日本のジオパークにおける「地球科学」
―
多変量解析に基づく検討
―尾
方 隆
幸
*Geosciences in Japanese Geoparks :
Discussion and Suggestions Based on Multivariate Analyses
Takayuki OGATA*
[Received 6 June, 2014; Accepted 30 September, 2014]
Abstract
Geoparks target all geoscientific multidisciplinary and interdisciplinary areas, whereas sci-entific topics of Japanese geoparks incline toward specific themes. Content analysis reveals that many geoparks attach greater importance to solid earth sciences (e.g. geology) and/or human geosciences (e.g. geography) than biogeosciences (e.g. paleontology), atmospheric and hydro-spheric sciences (e.g. meteorology), and space and planetary sciences. Specialization coefficients clearly show this inclination, and suggest a shift from geological to geographical themes. Multi-variate analyses also indicate several clusters of Japanese geoparks characterized mainly by geological and/or geographical contents. This specialization enumerates geological and/or geo-graphical topics, and restricts a seamless geostory for interpreting a landscape. An educational program on the Ryukyu Islands focuses on various geomorphic processes related to the global environmental system. This program contributes to both an attractive and scientific geostory on interactions among atmosphere, hydrosphere, and geosphere. A seamless geostory using multi-disciplinary and intermulti-disciplinary approaches should be given more consideration in all Japanese geoparks, because it enhances a comprehensive outreach and education on geoscience.
Key words:geopark, geostory, geoscience, outreach, multivariate analysis
キーワード:ジオパーク,ジオストーリー,地球科学,アウトリーチ,多変量解析 I.は し が き ジオパークは,地球科学的遺産を保護・保全 し,それを学校教育・生涯教育に活かしたうえで, 持続的な地域振興を図ることを使命とする。換言 すれば,ジオパークは地球活動を理解するための ひとつのシステムといえる。したがって,地球活 動を対象とする学問,すなわち地球科学のすべて の分野がジオパークに関係する(尾方, 2011)。 これは,日本地球惑星科学連合大会のパブリック セッションおよびジョイントセッションでジオ パークに関する議論が行われていることからも裏 づけられよう。ジオパークが健全に発展している か否かを学界の側から評価するうえで,ジオパー クにおいて地球科学がどのように扱われているか を調査することは最重要課題のひとつである。 * 琉球大学教育学部
* Faculty of Education, University of the Ryukyus, Nakagami, 903-0213, Japan
