社会科学論集 第109号 2003.5
《論 文≫
日本 の飲食料 品店舗密度 に関す るパ ネル分析
並 河
1. は じ め に
日本の流通 システムに関す る特徴 として,小売 店の零細性 ・多数性 は, 流通 マ ー ジ ンの高 さ, W/R比率 な どと並んで研究者 の関心 を集 めて き た。商業統計な どでは小売業を取扱商品によ り多 くの業種 に細分 しているが,向山 [1989] は小売 店舗密度の様 々な業種間差異を商品の属性な どか ら説 明 し,Flath [1990] は都道府県別 クロスセ クションデータを用 いて小売業種 ごとに店舗密度 の地域格差 を説明 し,Flath& Nariu [1996] は 各種国際統計を組み合 わせて店舗密度 の国際的な 差異 を説明 した。
日本が高度経済成長期 を経 た後 の1960年代 〜 1970年代 において,人 口あた り小売 商店数 (店 舗密度)が先進各国 (特 に米英) と比較 してきわ だ って多か った ことは周知の ことであるが,昭和 57年商業統計を ピー クに, 商店数 が急速 な減少 を見せていることもまた知 られている。 日本 の特 徴 と言 う場合, どの時期の特徴をい うのか, また その変化を どうとらえ るのかを念頭 において分析 を進 める必要がある。
この研 究 で は, 飲 食 料 品 の小 売 店 につ いて 1960年 (第3節 のみ1958年) か ら1997年 に渡 る都道府県 レベル(全期間にわた り沖縄 を除 く)の パネルデータを構築 し,時系列的な変化 と地域差 を総合的に分析す る。飲食料品小売商店は小売商 店 に占める数的な比率が高 い反面,減少数 も多 く, 小売商店が全体 として増加 している時期か ら長期 にわた って減少傾向にあるため,分析対象 として 特 に重要である。流通 の経済分析 には財の類型そ
氷
れぞれに存在す る固有の事情を避けて通れないが, 消費財小売業のカテゴ リとして 「飲食料品小売業」
はそ うした固有の事情をイメー ジできる,可能な 限 り最大 のカテゴ リであろう。
並河 [2000]で論 じたように,飲食料品店舗密 度の低下す る速度 は,時期 と地域 によって大 き く 異な っている。 ある時期のある地域 に重要であっ た要因は,別の機会 にはそ うではなか ったように 思われ る。店舗密度 に影響す る個 々の要因につい ては,並河 [2000] [2001] においてすで に検討 してきたところであるが, この研究では地域性 と 時系列変化をひとつの式 に統合 したパネル分析を 行 い,総合的な説明を試みる。
と くにこの論文では,松井 [2001]が明 らかに した, ぴとりあた り乗用車数 と店舗密度 の有意 な 関係 について検討す る。 これは並河 [2000] の分 類で言 う 「日本的消費環境仮説」 に従 って, 「消 費者 の移動手段がよ りよ く確保 されているほど, 小売店舗 は競争 によって少な くな り,店舗密度 は 低下す る」 と解釈す ることができるので, 日本の 店舗密度が従来高かったのは自動車普及率が低かっ たのが一 因である, とい う主張を支持す る。 この 変数を加え ることによって,パネル分析 における 回帰式の決定係数 はほとん ど1になるのだが, そ の説明力が どこか ら来 るのかは慎重 に検討す る必 要がある。
2.データソースと仮説
この研究では,商業統計のデータを主に用いる。
商業統計 はある時期 まで2年間隔であったが, そ の後3年間隔 とな った。パネル分析 においては各
