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沢田遺跡竃跡の熱ル ミネッセンス年代測定 奈良教育大学

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Academic year: 2021

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沢田遺跡竃跡の熱ル ミネッセンス年代測定

奈良教育大学 応用物理学教室 長友 恒人 は じ め に

竃跡の火床の焼 けた砂 を試料 として,熱ル ミネ ッセンス (TL)年代演1定を行 った。TL年代演1

定法 は焼成 または加熱 された考古遺物の年代 を決定する方法である。測定 された結果 は過去 にお いて最後 に加熱 された年代 を示すので,今回の測定結果 は竃の操業が終了 した年代 を示す ことに なる。TL年代測定 では土器 を試料 として測定す ることが多いが,炉跡の焼土や焼石,遺跡 に含 ま れる火山灰 を測定 した例 もある。

1.測定 の 原 理

TL年代測定法 は自然界 に微量 に存在 している放射線 を測定することによって年代 を決定する方 法である。以下 に,今回の測定 に即 してTL年代測定の原理 を簡単 に述べ る。

自然の放射線源

自然界 に存在 し,TL年代測定 に関係する主な放射線源 はウラン (U), トリウム (Th),カ ウム(K)などの放射性元素である。 この うちUに238uと 235uの 2種類があ り,232Thと同 じよ うに崩壊 して別の放射性元素 に変わ り続 けて,最終的には安定な鉛 (Pb)になる。崩壊 の度 にア ルファ線,ベータ線 またはガ ンマ線 を放出する。Kの中には40Kが0.012%含まれていて,これが ベータ線 とガンマ線 を放出 している。 このほか,地球の外か ら降 り注いでいる宇宙線 もTL年 測定 に関係する放射線である。(ちなみに,年代測定法 としてよ く知 られている炭素14法では,宇 宙線 によって生成 された放射性元素である14cから放出されるベータ線 を測定 して年代 を決定する。)

放射線の作用 と 丁L

これ らの放射線 は砂 に吸収 されるが,この とき放射線 は砂 を構成す る電子 を電子 トラップ と呼 ばれる場所 に蓄積 される。 トラップに蓄積 された電子 を捕獲電子 とい う。捕獲電子 は砂が加熱 さ

(2)

蓄積線量 と年間線量

竃が操業 を停止 してか ら発掘後測定 までに砂が吸収 した放射線量 を蓄積線量 と呼ぶが,蓄積線

量 は電子 トラップ中の捕獲電子の数に比例する。測定 したTL量は捕獲電子の数に比例するか ら,

結局,蓄積線量 はTL量に比例することになる。この ようにして,TL量を測定す ることにより蓄 積線量 を決定す ることができる。

自然の放射線 は何 らかの異常がない限 り時間的 に一定の割合 で放出 され るので,砂が放射線 を 吸収する割合 も一定である。1年間に砂が吸収 した放射線量 を年間線量 と称する。年間線量 を測 定 により決定するためには人工的に合成 した高感度のTL線量計素子 を用 いる。

TL年

砂の蓄積線量が時間的に一定の割合で蓄積 された とすれば,これを年間線量でわ り算すること により,過去 に加熱 されてか ら経過 した時間,すなわち,年代 に換算す ることがで きる。 これを

TL年代 とい う。竃跡の測定では竃の操業の終了の年代 を知 ることになる。

付加線量法 による石英粗粒子法

砂が吸収 した蓄積線量 はTL量に比例 しているが,測定 したTL量が どれだけの蓄積線量 に相 当す るかは,蓄積線量のTL量を測定 しただけでは決 め られない。 このため,処理 した試料 にコ バ ル トー60からの既知量のガンマ線 を人為的に吸収 させてTL量を測定す る。既知 のガンマ線量 TL量の比か ら蓄積線量を計算す ることがで きる。この人為的なガンマ線量 を付加線量 と呼ぶ。

