前 田 陽
1. は じ め に
これ まで管理 会計 にお いて は,設備等 の投 資意思決定 に関す る研 究 は, 「 資 本予算
(capitalbudgeting)」研 究 の枠組 み の 中で行 なわれて きた。 中で も, 設備投 資案 の経済性評価技 法 に関す る研 究 は,管理会計 にお け る中心課題 と位 置 づ け られ数 多 くな されて きたl ) 。 そ う した研 究 を受 け,管理会計 のテキス ト で も,資本予算 を取 り上 げた章 は,経 済 的評価技 法 の説 明を中心 に展 開 されて い る
2)0
*本稿作成に当た り, 日本電気㈱経理部長ならびに日本電気 システム建設㈱専務取締 役 を務められた安部彰一氏には,2
009年
2月
25日,
4月
30日,
8月
3日と3日間に わた りヒアリング調査のご協力および本稿の校閲まで も賜った。安部彰一氏の格別 のご配慮 とご厚意に心 より御礼 申し上げる。
1
)清水,加登,梶 原,坂 口
(2008)p.29。また,杉 山
(2002)は第
3章 に 「 資本 予算研究小史」 を設け,資本予算の研究が経済性評価技法の生成 ・発展 を中心に 進め られたことを歴史的に示 している
(pp.46‑65).さらに,山本 (1994)は,管理会計における資本予算の研究は 「 計算合理的に行われる投資決定の解答用意 機能を果たすべ き 」 ( p
.121)ためになされて きたと述べている。
2
)例えば,典型的な管理会計のテキス ト,Ka
planandAtkinson (1998)では,「いかなる新規投資案 も,明示的あるいは暗黙的に,その新鹿投資案に着手 しない場 合 と比較 して,評価がなされる。新規投資案の望ましさは,この案が どのように 評価 されるか によって決 まる
」 (p.598)と,Hor
ngren,Stlndem andStratton(2002)では,「
資本予算には,( 1 ) 将来性のある投資案の識恥
(2日 意思決定を 支援するためのデータの収集 をも含む) どの投資案 を実施するかの選択
,(3般 資 案の事後的な監視,つ ま り 「 事後監査」, という 3 段階がある。通常,会計担当 者は第1 段 階には加わらないが,第
2,第
3の段階で重要な役割を果たす」(
p.
436)といった記述 が ,資本予算の章の導入部におかれ,経済的評価技法の説明に大部 分の紙面を割いている。
〔189〕
190
商 学 討 究 第60 巻 第 2 ・3号
だが,企業内で管理会計 に携わる実務家たちは,資本予算 に関する大部分の 記述 を経済性評価技法 に割 く現状 の管理会計体系 に不満 を示 しているとい う。
それは, どの ようなプロセスを通 じ,投資案件の計画,実行,評価がなされる のか といった資本予算のマ ネジメ ン ト・プロセスに関する具体的記述に欠けて いるか らだ とい う3 ) 0
これ まで資本予算 のマネジメ ン ト・プロセスに関す る研 究が な されて こな か った訳ではない。しか し,その多 くは質問票調査 を主たる研 究手法 とし,「 理 念的に資本予算のプロセスを捉 えようと」 4 ) する ものであった。そのため,「ど の ような財務 的な事後評価 ,事前の採算性チェ ックを企業が実施 し,その場合 にいか な る情報収集 が企業 内で行 われて い るのか とい うような こ とにつ い て」
5),具体 的に明 らか にす ることが困難であ った
6)。従 って,今後 の資本予 算研 究の課題 は 「 個別計画の設定,実行,評価や期間計画の設定,実行,評価 とい うプロセスな ど,企業 における公式的なプロセスの実態 を明 らかにす る」 7 ) ことにある
。それを行 なう上で適切 な研 究手法は,資本予算のマネジメン ト・
プロセス全体 を熟知 している実務家へ のヒアリング調査である
。筆者は幸運 にも, 日本電気株式会社 における資本予算のマ ネジメン t ・プロ セスを熟知 している実務家 にヒアリング調査 を行なう機会を得た。そこで,本 稿 では,その ヒア リング調査 を通 じて得た知見を基 に, 日本電気 において,全 社 レベルに影響 を及ぼす設備投資案が, どのようなプロセスを経て実施 されて
3
)安部彰一氏へのヒアリング調査による。安部氏は,例えば,設備等に関する投資 は,投資案の計画立案から実現まで,必ず しも
1年以内にすべてが展開されるわ けではないため,投資案の計画が年次予算 ( 特に現金収支予算),さらに中期計 画とどのように結びついているかことについてまで言及されなけれ普,実務に応 用できないと述べている。
4) 清水,加登,梶原,坂口 ( 20 0 8)p. 3 8
05 )清水,加登,坂口,河合 ( 20 0 8)p. 1 2 0
6 )同じく資本予算に関するアンケー ト調査を行なった山本 ( 1 998 ) も 「 すべての組 織に有効な単一の資本予算システムは,理論上にしか存在 しない
」 (p.17)と述 べている。
7 )清水,加登,梶原,坂口 ( 200 8)p. 3 8
0い るのかを明 らか に しようと考える8 ) 0
2.