年度 のダ ミー変数 は独立変数 として扱われるので, ラグ構造 を持つ時系列 モデル と異 な り, データの 表す時点が等間隔 に並んでいな くともモデルが不 適切 とは言 い切れない。 そ こで この研究では,間 隔の違 うデータをプール したデータセ ッ トと,分 けたデータセ ッ トの両方を示す ことに した。
む しろ並河 [2001] で行 ったクロスセクシ ョン 分析結果 は,分析対象期間の中間で明確 な構造変 化があ った ことを示唆す る。 データセ ッ トの分岐 点である1976年 は飲食料品小売店舗数 が ピー ク に達 した時期 に近 く, その前後で分析 を分 けるこ とは飲食料品小売店舗の増加期 ・減少期 を分 けて 分析す ることに もなる。
並河 [2000] で論 じたように,高度成長期の飲 食料品店舗密度 は人 口急増地域では人 口増 に店舗 増が追 いつかず,む しろ低 めであ り,人 口が伸 び 悩んだ県ではそれほど低下 しなか った。 そ して昭 和50年代以降,全国的に店舗密度 は急激 に低下 した。パネル分析では,時系列を通 じて安定的な 地域間の差異 はダ ミー変数 に吸収 され るので,残 された説明変数 は全国的な ものにせ よ地域性のあ るものにせ よ,店舗密度の時系列的な変化を説 明 す ることになる。 こうした変化の理 由付 けとして は,並河 [2000] の整理を用 いると,次のような
ものが挙 げ られ る。
(1) 日本的消費習慣仮説/ 日本的消費者仮説 この間に自動車が急速 に普及 したことにより, 商圏は拡大 し,消費者が必要 とす る小売店舗 は減少 して,店舗密度 は低下 した。 また,消 費生活が洋風化 し,鮮度へのこだわ りが弱 く な ったことによ り,店舗密度 は低下 した。 こ の仮説,特 に前者 は,応用 ミクロ経済学でよ く知 られている空 間的競争 モデルによって基 礎付 けることができるため,経済学の研究者 にとっては親 しみやすい。
(2)経済発展仮説/市場 スラ ック仮説 日本 の 急速 な経済発展 は,大規模小売業 の発展す る 条件を整えた。 しか し経済発展の果実が広 く 社会 に広が った結果,零細小売店が退 出せず に市場 にとどまれる経済的な余裕 (市場スラッ ク)が生 じ,店舗密度 の低下 は遅 らされた。
84
高度成長期が過 ぎてスラ ックが縮小す ると, 遅 らされた店舗密度の低下が急速 に進んだ。
(3)履歴効果仮説 零細小売店が退 出すべ き状 況が生 じて も,小売店舗 に人的 ・物的資源が サ ンクされていて転用 した場合の価値が低 い ことか ら,直 ちに起 こるべ き店舗密度 の低下 が遅 らされた。
(4)技術変化仮説 セル フサー ビス形態 による ス ーパ ー マ ー ケ ッ トの生 鮮 食 料 品販 売 は 1970年代 にな って よ うや くチ ェー ン ・オペ レーションとして完成 した。 この ことは大規 模小売店が零細小売店の独 占 してきた領域 に 入 り込む ことを可能 に し,多数の零細小売店 か ら成 る商店街や小売市場を単一のスーパー マーケ ッ トが代替 した結果,店舗密度 は急速 に低下 した。
これ らは必ず しも相反す るものではない。また, 地域性のない技術変化である(4)を除 き,全国的な 変化 と地域 による差異のいずれが起 こるか,先験 的に予測す ることは難 しい。
3.パネル分析 (1)
まず,並河 [2001] のクロスセクション分析で 用 いた変数である,人 口増加率 とひとりあた り県 民所得を説明変数 と したパネル分析 の結果を示す (表 1)。 なお,HausmannTestのP値 が 0に近 いため,Fixed Effectモデル の結 果 のみ示 して ある。
