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銀行の自己資本比率規制と銀行行動

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1. はじめに

2003年5月にりそな銀行が1兆9600億円の公的資金注入を申請したことに より実質国有化されたのに続き, 11月には足利銀行が破綻し一時国有化され ることになった。 いずれも, 監査人が監査を厳格化し税効果会計における繰 延税金資産の減額とそれに見合う税効果資本を減少させたこと, 債権の査定 の厳格化による引当金積み増しで利益が減少したことなどにより自己資本比 率が低下したことが大きな原因となっている。 自己資本比率は

で表されるが, 銀行は健全経営が求められることからそれぞれの業務内容に 応じて一定水準を維持するよう規制されており, 自己資本比率は是正措置発 動の決定などにおける重要な指標となっている。

ところで, 税効果資本は税効果会計により計上されるもので自己資本の一 部であり, 計上額が大きいことから自己資本比率に大きな影響を与えている。

税効果会計は会計上の費用・収益の認識と税法上の損金・益金の認識タイミ ングのずれによる一時差異を調整し, 会計利益に合わせた税額計上をするも

銀行の自己資本比率規制と銀行行動

有 岡 律 子

自己資本あるいは自己資本に準ずるものなど リスクを加味した総資産額など

福岡大学経済学部

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ので銀行は平成10年4月1日以降に開始する事業年度から導入している。 不 良債権を処理した場合, 会計上は費用計上により利益が減少するのに対して, 税法上はその会計期間に損金として認められず会計利益に加算して課税され, 将来損失と認められたときにその年の会計利益から損失分を控除したものが 課税対象となることがある。 このとき 「税金の前払い」 として繰延税金資産 を計上し, これに見合う自己資本が計上される。 概ね5年分の前払い分が税 効果資本として計上されているが, 2002年9月中間期決算で4大メガバンク の場合自己資本の20%から40%程度を占めるなど, その比重の大きさが問題 となった。 2003年8月に金融庁から業務改善命令を受けた地銀の場合, 2003 年9月中間決算における税効果資本は中核自己資本の27%程度から75%近く を占めている (2003年12月2日付日本経済新聞による)。 しかし, 税効果資 本は将来の税金取戻しを見込むもので, 税金を支払う基礎となる銀行の将来 利益が前提となっていることから, 将来利益の見込みが小さい銀行に関して, その計上額が問題となる。 りそな銀行の場合, 1年前には将来5年分の納税 見込み額7090億円を計上していたが, 2003年3月期決算では3年分4350億円 しか計上が認められなかった。 また, 足利銀行の場合, 2003年9月中間決算 において繰延税金資産の計上が認められなかったことから自己資本が大幅に 目減りし, 自己資本比率が悪化したことで国有化に至ったものである。

銀行は繰延税金資産の計上をどの程度とするかなど監査人と相談しながら 決めるが, これは銀行が自ら作成した財務諸表について監査を受け, 監査人 から適正意見が得られるようにするためである。 最近, 監査人はその責任の 高まりから監査厳格化の傾向にあるだけでなく, 金融庁の意向を暗に汲み取 りながら行動する結果, 繰延税金資産の計上を厳しくしていると思われる。

但し, 監査人は金融庁から監査の方針について直接の指導は受けない。 りそ な銀行の場合, 財務諸表作成の途中段階では過去と同様5年分の繰延税金資 産計上が認められていたにもかかわらず, 決算発表直前にその一部の計上が

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認められなくなったようである。 本事例を見る限りでは, 金融庁 (あるいは 旧大蔵省などの監督官庁) は銀行への検査などを通じて直接的に, あるいは 監査法人の銀行への監査などを通じて間接的に銀行の利益をある程度誘導し ており, その結果, 銀行の自己資本比率は政府の意向をある程度反映したも のとなっているといえるだろう。 りそなや足利銀行の場合金融庁の銀行への 対応は厳しく, 自己資本比率を重視しているように思われる。 しかし, 過去 の歴史において, 自己資本比率規制を通じて銀行へ厳しく対応する場合とそ うでない場合があるように見受けられる。 つまり, 政府は銀行の健全性を示 す重要な指標としての自己資本比率に関して上昇を促す政策を採ることもあ れば, 逆に低下につながる決定を行なうこともあった。 本稿は自己資本比率 に関係する出来事を整理することで政府の姿勢の変化を示し, 銀行への影響 を検討する。

