現代企業のグローバル化に 関する検討(㈼)
グローバル企業:その推論
―― ――
川 上 義 明
目次 はじめに
1.社会・経済のグローバル化の進展
2.多国籍企業の延長線上で捉えたグローバル企業 3.グローバル企業の規定1 ――経営戦略論からの推論――
4.グローバル企業の規定2 ――世界市場同質化論からの推論――
むすび
は じ め に
前稿では,企業のグローバル化およびグローバル企業を検討する言わば準 備的作業として,現代企業を多国籍企業として捉えるアプローチを概観し た 。諸企業の中から一定の要件を満たす企業を多国籍企業として捉え1) ――
あらゆる企業の中から一断片を捉えると言い換えてもよいのだが――,その 特徴を捉えようとするのが多国籍企業論的アプローチである。
あらゆる企業の中から一断片を捉えるアプローチであるから,このアプロ ーチでは,今日において特徴的な「グローバル化」と企業との関連を捉える 場合,一定の限界がみられるといってよい。
川上義明[2003年b]。 1)
もちろんそうしたアプローチで研究上意味がないというわけではない。そ うした多国籍企業論的アプローチではあるが,なかには発展段階論的なアプ ローチもみられ,やがてグローバル企業論化していく過程がみてとれた。
小稿では,「グローバル化」の基礎的研究過程――一般的な意味でのグロ ーバル化という視点――に触れた上で,社会・経済のグローバル化を検討し てみよう。
その上で,企業のグローバル化を一般的にはどのように捉えればよいのか,
どのような筋道を描き,辿っていけばよいのか,検討してみることにしよう。
1.社会・経済のグローバル化の進展 グローバル化という用語
1
1980年代になると日本では,経済,産業はいうまでもなく,大学,自治体 といった組織体で,文化,芸術を含めた物的・人的交流を通して外国との交 流が密接になった。「国際化」(internationalization)という用語が頻繁に用い られるようになった。
国境を越えた企業の経営活動,現地法人(現地子会社・関係会社)の増大 といった企業の国際化,国際経営の展開がさかんになった。こうした現象を みて,各国・地域の実務家や研究者,マスコミ関係者が調査研究や取材にあ たった。企業の国際化,国際的な経営の展開過程でどのような変化が生じた かについて様々な概念や用語が生まれた。前稿で検討したように,当初用い られた「国際企業」や「多国籍企業」といった用語,概念に加えて,「超国 家企業」や「世界企業」といった用語・概念がみられるようになった 。2)
そうした用語に加えて,「グローバル化」(globalization)という用語がよ く用いられるようになった。じつに様々な領域で「グローバル化」という用
川上義明[2003年b],124ページ以下。
2)
語が「国際化」という用語以上によく用いられるようになっている(補注)。
(補注)globe という言葉は,「1.地球,2.(惑星,太陽といった)天体,3.地球儀
;天体儀,4.球体」のことをさす。動詞では「1.球形にする,2.球形になる」
という意味がある。球や球体を意味したラテン語の globus が語源である――小学館
『ランダムハウス英和大辞典』。
形容詞の global には,「1.全世界の,地球上の,世界的な,全世界にわたる,世 界的規模の,2.範囲の広い,全面的な,3.球状の,球形の,4.地球儀の;天球 儀の」といった意味がある――同。
この globe に ize をつけると(globalize),「1.世界化する。2.世界的規模に広げ る」という意味になる。これの名詞形が globalization(グローバル化)である――同。
したがって,最も簡単には globalization は,「(…の)世界化」を意味し,やや詳し くは,「(…が)地球的規模に拡大すること」「(…が)地球的規模に拡大していってい ること」を意味するといってよいだろう。
グローバル化という視点 2
第二次世界大戦後においては東西冷戦構造が構築され,世界経済とはいっ てもいわゆる西側の諸国・地域のそれと東側の諸国・地域のそれという2つ の世界経済,東西両陣営からなる社会・経済システムが構築された。
