絵本の読み聞かせによる母子相互行為が 子どもの語い発達に及ぼす影響
~子どもの社会情動的発達との関連から~
白百合女子大学大学院 文学研究科 博士後期課程 発達心理学専攻
岩崎 衣里子
目 次 序論
第 1 章 本論文の問題意識 1
第 2 章 背景 3
第 1 節 絵本の読み聞かせとは 3
1-1 読み聞かせの定義 3
1-2 母子の相互行為としての絵本の読み聞かせ 3
第2節 読み聞かせの構造と機能の発達及び子どもの発達への 影響に関する先行研究 8
2-1 読み聞かせの構造と機能が子どもの発達に対してもつ意義および 関連研究 8
2-2 絵本の読み聞かせと子どものについて言語発達について 10
2-3 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達について 16
第 3 章 理論および先行研究の評価について 19
第 4 章 本論文の目的と構成 22
第 1 節 目的 22
第 2 節 本論文の構成図 24
本論
第5章 研究Ⅰ 絵本の読み聞かせを通した母子相互行為の横断的な 発達的変化について 26第 1 節 読み聞かせによる母親から見た母子の変化(質問紙分析) 26
第 2 節 読み聞かせ時の母親の行動と子どもの行動の変化(評定分析) 33
第 3 節 研究Ⅰのまとめ 47
3-1 母親の読み聞かせ方針による子どもの行動の変化 47
3-2 読み聞かせ場面と展開場面での母子相互行為の変化 48
第6章 研究Ⅱ 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達と語い発達との 関連について 50
第1節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連(評定分析) 51
第2節 絵本の読み聞かせと子どもの社会情動的発達との関連(言語行動分析) 57
第3節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連(評定分析) 67
第4節 絵本の読み聞かせと子どもの語い発達との関連(言語行動分析) 76
第5節 絵本の読み聞かせによる母子相互行為と子どもの社会情動的発達と
語い発達との関連 89
第 6 節 研究Ⅱのまとめ 97
第7章 研究Ⅲ 絵本の読み聞かせが子どもの社会情動的発達と語い発達に及ぼす 縦断的な発達的変化について 105
第1節 読み聞かせによる母子相互行為の変化過程の検討 105
第2節 研究Ⅲのまとめ 125
結論
第 8 章 本研究の概要 130第 1 節 本研究の背景と目的 130
第 2 節 本研究の結果と示唆 133
第 9 章 本研究の結論と意義 145
第 1 節 本研究の結論 145
第 2 節 本研究の意義 147
第 10章 本研究における今後の課題 150
要旨 151
引用文献 153
謝辞 158
附録 159
図一覧
第2章
Figure 2-1 Cole(1996)のモデル 7
第3章 Figure 3-1 本研究での読み聞かせが語い発達に関連するプロセスモデル 21
第4章 Figure 4-1 本論文における理論編の構成図 24
Figure 4-2 本論文における実証編の構成図 25
第5章 Figure5-1 撮影時の俯瞰図 34
Figure5-2 読み聞かせ場面での母親の行動の変化 39
Figure5-3 展開場面での母親の行動の変化 40
Figure5-4 読み聞かせ場面での子どもの行動の変化 41
Figure5-5 展開場面での子どもの行動の変化 42
第6章 Figure6-1 情動発達指標の年齢段階ごとの変化 53
Figure6-2 読み聞かせ場面での母親の情動調整行動の変化 59
Figure6-3 展開場面の母親の情動調整行動の変化 60
Figure6-4 読み聞かせ場面での子どもの情動調整行動の変化 61
Figure6-5 展開場面の子どもの情動調整行動の変化 62
Figure6-6 語い発達指標の年齢段階ごとの変化 70
Figure6-7 読み聞かせ場面の母親の言語行動の変化 81
Figure6-8 展開場面の母親の言語行動の変化 82
Figure6-9 読み聞かせ場面の子どもの言語行動の変化 83
Figure6-10 展開場面の子どもの言語行動の変化 84
Figure6-11 読み聞かせ場面の第1段階のパス解析結果 92
Figure6-12 読み聞かせ場面の第2段階のパス解析結果 93
Figure6-13 展開場面の第1段階のパス解析結果 94
Figure6-14 展開場面の第2段階のパス解析結果 95
第7章
Figure7-1 読み聞かせ場面の母親の注意喚起行動の変化 110
Figure7-2 読み聞かせ場面の子どもの注意喚起の変化 110
Figure7-3 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化 111
Figure7-4 読み聞かせ場面の子どもの命名行動の変化 111
Figure7-5 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化 112
Figure7-6 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化 112