ジオパークが扱うテーマについては若干の論文 がある。小泉(2011)は,地形・地質に加えて 生態系や人文景観をとりあげる重要性を強調した うえで,とくに地生態学の視点から総合的に自然 史を扱うべきことを指摘した。河本(2011)も, ジオ多様性・生物多様性・文化多様性を統合した 「地域多様性」の視点が必要であるとした。柚洞 ほか(2014)は,地質学的ジオストーリーだけ ではなく,地理学的ジオストーリーを定着させる べきことを強調した。しかし,これらの総説や解 説記事は概念的なフレームワークや一部地域の事 例を議論したものであり,実際に日本のジオパー クで扱われているテーマを全国的かつ具体的に分 析した研究は存在しない。 いま,日本のジオパーク界は急増期に入ったと いえる。2014 年 5 月の時点で,日本ジオパーク ネットワーク(JGN)の正会員は 33,準会員は 16に及ぶ。市町村ベースでみると,日本の全市 町村の約 1 割がジオパークまたは構想エリアに 含まれる計算になる。このような背景を考えれ ば,ジオパークの理念を正しく普及するため,ま た地球科学のアウトリーチのツールとしてジオ パークを正しく機能させるためにも,現在のジオ パークが地球科学をどのように捉え,どのような テーマを設定しているか客観的に分析することが 急務である。 本研究では,JGN ウェブサイトのテキスト分 析と,得られたデータの多変量解析によって,日 本のジオパークが地球科学のどの分野をどの程度 の分量でテーマにしているかを明らかにする。そ して,解析結果を日本のジオパークシステムと関 連づけて考察したうえで,ジオパークと地球科学 の関係を改善するための方向性を議論する。 II.解 析 方 法 1)テキストデータ データとして,JGN ウェブサイトに掲載され ている各ジオパークのテキストを用いた。JGN ウェブサイトは「ホーム」「各種お知らせ」「各地 のジオパーク」「ジオパークとは?」「活動内容」 の各コンテンツにより構成されている。本研究で は,このうち「各地のジオパーク」のページを用 いて分析した。 JGN ウェブサイトの「各地のジオパーク」の ページには,各地域の紹介記事がリンクされてい る。リンク先に進むと,地域概要に続いて「主な 見どころ・おすすめジオサイト」の項目がある。 冒頭の地域概要はごく一般的な紹介が中心にな り,各地で差異があるとはいえ,地球科学的な内 容はあまり含まれないことが多い。また,この ページからは各ジオパーク独自のウェブサイトに もリンクが貼られているが,それらのリンク先は 記述スタイルや分量がまちまちである。本研究で は各ジオパークのテーマをできるだけ統一的な基 準で比較するため,JGN ウェブサイト「各地の ジオパーク」における「主な見どころ・おすすめ ジオサイト」のみを分析に用いた。 分析対象としたのは,2013 年 10 月 30 日の時 点で JGN ウェブサイトにアップされていた 25 地域である。これら 25 地域は,2012 年度以前 に JGN に加盟認定されたすべてのジオパークに 相当する。以下,本研究で「ジオパーク」と呼ぶ 場合は分析対象の 25 地域,「日本ジオパーク」と 呼ぶ場合は「世界ジオパーク」の 6 地域を除いた 19地域を指すことにする。本研究では,2013 年 10月 30 日時点の記述をテキストデータとして保 存し,分析に供した。保存時点での分析対象テキ スト量は合計 46,826 字であった。 2)テキスト分析 テキスト分析(内容分析)は,テキストデータ に対して属性コードを付し(コーディング),コー ディングされたテキストデータを上位の階層の分 類にまとめ上げる(カテゴライズ)一連の作業で ある(例えば, 樋口, 2006; 上野, 2008)。本研究で は,コーディングは単語レベル,カテゴライズは 文レベルで行った。 本研究におけるコーディングは,テキストの内 容が地球科学のどの分野に関するものなのかを判 定する作業となる。一例として「石灰岩の化学的 風化によってカルスト地形が形成されている」と いう記述があるとする。このとき「石灰岩」には 「岩石」のコードを付し,「化学的風化」と「カル
スト地形」には「地形」のコードを付す。ただし, 内容を的確に捉えるには,学術用語とコードを 一対一で対応させるわけにはいかない。例えば 「堆積」という術語の場合,「遠洋性堆積物からな る層状チャートがみられる」のように使われてい れば「地層」を付し,「凍結破砕による岩屑が崖 錐として堆積した」のように使われていれば「地 形」を付すといったように,文脈を読みながら個 別に判断した。 カテゴライズにあたり,地球科学を構成する大 きな領域として,日本地球惑星科学連合(JpGU) が設定している 5 つのサイエンスセクションを 用いた。すなわち,「宇宙惑星科学」「大気水圏科 学」「地球人間圏科学」「固体地球科学」「地球生 命科学」の 5 領域である。JpGU は,各領域が含 む代表的な学問分野を表 1 のように例示してい る。表 1 によれば,地球科学のうち,気象学と 関連分野は「大気水圏科学」に,地理学と関連分 野は「地球人間圏科学」に,地質学と関連分野は 「固体地球科学」に,古生物学と関連分野は「地 球生命科学」に,それぞれ含まれるといえよう。 3)データ解析 分析対象とした 25 のジオパークについて,学 問領域ごとのテキスト(文字数)の比率から特化 係数を算出した。