設備投資のマネジメン ト・プロセス ・モデル
典型的な管理会計理論 においては,設備投資のマネジメン ト ・プロセスは,
①投 資 の必要性 の認識 ‑ ②代替案 の探索 ・情報 の収集 ‑ ③経済性評価 ‑
① 最適案 の選択 ‑ ⑤実行 ・事後評価 といったプロセスで実行 されると説明さ れ る
。だが,企業 における設備投資に係 る実態調査 を行 なった清水,加登,坂 口, 河合
(2007)によれば, こうした典型的な理論モデルは現実のプロセス とは, 全 く異なる ものだ とい う。 そ して,彼 らは調査で得た知見 に基づ き,設備投資 のマ ネジメ ン ト ・プロセス を,図表
1の ような形 として描 き出 している。
投 資
のき
っか け
清水,加登,坂口,河合
(2007)p.66。図表
1設備投資マネジメン トのプロセス
設備投資 のマ ネジメ ン ト・プ ロセスは企業 ごとに,そ して投資案件 ごとに よって異 なる
。従 って,一つの標準形 として実務 で行 なわれている設備投 資の マ ネジメ ン ト ・プロセスを示 した清水,加登,坂 口,河合
(2007)の研 究は意
8 )管理会計ではなく,内部組織の経済学という視点か らの研究では,浅沼 ( 1 9 8 2 a) ,
浅沼 ( 1 9 8 2b)が設備投資のプロセスを解明するため, 日本電気を含む電気機械
器具メーカー
6社 にヒアリング調査を行なっている。
192
商 学 討 究 第
60巻 第
2 ・3号
義深 い。 しか し, このモデ ルか らは, 企業 内の ど うい った関係者 が, どの よ う に設備投 資 に関与 しているのか判 明 しない。 そ こで,本稿 では,特 に企業 内の ど ういった関係者 が,企業 内の設備投 資 に関与す るのか に着 日し,そのプ ロセ ス を示す こ とにす る
。3
. 日本電気 における設備投資の意思決定9 )
3‑ 1
設備 投資 の指針制定 の背景
日本電気 は グルー プ と しての売上 高
4兆2,156億 円
(2009年
3月期),従業 員数
14万3,
327人 ( 剛 のエ レク トロニ クス企業 であ る。現在, 同社 の事業 は
ITソ リュー シ ョン事業, ネ ッ トワー クソ リュー シ ョン事業,エ レク トロ ンデバ イ ス事業 とい った電気機器事 業全般 に及ぶ。
電話機 ・交換機 の製造会社 として1
899年 に創業 した 日本電気 は,政府や電電 公 社 が行 なって きた電 話網 整備計 画 とと もに, 企業 規模 を拡大 させ た
10)。 そ して,戦後 は電話機 に代表 され る通信 機器か ら, 半導体や電子計算機 な どのエ レク トロニ クス事業 に本格 的 に進 出 した。倶給す る製 品の種 類 があ ま りに多種 多様 とな り, しか も製 品 ご との技術特性 も幅広 くなったため,1
965年, 同社 は 事業 の範 囲 と事業 部長 の責任 を明確 化 させ られる事業 部制組織‑ と,企業親織
を再編 した ( 国表
2参照)
ll)0
本社経理部 もその組織体制 に合致す る 「 事業部制計算制度」 を制定 し,事業 部 長が 自ら事業 部の損益や現金収 支 の管理 を行 な うこ とを支援 す るツー ルを捷
9
)本節の内容は, 日本電気㈱経理部長を務め られた安部彰一氏への ヒアリング調査 に基づ く。
10)同社の創業か ら1960
年代 までの概況は,前田
(2007)および前田
(2008)を参照。
ll)安部 (1995)
は, 日本電気が属する 「 高度に技術集約的なエ レク トロニクス産業 において,技術 は, まさしく競争優位の源泉で
」 (p.196)あ り,そ うした経営 環境 に対応す るため,同社 においては,製品の技術特性 に基づ く事業部制組織が 敷かれたという
