!"#$% マウスにおける致死的 &#'( 血管炎の発症機序に関する研究) ) ) ) ) ) ) ) ) 研究分野 生) 化) 学) ) ) ) ) ) ) ) 紹介教授 大野 尚仁) ) ) ) ) ) ) ) 学位申請者 平田 尚人) ) 世界保健機関(WHO)の統計では,2008 年の全世界における死因の上位は,虚血性心疾患(12.8%) と脳血管障害(10.8%)となっており,循環器系疾患は全人類にとっての脅威である.これら循環器系 疾患の病因研究をはじめとして,治療法および新規薬物の開発,治療プロトコールの検討では,基礎 的研究と前臨床段階での優れた動物モデルを用いた解析が不可欠である.
川崎病患者の糞便中から分離された病原性真菌Candida albicans菌体抽出成分 (CADS) が川崎病に
類似したマウスの冠状動脈炎を起こすことが1987 年に報告され,病態モデルとして着目された.さら
に,C. albicansの培養上清から得られる可溶性多糖画分 (Candida albicans water soluble fraction; CAWS) にも類似の活性が見出され(CAWS 血管炎),中でも DBA/2 マウスに対して,著しく強い血管炎誘発 作用と致死毒性があることが報告された. CAWS 血管炎は川崎病に代表される血管炎の動物モデルと して解析されてきたが,DAB/2 マウスのみに認められる強力な致死毒性および血管炎の発症機序につ いては未だ十分に解析されておらず,不明な点が多く残されていた. 本研究では, DBA/2 マウスにおける致死的 CAWS 血管炎の病態と発症機序について検討するため, 病理組織学的視点(第1 章)ならびに,循環器系疾患モデルとしての視点(第 2 章)から解析を行っ た.さらに,CAWS の活性本体であるマンナン構造の特徴,および糖鎖構造と血管炎発症の構造活性 相関(第3 章)について検討した. 第1 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴
CAWS 投与後 1 週毎に心血管組織の切片を Hematoxylin and Eosin (HE) 染色し,既報の 100%致死量に おける心血管病変の病理組織像の 経時的変化を観察した. そ の 結 果 ,DBA/2 マ ウ ス で は CAWS 投与後の初期段階から炎症 性細胞が集積して血管炎が惹起さ れ,3∼4 週間のうちに著しい血管病 変が形成された(Fig. 1).CAWS 血 管炎は単に大動脈病変にとどまら ず,重度の冠動脈起始部病変と大動 脈弁病変を伴っていた.また,血管 病 変 の 膠 原 線 維 を Elastica Van
Fig.1 DBA/2 マウスの CAWS 血管炎で大動脈弁周囲及び冠動 脈開口部に認められる血管病変の発症および進展の過程
Gieson (EVG) で染色すると,中膜弾性板が 破壊されており,炎症性細胞の細胞外マト リックス構造への浸潤が観察された.さら に電子顕微鏡を用いた観察によって,顆粒 球系細胞が弾性線維を突破して浸潤する 様子が観察された.血管病変はCAWS 投与 後 4 週程度でその進展はほぼ停止したが, DBA/2 マウスの致死毒性は 5∼6 週目付近 から認められ,その後数週間以内にCAWS 投与群の 100%が死亡した(Fig. 2).この 致死毒性は,CAWS 血管炎を発症する他の系統(C57Bl/6 や BALB/c など)と比較しても著しく強いた め,DBA/2 マウスに認められる強力な致死毒性は,血管炎のみでは説明が困難であった.マウスが死 亡するまでには,血管病変が完成してから更に数週間を要することから,血管病変のため慢性期に何 らかの循環器疾患を合併し,心機能異常や不整脈によって突然死した可能性が高いと考えられる. 第2 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析 DBA/2 マウスの CAWS 血管炎では,著しい脾腫とともに心肥大を認める. 特に心肥大は大動脈炎 や冠動脈炎に伴う心疾患の合併を示唆するものと考えられるため,心臓の構造的・機能的変化に着目 した.CAWS 血管炎の大動脈周囲および大動脈弁,および心筋組織の病変部についてさらに詳しく解 析すると,炎症性細胞の浸潤は大動脈弁の弁尖肥厚と大動脈弁口の狭小化を来たしており,さらに炎 症性細胞の集積により左室流出路(LVOT)の高度狭窄を生じていることが判明した(Fig. 3-A,B 矢印).
Fig. 3 DBA/2 マウスの CAWS 血管炎で認められる左心肥大と大動脈弁病変および左室機能不全!
C
D
Fig. 2 DBA/2 マウスにおける CAWS 投与後の生存率
(Kaplan-Meier 曲線)
したがって,CAWS 投与後の心肥大は,大動脈弁狭窄と LVOT 狭窄が主要な原因であり,左室に過 剰かつ持続的な圧負荷をかけ続けた結果,左室の求心性心筋肥大を誘導したと考えられた.一方で, 死亡直前の心臓超音波エコー検査では,遠心性心筋肥大を伴う著しい左室収縮機能の低下が観察され た(Fig. 3-C,D).これは,CAWS 血管炎の冠動脈病変によって,肥大した左室心筋全体が重篤な虚血 に陥り,拡張相様の遠心性左室肥大に移行したと考察される.更に遠心性左室肥大により,急激な左 室機能低下を来たし,心不全死あるいは致死的不整脈による突然死が誘発されたのが致死毒性の主な 要因と考えられる. また,心不全の診断に広く臨床応用されている B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP) のmRNA 発現は,CAWS 投与群の心筋細胞において顕著に亢進しており,血管病変に伴う心臓への過 負荷が心筋細胞レベルでも確認された. 第3 章 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構 造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関 に関する検討 CAWS は,樹状細胞やマクロファージの表 面に多く発現しているC タイプレクチン様受 容体(CLRs)の dectin-2 に結合し,自然免疫 系を活性化させる. Dectin-2 は CAWS のα マンナン構造をリガンドとして認識するこ とが判明している. マンナン構造は動物の 結合組織を構成する糖タンパク質にも含ま れているため, CAWS の糖鎖と生体成分の 構造類似性が自然免疫系を撹乱し,自己抗原 に対する反応性が誘導される可能性がある. そこで,CAWS および生体を構成する糖鎖構 造を比較するとともに,CAWS の糖鎖構造と 活性の相関について検討した.糖鎖構造の解 析には,様々な種類のレクチンと糖鎖の結合 性を網羅的に解析するレクチンアレイを応 用した手法を用いた. CAWS の糖鎖プロファイリングでは, PSA, LCA, NPA, ConA, GNA, HHL, 並びに UDA に 強く結合した(Fig. 4).これらは Į マンナンの high-mannose 構造を認識して結合するレクチンであり, CAWS の糖鎖は Į-マンノース(Man)を多く含有していることが確認された.さらに,細胞間マトリ
ックスを構成する糖タンパク質であるラミニンに結合した糖鎖とCAWS のレクチン結合における競合
作用について検討した.その結果,主に high-mannose タイプの糖鎖を認識するレクチンとの結合で
CAWS はラミニンの糖鎖に競合した(Fig. 5).これらの結果から,CAWS は炎症応答およびリモデリ Fig. 4 CAWS の各種レクチンに対する結合活性! !
Fig. 5 標識ラミニンと各種レクチンとの結合に
ングの過程で,high-mannose タイプの糖鎖を介した相互作用を誘導する可能性があることが示された. 次に,C. albicans を種々の条件で培養し,CAWS 様多糖を調製して活性を比較した結果に基づき,pH 7.0,27℃条件下で得られた多糖 (CAWS727) につい て検討した. その結果,CAWS727 では血管病変が 認められず(Fig 6),サイトカイン産生能は弱く,致 死毒性は認められなかった. CAWS と CAWS727 の構造について 2 次元 NMR を用いて解析すると, CAWS727 においてαMan シ グナルの減弱とβ-1,2-Man シグナルの増強が確認さ れた.この傾向はレクチンアレイの解析においても 同様であった. Dectin-2 のリガンドである αMan 構造にβ-1,2-Man 残基が付加された ことより,CAWS と dectin-2 の親和性が減 弱し,活性が低下したと推察される. また,CAWS 刺激による TNF-α産生を CAWS727 は濃度依存的に抑制し,かつ血 管炎を抑制するcytokine である IL-10 の産 生には影響を与えなかった.この結果より CAWS 727 は CAWS の作用に競合するのみ でなく,血管炎に対して抗炎症作用を有し ていることが示唆される(Fig.7). 総括 本研究はDBA/2 マウスの CAWS 血管炎モデルが急性期の血管炎モデルである(第 1 章)とともに, 慢性期には心不全を合併する循環器疾患モデルとしても有用である事を示唆している(第 2 章). 更
にCAWS 血管炎の発症には dectin-2 のリガンドであるαMan の high-mannose 構造が重要であり,結合
組織中の糖タンパク質のhigh-mannose 構造と交差反応して血管炎が進行する要因になっている可能性 を示した.一方で,βMan の付加により,血管炎誘導活性は著しく減弱し,CAWS の TNF 産生を抑制 して抗炎症作用を示すため,血管炎治療薬の開発にも繋がる可能性がある(第3 章). CAWS 血管炎 は容易な手技で作成が可能であり,血管炎と慢性心不全の合併により一定期間を経てから急激に生存 率が低下し,未治療では全例が死亡する.この特徴は血管炎や心不全の治療効果を生存率で比較する 場合に極めて有用で,高精度の判定が可能な優れた循環器疾患の動物モデルであると考えられる. 【研究結果の掲載誌】
1) Yakugaku Zasshi. 126:643±650, 2006. 2) Int J Vasc Med., ID: 570297, 2012. 3) 医学と生物学.157,123-133,2013.
