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CHAPTER 1 PARTICULARS OF THE PROJECT

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ク ラ ス タ ー 理 論

2002年3月

国 際 協 力 事 業 団

鉱 工 業 開 発 調 査 部

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「第3のイタリア」と呼ばれるイタリア中部・北東部の中小企業からなる地域産業集積が 1970 年 代より急速に発展したことに諸をなしている。これらの地域産業集積は以下の特色をもってい る(日本貿易振興会[1998])。 ①下請でない自立型の中小企業がネットワーク関係を形成して活動し、多くの産業 セクターで強い国際競争力を発揮している。→企業ネットワークによる分業体制 ②これら中小企業による地域産業集積が各地域の個性ある生活文化と一体となって 発展し、非一極集中・地方中心の産業経済構造を形成している。→文化的アイデンティ ティの共有 ③上記①、②の構造のもと、創意あるデザインや職人的技能に裏付けられた優れた 物づくりの能力が持続・発展している。→生産の独創性・多様性・柔軟性 こうした事例に基づき、1980 年代から経済学、経営学、地理学、社会学等の各学界でクラス ターに対する研究が盛んになり、あらゆる学派によりこれまで産業集積による優位性が検証さ れてきた。この優位性とは、関連産業が集積することによってもたらされる外部経済効果、並び にクラスター構成員によって積極的に取られる合同アクションによる競争優位性の2つがある。 中小企業振興の新たな手法を模索していた先進国諸国は、地方経済振興・中小企業振興 の新たな方策として一石を投げたこれらの論議に着目するようになった。例をあげると、海外経 済協力機構(OECD)では、1998 年に「クラスター分析・クラスター政策に関するグループ1」が組 織され、メンバー国が活発にクラスター振興策について議論している。 日本でも経済産業省の主導下、長引く不況と地方財政悪化に苦しむ地域経済の再生、及 び地域経済を支え世界に通用する新事業の創出と産業クラスターの形成を目的として、「産業 クラスター計画(地域再生・産業集積計画)」の下に 19 プロジェクトが各地で展開されている。 クラスターアプローチは先進国のみならず、途上国や途上国を支援する援助機関において も普及していった。中小企業支援を実施している援助機関の中で、クラスターアプローチに関 して最も長い援助実績をもつのは UNIDO であるが、その他の援助機関においても本アプロー チが採用されつつある。例えば、中小企業振支援を実施する 39 の主要援助機関から構成さ

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発銀行(ADB)では、インドネシアにおける Asian Development Bank SME Development TA と いうプロジェクトの中で「産業クラスター・ビジネスネットワークを育成する為のベスト・プラクティ ス」4という小冊子を発行し、クラスターの概念の説明に始まり、競争力のあるクラスターを育成 する為の政策提言をしている。 国際協力事業団では、クラスターという概念に着目した援助プロジェクトの実績はほとんどな いが、現状では鉱工業開発調査部が実施している「インドネシア中小企業クラスター機能強化 計画5」や東京国際センターが集団研修として毎年実施している「企業ネットワークによる中小 企業振興6」等がある。

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Committee of Donor Agencies for Small Enterprise Development

3 ILO (2002) 4 ADB (2001) 5 インドネシア各地に1万以上あるとも言われる中小企業クラスターがその集積機能を 十分に生かしきれていないことに着目し、それらクラスターの集積機能を強化することに よってインドネシアの中小企業振興を図ることが目的。調査の実施に際しては、地元のク ラスター企業が決定プロセスに参加できるよう参加型手法を採用している。調査期間は 2001 年 10 月から 2004 年 3 月まで。 6 地域経済と中小企業の関係に着目し、中小企業振興を地理経済学的なアプローチで捉 えようとするもの。日本の地場産業の発展による地域経済活性化の経験を事例研究として 紹介し、企業間ネットワークの意義を理解させることが研修の目的。

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1.1 調査の背景... 1 1.2 調査の目的と範囲... 1 1.3 調査の手法... 1 第2章 クラスター理論のレビュー... 3 2.1 クラスターの定義... 3 2.2 クラスターの優位性... 5 2.3 中小企業育成手段としてのクラスター ... 7 2.4 クラスターの発展の要因... 8 2.5 クラスターの衰退... 14 第3章 クラスターの類型化... 16 3.1 類型化の手法... 16 3.2 ネットワークによる類型化... 16 3.3 業種による類型化... 18 3.4 国内生産要素 vs. 外国投資 ... 19 第4章 政府と振興策の役割... 20 4.1 振興策の留意点... 20 4.2 政府の役割とクラスター振興政策... 20 4.3 地方分権... 22 第5章 クラスター発展の要件... 23 <参考文献>... 25 図 1:Porterのダイヤモンド・モデル ... 3 図 2:各用語が示す範囲 ... 4 図 3:リンケージ概念図 ... 7 図 4:ダイヤモンド・モデルによるクラスターの優位性の決定要因 ... 9 図 5:ダイナミック・クラスター・モデル ... 10 図 6:発展途上国のクラスター発展の要素 ... 13 図 7:加工業における創業動向調査 ... 15 図 8:ネットワークによる類型化 ... 17 図 9:ハブアンドスポークとイタリアン型の混合 ... 18 図 10:付加価値伸び率の比較 ... 19 図 11:クラスター振興政策の位置付け ... 21