人 口増加率の影響 は有意 な うえ符号は正であり, 一 時点 で の ク ロス セ ク シ ョン分 析 で あ る並 河
表1店舗密度の決定要因 (1958‑1997) 被説明変数 PGROW PCⅠNC 済決定係数自由度修正
式(1) DENS (60.9.15982)*1‑1‑(‑31(4..001559.E‑0E‑01.)9)*1*133 0.82 式(2) DENS 1(.873.7E‑0126)*1 0.406
括弧内はt値 *1:1%有意 書2:5%有意
E‑06は10の‑6乗を表 し,‑4.63E‑06は‑0.00000463を 示す。
日本の飲食料品店舗密度に関するパネル分析 [2001] と逆である。 また, ひ と りあた り県民所
得の符号 は並河 [2001] と同様 に負であ り,人 口 増加率 を説明変数か ら除いて も式の説明力 (決定 係数) もパ ラメータ推定値 もほとんど低下 しない。
次 に,データを前半 と後半 に分けて分析を行 う。
まず,商業統計 が2年 お きで あ った1958‑1976 年のパネルデータを用 いると,人 口増加率の影響
は有意ではないが符号 は負, ひとりあた り県民所 得 は有意,符号 は負である。 クロスセクション分 析の結果 (並河 [2001]) とは全符号 が一致 す る (表2)
。
ところが, 1976‑1997年 の後半 デ ータによ る 同種の分析では,人 口増加率 の符号が正であ り, 1%有意である (表3)。パネル分析の枠組 の もと では,人 口増加率 と店舗密度 の関係 は近年 にな っ て逆転 した と考え られる。地域ダ ミーと時点ダ ミー を置 いたパネル分析で,過去 に店舗数が多か った ことの影響が もっぱ ら地域 ダ ミーに吸収 されると すれば, 1970年代以降 の人 口 (社会) 減 が店舗 密度を下 げるとい う表3の含意 は,地方 ほど買 い 物が不便 になるとい う直観 に適 う。 む しろ1970 年代 まで,人 口急増地域の店舗がなかなか増えず, 店舗密度が相対的に低か ったことのほうが説明に
表2店舗密度の決定要因 (1958‑1976)
被説明変数 PGROW PCⅠNC 済決定係自由度修正数
式(4) DENS (‑1‑0.0.548867) ‑2‑2((‑65..3.6455.98E‑0E‑009)0)*1*441 0.807 式(5) DENS ‑1(‑4.2.33E‑0124)*1 0.794
括弧 内はl値 *1:1%有意 *2:5%有意
表3店舗密度の決定要因(1976‑1997)
被説明変数 PGROW PCⅠNC 済決定係自由度修正数
式(7) DENS (40.1.31177)*1 ‑1‑1((‑2‑3..579397E‑0,E‑05.05))**1313 0.914 式(8) DENS (118.,612)*1 0.765
括弧 内はE値 *1:1%有意 半2:5%有意
字数を要 す るで あろ う。 この点 につ いて は並河 [2000] で検討 したので詳説 しない。
また, この変数 のセ ッ トでは, ひとりあた り県 民所得 の符号がマイナスであることを強調 してお く。 このことは,最近 において店舗密度 の低 い県 が埼玉 ・千葉 な ど大都市圏を構成す る県 (東京 ・ 大阪な ど大都市圏の中心 はそれほど低 くない)で あることと,見かけ上 よ く対応す る。 ところが次 節 に示す ように,変数のセ ッ トを変え ると, まっ た く異な った姿が浮かび上が って くる。
4.パネル分析(2)
松井 [2001] は,飲食料品店 に限 らない小売店 全体 の店舗密度 について都道府県 レベルのパネル 分析 を行 い, ひとりあた り県民所得 をコン トロー ル してなお, ひとりあた り乗用車数が高 い説 明力 を持つ ことを示 した。 また, この変数を加えた場 令, ひとりあた り県民所得 の符号 は並河 [2000]