。1965年の この組織変革の経緯については,前田
(2009)を参照。なお,同社において最初に事業部制組織 を導入 したのは,1
961年のことであるが,
その組織 は職能別組織の色彩が強かった。
総 務 部 l
.研
ア
企 画 部
一 事 務 管 郎 G特 許 部 ll ラ rIlIlIド I l 人 事 部 l イ/
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伝 送 通 信 事 業 部
無 線 通 信 専 業 部 随時 フ ィ リピ ン 通 信 施 試 建設 部
l ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ ̲ l
円本電気
編 (2001)『資料編』p.449を一部修正 して作成O
図表 2 日本電気の組織図 ( 1 9 6 5 年)
供 した
12)。さらに,経理や人事 をは じめ,本社 の各ス タッフ部門か ら事業部 に人員が派遣 され,「 事業計画室」 と呼ばれる事業部長のス タッフが置かれる 1 2) 日本電気 轟 ( 2 001 ) によれば,「 事業部制計算制度
」は改訂を経て
,1967年末ご
ろに定着するようになったという
(p.578)。194
商 学 討 究 第
60巻 第
2・3号
ようになった。 こうして,事業部長は事業部の管理 を十分 に遂行するだけの権 限 と機能を有するようになった。だが,資金調達 はあ くまで も本社の財務部が 担 ってお り,事業部が独 自に資金調達 を図れた訳 ではなかった。
1960
年代後半,高度経済成長 と相 まって, 日本電気 は生産能力の増強 を図る 必要性 に迫 られた。その際,同社 は労働力 を確保 しやすい地方 に工場 を建設す る方針 を立てた。その設備投資 に当たってほ,「 単 なる労働力不足 の解消では な く,地方工場 に適 した機種 に絞 って専 門工場 を計画 し,同時に,収益性 ・効 率性 の基準 を設けて計画を進行
」13)させ ていった。その結果, 日本電気
100%出資の生産子会社が地方各地に,続 々と設立 されることになった。
1960
年代後半か ら日本電気 は,積極 的に設備投 資を図って きたが,1
970年代 の ドルショックと石油危機 をきっかけに,同社 は設備投資を慎重 に行なうよう になった。それは ドルショックと石油危機 によって,一時期, 日本電気 の資金 繰 りが悪化 したか らである
。資金繰 りの悪化 を経て,同社 は,現金収支の管理 が非常 に重要であると改めて認識するようになった という
。その結果,現金収 支管理 の強化 が図 られ,設備投 資の現金収支 も厳 しくチ ェ ックされ るように なった。 これを受け,1
977年,「 投資評価要領」が制定 された。
石油危機 と1
970年代後半か らの円高 に対応するために, 日本電気 は生産性の 向上 を図った。生産性 向上 には設備投資が欠かせ ないが,その投資額は巨額で ある
。しか も, 日本電気が供給する製品は非常に多いため,各事業部の要求を そのまま認めていたのでは,い くら資金があって も足 りない。ある程度,事業 を放 り込んでい く必要があった。そこで, 日本電気では,当時,流行 していた
PP
M
(ProductPortfolioManagement)の手法 を導入 して,選別 した事業 に 資金 を投 じることに した 14) 。 こうして投資評価要領 に,
PPMの手法や思考 を
13)日本電気 衝 く2001)p.4620
14)
浅沼
(1982a)は,1979年
12月〜8
0年
3月と
1981年
12月
〜82年
3月にわたり,冒 本電気を含む電気機械器具メーカー
6社を訪ね,設備投資決定のプロセスの研究
