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国際航空市場における都市圏間純流動旅客数の推定
Estimation of Net Origin and Destination Passenger Flows of International Air Transportation
寺崎 淳也
By Junya TERASAKI1.はじめに
国際航空旅客需要予測は,市場参加者の意思決定に対 する基礎的な情報提供に資するものであり,市場を取り 巻く環境が大きく変化している中で信頼性が求められる.
交通需要予測における純流動旅客数(以下
OD旅客数) は,基礎的なインプットデータであり
OD表として用い られる.しかし,国際航空市場における純流動旅客数が 把握できる統計は存在しない.そのため,既存研究
1),2)では
On Flight Origin and Destination(以下
OFOD統計)が 代替的に
OD旅客数として用いられてきた.ところが,
この
OFOD統計は
Hub&Spoke型のネットワーク形態に おいて,乗継便を利用する旅客者が増加することで
OD旅客数と乖離する可能性がある.そこで,本研究では国 際航空市場における都市圏間
OD旅客数を推定する.
本稿の構成は以下の通りである.まず次章で国際航空 旅客市場における輸送量に関する統計をまとめ,
OFOD統計を代替的に
OD旅客数として用いることの問題点を 整理する.
3章では
OFOD統計を基礎とした
OD旅客数 推定モデルについて説明する.
4章および
5章では本研 究で構築した
OD旅客数推定モデルを実際に適用し,
6章において本稿の結論と課題を整理する.
2.ICAO 統計と OD 旅客数
本章では,国際民間航空機関(
International Civil Aviation Organization,以下
ICAO)が発行する国際航空旅客市場 における輸送量に関する統計をまとめ,
OFOD統計を交 通需要予測におけるインプットデータである
OD旅客数 として代替的に用いることの問題点を整理する.
旅客者の移動パターンを図
1に示し,それぞれのパタ ーンにおける各統計での集計区間を表
1に示す.
OFOD
統計は,当該路線に複数の航空会社が就航して いる国際定期便についてチケット(搭乗券)の発券枚数 を年間もしくは四半期集計した統計である.
Traffic by Flight Stage
(以下
TFS統計)は,出発(離陸)か ら最初の到着(着陸)までの
1航行の都市ペア(空港ペア) における定期国際便の旅客数を航空会社別運航機材別に 年間集計した統計である.
TYO PAR
LON
MOW
①直行便(JL405)
③乗継便
(BA318)
②経由便
(SU576)
②経由便
(SU576)
③乗継便
(BA006)
■図 1 旅客者の移動方法(TYO→PAR の例)
■表 1 移動方法と ICAO 統計の集計方法
フライト番号 OFOD統計 集計区間
TFS統計 集計区間 ケース①
直行便 JL405 TYO⇒PAR TYO⇒PAR ケース②
経由便 SU576 TYO⇒PAR TYO⇒MOW MOW⇒TYO ケース③
乗継便
BA006 BA318
TYO⇒LON LON⇒PAR
TYO⇒LON LON⇒PAR
直行便(ケース①)および経由便(ケース②)は同一便名 のフライトにより東京(
TYO)−パリ(
PAR)間を移動する ことが可能であり,
ODペアと
OFOD統計で集計される 都市圏間が一致する.しかし,乗継便(ケース③)のケー スでは,通常フライトごとにチケットが発券されるため
OFOD統計では各チケットで指定された発着都市圏間ご とに集計され, 複数の都市圏間で集計されることになる.
236人
(既知)
アジア・国内 成田 シカゴ 北米・カナダ
ANA便搭乗者
(NH12便,10:45発08:20着)
ローカル 59人(25%)
82人(35%) OD:成田(東京)→北米・カナダ
66人(28%) OD:アジア・国内→シカゴ
29人(12%) OD:アジア・国内→北米・カナダ ビヨンド
ビハインド
ブリッジ
搭乗者内訳
求めるべき OD旅客数 OFOD統計に 集計される旅客
OFOD統計から 除くべき旅客
■図 2 NH12 便の搭乗者内訳
3)航空会社のアンケートによる当該フライトにおける
ODペア別の搭乗者内訳の結果(図
2)では,
OFOD統計
2
に集計される搭乗者(
236名)のうち,
ODペアがフライト の発着都市圏と一致する旅客は約
25%(
59名)であり,
OFOD
旅客数と
OD旅客数が約
75%乖離することになる.
