金沢 大 学十 全 医学 会 稚 誌 第9 7巻 第5 号 8 99 −9 2 2 く1 9 8 8I
B
ut yr oph
e n o n e 誘導体導入後の精神 分裂 病の
長 期 予後に
つ いて
の研究金沢 大 学 医学 部神 経 精 神医 学 講座 く主任二山口成長 教 掛
伊 波 久 光
く昭和6 3年9 月9 日受付1
8 9 9
halope ridol な どの but yr ophe n o n e 誘 導体 導入後の精神 分裂 病の長 期予後に つ いて検 討す る た
め, 1 9 6 3年か ら19 7 7年の1 5年 間に金 沢 大 学 医学 部 付 属病 院 神 経 科 精神 科に初 回入院し, 当時 石 川 県に在 住し た精 神 分裂 病 者 く王C D−9 診 断 基準 合 致 椰 16 5名を1 98 3年に直 接 検 診し,種々の角 度か ら検 討を行っ
た− 平 均 追 跡 期 間1 4.3年 後の転 帰は, 完 全寛 解4 2名 く26%,, 不 全 寛解5 8名 く3 5%I, 軽快3 5名 く21%1,
末 治3 0名 く1 8%フで あ りI 寛 解 群 く完 全 寛解十不全 寛 鮒 の比率は全 体の6 1%で, 欠 陥群 億 快+未 削
の比率は 3 9%で あったt この結 果を同様の調 査 方 法でな さ れ た林 .秋元 く1 9 3 91 , 山田 く1 9 6 0フ, 石 川 く19期 の各報 告の結 果と比 較す る と, ショ ック療 法お よ び向精 神 薬の導入にも か か わ らず完 全 寛 解は
一定し て変 化が み ら れ なかっ た が, 向精 神 薬の導入によ り 不全寛 解の比 率が増加し, 未 治は全 体の 4 分
の 1 ま で減 少し た− 予後予測の面か ら種々の因子 と長 期 転帰との関 連を み る と, 3 0歳 以上 で の初 乳 緊 張型あるいは妄 想型の初発 病 軋 急性 あるいは 亜急 性の発 症, 発 症か ら 三 カ月 以 内の入院, 良 好な初回 退 院 時転 胤 誘 因の存 在, 非 定 型状 態 像の混 在, 再入院な し, 発 症 前の職 業の高さ な ど の因子 が良好な 転帰と関連し, 1 5歳以下で の初 発, 破 瓜型 の初 発 病 軋 緩 慢な発 症, 不 良な初回退 院 時転 胤 単一 の 入 院時 状 態 像, 家 系 負 因の存 在な どの因子 は不 良な長 期 転帰と関 連し た.
E ey w o rds s chiz oph r e nia, lo ngNte r m pr Ogn O Sis, pSyChoph a r m a c othe r ap y, but yr ophe n o n e deriv ativ e s,dir e ct e x a min atio n
精 神分 裂 病の予後の問題は, K r a epelin1 1が早発 性 痴 呆と躁 鬱 病を二大 内因 性 精 神 病と し て疾病 単 位を確立 し た際に端を発し ている. その早 発 性 痴呆 において は, 予後の不 良性が, 特 徴 的 症 状と その経 過と共に重 要な疾 病概 念と し て診 断の要 因を成して いた. しか し, 経過 や転 帰から逆に診 断が規 定さ れ る と言う 矛盾 や, 必 ず し も全て が 予後 不 良では な く, ま た 全 て が早 発性でも な く晩 期 発 症も有ること よ り, B le 。1e r2 ,に よって基本症状によ る横 断 的症 候 面から精 神分裂 病と して新たに規 定し なおさ れ た. 尚, B le ule r にあっ て も あ る種の人格 水 準の低 下がこ の疾 患に付 随す る もの と して見 倣さ れ た. しかし,
一応予後が診 断基 準か ら 取り除か れ た た めに, その後の疾病 概 念の拡 大を結 果
A b br e viatio n s こ D S M −III, diagn o stic a nd
editio n 三 I C D−9, inte r n atio n al cla s sific atio n
diagn o stic c rite riaニW H O , W o rld H e alth O rga niz atio n .
