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電子書籍フォーマットの動向と学術情報流通への課題

Overview of Electronic Book Format and Academic Publication

原田隆史

Takashi HARADA

:慶應義塾大学文学部図書館・情報学専攻

School of Library and Information Science, Keio University 〒108-8345 東京都港区三田 2-15-45

Email: [email protected]

日本で用いられている電子書籍フォーマットとしては, EPUB, .Book, XMDF, PDF など,さまざまな観点から 標準化された電子書籍フォーマットが存在する。本稿では,各種の電子書籍フォーマットについては概観する とともに,その学術情報流通への課題について検討する。

There are a lot of electonic book format in Japan, for example EPUB, .BOOK, XMDF, PDF . In this article, I overview the electronic book format and the academic publication.

1. 電子書籍フォーマット

電子書籍フォーマットとひとくちに言っても, 電子書籍の作成から利用に至る各過程において, さまざまな形で電子的な形式の資料が作成され る。それら各段階で目的や特徴が異なる形式が求 められている。たとえば,電子書籍の制作会社, 出版社,配信会社では,それぞれ素材用,原稿用, 交換用など異なるフォーマットのファイルを作 成している。出版社が作成した交換用文書を,配 信会社ではデジタル著作権処理などを行って配 信用文書として配信するということが行われて いる1) 電子書籍用フォーマットという語は,広義には これらの各種のフォーマットを含むものとして 用いられる場合もあるが,一般的には出版社から 配信会社への交換用文書または配信会社が利用 者に配信する配信用文書のフォーマットを意味 することが多い。 現在,用いられている代表的な電子書籍フォー マットとしては,以下があげられる。

1) PDF (Portable Document Format)

Adobe Systems が開発した電子書籍フォーマッ ト。作成した文書のオリジナルのレイアウトを, 表示するコンピュータの環境によらず,かなり正 確に再現することが可能である。作成には同社の Adobe Acrobat(または互換ソフト),閲覧には Adobe Reader が必要。

2) EPUB (Electronic Publication)

アメリカの電子書籍標準化団体である IDPF (International Digital Publishing Forum) が 2007 年 9 月に発表した電子書籍フォーマット。 XML をベースとした規格で,XHTML などで作成し たコンテンツを,画像や CSS などとともに ZIP 形式で圧縮したファイルである。オープンスタン ダードな規格として公開されており,近年,急速 に利用が拡大している。 日本においても,日本電子出版協会が 2009 年 11 月から EPUB の日本での普及啓発と,日本語組 版の実装への働きかけを行っている。 3) TTX および ドットブック(.book) ボイジャーが開発した商業出版向けの電子書 籍フォーマット。オーサリングツールなどでの編 集に用いられる記述フォーマットが TTX,配信時 に用いられるのが.book である。再生には同社の

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ビューワーソフト「T-Time」が必要となる。TTX は HTML 形式でテキストを中心に扱うことができ る。

4) XMDF(ever-eXtending Mobile Document Format から派生した呼称) シャープが開発した主に PDA,PC 向けの電子書 籍フォーマット2)3) 携帯電話端末用の書籍を中心に日本国内で多 くの電子書籍が既に販売されている。画像,音声, 動画が扱え,ルビ,字下げ,縦書きなどを含む, 原稿イメージに近いレイアウトを再現すること が可能。 XMDF では,コンテンツそのものおよびレイア ウトなどを指定する組版の仕様以外に,XML で記 述されたデータ群を表示するための独自の実行 形式,実行形式のファイルに DRM を施し著作権を 保護した上で配布するためけのフォーマットも 含んでいる。 5) AZW

Amazon.com が採用している Amazon Kindle 用の 電子書籍フォーマット。2005 年に Amazon が買収 したフランスの Mobipocket 社が開発した MOBI という電子書籍フォーマットをベースにつくら れている。