Fig.6 DBA/2 マウスにおける CAWS および CAWS727 投与後の心血管組織の比較!
Fig.7 DBA/2 マウス脾臓細胞での IL-10 産生と CAWS727
DBA/2 マウスにおける致死的 CAWS 血管炎の発症機序に関する研究
目次 page 緒論 1 第1 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴 6 実験の部 第1 節 CAWS 血管炎における経時的変化の病理組織学的特徴 第2 節 血管炎病変における膠原線維の観察と電子顕微鏡による微細構造, および炎症細胞の観察 第3 節 CAWS 血管炎マウスの体重・脾臓重量の変化と生存率の観察 考察 7 9 12 14 16 第2 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析 19 実験の部 第1 節 CAWS 血管炎完成後の心臓組織・心筋細胞の解剖組織学的特徴 第2 節 CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査および B 型ナトリウム利尿ペプチドによる心機能の評価 1. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査 2. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの B 型ナトリウム利尿ペプチ ドによる心機能の評価 考察 20 22 26 26 29 31 第3 章 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関 に関する検討 35 実験の部
第1 節 Cy3 標識した CAWS とラミニン(laminin)の糖鎖プロファイリング
1. CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較 2. CAWS および CAWS727 の NMR スペクトルの比較検討
第3 節 マンナン構造の相違による活性の相関と CAWS727 の炎症抑制メカニズ
ムについての解析
1. CAWS および CAWS727 による TNF-Į 産生量の比較
略語
ACC:American College of Cardiology ACE:angiotensin converting enzyme ADL:activities of daily livings AHA:American Heart Association AMI:acute myocardial infarction
ANCA : anti-neutrophil cytoplasmic
autoantibody
ANP:atrial natriuretic peptide
ARB:angiotensin Ⅱ receptor blocker AS:aortic stenosis
BMDC:bone marrow-derived dendritic cell BNP:brain (B type) natriuretic peptide BSA:bovine serum albumin
Ca:calcium
CADS:Candida albicans-derived substances cAMP:cyclic adenosine monophosphate CAWS:Candida albicans water soluble CK:creatine kinase
CRP:C-reactive protein DC:dendritic cell
dHCM:dilated phase of hypertrophic cardiomyopathy fraction
CLR:C-type lectin receptor
CRD:carbohydrate recognition domain cDNA:complementary DNA
CHCC:Chapel Hill Consensus Conference Cy3:Cyanine dyes 3 Dd:end-diastolic dimension DNA:deoxyribonucleic acid Ds:end-systolic dimension ECG:"#"$%&'$(&)*'+&(, EF:ejection fraction
ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay EMCV:encephalomyocarditis virus
EVG:Elastica Van Gieson FS:fractional shortening Fuc:fucose
HE:Hematoxylin and Eosin LCA:left coronary arteries
LCWE /LCCWE:Lactobacillus casei cell wall extract
LV:left ventricle
LVOT:left ventricular outflow tract LVEF:left ventricular ejection fraction Gal:galactose
Glc:glucose
GlcNAc:N-acetylglucosamine
hANP:human atrial natriuretic peptide HCM:hypertrophic cardiomyopathy HOCM:hypertrophic obstructive cardiomyopathy IL:interleukin KO:knock out Man:mannose MBL:mannose-binding lectin MBP:mannose-binding protein mRNA:messenger RNA
NMR:nuclear magnetic resonance
OMI:previous (old) myocardial infarction QOL:quality of life
RAA:renin-angiotensin-aldosterone RNA:ribonucleic acid
報告が相次ぎ,後に川崎病(Kawasaki Disease; KD)との名称が定着するに至った.この 疾患は大部分の患者が幼少期に発症し,全身の中小動脈に難治性の炎症性病変を形成する 特徴がある. 報告当時の予後については 1967 年から 1971 年の集計で,1857 例中 26 例が 死亡し,死亡率は 1.4%であった.当時,患児の死亡原因は不明であったが,発症後およ そ30%の患者で後遺症としての冠動脈拡大や冠動脈瘤を合併するため,冠動脈合併症の有 無が川崎病の予後に大きな影響を与えることが明らかとなった 7).我が国における川崎病 の罹患数については 1980 年代以降,毎年 5,000∼6,000 名程度が報告され,診断技術の向 上に伴い患者数は増加しており,2004 年以降は 10,000 名を超える症例が毎年報告されて いる8). 川崎病の原因については未だ不明であるため,川崎病を含めた血管炎症候群の動物モデ ルの存在は,血管炎の病態解析およびその治療法の開発に有用である.1987 年に川崎病患
者の糞便中から分離されたCandida albicans菌体の抽出成分(CADS)をマウスに投与すると,
川崎病に類似した冠状動脈炎を起こすことが報告された9).その後,C. albicans菌体培養
上清の可溶性多糖画分(C andida albicans water soluble fraction; CAWS)には,DBA/2 マウス
等の高感受性マウスで,強い血管炎誘発作用と致死活性があることが本学 薬学部免疫学教
室との共同研究にて報告された10, 11).CAWS を DBA/2 マウスに投与すると大動脈弁周囲
ならびに冠状動脈起始部に血管炎を生じる(CAWS 血管炎)12). これまでの研究で,CAWS
の主成分はFig. 1 の如く mannoprotein である事が判明しており13),CAWS をマウスに静脈
心 血 管 病 変 に 合 併 す る 慢 性 的 で 致 死 的 な 病 態 の 代 表 例 と し て は 慢 性心不全があげられる.慢性心不全 は虚血性心疾患や弁膜症,心筋症や 心 膜 炎 な ど 様 々 な 心 血 管 病 変 を 契 機 と し て 発 症 す る 終 末 的 な 病 態 と 考えられている.慢性心不全は, 慢 性 の 心 筋 障 害 に よ り 心 臓 の ポ ン プ 機能が低下し,末梢主要臓器の酸素 需 要 量 に 見 合 う だ け の 血 液 量 を 絶 対 的 に ま た 相 対 的 に 拍 出 で き な い 状態であり,肺,体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態 と 定義されている15).慢性心不全は徐々に進行しながら代償期から非代償期へ移行し,心不 全患者は時に急性増悪のため入退院を繰り返しながら次第に心機能が低下してゆく(Fig. 2). 心不全の分類はその原因や病態,病期,自覚症状などによって様々な分類方法があり, ニューヨーク心臓協会が提唱した NYHA 分類 16)は自覚症状をもとに心不全の重症度を分 類したもので,労作時呼吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大 ,食欲不振等の 症状で分類し,簡便であるため日常臨床でよく用いられている.心不全患者ではこれらの
症状が出現して生活の質的低下(Quality of Life;QOL の低下)が生じ,特に NYHA Ⅲ度
以上では,日常生活に支障をきた すほどに QOL は著しく障害され る.末期心不全では一般に薬物治 療抵抗性を示し,慢性腎臓病や呼 吸 不 全 に 伴 う 低 酸 素 状 態 が さ ら に心負担に拍車をかけ,やがては 大 量 の 利 尿 薬 や 最 終 手 段 の 静 注 カ テ コ ラ ミ ン 類 の 投 与 に も 抵 抗 性を示すようになる.慢性心不全 の生命予後は極めて悪く,NYHA Ⅱ度以上の心不全は,進行がんと 同 等 も し く は そ れ 以 上 の 予 後 不 良状態であり,致死的不整脈によ る突然死の頻度も高い(Fig. 3). 慢性心不全の薬物治療では,QOL の改善と生命予後の改善を主目的として,レニン-ア ン ギ オ テ ン シ ン-アル ド ステロン (RAA)系 の抑 制薬 であ るア ンギオ テン シン変換 酵素 Fig. 3 心不全患者の予後
CASE-J (Candesartan Antihypertensive Survival Evaluation in Japan)ホームページより引用
!