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第1章 調査の枠組み 1.1 調査の背景 近年、開発途上国においては、市場経済移行国の増加、グローバリゼーショ ンの急速な進展などにより、当該途上国全体の経済成長、産業競争力の強化、 雇用確保等の原動力の観点から民間セクターの開発が重要な課題となってい る。また、それに伴い、中小企業振興、輸出振興、投資振興等の協力のニーズ が高まっている。一方、国際機関はじめ海外ドナーも、民間セクター開発に係 る 各 種 の 協 力 を 行 っ て い る 。 特 に 、 Committee of Donor Agencies for Small Enterprise Development等のドナー会合において中小企業振興分野のドナー間の意 見交換やガイドライン作成が行われているところである。 かかる背景のもと、国際協力事業団は、民間セクター開発のための協力手法の ガイドライン作成のための基礎資料として、クラスター、中小企業振興における 指標、キャパシティビルディングの協力手法を分析する必要が生じた。本調査 は、そのうち、クラスター理論にかかわる基礎資料を作成するものである。 1.2 調査の目的と範囲 本調査は、発展途上国における中小企業育成の振興手段として、クラスター をターゲットとしたアプローチの効果、並びに、その協力手法につき調査を行 い、その調査結果を国際協力事業団に報告することを目的とする。 調査の範囲は、全世界の製造業クラスターを対象とする。なお、各ドナーに よるクラスター・プロジェクトの実施状況については、「クラスター開発協力 事例」担当により議論されるので、本報告書においては特記しない。 1.3 調査の手法 1.2の目的を達成するため、既存の文献を学際的なアプローチで分析する。 まず、第2章にてクラスター理論をレビューする。第3章にて、クラスターの 類型化につき考察を加え、第4章にて政府と振興策の役割を述べる。議論にあ たっては、別添の「クラスター事例集」にまとめた以下の10事例を引用しなが ら考察を進める。

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10の開発事例 ① 日本 浜松 (織布・染色) ② イタリア カルピ(ニットウエアー) ③ 台湾 台北∼新竹圏(電子産業、ハイテク産業) ④ インド ルディアナ(ニットウエアー) ⑤ マレーシア ペナン (電子機器) ⑥ インドネシア フルスンガイウタラ(ラタン) ⑦ パキスタン シアルコット(ステンレス医療器具) ⑧ メキシコ グアダラハラ(靴) ⑨ ブラジル シノスバレー(靴) ⑩ ナイジェリア ンネウイ(自動車部品) 10の開発事例は、既存の調査文献の中で最も調査内容が深いものから1カ国1 事例選んだ。各クラスターとも異なる成功要因をもって発展した経緯があり、 クラスターの多様性を物語っている。最後に、第5章にてクラスター発展にと って好ましい文化的、社会的、経済的条件をまとめる。

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第2章 クラスター理論のレビュー 2.1 クラスターの定義 クラスター理論の概略を述べる難しさは、クラスター理論が、経済地理学 (Krugman他)、経営学(Porter他)、開発学(Schmitz他)、地域社会学(Burso 他)、Innovation Studies(Freeman他)という複数の学派により研究されてきた ため、用語の統一がなされていないことである。クラスター理論の原点は、産 業が地域的に集中することに外部経済効果をもたらすと説いたMarshall(1890) に見出される。しかし、その後グローバリズムの流れにより、立地理論は経済 学の主流からはずれていた。世の中の目をクラスターにむけさせたのは、独自 の調査に基づくクラスター論を展開したハーバード大学のPorter(1990)による 功績が大きい。 Porterは、先進国を中心とする1最も発展した産業を調査した結果、国家の競争 優位性は、4つの決定要因が相互に関連しあって形成されると説いた(ダイヤ モンドモデル)。その4つの決定要因とは、 生産要素条件 (熟練労働者、インフラストラクチャーなど) 需要条件 (国内市場の質) 企業戦略、構造、競合関係の状態 (国内の競合関係の質) 関連業界・支援業界の存在 (競争力をもつ供給産業と関連産業の存在) である。そして、その4つの決定要因がもっともダイナミズムに関連しあって いるのが「クラスター」であると論じた (Porter[1990]、ポーター[1999])。 企業戦略、構造、 競合関係の状態 需要条件 関連業界・ 支援業界の存在 生産要素条件 図 1:Porterのダイヤモンド・モデル 1 米国、デンマーク、ドイツ、イタリア、日本、韓国、シンガポール、スウェーデン、スイス、 イギリスをさす(ポーター[1999])。

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Porterは1990年の著書でクラスターを「あらゆるリンケージにより連携しあって いる企業群」と定義し、特定地域における集積を前提条件としていなかった2 しかしながら、発展途上国の調査研究ではリンケージの強弱にかかわらず、地 理的に集約している関連企業群を対象としており、Porterのクラスターの定義が 適用しにくい。そのため、発展途上国のクラスター分析においては、地理的集 積そのものに優位性を見出すMarshall系のクラスター理論が主流となっている。 本稿においても、クラスターを「地理的に集積した関連企業群」と定義する。 但し、クラスター分析を行うにあたって、地理的集積を超えてもリンケージが 強い企業や機関は、ステークホルダーとして調査対象に含めることが重要であ る。 ここで「クラスター」の定義を明確にするため、類似の日本語を整理をす る。まず、「産業集積」という用語は、本稿の定義による「クラスター」にも っとも類似した日本語である。しかしながら、「産業集積」の分析において は、「リンケージ」に着目していない議論も多く、調査の観点は必ずしも「ク ラスター」と一致していない。次に、クラスターというと「産学官共同体」を 意識する議論がある。産学官共同体は、先進国においてより付加価値の高い製 品の開発が必要になったため、政府が推進している政策であり、クラスターを 形成する必須条件ではない。また、「地場産業」振興という概念と「クラスタ ー」振興を混同する徴候があるが、クラスター振興は「関連企業の地理的集 積」による集積利益をいかにいかすかという観点で議論されるのに対し、地場 産業振興は、必ずしも関連産業に対象をしぼっていない。そのため、地場産業 振興政策は集積利益をいかすという観点より、ローカル・リソースの活用と地 域開発に力点がおかれる。従って、「クラスター」と「地場産業」は振興する 対象が重なる場合があるが、地場産業の方がもっと広い範囲をさしている用語 といえる。 Porterによるクラスター定義 地場産業 異業種群 産学官共同体 関 連 企 業 の 地理的集積 本稿のクラスター定義 図 2:各用語が示す範囲 2 その後の著書で Porter は議論の修正を行い、地理的集積によるメリットを論じるようになった。 同時に、支援する政府機関もクラスターに含まれると再定義している。新定義は「クラスタ ーとは、ある特定の分野に属し、相互に関連した、企業と機関からなる地理的に近接した集 団である。」となっている。(ポーター[1999]、p.70)。

