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ラテックス粒子溶液からの多重レーザ散乱光の時空 間特性

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ラテックス粒子溶液からの多重レーザ散乱光の時空 間特性

著者 岩井 俊昭

雑誌名 静岡大學工學部研究報告

42

ページ 31‑40

発行年 1992‑03‑27

出版者 静岡大学工学部

URL http://doi.org/10.14945/00008598

(2)

ラテックス粒子溶液からの多重 レーザ散乱光の時空間特性

E+TFEA

Space-Time Statistical Properties of the Laser Light Multiply-Scattered from Latex Particle Solutions

Toshiaki IWAI

The intensity of the laser light scattered from the latex particle solution with a high fraction has been found to be enhanced in the backscattering direction as a result from the multiple scattering phenomenon. In this paper, we investigate the space-time properties of the intensity variations scattered from the latex particle solution with a high fraction. It is shown that time-varying intensity variations, that is the dynamic characteristics, produced by Brownian motion of the latex particles have the dependencies on the fraction, the particle diameter, and the scattering angle. The results obtained experimentally are fairly well explained from the view- points of the scattering path length in the media and the retroreflection (opposition effect).

1.緒

運動物体 にレーザ光 を照射 したときに生 じる動的なレーザ光散乱現象は、 レーザ光 を照射 されてい る物質の時空間における構造変化 を反映 している。 したがって、 レーザ光散舌L法は、個体、グル、液 晶、生体高分子、分子流体、電解質溶液、微生物運動、藻類の原形質、 コロイ ド溶液など多種多様 な 物質や溶液の時空間動特性の解析 に用い られている。1 3)個体物質の場合には、 お もに運動物体 の速 度や方向、変形物体 の変形量や方向などが測定 目的になっている。溶液性の物体の場合には、液体 中 の溶質にあたる物質の運動速度や方向、拡散定数などが測定目的になっている。

従来の レーザ散乱法における測定対象は、個体物体ではその表面の凹凸の傾斜がなめ らかな場合で あ り、溶液性の物体では濃度が非常 に低い場合である。 このような物体では、 レーザ光が表面の凹凸 や溶質を構成する粒子 に1回しか散乱 されないような単散乱 を仮定 していた。 ところが、物体の表面 の凹凸の傾斜が急峻になった り、溶液濃度が増加すると、入射 レーザ光は複数の凹凸の斜面や粒子に 何度 も散乱 されるようにな り、多重 レーザ光散乱現象を生 じる。実際の測定では、このような多重散

工学部電子工学科

(3)

32        岩井俊昭

乱が生 じる状況が多々あるため、近年多重 レーザ光散乱現象の研究が注 目されている。

これまでの研究 としては、多重 レーザ光散乱現象の時間相関関数 として測定 される時間特性では、

分子溶液などの拡散定数の測定 を行 う試み4)、 多重散乱現象の物体速度測定へ の影響5)、 二重 レーザ 散乱 を用いた粗 さ測定6‑3)などがある。一方、光強度分布 として測定 される空間特性では、ランダム 媒質中を伝播する波動および電子の局在化現象の可視的なジミュレーション実験 として盛 んに研究 さ れている。9 ② さらに、光CTの本格的な発展の兆 し:を見 るに至 って、入射 レーザ光が どの ような経 路 をたどり溶液や生体か ら出射 したかを示す「光路長分布」の解析が、光CTの成功の鍵 になる とさ え言われている。。 したがって、多重 レーザ散乱現象の理論 と実験 による体系化が重要視 されている。

本研究では、ラテ ックス粒子溶液か らの動的なレァザ散乱光の光強度分布 と時間相関関数 とを測定 し、ブラウン運動する溶液性物体か らの多重 レーザ散乱光の空間特性 と時間特性の関係 を明 らかにす る。      .       :

2.実験光学系

1は、多重 レーザ散乱光の光強度測定用光学系を示す。Ar+レ早ザからのレーザビーム (波長λ=

0.514 μ π)は、コリメー トされたのち、偏光子 とビームスプリッタを経て、 ラテックス粒子溶液に 照射される。ラテツクス粒子溶液内部で多重散乱されたのち、出射 されたレニザ光は、再びビームス

Pdattz9L:::is…

te‐

Optica:F社鴻 r

Later Solution

Photomultipiier Photon Count Accum●lator

Photon Correiator

後方散乱光の強度測定用光学系

(4)

