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原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題

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原子力発電所の新規制基準の策定経緯と課題

環境委員会調査室 大嶋 健志

1.はじめに

これまで我が国の原子力規制行政は、原子力施設の設置、建設、運転の各段階において、 原子力施設の種類に応じて各規制行政庁が担当し、その判断の妥当性について、内閣府の 原子力安全委員会が二次的に監視・監査する体制がとられ、いわゆるダブルチェックが実 施されてきた。原子力発電所に係る規制行政庁は、経済産業省に属する原子力安全・保安 院(以下「保安院」という。)であった。2011 年3月 11 日の東京電力福島第一原子力発電 所事故発生以降、原子力行政の推進と規制が同じ経済産業省内の組織により実施されてい たことが、事業者に対する規制を不十分なものとした背景であるとの指摘がなされた。 その反省に立って、原子力規制組織及び原子力規制制度の改革が実施されることとなり、 2012 年9月 19 日、原子力規制行政の一元化を目指して原子力規制委員会が発足し、2013 年7月8日には、原子力発電所における原子炉の炉心損傷等の重大事故に係る対策(以下 「シビアアクシデント対策」という。)の義務化等を内容とする改正原子炉等規制法1が施 行された。改正された同法では、原子力発電所の設置許可等に関する新規制基準を原子力 規制委員会規則により定めることとされている。 以下では、原子力発電所に係る新規制基準の策定に至るまでの経緯について整理すると ともに、新規制基準に関連する若干の課題について触れたい。

2.原子力規制委員会設置法の制定

(1)原子力規制の見直しと法制定の経緯 政府は、福島第一原発事故から約3か月を経た 2011 年6月7日、「原子力安全に関する IAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」(以下「IAEA報告」という。)を取り まとめ、初めて事故に対する評価を行い、事故を教訓として原子力規制の見直しを進める ことを表明した。その後、同年8月 15 日には、規制と利用の分離や規制の一元化の観点か ら経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会を統合し、環境省の外局として「原 子力安全庁(仮称)」を設置することや、設置時期は 2012 年4月を目途とすること等の方 針が閣議決定された。 その後の検討を経て、政府は、第 180 回国会の 2012 年1月 31 日、「原子力の安全の確 保に関する組織及び制度を改革するための環境省設置法等の一部を改正する法律案」(閣法 第 11 号)、「原子力安全調査委員会設置法案」(閣法第 12 号)(以下両法案を「政府案」と いう。)等を国会に提出した。政府案は原子力規制行政を一元化し環境省の外局として「原 1「原子炉等規制法」の正式名称は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和 32 年6 月 10 日法律第 166 号)である。

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子力規制庁」(原子力安全庁を改称)を設置し、原子力規制の強化のため、原子炉等規制法 等の改正を行おうとするものである。 一方、自民党は、政府案では、組織の独立性担保や規制の一元化が不十分であるとして 対案を取りまとめ、新規制組織については、政府案の「原子力規制庁」という形ではなく、 独立行政委員会、いわゆる三条委員会の「原子力規制委員会」を環境省の外局として設置 することとし、その委員長及び委員は国会同意の対象とした。なお、「原子力規制庁」は、 原子力規制委員会の事務局として名称を残すこととした。また、一元化の対象事務として、 核不拡散のための保障措置や、放射性同位元素の障害防止等を追加している。自民党によ る対案は、公明党との調整を経て、2012 年4月 20 日に「原子力規制委員会設置法案」(衆 第 10 号、以下「自公案」という。)として、国会に提出された。 その後、政府案及び自公案は、民主、自民、公明の三党協議により一本化することとさ れ、政府案及び自公案が撤回され、2012 年6月 15 日、衆議院環境委員長から「原子力規 制委員会設置法案」(衆第 19 号)が提出された。その内容は、新規制機関については自公 案が軸となり、原子炉等規制法の改正については政府案をほぼ踏襲するもの(改正内容は (2)を参照)で、6月 20 日の参議院本会議で可決、成立した。 (2)事故原因の分析と原子炉等規制法の改正 福島第一原発事故の直接的原因については、高線量の放射線のため損傷した機器自体を 調査することができない状況の中、確定的な分析はなされていないが、国会事故調からは 重要な機器が地震により損傷した可能性があるとの指摘もある2。しかし、事故の大きな要 因が、地震・津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあ ることは、大方一致している3。一方、制度的な背景として、地震や津波に対する知見の反 映が不十分であったこと、シビアアクシデント対策が事業者の自主的な取組に位置付けら れるなど規制が十分でなかったことなども一致して指摘される点である。これらの事故原 因に対する概括的な認識は、上記のIAEA報告で政府が示した分析以降、大きく変化し ていない。 このような認識の下に、(1)の原子力規制委員会設置法の附則において、原子炉等規 制法が改正され、①シビアアクシデント対策を原子炉等規制法において義務化し、②最新 の知見を新基準として取り入れた際に、既設の施設に対しても適合を義務付け(バックフ ィット制度の導入)、③電気事業法の規制下にあった運転段階等における規制を原子炉等規 制法に移行し、④40 年運転制限制の導入等がなされた。 2 2012 年6月 28 日に両院議長に対して報告された国会事故調の報告書(「東京電力福島原子力発電所事故調査 委員会報告書」)は、地震動により小規模な冷却材喪失事故が発生していた可能性を指摘している。(同報告書 P207~248) 3 国会事故調のほかにも主な報告書として、政府事故調報告書(2012 年7月 23 日)、民間事故調報告書(2012 年2月 27 日)等がある。図表1も参照。