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「クラスター」という定義一つとってみてもわかるように、クラスター理論 は、あらゆる学派により研究されているために比較が難しい。しかしながら、 本稿では1.2項に記載の目的を満たすため、学際的立場で各学派の意見をとりい れて議論する。 2.2 クラスターの優位性 近年、クラスター振興論が着目されているのは、あらゆる学派により産業集 積による優位性が検証されてきたからである。発展途上国でのクラスター研究 においては、Schmitz教授が率いるサセックス大学IDSの'Collective efficiency'研究 グループがもっとも実績を蓄積している3。'Collective efficiency' とは、関連産業 が集積することにより、外部経済と合同アクションを通じて得れる競争優位性 を指す(Schmitz and Nadvi [1999

])

。外部経済により生み出される競争優位性は Marshall(1890)の外部経済理論に基づいており、受動的にうけられる集積利益を 指す。一方、共同アクションは、クラスター構成員により積極的に創りだす競 争優位性である。Schmitzは、後者の合同アクションが強まることにより、より クラスターの競争力が増していくと論じている。 受動的に得る集積利益の例(外部経済効果) a. マーケット・アクセス (垂直前方リンケージの形成) 関連企業が特定地域に集まっていることにより、広告効果をもたら す。それにより、バイヤーから商品提供企業を求めてクラスターに集 まってくるようになり、クラスター内企業としてはクラスター外の企 業より販売機会に恵まれることになる。また、近い場所に存在してい るため、モニタリングや物の移動が容易になり、協調関係をつくりや すい状況にある。そのため、クラスター内で下請け発注もうけやすく なる。 b. 特殊技能労働市場の形成(水平リンケージの形成) 熟練な労働者がクラスター内に多く存在することにより、特殊技能を もつ労働市場が形成される。受注量に応じて、柔軟に労働者を雇った り、他の企業に仕事を一部まわしやすい環境にある。 c. 間接財の効果的投入 (垂直後方リンケージの形成) 特殊な資材やサービスを提供するサプライヤーの発生。クラスター内 の製造業者がサプライヤーに業態変容する場合と、外部から参入する 場合の両者が考えられる。 3 http://www.ids.ac.uk/ids/global/coleff.html 以下に詳細な内容が公表されている。

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(受動的に得る集積利益の例つづき) d. 情報と技術の波及(水平リンケージの形成) 関連企業が近接地域に集積しているため、情報の伝達が促進され、技 術情報も早く波及する。そのため、新しい生産方法や製品などをうみ だすアイディアが生まれやすくなる。 (McCormick [1999]) 能動的に得る集積利益の例(共同アクション) a. 垂直前方リンケージ形成に係る共同アクション: 共同展示会出展、共同広告、共同販売所運営、他 b. 垂直後方リンケージ形成に係る共同アクション: 共同資材購入 c. 水平リンケージ形成例 共同トレーニング、共同機器利用、共同試験場、政府に対する陳情 上述のとおり、クラスターは、あらゆる方向のリンケージが形成されやすい外 部経済条件を整えており、それを共同アクションをとることにより更に強めら れる。 ここでクラスター理論の重要な観点である「リンケージ」について述べる。 「リンケージ」は「連関」、「連結」、または、「連携」と訳され、国内の特 定産業部門の生産活動と他の国内の産業部門の生産活動とが影響を与えあう経 済効果を指す指標である(Hirschman[1958])。垂直方向のリンケージは「前方 連関」と「後方連関」に分かれ、「前方連関」は、マーケットに近いバイヤー から「受注」することにより生ずる経済効果を示し、「後方連関」は、企業活 動に必要な投入物を国内生産者に「発注」することにより生ずる経済効果を示 す。また、直接に受発注行為を伴わない水平方向のリンケージは、水平方向の 「ネットワーク」、「統合」、「協力」などという言い方にしばしば言い換え られる。すなわち、クラスター理論で示す「リンケージ」は、Hirschmanが述べ る「連関」よりも広い協調関係を指し示しており、直接に受発注を伴う経済行 為でなくても、垂直方向、水平方向のつながりがクラスターの経済活動に与え る効果を示す概念である。本稿では、リンケージとネットワークを同義ととら えて使用する。

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マーケット バイヤー 企業A 横方向の協調、統合 発注/後方連関 サプライヤー 企業C 企業B 受注/前方連関 図 3:リンケージ概念図 2.3 中小企業育成手段としてのクラスター 1990年代前半は、「インフォーマルセクター」論がもてはやされた。インフ ォーマルセクターとは、必ずしも企業というフォーマルな形をとらずに、炎天 下で仕事をこなしているような経済活動を指す概念だが、零細企業も含まれて 議論されることが多い。発展途上国の大衆の雇用に、このインフォーマルセク ターが重要な雇用源になっているため、インフォーマルセクター支援が1990年 代はじめに盛んに議論された。しかしながら、1990年代半ばに入ると、「雇用 の質」に着目され、インフォーマルセクター是正論から企業としての縦型成長 の重要性について議論がシフトした。 発展途上国は一般に「missing middle」という現象が起きており、零細、小規 模企業群と大企業群の2極に分化されている。零細、小規模企業群は、安いが 品質の悪い商品を製造し、中規模企業に成長していかないというのが一般的な 現象としてとらえられていた。また、小規模企業が中規模企業に成長していく ためには、より大きな資本ニーズが発生するが、そのリスクをヘッジするだけ

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のマネージメント能力や、マーケット需要を発展途上国の小規模企業はもたな い。