6) DAISY(Digital Accessible Information System) デイジーコンソーシアムが開発を行っている, 主に視覚障害者等が利用するデジタル録音図書 のフォーマット。XML ベースの規格で,テキスト の音声読み上げや,文字のハイライト表示,文字 の拡大・縮小,色の反転などを容易におこなうこ とができる。欧米では電子教科書や電子書籍のフ ォーマットとしても採用されている。 7) その他 その他,イーブック・イニシアティブ・ジャパ ンが開発した ebi.jp(eBook),セルシス,インフ ォシティ,ボイジャーで共同開発された携帯電話 向け書籍フォーマットである BookSurfing など, 多数の電子書籍フォーマットが存在している。 また,販売のためのフォーマットとしては使わ れていないが,紙媒体の資料 JPEG などをデジタ ル化してビットマップ画像を作成し,これを ZIP 形式などで圧縮したものとして,CBZ(Comic Book Zip), CBR(Comic Book RAR)がある。その名称通 りにコミックの閲覧などに使われている。

2 静的レイアウトと動的レイアウト

現在策定されている配信用フォーマットは非 常に多様であるが,これらは静的レイアウトと動 的レイアウトに分けることができる。このうち静 的レイアウトは,ページ単位のデザインを保持す る方式であり,段組や写真の位置などのレイアウ トを作成者と読者が共有することが可能である。 PDF や CBZ などがその例てあり,ラスタライズ方 式,ベクトル方式などとも呼ばれる。紙媒体の書 籍や雑誌などと同様のレイアウトを再現するこ とから,作成者のイメージにあわせた提供を行い たい場合などに適している。 それに対して動的レイアウトは,HTML を用い て記述された Web ページなどと同様に,文字サイ ズや画面サイズの変更によって自動的にレイア ウトが変更される方式である。リフロー方式とも 呼ばれる。 使用するデバイス(電子書籍リーダーなど)な ど読者の環境に応じて読みやすい表示が可能と なる,自分の読みたい文字サイズで本が読むこと が可能となるなどの特徴がある。一方,作成時の レイアウトは必ずしもを忠実に再現されない。 また,レイアウトが変更された結果として電子 書籍の編集段階で文頭に閉じ括弧や「,」,「。」が 来ないように禁則処理を行っている場合でも,そ れが有効に機能しないこともありえる。ただし, 動的レイアウトであれば全て禁則処理が無効に なるということではなく,フォーマットの規定に よる。たとえば,EPUB は日本語の禁則処理,縦 書きなどは考慮されていないシンプルなフォー マットであるため,現状ではこれを回避する方法 はないのに対して,XMDF や.book では日本語の特 徴に対応するように規格が策定されているため, リフロー後も禁則処理などを有効にすることが

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できる。

3. 電子書籍の標準中間フォーマットの

規格化と配信フォーマット

3.1 電子書籍の標準中間フォーマットの必要 性 前述のように,多数の配信用電子書籍フォーマ ットが併存している状況では,出版社は異なるデ バイスを持つ利用者に電子書籍を利用してもら うために,多数の異なる電子書籍フォーマットで 作られたファイルを作成する必要がある。 電子書籍の制作過程において,制作者や出版社 では素材ファイルから直接配信用の電子書籍フ ァイルが作成されているわけではなく,各制作者, 出版社ごとに異なるフォーマットのファイルが 作成され,それをもとにして配信用の電子書籍フ ァイルを作成している。したがって同じ EPUB で 電子書籍を刊行する出版社でも,製作途中のデー タのフォーマットは EPUB とはもちろん,それぞ れ異なる違うということは十分にありえる。 このように各出版社が異なるフォーマットの データを作成するということは,電子出版制作が 非効率であることを意味する。すなわち,出版物 のつくり手は,新しい表示デバイスや新しいプラ ットフォームが登場するたびにそれぞれに最適 化したフォーマットに作り直す必要があり,一つ の作品に対していくつものファイルを作らなく てはならない状況にある4) このような状況を改善するためには,様々なプ ラットフォーム,端末が採用する多様な閲覧ファ イルフォーマットに変換対応が容易に可能とな る交換用中間フォーマット(以下,中間フォーマ ットとする)を策定し,これを関係する各社が使 用することが考えられる5)-11) その際,EPUB をはじめとする現在の配信用電 子書籍フォーマットそのものを中間フォーマッ トとすることは必ずしも適切ではない。たとえば, 現在の EPUB では日本語における縦書きの問題や, 日本・中国・台湾などで必要とされるルビの問題, 中東のライティングシステムで必要とされる BiDi(左右両方向横書きテキストの環境)は表現 できない。このような EPUB を中間フォーマット とした場合,日本語の縦書きなどの追加情報は記 録されないことになってしまい,将来的に縦書き などのフォーマットが策定された場合に対応で きないことになる。その意味で,中間フォーマッ トには,将来的な拡張なども検討した上で,既存 の配信用電子書籍フォーマット以上に情報を含 んだフォーマットが求められているということ ができよう。 3.2 デジタル・ネットワーク社会における出 版物の利活用の推進に関する懇談会報告 総務省,文部科学省,経済産業省共催による「デ ジタル・ネットワーク社会における出版物の利活 用の推進に関する懇談会」(以下,三省懇と略す) は,『デジタル・ネットワーク社会における出版 物の利活用の推進に関する懇談会報告』をまとめ ている12)。その中で,日本語表記に係る中間(交 換)フォーマットの標準を確立することが提案さ れている。これによって,出版物のつくり手にと ってコストの削減や,電子出版をリリースするま での期間の短縮。様々な電子出版端末・プラット フォームでの提供・利用等,大きな効果が期待で きるとまとめている。さらに,この報告書では実 際の中間フォーマット作成の道筋として以下の ように述べている12) 『日本語表現に実績のあるファイルフォーマッ トである「XMDF」(シャープ)と「ドットブック」 (ボイジャー)との協調により,出版物のつくり 手からの要望にも対応するべく,我が国におけ る中間(交換)フォーマットの統一規格策定に 向けた大きな一歩が踏み出された。』 この報告書の記述は,現実的で納得できる内容 であると思われる。特に,一対多のフォーマット 変換を行う際に中間フォーマットを制定するこ とは有効である。中間フォーマットを利用するこ とで最終生成物の仕様の細かな差を吸収し,ワン ソース・マルチユース(ひとつのデータを複数の 目的やメディアで利用すること)をはかるという