ところが,1989年11月にベルリンの壁が崩壊し,翌90年10月には東西ドイ ツの統一がみられ,91年12月にはソ連邦が解体し,東西冷戦構造は崩壊した。
中国では1992年10月,共産党第14回大会において経済の市場化を目指す路線
(社会主義市場経済)が確定した。東欧でも市場経済化が進み,またアジア ではベトナムのドイモイ(刷新)など,市場経済化が進んだ 。3)
90年代に入って,従来とは比較にならないほど各国・地域間でサービス,
ヒト,モノ,カネ,情報の相互移動が進むようになった。交通,通信の発達 と相俟って,いっそうそれは進んでいっている。
しかも,制度(市場経済や民主主義,企業組織,金融システム,コンピュ
川上義明[2001年],128〜129ページ。
3)
ータの OS,大学教育といった)の国境を越えた移動も進んでいる 。すなわ4) ち,社会・経済のグローバル化が進んでる。
いま,国立情報学研究所(NACSIS:旧学術情報センター)の検索目録か らタイトルに㈰「Globalization」や㈪「グローバリゼーション」,㈫「グロー バル化」がついた文献を検索した結果を出版年別に整理したのが,次の図表 1−1である。
これから,1980年代から2003年11月15日までに,タイトルに㈰「Globaliza- tion」がついた英語文献が1,007点,㈪「グローバリゼーション」がついた 日本語文献が228点(うち邦訳文献が22点),㈫「グローバル化」がついた日 本語文献が236点(うち邦訳文献が18点)で,㈰㈪㈫を合せればじつに1,471 点(うち邦訳文献が40点)もの文献がみられる。
1980年代も後半になってタイトルに㈰㈪㈫がついた文献がみられるように なり,90年代後半から2000年代にかけて多数の英文文献と和文文献がみられ るようになったことが分かる。さらに,㈰㈪㈫がついた論文は膨大な数にの ぼるであろう。
様々な研究分野において「グローバル化」に関する論議が,近年,いよい よ高まってきたとみてよいであろう。
経済のグローバル化 3
今日において,「経済のグローバル化」という用語は,「市民権」を得,定 着したといってよいであろう。それでは,経済の領域においてグローバル化 はどのように取り上げられるようになったであろうか。
さて,先にみたように東西冷戦構造が崩壊し,また社会主義国でも「市場経 済」を目指すようになっていった。従来の社会主義諸国が新興市場(newly-
岩本武和ほか[2001年],iページ。
4)
emerging market)として市場経済に参入してきた。もう1点は情報技術(IT)
と交通の格段の進歩によって地理的距離が短くなり,領土的意味合いでの国 境という垣根が格段に低くなってきた。
図表1−1 タイトルに「Globalization」「グローバリゼーション」
「グローバル化」という用語がついた文献
(単位:点数)
年
英書
「Globalization」
という用語
和書
「グロー バリゼー ション」という用語
和書
「グローバル化」
という用語
計
1980 − − −
1981 − − −
1982 − − −
1983 − − −
1984 − − −
1985 − − −
1986 − 1 − 1
1987 − 2( 1) − 2( 1)
1988 4 4 5 13
1989 4 4 8 16
1990 10 5 12 27
1991 7 9 13( 1) 29( 1)
1992 8 6 8 22
1993 14 3 8 25
1994 17 3( 1) 9 29( 1)
1995 29 7 4 40
1996 50 8 10 68
1997 69 15( 2) 6 90( 2)
1998 87 14( 2) 14( 1) 115( 3)
1999 98 28( 3) 20( 2) 146( 5)
2000 151 26( 4) 27 204( 4)
2001 169 39( 3) 24( 2) 232( 5)
2002 181 39( 4) 33( 7) 253(11)
2003 109 15( 2) 35( 5) 159( 7)
合計 1,007 228(22) 236(18) 1,471(40)