ところで, 自己資本比率規制について多数の研究が存在する。 例えば

(1994) は理論的な視点にたって銀行経営者のイ ンセンティブとの関係で自己資本比率規制をとらえるほか, マクロ的環境の 変化に応じて自己資本比率規制のあり方をかえる方法とバーゼル合意による 自己資本比率規制を比較検討し, その中庸のスタイルが望ましいとしている。

これに対して, 醍醐 (2003) は, 税効果会計が自己資本比率規制の実効性を 財務データによって検証したうえで税効果会計がプルーデンス政策に及ぼす 影響を指摘, 検証し, 問題点を明らかにしている。

本稿ではわが国の自己資本比率規制に関係する出来事を整理, 紹介し, そ れをもとに政府の自己資本比率規制への姿勢を検討し, 銀行行動に与える影 響を理論的に考察する。 第2節は自己資本比率に関する概要, 歴史であり, 第3節では政府のスタンスの変化が経営者に与える影響を理論的に示す。 第 4節は結論である。

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2. 自己資本比率規制の概要・歴史

2.1 自己資本比率規制の概要

現行の自己資本比率規制は1988年のバーゼル合意に基づくものに始まる。

銀行の健全性維持の観点から, 国際業務を行なう銀行は国際統一基準 ( 規制) として自己資本比率を8%以上に維持することが決定され, わが国 では1993年3月末から適用となった。 前述の通り, 自己資本比率は

で表される。 当初は信用リスクのみを考慮したものであり, 分子は資本金, 資本準備金といった資本勘定等で構成される 1 (基本項目), 有価証券 の含み益の45%や劣後債や劣後ローンといったものが含まれている 2 (補完的項目) が計上された。 有価証券の含み益は 規制導入検討当時, 原価法で有価証券を評価する日本で株価上昇に伴い大きな含み益が存在して いたことを考慮したものである。 劣後債, 劣後ローン等は銀行にとって返済 を要する負債ではあるが, 返済順位が劣位にあることから自己資本に準ずる とされたものである。 分母は銀行の保有する資産について, リスクの程度に 応じて0%から100%の間でウェイト付けされて計算される総資産額である。

例えば, 現金といった安全資産のリスクウェイトは0%, 一般企業向け債権 のウェイトは100%であり, 資産ごとにウェイトと金額を乗じた合計として 計算される。 その後, 1996年にバーゼル銀行監督委員会より市場リスクも考 慮した 規制が発表され, わが国では1998年3月から適用されている。

これにより, 分母などに変更があった。 現在は2006年末からの実施予定であ 自己資本あるいは自己資本に準ずるものなど

リスクを考慮した総資産額など

国内業務のみを行なう銀行は4%の水準維持が求められる。

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る新 規制案を協議中であり, これは新たにオペレーショナル・リスク を考慮すること, 信用リスクの開示などの内容を含んでいる。 資産のリスク ウェイトの見直しも検討されており, リスクが高いと思われる貸出先が多い 銀行の自己資本比率は低下する恐れがある。

2.2 自己資本比率規制に関する政策

銀行にとって重要な自己資本比率に関して, 政府はときには厳格であり, ときには寛容であるように思われる。 表1は自己資本比率に関する年表であ る。 表にあるように, 政府は一方で銀行の自己資本比率が低下しないように 会計処理の変更を認めるなどの政策を行なっており, もう一方で銀行の自己 資本比率の低下が予想される会計制度の導入などを決定するなど相矛盾した 対応をとっているように思われる。 以下では具体的に, 自己資本比率に関連 する事項の概要について時代背景を考慮しながら紹介する。

1993年3月期において, 国際業務を行なう銀行は自己資本比率8%の水準 を達成した。 しかし, バブル崩壊により貸出先の業績悪化, 貸出担保価値の 減少などにより不良債権が発生し, 金融システム, 日本経済への不安が次第 にクローズアップされてくると, 金融機関に不良債権問題の早期解決が求め られるようになった。 ただ, 不良債権の早期償却は法制度の問題や債権売 買市場の欠如などによりなかなか進まず, さらには新たな不良債権の発生な どにより金融機関の破綻等が相次いだ。 1997年には都銀の1つであった北海 道拓殖銀行の破綻も起きている。 このようななか, 翌1998年3月に自己資 本比率を上昇させる (あるいは下落させない) ような政策が3つとられた。

例えば, 1994年2月8日には 「金融機関の不良債権問題についての行政上の指 針」 が, 1995年6月8日には 「金融システムの機能回復について」 が出されて いる。