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ことは,電子書籍に限らず携帯コンテンツの作成 など,多くの場所で用いられている13) この報告書が 2010 年 6 月 28 日に発表されて以 後,その内容に関わる意見が新聞,雑誌,ブログ, ツイッターなど,さまざまな場所で表明されてい る。しかし,その内容は否定的なものも多い。そ れらの否定的な意見は,中間フォーマットと配信 フォーマットを誤解したものと,標準規格として の適格性・実現性と必要性に疑義をはさむものに 大別できる。 三省懇の報告書で標準化をはかり,国際標準規 格にすることをめざしているのは,あくまで中間 フォーマットであるとされている。この標準化さ れた中間フォーマットから各種の配信フォーマ ットを作り出すことができる。しかし,報告書本 文には,国際標準化規格をめざすのが何であるの かについては明確には記述されておらず,三省懇 の下部組織で技術的な分野の審議を行っている 「技術に関するワーキングチーム」の配付資料や, ワーキングチームメンバーの講演資料などを見 ないとはっきりとしない。 そのためか,三省懇で標準化をはかろうとして いるのが配信フォーマットそのものであるとい う誤解が多数生まれる結果となった 13)。これら の誤解は,EPUB をはじめとするデファクトスタ ンダードとは別に,日本国内でのみ通用する配信 用電子書籍フォーマット規格を策定することへ の懸念を示すものであり,ガラパゴスと揶揄され る携帯電話の規格策定時の問題に言及するもの が多い14)-18) しかし,何度も述べるように三省懇の報告書で 目指すのは中間フォーマットであり,ワーキング チームメンバーでもある植村八潮の作成した資 料によれば,統一規格は多様なジャンルの出版物 の「日本語の基本表現部分」だけを規定するもの だとされる。すなわち,構成が複雑な雑誌や芸術 書などについては,新たにジャンルごとの拡張中 間フォーマットを作ることを想定しているとさ れる。さらには独自のハウスルールに基づく各社 版拡張中間フォーマットを規定することも可能 となっている19) この報告書に対する否定的なもうひとつの意 見は,ドットブックと XMDF を基礎にした日本語 のローカルなフォーマットを変換するための規 格が,果たして国際規格として適格と言えるのか, また提案のような中間フォーマットが本当に必 要なのかについて指摘するものである13),20)-22) 前者の指摘としては,デファクト標準としての EPUB の存在および EPUB と進化を続ける Web 環境 (XHTML+CSS)との親和性を強く意識する論調が多 い 20),22)。時には「国際標準に背を向けている」 という誤解に基づくコメントが寄せられること もある。しかし,実際には国際標準規格に収録さ れているのは,EPUB ではなく XMDF の方である。 この点については次節で述べる。 規格の適格性と実現性に関する否定的な意見 としては,その有効性と同時に,このような規格 策定に税金を投入することの是非とをあわせて 指摘している20),22) 一方,台湾や韓国では EPUB の標準化に国家が 積極的に関与しているともされる23)24)。また,そ もそも EPUB の前身である Open eBook というフォ ー マ ッ ト は , 米 国 の 商 務 省 の 機 関 で あ る National Institute of Standards and Technology (NIST) が活動を支援した。このよう に必要に応じて国が支援することの必要性を強 調する意見も多い。 実現性については,既にいつかの配信プラット フォームが立ち上がっている中で,出版社側だけ でなく複数の配布フォーマット,配信プラットフ ォームの関係者が満足するものを作成すること は可能なのかという疑問などが指摘される。柔軟 性が高く汎用性の広い優れたフォーマットの策 定が必要であるが,それが日本語の書籍を主たる 対象とした既存の XMDF とドットブックをベース としは実現が困難なのではないかという,基礎と なる規格に対する不安を示す意見もみられる21) また,中間フォーマットが複数の機関での利用 を想定する場合,編集段階での共通化が計られる などがなければ中間フォーマットは,「中間」で

