教 材 そ の 教材 の 使用 理 由と 使 用感 (児 童 の変 化 につ い ても お 書き く ださ い 3 取り組みと結果 (1 )研 究 Ⅰ 教 師へ の アン ケ ート 調査 表 1 教 師 への ア ンケ ート 調 査か ら わか った こ と 太田ステージ 使用している教材 教材の使用理由と使用感 Ⅰ-1 ブロック入れ リボン入れ 玉落とし 集中力向上、巧緻性向上 ○正方形や丸形など単純な形はすぐにはめるようになった。 ○根気強く取り組み、入れ方を考える Ⅰ-2 魚の醤油差しのフタの開閉 ボールペンの分解、組み立て スポンジを使用したお箸の練習 消しゴムを使用したトングの練習 パズル 編み込み紐通し なぞり書き 目と手の供応。手先の巧緻性、形や絵の認識 ○作業に集中して取り組める。 ○しっかりと見る。継続時間の長さ。 ○形や絵のつながりの認識ができてきた。 赤、青の木製リング 目と手の供応、巧緻性向上、集中力向上 ○行っている間は色やはめる場所をよく見ている。 友達の写真カード 注意力向上、友達の認識、コミニケーション ○徐々に友達の名前がいえるようになった。 クリップ外し 集中力向上、巧緻性向上 ○指で挟んで外すことができるようになった。 ナット引き 鈴引き ビー玉すくい 洗濯ばさみ 目と手の供応、巧緻性向上、集中力向上 ○行っている間は色やはめる場所をよく見ている。 色カード 色の認知 ●まだあまりうまくいっていない。 型はめ ストロー差し ペグ差し コイン入れ マッチング 目と手の供応 大きな物からちいさなものへ 小さな入り口へ(入れるだけでなく抜く動作も) 食べ物イラストカード 食べ物模型 洗濯ばさみつまみ ボールペン組み立て、分解 ボタン留め、はずし 物の名前理解の基礎的な段階として実物と絵のマッチング 課題を行っている。初めは絵カード同士、実物同士のマッチ ング課題から段階的に学習し、現在は実物と絵のマッチン グを行っている。 ○課題としてバリエーションを用意しやすく使いやすかった。 手先の巧緻性 ○必要な分の力を調節していれなければならないため、本 児にとっては良かった。洗濯ばさみやボールペンは同時に 色分け課題として利用することができた。 ボールペン分解、組み立て ビーズ入れ モール入れ 名刺カード 名前カード 線結びプリント 構成を知る。目と手の供応 見る。目と手の供応 名刺の理解 物に名前のあることの理解 同じ物同士の結び 文字、数字のなぞり書き 箸とモール 数字カード、モール、数え棒 運筆練習と指示されたことの受け入れ ○下字をほぼなぞることができるようになった。 箸の練習 ○夕食時に箸を使えるようになった。 1~5の数字のマッチング ○数字と数の正しい認識ができた。 Ⅲ-1 ペグ差し コイン入れ ストロー入れ 洗濯ばさみつまみ おはじきの紐通し 同じ動作をつづけて行えることによる情緒の安定 指先の力を入れる、手先の巧緻性 目と手の供応 ○作業を続けることにより落ち着きを取り戻せるようになっ た。 Ⅰ-3 Ⅱ
(2 )研 究 Ⅱ ① 取り 組 み お かい も の学 習 視 覚 の 手 が か り で 分 類 す る 。 子 ど も が 目 で 見 て 、 物 の 形 や 色 を 見 分 け る よ う に な る こ と は 定 型 発 達 児 で も 非 定 型 発 達 児 で も 同 様 で あ る 。 そ の 過 程 を 通 し て 、 よ り 正 確 に わ け よ う と し て「 か ざ す 」「 角 を さ わ る 」行 為 を 行 い 、マ ッ チ ン グ( 見 本 あ わ せ )可 能 に な っ て く る 。 マ ッ チ ン グ は 人 と の関 係 に お い て 重 要 と な っ て く る 。マ ッ チ ン グ が 分 か る と い う こ と は 、「 同 じ 」 つ ま り 相 手 の 意 思 が わ か り 「 そ の 通 り に や っ て ほ し い こ と を そ の 通 り に 行 う 」 と い う メ ッ セ ー ジ が 伝 わ る こ と で あ る と 考 え て い る 。 見 本 が わ か る と い う こ と は 、 自 ら 学 ぶ 事 の 基 本 と な る こ と で あり 、 全 て の 学 習 に つ な が る も の で あ ると 思 わ れ る 。 