ラテ ックス粒子溶液か らの多重 レーザ散乱光 の時空 間特性

Cube Beamsplitter

逆反射光 を取 り出すためのビームスプリッタとガラスセルとの位置関係

プリッタで反射 され、焦点距離ノ=500ππ球面 レンズの焦点面にて、光強度分布 を形成す る。 この と き、光強度分布 には、溶液内部の多重散舌Lによって生 じる逆反射光 と溶液を入れてあるガラスセルの 表面や ビームスプリッタの内面か らの鏡面反射光が重なっているも したがって、逆反射光以外の不要 な反射光は光軸か らずれるように、 ビームスプリッタとガラスセルを図2に示す ように光軸 に対 して 傾 け、逆反射光のみを取 り出 している。観測面に生 じた光強度分布は、光軸 と垂直な方向に移動する ステッピングモータ駆動マイクロステージに設置 したコア直径50μ πの光 ファイバを通 して検出する。

検出された光波は光電子増倍管に導波 され、光電流 に変換 される。光電子増倍管の直前 には検光子が 設置 され、偏光子で選択 された入射 レーザ光の偏光方向に対する平行偏光成分 と直交偏光成分 を検出 の際に選択する。 また、観測面におけるレTザ散舌L光の空間的相関領域の直径は、溶液 を照射 してい る レーザ ビーム半径が ″=2.5ππであるので、△κ=2ノλ/″240μ πになる。 したがって、光ファ イバのコア内における空間積分効果の時間相関関数への影響 は、5%未満である。0

観測面 における光強度分布は、非常 に微弱信号であるため、光強度分布 と時間相関関数 を測定する には、光子計数法 を用いた。光電子増倍管から出力 された光電流は、パルス弁別回路により光電子パ ルスに変換 される。空間特性である光強度分布は、光軸から検出位置 までの距離を変化させるごとに、

光子計数装置 (Thorn Emi Photon Counting Boad)内のメモ リに10s間累積 した光電子パ ルスの個 数 として記録 される。一方、時間特性である時間相関関数は、128チ ャンネルの光子相関器 lLangley―

Ford)を用いて、サ ンプリング時間10 μs、 1サ ンプリング時間あた りの光電子パルス数0.5‑0.2、

測定時間100sな る条件で測定 した。

(5)

岩井俊昭

0510

Scattering Angle(mrad) 光強度分布 の散乱 角依存性

00L信

図 3

3。 多重 レーザ散乱光の空間特性

図 3に 、直径0。46μ πのラテックス粒子10%溶液から多重散乱されたレ‐ザ光の平行偏光成分 (●)

と直交偏光成分 (○)の光強度分布′を示す。ここで、横軸は観測面上の光強度を検出する位置χ において、次式で定義される散乱角である。

θ=ナ=瑞  atta」

多重散乱光強度分布の平行偏光成分は、散乱角0れ地ごにおいて鋭いピータを生 じ、散乱角が増加す るとその強度は減少 し、直交偏光成分のそれに漸近する。一方、直交偏光成分 は、散乱角0 厖α付 近 に多少の強度の増加が見 られるものの、全体 としては散乱角に依存せずほぼ一定の強度分布を示す。

このような後方散乱光強度の平行偏光成分 と直交偏光成分の変化 は、次 の ように説明で きる。■0す なわち、波数ベク トル言 なる入射光が、媒質内で多重散乱 を経て、波数ベク トル霧 なる出射光 (散 乱光)と して媒質外に出たとする。 この とき、平行偏光成分のうち、 所、 商 、 蕩 、 ・・・・葛 な る経路 と全 く逆の経路、凛 00、 あ 、 所 、所、を経 る光波が存在する。 この とき、 所=一 葛 が 成 り立ち、互いにコヒー レントな関係であるため、観測面で干渉 し、散乱角0れれα付近 で鋭 い ピー クを生 じさせる。理論的にはピークは2の強度 を有するはずであるが、実際には、一つの粒子が多重 散乱 と単散乱の両方 に寄与するため、 2よ りは小 さくなる。一方、直交偏光成分 に関 しては、順経路 と逆経路の光波は部分的にコヒー レン トな関係 にあ り、干渉の結果生 じるピークは平行偏光成分のそ れに比べてかな り小 さくなる。 しか も、散舌L回数が増加するほど、そのコヒー レンス度は低下する。

したがって、最 も短い経路 を経 た光波が、 ピークを生 じさせる要因になる。 また、散乱角0 κごを

 

"    h

"

(6)

ラテックス粒子溶液からの多重レニザ散乱光の時空間特性       35

中心 としたピーク強度の角広が りは、光波が媒質中を散舌Lを繰 り返 しなが ら伝播する間に回折 により 広がった と考 えることができ、その広が り角はほぼλ/J・になる。 ここで、′●