Figure7-7 読み聞かせ場面の母親の読み方の変化 113
Figure7-8 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化 113
Figure7-9 読み聞かせ場面の母親の応答行動の変化 114
Figure7-10 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化 114
Figure7-11 読み聞かせ場面の母親の情動調整行動の変化 116
Figure7-12 読み聞かせ場面の子どもの情動超背行動の変化 116
Figure7-13 読み聞かせ場面の母親の命名行動の変化 118
Figure7-14 展開場面の母親の命名行動 118
Figure7-15 読み聞かせ場面での母親の質問行動の変化 119
Figure7-16 展開場面の母親の質問行動の変化 119
Figure7-17 読み聞かせ場面の母親の情動調整行動の変化 120
Figure7-18 展開場面の母親の情動調整行動の変化 120
Figure7-19 読み聞かせ場面の子どもの応答行動の変化 121
Figure7-20 展開場面の子どもの応答行動の変化 121
Figure7-21 読み聞かせ場面の子どもの自己内対話活動の変化 122
Figure7-22 展開場面の子どもの自己内対話活動の変化 122
Figure7-23 読み聞かせ場面の子どもの情動調整行動の変化 124
Figure7-24 展開場面の子どもの情動調整行動の変 124
Figure7-25 縦断データによる読み聞かせ場面と展開場面での発達的変化 129
第9章 Figure9-1 読み聞かせ場面と展開場面における母子相互行為の発達的変化 146
Figure9-2 読み聞かせによる母子相互行為が語い発達に関連するプロセスモデル 146
表一覧
第2章
Table 2-1 読み聞かせの構造・機能の発達段階 15
第5章 Table 5-1 母親の読み聞かせ方針についての因子分析結果 28
Table 5-2 子どもの行動の変化の因子分析結果 29
Table 5-3 母親の読み聞かせ方針の在り方と子どもの行動の変化のt検定結果 31
Table 5-4 母親の行動の因子分析結果 37
Table 5-5 子どもの行動の因子分析結果 38
Table 5-6 読み聞かせ場面と展開場面の母親と子どもの行動のt検定結果 43
第6章 Table 6-1 子どもの行動と子どもの社会情動発達のt検定結果 55
Table 6-2 母親の分析項目 58
Table 6-3 子どもの分析項目 58
Table 6-4 読み聞かせ場面における母子の情動調整の相関 64
Table 6-5 展開場面における母子の情動調整の相関 66
Table 6-6 読み聞かせ場面と展開場面の子どもの行動と語い発達指標 73
Table 6-7 読み聞かせ場面と展開場面での母子行動の関連 73
Table 6-8 母親の分析カテゴリー項目 77
Table 6-9 子どもの分析カテゴリー項目 78
Table 6-10 母親の言語行動の因子分析結果 79
Table 6-11 子どもの言語行動の因子分析結果 80
Table 6-12 読み聞かせ場面における母子の言語行動の相関 86
Table 6-13 展開場面における母子の言語行動の相関 88
第7章 Table7-1 母親の分析カテゴリー項目 107
Table7-2 子どもの分析カテゴリー項目 108
1
序論
第 1 章 本論文の問題意識
日本における絵本の起源は,平安時代の絵巻物が絵本の起源と言われており,子ども向 けに作られた最初の絵本が,江戸時代の赤本であると言われている。第1次世界大戦後日 本では,中産階級の市民が台頭し,近代的な生活が謳歌されるようになった。このような 社会背景の下で,絵本の世界においても人々の文化レベルの向上を図るために,1920年代 に社会的・教育的目標を掲げた絵本の全盛期を迎え,絵本が市民の生活の中に浸透し始め
(国際子ども図書館,2010),家庭で絵本の読み聞かせが行なわれるようになった。
このような流れを受け継ぎ現代においても絵本は,子どもにとって身近な存在であり,
家庭ばかりでなく幼稚園や保育所,児童館,幼児教育施設,小学校,中学校(読売新聞,2010)
においても盛んに絵本の読み聞かせ活動が行われている。さらに早期からの絵本の読み聞 かせが注目され,絵本の購入者や販売冊数も増加傾向にあり,中でも乳幼児対象の絵本が 多くなってきている(仲本,2004)。実際に筆者が働いていた幼児教育施設においても,プ ログラムの中に絵本の読み聞かせの時間が設けられており,絵本の読み聞かせ活動に力を いれて取り組んでいた。具体的な例として,日本公文教育研究会は子育て支援の一環とし て2007年度より「こそだてちえぶくろ」プログラムを行っている(板橋・田島・小栗・佐々 木・中島・岩崎,2012)。これは,未就園児の親子を対象とし,全国の公文式教室において,
指導者が「歌いかけ」や「読み聞かせ」のお手本を示しながら,参加親子と一緒に歌と絵 本で楽しい時間を過ごすというプログラムである。具体的には,家庭でも「読み聞かせ」
を親子で楽しめるようにアドバイスし,絵本や記録ツールなどが入ったセットを提供し,