そのような悲観的2局分化論に光をさしたのが、PioreとSabel (1984)による Flexible Specialization modelである。PioreとSabelはアメリカ型大量生産体制を批 判する中で、イタリアの小規模企業クラスターが、分業体制のもとに協調しあ い、常にかわりゆく顧客のニーズに柔軟に対応し生産している優位性を指摘し た。このPioreとSabelの論文でとりあげられたイタリアの小規模企業クラスター は、後に「第3のイタリア」としてクラスターの象徴的モデルとして発展し た。 前項で述べたとおり、クラスター内に立地する企業は、クラスター外に立地 する企業より比較優位性をもつ。この比較優位性が、各企業がもつリスクを軽 減して、個々の企業の努力が階段となってつみかさなり、中規模企業へと成長 するはしごになると理解されている(Schmitz [2002])。クラスター全体として 発展することが、個々の企業に成長するより大きな機会を与えることになる。 また、PioreとSabelが議論したように、マーケットのニーズは大量生産から小 規模多品種型に移行している。小規模多品種型生産に対応するためには、大企 業よりも、中小企業のネットワーク化による生産体制の方がより適している。 クラスターは中小企業がネットワークをつくりやすい条件をもつため、製造業 の新たな担い手として着目されている。 2.4 クラスターの発展の要因 では、クラスターが発展するために必要な要因を整理する。Porter氏が率い るハーバード大学のInstitute for Strategy and Competitivenessは、各国からクラス ター情報を集め数量分析を行っている4。2001年11月にドイツのキール大学で行

われたワークショップにて第1回目の中間報告を行い、図1に示したダイヤモ ンド・モデルを使い、クラスターの優位性を決める要因を図4のとおり説明し た。いまだ、中間報告の段階であるが、4つの決定要因それぞれにバランスが とれた配点があることが成長に必要という見解を発表した(van der Linde and Porter [2001])。

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企業戦略、構造、 競合関係の状況 需要条件 生産要素条件 ・ローカル企業間の競争 ・投資と向上を促す地域 経済環境 ・高品質を求める国内需要 ・国内マーケットにも国際マー ケットにも通じるローカルか らの需要 ・高品質、かつ、特殊な 生産要素の入手 −人材 −資金 −インフラ −素材 他 他の要因 (マーケットチャンス、政府など) ・有能なサプライヤーと 関連企業の存在 関連企業・支援 業界の存在 図 4:ダイヤモンド・モデルによるクラスターの優位性の決定要因 発展途上国のクラスターの傾向をダイヤモンド・モデルにあてはめると、ま ず、安価な労働力が「生産要素条件」を先進国に比べて比較的優位にしてい る。また、インドネシアフルスンガイのラタンクラスター(事例6)など、そ の地方でとれる自然資源をいかしたクラスターも存在する。一方、「需要条 件」については、国内市場が品質にこだわらないという弱さが一般的にある。 例外としては、インドのニットウエアー(事例4)や、ブラジルの靴(事例 9)など、高品質から低品質までバラエティーを富む市場をもつケースもあ り、国外、国内の多様なマーケットチャンネルを持ち、クラスターのダイナミ ズムを形成している。また、「企業戦略、構造、競合関係の状況」は、保護政 策にはしりがちな発展途上国の産業政策に警告を与えている。インドのルディ アナニットウエアークラスター(事例4)やメキシコのグアダラハラ靴クラス ター(事例8)では、市場開放ののち、よりクラスター内のリンケージの深ま りを見せ、ダイナミズムを増した。また、パキスタンのシアルコットステンレ ス医療器具(事例7)では、国際品質基準のクリアーという目標が、向上努力 の源泉となっている。「関連業界、支援業界の存在」については、集積の深ま りに関連している。ブラジルのシノスバレー靴クラスター(事例9)では、リ ンケージの深みが、1960年代にアメリカのバイヤーが取引を開始する決定的要 因となった。

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ダイヤモンド・モデルの問題点は、リンケージが存在していることが前提な ので、ネットワークの形態についての考察に欠ける。一方、Best (1999)は、ダイ ナミック・クラスターへの発展モデルを図5のとおり示した。 クラスター 個々の企業の専業化 横方向の統合・再統合 オープン・システム リーディング企業の出現 技術革新 技術バリエーション 業種特化 図 5:ダイナミック・クラスター・モデル ステップ1 クラスター内の各企業が同様な製品を生産(企業間の差別化がない)。 ステップ2 リーディング企業が現れることにより、技術的革新を呼びおこす。5 ステップ3 業界としては特化しながらも、技術的バリエーションを生み出す。 ステップ4 関連企業や同業者が参入し、企業間の競争を増すとともに再統合を 引き起こす。 ステップ5 各企業が一定の生産プロセスに特化し専業する。 このダイナミック・クラスターモデルは生産面だけしか解説しないが、ダイナ ミック・クラスターに発展する要件として、リーディング企業の出現が必要で 5しばしば、ステップ2からクラスターが発祥するケースもある(ex.浜松の自動車産業や外国投資により 発祥するクラスターなど)。