特化係数は産業構造の分析など でしばしば使われ,一般には平均の構成比からど れだけ特化しているかを数値化した指標である。 本研究では,前節で述べた 5 領域の比率が均一 (それぞれ 0.2)の場合を基準とし,そこからど れだけ特化しているかを求めた。すなわち,ジオ パークごとに,各領域の比率を 0.2 で除したもの を本研究の特化係数とした1)。したがって,仮に すべてのテキストが「宇宙惑星科学」にカテゴラ イズされた場合,同領域の特化係数は 5.0(最大 値)となる。 続いて,各領域の比率を変数とするクラスター 分析を行い,テーマからみたジオパークの類型化 を試みた。本研究では Ward 法による階層的クラ スター分析を採用した。変数の単位が均一である ためデータの標準化は行わず,非類似度として ユークリッド距離を用いた。 III.解 析 結 果 1)学問領域ごとの比率 テキスト分析から求めた学問領域ごとの比率 を表 2 に示す。世界ジオパーク 6 地域について 比率をまとめると,高い順に,「固体地球科学」 (0.54),「地球人間圏科学」(0.42),「大気水圏科 学」(0.03),「地球生命科学」(0.01),「宇宙惑星 科学」(0.00)であった。世界ジオパークを除く 表 1 日本地球惑星科学連合ウェブサイトに示されたセクションごとの学問分野. Table 1 Geoscientific disciplines in each science section of Japan Geoscience Union (JpGU). Science sections of JpGU Examples of geoscientific disciplines
Space and Planetary Sciences Electromagnetism ExoplanetologyPlanetary Science, Solar Terrestrial Physics, Space Physics, Space Atmospheric and Hydrospheric Sciences
Atmospheric Science, Meteorology, Atmospheric Environment, Ocean Sciences, Hydrology, Limnology, Ground Water Hydrology, Cryospheric Sciences, Geoenvironmental Science, Climate Change Research Human Geosciences Geography, Geomorphology, Engineering Geology, Sedimentology,
Natural Disaster, Disaster Prevention, Resources, Energy Solid Earth Sciences
Geodesy, Seismology, Geomagnetism, Science of the Earth's Interior, Earth and Planetary Tectonics Dynamics, Geology, Quaternary Research, Lithology and Mineralogy, Volcanology, Geochemistry Biogeosciences Interactions, Palaeontology, PaleoecologyBiogeosciences, Space Biology, Origin of Life, Geosphere-Biosphere
日本ジオパーク 19 地域では,「固体地球科学」 (0.55),「地球人間圏科学」(0.33),「大気水圏科 学」(0.06),「地球生命科学」(0.05),「宇宙惑星 科学」(0.01)で,全体としては世界ジオパーク とほぼ同じ傾向になった。これらのデータは,日 本のジオパークのテーマが「固体地球科学」およ び「地球人間圏科学」を中心としており,それ以 外の領域に乏しいことを明瞭に示している。ジオ パークごとにみると,「固体地球科学」または「地 球人間圏科学」のいずれかに特化しているところ と,「固体地球科学」および「地球人間圏科学」 のいずれもが大きな比率を占めるところがある。 2)学問領域ごとの特化係数 世界ジオパークと日本ジオパーク,さらに後者 については加盟認定年度ごとに大別したうえで, 各ジオパークの特化係数をレーダーチャートで示 す。まず,いずれかの領域の特化係数が 2.5 以上 のものを抽出して記述する。特化係数が 2.5 以上 になるということは,テーマの 50%以上がその 領域で占められることを意味する。 表 2 ウェブサイトのテキスト分析による学問領域ごとの比率. Table 2 Ratio of each geoscientific discipline calculated from content analysis
using URL information.