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はなく,それ自体が最終生成物となってしまう可 能性がある。そうなった時,中間フォーマットの 利用に関してなんらかの「縛り」や「利点」がな いかぎり,中間フォーマットの作成を省略して最 終フォーマットをつくり始める出版社が続出す るのではないか,そのような中間フォーマットは 本当に必要なのかという指摘がある25) 3.3 国際標準規格と標準規格 電子書籍フォーマットに関する国際標準規格 としては,IEC(International Electrotechnical Commission : 国際電気標準会議)の IEC62448 が ある。IEC 62448 の附属書 B には XMDF がいれら れている(附属書 A は SONY の BeBB)。三省懇が目 指しているのは,ドットブックと XMDF の記述フ ォーマットを統一して,この IEC 62448 の改訂版 としようとするものである。ただし,改訂とは附 属書 B の改訂なのか,それとも新たに附属書 C を追加しようというものなのか,今のところまだ 分からない。植村の資料では IEC 62448 の改訂案 として中間(交換)フォーマットを今年 12 月に委 員会提出,来年第 4 四半期に最終投票案提出,そ して再来年 2012 年の第 3 四半期に制定されるこ とを目指すという 19)。ただし,中東のライティ ングシステムがサポートする BiDi(左右両方向 横書きテキストの環境)の未整備など改訂版の国 際標準が認められるまでには,いくつかのハード ルがあるという意見もある21) 一方,世界の電子書籍市場で主流になりつつあ る EPUB は現時点では国際標準規格ではなく, IDPF(International Digital Publishing Forum) が業界の標準規格として推進しているものであ る。IDPF には,近年 Apple や Google などの企業 も続々と参加してきている26)。EPUB についても, 国際標準の中で文書の記述と処理の言語に関す る標準化の委員会 ISO/IEC JTC 1/SC 34 と IDPF とが協議を行って国際規格とするという活動も はじまっている。 日本語の電子書籍という観点が見た場合,この 両者で話題になっているのは,縦書きとルビの問 題である。三省懇が IEC 62448 の改訂案として XMDF とドットブックを中心とした理由のひとつ も既に縦書きを含む日本語の規格が定まってい たため,それらを利用するという側面もある。ま た , EPUB の 国 際 化 を 進 め る サ ブ グ ル ー プ 「Enhanced Global Language Support」(EGLS) でも日本語の縦書きやルビなどを含む機能不足 を解消すべく作業を進めており,2011 年 5 月に は縦書きやルビを含む仕様策定が完了する見通 しであるとされる。 3.4 デジタル著作権処理 標準中間フォーマットと配信用フォーマット を考える時,デジタル著作権処理(DRM)の問題も 検討する必要があるだろう。 たとえば,EPUB は標準規格であり,EPUB ファ イルの間であれば,互換性があるとされる。しか し,同様に EPUB を用いていたとしても,実際に 販売されている電子書籍ではその販売する各社 ともに DRM 付きのファイルを使用しているはず である27)。Adobe も EPUB 向けの DRM ソリューシ ョンでビジネスを展開している。ビジネスモデル に違いはあるが,EPUB から先は各社のビジネス 領域になっている。ということは,結局それらの 間にはひとつも互換性がないともいえるかもし れない27) 国内,XMDF の場合も,記述フォーマットから 先はシャープのビジネス領域として,独自の(省 メモリが実現できる)データ構造に変換し,DRM を付与して配信フォーマットとしている。したが って,EPUB が「電子書籍の世界標準」という表 現は配信用ファイルが完全に互換であることを 意味してはいない。あくまで標準的な規格は中間 フォーマットに関しての話と意識しておくべき であろう。