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あること、そのリーディング企業の出現により技術バリエーションをおこし、 新規参入企業が増え、各企業は競争にかつために専業化し、技術力を高めてい くプロセスを記載している。すなわち、ダイナミック・クラスターとは、各企 業は専業しながらも、クラスター全体としては、技術的、製品的バリエーショ ンをもち、同業者や関連企業が参入するオープンな産業集積であることを定義 している。事実、多くのクラスターは、リーディング企業がいるかいないかで 差別化される。ここでいうリーディング企業は、必ずしもクラスター内に存在 する必要がなく、クラスターと強いリンケージをもっていれば、クラスター外 に存在してもよい。しかし、クラスター外にある場合は、ダイナミズムの継続 性という観点ではより不利である(3.2項にて再度論じる)。 以上の2つのモデルを勘案し、本稿では発展途上国向けの修正モデルを提案 する。修正モデルでは、「マーケット・企画」、「生産」、「企業間の信頼」 が3つのトライアングルとなって相互に関連しあう。 第1に、発展途上国の製造業クラスターは、生産に特化して、最終マーケッ トが見えていないケースが多い。そのために、クラスターの発展は、どのよう に最終マーケットとリンクしていくかが重要である。それは、 ① どのマーケットをねらうか? ② マーケットとクラスターとを結びつける担い手は誰なのか? ③ 担い手の力量はどうか? という3要素がかけあってクラスターのマーケティング力が決定される。 まず、どのマーケットをねらうかということだが、海外市場は需要量は膨大 であるが、より激しい企業競争にさらされており利益率は必ずしも高くない。 また、為替などの変動要因をかかえる。特定マーケットに対象を限るのではな く複数のマーケットを組み合わせることが、マーケット環境の変化に対するリ スクヘッジにつながる。また、低品質でよしとする市場ばかりに安穏とおさま るとアップグレードのインセンティブがなくなる。常に新しいマーケットを開 拓しようというチャレンジングな精神が必要である。 次に、いかにマーケットニーズを把握し、市場に製品提供をしていくかであ る。すべてのクラスター企業が意欲的に新しいマーケットを開拓する姿勢をも つことを期待するのは非現実的で、実際には、クラスターとマーケットを結び つける担い手が存在する。その担い手が誰なのか、そしてその担い手の力量が どうなのかが重要な要素となる。担い手は、クラスター外の企業(元請けや商 社など)と、クラスター内の企業や団体に2分される。第3のイタリアの場合 は後者の方策をとり、展示会やコンバーター6などを通じて市場の動向を把握 6 コンバーターとは、自ら製造設備をもたず、マーケティング、商品企画、製造発注などを行

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し、それがクラスターの発展に大きく寄与している。クラスター外の企業に情 報の入手を頼ると、その企業の能力に頼ることになる。また、クラスター外企 業が戦略展開し、取引先を変更する不安定要因をかかえることになる。ブラジ ルのシノスバレー靴クラスター(事例9)では、アメリカの大手とつなげる商 社を介して、アメリカ市場に大量に製品を輸出している。しかし、商社からの 徹底したバイヤーズ・デザインにより生産しており、企画デザインの機会を奪 われている。 第2に、生産面では、付加価値の高い製品生産を可能とする技術力と専業の 存在が重要である。専業により小さい資本で専門性の高い仕事を行うことがで き、ついては、技術力の向上につながる。専業は、分業によりしばしば実現す る。2.2項で述べたとおり、クラスターは技術力の蓄積と分業の形成ともに優位 性をもつ。しかしながら、実際に行われている分業の厚みはクラスターにより まちまちである。伊丹(1998)は、分業・集積が可能となる要件として以下3 要素を掲げた。 a. 分業の単位が細かい。 b. 分業の集まりの規模が大きい。 c. 企業の間に濃密な情報の流れがあること。 分業の単位の細かさについては、業種により偏差があると想定されるが7、言及 されていない。また、分業の集まりの規模が大きいということは、クラスター 内の関連企業数が増え、クラスターのダイナミズムをひきおこす。 そして第3に、企業間の信頼関係、いわゆる、「ソーシャル・キャピタル」 がクラスター発展のための重要な要素である。クラスターはマーケット情報や 技術情報を含む情報の流れとネットワークの形成の点で優位であることは2.2項 で述べた。しかし、それらの優位性を更に享受するためには、競争関係の中に も企業間の信頼関係が必要である。クラスターというと、協調関係の構築が強 調されがちだが、あくまでも個々の企業による経済メリット追究を前提として いるネットワークづくりであるということを忘れてはならない。そのため、ク ラスター内のすべての企業が協調するわけではなく、一部にとどまることが多 い。IDS研究者グループの報告によると、クラスター全体でリンケージが形成さ れているケースより、一部の企業間にリンケージがとどまるケースが多いとさ れる。また、横方向のリンケージが強まった事例は、海外マーケットとの遭遇 や自由化などの強いプレッシャーに反応した場合であり、横方向のリンケージ うオーガナイザーを指す(小川 [1998])。 7 例えば、埼玉県川口市の鋳物業は鎌倉時代からの歴史をもって発展しているが、クラスター 外大手からの下請け受注のみで、水平分業は行われていない。また、シリコンバレーに代表 されるようなソフトウエア業(プログラミング)は、低資本で一貫生産を行えるため、分業 の必要がないケースが多い。但し、プログラミングの種類で専業特化している。

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は 縦 方 向 の リ ン ケ ー ジ に 比 較 す る と 弱 い ケ ー ス が 多 い と 報 告 さ れ て い る (Schmitz&Nadvi [1999])。また、競合他社と同じクラスター内で、互いの利益 を尊重しつつ事業を展開するためには、国家が特許、著作権などの財産権を守 る法規制や、納税のモニタリングなどを適切に行い、フェアな経済活動が行え る環境を提供する必要がある。 以上の議論を集約すると、「マーケット」、「生産」、「企業間の信頼(ソ ーシャル・キャピタル)」の3要素はトライアングルな関係にあり、そしてそ のトライアングルがフェアな競争が行える経済環境で囲まれることになる(図 6)。 情報の流通と ネットワークの形成 企業間の信頼 競 争 (オープン・マーケット) 関連企業の参入 技術と人材の蓄積 専業の細かさと規模 生 産 マーケット マーケットの結びつき方 ① どこのマーケットをねらって いるか?(需要量と利益率) ② 担い手は誰か?(クラスター 内企業・団体主導によるもの か、クラスター外企業主導に よるものか?) ③ 担い手の力量はどうか? 図 6:発展途上国のクラスター発展の要素