し た. そのた め, 伝 統 的亜 型 以外に急性 分 裂 病挿 乱 潜伏 分 裂 病, 分 裂.情 動 型な ど の様々 な転 帰を有す る 多彩な 亜型を包 合す る事と な り, 尚一 層の精 神 分 裂 病 概 念の混 乱の元 と なっ た錮. こ の事によ り様々な学 派
によ る様々 な疾 病 概 念が生じ た一 方で, 共通 認 識を求 め て W o rl d He alth Orga niz atio nくW H OJ によ る国際 分 類SやA m e ric a n Psychiatic As s o ciatio nLA P AI に よ る D iagn o stic a nd Sta stic al M a n u al of M e ntal
D is o rde r s mS 叩 分 類6 ,等の信頼 性のあ る診 断基 準の
試み も な さ れ て き た. 予後 研 究の面でも, 異な る地 域, 時 代 的 変遷, 治療 法の発 展 等に伴う全体 転 帰の変 化や 亜型 臥 治療 別の転 帰の相 軋 転 帰に及 ぼ す予 測 因子の研 究 等が様々に行わ れ て. よ り厳 密な方 法 論の
Statistic al m a n u al of m e ntal dis o rde r 3rd
Of dis e a s e 9th r e visio n 三 R D C, r e S e a r Ch
提示 や望ま しい長 期予後の研 究の有り方が強 調さ れて き ている. 又, 向 精 神 薬の導入によって精 神 分 裂 病の 治 療が大き く発 展し たこと は言う ま で も な く. 最 初の 向精 神 薬の Ch lo rpr o m a zin e が わ が国に導入 さ れ て 以 来, 現 在ま で約3 0年の間に向 精 神 薬の種 類も多数に の ぽっ ている. 金 沢 大 学医 学 部 神 経 精 神 医 字数 室で は過 去に ショ ック療 法 後乃,phe n othaizin e系 薬 物の導入後 の卵I各 時 期で の稗神 分裂 病の長 期 予 後に関す る研 究が 行わ れ て お り, 今回 も現在 精神 分裂 病の薬 物 療 法の主 座を な して いる but yr ophe n o n e 誘 導 体の導入後の精 神 分裂 病の長 期予後を調 査 研 究し, 過 去二回の研 究 結 果と比較 検 討す ること を試み た. 意 義の あ る長 期予後 の研 究には, 同 一地 域にお け る同一 方 法 的な構 成と対 象を同一 の評 価 者 く評 価 方 酎 によっ て繰り返し行 う 事が望ま しいと考え ら れ る. しか し, 長 期予後の時 間 的制 約の た め そ の よ う な研 究は少な く, 本研 究は ほ ぼ その線上 に沿った研 究である と言え る. 今回 の報 告の 主な目 的は過 去に行わ れ た追 跡 調 査の結 果と今回の研 究 調 査 結果と の比 較に つ いて である が, そ れ 以外にも 予 後に及ぼ す種々 の因子に つ いて も詳細に言及す るこ
と と し た.