No. Geoparks Authorized Disciplines P A H S B 1 Toya Caldera and Usu Volcano 2008 0.00 0.03 0.39 0.58 0.00 2 Itoigawa 2008 0.00 0.00 0.52 0.48 0.00 3 San'in Kaigan 2008 0.00 0.00 0.60 0.40 0.00 4 Unzen Volcanic Area 2008 0.00 0.02 0.31 0.68 0.00 5 Muroto 2008 0.00 0.16 0.38 0.40 0.07 6 Oki Islands 2009 0.00 0.05 0.50 0.46 0.00 7 Mt. Apoi 2008 0.00 0.00 0.42 0.58 0.00 8 Minami Alps 2008 0.17 0.00 0.20 0.48 0.15 9 Fukui Katsuyama 2009 0.00 0.21 0.40 0.28 0.11 10 Aso 2009 0.00 0.04 0.48 0.48 0.00 11 Amakusa Goshoura 2009 0.00 0.00 0.00 0.25 0.75 12 Shirataki 2010 0.00 0.03 0.25 0.72 0.00 13 Izu Oshima 2010 0.00 0.11 0.11 0.78 0.00 14 Kirishima 2010 0.00 0.10 0.25 0.65 0.00 15 Oga Peninsula-Ogata 2011 0.00 0.04 0.19 0.73 0.04 16 Mt. Bandai 2011 0.00 0.15 0.53 0.32 0.00 17 North Ibaraki 2011 0.00 0.00 0.31 0.54 0.15 18 Shimonita 2011 0.00 0.05 0.13 0.82 0.00 19 Chichibu 2011 0.00 0.00 0.51 0.42 0.07 20 Hakusan Tedorigawa 2011 0.00 0.19 0.51 0.12 0.18 21 Happou Shirakami 2012 0.00 0.00 0.53 0.45 0.01 22 Yuzawa 2012 0.00 0.08 0.51 0.41 0.00 23 Choshi 2012 0.00 0.00 0.49 0.42 0.08 24 Hakone 2012 0.00 0.05 0.54 0.41 0.00 25 Izu Peninsula 2012 0.00 0.08 0.24 0.69 0.00 P:宇宙惑星科学,A:大気水圏科学,H:地球人間圏科学,S:固体地球科学,B: 地球生命科学.
P : space and planetary sciences, A : atmospheric and hydrospheric sciences, H: human geosciences, S: solid earth sciences, B: biogeosciences.
世界ジオパーク(図 1)では,洞爺湖有珠山と 島原半島が「固体地球科学」(それぞれ,2.91, 3.39)に,糸魚川と山陰海岸が「地球人間圏科学」 (それぞれ,2.59,2.99)に特化していた。2008– 2010年度に JGN 加盟認定を受けた日本ジオパー クでは(図 2),アポイ岳(2.88),白滝(3.62), 伊豆大島(3.89),霧島(3.27)が「固体地球科学」 に,天草御所浦(3.73)が「地球生命科学」に特 化していた。2011 年度に JGN 加盟認定を受け た日本ジオパークをみると(図 3),男鹿半島・ 図 1 学 問 領 域 ご と の 比 率 か ら 求 め た 特 化 係 数(世 界ジオパーク).特化係数は各領域の比率を 0.2 で 除 し た 値.P:宇 宙 惑 星 科 学,A:大 気 水 圏 科 学,H:地 球 人 間 圏 科 学,S:固 体 地 球 科 学, B:地 球 生 命 科 学.
Fig. 1 Specialization coefficients calculated with the ratio shown in Table 1 (global geoparks). The coefficients are calculated by dividing ratios by 0.2. P: space and planetary sciences, A: atmospheric and hydrospheric sciences, H: human geosciences,
S: solid earth sciences, B: biogeosciences. 図 2 学問領域ごとの比率から求めた特化係数(2008-2010年 度 に 加 盟 認 定 さ れ た 日 本 ジ オ パー ク). 特化係数は各領域の比率を 0.2 で除した値.P: 宇宙惑星科学,A:大気水圏科学,H:地球人間 圏 科 学,S:固 体 地 球 科 学,B:地 球 生 命 科 学. Fig. 2 Specialization coefficients calculated with the ratio shown in Table 1 (national geoparks au-thorized in 2008-2010). The coefficients are calculated by dividing ratios by 0.2. P: space and planetary sciences, A: atmospheric and hydro-spheric sciences, H: human geosciences, S: solid earth sciences, B: biogeosciences.