を行なった。そして,その論説で
「PPMの手法について紙数を費やしたのは,
この調査の対象とした会社のほとんど全部で, 少なくとも本社スタッフの間では,
加 えて制定 されたのが,
1982年 の 「 設備投資ガイ ドブ ック 」 であった。
すなわち, 日本電気 における設備投 資案の評価 は,「 投 資評価要領」や 「 設 備投 資ガイ ドブ ック 」 とい った規程 に基づ いて行 なわれる ものである0
3‑ 2
日本 電気 における
SBU日本電気 の大部分 の事業部はそれぞれ,基盤技術や市場特性が異 なる複数の 製 品群 を手掛 けている。換言すれば,多 くの事業部の内部 には,基盤技術 や市 場特性 を同 じくす る単位が い くつか存 在する。 こうした共通の基盤技術や市場 特性 を持つ単位 を 「 戦略的事業単位
(StrategicBusinessUnit:SBU)」という。
ただ,単一製 品 しか手掛 けていない事業部 もあ り,その場合 は事業部 と
SBUが一致する。
PPM
の思考 に基づ いて 「 設備投 資 ガイ ドブ ック」 を導入す る際,事業部単 位 だけでな く, 同社 の経理部門は
SBU単位 の会計情報,つ ま り損益計算や現 金収支計算 を行 な うようになった とい う
。さらに,中長期事業計画や年度予算 について も,事業部 は
SBU別 に作成,編成す るよう規定 されていた1 5 ) 。その ため,社長 をは じめ とする経営 陣に,事業部長が 自部門の事業計画を説 明す る 際 は,
SBUごとに説 明す ることが基本になっているとい う1 6 ) 0
多かれ少なかれこの手法が研究された形跡があ り,この手法の概念的枠組が,本 社スタッフとの面接のさいに,本社スタッフと筆者 との間に,ある程度,共通の 思考の枠組みを提供
」 (pp.142‑143)したと述べ,複数の事業部を有する企業の 設備投資プロセスにおいて,PPM の手法が利用されていることを示 している。
15)安部氏によれば,本社企画部がPPM
の手法を導入 しようとした際,本社企画部 は
SBUの位置づげを行なうこと,およびそれに必要な
SBUごとの会計情報を 収集できるシステムの構築 しか考慮 していなかったという
。しか し,
SBUごと に会計情報を収集できるのであれば,それを中長期計画や予算制度と結び付ける べ きと本社経理部が主張 し,それが実施されるようになったという
。16)
安部氏によれば,日本電気においては,事業計画 ・利益計河を
SBU別にプラン
ニングすることが基本原則である。そ して,この事業計画は,財務的なキャッシュ
フローも含め,立案されるものだという
。196 商 学 討 究 第60巻 第
2 ・3号
3‑ 3設備 投資意思決定 の枠組 み
事業部制組織 を前提 に行 なわれ る 日本電気 にお ける設備投 資意思 決嘉 では, 最終 決裁 を誰 が行 な うか とい った点か ら,投 資案件 を大 き く
2つ の種類 に分 け て い る
。 1つ は,意思決定 を事業部 の責任 で行 ない,事業 部長が最終決裁す る
「 事業 部 レベ ルの設備投 資案」。 もう
1つ は,事業 部 が投 資案 を起案 して,本 社 経営 陣が承 認 ・最終 決裁 す る 「 全社 レベ ルの設備投 資案 」 であ る。後者 の全 社 レベ ルの設備投 資案 を, 同社 で は 「 CBP( Co r p o r a t eBu s i ne s sPl a n )
」と し
て い る ( 図表
3参照)0
後 述 す るが , よ り正 確 に言 えば, 「 全社 レベ ルの設備投 資案 を含 む
SBUビ ジ ネスプ ラ ン」 の ことが, CBP と呼 ばれ る
。国表
3E l 本電気における設備投資意思決定の枠組み 最終決裁の レベル 起案 .決裁のプロセス