このように,
Hub&Spoke型のネットワークでは乗継便 を利用する旅客者が増加することで
OFOD統計と
OD旅 客数が乖離する可能性がある.この点から,
OFOD統計 を代替的に
OD旅客数として用いることは問題である.
また
TFS統計から得られる旅客数は,総流動旅客数(リ ンク旅客数)であり
OD旅客数ではない.そこで本研究 では,
OFOD統計や
TFS統計を統合利用することで
OD旅客数を推定することを目的とする.
3.OFOD 統計を基礎とした OD 旅客数推定モデル
OFOD統計により得られる旅客数
Bmnを旅客者が購入 した複数のチケットを結合することで修正し,
OD旅客 数
Xrsを推定するモデルを構築した.ここで,
OFOD旅 客数
Bmnから修正すべき旅客数は,修正後得られる
OD旅客数
Xrsを配分(経路選択)した結果推定されるリンク 旅客数
vijが,
TFS統計から得られる観測リンク旅客数
vˆijと近似するように決定する.
図
3にモデルフロー図を示し, 以下に要点を説明する.
START
OFOD統計Bmn TFS統計vij
ネットワークの構築D ( i, j ) 経路集合Krsと航空券集合Trsの設定
残差平方和が最小か?
&
制約条件は満たしているか?
OD旅客数の算出 END 残差平方和の算出
ij ij
ij v
v ˆ 2 OD旅客数の配分
(リンク旅客数の推定)
rskK
rs k rs ij
k rs ij
rs
X P
v ,
OFOD旅客数BmnとOD旅客数Xrsの定式化 rs tT
rs t rs mn
t rs mn
rs
X Q
B ,
経路選択確率および航空券購入確率の算出
Krs h
h rs k k rs rs
V V P
exp exp
t Krs
k k
rs k rs t rs
k T N P
Q 1
連立方程式の求解
(仮OD旅客数の算出)
航 空券購 入確率 に 関する逆 行列
X
OD 旅客数
(ベク トル)
×
= OFOD 統計
( ベクトル)
B
OFOD 統計
( ベクトル)
Q1 パラメータベクトル
, , , , , , , ,
【仮定②】
OFOD旅客数Bmn=0を満たす都市圏間は 重力モデルによりOD旅客数を与える
rs s r
rs d
q X p
【仮定①】
経路/航空券選択確率は経路選択を選択可能な 航空券の数に応じて等確率で配分する.
k T N P p
k rs k rs t k rs , 1
【仮定③】
推定されるOD旅客数Xrsは対象都市圏以外の 影響を含むため,その分だけ過大に推定される.
■図 3 OD 旅客数推定モデルのフロー
まず
OFOD旅客数
Bmnは,求めるべき
OD旅客数
Xrsと航空券購入確率
Qrstから(
3.1)式のように定式化できる.
rs t T
rs t rs mn
t rs mn
rs
X Q
B ,
・・・・・・・(
3.1)
ここで,航空券購入確率
Qrstは旅客者が
ODペア
rsに おいて航空券
tを購入する確率である.旅客者が購入し た航空券
tは選択した経路
kにより特定できる.そのた め
Qrstは経路選択確率
Prskを用いて(
3.2)式で定式化する.
t
Krs
k k
rs k t rs
rs
T N
Q P
・・・・・・・・・・・(3.2)
NTrsk
は,
ODペアrsにおける経路kでの航空券集合Trskの要素数である.
そして,経路選択確率
Prskは既存研究
4)~6)を参考に(
3.3) 式のロジットモデル式で,経路の効用確定項
Vrskは(
3.4) 式の線形関数で定式化した.
Krs
h
h rs k k rs
rs
V V P
exp exp
・・・・・・・・・・(3.3 )
k rs k
rs k
rs k rs k rs k
rs t f D s
V
・・・・・・(
3.4)
ここで,旅客者の経路選択要因である
trskは
ODペア
rsにおける経路
kの所要時間,
frskは
1週間あたりの頻度の 自然対数値である.また,
rskは
ODペア
rsにおける経 路
kのロードファクター,
Drskは直行便であれば
1とす る直行便ダミー定数,
srskは機材サイズを表す
注1).表
2にこれらのパラメータの符合を示す.