大潟(3.64),茨城県北(2.70),下仁田(4.11) が「固体地球科学」に,磐梯山(2.64),秩父 (2.53),白山手取川(2.56)が「地球人間圏科学」 に特化していた。2012 年度に JGN 加盟認定を 受けた日本ジオパークの場合(図 4),伊豆半島 (3.44)が「固体地球科学」に,八峰白神(2.67), ゆざわ(2.55),箱根(2.71)が「地球人間圏科学」 に特化していた。 以上から,分析対象としたジオパーク 25 地域 のうち 19 地域は,いずれかの領域に特化する傾 向にあり,「固体地球科学」を中心テーマとする ジオパーク 10 地域と,「地球人間圏科学」を中心 テーマとするジオパーク 8 地域がほとんどを占め ることがわかる。また,JGN 加盟認定の時期か らみると,主たるテーマが「固体地球科学」から 「地球人間圏科学」にシフトしている傾向がある。 図 3 学 問 領 域 ご と の 比 率 か ら 求 め た 特 化 係 数(2011 年 度 に 加 盟 認 定 さ れ た 日 本 ジ オ パー ク).特 化 係 数 は 各 領 域 の 比 率 を 0.2 で 除 し た 値.P:宇 宙 惑 星 科 学,A:大 気 水 圏 科 学,H:地 球 人 間 圏 科 学,S:固 体 地 球 科 学,B:地 球 生 命 科 学. Fig. 3 Specialization coefficients calculated with the ratio shown in Table 1 (national geoparks au-thorized in 2011). The coefficients are calculated by dividing ratios by 0.2. P: space and planetary sciences, A: atmospheric and hydrospheric sci-ences, H: human geoscisci-ences, S: solid earth scisci-ences, B: biogeosciences. 図 4 学 問 領 域 ご と の 比 率 か ら 求 め た 特 化 係 数(2012 年 度 に 加 盟 認 定 さ れ た 日 本 ジ オ パー ク).特 化 係 数 は 各 領 域 の 比 率 を 0.2 で 除 し た 値.P:宇 宙 惑 星 科 学,A:大 気 水 圏 科 学,H:地 球 人 間 圏 科 学,S:固 体 地 球 科 学,B:地 球 生 命 科 学. Fig. 4 Specialization coefficients calculated with the ratio shown in Table 1 (national geoparks au-thorized in 2012). The coefficients are calculated by dividing ratios by 0.2. P: space and planetary sciences, A: atmospheric and hydrospheric sci-ences, H: human geoscisci-ences, S: solid earth scisci-ences, B: biogeosciences.
特化係数が 2.5 以上にならなかった 6 地域につ いては,隠岐,阿蘇,銚子の 3 地域では「固体 地球科学」と「地球人間圏科学」の 2 領域が特 化係数 2.0 以上であった。残る 3 地域のうち,南 アルプスでは「固体地球科学」の特化係数が 2.0 以上であり,室戸と恐竜渓谷ふくい勝山ではすべ ての領域で特化係数が 2.0 未満であった。 ほとんどのジオパークでメインテーマとなって いる「固体地球科学」「地球人間圏科学」以外に ついては,扱われているジオパークとそうでない ところがあった。それぞれ,比率が 0 ではなかっ たところを抽出すると,「大気水圏科学」が 16 地域,「地球生命科学」が 10 地域,「宇宙惑星科 学」は 1 地域のみであった(表 2 参照)。 3)クラスター分析 各領域の比率を変数とする階層的クラスター分 析を行い,デンドログラムを作成した。デンドロ グラムを距離 0.5 の位置で切断すると 5 類型,距 離 1.0 の位置で切断すると 3 類型にまとめられる ことがわかる(図 5)。 表 3 に,距離 0.5 で抽出された 5 類型について, それぞれを代表する学問分野の名称をとり整理し た。類型 I は「地質・地理型」で,洞爺湖有珠山, アポイ岳,茨城県北,南アルプスの 4 地域であ る。類型 II および III はやや特化したタイプで, 「地質型」が島原半島,白滝,霧島,伊豆半島, 男鹿半島・大潟,伊豆大島,下仁田の 7 地域, 「古生物型」が天草御所浦の 1 地域である。類型 IVは「地理・地質型」で,糸魚川,八峰白神, 隠岐,阿蘇,山陰海岸,ゆざわ,箱根,秩父,銚 子の 9 地域である。類型 V は「地理・地質・気 象型」で,室戸,恐竜渓谷ふくい勝山,磐梯山, 図 5 階 層 型 ク ラ ス ター 分 析 に よ る デ ン ド ロ グ ラ ム. 変 数 は 標 準 化 し て い な い 各 領 域 の 比 率,非 類 似 度 は ユー ク リッ ド 距 離 と し,Ward 法 で 解 析 し た.ジ オ パー ク の 番 号 は 表 2 参 照. Fig. 5 Dendrogram produced from a hierarchical
clus-tering using Ward's method with unstandardized data and Euclidian distance. Clustering of geo-parks based on disciplinary variations shown in Table 2.