'()*&0 心不全患者の自然経過と心機能の推移&
(ACE)阻害薬, あるいはアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬( ARB)による血管拡張療法 や利尿薬,β受容体拮抗薬等 を組み合わせながら,ほぼ全 例 で 複 数 の 薬 剤 を 長 期 に わ たって継続する必要がある. 米 国 の 循 環 器 関 連 学 会 (AHA/ACC)の心不全治療 ガイドラインでは 17),心不 全 の ス テ ー ジ 分 類 で 予 防 医 学を重視し,高血圧や糖尿病, 肥 満 な ど の 心 不 全 危 険 因 子 に 着 目 し て , 危 険 因 子 が 1 つでもあれば,たとえ心機能 が正常,あるいは無症状であ っても心不全のStage A と分 類し,発症前から積極的な医 学・薬学的介入をすべきとの 指針が作成されている(Fig. 4).心不全患者の予後はこれらの多剤併用療法の適正使用と 治療技術の進歩により確実に延長した.したがって,日常臨床の心不全管理に おいては, 薬剤師の役割は非常に重要であるといえる. 現在,臨床現場で行われている心不全の治療は,多数の前向き大 規模臨床試験を経て, 膨大なエビデンスの集積から効果が立証され,ガイドライン等で推奨された薬物群や治療 プロトコールである. 1 つの試験には数百∼∼数万人規模の患者が参加し, QOL の改善 と生命予後の改善は心不全治療で最も重要なアウトカムと位置づけられている.我が国で も,薬剤師自らが積極的にエビデンスを構築しようとする試みが進行中であるが,実地臨 床のレベルで,薬剤師単独では前向き臨床試験のデザインや実施,臨床データの解析には 障壁があり,法的にも基礎医学知識の点でも,医師の協力がないと試験の継続は極めて困 難である.その点で,優れた循環器疾患の動物モデルは,前臨床段階の基礎研究と臨床の ギャップを埋める橋渡し的な存在として非常に重要な役割を担う. さらに,CAWS 血管炎モデルを前臨床段階での研究に応用する場合,心血管系合併症の 精査とともに血管炎の発症機序についての基礎的検討は不可欠である.CAWS は真菌由来
のPAMPs (pathogen-associated molecular patterns)の一種であり,CAWS の活性中心である
第1 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の病理組織学的特徴 CAWS の急性毒性や血管炎惹起の感受性,サイトカイン誘導能や一酸化窒素(NO)等 の産生能には,マウスの系統間で大きな相違が認められ ている10-14,19). DBA/2 マウスは CAWS を静脈内投与しても急性致死毒性を示さないが,腹腔内投与すると激しい血管炎を 惹起し,その後の観察で数週間以内に 100%が死亡する12). Shinohara らの報告20)による と,CAWS ȝJ 5 日間の連続投与から血管炎の惹起活性が認められ,用量依存的に血管 炎の重症化と生存期間の短縮が観察された.約10 週間の観察期間内に 100%のマウスが死 亡するCAWS の最小投与量は,4 mg 5 日間の連続投与であった.しかし,観察期間を延 長することで,4mg より低用量の投与でも 100%のマウスが死亡する可能性は残されてい た.CAWS 血管炎を循環器疾患モデル動物として応用する場合,その生存期間は重要なパ ラメータとなるため,低用量域での生存期間も再検討する必要がある. CAWS 血管炎の 心血管病変は主に大動脈基部と冠動脈の近位部に限局して認められる特徴があり,本章で は,血管炎の発症から進行に至る過程と病理学的特徴,生存率や致死毒性の特徴について
詳細に解析した. 第 1 節では,CAWS 投与後 1 週毎に心血管組織の切片を Hematoxylin and
Eosin (HE)染色し,既報の 100%致死量である 4 mg と低用量の 1 mg における心血管病変の
病理組織像の変化を経時的に観察した.第2 節では,血管病変における微細構造の特徴を
Elastica Van Gieson (EVG)にて膠原線維を染色して観察し,さらに電子顕微鏡による病変部
の観察を加え,CAWS 血管炎における炎症組織の特徴を詳細に解析した.第 3 節では,既
報よりも低用量の1 mg 5 日間連続投与における体重,臓器の重量変化,および生存期間
第1 章 実験の部
実験動物
雄性DBA/2 は日本 SLC より購入し,東京薬科大学実験動物棟にて Specific Pathogen Free
(SPF)環境下で飼育した.実験では 4 週齢以上を使用し,実験動物の取り扱いは東京薬
科大学実験動物取り扱い規約に従った.
菌体
Candida albicans NBRC1385 菌株は NBRC (Biological Resource Center, Japan)から購入し, YPG にて 25℃で保存し,2 ヶ月に一度継代を行った.YPG は 1L 中に Yeast 10 g,Pepton 20 g,Glucose 20 g,Agar 20 g で調製した.
CAWS の調製法
Candida albicans NBRC1385 菌体を C-limiting medium (45$&'6"! -7! +8! 9:;0<.4=0! .! +8!
>;.?=0!.!+8!@(@#.•.;.=!7A71!+8!B+4=0•3;.=!7A71!+8!CD4=0•3;.=!-!,+8!@54=0• 1;.=!-!,+8!E"4=0•3;.=!7A7-!+8!(D)!F*'%*D!.1!,+!G!#*%"&)中で,pH 5.2 の酸性条件下 で培養を開始し,27℃,400 rpm の撹拌培養器中で 5L/分の通気下に培養した.得られた培 養液のエタノール不溶かつ水溶性画分を分離し,既報 21)に従い CAWS を得た.本研究に 使用したロットのCAWS は抗カンジダ因子血清との反応性,エンドトキシン含量,ベータ グルカン含量,CHN 含量,マウスへの静脈内投与における急性致死活性で,既報21)のCAWS と同等の活性,物性を示すことを確認した.! CAWS 血管炎の惹起 (Fig. 1-1) 4-5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS 1 mg または 4 mg を 5 日間腹腔内に投与後,1 週間ご とにマウスを屠殺し,臓器を摘出して10%ホルムアルデヒド液で固定した.心臓組織切片
の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE)染色,および Elastica Van Gieson (EVG)染色
にて染色した(日本 SLC に委託).標本は光学顕微鏡(OLYMPUS, Japan)およびオール
インワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan) により観察・撮影した.生存率の観察では
CAWS 投与量を 1 mg とし,1 週目の脾臓重量と 12 週目までの生存率,および体重変化を
観察した.全てのマウスは実験終了まで specific pathogen free (SPF)条件下で飼育し,実験
Fig.1-1 CAWS 血管炎の誘導よよび解析の方法 統計学的処理
脾臓重量,および体重の推移については,未処置群とCAWS 処置群間で数値データを
Student のt検定にて検定し,P < 0.05 を有意差ありとし.有意差のないものについては N.D.
(no statistical difference)とした. 生存率に関してはそれぞれのマウス死亡の事象発生時点
第1 節 CAWS 血管炎における経時的変化の病理組織学的特徴
未処置の DBA/2 マウスの大動脈弁およびバルサルバ洞周囲の短軸切片の組織像を Fig.
1-2 に示した. この部位の切片では,大動脈起始部における内膜(血管内皮細胞),中膜
(血管平滑筋および弾性線維),外膜と心室筋組織が同時に観察される.Wild type の DBA/2
Fig.1-2 未処置(コントロール群)の DBA/2 マウスにおける心血管組織の特徴
全ての画像はhematoxylin and eosin(HE)にて染色した.(a): 低倍率での大動脈弁周囲
の組織像. (b): バルサルバ洞から分岐する冠動脈の拡大像. (c): DBA マウスは心外膜に恒
常的な石灰化像(矢印)を認める特徴がある.