■表 2 旅客者の経路に対する選好
項目
所要時間 −
短時間の方が望ましい
運航頻度 +高頻度の方が望ましい
ロードファクター −満席に近いと予約が困難
直行便ダミー +
経由回数が少ない経路を好む
機材サイズ +大型機を好む傾向がある
選択要因
リンク旅客数
vijは,
OD旅客数
Xrsと経路選択確率
Prskか ら(
3.5)式で定式化できる.
rs k K
rs k rs ij
k rs ij
rs
X P
v ,
・・・・・・・・(
3.5) ただし,
OD旅客数
Xrsは(
3.1)式の連立方程式を解である.
ここで,直行便もしくは経由便が就航しておらず,
OFOD
旅客数
Bmnがゼロの都市圏間が存在するため,チ ケットリンク数
mnが
ODペア数
rsよりも少なくなる.
そのため, 連立方程式の解が一意に求まらない. そこで,
本モデルではそれらの都市圏間については
OD旅客数
Xrsが(
3.6)式の発着都市圏人口
pr , qsと都市圏間距離
drsを 変数とする重力モデルに従うと仮定して算出する.
rs s r
rs d
q
X p
・・・・・・・・・・(
3.6)
3
リンク旅客数の観測値
vˆijは
TFS統計から得られる.こ のことから(
3.5)式により推定されるリンク旅客数
vijと 観測リンク旅客数
vˆijの残差平方和(
3.7)式を最小にする パラメータベクトル
, , , , , , , , Tを推定するこ とで
OD旅客数
Xrsを求める.
【リンク旅客数に関する残差平方和最小化問題】
Objection
:
, , , , , , ,
, min
ij
ij
ij v
v ˆ 2
・・・・・・・・・・・・・・(
3.7)
Subject to:
rs k K
rs k rs ij
k rs ij
rs
X P
v , for ij
・・・・(
3.5)
ij ij
ij c v
for ij
・・・・・・・・・・・・・(3.8 )
rs 0
X
for rs
・・・・・・・・・・・・・・・・・(
3.9) ここで,(
3.8)式はリンク旅客数の容量制約,(
3.9)式は
OD旅客数の非負条件である.
4.モデルの適用
4.1 対象の設定と使用データ
表
3に示す
10都市を対象としてモデルを適用する
注2). 対象年次は
2006年とし,
OFOD統計および
TFS統計 も
2006年のデータを用いた.さらに,都市圏人口は文献
7),都市圏間距離は文献
8)を用いた.
■表 3 対象 10 都市圏
No. 都市圏名
(和名)
都市圏名
(英名)
都市圏
コード 国名 人口
(千人)
1 バンコク BANGKOK BKK タイ 6,590 2 香港 HONG KONG HKG 中国 7,040 3 ロンドン LONDON LON イギリス 8,510 4 マドリッド MADRID MAD スペイン 5,610 5 ニューヨーク NEW YORK, NY NYC アメリカ 18,720
6 パリ PARIS PAR フランス 9,820
7 ソウル SEOUL SEU 韓国 9,650
8 シンガポール SINGAPORE SIN シンガポール 4,330
9 東京 TOKYO TYO 日本 35,200
10 トロント TORONTO YTO カナダ 5,310
4.2 パラメータ推定
この問題は非線形計画問題であるため,パラメータ推 定には逐次
2次計画法を用いた
注3).表
4に推定パラメー タを,図
4にリンク旅客数に関する現況再現性を示す.
■表 4 推定パラメータ
所要時間 -1.30E-01 定数項 1.43E+03 運航頻度 8.21E-01 発都市圏人口 2.48E-01 ロードファクター -6.00E-01 着都市圏人口 3.11E-01 直行便ダミー 9.00E-01 都市圏間距離 2.01E-01
機材サイズ 6.18E-01
経路選択確率 重力モデル
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 観
測 リ ン ク 旅 客 数︵ 万 人︶
推定リンク旅客数(万人)
Observed= 1.04 ×Estimated (81.68)
相関係数:0.99,Sample:74 容量超過リンク数:2
■図 4 リンク旅客数に関する現況再現性
リンク旅客数に関しては再現性の高いパラメータが推 定されたと考えられる.本稿では,観測リンク旅客数が 容量制約を受けた状態での
1年間の集計値であることを 考慮して,容量制約を考慮していない.ただし,容量超 過のリンクはマドリッド(
MAD)⇔バンコク(
BKK)の
2本であり約
30%超過している.容量制約の考慮は今後の 課題である.
5.OD 旅客数推定結果
本章では,
OD旅客数の推定結果ついて説明する.
図
5に
OFOD旅客数と
OD旅客数の関係を,図
6に推定 された
ODペアパターン別の搭乗者内訳の結果を示す.