4. 学術情報流通への課題

武田英明は学術情報流通におけるコンテンツ の性質を以下のようにまとめている28) ・記事(論文)単位に独立している

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・レイアウトを気にしない - 著者フォーレイアウトもある(TeX など) ・誌面のクオリティはあまり気にしない (例外:生物医学等の詳細写真つき論文) ・外部のリソースへのリンク(参考文献や supplement data など)も重要 その上で,学術情報の電子化の最も大きなメリ ットが,検索容易性,本文到達性にあること,さ らに,利用者にとって柔軟な購読スタイル(多様 な端末など)もメリットのひとつであると述べて いる。逆に,電子化のデメリットとしては,購読・ 利用方式の出版社依存が高まること,未来に渡る コンテンツの保存(長期的な保存)の問題,寡占化 の可能性を指摘している28) これら学術情報流通の特質と,電子書籍フォー マットの問題についていくつかの視点から検討 したい。 1) レイアウト 武田も述べるように,学術情報流通においては, 雑誌誌面の再現性などは要求されないことが多 い。その意味では,レイアウトに関しては一般的 な雑誌で問題になるような現在の EPUB 程度の表 現力であっても 29),学術情報流通においては大 きな問題とはならない可能性が高い。ただし,レ イアウトの問題に関しては,読みやすさなどの観 点ではなく他の視点から2つの問題があると考 えられる。 問題点のひとつは,学術情報が多くの著者によ って直接生み出されているという点である。会議 録をはじめとして,著者が作成した版下をそのま ま利用する形で電子出版のファイルとすること は多い。現在,そのような場合には PDF ファイル が事実上の標準として用いられている。しかし, 前述のように現在の主要な電子書籍フォーマッ トの多くは,動的レイアウトを採用しており,こ のようなフォーマットが定着した場合に,多くの 研究者が現在までとは違うソフトウェアに対応 できるのか,また対応する必要があるのかは不透 明である。 また,もうひとつの問題はレイアウトが動的に 変更されることにともなうリンク先の問題であ る。例えば,kindle で大学の授業を行うことが できるかという実験が米国の大学で行われたが, その中では「XXX という書籍の YYY ページ」が kindle では全く分からなかったという指摘があ る 30)。新しいデバイスと紙の学術雑誌が混在す るような状況で,このようなリンク先をどのよう に考えるかについては,まだほとんど検討されて いないのが現状である27)30) 2) 多様な配信フォーマットと中間フォーマット これら電子書籍フォーマットの問題は,武田も 指摘する購読・利用への出版社依存を高め,また 出版社の寡占化につながる可能性を高めること につながることが予想される。 ただし,この問題は電子書籍フォーマットのみ に関わる問題ではなく,電子書籍リーダーなどの デバイスや,電子書籍を販売するプラットフォー ム(電子書籍の書店など)も含めて考える必要が ある。歴史的に電子書籍フォーマットの進化は電 子書籍リーダーの進化と密接に関わっている。ま た,ある種の電子書籍リーダーでは,図書や雑誌 の販売を特定のプラットフォームに限定するこ ともありえる。 また,販売が特定のプラットフォームに限定さ れなかったとしても,提供される書籍や雑誌が特 定のプラットフォームに集中した場合,事実上, そのプラットフォーム以外からの販売は困難に なることもありえよう。技術的には,最近の電子 書籍リーダーは OS を搭載しており,起動するア プリケーションを切り替えることができる。その 意味で,多様な配信フォーマットに全て対応する デバイスを開発すること自体は,それほど大きな 問題ではないと思われる。その意味で,この問題 は社会システムの問題ということもできよう。 中間フォーマットがめざすワンソースマルチ ユースが実現されれば,このような状況は改善す るかもしれない。また,資料の保存という意味で も有効であろう。しかし,たとえ規格が定まった としても,それがどの程度利用されるかが不透明 であるのは前述の通りである。