子 ど も 達 は 、 一 人 を 除 き 、 感 覚 運 動 期 の 子 ど も 達 で あ る ( 表 1 )。 そ こ で 、 六 人 の 子 ど も 達 に は 、日 常 生 活 で の 体 験 や 経 験 を 積 む た め に お 買 い 物 で マ ッ チ ン グ を す る こ と か ら 始 め、 一 人 は 、 お 買 い 物 店 の 店 員 に な り 、 お 客 様 で あ る ク ラ ス メ ー ト の 対 応 を し 、 て い ね い な し ゃ べ り 方 、 助 詞 の 使い 方 を 学 ぶ こ と か ら 始 め た 。 表2 ピ ア ジ ェ の 発 達 段 階 と 太 田Stage の対応 図 1-1も も のモ デ ル 図 1-2イ チゴ の モデ ル 図 1-3マ ッ チン グ 補助 台 紙 図1-4スプ ー ン 図1-5フォ ー ク 2~4歳 4~7歳 7~11歳 11~15歳 0~1ヶ月 1~4ヶ月 4~8ヶ月 8~12ヶ月 12~18ヶ月 18~24ヶ月 第1段階 第2段階 第3段階 第4段階 第5段階 第6段階 前概念的思考段階 直感的思考段階
StageⅠ-2 StageⅠ-3 StageⅡ StageⅢ-1/Ⅲ-2 StageⅣ StageⅤ 見てわかる世界 言葉とイメージの世界 触ってわかる世界 非論理的思考段階 論理的試行段階 0~2歳 StageⅠ-1 前操作期 具体的操作期 形式的操作期 感覚運動期 表象的思考期 三 項 関 係 の 成 立 指 さ し の 発 現 名 称 の 理 解 用 途 の 理 解 3 つ の ○ の 理 解 空 間 関 係 数 の 保 存 課 題 包 含 関 係
②結 果 果 物 モ デ ル を 示 して 同 じ 物 を 取 っ てく る 課 題 を 設 定 した が 児 童 の 実 態 に応 じ て 選 択肢 の 種 類や 数 を 変 更 し た 。ま た 、 見 本 を 見 せる 時 に 正 面 で し っか り 見 せ 見 本 の 名前 を 発 音 し、 手 の 平に タッ プ する こ とで 六 人の 子 ども 達全 て が与 え られ た課 題 を達 成 する こ とが で きた 。 (3 )研 究 Ⅲ ① 取り 組 み 研 究 Ⅰ と 研 究 Ⅱ より 子 ど も の 視 覚 、触 覚 だ け で な く 聴覚 お よ び 手 の 平 への タ ッ プ も有 効 で ある こ と が 分 か っ た。 そ こ で 、 視 覚 、触 覚 、 聴 覚 、 タ ップ の で き る 教 材 を作 成 し た (図 2 , 図 3 な ど )。 ま た 、 こ れ ら 以 外 の 課 題 を 行 っ て い る 児 童 や 音 読 を 聞 い て い る 児 童 、 図 工 の 学 習を して い るな ど 児童 の 様子 を サー モグ ラ フィ を 使用 して 記 録し た 。 図2 丸 、三 角 、四 角 色板 課 題 図 3丸 、 三角 、 四角 羽 目板 課 題 手 指 を使 用し た 課 題 課 題 前 課題 後 読 書 課題
課 題 を 行 う 前 と 課題 中 の 児 童 で あ る。 額 中 央 の 表 皮 温度 は 28.9度 か ら 30.0度へ と 上昇 し て いる 。大 気 温度 は 、20度 であ っ た。 表 3 児 童 の課 題 前課 題中 の 表皮 温 度 4 考察 研 究 Ⅰ よ り 、 教 師の 行 っ て い る 課 題に は 高 い 共 通 性 が見 ら れ た 。 教 師 が児 童 に 対 して 獲 得 して も ら い た い 力 とし て 、 集 中 力 や 指先 の 巧 緻 性 が あ った 。 ピ ア ジ ェ の 感覚 運 動 期 に該 当 す る子 ど も 達 で あ る ので 、 お お い に 感 覚を 伸 ば し て 次 の 段階 に 移 行 で き る よう に し て いっ て も らい た い 。 し か し 、巧 緻 性 を 伸 ば し てい く 手 立 て が ク リッ プ を 挟 む 、 箸 でつ ま む と 挟む と つ ま む こ と に 偏 っ て い る 印 象 を 受 け る 。