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図表1 福島第一原発事故後の新規制基準策定等の経過 (出所)筆者作成 原発事故処理関連 事故の評価・法改正関連 新規制基準策定・再稼働関連 2011.3.11 事故発生 2011.4.17 最初の工程表 ( 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所・事故の収束に向けた道 筋) 2011.7.19 工程表ステッ プ1達成確認(安定的な冷 却) 2011.12.16 工程表ステ ップ2完了報告書(冷温停 止状態)、野田総理が「事 故収束宣言」 2011.12.21 中長期ロー ドマップ(福島第一原子力 発電所1~4号機の廃炉 措置等に向けた中長期ロ ードマップ)策定 2012.7.30 中長期ロード マップ改訂 2012.11.7 特定原子力施 設の指定 2013.4.26 汚染水対策委 員会初回会合 2013.6.27 中長期ロード マップ再改訂 2011.6.7 IAEA閣僚会議に 対する日本国政府の報告書公表、 政府事故調初回会合、エネルギー 政策見直し検討開始 2011.8.5 原子力安全規制組織 見直し「細野試案」 2011.9.11 IAEAに対する日 本国政府の追加報告書 2011.12.2 東電社内事故調中間 報告 2011.12.26 政府事故調中間報 告 2012.1.31 原子力規制改革法案 (政府案)の国会提出 2012.2.27 民間事故調報告書 2012.4.20 原子力規制改革法案 (自公案)提出 2012.6.20 原子力規制委員会設 置法成立 2012.6.20 東電社内事故調最終 報告 2012.7.5 国会事故調報告書 2012.7.23 政府事故調最終報告 2011.3.30 保安院が「緊急安全対策」 を指示 2011.5.6 保安院が「緊急安全対策」実 施確認、菅総理が浜岡原発停止要請 2011.6.7 保安院が「シビアアクシデン ト対策」実施を指示 2011.6.16 原子力安全委員会が主要指 針改定の検討を開始 2011.6.18 保安院が「シビアアクシデン ト対策」実施を確認、海江田経産大臣が 「原発安全宣言」 2011.7.6 菅総理が再稼働にストレス テスト実施が条件とする旨を表明 2011.10.28 関西電力が大飯原発のス トレステスト一次評価提出(全原発で 初) 2011.10.31 保安院が耐震バックチェ ック再開 2012.2.13 保安院が大飯原発のストレ ステスト一次評価の審査終了 2012.2.16 保安院が技術的知見中間取 りまとめ(30 項目の安全対策、確定版 3.28) 2012.3.22 原子力安全委員会が主要指 針改定案等取りまとめ 2012.3.23 原子力安全委員会が大飯原 発のストレステスト一次評価審査終了 2012.6.8 野田総理による大飯再稼働 記者会見 2012.9.19 原子力規制委員会発足 2013.2.6 原子力規制委員会が新規制 基準骨子案パブリックコメント開始 2013.6.19 新規制基準決定 2013.7.3 大飯原発の現状評価書了承 2013.7.8 新規制基準施行

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3.従来の規制基準

原子炉等規制法においては、原子炉の設置許可時の安全面の基準について、「災害の防止 上支障がないものであること」4と規定されていた。しかし、同法の政省令において、これ を具体化した規定は定められず、ダブルチェックを実施する際の指針として、原子力安全 委員会が内規として定める安全審査指針類が、規制基準としての役割を果たしてきた。一 方、運転開始後の維持基準については、詳細設計以降は原子炉等規制法ではなく電気事業 法が適用されている中で、安全審査指針類の内容と調和を取る形で電気事業法の省令が規 制基準となってきた。 安全審査指針類は、1964 年5月 27 日に「原子炉立地審査指針及びその適用に関する判 断のめやすについて」(立地指針)5が定められたのが最初であり、以後、原子力委員会(1978 年の原子力安全委員会分離独立後は原子力安全委員会が策定)では、安全審査指針を順次 制定していくが、原子炉の設置許可に際して特に重要な指針は、1970 年4月 23 日に定め られた「軽水炉についての安全設計に関する審査指針について」(以下「安全設計審査指針」 という。)である。この安全設計審査指針は、「安全性確保の観点から設計の妥当性につい て判断する際の基礎を示すことを目的として定めたもの」であり、今般の法改正により、 原発設置時の規制基準として原子力規制委員会規則で定められることとなった。 また、安全審査の規定を補完し、耐震安全性の観点からの要求事項を明確化したものと して、1978 年9月 29 日、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設 計審査指針」という。)が策定されており、同様に今回原子力規制委員会規則において定め られることとなった(6参照)。なお、福島第一原発事故のようなシビアアクシデント対策 については、事業者の自主的な措置(法令要件外)として、整備が進められてきたが、法 令上の規制要件化を目指す動きもあった6