とは逆 に,正 になることを示 した。
この変数がモデルの説明力 に与 える影響 は大 き く, 1960年代か ら90年代 にわた って有意 な説 明 力を与 え続 けるだけでな く,式全体 の決定係数 も 大 き く上昇す る。 この節ではこの変数を取 り入れ た分析を行 う。 ただ し1958年 に関す る乗 用車登 録関係の資料が見つか らなか ったため, この節以 降では1960年以降のデータのみを用 いている。
また,長期間のデータをプール したことによっ て各変数が強 い トレン ドを持 っていることの影響 を緩和す るため,松井 [2001] にな らって トレン
ド変数YEARを説明変数 に導入 す る。 これ は各 年次 (西暦) の下2桁 を取 った ものである。
店舗密度 とい う被説明変数 は人 口を分母 に持つ ので,説明変数 に人 口で除 した変数 とそ うでない 変数が混在す る場合 には,誘導形を用 いることが 適切であ るよ うに思 われ る。 ここで は店舗 密度 (ひとりあた り飲食料品小売商店数), ひとりあた り県民所得, ひとりあた り乗用車数のそれぞれを 人 口で割 ることをやめ,各都道府県の飲食料品小 売店舗数 (SN)を被説明変数,県民所得 (INC), 乗用車数 (SHARYO), トレン ド変数 (YEAR)
を説 明変 数 と した。
また,乗用車数 と県民所得 は この間右肩上 が り で推移 してお り, 多重共線性 を持 って い る ことが 疑 われ る。 そ こで乗用車数 を県民所得 と (各年度, 各県 の)人 口増加率 で回帰 し, その推定 値 を乗用 車 数 の代 わ りに用 いる操作変数法 を取 った。 ここ で は操作変数法 を取 った結果 のみを示す が,操作 変数法 を取 らな い場 合, 1976年 以 降 の み を プ ー ル した, 式a2)にあた るデータセ ッ トで は県民所得 INCの符号 が マ イ ナ ス とな り, 全 デ ー タを プー ル した式吐0)の場合,県民所得 は有意性 を失 う (義 4)
。
先 に述 べ た よ うに,松井 [2001] と同様 に乗用 車 数 を説 明変数に含 め ることで,式 の説 明力 は表
86
1‑3に比べ きわめて高 くな る。 と ころが, ひ と りあた り乗用車数 を加 えて,松井 [2001] が推定 対象 と しなか った時期 も含 めて いろいろな時点 で クロスセ ク シ ョン分析 を行 うと, ひ と りあた り乗 用車数 は多 くの時点 で有意 で はあ るのだが, その 符号 は途 中で逆転 す る。 以 下 に, 1960年, 1976 年, 1997年 にお け る ク ロス セ ク シ ョン分 析 の結 果 を示す。
この よ うに,近年 の クロスセ クシ ョンデータを 取 ると,乗 用車数 の符号 はむ しろ正 で あ り,年度
によ っては有意性す ら持っ。
各変数 を人 口で除す るか ど うか は,理論 的 には 結果 に差異 を もた らす はず はないのだが,実 際 に 各変 数 を人 口で除 して み る と (表6), 式 全 体 の 表4 乗用車保有台数を加えた小売店舗数の決定式
サンプル 被説明変数 ⅠNC SHARYO YEAR 済決定係数自由度修正
‑0.380 45.9 (‑5.884)*l (7.623)* 1
‑0.186 4.64 (‑4.038)*1 (0.325)
‑0.0281 ‑142 式uO) 1960‑97 SN .