(注)( )内は邦訳書の点数。
(資料)国立情報学研究所(NACSIS:旧学術情報センター)の検索目録(2003年11月15日現在)
より筆者が集計,作成。
岩本武和教授たちの見方を参考にすれば,「経済のグローバル化とは,国 境を越えた経済活動の飛躍的拡大,国・地域を越えた経済的相互依存の深化,
企業経営活動の相互浸透といった現象をさす」といってよいであろう 。つ5) まり,国境という垣根が格段に低くなり,国境が重要な意味をもった国・地 域の集りであったこれまでの各国経済が,「単一経済」,つまり「地球経済」
に移行しつつあるのである。
こうして,90年代に入って,市場経済システムのもとで1つの世界経済が みられるようになった。従来とは比較にならないほど各国・地域間でサービ ス,ヒト,モノ,カネ,情報・技術の相互移動が進むようになっている。交 通,通信の発達と相俟って,いっそうそれは進むようになった。すなわち,
経済のグローバル化が進んでいった。
「経済のグローバル化」という用語が「市民権」を得るや今度は,グロー バル化という視点から(世界)経済を捉え直すアプローチもみられるように なった。研究者や実務家間で経済のグローバル化という視点からの研究が多 くなったのである(なお,先の図表2−1の文献の中に経済に関するかなり の数の研究がみられる)。
例えば,『通商白書』では,経済のグローバル化とは「㈰距離のある地点 間の経済的相互作用のコスト変化とそうした変化が経済活動の地理的な分布 の変化に与える影響,㈪モノ・カネ・ヒト・情報の移動の活発化」であると 規定している 。このように「経済のグローバル化」を規定すれば,経済の6) グローバル化はじつは過去2世紀近くにわたってみられるということにな
る7)(補注)。
岩本武和ほか[2001年],172ページも参照。
5)
経済産業省[2002年],3ページ。
6)
経済産業省[2002年],5ページ。
7)
(補注)『通商白書』では,これまでの経済のグローバル化を「第1期」(1820年代〜第一 次世界大戦の前までの約1世紀にわたる「第一次グローバル化の時代」「第一次グロー バル化ブーム」),「第2期」(戦間期を含む30年あまりの「グローバル化の後退期」),
「第3期」(第二次世界大戦後現在に至る「第二次グローバル化の時代」「第二次グロ ーバル化ブーム」)の3段階に区分できるとしている――経済産業省[2002年],2ペ ージおよび5ページ。
㈰第1次グローバル化の時代を押し進めたのは,輸送費の劇的な低下とイギリスを はじめとする各国による自由貿易体制の確立と維持がもたらした関税障壁の低下等で あった。
㈪グローバル化の衰退期には,移民や貿易・資本の移動を制限するための種々の障 壁が築かれ,経済のブロック化が進展した。
㈫第二次グローバ化の時代を押し進めているのは,交通・通信手段の飛躍的発展と 今日の多角的通商システムの発展や様々な経済的連携の動きへとつながる制度面にお ける進歩である。航空機や船舶による輸送手段の発達や世界のすみずみまで行き渡り つつある鉄道網・通信網,IT 技術の飛躍的発展は,近年の輸送手段の多様化,通信 コストの低下を押し進めている。また第2期の保護主義・ブロック経済化の背景には 国際通商・経済体制の欠如があったとの反省から,戦後それらシステムの構築へ向け た尽力がなされた。これらにより,第二次グローバ化の時代における財・サービス貿 易額や対外直接投資額は急速に伸長してきた――経済産業省[2002年],2ページ。
無論,こういった19世紀前半にまで遡る捉え方が(あるいはさらにそれ以 上遡る論者がいるかもしれないが)誤りである,あるいは意味がないという わけではない。とはいえ,現代の企業を考察しようとする場合,やはり東西 冷戦構造が崩壊し,貿易障壁の撤廃,投資規制の撤廃など制度面で言わば変 改がみられ,国境という垣根が一段と低くなって以降,すなわち1990年代以 降を「経済のグローバル化」と捉える方が適切であると考えられるのである。
次に,こうした「経済のグローバル化」が進展していくなかでの「企業の グローバル化」を考察してみよう。
2.多国籍企業の延長線上で捉えたグローバル企業