4.福島第一原発事故後の諸対策と再稼働への動き

福島第一原発事故を引き起こした平成 23 年(2011 年)東北地方太平洋沖地震の時点で、 稼働中であった原発は、その後順次定期検査入りし、定期検査から再稼働された原発は、 大飯原発のみである。政府は、事故により多くの原発が停止したことで、電力の供給力が 低下することを懸念し、事故直後から、円滑な再稼働を目指した。その過程で原発に対す る規制要求は下記のとおり充実され、それらの対策は、最終的には原子力規制委員会によ る新規制基準に包含されることとなった。 (1)「緊急安全対策」の実施(2011 年3月) 九州電力では、玄海原発の2、3号機について、2011 年3月下旬以降、定期検査を終了 して、順次再稼働することを予定していたが、3月 24 日、その延期を発表した。また、福 4 旧原子炉等規制法第 24 条第1項第3号、新法では第 43 条の3の6第1項第4号 5 立地指針は、原子炉等規制法における「位置」についての基準を示したものであり、立地条件として事故時 に周辺住民に著しい放射線災害を与えないことなどとされていた。 6 「原子力安全規制に関する課題の整理」(2010.3.29)(総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会基本 政策小委員会)では、国際的な動向を踏まえ、法令上の取扱等について検討することが適当としている。

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島第一原発事故により原発立地自治体に原発の再稼働に慎重な動きが広がっていた。そう した中で、海江田経済産業大臣は、3月 25 日の記者会見で再稼働に向けたガイドラインを 近々発表することを明らかにし、3月 30 日には、保安院による「緊急安全対策」として発 表された。その主な内容は、原子炉や使用済燃料プールを冷却するための電源車の配備、 冷却水を供給するための消防車の配備等である。これらの対策について、5月6日、保安 院は対策の実施がなされていることを確認した。 一方、同日、菅総理は、記者会見を開いて、浜岡原発の全原子炉の運転停止を中部電力 に対して要請したことを発表した。この要請は法令に基づくものではないが、同発電所付 近が震源の「想定東海地震」で発生する大規模津波への諸対策が講じられるまでは、運転 を停止するよう求めたものである。この発表に対しては、原発の安全性を懸念する立場か ら歓迎する意見もあった一方で、要請が法令に基づくものではないことや、浜岡原発のみ を対象とすることについて合理的な説明がないなどとする批判がなされた。 図表2 福島第一原発事故後の安全対策と新規制基準の関係 (出所)筆者作成 (2)「シビアアクシデント対策」の実施(2011 年6月) 上記(1)の対策によっても立地自治体の安全への不安は解消されなかったため、政府 は、2011 年6月7日のIAEA報告において、追加的な緊急安全対策を講ずることとした。 これに対応して、保安院は、同日付で、6月 14 日までに新たなシビアアクシデント対策に ついて報告するよう事業者に求めた。この対策は、中央制御室の作業環境の確保、構内通 【2012.7.6 原子力安全委】 ・ストレステスト 【安全性向上評価制度    2013.12.18までに施行】 【保安院 2011.3.30】 ・代替電源対策(電源車) ・最終ヒートシンク対策(消防車) 【保安院 2011.4.15】 ・外部電源の信頼性確保 【保安院 2011.6.7】 ・中央制御室の作業環境確保 ・構内通信手段確保 ・高線量対応防護服確保 ・水素爆発防止 ・がれき撤去用重機配備   【原子力安全委 2012.3.22】   ・全交流電源喪失対策   ・最終ヒートシンク対策       (全般) 2011年夏再稼働 2012年夏再稼働 ?再稼働 <実現せず> <大飯のみ再稼働> <2013.7.8~ 適合性審査> 【新規制基準 2013.7.8】 安全設計審査指針・電気事業法省令に 代わるものとして策定。以下を新規に 追加。 ・シビアアクシデント対策 ・「基準津波」の設定 ・テロ対策 ・内部溢水対策 ・竜巻、火山、森林火災の影響 ※基準は直ちに適用される。ただし、 バックアップ施設は5年間猶予。 【保安院 2012.2.16】 ・外部電源対策 ・所内電気設備対策 ・冷却・注水設備対策 ・格納容器破損・水素爆発対策 ・管理・計測設備対策

