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小学生の漢字習得のための字形の方分けを基本とした学習プログラムの開発に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)小学生の漢字習得のための 字形の型分けを基本とした学習プログラムの開発に関する研究 キーワード:漢字習得. 曖昧な視点. 字形分割ルール. 学習プログラム. じわじわ型ストラテジー 発達・社会システム専攻 日高. 1.問題. る何らかの的確な視点を持てる学習者も存在する。し. 文部省が 1952 年に出した漢字の誤字に関する調査 資料. 1). 清憲. を見ると、現在の小学校で見られる漢字の誤字. と同様のものが実例としてあげられている。このこと. かし、これ以上に学習者が曖昧に漢字の字体を見てい ることを示す誤字の実例は、これまで採られてきた漢 字習得法の不備を明確に示していると考えられる。. は、学習者が変わっていないという資料にもなるので. 無意味記号の暗記に近い条件の中で漢字を覚えなけ. あろうが、もしそれならば、同時に教授者側の採る漢. ればならない学習者の書字は、当然、混乱した学習者. 字習得のための方法も変わっていないことも意味す. の視点を反映するものとなるのではないかと考えられ. る。. る。それは、2002 年度6年生の誤字状況から見ると、. 漢字を書き取り練習によって覚える、覚えられなけ ればさらに書き取りを繰り返して覚える、このような. 左右逆転・再生不足・再生過剰・変形などの言葉で表 される。. 過程が当たり前のものとして、小学校の漢字習得の方. もしも、字形に関して「見えていない」状態なので. 法として用いられてきた。一定の効果があればこそ、. あれば 、「見える」ようにすることでその書字が改善. 学習者として、教授者として、漢字の書き取りの練習. されていくと考えられる。これまでの漢字習得法にお. を繰り返してきた。それは、教授者側の「手本の漢字. いても、字形を学習者に把握させるべく、部首や熟語. を提示して、まねさせれば習得に至る」という、学習. と関連させ意味を詳しく説明したり、視覚に訴えるな. 者の漢字習得に関する誤解がそのまま疑われもせず暖. どの方法を採られてきた経過はある。しかし、学習者. められ続けたということである。. にとって煩雑さを感じさせたり、困難を感じさせるも. 筆者がA市B小学校の 2002 年度の6年生の漢字書. のであったため、漢字習得方法として一般化されると. 字実態に関して調査した結果、漢字の習得時における. ころまでには至らなかったようである。そのために、. 学習者の視点は曖昧であり、そのため字形・読み・意. 最後は漢字は書き取り練習で、というパターンが続い. 味に関するあらゆる乱れのあることが確認され、その. てきたと考えられる。少なくとも50年前から続く誤. 中でも字形に関する誤りが最も多岐にわたって見られ. 字状況には、方法的な再考が加えられないまま、学習. た(図.1参照)。. 者の努力に寄りかかった形で今に至っているのであ る。 2.目的及び目標と研究法 2002 年度6年生を対象とした調査より、左右逆転 ・再生不足・再生過剰・変形などが書字に確認された 学習者は、漢字字形に対する視点が曖昧な状態にある. 図.1. 2002 年度の6年生の書いた誤字から. ことが推測された。このことは、誤字の少ない学習者 の書字状況に見られる字形把握の明瞭さとの対比から も確認された。よって、字形に対する曖昧な「学習者. これらの誤字は、学習者への漢字の提示方法の曖昧. の視点を字形の細部へ向かわせ、誤字状況を改善する. さによる書字の乱れであり、漢字練習ノートの中で学. こと」を本研究の目的とした。また、具体的な下位目. 習者によって自生的に起こされる手本の漢字の変形で. 標は、ア)誤字出現数の削減、イ)字形の質的改善、. ある。. この2点を挙げ、これらについて、クラス全体の傾向. 確かに、教授者から何も教わらなくとも字形に関す. と個人・漢字別に状況を分析することとした。.