事業部 レベル 事業部内で起案され,事業部長が最終決裁
CBP と呼称 され る投 資案 とは,具体 的 には下記 の項 目を含 む内容 の投 資案 件 の ことであ る
。( ∋ 急速 に拡大 す る事業
② 事業業績 にイ ンパ ク トの大 きい事業
③ 多額 の資源投 下 を要 す る事業
① 他事業 グルー プ との 関係 の深 い事業
⑤ 新製 品 の企業化事業
⑥ 会社 の設立 ,資本参加
⑦ 工場 の新増 設
⑧ 戦 略 的基盤 共通技術 の開発研 究
CBP と して扱 われ る設備投 資案 は,全社 的な レベ ルで意思 決定 を要 す る投
資案 であ るた め に , CBP と して扱 われ る。それ は投 資案件 の内容 の問題 であ り,
投資額の多寡によ り
CBPか否かが判断されることはない。 しか し,上記の項 目にあてはまる設備投資案か否か,事業部では判断に迷 う案件 も存在する。そ うした案件が提起 された場合,事業部は本社企画部に問い合わせ,その意見を 聞いた上で,
CBPに該当するか否か判断することになるという
。また,事業部の中期計画あるいは年度予算を経営陣に説明する際,設備投資 に関連する話題が出ることもある。その際,社長 をは じめとする経営陣が,そ の設備投資案 を含むビジネスプランを
CBPとして提 出するよう,そうした会 議の場で直接指示することもあるという
。本稿では, この
CBPについて具体的に考察する。
3‑4
全社 レベルの設備投資案の流れ
日本電気 における全社 レベルの設備投資案は,図表
4のような流れで実施 さ れる
。〔 1 ) ④事業方針 ・目標,⑧事業戦略
全社 レベルの設備投資案 についての意思決定は,まず事業部の 「 事業方針 ・ 事業 目標」お よび 「 事業戦略
」か ら始 まる。 これはそれぞれの事業部が, 日本 電気の一分野 を担 う部門として, どういった役割 を果たすのか といった方針や 目標 を立て,それに基づいて,事業部 としての戦略が策定 される段階である。
当然のことなが ら,事業部の方針 ・目標や戦略は,各事業部が 自由に決める ものではな く, 日本電気全体の企業方針 ・目標,そして企業戟略を受けて,設 定 される。
( 2)
◎ppM日本電気の経理部門は,
SBU単位の会計情報を作成 している。それにより,
事業部長は 自部門内の
SBUが どのような状況かを把握で きる。 また,複数の
SBU を抱 える事業部長が,限 りある経営資源 をそれぞれの
SBU にどのように
配分すべ きか考える際 にも,そうした情報が利用 される
。SBU単位の会計情
198
商 学 討 究 第6 0巻 第 2 ・3号
ヒアリング調査に基づ き作成。
図表
4 CBPのフローチャー ト
報 などを得た事業部長は, PPM の手法を用い,それぞれの
SBUへの資源配分 の優先順位を決定 している
。ppM
とは,
「ProductPort丘)1ioManagement」の略である
。日本電気 におけ
るこの手法 は,本社 企画部が製品ポー トフォリオ ・マ ネジメ ン ト
(PPM)の
手法 を同社 の実態に合 うよう改良 した ものである
。PPMを利用することで,
事業部長や事業計画量のス タッフは, 自部門の S BU を事業戦略に基づいて位 置づ けることがで きる。 さらに,その結果 を策定 ・決定 した事業戦略あるいは 事業方針 ・事業 目標 にフィー ドバ ックさせ,その修正 ・是正措置 を講 じること
もで きるようになっている
。(3)⑧sBU
ビジネスプラン,⑥ 中長期事業計画+中長期資金計画
P PM を利用 し,事業部長はそれぞれの S BU を位置づけ,その結果 を受けて,
SB
Uの責任者 はビジネスプランを作成する