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信手段の確保、ベント設備の設置を進めること、がれき撤去用の重機の配備等から成るが、 体系的なシビアアクシデント対策ではなく、(1)の緊急安全対策の追加的な対策となって いる。 海江田経済産業大臣は、6月 18 日、上記対策について、着実に実施されていることを 確認したとし、原子力の安全性について、国が責任を持って、地元に説明していきたい旨 の「原発安全宣言」を行った。そして、大臣自ら玄海原発の立地自治体の首長を説得し、 7月4日には玄海町長が再稼働を了承することを表明し、玄海原発は再稼働される方向と なった。 (3)「ストレステスト」の指示(2011 年7月) 上記(1)、(2)のとおり、一定の対策がとられたのを受けて、経済産業省では、夏の 電力不足を回避するため、再稼働を進める予定であった。しかし、菅総理は、2011 年7月 6日の衆議院予算委員会において、玄海原発の再稼働の可否について、EU諸国では、福 島第一原発事故後に域内全ての原発を対象としてストレステストを実施していることを挙 げ、国内の原発についても、ストレステストを実施するなどして、改めて国民が納得でき るルールの下で検証していくことが必要であり、直ちに再稼働することに反対との発言を 行った。 その後、政府内部で調整の結果、7月 11 日、関係三大臣(枝野内閣官房長官、海江田 経済産業大臣、細野内閣府特命担当大臣)の連名による見解が発表された。この中では、 現行法令にのっとった安全性の確認が行われたとしても、保安院の安全確認には疑問の声 もあり、改めてストレステストを実施することが再稼働には必要であるとされた。進め方 としては、定期検査中の再稼働の判断のため、安全裕度をチェックする1次評価と、全原 発を対象とした2次評価とに分けて実施することとされた。これにより、ストレステスト に要する期間を考えると、2011 年の夏の間に新たに原発を再稼働することは不可能となっ た。 (4)ストレステストの実施 ストレステストのうち、1次評価の報告書が最初に提出された原発は、関西電力大飯原 発3号機(後から提出された4号機も一括審査対象となった)であった。このため、保安 院は、大飯原発3、4号機から審査を進め、2012 年2月 13 日に了承、原子力安全委員会 は、3月 23 日に了承している。なお、ストレステスト1次評価において、原子力規制委員 会が設置された 2012 年9月までに、保安院による了承を得た原発は、ほかに数基あるが、 原子力安全委員会の審査まで終了したのは、大飯原発のみである。 なお、このストレステストの審査は、2012 年9月の原子力規制委員会設置以降は、進め られていないが、原子炉等規制法の改正により、2013 年 12 月にはストレステストの制度 化とも言える「安全性の向上のための評価制度」(第 43 条の3の 29)が導入されることと なっており、5年ごとに評価を義務付ける方向で検討が進んでいる。

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(5)「30 項目の対策」の取りまとめ(2012 年3月) 保安院では、政府事故調による事故の調査が進められている中、規制行政庁として、事 実関係及び経緯を再整理し、技術的課題を体系的にまとめることを目指して、「東京電力株 式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に係る意見聴取会」を設置し、2011 年 10 月 24 日から検討を開始した。その検討結果を踏まえ、シビアアクシデントの回避策とシビ アアクシデントに至った際の対策について、今後の規制に反映すべきと考えられる対策を、 2012 年2月 16 日に 30 項目に整理した中間取りまとめを公表した。その後のパブリックコ メントを経て、3月 28 日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に ついて」として取りまとめた。この取りまとめは、後に策定される新規制基準の中核的な 内容となっており、事故後初めての総合的な安全対策となっている。 (6)大飯原発の再稼働決定(2012 年6月) 政府は、2012 年4月3日、ストレステストの1次評価の実施と、「30 項目の対策」の取 りまとめを踏まえて、原発の再稼働を推進していくため、「原子力発電所に関する四大臣会 合」(野田総理、藤村内閣官房長官、枝野経済産業大臣、細野原発事故担当大臣)を設置し て、再稼働のための基準を作成することとした。検討の結果、4月6日に「30 項目の対策」 をベースとした判断基準が取りまとめられ、既にストレステストの1次評価の審査が終了 している大飯原発3、4号機について、基準に合致しているかどうか検討を行い、野田総 理は、6月8日、再稼働を表明した。その後、7月1日、事故後初めて停止していた原発 が再稼働された。9月 19 日に発足した原子力規制委員会では、原発の再稼働については新 基準策定後としたため、大飯原発以降、新たに再稼働した原発はない。

5.新規制基準の策定

(1)原子力安全委員会指針見直し取りまとめ(2012 年3月) 規制行政庁である保安院によって、上記の対策が順次実施されていくのと並行して、ダ ブルチェック機関である原子力安全委員会においても、2011 年6月以降、安全審査指針類 の見直しの議論が開始された。具体的な検討は、これまで指針類の検討を随時行ってきた 「原子力安全基準・指針専門部会」の下に「安全設計審査指針等検討小委員会」を設置し て行うこととなった。事故原因が究明されていない段階での指針見直しについて疑義を呈 する意見もあったが、班目委員長は、事故の完全な原因究明を待っての見直しでは遅いと して、可能な部分での意見集約を要請した。また、検討の期限は、当初の原子力規制機関 の再編の目標時期が 2012 年4月であったことを踏まえて同年3月中が目途とされた(原子 力安全委員会への報告は期限どおり3月 22 日になされた)。 小委員会では、主に事故の大きな原因であることが確実な全交流電源喪失及び最終ヒー トシンク(UHS)喪失の対策について検討がなされた。その結果、全交流電源喪失につ いては、旧指針で「長期間にわたる全交流動力電源喪失は考慮する必要がない」(安全設計 審査指針 27)と記載している点について、非常用電源とは独立した代替電源の設置を求め る改定案を示した。また、最終ヒートシンク喪失対策については、改定案までは示されず、