上でみたように,今日では,社会・経済領域でグローバル化が進展してい る。それとも相俟って「企業のグローバル化」がさらに展開している。そう した発展の度合,状態,過程が今日では企業のグローバル化という用語の中
に,また企業のグローバル化を静態的にみたもの,計測したものが「グロー バリティ」という用語の中に込められている 。8)
かつてカナダ産業構造特別委員会(ワトキンス委員会)ではグローバル企 業を多国籍企業が発展したものとして,多国籍企業の延長線上において捉え た。すなわち,そこでは,「国境・地域を越えて経営活動を行っている企業」
を国籍ないしは企業の準拠している法律の観点から3つの発展段階に区分し,
図表2−1 ワトキンス委員会の規定
外国でも事業活動を 行う一国内企業
多国籍企業 グローバル 企業 1国・地域内で経営活動
を行っている企業
国境・地域を越えて経営 活動を行っている企業 企業
(資料)著者作成
例えば,関下 稔教授は,グローバル化と関連させて「グローバリティ」という 8)
用語を用いている。すなわち,「最近ではグローバル化の度合を表す言葉として,
グローバリティという言葉も使われ出している。グローバリティとはグローバル化 の内容であり,したがって,その進展度合を表現しているとも理解できる。つまり グローバル化が状態や過程を表している動態的な言葉だとすれば,グローバリティ はそれをある時点で止めて,静態的にみたもの,あるいは測ったものだということ もできよう。」――関下 稔[2002年],31ページ。
捉えている(図表2−1)。9)
㈰対外事業を営む一国内企業(㈰National Corporation with Foreign Operation:
一国規模の企業),㈪多国籍企業(現地の法律および政策を重視),㈫グロー バル企業(いずれの国の政策からも事実上影響を受けない。ある程度まで企 業の能率の観点からのみ意思決定を行うことができる)である。
3.グローバル企業の規定1 ――経営戦略論からの推論――
3つの「less 化」
1
江夏健一教授は,(企業の)グローバル化とは端的に言えば,国境(border), 境界(boundary),規制(barrier)といったこれまで企業活動を制約する要因 として存在した「3つの less 化」現象(borderless,boundless,barrierless)を 総称したものと言うことができるといっている。すなわち,企業のグローバ ル化とは,国際ビジネスに不可欠なヒト・モノ・カネ・技術・スキルなどの 経営資源の国境を越えた相互移転の自由化,産業間の垣根の撤廃あるいは規 制(障壁)の緩和を意味する。これにともなって企業はその経営基盤を一国 あるいは一地域に限定しない。企業にとって地球的規模での広がりと多様性 をつねに視座にすえた戦略展開が求められる 。10)
では,何故に企業のグローバル化が生じたのであろうか。
江夏教授がみるところ,それは,1つには情報通信技術をはじめとするさ まざまな技術革新が起きたからである。いまや企業は,一国ないしは特定の 地域のみをその活動基盤とするようであっては,成長はおろか,その存続
(サバイバル)すら危ぶまれる。ライバル企業同士が戦略的同盟や戦略的提 携を結ぶなど,さまざまな手練手管の駆使をも含めた戦略的意図の立案とそ
Task Force on the Structure of Canadian Industry[1968],p.33. 邦訳書,24ページ。
9)
江夏健一「クローバリゼーション(グローバル化)」の項,二神恭一編著『ビジ 10)
ネス・経営学辞典』,中央経済社,1997年,140〜141ページ。
の実施・堅持が求められている 。11)
江夏教授はこのように「企業のグローバル化」を理解している。こうした 論脈からみれば,われわれは,このような経営戦略をとる企業が「グローバ ル企業」であると理解することができるであろう。
グローバル経営戦略 2
先にみたようにワトソン委員会の場合もそうであったが,グローバル企業 は,一定の発展段階において捉えられることが多い。グローバル化への発展 段階はさまざまな切り口で分析されているが,次いでポーター(Michael E.