は、光波が ラ ンダム 媒質内を伝播するときの平均光路長 を表す。

4は、直径0.46μれのラテックス粒子溶液の濃度 を10%(〇)、 5%(●)、 1%(△)と変化

   させたときに得 られる光強度分布の比較 を示す:図か ら、平行偏光成分 においてラテックス粒子溶液 の濃度が減少すると、散乱角0れra」付近の光強度のピークは減少する。 これは、散乱粒子数が多い ほど、入射光波の順経路 と逆経路が等 しくなる確率が増加することか ら生 じる。一方、直交偏光成分 に関 しては、上述の理由により、濃度の変化 に対 して大 きな依存性 はみ られない。

0.■

Scattering Angle (mrad) (a) Copolarized case

﹇ d

0。

SLatteing Angle(mrad) (b)Cross― polartted case

光強度分布のラテックス粒子溶液濃度依存性

(7)

36        岩井俊昭

5は10%ラテ ックス粒子溶液の粒子直径 を0.77μ π(○)、 0.46μ π(●)、 0。29μ π(△)、 0.09 μπ (▲)と変化 させた ときの光強度分布の変化 を示す。図から、平行偏光成分 においては、粒子直 径が大 きいほど散乱有効断面積が増加 し、逆反射現象の発生確率が増大するため、中央の ピーク強度 も増加する。反対 に、粒子直径が減少すると、散乱有効断面積が減少するため、 ピーク強度は減少す る。直交偏光成分 に関 しては、 もともと逆反射現象の効果が小 さいため、ラテ ックス粒子直径の変化 に対 して大 きな依存性 はみ られない。

0.■

Scattering Angle (mrad) (a) Copolarized ease

2。0

↓場

一 ●

0.■

Scattering Angle(mrad) (b)Cross― polarized case

光強度分布のラテ ックス粒子直径依存性

(8)

ラテ ックス粒子溶液か らの多重 レーザ散乱光の時空間特性

4.多重 レーザ散乱光の時間特性

6は、直径0。46μ πのラテックス粒子溶液の濃度 を10%(○)、 5%(● )、 1%(△ )、 0.1%

(▲)、 0.01%(□ )と変化 させた ときに得 られる平行偏光成分の時間変動強度 ゆ らぎの時 間相 関関 数の比較 を示す。 ここで、縦軸は対数軸である。光強度ゆ らぎの時間相関関数は、遅れ時間が増加す ると単調 に減少する。 また、ラテ ックス粒子濃度が増加すると、光強度ゆらぎの時間相関長が減少す る。濃度が0.01%のときはほぼ直線 にな り、濃度が0.1%に増加す ると遅れ時間の小 さい部分 で多少 湾曲がみ られる ものやは り相関関数は直線的な減少 をする。このことは、0.01%‑0.1%の ラテ ック ス粒子濃度では、単散舌Lが散舌L現象の主要 な要因であ り、その時間相関関数は一つの指数関数で表せ ることを示 している。7)ラ テックス粒子濃度が1%か10%まで増加すると、相関関数 の湾 曲が増加 し、相関関数が一つの指数関数で表せな くなることを示 している。 これは、溶液濃度が増加するとと もに、多重散舌Lの発生頻度が増加 し、結果的に平均光路長が単散乱の場合に比べ著 しく長 くな り、相 関関数の減少率が増加するためである。 また、10%溶液の場合の時間相関関数の減少率が、 1%と 5

%のそれ と比べて減少 している。 これは、溶液濃度が増加すると、逆反射現象によるコヒー レン ト成 分の増加が原因 と考 えられるも

200   4m           1回   1劉 Lag Time(μ sec)

時 間相 関 関 数 の ラテ ッ クス粒 子 溶 液 濃 度 依 存 性

7は、濃度10%のラテ ックス粒子溶液 の粒子直径 を0。77μ π(○)、 0。46μ π(●)、 0.29μ π (″村 、 0.09μ π (▲)と変化 させ た ときに得 られ る時間変動光強度 ゆ らぎの時 間相 関関数 の変化 を示す。 ラ

テ ックス粒子直径 が増加す る と、時間相関関数 の減少率 は減少 し、相 関時 間は長 くなる。 これは、 ラ テ ックス粒子直径が増加す る と粒子 の散乱有効断面積 が増加 し、 コヒー レン ト成分 が増加す るため、

時 間相 関長 も長 くなるためである。

¨

図 6

(9)

岩井俊昭

   4m 裏短    田ロー

 1型 Lag Time(μ sec)