式(ll) 1960‑76 SN
括弧内はt値 *1:1%有意 *2:5%有意
表5 クロスセクションデータにおける乗用車数の説明力 (1)
サンプル 被説明変数 定 数 項 ⅠNC SHARYO 済決定係数自由度修正 式43) 1960 SN 4388 4.(7183E‑0.1)*Ⅰ2 ‑2(‑5.89.7E‑◆3)*101 0.948 式OA) 1976 SN 4575 2.(78.00E‑08)*13 7.(72.00E‑02)*23 0.956 式仕5) 1997 SN 3155 7(.819.0E‑056)*Ⅰ4 1.3(13E‑0.258)3 0.945
括弧内はt値 *1:1%有意 書2:5%有意
表6 クロスセクションデータにおける乗用車数の説明力(2)
サンプル 被説明変数 定 数 項 ⅠNCPC SHARYOPC .自由度修正済決定係数 式86) 1960 DENS 8.91 ‑1(‑1.26.E‑01985) 2(.7‑05E‑0.421)2 0,165 式0̲7) 1976 DENS 13.3 ‑4(‑6.82.5E‑091)*'3 ‑5(‑.415,E‑0172)3 0.490 式0.8) 1997 DENS 9.59 ‑1(‑6.53.5E‑022)*13 ‑1(‑0.20.E‑0688)3 0.474
括弧内はt値 *l:1%有意 事2:5%有意
日本の飲食料品店舗密度に関するパネル分析 説明力 は大 き く低下 し, ひとりあた り乗用車数 は
衰 5と係数の符号が逆 にな った うえ有意性 を持た ない。 なお, PCのつ いた変数 はひ と りあ た り (percapita)を意味 し, 店舗数 を人 口で割 った 変数 は店舗密度の意味でDENSと表記 して い る。
トレン ドを持つ時系列データを使 って回帰分析 を行 った場合, クロスセクシ ョン分析 に比べて決 定係数が高 くなる傾向があることは広 く知 られて いる。 おそ らく,都道府県間に大 きな人 口差 のあ ることが, これに似た理 由で表5の決定係数や各 変数 の説明力を引き上 げているのであろう。
いずれにせよ, (ひとりあた り) 乗用車数 は ク ロスセクション分析ではパネル分析 ほど明確 で安 定 した効果を持たない。 この ことは, この変数の 説明力が地域差 よ りも,時系列的な変化か ら来て いることを示唆す る。次節ではこの点を検討する。
5.乗用車数,県民所得,小売店舗数
1960年のデータで見 ると, ひ と りあた り乗用 車数が大 きいのは明 らかに大都市を擁す る都府県 である。 ところが この傾 向は急速 に逆転 し, 1980 年代 に入 るころには逆 に東京 ・大阪は小 さいほう の筆頭 にな って しまう。今 回用 いたデータの両端 である1960年 と1997年 について,上 位 ・下位5 都道府県を表7に示 した。 1960年 と各年次 の数 字が どのように相関す るか商業統計調査の実施 さ れた年 に限 って順 々に調 べて ゆ くと, 1960年 と の相関係数が初 めて0.3を下 回 るの は1972年,
表7 ひとりあたり乗用車数 上位5県 ・下位5県 上位5県 下位5県 1960年 1東 京 1秋 田
2大 阪 2 山 形 3神奈川 3岩 手 4 愛 知 4 新 潟 5京 都 5 島 根 1997年 1群 馬 1東 京 2栃 木 2大 阪 3愛 知 3神奈川 4 茨 城 4 京 都 5富 山 5長 崎
負の相関が見 られるのは1976年 で, 1997年 デー タと1960年 データの相関は‑0.50とな っている。
大都市を擁す る都道府県 のひとりあた り乗用車 数が相対的に低下す る傾 向には,愛知県 という目 立 った例外があるが, これは愛知県が トヨタの本 拠地であること,相対的に道路が整 っていること な どか ら説明できよう。
並河 [2000] で論 じたように,人 口の社会的移 動 と店舗数の変化が比例的でなか ったことか ら, 1980年代初頭の飲食料 品店舗密度 は都市部 で低 下 したのに対 し,地方で高 いままとどまった。 ま た,その後は全国的に店舗密度の急速な低下があっ た。 この時系列的な店舗密度 の変化 は, ひとりあ た り乗用車数の変化パ ター ンによ く似ている。
またパネル分析である以上,地域要因は地域 ダ ミーを置 くことで処理 されるが,分析期間内に人 口の社会 的移動があ り, それに伴 って各地域での 店舗増減があった場合, その変化 は地域 ダ ミーで は説明できず,他 の変数 の動 きで説明 され ること になる。経済成長期 には明 らかに県民所得の高い 地域への人 口移動があった し,近年 の高齢化 ・少 子化 もまた,多年 にわた って若 い世代が都市部 に 移動 し続 けた結果,地方 においてより深刻である。