同年には三洋証券の会社更生法申請, 山一證券の自主廃業も起きている。

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第1は土地の時価評価を認めた 「土地の再評価に関する法律」の公布施行 である。 土地を時価評価することで含み益を実現し, その45%を自己資本比 率の分子の 2として算入することが認められたことで多くの銀行が自己 資本比率を上昇させるために再評価を行なった。 その結果, 銀行の保有する 土地の簿価は以前に比べて上昇した。

第2は同年3月期より有価証券の評価方法について低価法から原価法への 変更を認めたことである。 有価証券を購入時の価格で評価するのが原価法で あり, 原価に比べて減価したものについて時価で評価するのが低価法である。

表2は日経平均株価の推移を示したもので1997年から1998年にかけて株価が 大幅に下落している。 銀行の保有株式がすべて日経平均株価と同じ動きをす るわけではないものの, 低価法から原価法に変更することで評価損計上を避 けることができ, 自己資本比率の低下を免れることになった。

第3は, 公的資金の注入である。 1998年3月期に金融安定化法に基づき大 手銀行など21行に1兆8千億円の資本注入が優先株, 劣後債や劣後ローンの 引き受けという形で行なわれた。 これにより, 1, 2が増加し, 自己 資本比率は上昇した。 しかし, 同年4月に早期是正措置が導入され, 自己資 本比率が銀行に対する是正措置の発動基準となった。 これは客観的な指標で ある自己資本比率の水準をもとに適時に銀行に対する是正措置をとることで 銀行の経営性確保と経営破綻を未然防止するものであり, 裁量ではなくルー ルに基づく是正措置をとることが打ち出されている。

ところが, 同年10月に日本長期信用銀行が, 12月に日本債券信用銀行が破 綻し, 金融システムの安定性や自己資本比率の水準を満たすための分母抑制 による貸し渋りなどが問題にされると, 翌99年3月期に再び公的資金が注入 され, 自己資本比率の上昇が図られた。 99年の注入は金融早期健全化法に基

時限立法である

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づくもので大手銀行など15行に7兆5千億円が普通株への転換権つき優先株 の引き受けなどによる形で注入されている。

さて, 以上のような自己資本比率を上昇させるような政策がとられる一方 で, さかのぼる1996年11月に橋本首相により日本版ビッグバンの基本的構想 が発表されている。 これは金融機関の規制緩和にとどまらず, 外国為替や会 計制度, 税制度なども国際化, 自由化に対応させ, 世界の中で相対的に地位 が低下してきた (表3, 4, 5) 日本の地位回復を図ろうとするものである。

金融行政については従来のいわゆる 「護送船団方式」 から転換して金融機関 に対する業務範囲規制の撤廃, 参入促進等により競争を促進させるなどの内 容を含んでいる。 前述の早期是正措置の導入もこの1つである。

ビッグバンの銀行への影響は競争促進による収入悪化にとどまらず, 会計 面での改革によるものもある。 日本の会計制度の国際会計基準への対応を目 的として連結財務諸表重視, キャッシュフロー計算書の導入, 税効果会計や 時価会計, 年金会計の導入などが決定されたが, 特に銀行に大きな影響を及 ぼすのは税効果会計, 時価会計の導入である。 税効果会計については第1節 で述べた通り, 繰延税金資産の計上によりこれに見合う自己資本が計上され ることから自己資本比率を上昇させる効果がある。 では, 時価会計の自己資 本比率への影響はどうであろうか。

2000年4月1日以降開始する事業年度から金融商品に関する時価会計が適 用された。 有価証券のうち市場性がある 「売却目的のもの」 および株式持ち 合いなどによる 「その他の有価証券」 については時価で評価しなければなら なくなった。 これにより, 株価下落時には銀行は多額の損失を計上すること になり, 自己資本比率は低下する。 但し, 銀行は持ち合い株式が多いことか ら 「その他の有価証券」 への適用は2002年3月期からとなっている。