(2) ここで、字形細部とは、具体的に挙げると「とめ」. 形などが、漢字練習ノートからは、練習の繰り返しの. 「はね 」「はらい 」、字形を構成する部品の形とその. 過程で見本の漢字からの変形が見られた。提示された. 位置関係、例外例的な斜線や斜体、などである。これ. 漢字が学習者に曖昧に記憶されたまま再生されている. らを個別のバラバラな知識として覚えさせられる状態. 状況にあることが、ここでも推測された。. にある学習者の字形把握をルール化して明瞭な字形把. 学習プログラムに導入する字形分割ルールは、大き. 握にするための手だてとして、字形分割ルールを用い. く3つの種類に大別した( 図.2 参照)。それは、. ることとした。字形分割ルールは、部首ルールによる. Ⅰ.たて2分割型ルール、Ⅱ .よこ2分割型ルール、Ⅲ.. 漢字字形の分類をより簡略化したものであり、学習プ. 例外型ルール、である。. ログラム中で使用される型枠も同様である。また、学 習者が字形を分割して把握することを促進する上か ら、学習者の視点による字形分割を尊重するので、部. Ⅰ. たて 2 分割型ルール. 首ルールとは矛盾する字形分割も認めることする。さ. Ⅱ.よこ 2 分割型ルール. らに、予め用意された正解に学習者が漢字をあてはめ るのではなく、学習者同士の判断によって字形分割と そのルール化を進めた。. Ⅲ.例外型ルール. 字形分割ルールを用いた学習プログラムには、細谷 2). の言うじわじわ型ストラテジーを採用した。これに. より、学習プログラムは、①学習者への字形分割ルー ルの提示、②字形分割ルールにあてはまる漢字(実例) 図.2. となるかの判断、③ルールにあてはまる漢字(実例). 字形分割ルールの3類型. 探し、という教授過程を踏むこととなる。 本研究では、研究法として構成法3)の形を採った。 統制群との比較を行うことで仮説の検証を行うのでは. たて2分割ルールは、部首における「へん 」「つく. なく、実験群の事前の成績と事後の成績を比較して仮. り」ルールに対応する。漢字配当表4)の中に最も多く. 説の検証を行うこととなる。本研究の仮説は 、「漢字. 見られる漢字であり、位、願、郡、札、説、などがこ. の形の細部とその構成に着目させることができれば、. のルールの実例となる。個数が多いため、型枠にあて. 字形に関する誤りを改善することができる」というも. はまるかを判断したり、型枠にあてはまるものを探す. のであり、対立仮説は 、「漢字の字形とその構成への. 場合に、他のルールよりも学習者が容易に作業を進め. 着目以外の方法で字形の誤りを改善することができ. られることが考えられる字形分割ルールである。よっ. る」ということになり、これが現状のまま学習をすす. て、学習プログラムの1段階目に位置づけることにし、. めていく場合に相当する。しかしながら、 2002 年度. 以降、よこ2分割型ルール(部首における「かんむり」. 6年生の誤字状況の調査から見て、現状のまま学習を. 「あし」ルールに対応 )、例外例型ルールと続くよう. すすめてもこの対立仮説が成り立つとは考えにくく、. に組み立てた。. この段階で否定されることとなる。よって、統制群の 設定は本研究において必要とされない。. 例外型ルールには、前出の2種の字形分割ルール以 外の多様な細分化された型枠が属することになる。漢 字配当表に見られる個数はそれほど多くないが、種類. 3.方法. は多岐に渡る。ここで、見つけられた型枠がルールと. 2002 年度6年生の誤字状況の調査形式を踏まえ、. して成り立つための条件として 、「あてはまる漢字が. A市B小学校 2003 年度5年生C組の誤字状況を調査. 2個以上あること」とした。これにより、学習者によ. した。調査は、前年度4年生までの漢字 100 問によ. って見分けられる型枠の過度の細分化や無理な細分化. る漢字テストと漢字練習ノートの書字について行っ. が排除されると共に、適用範囲は狭いがルールとして. た。. 一定の一般性を持つルール群が整理されることにな. これによると、 2002 年度6年生と同様の誤字状況. る。. が 2003 年度5年生でも確認された。漢字テストの回. また、学習プログラム実施時には、当該する 100. 答からは、字形の左右逆転・再生不足・再生過剰・変. 問テストの漢字を特に取り上げることはせず、4年の.