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3) デジタル著作権 デジタル著作権を設定できることは,エンバー ゴ期間の設定などを柔軟に行うことができると いう点で,学術情報流通に大きな影響を与えるこ とができる可能性がある。ただし,このような処 理を行うためには,配信プラットフォームとの連 携が不可欠であり,その意味で前項と同様の問題 が残る可能性がある。 以上,いくつかの視点から電子書籍フォーマッ トと学術情報流通との関わりを検討してきた。た だし,ここにあげた問題点や課題は,現在が電子 書籍の黎明期であることによるものも多い。従来 の書籍販売のビジネスモデルが変化した先に,ど のような新しい情報の提供,利用方法がうまれて くるかについては,今後大きな展開もあることが 予想される。いくつかの問題・課題はあるが,電 子書籍は学術情報の発信と利用の形態を変える 可能性を秘めていることは間違いがないだろう。 現在検討されている中間フォーマット,新しく出 現してきたビジネスモデルが,今後どのような影 響をもたらすのか注視していきたい。

8. 参考文献

1)イースト(株)[監修];インターネットメディ ア総合研究所 [編集]. 電子出版文書フォー マット技術動向調査報告書 2010-2011.インプ レス R&D. 2010. 204p. 2)広沢昌司,中井宏樹.電子書籍 XMDF のマルチ プラットフォーム技術.情報処理学会全国大 会講演論文集.2010,vol.72,no.1,p. 1311-1312. 3)北村義弘,,岩崎圭介, 田中秀明.電子出版 と XMDF 技術.シャープ技報.2002,no.84, p.13-17. 4)植村要. 出版社から読者へ,書籍テキストデ ータの提供を困難にしている背景について. Core Ethics. 2008, vol.4, p.13-24. <http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/c e/2008/uk01.pdf> (参照 2010-09-10). 5)植村八潮. 電子書籍と国際標準フォーマット. <http://www.soumu.go.jp/main_content/000 063608.pdf>(参照 2010-10-20) 6)日本が電子書籍の波に乗るために――JEPA が EPUB 日 本 語 要 求 仕 様 案 を 説 明 .<http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/ar ticles/1004/08/news020.html> (参照 2010-09-10) 7)佐々木隆一. 電子書籍ビジネスの現状と課題. 日 本 印 刷 学 会 誌 . 2006, vol.43, no.2, p.94-97. 8)植村八潮.電子書籍規格の必要性 日本語表現 と求められる標準化 電子書籍ファイルフォ ーマットの標準化と交換フォーマット.印刷 雑誌.2010,vol.93,no.9,p.13-16. 9)齋鹿尚史.電子書籍規格の必要性 統一中間フ ォーマットの要件.印刷雑誌.2010,vol.93, no.9,p.21-24. 10)萩野正昭.電子書籍規格の必要性 みんなの電 子出版であるために 電子出版の変遷と動向. 印刷雑誌.2010,vol.93,no.9,p.9-11. 11)小町祐史.電子書籍規格の必要性 電子書籍フ ァイルフォーマットの構造 記述言語と IEC TC100/TA10 の電子書籍フォーマット.印刷雑 誌.2010,vol.93,no.9,p.17-20. 12)総務省;文化庁;経済産業省.「デジタル・ネッ トワーク社会における出版物の利活用の推進 に関する懇談会」報告書. <http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news /02ryutsu02_02000034.html> (参照 2010-10-20) 13)小形克宏. 電子書籍の(なかなか)明けない 夜明け(第 3 回ナゾの「中間(交換)フォーマッ ト」)<http://internet.watch.impress.co.j p/docs/column/yoake/20101029_403226.html #2>(参照 2010-10-20) 14)日本語の電子書籍 規格統一出版促す. 朝日 新聞. 6 月 9 日, 朝刊 東京本社 13 版. 13 面. (http://www.asahi.com/business/update/06 08/TKY201006080359.htmL でも公開)