。S BU の ビジネスプランを作成する過程で, S BU の生産計画や販売計画な ど が立て られる
。そ して,場合 によっては,既存の設備だけでは市場需要 に応 え られないことも判明する。例えば,市場が求める製品価格 を実現 させるために は,原価低減 を図る必要があ り,そのためには生産性の高い新型設備を導入 し なければな らない。あるいは新製品開発 に備 え基盤技術の開発 を進めておかな ければな らない等である 。S BU で設備投 資が必要 と考 えられれば,その S BU
内でプロジェク トが発足 し,設備の基本仕様を決めて,設備投資を考慮 した ビ ジネスプランが立案 される
。S BU か ら事業部長 に宛て,「 設備投資案 を含む SBU の ビジネスプラ ン
」が 提案 された場合,事業部長および事業計画室のス タッフなどは,その経済性な どを評価することになる。事業部内での経済性評価 は,事業部 ごと異な り, 冒 本電気全体で統一 されている訳ではない。 また,本社か ら事業部に一律 の基準 を指示 している訳で もない という
。従 って,その設備投資案 を含む S BU の ビ ジネスプ ランを, SBU の ビジネスプランとして承認す るか否かの方法やその 判断は,最終 的には事業部長に委ね られている。
設備投 資案を含む S BU の ビジネスプランは,事業部の中長期事業計画 と連
動 していなければな らない。それは,設備投資案 は,提起か ら実施 までに数年
を要することが多々あ り,実施 までの各ステ ップが可視化 されていなければ,
実現で きない と考えられているためである。 また,中長期的な資金面での裏付
けがなければ,設備投資案 を含む S B U の ビジネスプランは,画に措いた餅 に
200
商 学 討 究 第60 巻 第 2 ・3号
終 わって しまう。そのため,同社 においては, S BU ビジネスプランが, 自ず と事業部の中長期事業計画や財務計画 と結び付 け られるように,提 出書類の形 式 な どが整備 されている
。事業部長の承認 を得た設備投 資案 を含む S B U の ビジネスプランが,全社 レ ベルの設備投 資案 に該当す る場合,本社経営陣の承認 ・決裁 を仰がなければな らない。そ こで,事業部長 は,「 全社 レベ ルの設備投資案 を含む S BU ビジネ スプラン」 を C BP として起案す る
。つ ま り,日本電気 では,例 えば,
1工場 の建設や,組立工程
2ラインの設置, 機械 設備 3 台の導入 といった設備投資案 を CBP と呼んでいない。そ うした設 備投 資対象だけを取 り出すのではな く,設備投 資案 を含む S BU ビジネスプラ
ン全体 を CBP と呼び,それを設備投資意思決定における審議対象 としている
。換言すれば, 同社 において,設備投資の意思決定 を行なう際,審議対象 となる 会計実体 は,個 々の設備投資対象ではな く ,S BU ビジネスプランなのである。
( 4 ) ( 臣cBP の審議 ・決裁
CBP の審議 ・決裁は,投資評価実施手続 に則って行なわれる。
起 こされた起案 は,通常常務会で審議 され,その上で承認か否かが決 まる。
しか し,実際 には常務会以前の,「 設備起案検討会議」の段 階で実質的な審議 が行なわれるのだ とい う。 この会議は,定期的に開かれる ものではな く,必要 に応 じて開催 される。設備起案検討会議 には,常務会メ ンバーや本社のス タッ フ部門長などが参加 し,そこで, CBP について事業部長か らプ レゼ ンテー ショ ンがなされる
。また,設備起案検討会議 にかける以前 に,設備投資を考えている事業部は,
CBP の原案 を本社企画部や本社経理部 門に説明 して意見 を求め.内諾 を得て お く必要がある。