表 3 クラスター分析によるジオパーク類型化の試み.デンドログラムを距離 0.5 で切断したところ 5 類 型にまとめられた.
Table 3 Clustering geoparks in terms of disciplinary variations. Five clusters are derived from the dendrogram along an Euclidian distance of 0.5.
Clusters Main disciplines Geoparks
I Geology and Geography Toya Caldera and Usu Volcano, Mt. Apoi, North Ibaraki, Minami Alps II Geology Unzen Volcanic Area, Shirataki, Kirishima, Izu Peninsula,
Oga Peninsula-Ogata, Izu Oshima, Shimonita
III Paleontology Amakusa Goshoura
IV Geography and Geology Itoigawa, Happou Shirakami, Oki Islands, Aso, San'in Kaigan, Yuzawa, Hakone, Chichibu, Choshi V Geography, Geology and Meteorology Muroto, Fukui Katsuyama, Mt. Bandai, Hakusan Tedorigawa
白山手取川の 4 地域があてはまる。 IV.考 察 ウェブサイトのテキスト分析と多変量解析か ら,日本のジオパークでは「固体地球科学」と「地 球人間圏科学」に関連するテーマがおもに扱われ ていることが明らかになった。それぞれの領域に おいて中心となる内容をテキストから読みとる と,地質学および地理学のトピックが主体であっ た。時系列でみると,地質的トピック中心から, 地質学と地理学を組み合わせたトピックにシフト してきていることもわかった。 これらの結果は,日本のジオパークが発展して きた流れと調和する。すなわち,当初はマスコミ 報道などにより「地質公園」の誤訳が広まり,そ れを日本のジオパーク関係者が「大地の公園」と 訂正してきた経緯が,解析結果に現れているとい える。例えば,地学雑誌特集号「ジオパークと 地域振興」でも,巻頭言(菊地ほか, 2011)にお いてジオパークを「大地の公園」としている。ま た,世界ジオパークネットワークのガイドライン (GGN, 2014)に「地質学的に重要なサイトをた だ寄せ集めただけで,地域全体の地理的な背景 に関連付けて扱われていないものは,ジオパーク とは見なされません(中略)ジオパーク内の生態 学的,考古学的,歴史的,文化的な価値のあるサ イトも,対象としてとりあげる必要があります」 と記述されていることも背景としてあげられよ う2)。 しかしながら,日本のジオパークのメインテー マとなっている地質学と地理学のトピックを,科 学性を保ちながら結びつけることは容易ではな い。実際に,分析対象とした JGN ウェブサイト のテキストは,個別事象を羅列しているきらいが ある。ウェブサイトのテキストを精読すると,と りわけ生態・文化的トピックを地質的トピックと やや強引に結びつけて「ジオストーリー」として いる傾向がある。生態的トピックは,単にその地 域に生息・生育する動植物の記載にとどまってい るか,地質との関連にわずかに触れているだけの ものが多い。文化的トピックは,上記と同様に地 質のみと結びつけている問題に加え,単なる観光 地紹介の域をでていないものが大半である。さら に,地形として解説されているものが,いわゆる 奇岩怪石の紹介にすぎないことも多い。これらの 状況は,ジオパークを支えるべき科学性に問題が あることを示唆している。 こうした,いわば「地球科学の誤解」は,日本 のジオパークが行政主導で進んでいる(渡辺, 2014)ことと無関係ではないであろう。前述の ように,2014 年 5 月時点で JGN 正会員は 33 地 域あるが,大学主導で活動が展開してきた茨城県 北ジオパーク(天野ほか, 2011)を除く 32 の運 営組織の長は市町村長が兼務しており,その事務 局は自治体の観光関連部署に設置されることが多 い。