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2.5 クラスターの衰退 クラスターの比較優位性は理論的に立証されているが、その比較優位性はク ラスターが発展しつづけることを保証するわけではなく、クラスターは常にオ ープン・マーケットによる競争にさらされている。経済環境が悪くなれば、当 然クラスターの外部経済環境も悪化する。その中で、各企業は、切磋琢磨し、 成長のためのたゆまない努力を続けなくてはならない。 また、経済発展は、クラスター内の人件費をあげるとともに、他の就業機会 を増やし、クラスターの比較優位性を弱める。台湾では、大量生産ラインは中 国本土に移管され、台湾では付加価値の高い製品を中心に取り扱うようになっ ている(事例3)。一方、高付加価値商品の移行にのりおくれた浜松の繊維産 業(事例1)では、就業者を自動車産業など地元で発展している他の産業に奪 われ、後継者問題に悩まされている。また、クラスター理論の典型的モデルと される「第3のイタリア」のカルピニットウエアークラスター(事例2)で も、大企業が縫製などの一部工程を人件費の安い東欧や東アフリカなどに発注 するケースが増えている。 日本においては、経済環境の悪化、生産拠点の外国への移転、為替変動など の外部不経済の悪化を受け、クラスターの勢いがおとろえている。次頁の図7 は、30歳未満の従業員がいない業種と1985年以降に独立した従業員がいる企業 の割合を調べ、加工業における創業動向を示している(国民金融総合研究所 [1992])。X軸は%が高いほど創業動向が高く、Y軸は%が低いほど創業動向が高 いということになる。村上(1998)は図7を分析し、熟練した技術を習得するの に時間がかかる業種ほど若い従業員や独立意欲をそぐと考える。

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創業動向 低 創業動向 高 図 7:加工業における創業動向調査 (村上 [1998] p.256 より引用) 図7においては、鋳造、めっき、熱処理、プレス、塗装などの創業動向の低さ がみられる。これらは、熟練になる期間が短いだけではなく、分業の厚みが薄 いのではないかと想定される。業種別に、分業の厚みと創業動向をクロス分析 すると、クラスター分析の一層の理解につながると思われる。

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第3章 クラスターの類型化 3.1 類型化の手法 クラスターの類型化の目的は、類型化によりクラスターの発展性が推測でき ることである。また、その分類は、客観的に行える指標が望ましい。しかしな がら、この趣旨を達成するような決定的な類型化はいまだ存在していない。こ の章では、経済地理学で使われるネットワークによる類型化の説明とその他有 効な類型化の考察を行う。 3.2 ネットワークによる類型化 類型化に関する有効な手段が確立されていない中でもっとも頻繁に紹介され るのは、経済地理学から工業地区の類型化として提言されたネットワークの形 態による分類である(Park [1996]、Markusen [1996]など)。 まず、最もよくみられるネットワークはハブアンドスポーク型である。これ はクラスター内のいくつかのリーディング企業に対し、他の中小企業が下請け 群として連なるヒエラルキー的構成をもつクラスターである。この型は、リー ディング企業の戦略や経営状況にクラスター全体が左右されるが、もっとも現 実的なダイナミック型といえる。 次に、クラスター発展の初期段階にみられる型としてMarshall型があげられ る。この型は、クラスター内にヒエラルキーが存在せず、集積することにより 利益を享受しているクラスターである。この型のままダイナミズムを発揮する ようなクラスターになることはまれで、通常はハブアンドスポーク型に移行す ることにより発展する。 一方、Marukusen(1996)は、Marshall型でダイナミズムを発揮しているクラ スターをイタリアン型と呼ぶ。 KorringaとMeyer-Stamer(1998)は、そのような クラスターは発展途上国ではきわめてまれで、例外としてあげられるのはパキ スタンのシアルコット医療器具クラスター(事例7)とブラジルのCriciumaセラ ミックタイルクラスターぐらいであるという。また、イタリアン型も大企業が 出現するにつれ、ハブアンドスポーク型に移行することが多く、イタリアのク ラスターもカプリのニットウエアクラスター(事例2)のように、最近は、ハ ブアンドスポーク型に移行しつつあると指摘されている。

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そして、最後の型として、サテライト型があげられる。これは、クラスター 外に位置する企業が、安い労働力や資源など、クラスターに優位性をみつけ、 クラスターにむけ発注する形である。この型は、ハブアンドスポーク型以上に リーディング企業の戦略や経営状況に左右されやすく不安定である。また、最 新のマーケット情報や技術情報がハブアンドスポーク型より入りにくい形態で ある。この型は先進国のメーカーが、発展途上国の製造業者に下請け発注する 場合によくみられる。 <ハブアンドスポーク型> <サテライト型> いくつかのリーディング企業の クラスターからはなれた地域に 下に下請け企業群がつらなり、 位置するリーディング企業から クラスター内にヒエラルキーな 発注を受けている産業集積 ネットワークを構成している。 <マーシャル型> <イタリアン型> 中小企業群が集積しているが、 中小企業群がヒエラルキー ヒエラルキーが存在していない。 を形成せずにネットワークを しばしば分業も行われていない。 形成している。 図 8:ネットワークによる類型化

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これらの4形態は単純化したモデルであり、実際には、混合型のようなものも 存在する。例えば、イタリアのカプリ(事例2)は、ハブアンドスポークのヒ エラルキーの中にもイタリアン型の横のつながりが共存している。 図9:ハブアンドスポークとイタリアン型の混合 3.3 業種による類型化 次に、業種による分類は分業の細かさがある程度決定されるので有効と思わ れるが、業種による類型の有効な研究がみあたらない。日本の「特定産業集積 の活性化に関する臨時措置法」では、部品・試作品などを製造する下請け産業 群を「基盤的技術産業集積」8(A集積)と呼び、それ以外の中小企業クラスタ ーである「特定中小企業集積」9(B集積)と類別している。この類型は、下請 け系クラスターか独立系クラスターかでわけている。前者は、ハブアンドスポ ーク型とサテライト型が該当するのに対し、後者はあらゆる形態が想定され る。日本においては、基盤的技術産業が海外移転していることから、基盤的技 術産業集積(A集積)の「従業員一人当たり付加価値伸び率」が特定中小企業集 積(B集積)に比べて著しく低くなっている(図10)。日本の製造業の実態をみ る場合に一つの有効な類型手法といえる。 8「基盤的技術産業」とは、工業製品の設計、製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し、製 造業の発展を支えるものを主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機 械修理業、ソフトウェア業、デザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しく は修理と密接に関連する事業活動を行う業種に属するもの(海外の地域における工業化の進 展による影響を受けている業種と関連性が高いものに限る。)として政令で定めるものをい う(「特定産業集積の活性化に関する臨時措置法第二条第 1 項より)。 9「特定中小企業集積」とは、自然的経済的社会的条件からみて一体である地域において、工業 に属する特定の事業又はこれと関連性が高い事業を相当数の中小企業者が有機的に連携しつ つ行っている場合の当該中小企業者の集積をいう(「特定産業集積の活性化に関する臨時措 置法第二条第6項より)。