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15)鎌田博樹.「日の丸電書フォーマット」と EPUB. (EBook2.0 Forum) 2010 年 6 月 9 日, (http://www.ebook2forum.com/2010/06/j-fo rmat-vs-epub/)(参照 2010-10-20) 16)新野淳一. 電子書籍の政府での議論が心配だ. (publickey). 2010 年 6 月 29 日, <http://www.publickey1.jp/blog/10/post_1 12.html>(参照 2010-10-20) 17)中村祐介. 日本の電子書籍は,ガラケーと同 じ道をたどるのか?(NETMarketing Online). (http://business.nikkeibp.co.jp/article/ nmg/20100810/215764/)(参照 2010-10-20) 18)池田信夫. 電子書籍でも失敗を繰り返すメデ ィア業界の「ガラパゴス病」 <http://ascii.jp/elem/000/000/544/544407 >(参照 2010-10-20) 19)植村八潮. 電子書籍中間(交換)フォーマッ ト統一案と IEC62448 改訂. <http://www.bunka.go.jp/chosakuken/digit al_network/gijutsu_06/pdf/shiryo_6_1.pdf > (参照 2010-10-20) 20)林雅之. 電子書籍の中間フォーマットについ て.<http://blogs.itmedia.co.jp/business2 0/2010/06/post-c3d0.html> (参照 2010-10-20) 21)村田真. 日本語中間フォーマットと EPUB の 国際標準化(デジュール標準). <http://www.xmlmaster.org/murata/xmlblog /xb100911.html>(参照 2010-10-20) 22)ろす. 中間フォーマットってどうやって使う の? <http://d.hatena.ne.jp/lost_and_found/20 100925/1285383714>(参照 2010-10-20) 23)台湾における電子書籍フォーマットの標準化

の状況について". CHINESE E-CHUBAN BLOG. http://kzakza.wordpress.com/2010/08/03/% E5%8F%B0%E6%B9%BE%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%8 1%91%E3%82%8B%E9%9B%BB%E5%AD%90%E6%9B%B8 %E7%B1%8D%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3% 83%9E%E3%83%83%E3%83%88%E3%81%AE%E6%A8%9 9%E6%BA%96%E5%8C%96%E3%81%AE%E7%8A%B6/.( 参照 2010-09-10) 24)EPUB 日中韓の動向と CJK 拡張に向けての今 後の動き ? 5/12 の JEPA 村田真氏の発表資料 より. CHINESE E-CHUBAN BLOG.

<http://kzakza.wordpress.com/2010/05/14/ epub-cjk%E6%8B%A1%E5%BC%B5%E3%81%AB%E5%9 0%91%E3%81%91%E3%81%A6%E3%81%AE%E5%8B%95 %E5%90%91%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3% 81%A6-512%E3%81%AE%E6%9D%91%E7%94%B0%E7% 9C%9F%E6%B0%8F%E3%81%AE%E7%99%BA/> (参照 2010-09-10) 25)海上忍. 電子書籍の中間フォーマットは日本 のガラパゴス化を進めるか? <http://builder.japan.zdnet.com/sp/epub2 010/story/0,3800103623,20416869-2,00.htm > (参照 2010-10-30) 26)海上忍. Apple や Google も標準化団体に加盟 --EPUB フォーマットの最新動向をまとめる. <http://builder.japan.zdnet.com/sp/EPUB2 010/story/0,3800103623,20419045,00.htm> (参照 2010-09-10) 27)deep_one. 電子ブックの中間フォーマットに ついて(泥船湾日誌) <http://d.hatena.ne.jp/deep_one/20101029 /p1>(参照 2010-09-10) 28) 武田英明.学術情報流通の現状. <http://www.bunka.go.jp/chosakuken/digit al_network/gijutsu_04/pdf/shiryo4_1.pdf> (参照 2010-10-20) 29)EPUB というファイルフォーマットでは雑誌 を作れない. <http://appetizer.jp/business/epub.html> ((参照 2010-09-10)

30) Haruka Ueda. 米大学が講義に Kindle を導入 してみるも,不満集中

<http://japanese.engadget.com/2009/09/29 /kindle/>(参照 2010-10-10)

参照

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