また,ほとんどのジオパークは,行政的な境 界をもってジオパークエリアを定めている。ジオ パークにはある程度の財政的基盤が必要であり, 行政的な境界で区切ることで運営しやすくなるこ とも事実である。しかし,こうした行政主導のシ ステムでは,予算を管理している自治体への権力 集中が起こりやすい。 行政主導に特徴づけられる日本のジオパークシ ステムには,学術的な正確性に対する不安要素の ほか,地域振興への偏重,さらにはジオコンサ ベーションの軽視につながりやすい側面もあると いえよう。ジオパークは質の高い教育研究活動を 欠かすことができず(渡辺, 2011; 竹之内, 2011), 活動の大前提にはジオコンサベーションの思想が ある(目代, 2011)。いま一度ジオパークの原点 に立ち返り,地球科学の専門家が適切に関わるシ ステムを考える必要があろう。 V.実 践 事 例 ―奄美群島,喜界島におけるジオストーリー― ジオパークには地球活動を理解するジオストー リーが必要である(大野, 2011; 尾方, 2011; 澤田 ほか, 2011)。しかし,地球科学的トピックを羅列 するだけではジオストーリーとはいえない(柚洞 ほか, 2014)。さまざまなトピックを結びつけて 「物語」を組み立てることが必要であり,領域間 のつながりには学術的担保がなければならない
(菊地・有馬, 2011; 渡辺, 2014)。 ジオストーリーの構築にあたっては,地球活動 のシームレス性を的確に組み込むことが重要であ る。地球環境問題を例に出すまでもなく,地球科 学的な事象はシームレスな性質を有するからであ る(尾方, 2014)。筆者は,地球活動のシームレ ス性に着目しながら,琉球諸島において地形学を ベースにしたモデル・ジオツアーを開発し,先に 報告した(尾方, 2011)。それを発展させて実践 した一例として,奄美群島に位置する喜界島のジ オストーリーを紹介する(口絵 3 参照)。この事 例では,喜界島の地球科学的資源のなかから, 「屋敷囲いの石垣」「湧水」「鍾乳洞」「海成段丘」 をトピックとしてとりあげ(口絵 3-図 1),これ らをシームレスに結びつけたジオストーリーを構 築した。以下にストーリーの概要を示す。 第 1 トピック「屋敷囲いの石垣」:喜界島には サンゴ石を用いた屋敷囲いの石垣が残されている (口絵 3-図 2)。この石垣は,おもに台風による 気象災害から民家を守るためにつくられており, 風土と文化を語る景観である(漆原, 2008)。ジ オツアーでは,集落を巡りながら喜界島の気候を 考え,「日本でもとくに降水量の多い地域である のに水資源の問題が発生しやすいのはなぜか?」 と問題提起する。 第 2 トピック「湧水」:喜界島で水資源が不足 しやすい理由は,石灰岩の地質条件である。ジオ ツアーにおいては,石灰岩からなる地表面では降 水のほとんどが浸透して地中水となり,人間は地 下水を汲み上げるか湧水を利用せざるを得ないこ とを解説する(口絵 3-図 3)。そして「地下水は どのようなしくみで挙動するのか?」という問題 提起から水文学的な考察を深める。 第 3 トピック「鍾乳洞」:鍾乳洞では,石灰岩 に浸透した地下水が岩石を溶解させるしくみを観 察できる(口絵 3-図 4)。ジオツアーでは,化学 的風化のプロセスを解説し,喜界島のほとんどが 石灰岩に覆われている理由を考える。さらに, 「なぜこの標高(約 160 m)に石灰岩が分布して いるのだろうか?」と問題提起する。 第 4 トピック「海成段丘」:喜界島の最高地点 付近(標高> 200 m)において,石灰岩とサン ゴ化石を観察できる露頭を紹介する。この地点か らは第 1 ポイントの集落を含めた海岸地域を一 望することができ(口絵 3-図 5),第 1 トピック のサンゴ石と堆積物も比較できる。ジオツアー参 加者は,ストーリーのまとめとなるこのサイト で,実感を伴いながら島が隆起していることを理 解できる。また,全国のデータと比較しながら, 喜界島の隆起が日本一の速度であることを紹介す る。さらに,琉球弧の前面(つまり目前の海底) に琉球海溝があり,ユーラシアプレートとフィリ ピン海プレートの境界になっていることを示し, 地殻変動がとくに活発であることを解説する。 