(3) 漢字全般を復習する形を採ることとした。. しては、全体的な誤字数の減少が見られた。さらに、. 学習プログラム実施直後に行った事後テストは、事. 検証対象者3人の書字においても関連した変化が見ら. 前テストと同様のものを使用して誤字の数や質の変容. れた。誤字として把握されるテストの回答欄の「空欄」. の面から学習プログラムの効果を分析する材料とし. と「誤記入」を分けた分析では、正解には至らないも. た。. のの、事前テストでは空欄として書字としてさえ現れ. なお、本研究の学習プログラム実施対象の5年生の. なかった学習者の字形把握が誤字という形ではあって. 1クラスは、教授活動を行う上での様々な問題を抱え. も事後テストには現れた。このことも学習プログラム. ているクラスであった。具体的には、学習者間の孤立. の効果のひとつと考えられる。さらに、検証対象者別. による聞く・話す関係の低下、学習への集中力の持続. も誤字分析でも状況が改善されていることが確認され. 困難などであった。さらに、教室内外で起きる問題行. た(図.4 参照)。. 動によって、学習者同士が落ち着き安心して授業にの ぞむ状態からは程遠い状況であった。なお、漢字書字 に典型的な変形が多数見られた学習者から3名の学習 者を検証対象者として設定した。 ⇒ 事前. 4.結果と考察. ⇒ 事後. 事前. 事後. 図.4 検証対象者の誤字改善の一例. 本学習プログラムは、15分間を基準とし、最終時 の13時のみ45分間で行った。各時における学習者 の反応は、全般的に教授者の行った教授活動に対して 「良好」なものであった。学習者の戸惑いや不安を排. また、当初から、誤字の発生は画数の多さとの関連. 除することに留意しながらの教授活動であったが、字. 性を想定していた。しかし、画数が少ない漢字に見ら. 形分割ルールに沿った「判断する 」「探す」作業に活. れた左右逆転の例などから、字形を構成する線の中で. 発に取り組んでいた。学習者の書いた感想では 、「少. も特に斜線が関与する左右のアンバランスが学習者の. しむずかしかったけど楽しかった 」「らくしょうでお. 字形把握を混乱させることも確認された(図.5 参. われた 」「もっと勉強したいです 」「かんじがは(ママ). 照)。. かった 」「漢字はきらいだったけどちょっとすきにな った」など、学習内容に肯定的なものが多く、普段の 授業で見られる姿とは異質なものであった。これまで の漢字学習を通して形成されてきた学習者の漢字の学 習や練習の印象と違ったものが学習者に抱かれたと考 えられる 。「むずかしい 」「わからん 」「いや」という. 図.5 斜線の入った漢字の誤字状況の一例. 反応が、一時的にはあったものの、持続はしなかった。 そして、何より検証対象者には学習態度の変容が顕著 であった。具体的には、担任からも指摘を受けた学習 者の書字状態の改善(図.3 参照)、発言の活性化、. 5.まとめ 本研究では、字形分割ルールを導入した学習プログ ラムの実施により学習者の視点を漢字の細部へ向け学. 授業への学習者の集中、などであった。. 習者の誤字状況改善を目指してきた。事後テスト等で 確かめられた学習者の反応の変化から、誤答数削減や 誤答の質の改善という形で学習プログラムの効果が確 認された。 事前. 事後. 図.3. 事前. 事後. 事前. 事後. 学習者の書字状態改善の一例. 具体的には、学習プログラムの実施にあたって、漢 字の提示方法に字形分割ルールを用いたことで、事前 テストまでの段階で見られた字形に対する学習者の視 点の曖昧さの改善が見られ、誤答数の削減につながっ. 本学習プログラムの目標とする誤字状況の改善に関. たと考えられる。さらに、誤答中では無答が減り、誤.