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UHSの頑健性、代替UHSの機能等について論点整理が行われた。なお、シビアアクシ デント対策の規制要件化の方法については、今後の検討課題とし、結論を出すことはなか った。 (2)原子力規制委員会における新規制基準の策定 2012 年9月 19 日に発足した原子力規制委員会では、2.(2)のとおり、シビアアクシ デント対策が義務化されることに備え、シビアアクシデント対策を含む新規制基準を策定 する必要があった。そこで、2012 年 10 月 10 日の原子力規制委員会において、新たに「発 電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム」を設置して、検討を行うこととした。 なお、同チームの外部有識者は、4.(5)の保安院の意見聴取会や5.(1)の原子力安 全委員会の小委員会の委員と重複している者もおり7、実質的には継続した議論が行われて いる。 以上の議論を経て、原子力規制委員会は、2013 年6月 19 日、原子力規制委員会規則や 関連内規として新規制基準を決定した(施行は7月8日)。新たな要求事項として、竜巻や 火山の影響の考慮、内部溢水対策、シビアアクシデント対策などを加えている。旧基準と 比較した概要は図表3のとおりである。 図表3 新旧の原発規制基準の比較 (出所)筆者作成 7 原子力規制委員会委員で検討チームの責任者である更田豊志氏は、「安全設計審査指針等検討小委員会」の委 員(主査代理)であった。また、山口彰氏(大阪大学大学院)及び渡邉憲夫氏(日本原子力研究開発機構)は、 3つ全ての検討組織に共通した委員である。 事項 従来の基準 原発ごとに「基準津波」を設定 「地震随伴事象」として津波を考慮 耐震設計上考慮する活断層 の認定基準 後期更新世以降(約12~13万年前)の 活動が否定できないこと 考慮すべき自然事象の拡大 洪水、津波、風、凍結、積雪、地滑り 内部溢水対策 なし 火災防護対策 実用上可能な限り不燃性又は難燃性 材料を使用 安全施設の共用禁止 共用する場合、原子炉の安全性を損 なうことのない設計 熱を逃す系統の防護 最終的な熱の逃がし場へ熱を輸送す る系統は、外部電源なしでも機能達成 原子炉停止失敗時のホウ酸注水設備等 格納容器スプレイ代替注水設備、格納容器フィルタ・ベント設置等 原子炉建屋への放水設備等 常設直流電源設備(3 系統目) 「特定重大事故等対処施設」の設置 シビアアクシデント対策 ○格納容器破損防止対策 ○敷地外への放射性物質の拡散抑制対策 ○電源車等の代替電源設備の配置 ○テロ対策 ○シビアアクシデント対策の有効性評価 (事業者の自主的対策) 原則として不燃性材料又は難燃性材料を使用 重要安全施設における共用は原則禁止 左記に加え、津波等から海水ポンプ等の設備を防護 ○炉心損傷防止対策 新基準 「基準津波」に対しての安全機能確保 後期更新世以降の活動性が判断できないときは中期更新世(約40万年 前)に遡って検討 竜巻、火山の影響、森林火災等を追加 内部溢水発生時の安全機能確保