こう考えれば,パネル分析 において県民所得がプ ラスの符号を持 って地域差 を説明 し,乗用車数が マイナスの符号 を持 って時系列的な変化を説明す ることは理解できる。
最初 に提示 した仮説 に沿 って再整理すれば,堤 民所得がプラスの地域的効果を持つ ことは経済発 展仮説/市場 スラ ック仮説 によ くフイッ トす る。
履歴効果仮説 に従えば,店舗密度が全般 的に下落 す る時期 には, もともと店舗密度の低 い大都市圏 は市場 スラ ック縮小の影響を受 けに くいので,県 民所得 と店舗密度の間にはむ しろマイナスの関係 が見 られ るはずであるが,表4のパネル分析では このような関係 は見 られない。 また, 日本 の伝統 的食生活が都市圏において早 く崩れた ことを この 説明変数が代表 しているとした ら,特 に高度成長 期 において,県民所得 と店舗密度 にはマイナスの 関係が生 まれ ると考えるのが 自然であろうが,義 4ではそのような関係 は見 られない。
109 これに対 し,乗用車数が持つマイナスの効果は,
日本の消費者が買 い物手段 として 自動車 を受 け入 れていったことを示 していると思われ, 日本的消 費習慣仮説/ 日本的消費者仮説か ら説明できる。
他 の仮説 は,所得要因をコン トロール した上 で, なお乗用車数が店舗密度 と相関を持つ ことを説明 できない。 ただ前節で述べたように, この変数 は クロスセクシ ョン分析では符号が不安定であ り, 解釈 には注意が必要である。
我 々の分析 によれば,都市部 はひとりあた り乗 用車数が比較的少な く,所得を コン トロール した 後では店舗密度 は相対的に高 い。 この ことは 「乗 用車数が少な く,都市部人 口比率が高 い国は店舗 密度が高 い」 とい うFlath&Nariu [1996] の結 果 と整合的である。 これに対 し,「都市部 (高人 口 密度地域)人 口比率が高い と店舗密度 (ただ し分母 は人 口でな く世帯数)は低 くな る」 とい うFlath [1986] の結果 は逆であるように思えるが,Flath の用 いたデータは1985年商業統計 を 中心 と して お り比較的古 い (モータ リゼーシ ョンの影響が小 さい) こと,単身者世帯 も含む一般世帯 の数字 を 用 いたため,世帯 あた り人数の少ない東京の店舗 密度が低 めに出ること, そ しておそ らく最大の理 由として,所得水準が説明変数 に入 っていないこ とが このような差異を もた らしていると思われる。
6.お わ り に
この論文では経済環境の変化が店舗密度 に与 え る影響 について分析 してきたが,何が 「環境」 と いう分析外の与件 として扱えるのかには, なお詰 めきれない点がある。すなわち,相関関係が確認 された と して も,真 の因果関係 は予想 された もの の逆であるか もしれず, この点 は注意が必要であ る。
現在,大都市圏において乗用車 を保有す るには 駐車場代な どのコス トが高 く,交通渋滞や都市中 心部での駐車場不足で, 自家用車で移動す るデメ リッ トも大 きい。 また,公共交通機関が発達 して いることで, 自家用車以外 の移動手段 も豊富であ る。
88
1997年 の県民所得 当た り乗用車保有台数 を見 ると,低 い順 に東京,大阪,神奈川 と続 き, さい たま市を政令指定都市 に準 じて扱 うとすれば,最 も低 い7都府県はすべて政令指定都市を持つ。逆 に言えば,県民所得の割 に乗用車が普及 している のは大都市 を持たない県である, という傾向が見 て取れる。
この研究では乗用車数か ら店舗密度を説明す る 考 え方を取 ったが,地方では遠方でないと買 い物 が済 ませ られず,公共交通機関は発達 しておらず,
自家用車がないと不便で仕方がないか ら無理を し てで も自家用車 を持つ, という因果関係 もまた考 え られるので あ る。 これ は連立方 程式 モデルや VARモデルを組 まず に1本の式 だ けで分析 す る ことの限界であ り, よ り総合性の高 い研究が待た れ るところである。
変数一覧 とデータソース
本文 にも記載 した通 り, デ ータは1958年 か ら 1976年 まで2年 おき,それ以降1997年 まで3年 おきのパネルデータであ り,全期 間について沖縄 県を除外 した都道府県 デー タで あ る。 ただ し, 1958年 に関す る乗用車登録 関係 の資料 が見 つか らなか ったため,第4節以 降で は1960年以 降 の データのみを用いている。
POP 人 口(千人)0
「国勢調査」および 「推計人 口」 による。
SN 飲食料品小売業 の商店数。