TL年代測定法 にはい くつかの方法があ り,測定 しょうとす る試料の種類や形状 などによって最 適 の方法が適用 され る。今回の試料では適当な大 きさの石英が多 く含 まれていたので,石英粗粒 子法 によって測定 した。 この方法は,試料処理 によって0.lmll程度の大 きさの石英粒子 を選別 し,

さらに粒子の表面 をフッ酸によって除去することにより,アル ファ線の蓄積線量に対する寄与を 無視で きるようにする方法である。

以上の ことを示 したのが第1図である。図の横軸 は放射線量 であ り,この 目盛 りは年間線量 を 測定 す ることによ り,年代軸 に読み変えることがで きる。縦軸 はTL量である。

(3)

・菫

・菫

1図  熱ル ミネ ッセ ンス (TL)年代 測定 の原 理

地質線量のTL

蓄積線量の

TL

L̲̲̲̲̲̲

蓄積線量+付加線量のTL

(4)

L F

2.試料 処 理

砂に含 まれる鉱物の多 くは,前記で説明 したTL現象 を示すが,結晶が安定で吸収 した放射線 量 に比例 した発光 をす る良質の鉱物 は石英である。今回の測定 は,石英粗粒子法 によったので,

砂の中か ら0.lllull程度の大 きさの石英だけを以下の ような試料処理で選別 した。

竃跡の焼 けて赤 みがかった色の砂 を直射 日光 に当た らないように採取 した。直射 日光 を避 けた のは,砂の中の石英 に蓄積 された捕獲電子の一部が太陽光のエネルギーで発光 して消滅すること により,その数が減少す るのを防 ぐためである。

砂 を大量の水で十分 に洗い,塩分や目に見 えるゴ ミな どの有機物 を取 り除いた。

100メ ッシュと200メ ッシュの標準師でふ るい分 けて,7■mか

149μ

mの粒度の砂 を残 した。

磁力 を利用するマグネチ ックセパ レータで磁性鉱物 を除去 した。石英は非磁性鉱物成分の方に 分離 される。今回の試料 は磁性鉱物の含有量が多 く,また非磁性鉱物成分 に石英のほか長石や他 の非磁性の着色鉱物が混入 したので,セパ レータの条件設定 を変えて分離 を繰 り返 した。

石英以外の非磁性鉱物 はフッ酸に溶解 しやすいので,これ らを除去す るために,フ ッ酸処理 を した。正長石の含有量が多かったので原液 (46%)のフッ酸で20分問処理 をした。原液で完全 に 溶解 しなかった正長石 は脆 くなって割れ易 いので,フッ酸処理後の非磁性鉱物試料 を流水下で200 メ ッシュの飾の中で軽 くこす り正長石を除去 した。

フッ酸処理 は石英表面 をエ ッチングして除去する作用 もあるが,濃度が濃 いため石英表面が荒 れたので20%の酢酸で処理 をした。

更に,残っている石英以外の成分 を除去するため,再度 マグネチックセパ レータで,磁場強度 を強 くして分離 した。

3。

測 定 蓄積線量の測定

石英試料をTL測定装置でカロ熱 しながら発光量を測定 し,温度に対 して発光量を記録 したもの をグローヵ―プと呼ぶ。第2図SK89のグローカープを示 した。図の中で,記Nを付 したカー プは付加線量を与えないもの,N+lGy,N+2Gyは それぞれ付加線量を1.OGy,2.OGy照射 した 石英のグローヵ―プでぁる (Gyは放射線量の単位,グレイである)。

(5)

4.0

300

3)

400

2図 第 89号壼 の 火床 の石 英粒子 のTLグロー カプー

︵ 週 朴 腫 軍

︶ 駆 謳   ロ ト

200

考ラ ト ー テ ス

SK 89

N+2 Gy

̲000。

250300 350

 

   (■

C)

(6)

プラ トーの温度領域で第3図の ように付加線量 に対 して発光量 をプロッ トした とき,直線の延 長が横軸 と交わ る点 までの放射線量 を等価線量 とい う。SK89の等価線量 は1.22Gy,SK90の等価 線量 は1.70Gyであった。