時価評価は有価証券だけを対象とするばかりでなく, 固定資産に対しても 適用予定である。 2006年3月期から導入予定の減損会計は, 固定資産に含み

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損が生じている場合その損失を計上させるもので, 銀行については土地建物 動産などについて適用される。 前述の1998年3月の 「土地の再評価に関する 法律」 により銀行は土地を再評価し含み益を実現して自己資本比率を上昇さ せたところが多く, 再評価前に比べて土地の簿価は上昇した。 ところが, 地 価の下落局面にあるなかで減損会計が導入されると, 再評価により簿価が上 昇しているだけに含み損が大きく, 利益が減少し自己資本比率が低下するこ とになる。 そこで政府は減損会計の延期を検討したものの, 企業側は適用延 期が悪いシグナルになるのを恐れて延期に消極的のようである。

このようななか, 小泉首相のもと経済・金融担当大臣である竹中氏が中心 となってまとめた2002年秋の 「金融再生プログラム」 は銀行に対して厳しい ものとなっている。 特別検査を再実施して貸出先の債務者区分を見直すこと, 要管理先の大口貸出金について将来のキャッシュフローを予測し回収不能の リスクや金利などを考慮した割引率により現在価値を出し, 差額を貸倒引当 金対象とする 法を導入する旨などが定められたが, これにより従来よ り引当金を十分に積む必要が出てくることになり会計利益が減少し自己資本 が小さくなるので自己資本比率が低下することになる。

以上より, 政府は自己資本比率を重視しながらも金融システム安定化, 貸 し渋り対策といったことを理由に自己資本比率を上昇させる処理を認めるな ど銀行への厳しい対応に消極的である場合と, 対外的関係, 首相の交代など により自己資本比率を低下させる可能性がある処理の促進を図るなど銀行へ 厳しい対応をとる場合があることが明らかになった。 前者として, 公的資金 の注入, 土地の再評価を認めること, 株式の評価方法の変更 (低価法から原 価法へ), 減損会計導入延期の検討などが挙げられる。 後者として, 金融商 品の時価会計の適用, 法の導入, 税効果会計による税効果資本の計上 の見直しなどがある。 複数の目的を実現していかなければならない政府は, 現実には時には相矛盾する姿勢をとらざるを得ないであろう。 しかし, 銀行

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に対して甘い対応をとり続けることで銀行経営者に政府の対応が甘い傾向に あると確信させることになるかもしれず, その結果, 不良債権問題等の解決 に遅れをもたらす可能性もある。 第3節では, 政府と銀行経営者のゲームで 政府の対応が経営者にどのような影響を及ぼすのか検討する。

3. 政府の対応と銀行経営者行動

第2節で見たように自己資本比率規制に関して首相の交代, 国内経済状況 の変化, 外圧, 国際競争力の回復などの影響を受けてか政府の態度は一貫し ていない。 銀行経営者は政府が自己資本比率の低下に対してどのような対応 を行なう傾向にあるのか考えながら自己の行動を決めていると思われる。 過 去のいくつかの事例によれば, 銀行の自己資本比率が決められた水準を下回 りそうなとき政府は比率を上昇させるような会計処理を認めることによって 一定水準を維持させ, 銀行を存続させることが多かった。 このことから政府 が甘い対応をとりがちであると銀行経営者が考えるとき, 銀行経営者はどの ように行動するのか検討する。

政府と銀行経営者のゲームを考える。 政府の態度として, 厳しい対応 ( ) と甘い対応 ( ) の2つを考える。 厳しい対応とは自己資本比率の低下に対 して銀行を国有化するなどの処置をとることなどである。 甘い対応とは, 本 来は自己資本比率が低下するところを会計処理の変更を認めるなどにより低 下させないようにし, そのまま銀行を存続させる状態などを想定する。 政府 は銀行経営者の利得を知っているが, 銀行経営者は政府の利得を知らないと 仮定する。 即ち, 銀行経営者は自己資本比率が低下したとき政府が厳しい対 応をする傾向にあるのか知らず, ただその確率について主観的な信念を有し ている。 ここでは厳しい対応をするタイプであることについての主観的確率 とする。 は0から1までの値をとる。 このもとで, 銀行経営者は不良