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図 10:付加価値伸び率の比較 (中小企業白書[2001]第1章第3節7より引用) 3.4 国内生産要素 vs. 外国投資 その他の類型としては、クラスターが発生した源泉が地元の生産要素条件に あったか、あるいは、外国投資によるものかで一つの類型ができる。後者のケ ースの事例は台湾の電子産業(事例3)やマレーシアのペナン州(事例5)で あり、ダイナミズムを創出する着目点は、いかに地元業者とのリンケージをつ くるかである。マレーシアには、Klang ValleyやJohorなどの他の類似事例がある が、他の地域においては、華僑系民族企業の支援を積極的に行わなかったた め、ペナンほどのダイナミズムはうまれていないといわれている。 2.4項で議論したように、クラスターの発展は複数の要素が重なって決定され る。そのため、特定の類型化でクラスターの発展を推測するのは難しい。現状 のクラスター研究は、比較分析が弱い(Schmitz & Nadvi [1999])。その中で、2.4 項で紹介したハーバード大学で行われている数量分析は非常に重要な試みであ る。この数量分析プロジェクトにより、集められる全世界からのデータが今後 のクラスター研究に大きな飛躍をもたらすことが期待される。

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第4章 政府と振興策の役割 4.1 振興策の留意点 クラスターの振興策を検討する際には、クラスターのダイナミズムの源泉を 重んじなくてはいけない。クラスターのダイナミズムは、競争というオープ ン・マーケットの中で、個々の企業努力により、クラスター内の企業と協調し あってよい製品を生産し、更に、関連企業が次々にクラスターに参入するプロ セスにより生まれる。そのため振興策の留意点として3点があげられる。 ① 個々の企業のイニシアティブをそぐ介入はいけない。 ② 新たな企業や関連企業の参入に不利な状況をつくりださない。 ③ マーケット需要からひきだされる参加企業側のイニシアティブにより 集積利益を最大限にひきだす。 一般的にクラスターは、立地、原材料、人材などの優位性が存在し、自然発生 して形成される。アーティフィシャルにクラスターをつくる試みは、自然発生 したクラスターに比べダイナミズムがなく、成功した事例が少ない。台湾の電 子産業(事例3)とマレーシアペナン州の電子機器産業(事例5)はまれにみ る成功事例である。これらの事例は、国内産業の集積を促進し、外資系産業と リンクさせたことが成功を生み出した。 4.2 政府の役割とクラスター振興政策 政府の最大の役割は、クラスター企業が公平な競争をくりひろげられる経済 環境をつくることである。まず、重要なのは、マクロ経済と政治の安定であ る。メキシコのグアダラハラ(事例8)やブラジルのシノスバレー(事例9) の事例でも、為替変動が顕著に輸出競争力に影響している。 次に重要なのは、「市場の失敗」の領域にある。具体的には、 ① フェアな競争をくりひろげられるルールづくり(財産権を守る法律の制 定、納税管理、違法取引の監視など) ② 電気、道路、港、通信、水道などのインフラづくり ③ 基礎教育、高等教育をとおした労働者のボトムアップ を図ることである。フェアな競争をくりひろげられるルールづくりは、クラス ターのソーシャル・キャピタルの形成に寄与する。また、台湾の電子産業(事 例3)やマレーシアのペナン(事例5)では、インフラの整備が外資系企業の 誘致を促進した。そして、パキスタンのシアルコット(事例7)では、国際品 質基準のもと生産管理するため、下請け企業にも読み書きの能力が必要になっ

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ている。従業員の基礎学力の向上なしには、垂直なリンケージが弱まる状況に なっている。 クラスター振興政策は、特定産業振興政策と違い、特定のクラスターを優位 に位置づけるものであってはならない。従って、クラスター振興政策は、工業 化政策、中小企業育成政策、地域開発政策の中にとりいれられるべきであり、 その3政策がオーバーラップする部分がクラスター振興政策となる。 中小企業育成政策 工業化政策 クラスター 振興政策 地域開発政策 図 11:クラスター振興政策の位置付け また、中小企業育成のフレームの中で、信用保証制度、低金利融資、助成金な どの施策がとられるべきである。但し、それらの制度に応募、取得するのに も、企業間や組合間の競争の原則が必要であり、政府の一方的な判断により与 えるものであってはならない。浜松の繊維クラスター(事例1)では、1970年 代以降の衰退期に政府が保護政策をとったために、企業の刷新努力を遅らせた といわれている。一方、台湾の電子産業(事例3)の場合は、外資系企業の誘 致や、電子工業研究所、新竹科学工業園区の設置など、政府が積極的に発展の ための基礎基盤をつくったが、一旦、政策を実施すると民間に運営を任せ、公 からの民への移転を促進しているところが成功要因としてあげられる。 ILOやADBをはじめとするドナーは、近年、BDS(ビジネス・ディベロプメ ント・サービス)の役割に着目している。BDSとは、投融資などの金融サービ スを除き、第三者機関により企業活動を支援するサービスの総称である。 BDSの例(ADB [2001]) ・経営、技術トレーニング ・経営、技術コンサルティング ・修理、メンテナンス ・商品デザインサービス ・品質管理 ・創業コンサルサービス ・ITサービス ・宅配サービス ・市場調査 ・取引先仲介業 ・会計サービス