時 間相 関 関 数 の ラ テ ック ス粒 子 直 径 依 存 性

図 6と 図7に示す ような時間相関関数 を定量的に調べ るために、その相関時間を次式で定義する。

7

τc=∫

定義 より、 もし時間相関関数が一つの指数関数で表 されるとき、すなわち、単散乱光の相関関数の と きは、相関時間は相関関数の値が ピーク値の1/0になる点における遅れ時間に等 しい。図8は、直 0.46μ πの濃度10%ラ テ ックス粒子溶液か らの多重散乱光の相関時間の変化 を、検出位置 を光軸 か ら変位 させるごとに測定 して、散乱角の関数 としてプロッ トしてある。平行偏光成分の相関時間は、

散乱角0醜地ごで最小値 をとり、散乱角3れ厖α付近 まで増加 し、それ以降ゆるやかに減少す る。一 方、直交偏光成分は、散乱角0 厖α付近で増加するがその増加量 は小 さく、散乱角の変化 に対 して あま り大 きな変化 はみ られない。

このような相関時間の変化は、図3に示す光強度分布 との比較 と、  光波の光路長が長いほ ど、相 関時間は短 くなる"E。 という事実 を根拠 に説明で きる。媒質中を伝播する光波の平均光路長 は、散 乱角0れ厖α付近では後方散乱で生 じる全ての光路 を辿 ってきた光波が存在するため長 くなるが、散 乱角が増加すると急激に減少すると考 えられる。 また、空間的な光強度分布は、観測面におけるコヒー レン ト成分の散乱角依存性 と等価であるもすなわち、散乱角0 καでは逆反射現象によ り光強度 の ピー クを発生するので、コヒー レン ト成分 も最大 に存在する。散舌L角0れれαか ら増加す る と光強 度 も減少 し、それに対応 してコヒー レン ト成分 も減少する。 したがって、散舌L角0れκご付近 では、

光路長の長い光波が相関時間を短 くし、相関時間の最小値 を発生 させる。散舌L角 3麓κα以下 の領域 では、散乱角が増加すると光路長が急激に減少するが、逆反射現象によるコヒー レン ト成分が存在す るため、相関時間は増加する。散乱角が さらに大 きな領域 (>3 れの になる と、光路長 は短 くな

"

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^亀

^ゝ

(10)

ラ´テックス粒子溶液からの多重 レニザ散乱光の時空間特性

Scattering Angle 時間相関長の散乱角依存性

るものの、逆反射現象の影響が消滅するため光波のコヒーレンス性が急激に減少し、結果的に相関時 間は減少する。このように、ラテックス粒子溶液からの多重レーザ散乱光の時間特性 (動特性)は 空間特性である光強度分布の散乱角依存性と関連づけて明確に説明が可能である。

5.結 塾調

本研究では、高濃度 ラテ ックス粒子溶液にレーザ光線 を照射 した ときに、その後方散乱で生 じる光 強度分布 と時間相関関数の関係 について、実験的に調べた。その結果、溶液濃度が1%以上では、多

重散乱の影響が顕著 にな り、光強度分布 と時間相関関数の相関時間とが散乱角依存性 を持つ ようにな ることを示 した。 さらに、 この散乱角依存性 を、ランダム媒質内で光波が伝播するときの光路長 と逆 反射現象 とを対比 させることで、説明が可能であることを示 した。0。1%以下の低濃度では、時間相 関関数が単一指数関数で表せることがで きることを示 し、 この濃度では単散乱が生 じていることを示

した。

今後は、光CTの発展 と絡んで、ランダム媒質内における光路長分布が多重散乱現象の解明 に重要 な関数になることが考 えられるため、多重 レーザ散乱光の時空間特性 と光波の光路長分布 との関係 を 明確 にしてい く。

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(11)

40 岩井俊昭

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本研究は、連合王国Imperial Collegeに て文部省在外研究員として行ったものである。Blackket LaboratoryのJoC.Ddnty教 授に感謝の意を表します。       │

‐`参:考I支i献     │

ds), οιo■Oorreιαιjo2 αL亀「λιBFαιjttgSpec″oscopy',Plenum l)H:ZoCummins lnd E:R.Pike(e

Press,New York(1974)       │

2)B。」。erne and EoPecOra, ⊇γπαmic Lなんι&,αιι″ jttg″Appιjcαιjo2s ιO CんθれJsιry,BJoιogyp d PLysJcs",John Wiley&SoIIs.hc。 ,New York(1976).=

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t.:: .

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参照

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