対 象およ び方 法 工. 調査の手順
対 象は昭和3 8年か ら昭和5 2年の1 5年 間に金 沢 大 学 医 学 部付 属 病 院神 経 科 精 神 科に初回 入院し た患 者のう ち, 精 神 分 裂病お よ びこれに近 縁の疾 患と診 断さ れ,
当 時 石川 県に在 住し た者のみ5 4 5名で, これ ら の患 者
に つ いて 入院 病 歴を Inte rn atio n al Cla s sific atio n of D is e a s e s 9th Re visio nくI C D−9J の精 神 分 裂 病 診 断 基 準
に基づいて経 験の あ る精 神科 医が再調 査し た− 3 6 1名 が診 断 基 準に合 致し, 残り の う ち 1 1 8名が将 来, 診 断 名の再 検 討を要し, 5 8名は精 神 分 裂 病に該 当せず, 4
名 か 重 複し, 4名が病 歴 不 明であっ た . 上記の I C D −9 診 断合 致群36 1名のう ち1 00名に入院歴が あ り,
残り の初 回入院 例2 6 1名に つき金 沢 大 学 医 学 部 付 属 病 院 神 経 科 精神 科の全 教 室 員の協 力の も とに, 昭 和5 7年 7 月1 日 か ら1 2月3 1 日 の期 間に調 査を行っ た■ 調 査の 実 際の手 順と し て, 予め保 護 者ま た は本人の住所へ文 書連 絡を行った乱 そ の合 意に基づいて訪 問 可 能な も のに つ いて は出張し て直接 面 接し, 2 8項 目にわ たって あ る程 度構 成 化さ れ た形 式に従って, 精 神 症 状の有 無, 職 業, 結婚, 家 庭 状 況な ど, 患 者 本人 を め ぐ る社 会 状 況に つ いて も可 能な限り調査 し た■ ま た, 入 院な いし外 来 通 院 中の患 者で関 係 病 院の主 治 医か ら の情 報 を, 直接 面 接の代わ りに用いた場 合もある. 直 接 面 接
が 不可 能でも, 本人 との電 話 連 絡およ び家 族面 軌こよ り2 8 項目につい て十 分客 観 的に聴 取し, 評価でき た場 合も研 究 対 象に含め た. 結局,2 61名のう ち転 帰が判 明し たのは16 5名で, 最 終 対 象 群1 6 5名のう ち8 4%の 1 3 8名が直 接 面接に値し た. これ らの 個々 の結果につ い て3名の精 神 科 医が再 検 討し, 必要に応じて追 加情 報を求め た り 入院 病歴 を再 検 討し た り して , その合議
の元に診 断.転 帰の最 終 決 定を行っ た■ 工I. 転 帰 基 準
転帰の分類は 一般に行わ れ てい る よ う に, 完 全 寛 解, 不 全 寛 解, 軽 快, 末治の 4 群と し て, そ れ ぞ れに A , B , C , Dの符 号をつ け て区分し た. その判定基 準は林 .秋 元の分 類糊に従った. す な わ ち, 以 下のご と く で あ る.
完 全寛 解 くA 巨 分 裂 病 診 断の根 拠と なっ た 一切の 病 的 症 状が消 極し, 病 前の健 全人格が再 現し て社 会的 適 応 性, 職 業 能 力を回 復し, 家 族な ら びに周囲に健全 で あ る と の印 象を与え, 以前の自 分の確 患に対し十分 な病 識を有し ている もの.
不 全 寛解 ほ うこ著 明な病 的 症 状は消 失し, かつ相 当の社 会 的 適応 性を有す る が, 尚あ る程 度の精神 的能 力の低下が認め ら れ, ま た性 格上に何 等か の変 化を 示
し ている もの.
軽 快 くC 巨 尚, 多 少に かか わ らず 分 裂 病 症 状の残 存が あ り, 能 動 欠乏や感 情 鈍 麻が明ら かに認め ら れる が, その程 度は 日常の家 庭 生 活を行い得る程度で, 場 合によっては 比較 的 簡 単な職に従うこと も 可能な も の .
未 治 くD昌 明瞭 な分 裂 病 症 状を 示 し, 殊に感情 鈍 麻, 思考 障 害な ど が顕 著で病 院, 療 養 所な どに生活
し, 家庭で も真の家 庭 生 活は不 能な もの ■
更に上記の 4 群を発 病以来の経 過によってそ れ ぞオL 2 −4 個の亜型に分類し た. 亜型 分 類は山田の定 義7,
に従った. す な わ ち, 亜 型分額の根 拠と し て慢 性的に 経 過す る 人格 障 害と病 勢の 一 時 的な増悪期と を参考と
し た. 各亜 型に ついて述べる と次のご と くであ る. A l二完 全寛 解 .単 純 軋 た だ1 回の増悪期の後.完 全寛 解に達し た もの .
A 2こ完 全 寛 解.波 状型, 何回か の増 悪 期をみな がら 完 全 寛 解にあ る もの .
B la ニ不 全寛 解.単 純型, というべき もの のう ちで, 1 回の増 悪 期の後, 1度は完 全 寛 解に達し たこと も あ る が, 結 局は不 全寛 解にと ど まっ て いる もの ■
B lb こ不 全 寛 解.単 純 軋 というべき もの のう ち で, 1 回 の増悪期の後, 不 全 寛 解に達し た もの.