「商業統計」 による。
SHARYO 乗用車登録台数。
運輸省 「陸運統計要覧」 による。
この場合の 「乗用車」 はタクシーな どの営業用 乗用車 を含み,普通車 ・小型車 ・軽乗用車 の合計 である。年次の古 いデータにおいては営業用乗用 車 の比率が高 くなる。例え ば1960年度末 に, 全 国で軽 自動車 を除き440417台 の乗用車 が登録 さ れていたが, うち17%にあた る76641台 は営業 用である。企業 の保有す る乗用車 と個人 の保有す る乗用車 をこの統計上区別す ることは出来ない。
また,登録台数 は年度末現在のものであるため, 他のデータソースとの調整上年度 をず らし,例え
日本の飲食料 品店舗密度 に関す るパネル分析 ば1960年のデータとしては1959年度末の ものを
用いた。
INC 県民所得 (百万 円)0
経済企画庁 「県民経済統計年報」のほか,年次 の古いものについては,経済企画庁が遡及統計 と
して発表 したデータを用いた。
DENS 店舗密度。
DENS‑SN/POP
PCINC ひとりあた り県民所得。
PCINC‑INC/POP PGROW 人 口増加率 (%)。
POPの前年比増加率。 今 回のパ ネルデータは 2‑3年おきに取 られて いるが, これ とは別 に前 年の人 口データを用意 し,前年比増加率を求めた。
YEAR トレン ド変数。
西暦年次の下2桁を用いた。
SHARYOPC
ひとりあた り乗用車登録台数。
SHARYOPC‑SHARYO/POP
参照文献
FlathD.[1990],"WhyAreThereSoManyRetail StoresinJapan?",JapanandtheWorldEconl o〝‡γ,Vol.2,pp.365‑386
FlathD.&T.Nariu[1996],"IsJapan'SRetailSector Truly Distinctive?",Joumalof ComPaylatiue Economics,Vol.23,pp.181‑191
向山雅夫 [1989]「フォー ド効果 と小売商業構造変動」, 流通科学大学論集,第 1巻第 1号,41‑59頁 並河 永 [2000]「日本の飲食料 品小売 業 の零細性 と
その地域間格差」,『社会科学論集』 (埼玉 大 学経 済学会),第99・100合併号,113‑130頁 並河 永 [2001]「食料 品 の消 費習 慣 と店 舗 密度」,
『社会科学論集』 (埼玉大学経済学会),第103号, 23‑34貢
松井健二 [2001]「小売店舗密度の効率 性 に関す る地 域 間パネル分析」,未定稿 (日本経済学会2001年 度春季大会発表原稿)
A Panel Data Analysis on the Density of Japanese Food Retailers
NAMIKAWA Hisashi
We tried regression analyses on a prefectural panel dataset from 1960 to 1997, explaining the density (per capita number of stores) of grocery, perishable food stores and supermarkets mainly from income and the number of registered cars.
These two independent variables explains the density highly successfully, but the fitnesses are much worse in cross-section analyses using only the data of an year; especially, the number of cars has different sign of coefficients between earlier period and later. In 1960s per capita passen- ger cars were more in urban prefectures, but it reversed recently. This fact suggests per capita income explains (the change of) cross-section difference, and per capita passenger cars represents long-term change between urban and rural area.
Keywords:Distribution Systems, Retailing, Panel Data
90