設備起案検討会議 における CBP の審議は,次 のような点 について行なわれ る
。@ 事業環境の見通 し
① 市場競合状況
㊤ 事業 の方針 ・目標
④ 製品及 び技術 開発計画
㊤ 販売計画
① 資金の問題
④ 効率の問題
① 他事業 との シナジー G) 事業遂行上の問題
審議 における重要 な点は,
1つ
1つの設備投資対象 を評価 す るのではな く, その設備が必要 とされ る
SBU全体 に,設備投 資 を行 な うとどれだけのメリッ
トが もた らされるのか を評価 していることにある とい う
17)0
評価 は,単 に経済性 だけを見るのではな く,なぜ
SBUがそ うした設備投 資 を必要 としているのか に主 眼をお き,次 にそれが経済的に見合 うものか否かで 判 断するのだ とい う。
また,前述 のように 日本電気 は非常 に現金収支の管理 に厳 しい。そのため, その設備投 資が どれ くらいの期 間で回収 される案件かで も判断される。つ ま り, 設備投資が 回収期 間法で も評価 される。それは, 日本電気が属す るエ レク トロ ニ クス産業では,技術革新 によって製品のライフサ イクルが非常 に短 く,急 い で投資額 を回収 しなければ,回収 で きな くなって しまうリス クが高 まるためで あ るとい う。 つ ま り, 日本電気が 回収期 間法 を非常 に重視 しているのは,その 手法が同社 の経営実態 に合 うものだか らである
。CBP が承認 されれば,決裁 されるこ とになる
。その決裁が本社経営 陣の ど の レベルで行 なわれるのか は,投 資額 によって異 な り,その基準 は非常 に細か
く定め られているとい う。
17)安部氏 によれば,SBU別の採算評価が 日本電気では基本であ り,個々の設備を
導入 した場合に関する経済的評価は一切行なわず, 日本電気では,設備を導入 し
た
SBUがそのプロジェク トが実施された場合, どのように収益が変化するかを評価するという
。202
承 認 され た CBI )
事 業 部
損 益 予 算
事 業 部 現 金 収 支 予 算
商 学 討 究 第 6 0 巻 第 2・3 号 事 業 部 に お け る 設 備 予 算 の 標 準 的 な フ ロー
当 該 年 度 の 投 資 方 針 の 指 示
設 備 投 資 原 案 の 積 み 上 げ
事 業 部 長 に よ る ヒ ア リ ン グ 投 資 の 分 布 バ ラ ン ス の チ ェ ック
事 業 部 全 体 の 投 資 効 率 の チ ェ ッ ク
事 業 部 の 資 金 枠 と の整 合
事 業 部 設 備 予 算 案
事 業 部 ‑ 設 備 予 算 配 分
(S】3
日 の プ ロ ジ ェ ク ト別 )
本 社 .予 算 会 議 等 で の
・全 社 収 支 枠
・投 資 効 率 比 較
全社設備予算 最終決定
ヒアリング調査に基づ き作成O
図表
5設備予算編成までの流れ
( 5) ◎短期事業計画+資金計画,⑪設備予算
CBP が決裁 されれば,事業部は決裁 された S BU の ビジネスプランをまとめ, 事業部 としての短期事業計画を作成す る。つ まり,その設備投資案 を含んだ ビ
ジネスプランを実行で きるように予算化することになる。設備予算編成の流れ は,図表
5の通 りである
。事業部の短期事業計画 ( 損益予算 ・資産負債計画)は,当然のことなが ら,
事業部のその年度の資金計画 ( 現金収支予算) と連動 して作成 される。 また, 各事業部の予算が稔合 されて企業予算 となる。従 って,全社 的なキャッシュフ ローの状況か ら
,CBPとして認め られた設備投資案への予算が,半減 された り,次期に練 り延 ばすよう指示 された りすることもあるという
。従って,い くら