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債権問題解決等に向けての努力水準を選択するが, 努力の水準は高い努力水 準 ( ) と低い努力水準 ( ) の2つを考える。 高い努力水準を選択する確 率は , 低い努力水準を選択する確率は である。 は0から1までの 値をとる。 低い努力水準が選択されるとき自己資本比率が低下し, 高い努力 水準が選択されるときは自己資本比率が低下しないものとする。 自己資本比 率が低下したとき政府は厳しい対応あるいは甘い対応をとり, 自己資本比率 が低下しない場合は甘い対応をとるもとで, それぞれの利得が決まる。 銀行 の利益が政府に帰属するという仮定のもとで政府と銀行経営者の利得は図1 のように与えられる (左は政府の利得, 右は銀行経営者の利得である) が, 銀行経営者の利得について が満たされているものとする。 こ れは, 政府が甘い対応をとる場合, 経営者にとって高い努力水準より低い努 力水準を選択するほうが好ましいことを示している。 また, 政府の利得につ いて が満たされているものとする。 政府は厳しい対応 をとろうとするタイプであるにもかかわらず甘い対応をとるとき負担を感じ ることから であり, 政府にとって好ましいのは経営者が高い努力 水準を選択することであることを示している。

以上をもとに, 政府と銀行経営者の行動を考える。 自己資本比率が低下し たとき, 政府は , より, 甘い対応をとるタイプであるとき は甘い対応を, 厳しい対応をとるタイプである場合は厳しい対応をとる。 政 府の対応についての主観的確率 のもとで, 銀行経営者は期待利得により 行動を決める。 経営者の期待利得は

であらわされる。 これより, が高いほど, 例えば の場合, 経営者の 期待利得は

(11)

となることから となる。 逆に が低いほど, 例えば の場合, 経営者の期待利得は

となり, より をとる。 すなわち, 経営者は政府が厳しい対 応をとると確信するときは高い努力水準を選択し, 甘い対応をとると確信す るときは低い努力水準を選択することになる。

命題 銀行経営者は政府が寛容であるとの確信を強めるとき, 努力を怠る。

政府は経営者に高い努力水準を選択させるためには, 経営者の抱く政府が 厳しい対応をとることについての確信を高めなければならない。 過去の公的 資金投入, 土地や有価証券などの会計処理の変更といった甘めと思われる対 応が不良債権問題解決に遅れをもたらした可能性があり, 最近の政府の厳し い対応は, 経営者の政府への期待を変え経営者の努力水準を高めるという意 味で評価できることになる。

図1 政府と銀行経営者のゲーム

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(12)

4. 結論

政府は金融行政において国内での金融システム安定化のほか, 日本の国際 競争力確保のために会計制度などの国際化対応などを図らなければならない。

従来, 政府は銀行行政についていわゆる護送船団方式をとってきたが, バブ ル崩壊を機にその限界が明らかになった。 もはや国内金融システム安定化は 非効率な銀行の存続を意味するものではなくなっているものの, ただ退出を 促すことの影響の大きさを事前に測るのは非常に困難であり, 政府が銀行に 厳しい対応をとることに消極的なときもあった。 この政府の対応が銀行経営 者の問題解決への努力水準を低下させる可能性があることは第3節で示した ものの, 一方で新しい会計制度の導入が自己資本比率の低下を招くことで必 要以上に銀行の不良債権処理等に遅れをもたらしているならばその実施の時 期に問題があったといえよう。

本稿は自己資本比率に関係する政府の決定を歴史的に追うものであり, 政 府の政策が時代によってスタンスが異なることがあったことを示し, 経営者 に与える影響を考察するものである。 ただ, 何が政府の態度を決定する要因 の分析, 政府のスタンスのあり方が銀行利益や不良債権の処理スピード等に 対して影響を与えたのかどうかをデータにより実証することは今後の研究課 題としたい。

参考文献

(1994)

(北村行伸・渡辺 努訳 (1996) 銀行規制の新潮流 東洋 経済新報社)

奥田健一 「邦銀の 比率をめぐる最近の状況」 郵政研究所月報 2000 10 47 53

銀行経理問題研究会編著 (2001) 銀行経理の実務 第5版 金融財政事情研究会

新日本監査法人監修 (2002) 金融機関の不良債権償却必携 第4版 エデュ

(13)

ケーション

醍醐 聡・田中建二 (2003) 金融リスクの会計 東京経済情報出版 高橋俊樹 (2000) 金融機関の債権償却 金融財政事情研究会

日本公認会計士協会京滋会・京都弁護士不良債権問題研究会編著 (1999) 不良債 権を巡る法律・会計・税務 清文社

村松岐夫・奥野正寛編著 (2002) 平成バブルの研究 東洋経済新報社 柳川範之 (2000) 契約と組織の経済学 東洋経済新報社

渡辺 努 (1994) 市場の予想と経済政策の有効性 東洋経済新報社

(14)