Fig.1-3 CAWS 4 mg/mouse 投与後の大動脈基部・大動脈弁周囲における血管炎の発症およ び進展の過程
DBA/2 マウスに既報の最低致死量である CAWS (4 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与 し,その病理組織像(HE 染色)の経時変化を 1 週間毎(1w∼4w)に示した.上のパネル
(A)は各週における低倍率の病理組織像を示し,2週目より有冠洞を中心に炎症性細胞
の著しい浸潤を認めた.3週目と4 週目では全周性に炎症性細胞の浸潤が拡大する過程が
観察された.下のパネル(B)はそれぞれの週における炎症病変の拡大像を示し,3週目
Fig.1-4 CAWS 1 mg/mouse 投与後の大動脈基部・大動脈弁周囲における血管炎の発症およ び進展の過程
DBA/2 マウスに CAWS (1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,その病理組織像(HE
染色)の経時変化を1 週間毎(1w∼4w)に示した.上のパネル(A)は各週における低倍
率の病理組織像を示し,下のパネル(B)はそれぞれに対応する炎症病変の拡大像を示し
た.既報の最低致死量よりも低用量であっても,血管炎の発症過程と重症度はFig. 1-3 と
第 2 節 血管炎病変における膠原線維の観察と電子顕微鏡による微細構造,および炎症細 胞の観察 CAWS 血管炎における炎症性細胞の特徴と動脈の微細構造に与える影響を詳細に調査 する目的で,EVG 染色法で弾性線維の染色を行うとともに,血管炎組織を透過型電子顕微 鏡によって観察した. Fig 1-5 に示した通り, EVG 染色では中膜弾性版の破壊像を認め, 炎 症 性 細 胞 の 細 胞 外 マ ト リ ッ ク ス 構 造 に 直 接 浸 潤 し て い く 様 子 が 観 察 さ れ た . さ ら に CAWS 投与後 2 週目の血管炎病変の電子顕微鏡像を Fig. 1-6 に示した.血管壁との相互作 用に注目すると,顆粒球系細胞が弾性線維を突破して浸潤する様子が観察された.炎症性 細胞は多種多様で,一部で膿瘍病変を形成し,その細胞内に顆粒を多く含む顆粒球様細胞, 細胞核が充満している組織球,リンパ球系細胞の浸潤を認めた.これらの結果から,DBA/2 マウスのCAWS 血管炎では様々な炎症性細胞が著しく浸潤して堆積し,動脈の基本的な 3 層構造が破壊されていく過程の詳細が明らかとなった.
Fig. 1-5 CAWS血管炎のElastica Van Gieson(EVG)染色による病理組織像
DBA/2 マウスに CAWS (4 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,4 週後の大動脈弁周
囲の病理組織像をEVG にて染色した(EVG 染色では膠原線維が黒く染色される).(a): 大
動脈 弁に おけ る 低倍 率で の病 理組 織像. (b): 冠動脈分岐部の拡大像,冠動脈狭窄を伴う
Fig. 1-6 CAWS 血管炎病変の電顕像
DBA/2 マウスに CAWS (1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,2 週後の大動脈弁周
囲の病理組織像を透過型電子顕微鏡にて観察した.A: 炎症性細胞による中膜弾性版への
第3 節 CAWS 血管炎マウスの体重・脾臓重量の変化と生存率の観察
CAWS 血管炎高感受性の DBA/2 マウスで,既報20)の4 mg 5 日間よりも低用量の CAWS
1 mg 5 日間投与での長期生存率を観察した. CAWS 1 mg を 5 日間腹腔内に連日投与し, 観察期間を12 週まで延長した. CAWS 投与後 SPF 条件下で観察すると,CAWS 投与群の 体重は投与直後より全観察期間にわたって減少傾向を示し,一方で特に脾臓の臓器重量は 著しく増加した (Fig. 1-7).その後の観察にて 5 週目付近から死亡するマウスを認め,そ の後は急激に死亡率が増加し,12 週までに 100%が死亡した (Fig. 1-8). CAWS 投与群の DBA/2 マウスの外見の特徴として毛並みの悪化を認め,中には体重測定の際,突然の痙攣 様発作を起こして死亡するマウスも認められた. したがって,CAWS の低用量投与(1 mg/mouse)でも,既報とほぼ同様の期間で死亡することが確認された. Fig.1-7 CAWS投与後の体重変動と脾臓重量の変化
4∼5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS(1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,未処置 のコントロール群と体重の経時的変化を比較した(左).CAWS 投与群では投与2週目以
降は常に体重減少を認めた. CAWS 投与後 1 週間目の脾臓重量を未処置群と CAWS 投与
Fig. 1-8 CAWS 血管炎を発症した DBA/2 マウスの Kaplan-Meier 法による生存曲線
4∼5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS(1 mg/mouse)を 5 日間連続で腹腔内投与し,未処置 のコントロール群と生存率の推移を比較した. 各群は未処置群(n=8)および CAWS 投与
群(n=10)で,specific pathogen free (SPF) 条件下で飼育され,生存状況は連日観察された.
第1 章 考察
血管炎の病名と定義にはFauci らによる分類があったが,1994 年の Chapel Hill Consensus
状態の異常が原因と報告されている30).灰化像は炎症反応の終末像でもあるため,DBA/2 マウスが心血管系に慢性炎症を起こしやすい系統である可能性は否定できない.
川崎病類似血管炎の動物モデルとしては,CAWS,CADS といった真菌由来物質のみで
なく,細菌由来のLactobacillus casei cell wall extract (LCWE / LCCWE)でも川崎病に類似し
た血管炎が誘発される 31). 近年,血管炎の原因として微生物感染や微生物抗原の関与を
示唆する報告が多く,ヒト免疫不全症ウイルス,パルボウイルスB19,サイトメガロウイ
ルス,水痘帯状疱疹ウイルスなどのウイルス,黄色ブドウ球菌などの細菌感染の関与を示
唆 す る 報 告 が あ る 32). 自 然 免 疫 の 研 究 の 発 展 に 伴 い , 微 生 物 由 来 の 免 疫 活 性 化 物 質 は
PAMPs (pathogen-associated molecular patterns)と総称するようになった33).PAMPs は自然
免疫系によって認識され,樹状細胞の活性化を通してT 細胞の分化を制御している 34).多 くの免疫賦活剤は一般に PAMPs としての特徴を持っており,一般に免疫賦活剤は副作用 が少ないとされるが,CAWS 血管炎は,PAMPs の持つ多彩な免疫応答刺激作用が有害事象 の原因となる可能性を示唆するデータとしても注目される. 動脈硬化病変の動物モデルとしてApo-E KO マウスが汎用されており,Apo-E KO マウ スにおける動脈病変は主に脂質代謝異常に起因する血管内皮細胞の障害を中心としたも のと報告されている 35). CAWS 血管炎は外膜側から始まり,内膜肥厚は炎症応答の後期 になってから認められるが,Apo-E KO マウスでは初期から中膜弾性線維や外膜にまで病 変が及ぶことは殆どないという点で形成過程が大きく異なっている.
本モデルではDBA/2 マウスで CAWS 投与群の 100%に血管炎を誘発し,CAWS 投与初期か
Fig. 1-9 血 管 の サ イ ズ に 基 づ い た 血 管 炎 の 分 類 方 法 (International Chapel Hill Consensus Conference; CHCC 2012)
Table 1-1 CAWS 血管炎の分類上の位置づけ
第2 章 DBA/2 マウスにおける CAWS 血管炎の左室機能低下病態モデルとしての解析
前述したように,CAWS 血管炎は川崎病の動物モデルとして研究が発展してきた背景が
あるが,ヒトの川崎病でも全例が単に血管炎のみによる臨床経過をたどることはなく,一
部で冠動脈拡大や冠動脈瘤といった後遺症・合併症を併発し,中には死亡する例もある6,7).
C57Bl/6 や BALB/c 系統のマウスでも重度の CAWS 血管炎が誘発されるが,DBA/2 マウス
第2 章 実験の部
CAWS の調製およびマウス(第 1 章参照) CAWS 血管炎の惹起
4-5 週齢の DBA/2 マウスに CAWS 1 mg を 5 日間腹腔内に投与後,1 週間ごとにマウスを
屠殺し,心臓を摘出して10%ホルムアルデヒド液で固定した.肉眼的な臓器の形態変化を
低倍率実体顕微鏡下で観察し,心臓組織切片の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE)
染色にて染色した(日本SLC に委託).標本は光学顕微鏡(OLYMPUS, Japan)およびオ
ールインワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan) により観察・撮影した.全てのマウス は実験終了まで specific pathogen free (SPF)条件下で飼育し,実験動物の取り扱いは東京薬 科大学実験動物取り扱い規約に従った.