CBPとして認め られ,回収で きる投資だか らといって も,そのまま設備予算 に計上 される訳ではな く,事業部 としてのキャッシュフロー の状況や,全社 としてのキャッシュフローの状況次第では,投資額が抑制 され ることもある
。また,逆にキャッシュフローの状況を厳 しくするような投資で ち,戦略的に重要だと考え られれば,そのまま認め られることもあるという。
そ して,設備予算 として予算化 されれば,設備の発注が行なわれる。
3‑5
設備予算 としての事後評価
日本電気 における設備投 資の評価 は,設備予算の達成状況 を通 じて評価 され る。
毎月,事業部長以上の幹部会議で,事業部 ごと
SBUレベルで業績状況,チ 算達成状況が説明されてい く
。日本電気 における予算体系 は図表
6の通 りであ
る
。このうち,損益予算や現金収支予算の設備支出予算 に,設備投資の効果が反 映 される。
また,経理部門は,SBU別の会計情報を各事業部門に提倶 している。これは, 事業部が
SBU別 に予算 を編成す ると,経理部 門はSBU別の コー ドを設け,事業部がそのコー ドを入力すれば,す ぐに予算 と実績 とを比較 した情報が提供
されるようになっているという
。204
商 学 討 究 第 6 0 巻 第 2 ・3号
A.
損 益 予 算 l
営 業 予 算
製 造 予 算
研 究 費 予 算
販 売 費 予 算
般 管 理 費 7,罪
受 注 7,第 売 上 高 予 算 付 替 高 予 算 売 上 原 価 予 算 付 替 原 価 予 算 製 造 経 費 予 算 資 材 費 7,寡 付帯 受 原 価 拝 予 算
売 上 債 権 計 画 棚 卸 資 産 計 画 固 定 資 産 計 画 投 融 資 計 画 買 掛 ・女 手 計 画 前 受 金 計 画
売 上 入 金 予 算 資 材 費 支 出 予 算 人 件 費 支 出 7,算 経 費 支 出 予 算 設 備 支 出 予 算 投 融 資 予 算
ヒア リング調査 に基づ き作成O
図表
6日本電気における予算体系
4. む す び
本稿では, 日本電気の,全社 レベルに影響 を及ぼす設備投資が, どのような
プロセスを経て実施 されているのかを明 らかにしてきた。そこで,明 らかになっ
た知見は,下記の
3点である。
① 日本電気の設備投資意思決定で,審議対象の会計実体は,建設や設置 さ れる設備ではない。典型的な管理会計理論で明 らかにされているような, 設備その ものの経済性評価 で判断するということが行なわれてない。同社 における設備投資意思決定で,審議対象の会計実体 は,設備投資案を含む
SBUビジネスプ ランである。それが必要か否か,それが経済性 に合理 的 な ものか否か,そ して,投資を回収することがで きるか否かで判断される。
② 設備投資案 を含む
SBUビジネスプランが承認 ・決裁 されて も,事業部 や全社 のキャッシュフロー状況 との兼ね合いか ら,設備予算の中で調整 さ れ,設備投資が行なわれる。つ ま り,同社の設備投資案の意思決定プロセ スでは,設備投 資が妥当か否か を問 うための
CBPの審議 と,それを実現させ る資金的裏付 けの設備予算 とい う
2つの段階が,重要な鍵 となってい る。
③ 設備投資の事後評価 は,それを含む
SBUビジネスプランの業績評価や 予算達成状況 とい う形で行 なわれる。
本稿の意義 は,冒頭で述べたように, これまで,具体的な個別企業における 設備投資の意思決定プロセスを明 らか に した研究が少ない中, これを明 らか に
した点である
。【 付記】本稿は,科学研究費補助金 ( 若手研究 ( スター トアップ)課題番号
20830005)による研究成果の一部である
.206
商 学 討 究 第
60巻 第
2・3号
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