「 巧 緻 性 」 と は 巧 み で 細 か い と こ ろ ま で い き 届 く こ と がで き る 手 先 の 器 用さ を い う の だ が 、ク リ ッ プ や 箸 だ けで な く 何 段 階 か のス テ ッ プ が必 要 で ある よ う に 思 わ れ る。 ま た 、 使 用 し てい る 教 材 の 中 で も気 に な る こ と が あっ た 。 一 つは 殆 ど の教 材 が 堅 く 冷 た い素 材 で で き て い るこ と で あ る 。 も う一 つ は 、 教 材 の 素材 が 紙 や スト ロ ー とい っ た 厚 み の あ まり な い 薄 い 物 で でき て い る こ と で ある 。 こ れ で は 児 童に と っ て 触感 が わ か り に く い 。 児 童 が つ か み や す く 触 感 が わ か る よ う に 1セ ン チ メ ー ト ル 程 度 の 厚 み と 柔 ら か さを 持 た せ る こ と が必 要 で あ ろ う 。 研究 Ⅱ で の マ ッ チ ング 課 題 に 使 用 さ れた 果 物 教 材は ス チ レン ボー ド やコ ル クボ ー ドか ら でき てお り 柔ら か さが あり 厚 みも 1セ ンチ メ ート ル であ った。 児童 は つ か む こ と がた や す く で き 、 その 柔 ら か な 感 触 も確 か め ら れ て い た。 研 究 Ⅱ で課 題 が 全て の 児 童 が 達 成 でき た こ と も 視 覚 と触 覚 が 寄 与 し て いる と 思 わ れ る 。 さら に 必 ず 果物 の 名 前を 音 声 で 伝 え た こと と 指 で 手 の ひ らを 「 り ん ご 」 な ら“ り ん ご ” と 文 字の 数 だ け タッ プ し た こ と が 寄 与 し て い た と 思 わ れ る 。 ASDの 児 童 は 視 覚 優 位 が 多 い と 言 わ れ て い る が 聴 覚 か ら 入る 音 声 と 手 の ひ らへ の タ ッ プ が 視 覚か ら の 情 報 を 補 完す る も の で あ る かも し れ な い。 研 究 Ⅲで は 、 研 究 Ⅰ ・ Ⅱの 成 果 が 出 て お り児 童 へ の 教 材 と 教示 の 仕 方 の 工 夫 で児 童 の の 前頭 前 野 の血 流を 活 発に し たの だ と考 え られ る。特に 視 覚、聴 覚、触覚 、タ ッ ピン グは 有 効で あ った。 ワー キ ン グ メ モ リ の研 究 で は 、 中 央 実行 系 、 音 韻 ル ー プ、 視 空 間 ス ケ ッ チパ ッ ド 、 エピ ソ ー ドバ ッ ハ の 4 コ ン ポー ト モ デ ル が 示 され て い る が 、 こ れに あ て は め て み ると タ ッ プ がエ ピ ソ ード バッ ハ の何 ら かの 役 割を 果 たし てい る のか も しれ ない 。 図 4 の 後 半 の 児 童は 本 読 み 課 題 の 時に は 、 逆 に 表 皮 温度 が 下 が る 結 果 とな っ た 。 いつ も 練 習し て い る 本 な の で、 前 頭 前 野 の 負 荷と い う こ と で は 、読 み 慣 れ た 本 を 読む こ と は 負荷 が か かり に く い こ と を 表し て い る 。 本 を 読ま せ る 時 に は 内 容の 新 規 性 に 注 意 を払 う 必 要 があ る 。
課題前
課題中
課題
A児
27.9
31.1
ボールペン分解
B児
27.4
30
絵合わせ
C児
27.8
31.6
ボールペン分解
D児
30.1
30.8
箸での物つかみ
参 考 文献
中 川信 子 発 達 障害 と こと ば の相 談 2009 小学 館
立 松英 子 発 達 支援 と 教材 教 具 2009 ジア ース 教 育新 社 立 松英 子 発 達 支援 と 教材 教 具Ⅱ 2011 ジア ース 教 育新 社 苧 阪直 行 ワ ー キン グ メモ リ の脳 内表 現 2008 京 都大 学 学術 出 版会