Porter)がいう「グローバル戦略」によりながら検討してみよう。
ポーターは企業における「活動の配置」(Configuration of Activities)
と「活動の調整」(Coordination of Activities)によって諸企業の海外戦略を 分類する。「活動の配置」とは,海外拠点がどのように配置されているかと いうことである。つまり,海外拠点が集中しているか分散しているかという ことである。「活動の調整」とは,本社と海外拠点,あるいは各海外拠点の 間で行われる開発,生産,販売などに関する調整がどの程度行われているか ということである。より高い程度行われているか,さほどではなく低いかと いうことである。
ポーター自身は,明瞭にそうしているわけではないが,理解を容易にする ために,いま「活動の配置」と「活動の調整」というマトリクスから4つの セルを作ってみよう(図表3−1)。
㈰「活動の配置」が集中し,「活動の調整」が低い程度行われている「ド メスティック戦略」(domestic strategy)は,企業が国内生産をし,海外へと 輸出する戦略であり,国内志向の戦略といえよう。
江夏健一「クローバリゼーション(グローバル化)」の項,二神恭一編著『ビジ 11)
ネス・経営学辞典』,中央経済社,1997年,141ページ。
グローバル戦略(G)
民間航空機,テレビ,半導体,複 写機,自動車,腕時計,アルミナ
・インゴット,船舶用エンジンオ イル,高価ビジネス用ホテル
単純グローバル戦略(S)
1960〜70年代の日本企業(トヨタ 自動車,キャノンその他)
マルチ・ドメスティック戦略(M)
卸売,小売,消費者用包装品,保 険,消費者金融,苛性薬品,アル ミ半製品,自動車用エンジンオイ ル
ドメスティック戦略(D)
輸出中心 高
低 活 動 の 調 整
分散 集中
活 動 の 配 置
注1 「活動の配置」(Configuration of Activities)とはポーターがいう価値連鎖内の各活動が世界 のどの場所で行われ,その場所の数はどれくらいかということ。
「集中」(concentrated)とは(例えば R&D ラボや大きな工場といったように),1ヵ所で活 動を行い,そこから世界に製品やサービスを供給すること。「分散」(dispersed)とは,各国 で活動を行うこと。極端な場合には,各国ごとにそれぞれ完全な価値連鎖をもつことがある。
「活動の調整」(Coordination of Activities)とは,国別で行われる同種類の活動が互いにど 2
れくらい調整されているかということ。例えば日米独にそれぞれ3工場がある場合に,これ らの工場で諸活動がどれくらい互いに関連づいているかということ。
調整の選択肢は,ゼロから多数まである。例えば,ある企業が3工場で製造している場合,
各工場に完全な自律性を与えて,製造工程も部品数も別々ということもある。
この場合とは別に,各工場は情報システムも,製造工程も,部品も仕様もみな同一で,厳 しく調整される。
(資料)Porter[1986],pp.23−25(邦訳書,30〜31ページ),より筆者作成。
㈪「活動の配置」が集中し,「活動の調整」が高い程度行われている「単 純グローバル戦略」(simple global strategy)は,企業が海外に数少ない拠点 を設けるものの,輸出も多く,国内と海外で標準化された製品・サービスを 生産し,販売する戦略であり,言わば本社志向の戦略である。
図表3−1 グローバル戦略の4類型
㈫「活動の配置」が分散し,「活動の調整」が低い程度行われている「マ ルチ・ドメスティック戦略」(multi-domestic strategy)は,企業が海外に数多 くの拠点を設け,生産から販売まで現地で行い,言わば現地化する戦略であ り,現地志向の戦略である。
㈬「活動の配置」が分散し,「活動の調整」が高い程度行われている「グ ローバル戦略」(global strategy)とは,企業が海外に数多くの拠点を設け,
国際分業によってグローバルな規模の経済を実現する戦略であり,まさに世 界志向の戦略と考えられよう 。12)
一般的に言えば,「活動の配置」が集中した,そして「活動の調整」が低 い段階(ドメスティック戦略)からしだいにグローバル戦略の段階に発展し ていくことが考えられるであろう。すなわち,図表3−1のセルで言えば
(モデル的には),D→S→M→G という発展過程である(補注)。
(補注)もちろん,企業における「活動の配置」と「活動の調整」といってもそれは,製 造(部品生産,最終組立),販売・マーケティング(広告,販促),サービス(拠点を どこにおくか),R&D(どこに何ヵ所おくか),調達(購入拠点をどこに何ヵ所おく か)など各職能部門によってその程度は異なるであろう。