超音波心臓検査
CAWS 投与後 6 週から 7 週目にかけての DBA/2 マウスは,ペントバルビタール 40 mg/kg を腹腔内投与して麻酔し,暖めたコルク製解剖台にのせ,超音波断層診断装置(ProSound SSD-6500SV; ALOKA Co., Ltd., Japan)にて評価した.探触子(プローブ)には新生児用 linear transducer を用いて心臓の形態評価および心機能の指標を測定した.撮像に際し,プロー
ブとマウスの間に最適な距離を保つ目的で,約1 ㎝の超音波透過性ゼリーの袋を挟んだ.
逆転写PCR 法(RT-PCR)
屠殺したマウスから心臓を摘出し,速やかにƕC 以下で専用抽出液(ISOGEN; Nippon
GENE Co., Ltd., Japan)中でホモジナイズした.メーカー指定の方法にて total RNA を抽出 し,RNA 濃度と純度を NanoDrop ND-1000 UV Spectrophotometer (Thermo Scientifics, USA)
にて測定した.トータルRNA は RT-PCR キット (Takara Bio Co., Ltd., Japan) にて逆転写反
応後,得られたcDNA を PCR 法にて 35-40 サイクルで増幅した.なお,PCR 反応用プラ
イマーDNA には以下の配列のオリゴヌクレオチドを用いた.
マウスβ-actin (cDNA product size 574 bp)
VHQVH¶-GCCATGGATGACGATATCGCT-3¶ antisense 5¶-TCATGAGGTAGTCTGTCAGGT-¶
マウスnatriuretic peptide type B; BNP (cDNA product size 241 bp)
sense 5¶-ATGGATCTCCTGAAGGTGCTG-3¶ antisense 5¶-GTGCTGCCTTGAGACCGAA-3¶
PCR 生成物は 1% アガロースゲル電気泳動にて展開し,ethidium bromide にて染色し,紫
外線照射にて得られる蛍光強度を蛍光強度計(IRLAS-1000, Fuji Film Co., Ltd. , Japan)を使
統計学的処理
得られた数値データは,未処置群とCAWS 処置群間で Student のt検定を行い, P < 0.05
第1 節 CAWS 血管炎完成後の心臓組織・心筋細胞の解剖組織学的特徴 第1 章では,CAWS 血管炎では,冠動脈起始部の炎症性変化とともに大動脈弁周囲に著 明な炎症性変化を伴っていることを述べた. DBA/2 系マウスの CAWS 血管炎後期の心臓 を肉眼∼∼低倍率実体顕微鏡レベルで観察すると,Fig. 2-1 に示したように,CAWS 投与 群に大動脈弁の弁尖肥厚と弁構造の著明な変形を認めた. CAWS 血管炎の病変は単に血 管病変にとどまらず,大動脈弁を中心とした弁膜組織にも重篤な形態学的変化を及ぼす可 能性が示唆された.DBA/2 系マウスの CAWS 血管炎では,著しい脾腫を認めていたが,
心重量も著しく増加し(Fig. 2-2),肉眼的にも著しい心肥大を認めた(Fig. 2-3A).これま
での病理組織の検討では,全て短軸切片のみの観察で,心血管組織の全体像が把握し難か ったため,長軸切片を作成して病理組織学的に観察して比較した.長軸切片では,大動脈 から心尖部にかけて,大動脈弁と心室が同時に観察可能になるように作成した.Fig. 2-3B に示したように,心臓組織の長軸切片をHE 染色で観察すると,炎症性病変は大動脈弁と バルサルバ洞周囲に留まらず,大動脈弁直下の心室中隔および,一部の右室および左室心 筋組織まで浸潤していることが判明した.さらに,炎症性細胞の浸潤と堆積により,特に 左室から大動脈弁の弁尖肥厚と弁輪直下の炎症性病変のため,結果として形態的に 左室流 出路(LVOT)から大動脈弁口にかけての高度狭窄を伴っていることが新たに判明した(Fig. 2-4A).また,心筋細胞レベルの観察では,左室心筋細胞の横断面積が未処置群と比して CAWS 投与群で 1.14 倍に増加し,求心性心筋肥大 (concentric hypertrophy) を認めた(Fig. 2-4B).
Fig. 2-1 CAWS血管炎における大動脈基部および大動脈弁の炎症性変化の解剖学的所見
未処置群と CAWS 投与群を実体顕微鏡にて観察すると,CAWS 投与群で大動脈弁に著
Fig. 2-2 CAWS 血管炎における心重量の変化
Fig.2-3 CAWS 血管炎における心肥大と病理組織学的特徴.
CAWS 投与後 6 週目では肉眼的に著明な心肥大を認め(A),それぞれの組織像(HE 染色)
Fig.2-4 CAWS 血管炎における大動脈弁と心筋細胞の横断切片の病理組織学的特徴. CAWS 投与後 6 週目における心臓組織の病理組織像(HE 染色).A:大動脈弁周囲の拡 大像では炎症性細胞は主に大動脈弁とバルサルバ洞周辺に限局していたが,炎症性細胞の 堆積により大動脈弁尖が著明に肥厚し,左室流出路 (LVOT) の狭窄を認めた(矢印). 左 室壁の心筋細胞には広範囲の梗塞を示す壊死像や線維化した瘢痕 組織を認めない.B:左
第2 節 CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査および B 型ナトリ ウム利尿ペプチドによる心機能の評価 1. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの心臓超音波エコー検査 生体中で心血管組織はその内腔に血液を充満させることで循環動態を形成しており,屠 殺後の解剖による病理組織のみの観察では,生体中での心血管組織の解剖学的形態変化や 血行動態等の心機能評価ができない.DBA/2 マウスの死因の特定には生体での心血管構造 の観察と心機能の評価が不可欠であり,特に死亡間際の 心機能を生体で評価するために, 低浸襲の評価方法が求められる.心臓超音波 検査法(UCG)は,生体への浸襲が少なく, リアルタイムでの臓器の形態や機能の評価が可能で,臨床でも心疾患の診療に不可欠な存 在であり,多用されている36).一般的なUCG では,探触子(プローブ)を胸壁にあて, 心臓の形態(左室,左房,大動脈,僧帽弁,大動脈弁の形態と動き)を観察する.一般的 な心臓断層像はB モードにて得られる画像であり,この断層像をもとに,1 次元的に選択 した部分の構造物の動きを経時的に展開したものが M モードエコー図で,血流はドブラ ーエコーにて計測することが可能である. UCG によって得られる心臓の主なパラメータ には,AoD(大動脈径),LAD(左房径),LVD(左室径:LVDd=拡張末期径,LVDs=収縮 末期径),IVS(心室中隔厚:IVSd=拡張末期径,IVSs=収縮末期径),LVPW(左室後壁厚: LVPWd=拡張末期径,LVPWs=収縮末期径),LVFS(左室内径短縮率(%):(LVDd‐LVDs) /LVDd 100),LVEF(左室駆出率:いくつかの算出方法がある),IVC(下大静脈径)な どがあげられる.本節ではCAWS 投与後の心機能変化を観察し,特に 6 週から 7 週目にか
けての死亡直前の心機能を UCG にて詳細に評価した (Table 2-1). UCG 評価に際し,
Table 2-1 心臓超音波検査にて得られる各パラメータの比較.