1曇

積 線 量二 20 Gy

付 加 線 量

3図 等価 線 量の決定方法

等価線量 は竃の操業停止か ら現在 までの放射線量 に関係す るが,必ず しも蓄積線量 と一致 しな い。 これは放射線量 に対するTL量が低放射線量で比例 しない場合があるか らである。 これに対 す る補正 をスプラ リニア補正 といい,実際には電気炉 で,400°Cで30分アニール した石英 に人為的 にガ ンマ線 を照射 して,低放射線量での比例性 をテス トす る。蓄積線量 は等価線量 とスプラ リニ ア補正値の和である。SK89のスプラ リニア補正値 は0.25Gy,SK90のスプラ リニア補正値 は0.05

(7)

年間線量の測定

石英粗粒子法の場合,蓄積線量 に寄与する放射線 は試料周辺の自然放射性元素か らのベータ線 とガンマ線 および宇宙線である。 これ らの放射線量 はベータ線量測定 とガンマ線+宇宙線量測定 の二つに分 けて行 った。ベータ線 はガ ンマ線,宇宙線 に比較 して物質の透過能が小 さいのでベー タ線 をガ ンマ線や宇宙線 と同時 に一つの方法で測定す ることが困難 であるか らである。

ベータ線量の測定のために,竃跡の試料 を50μm程度 に粉砕 してコイン上 にプレス成形 した2枚 の試料板 をつ くる。 その間に粒子状の人工結晶であるTL線量計素子 を薄 く広 げて数週 間放置す る。TL線量計素子 は放射線 に対する感度が非常 に高いので,2・ 3週間で試料中のベータ線量 を 測定す ることがで きる。

今回,ベータ線量の測定 はSK89,SK90の,SK148に ついて もお こなった。結果 はそれぞれ について,1.201,1.227,1.163mGy/yで あ り,測定誤差の範囲で非常 に良 く一致 した。 これは 竃跡の海岸の砂が均質であることによる。従 って,ベータ線量率 としてはこれ らの平均値 を採用

した。

ガンマ線 十宇宙線量は,通常銅のパ イプに封入 したTL線量計素子 を用いて遺跡現地で測定す るが,これ らの放射線の寄与 はベータ線の寄与 よ り少ない ことが多いので, 2・ 3ヵ 月放置す る ことが必要である。今回は竃跡の砂 を大量 に持 ち帰 り,これ を地面 に埋 めて測定 した。ベータ線 の項で述べたように海岸の砂 は均質であつたので,ガンマ線+宇宙線量率の評価 に関 しては一つ の測定値 (0.926mGy/y)で代表 させた。

4.結

果 と考 察

以上のような方法で測定 した等価線量,スプラリニア補正値,蓄積線量,年間線量をまとめた ものが第1表である。表の最後の欄に蓄積線量 を年間線量で割ったTL年代を示 した。

1表 TL年代測定結果

年 間 線 量 (mGy) β   γ    βttγ スプラ リニア

補正 (Gy)

643±119 822=L166 1.20  0.93  2.13=LO.06

1.37=LO.25 0.15±0.10

1.2240.15

(8)

温度 も600°C程度 を越 えているのが普通であ り,石英粒子 も十分に高温雰囲気 になっている。この ため,土器のTL年代測定 ではグローカープの再現性がよい。

これ に対 して,今回の浪1定試料 は火床の砂であったため,土器のように均質 に高温度 まで焼か れていた とは限 らない。実際,試料処理 をかな り慎重に行 ったにも拘 らず,SK90の グローカープ は再現性が悪 く,等価線量 もSK89に較べて大 きい結果 になった。SK9oの試料採 取の際,不十分 な焼 け方の砂が混入 した可能性がある。SK89について も,測定結果 は通常の土器のTL年代測定 値 に比べて大 きな誤差 を含 んでいる。

上述の事情 を考慮 して,電の操業が停止 されたTL年代 としてはSK89の測定結果,すなわち,

現在か ら643± 119年前 とす るのが妥当であろう。

参照

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