こうした論脈において,われわれは㈰「ドメスティック戦略」をとる企業 を「ドメスティック企業」と,㈪「単純グローバル戦略」をとる企業を「単 純グローバル企業」と,㈫「マルチ・ドメスティック戦略」をとる企業を
「マルチ・ドメスティック企業」と,㈬「グローバル戦略」をとる企業を
「グローバル企業」と呼んでもよいであろう。
松村洋平[2001年],158〜159ページも参照。
12)
4.グローバル企業の規定2 ――世界市場同質化論からの推論――
グローバル・マーケティング 1
マーケティング論の視点から角松正雄教授は,寡占企業の市場問題対応策 として,国境を越えて遂行されるすべての形態のマーケティングを国際マー ケティングと総称しているとし,その「形態」(種類,タイプ)を次のよう にブレークダウンしている。すなわち,㈰輸出マーケティング,㈪輸入マー ケティング,㈫海外マーケティング,㈬多国籍マーケティング,㈭グローバ ル・マーケティングという諸形態である 。13)
企業がどの形態のマーケティングをとるかは,それらが当該企業に最 も大きな競争優位をもたらすかによる。
「輸出マーケティング」(および輸入マーケティング――川上)は本 国生産をベースとする輸出活動が競争優位をもたらす場合に,「海外マ ーケティング」は外国に販売子会社をもつか,あるいは生産子会社をも ち,市場への近接性が現地市場環境へのよりよき適合となり,競争優位 をもたらすと判断される場合に選択される。
「多国籍マーケティング」とは多国籍企業を主な活動主体とし,多数 の国境を同時に越えて遂行されるマーケティングである。
「グローバル・マーケティング」とは(多国籍マーケティングが伝統 的に各国市場の特異性への適応に重点をおいてきたのに対し――すなわ ち,マルチ・ドメスティック――),むしろ各国市場の同質化・均質化傾 向に対処し,世界的に標準化されたマーケティング活動を展開しようと するものである。この活動は企業が国際的巨大企業に成長,発展をとげ る過程ないしはとげた段階における,世界市場競争への対応形態である。
角松正雄「国際マーケティング」の項目,大阪市立大学経済研究所『経済学辞典』
13)
(第3版),岩波書店,1992年,435ページ。
このように多国籍企業のマーケティングとは区別して,最も発展したマー ケティング形態として,角松教授はグローバル・マーケティングという形態 を取り上げている。ここで,やや敷延することになるけれども,グローバル
・マーケティング活動とグローバルな経営活動を行っている企業を「グロー バル企業」と規定することもできるであろう。
世界市場の同質化 2
さらに同じように世界市場の同質化という視点からグローバル企業を説い ているのがレビット(Theodore Levitt)である。
レビットは,「多国籍企業とは数多くの国で経営し(operate),各国で相対 的に高いコストをかけてその製品や営業方法を現地適応化させる企業である」
とする。一方,レビットは,グローバル企業 は,あたかも世界全体(ある14) いは世界の主要な地域)を単一市場であるかのごとく取り扱うことで,どこ でも同じものを同じ方法で販売し,相対的に低コストで経営をするとする 。15)
レビットがみるところでは,世界中の人々は,世界が作り出し,販売する 最も高度な商品つまり最高の品質と信頼性をもち,価格が最も安い商品を欲 しがっている。つまり,「市場のグローバル化」(globalization of markets)
(時代)が到来しているのである16)(補注)。
(補注)レビットは,グローバル化という嵐は,標準化が進みやすい原材料やハイテク製 品や通信,旅行の大衆化によっても勢いづいていて,われわれの生活のすべての隙間 に吹き込んでいるとみる。そうした消費財として,レビットは,マクドナルド,コカ コーラ,ペプシコーラ,ギリシャ風サラダ,レブロンの化粧品,ソニーのテレビ,リ ーバイス・ジーンズなどを挙げている――Levitt[1983b],p.369. 邦訳書,432ペー ジ。
土岐 坤氏の邦訳によれば「地球企業」。 14)
Levitt[1983b],p.367.邦訳書,431ページ。
15)
Levitt[1983b],p.367.邦訳書,430ページ。
16)
多国籍企業は,海外市場の国別差異は依然として存続していると考えてい る。しかるに,グローバル企業は世界市場が多くの「あつらえ市場」(cus- tomized markets)からなるというよりも少数の「標準化市場」(standardized markets)からなるものと考えている 。17)