Untreated (n=10) CAWS treatment (n=6*)
IVSd (cm) 0.141 ± 0.006 IVSs (cm) 0.202 ± 0.005 LVDd (cm) 0.221 ± 0.008 LVDs (cm) 0.066 ± 0.009 LVPWd (cm) 0.144 ± 0.008 0.126 Á LVPWs (cm) 0.196 ± 0.006 Á LVEF (%) 96.4 ± 0.86 LVFS (%) 71.0 ± 3.76 37.9 ± 4.13 HR (bpm) 318 ± 18.6 319 Á! * CAWS 投与群のうち 2 体は検査前に死亡,2 体は検査中に心停止したため除外3 Á1'
2. CAWS 血管炎発症後の DBA/2 マウスの B 型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)による心 機能の評価
心不全のバイオマーカーとして,我が国の臨床で汎用されているものに B-type (Brain)
natriuretic peptide (BNP)と N terminal (NT)-proBNP がある37).BNP は 1988 年の発見当初38),
ブタの脳組織から発見されたため脳性(Brain)ナトリウム利尿ペプチドと命名されたが,
既に発見されていた心房性ナトリウム利尿ペプチドAtrial natriuretic peptide (ANP) 39)とと
もに心不全の重症度に比例して心筋細胞から分泌されることが判明した40, 41). その後, 1990 年に C 型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)も発見されたため 42),BNP はナトリウム 利尿ペプチドファミリーの中で,B 型(B-type)ナトリウム利尿ペプチドと呼ばれること も多く,ナトリウム利尿ペプチドファミリーの発見から応用まで,本邦の研究経過が大部 分を占めている. BNP は ANP とともに心筋のストレスマーカーとして位置づけられてお り43),心筋細胞への負荷によって前駆体である proBNP が産生され,蛋白分解酵素により 活性本体のBNP(半減期約 20 分)と活性がない NT-proBNP(半減期 60∼∼120 分)に分 解される 37).マウスでは,ANP の血中濃度や収縮期血圧をマウスの系統間で比較した報
告があり,これによれば,Wild type の近交系マウスの系統間で有意な血中 ANP 濃度の差
は 認 め ら れ ず 44, 45), 心 機 能 の 指 標 と し て 有 用 で あ る と 結 論 付 け ら れ て い る . BNP や NT-proBNP の測定は,急性および慢性心不全の診断や予後の指標として,診療ガイドライ ンのうえでもエビデンスレベルが高い46).心不全発症の病態としては収縮能の低下以外に 拡張能の障害が知られているが,両者はBNP 値では鑑別診断はできない. しかし,UCG など生理学的検査と組み合わせることで,より正確な診断が可能となる 47).マウス BNP のcDNA は小川らによって同定されているが 48),試薬としての抗マウス BNP 抗体は発売 されていないことから,タンパク質レベルでの BNP 測定が困難であったため,本節では CAWS 投与による BNP の誘導について,既報49)のRNA プライマーを作成して逆転写 PCR
法により mRNA レベルの観察を行った. Fig.2-5 に示した通り,CAWS 投与後 6 週目の
CAWS 投与群では著明な BNP mRNA の増加が認められた.
本モデルの左室機能低下の機序は以下のようにまとめられる.まず,重度の血管炎 病変が大動脈弁の弁尖肥厚と大動脈弁口の狭小化を誘導し,炎症性細胞の浸潤より MN=O の狭窄を生じる.大動脈弁狭窄と MN=O 狭窄は,左室の過剰かつ持続的な圧負 荷となるため,左室の求心性心筋肥大を誘発する.肥大した心筋は通常よりも多量の 酸素や栄養分を必要とするので,冠動脈血流量の増加が必要になるが,血管炎に伴う 冠動脈病変のため心筋への血液供給が不足し,やがては左室心筋全体が重篤な虚血状 態に陥る.虚血によって肥大心筋は拡張相様の遠心性左室肥大に移行し,急激な左室 機能低下が生じて心不全死または致死的不整脈による突然死が誘発される.本モデル の左室機能不全では左心不全優位の症状を呈するものと推察される.左心不全では通例, 体重増加や末梢浮腫は認められないかわずかであり,第1 章で経時的体重変化の観察で認 められた約10%の体重減少は,心不全症状および炎症反応に伴う食欲の低下が一因である と推測される.! 慢性心不全の治療では,その予後改善効果が臨床現場における最も重要なアウトカムで ある.生存率の観察が容易なモデル動物は,新規治療薬の開発だけでなく,治療プロトコ ールの検討にも極めて有用と期待される.今のところ,循環器疾患の中でも特に慢性心不 全の優れた動物モデルは少ない. マウス心筋障害のモデルとして汎用されているものに, 外科的処置や遺伝子操作によるモデル ,コクサッキーウイルス B3 心筋炎および EMCV
第3 章 CAWS のマンナンを構成する糖鎖構造の解析と血管炎誘発活性の構造活性相関に 関する検討 生物界に存在する糖鎖構造 のうち,1,3-ȕ-D-グルカンは真菌細胞壁に存在するが,ヒト を含む哺乳動物の細胞中に存在しないと考えられている.これは哺乳動物がȕ グルカン合 成酵素を持っていないためであり,キャンディン系ȕ グルカン合成酵素阻害薬が優れた選 択毒性と安全性を持つ所以でもある64).一方で真菌細胞壁を構成する主要な糖鎖であるマ ンナンは,Man の Į または ȕ 結合で構成された複雑な糖鎖構造を持ち,high-mannose 型の 糖鎖構造は主にN 型糖鎖(アスパラギン結合型糖鎖)を有する糖タンパク質としてヒトや マウスの組織中にも存在していて,タンパク質への糖鎖付加は細胞の増殖や伸長,細胞間 接着あるいは細胞のがん化などに重要な役割を担っていると考えられている65).ȕ グルカ ンは自然免疫系で,dectin-1 のリガンドであり,dectin-1 下流のシグナル伝達により免疫賦 活化作用を示すものと考えられている 66).一方で,CAWS を含む Į マンナンの受容体は dectin-2 であることが明らかとなっている18).動物種に含まれるレクチンのうち,特に自 然免疫に関わるものは,dectin-1,dectin-2 をはじめとする C 型レクチンレセプター(CLRs) やマンノース結合レクチン(MBL)等が代表的であり,一定の糖鎖構造を認識して相互作 用(結合)する.マンノース(Man)をリガンドとする動物レクチンの生体防御系への関 与は特に強く,補体のレクチン経路は MBL に微生物由来の高分子マンナンが結合するこ とで活性化される.糖鎖は CLRs のうち特定の領域(CRD)によって認識されているが, CRD のアミノ酸配列と認識する糖鎖構造については,まだ十分に解明されたとはいえない. 第1 章で,CAWS 血管炎における炎症組織では,3 層構造の動脈壁に多様な炎症性細胞 の浸潤像が観察され,細胞外マトリックスで特に著しい浸潤が認められた.さらに,結合 組織の中でも強靭な中膜弾性板構造を突破して侵入する顆粒球系細胞も観察された.これ は,CAWS の投与によって,dectin-2 を介した自然免疫系の活性化が誘導されるとともに, CAWS の成分とマウスの結合組織・細胞外マトリックスとの間で,交差反応や相互作用が 誘発される可能性があることを示唆している.そのリガンドであるマンナンは動物と真菌 に共通して存在する糖鎖構造である.したがって,CAWS の糖鎖と宿主を構成する糖鎖の 構造については,構造類似性を精査し,糖鎖の認識における相互作用や交差反応の可能性 について検討する必要がある. Candida 属は酵母形と菌糸体の二形性真菌であり,その細胞壁構造は周囲の温度や栄養 状態などの環境条件によって著しく変化している. 培養環境と細胞壁の構造変化につい
ては,C. albicansやSchizosaccharomyces pombe で糖鎖の合成酵素や転移酵素の遺伝子発現
レベルまで詳細に調べられており,CAWS 研究では Shinohara らが,C. albicansを種々の
条件で培養し,CAWS の構造と生物活性を比較検討している 20). その結果,37℃条件で
は,いずれのpH 条件で培養しても補体活性化能ならびに血管炎惹起活性を示したにもか
第3 章 実験の部
CAWS および CAWS727 の調製
標準のCAWS は第1章と同様の方法で調製した.既報に従い,CAWS のマンナン構造を
修飾する目的で C. albicans NBRC1385 を標準製法と同様に C-limiting medium 中で 27°C で
培養し,徐々に酸性化する培養液のpH を自動的に 7.0 に維持するよう調節した.pH 7.0,
バナ科_!`!;;M8! アマリリス! ^ヒガンバナ科_!`!J@X8! ヤナギマツタケ`!OdM@b8! チュー リップ! `!R?M8! ムラサキモクワンジュ! ^マメ科_!`!OcJLbb8! キカラスウリ! ^ウリ科_!`! YYM!8マユミ! ^ニシキギ科_!`!JRJ8! マッシュルーム! `!MYM8! トマト! ^ナス科_!`!4OM8! ジャガイモ! ^ナス科_!`!aSJ8! イラクサ! ^イラクサ科_!`!?QB8! ヨウシュヤマゴボウ! ^ヤマゴボウ科_!`!c($(#*D8! ジャックフルーツ8! パラミツ! ^クワ科_!`!?:J8! ジマメ8! ナ ンキンマメ8! ピーナッツ8! ラッカセイ! ^マメ科_!`!QEJ8! ノダフジ8! フジ! ^マメ科_!`! J@J8! アマランサス8! センニンコク8! ヒモゲイトウ! ^ヒユ科_!`!B?J8! アメリカハリグ ワ! ^クワ科_!`!;?J8! エスカルゴ! `!NNM! ケヤハズエンドウ8! ビロードクサフジ8! ヘア リーベッチ^マメ科_!`!SRJ8!^マメ科_!`!4RJ8! ダイズ! ^マメ科_!`!@(#6"V(8! ! ヒロハヒル ガオ! `?OMLb8! ! シカクマメ^マメ科_!`!BJM!bb8! イヌエンジュ! ^マメ科_!`!QXJ8! パンコ ムギ8! フツウコムギ! ^イネ科_!`!X4ML#!J08! バンデリアマメ! `!X4ML#!R08! バンデリアマ メ! ! マウスおよびCAWS 血管炎の誘発
4-5 週齢の雄の DBA/2 マウスに CAWS または CAWS727 4 mg を 5 日間腹腔内に投与後, 3 週目のマウスを屠殺し,心臓組織切片の病理学的変化を Hematoxylin and Eosin (HE)にて
染色した(日本SLC に委託).標本はオールインワン顕微鏡システム(KEYENCE, Japan)
により観察・撮影した.実験動物の取り扱いは東京薬科大学実験動物取り扱い規約に従っ た.