B 2ニ不 全 寛 解 .波 状 型, というべき も ののう ちでI
精 神 分 裂病の長 期予後
何回か の増 悪 期を繰り返し, す く な く と も1 度は完 全 寛解に達し たこと も あ る が, 結 局は不 全 寛 解にと ど まっている もの .
B 3こ不全 寛 解. 波 状型, というべきの のう ち で, 何 回 かの増 悪 期を繰り 返 し, そのう ち1 度も完 全寛 解
に達す ること も な く. 結局は不 全 寛 解にと ど まっ てい る もの.
C la ニ軽 快. 単純 型, のう ち で. た だ 1 回 の増 悪期の 後, 1度は完 全 寛 解に達し たこと も あ る が, 結局は軽 快の状態にと ど まっている もの.
C l b二軽快 .単 純型, のちで, た だ 1 回の増悪期の 後, 持続 的に軽 快の域にあ る もの.
C 2ニ軽快 ■波 状型, のう ち で, 何回 か の増悪期を繰 り返し, す く な く と も 1 度は完 全 寛 解に達し たこと も あ る が, 結 局は軽快の域にある も の.
C 3ニ軽 快.波 状型, のう ち で, 何回 かの増悪期を繰 り返し, そのう ち 1 度も完 全 寛 解に達す る こと も な く, 結局は軽 快の域にと ど まっ ている もの.
D l二未治 .単 純 型, た だ 1 回の増悪期の後, 未治の 状態にと ど まっている もの.
D 2こ未治. 波状 型, のう ちで. 何回か の増悪期を繰 り返 し, す く な く と も1度は完 全寛 解に達し たこと も あ る が, 結 局は未治の状 態にお ちいっ た も の.
D 3ニ未 治. 波状型, のう ちで, 何回か の増悪期を繰 り返 し, そのう ち1 度も完 全 寛 解に達す ること も な く, 未治に到った もの.
I 軋 統 計 学 的検 定法
得ら れ た成 績は, すべて平 均 値と S D で 示 し た. 多
261 s ch iz ophr e nic patie nts
9 01
群の平 均 値の羞の検 定には,
一 元配 置 分 散 分 析 後,
Du n c a n の多重比 較 法を 用いた. 百 分率の差はx 2検 定
法によった. p く0.0 5 を有 意と し た.
成 績
工. 対 象の構 成と特 徴
図1 が対 象構 成で, 調 査対 象2 6 1名 中16 5名が最 終 転 帰 判 明群であ り, 以下の結果は全てこの群に基づいて いる. 図1 に示 さ れ る よ うに, 初回入 院例2 6 1中1 7 8名
の転 帰が確 認さ れ, 判 明 率は6 8%で あ る. 因みに, そ の値は当教 室の過 去の報 告で, 同様に直 接 検 診である 山田 の 7 0%と ほ ぼ似た結 果であり, 最近の, 直 接 検 診 で は ない宮らの報 告の9 3%よ り は低い. 図 中の脱 落群 の所 在不 明は, 文 書 連絡した が該 当 者が な く返 送さ れ た も の である. 返 信な し は, 該 当し た が再 度の連絡に も応じ な かった も の である. 調 査 拒 否は, 本 人や家族 か ら直 接に拒 否の意 志表示 を 受 け た も の である. 後の 二者に つ い て は, 間 接的に転 帰の推定が得ら れ た場合 もある が, 他の項 目が不 十 分であった り, 当 事 者の意 志の尊 重の面か ら対 象よ り除いた. 診 断変 更 群は, 初 回 入院 時は 工C D−9 の診 断基 準で精 神 分 裂 病と診 断さ れ た が, 経過よ り 1 例が明ら か な躁鬱 病 像を呈し, 1 例は て ん か ん性 疾 患を 呈 し た の で除外し た. 死亡転 帰
は, 6例が明ら か な自 殺によ る もの で, 7例が身体 病
によ る も のであった. そ れ らに つ いて も死亡直 前の転 帰が確 認さ れ た も の もある が, 対 象よ り除いた.
表1 は対 象群と脱 落 群の比 較である. 表よ り発 症 年 齢, 入院 時年 齢, 調 査 時 年 齢な ど の各 平 均年 齢と発 症
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