レビットがみるところ,現代においては標準品の大規模生産の方が,小規 模生産と比較すると一般的にコストが安い。CAD/CAM(Computer Aided Design and Computer Aided Manufacruring:コンピュータによる設計,製造)
が「あつらえ製品」(customized products)を低コストで生産できるという議 論があるが,そうした議論は基本的なポイントを見逃している 。18)
このようにレビットはいうところの多品種少量生産(品)に対して批判的 である。
というのも,もしある企業が世界を1つか2つの異なった製品市場として 扱えば,その企業が世界を3つか4つあるいは5つの製品市場として取り扱 う場合と比べて,より経済的にビジネスを行うことができるからである 。19)
筆者がみるところ,レビットは「多国籍企業が行ってきたビジネスの世界 は終わりかけている。多国籍企業も終わりかけている」 ,と言いたいので20) ある。つまりは,今日のグローバル企業は旧式の(aging)多国籍企業とま ったく対照的である。グローバル企業は,国家内や国家間の表面的な差異あ るいは慣行的な差異に適応する(adapt)よりもむしろ適切に標準化された 製品や販売方法をなんとかして全世界に適用しようとする(force)。もし,
そうした企業が低価格で,高品質かつ優れた信頼性を引っ下げてやってくれ ば,世界の顧客から歓迎されることは間違いない 。21)
このように,世界のどこででもビジネスの機会が与えられれば,グローバ
Levitt[1983b],pp.371‑372.邦訳書,437ページ。
17)
Levitt[1983b],pp.371‑372.邦訳書,437ページ。
18)
Levitt[1983b],p.372.邦訳書,437〜438ページ。
19)
Levitt[1983b],p.367.邦訳書,430〜431ページ。
20)
ル企業は,技術と「地球市場同質化」(グローバリゼーション)のベクトル をうまく結合して,多彩な戦略を展開するであろう。グローバル企業は,世 界中どこでも,同時に高品質で何らかの形で標準化された製品を,最適な低 価格で提供することで,巨大な市場と利潤を手に入れるであろう 。22)
このように世界市場の同質化という観点からグローバル企業が提示される のである 。23)
む す び
小稿では,今日においてそもそもどのような事象を指してグローバル化と いう用語が使用されるのかを示した。その上でグローバル化という概念が
「市民権」を得るや今度はこれまでの社会・経済の発展過程をこのグローバ ル化という視点から捉え直そうとする研究が一般的にも進みつつあることを 指摘した。
こうした基礎的な考察を踏まえた上で,いくつかの研究によりながら「企 業のグローバル化」と「グローバル企業」を検討した。グローバル企業は,
例えば㈰多国籍企業がさらに発展したものとして捉えられ,㈪あるいはグロ ーバルな経営戦略を展開している企業として捉えられることがあった。㈫加 えて企業規模の視点はないとはいえ,世界市場の同質化から企業のグローバ ル化ないしはグローバル企業を説くという立場があることが理解された。レ ビットにおいては,従来のタイプの多国籍企業を否定するという立場にあっ
Levitt[1983b],p.381.邦訳書,450ページ。
21)
Levitt[1983b],pp.381‑382.邦訳書,450ページ。
22)
実際,角松教授も先にみたように,「各国市場で同質化・均質化傾向がある」と 23)
いいながら,レビットの立論に対しては次のように批判される。「レビットがいう ように,世界市場はますます同質的になるわけではない。消費者の味覚,選好,そ して消費パターンは数多くの国において,世界中の他の国ぐにから需要した種々の 諸要素を若干は修正したり,しなかったりして,ますます多様化していくのである」
と。――角松正雄・大石芳裕[1996年],274ページ。
た。
これまでの見方はそうした(巨大な)市場に対して寡占的な企業を対照に 考察しようというものであったが,ところで規模の小さい企業の間にも社会
・経済がグローバル化していくなかで,これまでの「経済の国際化と中小企 業」や「中小企業の国際化」といった視点では捉えきれない現象もみられる ようになっている。
こうした新しい段階における中小企業はどのように捉えればよいのであろ うか。次なる検討課題である。
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