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6.地震・津波に関する基準

(1)耐震設計審査指針の改定(2006 年) 耐震性に関する基準については、上記のとおり、1987 年に耐震設計審査指針が定められ、 安全設計審査指針を補完する形で、耐震基準として用いられてきた。原子力安全委員会で は、1995 年1月 17 日に発生した兵庫県南部地震を契機に「平成7年兵庫県南部地震を踏 まえた原子力施設耐震安全検討会」を設置して検討を行い、その改定を検討したが、同年 9月、指針類の妥当性が損なわれるものではないと結論付け、地震直後には改定を見送っ ていた。 その後、原子力安全委員会では、1996 年から 2000 年の5年間、原子力施設の耐震安全 性に関する海外の基準類や文献の収集整理等を行ったとされ、その蓄積の上に 2001 年6月、 原子力安全基準専門部会の下に「耐震指針検討分科会」を設置して検討を開始した。原子 力安全委員会は、分科会の検討を踏まえて、2006 年9月 19 日に新たな耐震設計審査指針 を決定した。主な改定の内容は、①活断層の活動性評価に係る期間を5万年前から 12~13 万年前に拡大する、②基準地震動の評価方法を高度化する、③「残余のリスク」の存在を 認識し、それを小さくする努力を行うなどである。 (2)耐震・津波の評価 ア 保安院による耐震バックチェック 原子力安全委員会では、新耐震設計審査指針の内容を踏まえた耐震安全性の確認を実 施することが、原子力施設の安全性の一層の向上に資するものであるとの認識の下、原 子力安全・保安院に対して各事業者に新指針を踏まえた既設原子力発電所の耐震安全性 の評価(耐震バックチェック)を要請した。これを受け、原子力安全・保安院は、事業 者に対し、各原発におけるバックチェックを要請した。このため、各事業者において、 改めて活断層についての評価が実施されることとなった。特に敷地内の破砕帯と周辺の 活断層の連動性について評価が実施されてきたが、福島第一原発事故の発生により一時 作業が中断した。 2011 年 10 月、バックチェックが再開されたが、検討を行うための場は、メンバーを 代えて新たに設置された。この検討の結果、2012 年9月、敷地内破砕帯の活動性につい て、①調査が必要(敦賀、東通、志賀、美浜、もんじゅ)、②念のため調査が必要(大 飯)、③データ拡充に努める(柏崎刈羽、浜岡、六ヶ所、高浜)、④その他(泊、女川、 福島第一、福島第二、川内、玄海、伊方、島根、東海第二)の4つの区分に整理された。 イ 原子力規制委員会による耐震評価 原子力規制委員会では、この整理をそのまま引き継ぎ、上記①、②の6つの施設につ いて、順次それぞれの施設ごとに有識者会合を設置して検討を進めるとしている。この 調査により敷地内破砕帯が耐震設計上考慮すべき活断層であるとされれば、廃炉に追い 込まれる可能性も出てくる。 2013 年5月 15 日の敦賀原発に係る有識者会合において、敦賀原発2号機原子炉建屋 直下を通る破砕帯が「耐震設計上考慮する活断層」との評価を取りまとめ、5月 22 日

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の原子力規制委員会で了承された。また、東通原発については、有識者会合が同様な判 断をしているが、委員会としての結論は出されていない。一方、大飯原発については、 活断層ではないとの意見が有識者会議内で多数であったが結論を得るに至っておらず、 高速増殖炉もんじゅについては、調査が 2013 年7月 17 日に始まったところである。志 賀原発、美浜原発については有識者会合が設置されていない。 (3)地震・津波に関する新規制基準の策定 原子力安全委員会では、今般の福島第一原発事故の契機が地震・津波であったことから、 耐震設計審査指針の改定を検討した。また、原子力規制委員会も発足以降、地震・津波に 関する規制基準の強化を検討した。これらの検討は、耐震設計審査指針が、設備や機器を 主な対象とする安全設計審査指針とは、別に定められており、関連する有識者も別である ことから、5.(1)、(2)の検討とは、同時並行でそれぞれ別の場が設定された。 ア 原子力安全委員会による検討経過 原子力安全委員会では、2011 年 10 月に再開した耐震バックチェックの審査と並行し て、耐震設計審査指針の見直しの検討のため、5.(1)の「安全設計審査指針等検討 小委員会」に相当する組織として、「地震・津波関連指針等小委員会」を設置した。小 委員会では、検討の結果を耐震設計審査指針とその手引きの改訂案という形にまとめ、 ①「基準地震」と同様に「基準津波」を新たに設定、②考慮対象として明示する地震の 類型の追加、③地震による地殻変動を考慮の対象として明記すること等を提案した。原 子力安全委員会への報告は5.(1)と同様に 2012 年3月 22 日になされた。 イ 原子力規制委員会による検討経過 今回の原子炉等規制法の改正により、直接的に地震・津波関連の基準の見直しを求め る規定はない。しかし、原子力規制委員会では、「発電用軽水型原子炉施設の地震・津 波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム」を設置して、基準見直しに向けて検討 を行った。5.(2)と同様な経過により定められた地震・津波に関する新規制基準に は、アの提案に、①Sクラス(耐震設計上の重要度が最上位)の建物は、活断層等の露 頭がない地盤に設置することを要求すること、②活断層の認定基準として従来の 12~13 万年前に加え、地層が存在しない場合には、40 万年前まで遡ること、③詳細な地下構造 調査を行うこと等が追加されている。(図表3参照)

7.新規制基準に基づく原発適合性審査

2013 年3月 19 日、原子力規制委員会は、関連規定の7月施行を前に新規制基準の適用 に関する方針を決定した。主な点は、①新たな規制導入時には、基準への適合を求めるま でに一定の期間を置くのを基本とするが、施行までが短期間の場合は、次に施設の運転を 開始するまでに行う、②今般の新規制施行の際には、今後の運転再開時に設計基準事故対 策及びシビアアクシデント対策として必要な機能を全て備えていることを求めるが、バッ