自己資本 比率への 影響

大蔵大臣 財務大臣 金融・経済担当大臣

日銀総裁

1987 12 による銀行の自己資本 比率の国際的統一基準公表

大蔵省による銀行の自己資 本比率の国際的統一基準発 表 (92年度末までに8%と することを義務付け)

1989 6

1989 8

1989 12 三重野

1991 11

1993 8

1993 3 「銀行法第14条の2の規定に 基づく自己資本比率基準」

を大蔵省告示

都長銀, 信託などの自己資 本比率 基準8%達成

1994 4

1994 6

1994 12

1996 1

1996 11 日本版ビッグバン構想の発表

1997 11 三洋証券会社更生法適用申 請北海道拓殖銀行破綻山一 證券自主廃業決定

1998 1

1998 3 「土地の再評価に関する法律」

公布施行により土地の含み 益 (45%) 計上を認める

1998 3月期

有価証券の評価において低 価法から原価法への変更を 認める

表1 自己資本比率規制に関する年表

(15)

持ち合い株式などへの適用は2002年3月期からである。

自己資本 比率への 影響

大蔵大臣 財務大臣 金融・経済担当大臣

日銀総裁

1998 3月期

資本注入

1998 3月期

「銀行業の決算経理基準」 上 場株式等の評価法変更を認 める (低価法から原価法へ)

1998 4 早期是正措置導入 1998 6 金融監督庁発足

1998 7

1998 10 「金融機能早期健全化法」 公布 1999

3月期

資本注入

1999 3月期

税効果会計導入

1999 6 新 規制案の発表

2000 4

2000 4月以降

金融商品に関する時価会計

の導入

2001 4

2002 10 金融再生プログラムの発表

2003 3

減損会計導入延期の検討

2003 3月期

税効果資本の見直し傾向

2003 6 りそな銀行への資本注入

2003 9

2003 11 足利銀行の破たん処理

(16)

表2 日経平均株価 (終値)

1993年1月 17 024 1995年1月 18 650 1997年1月 18 330 1993年2月 16 953 1995年2月 17 053 1997年2月 18 557 1993年3月 18 591 1995年3月 16 140 1997年3月 18 003 1993年4月 20 919 1995年4月 16 807 1997年4月 19 151 1993年5月 20 552 1995年5月 15 437 1997年5月 20 069 1993年6月 19 590 1995年6月 14 517 1997年6月 20 605 1993年7月 20 380 1995年7月 16 678 1997年7月 20 331 1993年8月 21 027 1995年8月 18 117 1997年8月 18 229 1993年9月 20 106 1995年9月 17 913 1997年9月 17 888 1993年10月 19 703 1995年10月 17 655 1997年10月 16 459 1993年11月 16 407 1995年11月 18 744 1997年11月 16 636 1993年12月 17 417 1995年12月 19 868 1997年12月 15 259 1994年1月 20 229 1996年1月 20 813 1998年1月 16 628 1994年2月 19 997 1996年2月 20 125 1998年2月 16 832 1994年3月 19 112 1996年3月 21 407 1998年3月 16 527 1994年4月 19 725 1996年4月 22 041 1998年4月 15 641 1994年5月 20 974 1996年5月 21 956 1998年5月 15 671 1994年6月 20 644 1996年6月 22 531 1998年6月 15 830 1994年7月 20 449 1996年7月 20 693 1998年7月 16 379 1994年8月 20 629 1996年8月 20 167 1998年8月 14 108 1994年9月 19 564 1996年9月 21 556 1998年9月 13 406 1994年10月 19 990 1996年10月 20 467 1998年10月 13 565 1994年11月 19 076 1996年11月 21 020 1998年11月 14 884 1994年12月 19 723 1996年12月 19 361 1998年12月 13 842

(出所) 日経ネット 3 より作成

(17)

表3 外国為替 (円ドル) 取引高シェア (単位:%)

86 3 89 4 92 4 95 4

21 2 24 9 26 4 19 7

ロンドン 19 2 21 1 22 3 31 5

59 6 54 0 51 2 48 7

による

表4 東証上場外国企業数

90 12 93 12 96 11

125 110 68

東証 東証統計月報 による

表5 日本株取引高 (単位:兆円)

90 93 96 (1−9)

証 ( ) 186 7 86 9 80 9

ロンドン ( ) 10 2 9 6 12 4

(単位:倍) 18 3 9 1 6 5

東証 東証統計月報 による (ロンドンの数値は年平均為替レートで円換算)

(18)

参照

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