(4) りを持ちながらも何らかの書字が増えており、学習者. 効果についての疑問は、これまで見てきた学習者の実. の字形への視点が改善された反応と考えられる。. 態や学習プログラムを経ての変化によって、より確か. また、書き取り練習の方法においてはまず、漢字の. なものになった。繰り返しの書き取り練習が、一定の. 手本の提示場所をマスの上部ではなく左側へ置いた。. 成果を持っているとはいえ、どの学習者に対しても有. さらに、練習の途中で書字が変形していく学習者の存. 効なものではなく、場合によっては誤字を発生させる. 在を考慮し、練習回数を2・3回にして、何度も繰り. 機能を有していることに教授者側が意識するべきであ. 返して書くことよりも手本の字形に注意を向けさせる. る 。「基礎基本」の習得を強調するあまり、そこで採. ことを優先した。これにより、学習プログラムで用い. られる繰り返しの書き取り練習という習得方法の不備. たワークシートでの書き取り練習では、実態調査の段. や限界について、教授者側の「曖昧な」視点を組み替. 階で見られたような手本の文字の変形が殆ど見られな. えることがまず必要であると考える。漢字を不得意と. かった。. 考え、誤字の多い学習者の中には、昼休みや放課後の. さらに 、「望」の「月」の部分の曲線の書字は、字. 休み時間をつぶして書き取り練習をさせられてきたも. 形の変形が改善されにくく、書き取り練習の繰り返し. のも少なくない。彼らは、他の学習者よりも、漢字の. だけでは学習者の字形の把握状態を組み替えにくい。. 書き取り練習を多く行ってきた学習者であるとも言え. だが、事後テストにおいてはこの書字の変形が改善さ. るのである。. れた学習者が多く見られた。漠然と手本を提示して、. 練習という名の下に何が進行してきたのか、疑問の. 字形の注意点について説明を加えたり、書き取り練習. 目を向けるべき対象が小学校で漢字の学習以外にも存. を繰り返すことだけでは、容易には修正を見ない線が. 在するのだろうと予測される。. 「望」の字体に含まれている(図.2の誤字を参照)。 漢字の字形をより細かく部品に分けて見ることを学習. 6.註. 者に促すことによって確認された書字変化であると考. 1)文部省 (1952) 「児童生徒の漢字を書く能力と. えられる。 しかし、目標の未達成点や課題も明らかになった。 まず、学習プログラム実施直後には改善されたと見. その基準」 pp.149-204. 2)細谷純 (2001) 教科学習の心理学 東北大学出版 会 pp.117-124.. られた誤字状況が、一部の学習者において学習プログ. 「予想と結果との一致から同意にもとづいて新『ル. ラム終了後1ヶ月を経て行われた確認テストにおいて. ール』の使用習慣をつよめ 」、異なる課題群の提. 再び見られた。これは、学習プログラム実施回数の追. 示に際して「自分で新『ルール』適用」を繰り返. 加によって補えるものとも考えられる。しかし、学習. し、やがて新ルールを獲得させる、という展開で. プログラム実施中には潜在化していた学習者の持つ曖. 学習者に働きかけようとする教授方略である。. 昧な字形把握の視点が、時間の経過とともに再顕在化. 3)牛島義友ほか ( 1969) 教育心理学新辞典 p.279. したとも考えられる。それは、学習プログラム実施中. 宇野忍編 (2002) 授業に学び授業を創る 教育心理学第2版. は、そこで採られた方策により押さえつけられていた. 中央法規出版 pp.14-22. 学習者固有に形成された字形把握(誤ルール)が、学 習プログラム終了後の時間の経過とともに制約が外れ. 4)文部科学省 ( 2002) 「小学校学習指導要領解説 国語編」 pp.174-177.. たために浮上してきたということである。これについ て、現時点での確認を行う材料は持ち合わせいないが、. 7.主要参考文献. 漢字習得は学習者の字形への視点だけでなく読みや意. ① 細谷純 (2001) 教科学習の心理学 東北大学出版. 味にも拡がりを持つものであり、学習者の漢字習得に 干渉する書字以外の要因にも考慮していく必要がある だろう。特に、個々の漢字が意味を持つものであり、 学習者は意味をたどりながら文字を獲得すると考え、 今回の研究では実態調査にとどめた漢字の意味・読み を考慮する必要が出てくる。次なる段階の研究課題と したい。 問題で述べた漢字の書き取り練習の繰り返しによる. 会 ② 宇野忍編 ( 2002) 授業に学び授業を創る 教育心理学第2版 中央法規出版.

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参照

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