1次元および2 次元 NMR スペクトル分析法
One- or Two-dimensional nuclear magnetic resonance (NMR) spectroscopy
常法に従いCAWS のサンプルを重水(D2O)中に溶解し,凍結乾燥によってプロトンを除
去した.NMR スペクトルはそれぞれのサンプルを 10mg/mL の 323 K の重水中で溶解し,
NMR 分析器(Bruker Avance 600 MHz NMR Spectrometer, USA)を用い,1H の検出には TXI
xyz-three gradient probe を,13C の検出には BBO z-gradient probe を使用した.データの解析
には専用の解析ソフト(XWinNMR)を用いた.
マウス骨髄由来樹状細胞(BMDCs)および脾臓細胞からのサイトカイン産生測定
マウス脾臓細胞は脾臓を摘出後に細胞懸濁液を調製し,BMDC (Bone Marrow Dendritic
Cell)はマウスの骨髄細胞を常法により分離し, 既報 70)に従い IL-4 および GM-CSF 添加し
てBMDC に分化させた. BMDCs および脾臓細胞に CAWS, CAWS727 を添加し培養した.
培養後,24,48,72,96 時間で上清を回収し, TNF-α用1次抗体(BioLegend)および IL-10 用
1次抗体 (BD OptEIA)を用いて ELISA 法にて測定した.
カンジダ抗体検出用キット, ユニメディ「カンジダ」モノテスト (Unitika, Amagasaki, Japan)を用い,添付文書に記載された方法にて解析した.
統計学的処理
サイトカイン産生量については,CAWS 未処置群と CAWS727 処置群間で数値データを
第1 節 Cy3 標識した CAWS とラミニン(laminin)の糖鎖プロファイリングとレクチンア レイにおける競合性の検討 1. Cy3 標識 CAWS のレクチンアレイ結合性 これまでの報告で,CAWS が示す様々な生物活性や毒性には Į マンノース(αMan)の 糖鎖ユニットが重要である事が示唆された.CAWS は自然免疫受容体である dectin-2 のリ ガンドであり,dectin-2 はCタイプレクチン受容体に属する構造を有している18, 71).そこ で,種々のレクチンとの反応性を比較検討することで,CAWS の構造上の特性がさらに明 確にできる可能性がある.ここでは,最近開発されたレクチンアレイシステムを用いて CAWS 糖鎖の特徴を明らかにすることとした.まず CAWS を Cy3 標識し,精製した標識 体のレクチンアレイでの反応性を種々の濃度で比較検討した.
代表的な結果をFig. 3-1 に示した. レクチン反応性はいくつかのパターンに分類するこ
とができ,NPA, GNA, HHL, UDA は最も低濃度の CAWS でも強い結合が維持された.これ
ら の レ ク チ ン が 認 識 す る 糖 鎖 の 特 異 性 は 以 下 の よ う に 報 告 さ れ て い る ; NPA
(High-0DQQRVH0DQĮ-6Man),GNA(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man),HHL(High-Mannose, 0DQĮ-0DQ0DQĮ-6Man),UDA(*OF1$Fȕ-4GlcNAc, Mixture of Man5 to Man9).これら はいずれも,high-mannose タイプの糖鎖を認識するものであり,CAWS の糖鎖構造を反映 した結果といえる.
また,LCA, PSA, ConA は広い濃度範囲で CAWS への中等度の結合親和性を示した.各
レクチンは以下の糖鎖構造を認識すると報告されている;LCA()XFĮ-*OF1$FĮ-D-Glc, Į-D-Man ), PSA ( )XFĮ-*OF1$F Į-D-*OF Į-D-Man ), ConA ( High-Mannose, 0DQĮ-0DQĮ-3)Man).これらも Į0DQ もしくは high-mannose 糖鎖を認識するレクチン であった.
また ,STL, LEL は高濃度で強く反応したが,低濃度では著しく 結合性が低下した.
Fig. 3-1 レクチンアレイシステムによる Cy3 標識 CAWS の各種レクチンに対する結合 親和性の比較
Cy3 標識 CAWS を LecChip 上に重層し,反応させたのちに,エバネッセント蛍光を
測定した.各レクチンの結合親和性(蛍光強度)は CAWS の濃度を横軸に展開して表記
した.NPA, GNA, HHL, UDA は低濃度の CAWS と結合し,高親和性を示した.
2. Cy3 標識ラミニン(laminin)のレクチンアレイ結合性 CAWS 血管炎の主要な病変部は血管壁であり,強い好中球の浸潤が起き,弾性線維を含 めた血管構造の著しい破壊が起こるとともに,平滑筋の異常増殖を伴う血管のリモデリン グが起きる.CAWS 血管炎の病変部では基底膜や中膜弾性板で著しい炎症性細胞の浸潤を 認める,これは細胞外マトリックスを構成する成分に対する免疫学的な応答が生じている とも考えられ,この過程で結合組織や血管構造のリモデリングに影響している可能性があ る.また,組織再生部位には多くの増殖因子などが局在するなど,様々な分子が高次に制 御された反応が進行する. CAWS がこの過程にも影響を与えるかどうかを知るために, 結合組織における多機能性の糖タンパク質であるラミニン(laminin)をに注目し,ラミニ ンに含まれる糖鎖とCAWS の糖鎖プロファイルを比較した. ラミニンは細胞外マトリッ クスで基底膜を構成する糖タンパク質の一つであり,細胞間の接着や遊走,増殖に深く関 与しており,基本骨格となるタンパクに複数の糖鎖結合部位を持つ.また,その糖鎖構造 は細胞のがん化や転移,ある種の筋ジストロフィーで変化することが知られている72, 73). 全分子量の10−30%に N-結合型糖鎖を含み,糖鎖合成阻害剤を用いた研究から細胞の進展 に重要であるとの報告がある.ラミニンはĮ,ȕ,Ȗ 鎖から構成されるヘテロトリマーであ り,基底膜の細胞外に局在する.いずれの鎖もアイソフォームを有し,様々な組み合わせ の高分子構造を構築している. CAWS と同様にラミニンを Cy3 標識し,レクチンアレイにて結合性を解析したところ, アレイ全体の中で 3/4 にも及ぶレクチンと強い結合性を示した.中でも RCA120,ACG, PHAE,UDA,DSA,LTL,MAL は最も低濃度のラミニンとも強く反応し,高親和性を示 した.各レクチンが認識する糖鎖の特異性 は以下の通り ; RCA120(*DOȕ-4GlcNAc),
ACG(6LDĮ-*DOȕ-4GlcNAc),PHAE(bi-antennary complex-type N-glycan with outer Gal and bisecting GlcNAc ), UDA ( *OF1$Fȕ-4GlcNAc, Mixture of Man5 to Man9 ), DSA
(*OF1$Fȕ-Q*DOȕ-4GlcNAc),LTL()XFĮ-*DOȕ-*OF1$F)XFĮ-*DOȕ-4GlcNAc),
3. Cy3 標識ラミニンのレクチンアレイ結合に対する CAWS との競合性
CAWS とラミニンのレクチン結合における競合作用について検討するために,Cy3 標識
ラミニンに高濃度のCAWS を添加した.Fig. 3-3 に全レクチンに対する阻害率を相対強度
で示した..その結果,PSA, LCA, GSL-II, NPA, ConA, GNA, HHL, UDA に対する結合性で CAWS は Cy3 標識ラミニンのレクチンへの結合に競合した.