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図表4 国内の原子力発電所一覧と適合性審査申請等の状況(2013 年 8 月 19 日現在) (出所)筆者作成 事業者 発電所 号炉 炉型※1 出力(万kW) 運転開始年 適合性審査申請日 活断層調査※2 備考 原電 東海第二 - BWR 110 1978 原電 敦賀 1号 BWR 36 1970 ○ 43年経過 東北 女川 1号 BWR 52 1984 東北 女川 2号 BWR 83 1995 東北 女川 3号 BWR 83 2002 東北 東通 1号 BWR 110 2005 ○ 東京 福島第一 5号 BWR 78 1978 東京 福島第一 6号 BWR 110 1979 東京 福島第二 1号 BWR 110 1982 東京 福島第二 2号 BWR 110 1984 東京 福島第二 3号 BWR 110 1985 東京 福島第二 4号 BWR 110 1987 東京 柏崎刈羽 1号 BWR 110 1985 東京 柏崎刈羽 2号 BWR 110 1990 東京 柏崎刈羽 3号 BWR 110 1993 東京 柏崎刈羽 4号 BWR 110 1994 東京 柏崎刈羽 5号 BWR 110 1990 東京 柏崎刈羽 6号 ABWR 136 1996 申請方針発表(2013.7.2) 東京 柏崎刈羽 7号 ABWR 136 1997 申請方針発表(2013.7.2) 中部 浜岡 3号 BWR 110 1987 中部 浜岡 4号 BWR 114 1993 中部 浜岡 5号 ABWR 138 2005 北陸 志賀 1号 BWR 54 1993 ○ 北陸 志賀 2号 ABWR 121 2006 ○ 中国 島根 1号 BWR 46 1974 39年経過 中国 島根 2号 BWR 82 1989 原電 敦賀 2号 PWR 116 1987 ○ 北海道 泊 1号 PWR 58 1989 2013.7.8 北海道 泊 2号 PWR 58 1991 2013.7.8 北海道 泊 3号 PWR 91 2009 2013.7.8 関西 美浜 1号 PWR 34 1970 ○ 42年経過 関西 美浜 2号 PWR 50 1972 ○ 41年経過 関西 美浜 3号 PWR 83 1976 ○ 36年経過 関西 高浜 1号 PWR 83 1974 38年経過 関西 高浜 2号 PWR 83 1975 37年経過 関西 高浜 3号 PWR 87 1985 2013.7.8 関西 高浜 4号 PWR 87 1985 2013.7.8 関西 大飯 1号 PWR 118 1979 ○ 関西 大飯 2号 PWR 118 1979 ○ 関西 大飯 3号 PWR 118 1991 2013.7.8 ○ 運転中(2012.7~) 関西 大飯 4号 PWR 118 1993 2013.7.8 ○ 運転中(2012.7~) 四国 伊方 1号 PWR 57 1977 四国 伊方 2号 PWR 57 1982 四国 伊方 3号 PWR 89 1994 2013.7.8 九州 玄海 1号 PWR 56 1975 37年経過 九州 玄海 2号 PWR 56 1981 九州 玄海 3号 PWR 118 1994 2013.7.12 九州 玄海 4号 PWR 118 1997 2013.7.12 九州 川内 1号 PWR 89 1984 2013.7.8 九州 川内 2号 PWR 89 1985 2013.7.8 JAEA もんじゅ - FBR 28 1995 ○ 注)※1 原子炉には、発生させた蒸気を直接タービンに送って発電を行うBWR(沸騰水型原子炉)と、蒸気発生 器や二次系統を介するPWR(加圧水型炉)とがある。ABWRはBWRの改良型である。また、研究開発段階 の炉として、高速増殖炉(FBR)がある。 ※2 「活断層調査」欄に○とあるのは、2012年9月に原子力安全・保安院が活断層調査の実施が必要と判 断し、原子力規制委員会が引き継いだ原発で全6か所である(「もんじゅ」を含む)。

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クアップ対策は5年間猶予する、③運転中のプラントについては、新基準をどのくらい満 たしているのか把握するための確認作業を、新基準の内容が固まった段階で速やかに行い、 安全上重大な問題があると認める場合には停止を求めることである。なお、③に該当する のは、大飯原発3、4号機のみであった。 (1)大飯原発の現状評価 上記の方針に基づき、原子力規制委員会は、「大飯発電所3・4号機の現状に関する評 価会合」を設置して、新規制基準は確定していない中で骨子に基づいて 2013 年4月 19 日 から審査を行った。検討の過程では、原子力規制委員会から、周辺にある活断層の連動を 一層考慮する必要性等について指摘があったが、最終的には、7月3日、直ちに安全上重 大な問題が生じるものではないと判断して運転の継続を容認した。 (2)各原発からの申請 新規制基準の施行後、運転中の大飯原発3、4号機を含む 12 の原子炉(大飯のほかに、 泊原発1~3号機、高浜原発3、4号機、伊方原発3号機、川内原発1、2号機、玄海原 発1、2号機)について、新規制基準への適合性確認の申請が行われた。原子力規制委員 会による審査は、「原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合」の下、プラント関係 については、3チームにより、耐震関係については、横断的な1チームにより、約 80 名体 制により審査が進められている。(図表4参照)