本章で紹介した喜界島のジオストーリーは,地 球表層の自然環境を中心テーマとしながら,地球 科学の複数領域を横断するシームレスな物語を構 築した事例である。地球活動を総合的に,しかし 網羅的でなく有機的につないだジオストーリー は,自然災害を含めた環境問題をシステムのなか で考えるきっかけにもなる。喜界島でのジオツ アー実践と教育的効果の評価については,別稿 (萩原・尾方,投稿中)で詳しく論じることにし たい。 VI.ま と め 本研究では,JGN ウェブサイトの内容分析と 多変量解析に基づき,日本のジオパークにおける 地球科学の扱いについて議論した。日本のジオ パークが扱っているテーマは,地質学を中心とす る「固体地球科学」および地理学を中心とする「地 球人間圏科学」がほとんどであり,その他の学問 領域はわずかにすぎないことが明らかになった。 時系列でみると,地質学的テーマ中心から地理 学的テーマ中心へとシフトする傾向がみられた。 クラスター分析によれば,「地質・地理型」(4 地 域),「地質型」(7 地域),「古生物型」(1 地域), 「地理・地質型」(9 地域),「地理・地質・気象型」 (4 地域)が抽出されたが,それぞれのジオパー クのトピックは羅列的な場合が多く,学問領域も 限定されているため,複数領域を横断するジオス トーリーの構築は困難な状況にある。ジオパーク
には地球科学をシームレスに捉えるストーリーが 重要であり,そのためには分野横断的な地球科学 のアウトリーチが必要である。 尾方(2011)は「ジオパーク活動には地理学・ 地質学のすべての分野が関わるべきである」と指 摘しており,柚洞ほか(2014)も地質学的ストー リーと地理学的ストーリーの両者が必要であると した。しかしながら,地理学と地質学の両者が 揃っていればよいのではなく,関連分野も含めて 両者をシームレスに結びつけることこそが重要で ある。ジオパークは,地球科学の大きなフレーム ワークのなかで,地理学・地質学を含むさまざま なディシプリンを,関連するものとして位置づけ なければならない。シームレスなストーリーを構 築することは容易ではないかもしれないが,喜界 島の事例で示したように,不可能ではない。 ジオパークの訳語として「大地の公園」がしば しば用いられるようになった。しかし,この訳語 も誤解を生む可能性がある。ジオパークを無理に 訳すことは控えて「ジオパークはジオパーク」と し,解説として「地球活動を(シームレスに)理 解するためのエリアおよびシステム」などとする ことを提案したい。 謝 辞 本稿は,日本地球惑星科学連合 2014 年大会(パシ フィコ横浜)で発表した内容を骨子としている。同 大会のジオパークセッションおよびアウトリーチ セッションで議論してくださった皆様と,本稿の匿名 査読者 2 名に感謝いたします。なお,本研究の一部に, JSPS科研費(課題番号 26350240)を使用しました。 注 1)各領域の比率が 0.2 であることが理想的とは限ら ないが,本研究では 5 領域のバランスを客観的に把 握するため,分母を 0.2 として特化係数を求めた。 2)原文は英文。日本語訳は日本ジオパーク委員会 (JGC)ウェブサイトのものをそのまま用いた。JGC ウェブサイトの和訳は 2010 年版のガイドラインであ るが,本研究に引用した部分の原文は 2010 年版と 2014年版で変わっていない。 文 献 天野一男・松原典孝・細井 淳・本田尚正・小峯慎司・ 伊藤太久(2011): 茨城県北ジオパーク構想での茨 城大学の活動—ジオパーク推進における大学の活 動 例—. 地 学 雑 誌,120,786-802.[Amano, K., Matsubara, N., Hosoi, J., Honda, N., Komine, S. and Ito, T. (2011): Activities of Ibaraki University in the North Ibaraki Geopark Project: Case study on the role of the university in implementing the geopark project. Journal of Geography (Chigaku
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