Fig. 3-3 Cy3 標識ラミニンと各種レクチンの結合に対する CAWS の競合反応
Cy3 標識ラミニンと CAWS を混合し,LecChip 上に重層し,反応させたのちに,エ バ ネ ッ セ ン ト 蛍 光 を 測 定 し た .CAWS 濃 度 は 十 分 に 飽 和 さ せ る た め に , 最 大 濃 度 の
1600ng/mL を用いた.値は,CAWS 非添加の場合の蛍光強度を 100%としたときの,CAWS
次に,低濃度の@JQ4 溶液(-77!L!/A-.1!D+G,M)を調製し,相対強度を比較した ところ,特に:?J8!X:J8!;;M では .1!D+G,M 前後の低濃度でも強い抑制効果を示し た.各レクチンが認識する糖鎖の特異性を以下に示した; NPA(High-Mannose, 0DQĮ-6Man),GNA(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man),HHL(High-0DQQRVH0DQĮ-3Man, 0DQĮ-6Man).いずれも,high-mannose タイプの糖鎖を認識するレクチンであり,CAWS の活性中心と推測される糖鎖構造とラミニン糖鎖の結合は強く競合した.
Fig. 3-4 Cy3 標識ラミニンと各種レクチンの結合に対する CAWS の競合性比較
Fig. 3-3 にて競合性を認めたレクチンのみを選択し,Cy3 標識ラミニンと異なる濃度の CAWS を混合し,LecChip 上に重層して反応させたのちに,エバネッセント蛍光を測定し
第2 節 CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較,および NMR スペ クトルの比較検討 1. CAWS および CAWS727 の診断用試薬に対する抗原性の比較 C. albicansを種々の条件で培養し,CAWS 様多糖を調製して活性を比較した結果20),pH 7.0,27℃の条件下で得られた多糖 (CAWS727) は CAWS と活性が著しく異なっていたた め,その構造的と活性の関連について検討した.CAWS および CAWS727 の血管炎惹起活 性の相違は,高感受性の DBA/2 系マウスで顕著に認められる. Fig. 3-5 に示した通り, CAWS727 では大動脈弁周囲や冠動脈起始部に炎症性変化がほとんど認められない.この ように活性が大きく異なる両者の構造上の類似点と相違点を解析する目的で,カンジダ感 染 症 の 診 断 補 助 を 目 的 と し て 既 に 応 用 さ れ て い る カ ン ジ ダ ・ マ ン ナ ン 特 異 的 血 清 抗 体 (Unimedi)を用いて,診断用ポリクローナル抗体に対する抗原性をみた. Umimedi に対
する抗原性は競合サンドイッチELISA 法によって評価した.まず,CAWS または CAWS727
Fig. 3-5 DBA/2 マウスにおける CAWS および CAWS727 投与後の心血管組織の比較 CAWS または CAWS727(4 mg/mouse)を DBA/2 マウスに投与し,投与後3週目の組
織切片をHE 染色して組織像を比較した. 上図はそれぞれの左冠動脈分岐部の拡大像
を示した.CAWS 投与群では著明な炎症性細胞の浸潤により,大動脈および冠動脈に
Fig. 3-6 診断用抗カンジダマンナン抗体に対する CAWS および CAWS727 の抗原性 CAWS または CAWS727 で ELISA プレートをコートし,抗カンジダマンナン特異的 血清抗体 ³ユニメディ´を用いて ELISA 法にて検出した. (A) CAWS をコートした ELISA プレート(固相 CAWS)に溶解した CAWS または CAWS727 を加え,血清抗体 を加えて反応させた.液相を洗浄除去した後,固相と結合した血清抗体を二次抗体で
2. CAWS および CAWS727 の NMR スペクトルの比較検討 さらに,より正確なマンナン構造を把握するために,CAWS と CAWS727 の NMR スペ クトルを1 次元および 2 次元 NMR 法で比較した. Fig. 3-7 に示した通り, 4.4-5.4 ppm のケミカルシフトでは,いくつかのクロスピークが認められた. 特に CAWS727 では,4.84, 4.85 および 5.13 ppm のケミカルシフトの起源については Tada,Shibata らの報告74, 75)によ れば,ȕ-1,2-mannosyl 結合由来と考えられる. これは,カンジダ抗原の血清因子,第 5 因 子と第6 因子に対する反応性の変化とともに CAWS727 における ȕ-1,2-mannosyl 結合の有 意な増加を強く示唆している. 一方で 5.05 ppm のシグナルは Į-mannosyl 残基を反映して おり,CAWS727 ではこのシグナル強度の減弱を認めていることから,CAWS727 の構造は CAWS と比して ȕ-1,2-mannosyl 残基が増加するとともに Į-mannosyl 残基が減少すると推測 された.
Fig. 3-7 CAWS と CAWS727 の NMR スペクトルの比較
CAWS と CAWS727 の 1 次元および 2 次元 NMR スペクトルを示した. アセチル化し
たサンプルを1 次元 NMR にて解析し, 2D-NMR スペクトルは CH-COSY による解析
によって得られた結果を展開した. ▽;β-mannosyl 基に由来するクロスピーク,▼;
2. CAWS および CAWS727 による IL-10 産生量の比較と CAWS727 による抗炎症作用の検 討 これまでの報告で,CBA/J マウスは CAWS 血管炎の誘導に対して強力な抵抗性を示し, CAWS 刺激後に,大量の IL-10 を産生することで,血管炎に対する抵抗性を示すことが示 唆されている. IL-10 は樹状細胞の成熟を抑制し,調節性T細胞が優位となって抗炎症性 を示すと考えられる76). 本実験系で,抗炎症性に対する IL-10 の関与を否定する目的で,
Fig.3-9A に示した通り,CAWS または CAWS727 刺激はいずれも IL-10 を誘導しないこと
が証明された.
さらにCAWS727 を CAWS に混合し,脾臓細胞培養液中の TNF-Į 産生を検討したところ,
Fig.3-9B に示した通り,加えられた CAWS727 の濃度に比例して CAWS による TNF-Į 生成
が有意に抑制された. これらの結果は,CAWS727 は血管炎の惹起活性が著しく低いとい
う事実に加え,CAWS 血管炎に対する抗炎症作用を認めた.
Fig. 3-9 各マンナンによる IL-10 産生と CAWS727 の CAWS に対する抗炎症活性 A; CBA/J マウスでの血管炎に対して抑制効果が報告されている IL-10 の産生を各 CAWS マンナンで検討した. B; DBA/2 マウス脾臓細胞を CAWS (20µg/ml) で刺激し,
誘導されるTNF-α産生に対する CAWS727 影響を CAWS727 の濃度を変化させて横軸
に展開した (B), *;
P <0.05
, **;P <0.01
, ***;P <0.001
第4 節 レクチンマイクロアレイを用いた CAWS と CAWS727 のエピトープ構造の分析 CAWS の糖鎖構造の解析にレクチンマイクロアレイを用いたプロファイリングについ て述べた. 本節では,CAWS と CAWS727 のエピトープである糖鎖構造の変化をレクチ ン・アレイシステム(LecChipTM)によって解析し,蛍光強度を比較した. Fig. 3-10 に示 した通り,Cy3 ラベルした標準糖鎖のプローブでは,ほぼ全てのレクチンに対して結合す ることが分かる.さらに,マンナンとレクチン類との結合の競合を試験する目的で,標準 プローブと等しい濃度の 200ng/ml として,CAWS または CAWS727 を混合した. その結 果,Į-マンナンと特異的に結合する PSA,LCA,NPA,ConA,GNA と HHL の蛍光強度は CAWS の混合によって著明に減少した. 対照的に CAWS727 の混合によっても同様のレク チン類で競合を認めたがCAWS よりも,これは有意な減少ではなかった. これらの結果 は CAWS と CAWS727 のレクチン結合親和性に量的な相違があることを示唆した. さら にĮ-マンナンに特異的な 6 種類レクチンを抽出し,CAWS と結合性のない 2 種類のレクチ ンを含む8 種類のレクチンに対して標準糖鎖プローブに CAWS と CAWS727 の濃度勾配を つけて混合した. Fig. 3-11 に示した通り,Į-マンナンと特異的に結合する PSA,LCA,
NPA,ConA,GNA と HHL の蛍光強度の阻害では,CAWS が CAWS727 よりも著明に高か
った.この事実は,CAWS727 で Į-mannosyl 残基に特異的なレクチンとの結合親和性が著