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200
0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 OFOD旅客数︵万人︶
OD旅客数(万人)
OFOD旅客数 Bmn
> OD旅客数 Xrs
OD旅客数 Xrs
> OFOD旅客数 Bmn
■図 5 OFOD 旅客数と OD 旅客数の関係
4
0 20 40 60 80 100 120 140
旅客数︵万人︶
LOCAL BEYOND BEHIND
直行 乗換
BKK HKG LON NYC PAR SEU SIN YTO MAD
左:OFOD旅客数 右:OD旅客数
■図 6 OFOD 旅客数と OD 旅客数の関係(TYO 発抜粋) 図
5より
OFOD旅客数
Bmnが
OD旅客数
Xrsよりも多 い都市圏間が相対的に多いが,これはチケットを結合し たことにより
OFOD旅客数
Bmnを修正したことから妥当 な結果であると言える.
OFOD旅客数の合計値は約
3,900万人であり,
OD旅客数の合計値は約
2,800万人であった.
つまり,約
1,100万人(約
30%)が乗継便を選択した旅客 であり,
OFOD統計をインプットデータとして用いるこ とで約
30%の過大評価になる可能性がある.
東京発の各都市圏間において,チケットで指定された 発着都市圏間と
OD都市圏間が一致する旅客者の比率は 平均約
48%であり,
OFOD旅客数と
OD旅客数に約
52%乖離する可能性がある.さらに,最もこの割合が高かっ た都市圏間は東京−パリ間で約
77%であった.一方,最 も割合が低かった都市圏間は東京−香港で約
18%と推定 された.東京−香港は,香港が需要の大きいヨーロッパ や他のアジア都市圏向けの乗換地として,東京が北米地 域から香港向けの乗換地として利便性が高くアジア−北 米間のハブであるという特性を受けて低い割合になった.
同様に,ソウルやバンコクもヨーロッパ向けの乗換地と して,東京が北米地域への利便性が高いことを受けて,
OFOD
旅客数が
OD旅客数を上回る結果となった.
6.おわりに
本稿では,
OFOD統計を基礎として
TFS統計を統合利 用した
OD旅客数推定モデルを構築し,
10都市圏を対象 にモデルを適用した.既存研究において
OD旅客数とし て代替的に用いられてきた
OFOD統計と比較した結果,
平均約
30%の乖離が存在する可能性を明らかにした.
今後の課題は以下の
4つが挙げられる.
① 航空券購入確率の定式化(経路選択確率の等配分)
② 重力モデルの仮定とそのパラメータ推定方法
③ 容量制約の考慮
④ 対象外都市圏 の取り扱い方
補注
1) OD
ペア
rsにおける経路
kの所要時間
trskは,経路を構成 するリンクの所要時間の和とする.ただし,リンクの所 要時間はリンク距離
8)をリンクに就航する機材の巡航速 度
9)を運航便数で重み付けした平均値で除した値とする.
また,運航頻度
frskは経路を構成するリンクの運航頻度の 最小値,ロードファクター
rskは最大値,機材サイズ
skrsは 便平均提供座席数の平均値とする.
2)
モデルの適用にあたり対象都市圏を設定することで,OD 旅客数が過大に推定される可能性がある.これは,対象 とした観測リンク旅客数および
OFOD旅客数に対象外都 市圏を
ODペアに持つ旅客者が含まれている可能性があ ることによるものである.
3
) 重力モデルのパラメータは被説明変数をOFOD旅客数B
mn, 説明変数を発着都市圏人口
pr , qsと都市圏間距離
drsとして 推定されたパラメータを用いた.
Notation
OD
ペアrs:出発地
rと最終目的地
sとする都市圏間
リンクij:出発地(離陸)i から最初の到着地(着陸)
jまでの1航行の都市圏間(
TFS統計と同定義)
チケットリンクmn :航空券で指定される出発都市圏
m,到着都 市圏n とする都市圏間(OFOD 統計と同定義)
Δ
:OD ペア集合,
Ω:リンク集合Krs
(
Krst):OD ペアrs における(航空券t)の経路集合
ρij
:リンクij のロードファクター,
cij:リンクij の提供座席数(席)
ij k
rs,
(
rs,mnt):
ODペア
rsにおける経路
k(航空券t )がリンクij (チケットリンク
mn) を含むとき1,それ以外のとき0参考文献
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3)(株)ANA 総合研究所:「航空産業入門」,東洋経済新報
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4)
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5)
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8)
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