8.今後の課題

最後に新規制基準をめぐるいくつかの課題を挙げたい。 (1)規制基準の最新性の維持 旧規制基準である原子力安全委員会の安全審査指針類等は、2006 年の耐震設計審査指針 の改定までに長期間を要したことに見られるように、最新知見の反映が十分になされてこ なかった。今般制定された新規制基準が「世界一厳しい基準」8であったとしても、それを 国際基準に照らし、どのように継続的かつ制度的に維持していくのか、明確に示していく 必要がある。 (2)新規制基準に関わる今後の検討 新規制基準を策定する過程では、多数基立地の制限9など、議論が深まらなかった論点が ある。また、原子力規制委員会として、新規制基準制定後も検討が必要な事項として、規 8 原子力規制委員会記者会見(2013 年6月 19 日、田中原子力規制委員会委員長の発言) 9 福島第一原発が敷地内に6基という多数炉を擁する原発であり、そのことが事故の拡大に影響したことから、 多数基立地自体を制限すべきとの意見がある。この点に関連した議論が、原子力規制委員会発電用軽水型原子 炉の新規制基準に関する検討チーム第8回会合(2012 年 12 月 27 日)で行われているが、再度改めて検討する こととされている。

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制基準において安全上の重要度を測る指針である「重要度分類指針」10の見直し等の課題 を挙げている。これらの点については、今後のスケジュールを含む検討の見通しを示すこ とが必要であろう。 (3)適合性審査の見通しと再稼働の動向 福島第一原発事故以降、大飯原発以外の再稼働が実現しなかった背景には、様々な経緯 があるものの、根本的には原子力規制行政に対する信頼が得られていないことが背景にあ る。新規制基準の適合性審査には6か月程度かかるとされるが、審査の過程において原子 力規制委員会は、事業者に対して指摘を行うだけでなく、安全上の課題や、事業者が取り 組むべき点について、国民に対し何が議論の焦点となっているのか分かりやすく説明する ことも求められる。また、「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013 年6月 14 日閣議決定) では、安全性の確認された原発の活用が盛り込まれたが、原子力規制委員会により安全が 確認された原発の再稼働の判断を国としてどのような手続で進めていくのかが注目される。 (4)原発立地自治体や事業者から批判への対応 原発立地自治体からは、原子力規制委員会に対し、新規制基準について十分な説明を求 める意見11がある。原子力規制委員会が再稼働の必要性を説得する必要がないのは当然と しても、自ら定めた基準について、幅広い意見を求め、批判を取り入れていくことは必要 なのではないか。また、事業者からは、原子力規制委員会に設置される有識者会議の人選 が特定の分野に偏っている等の批判が見られる。原子力規制委員会として、提示された批 判や疑問に対し真摯に受け止めて自らの見解を誠実に説明していくべきであろう。 (5)原子力規制委員会による情報収集等 米国の原子力発電運転協会(INPO)は、スリーマイル原発事故を契機に設立された 業界団体であり、原発の運転状況の相互チェックや、訓練計画の共同開発等により、事業 者による原発の安全性向上に寄与しているとされる。我が国も、福島第一原発事故の反省 に立って、既存の日本原子力技術協会を改組して、原子力安全推進協会が発足した。経済 産業省には、総合資源エネルギー調査会の下に「原子力の自主的安全性向上に関するワー キンググループ」を設置して事業者の自主的取組を支援することとしている。原子力規制 委員会としても、原子力安全に関する情報を収集・評価し、適時に規制に反映させること を目的として「技術情報検討会」を設置したが、今後、事業者や有識者の最新知見を確実 に吸収し、いかしていく仕組みの構築が求められる。 10 「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」(重要度分類指針)では、各施設につ いて、安全上の見地からの重要度区分が定められているが、国際原子力機関(IAEA)の策定したガイドを 踏まえて見直しが必要とされている。 11 「原子力発電所の安全対策及び防災対策に対する提言」(2013 年7月 9 日)(全国知事会)など

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(6)原子力規制委員会とJNESの統合 原子力規制委員会設置法附則第6条第4項では、独立行政法人原子力安全基盤機構(J NES)を廃止し、原子力規制委員会に統合するための法制上の措置を速やかに講ずるこ ととされているが、同法が施行されてから1年が経過した現在でも実現していない。60 歳 を超えるJENES職員を公務員としてどう扱うか等が課題とされるが、審査体制の充 実・強化を図る観点から、早急な検討が求められている。

9.おわりに

原発の設置等に係る新規制基準は、東京電力福島第一原発事故で発生したシビアアクシ デントから2年以上経過した 2013 年7月8日に施行された。現在、原子力規制委員会では、 再稼働を目指す原発について、新規制基準に関する適合性審査を実施している。その際に は、組織理念(2013 年1月9日、原子力規制委員会決定)にあるように、「何ものにもと らわれず、科学的・技術的な見地から、独立して意思決定を行う」とともに、「国内外の多 様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒める」との考え方の下、新規制基準が確実に適合性 審査へ反映されるよう求めたい。 (おおしま たけし)

参照

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