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BDSの基本コンセプトは、政府が直接介入するのではなく、BDSプロバイダー を利用して、中小企業育成のためのダイナミズムを起こそうと考えている。こ の考え方は、Porterのダイヤモンド・モデルでいうところの「関連企業・支援業 界」の強化にあたる。 4.3 地方分権 クラスター政策は、地方分権化の波とマッチングしている。なぜなら、クラ スターは地方から生まれるダイナミズムであるからである。中央では、そのダ イナミズムから生まれる需要に応じて、公平に資源を分配しきれない。また、 各クラスターがかかえる問題は固有である。その固有の問題を解決するには、 各クラスターにより近い地方行政府が地域振興政策とあわせて政策を立案、実 施するべきである。そのため、地方行政府の立案能力、モニタリング能力の強 化が望まれる。

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第5章 クラスター発展の要件 終章として、前章まで述べてきた議論を総括して、クラスター発展にとって 好ましい文化的、社会的、経済的条件をまとめる。まず、文化的に好ましい要 件は、よりよいものを求める文化と生活を向上させようという創意工夫の心で あるである。例えば、日本のクラスターの代表的存在である燕の金属洋食器ク ラスターは、江戸時代の和釘の生産からスタートしている。しかし、和釘にと どまらず、やすり、パイプ、矢立など関連の技術を応用して品種を増やし、同 時に、より芸術性の高い商品も作っていく。これは、つくる側、買う方ともに よいものを求める文化がそなわっているからである。これが、Porterのダイヤ モンド・モデルでいう「需要の条件」につながる。また、豊田グループを創設 した豊田佐吉は、貧困の家庭で育った。豊田が生まれた浜名湖の西にあたる湖 西市では、織物業が盛んであった。豊田は自分の母親が朝から晩まで働いても 一反しか織れない様子をみて、親を楽にしてあげたいという気持ちから自動織 機の開発にとりくんだ。お金のなかった豊田は東京まで歩いて博覧会を見にい き勉強し、1890年に自動織機を発明した。この自動織機がもたらした生産性の 向上が明治時代から昭和中期までの日本の繊維業界の優位性を決定づけた。同 様な発明は、事例2の浜松でも鈴木自動車グループの創設者である鈴木道夫 や、片面形糊付け機を開発した池谷七蔵も開発している。いずれも創意工夫の 文化から生まれた生産性の飛躍であった。この創意工夫の文化をもつ人材の有 無が、ダイヤモンド・モデルの「生産要素条件」と「企業戦略、構造、競合関 係の状況」の優位性につながる。 次に、社会的要件として好ましいのは、1社ですべてこなすのではなく、自 分はある分野に特化し、他の仕事はどんどん他社にまわしていくという分業や 専業を起こす社会的要件である。この社会的要件には、共同体的信頼関係、い わゆるソーシャル・キャピタルが必要である。例えば、大田区の金属加工業は 制度的に分業が進められたわけではない。常日頃の交流関係の中から、自然に 自分に出来ない仕事は仲間に仕事をまわすという姿勢が、集積の幅を広げてい った。但し、シアルコットの医療器具(事例7)のように、品質管理要件が厳 しい今日、他社に発注するより自社で生産した方が手間暇がはぶけるというク ラスターにとっては逆流した現象がおきている。一方、トヨタをはじめとする 自動車メーカーは、下請け管理を厳しくし、下請けに厳しい要求を促すが、そ れが下請け企業の底上げにつながっている。例えば、インドネシアジャカルタ のプロガドン工業団地は、トヨタの生産管理により、分業体制のなか、オン・ タイム・デリバリーを守って生産しているという。従って、分業を発生させる のは、すでに備わった社会状況だけで決定されるだけではなく、発注者側の意

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思も深くかかわっているといえる。また、クラスターのダイナミズムの源泉 は、イージー・エントリーによる新規参入企業の促進である。そのため、他者 を排除する閉鎖的な社会であってはいけない。これが、ダイヤモンド・モデル の「関連企業の参入」を促す要因となる。 最後に、経済的要因としては、マクロ経済の安定が最重要である。そして、 経済活動を促すインフラの整備、そして、フェアな競争をくりひろげられるル ールづくり(財産権を守る法律の制定、納税管理、違法取引の監視など)が必 要である。クラスターのダイナミズムは、零細から中小企業のネットワークが 源泉となって生み出すものである。従って、必ずしも、経済発展が必須条件で はない。むしろ経済が発展すると、2.5項にて述べたとおり、人件費の高沸や、 大企業に雇用をとられたりして、クラスターのダイナミズムにとってはマイナ ス要因が生まれてくる。 クラスター・アプローチは1990年代に入って急速に議論の高まりを見せた。 そして、そのダイナミズムは、あらゆる学派が同時並行的に調査、発表を行っ たことにある。今日、インターネットで英語文献を検索すると、インターネッ トがクラスター文献の宝庫となっていることがわかる。これだけ議論が高まっ た背景には、一方には、消費者の嗜好が大量生産商品から少量多品種商品に移 行 し た こ と に あ り 、 ま た 一 方 に は 、 Porter の ベ ス ト セ ラ ー 本 で あ る ‘ The Competitive Advantage of Nations'により、国の競争力はクラスターにあると論じ たことにより、政策者がクラスター開発に着目するようになったからである。 また、開発援助に携わる人々にとっても、手詰まりになっていた中小企業育 成政策を、クラスター・アプローチにより打開しようと図った。しかしなが ら、発展途上国の政策は、クラスターと共同体を混同するむきがある。協調関 係やネットワークばかりが強調され、集積利益が企業間競争により高まること を無視されがちである。世界レベルで市場競争がくりひろげられている今日、 戦いに勝つには、フェアな競争が行える経済環境の促進と提供が政府にとって の使命である。 本稿は学際的アプローチにより記述した。協調を強調する開発学系アプロー チと競争を強調する経営学系アプローチのかけ橋となることを望む。

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*10の事例の参考文献は各事例の終わりに掲載。 ADB SME Development TA Indonesia (2001), Best Practice in Providing BDS to SME.

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