教室での経験を家庭に持ち帰ってもらい日常的に読み聞かせを通した豊かな親子のふれあ いをもってもらうことを主眼としたものであり,母子関係の基本的な良い土台作りに貢献 していることが示唆されている。
世界的にもブックスタートプロジェクトという運動が起こっており,絵本の読み聞かせ に今注目が集まっている。ブックスタートプロジェクトとは,英国のブックトラスト(教 育基金団体)が中心となり,1992年にバーミンガムで育児支援の一環として始まった運動 である。日本では,「赤ちゃんには絵本を読み聞かせる(read book to your baby)のでは なく,赤ちゃんと絵本とを通して楽しいひと時を共有する(share books with your baby)」
ことを基本理念とし,2001年4月に12市町村が実施をはじめ,全国各地で広がっている(横 山・秋田,2002)。それに伴い,2001年12月に「子どもの読書活動の推進に関する法律」
が公布され,この法律に基づき各市町村が
2
それぞれ「市町村こども読書活動推進計画」を策定することが求められるようになった
(文部科学省, 2001)。
また,地域の生涯読書活動も進んでおり,長野県塩尻市においては,「読書から始まる人 づくり」事業の一環として2009年度より,読み聞かせコミュニケーター育成講座と読み聞 かせ交流会が実践されている(宮下・佐々木・塩原・田中・田島,2010:宮下・田島・佐々 木・石川・伊東,2012)。これは,市民交流センター事業の一つとして,図書館,子育て支 援センター,塩尻市ロマン大学・大学院(高齢者のための社会教育の場)をつなぐ活動と しての側面をもつだけでなく,小学生を介して間接的ではあるが,社会教育と学校教育を つなぐ役割も担っている。内容としては,ロマン生(塩尻市ロマン大学生=高齢者)と小 学生とが,同じコミュニケーターとして幼児に対して絵本の読み聞かせを行うものである。
この交流会のねらいは,読み聞かせ活動を媒介としてロマン生と小学生,ロマン生同士,
小学生同士といった重層的な交流の機会を作り出すことであり,育成講座では,交流会で の読み聞かせ活動を目標としながら,読み聞かせコミュニケーターとしての力量を形成し ながらここでも様々な交流の機会をつくることがねらいとされている。そしてこの交流を 通じて,親子関係における読み聞かせから,社会的な関係に基づく読み聞かせへと発展し ていることが示唆されている。
このように,今や家庭ばかりでなく子育て支援の一環として企業や地域においても注目 され活発に行なわれている絵本の読み聞かせ活動は,子どもの発達にどのような影響を及 ぼすのであろうか。
絵本の読み聞かせに関する発達心理学研究は,1970年代後半より多くの研究者によっ て報告されており,被験者は主に乳幼児と母親であった。また,それらの研究の多くは子 どもの言語獲得との関連においてであった(石川・前川,2000)。 Ninio & Bruner(1978) は,絵本の読み聞かせ場面において,母親は子どもの言語発達の枠組みとなるフォーマッ トを形成していると述べている。その後,Ninio(1983)は,このフォーマットを語い教授フ ォーマットと命名し,絵本の読み聞かせ時のフォーマットが子どもの語い獲得に影響して いると主張しており,絵本の読み聞かせは子どもの語い獲得のための足場作りをしている と考えられる。
しかし,この絵本の読み聞かせと語い発達の研究の多くは,母子相互行為と捉えられて いながらも養育者の発話に焦点があてられており,母親の発話や行動が子どもの発話や行 動にどのように影響し,子どもの語い発達へと関連しているのかというプロセスは捉えら れていない。また,絵本の読み聞かせが果たして直接的に子どもの言語や語い獲得に影響 するのか,という疑問も考えられる。
以上の観点から,本論文において,母子相互行為としての絵本の読み聞かせ場面の中で 子どもと母親の双方の発話と行動に焦点をあて,子どもの語い発達に影響を与えていくプ ロセスを実証的に検討していくことを通して,読み聞かせの構造と機能およびその発達に ついての知見を深めることができると考えている。
3
第 2 章 背景
第 1 節 絵本の読み聞かせとは(定義と理論)
1-1 絵本の読み聞かせの定義
絵本の読み聞かせとは一体どのようなものであろうか。絵本の読み聞かせ活動について,
田島・中島・岩崎・佐々木・板橋・野村(2010)は,養育者を子どもの一番身近な存在である 母親として“発達初期の子どもと養育者間の「絵本」を介した記号媒介的相互行為で,養 育者の「語りかけ」活動の1種である”と述べている。本研究においても,この定義のも と記号媒介的相互行為である読み聞かせが子どもの発達に及ぼす影響を検討していくこと とする。それでは,この母子の記号的媒介相互行為である絵本の読み聞かせはどのような 構造と機能をもっているのであろうか。
1-2 母子の相互行為としての絵本の読み聞かせ
ⅰ)母子相互行為の構造
一般的な母子相互行為は,まず3,4ヵ月時では,母親は乳児に積極的に働きかけて注意を ひきつけ,交替のやりとりが促され,向かい合って視線を交わすやりとり,つまり向かい 合いのやりとりが行われている(Beebe & Stern, 1977; Stern, 1977)。生後半年ごろになる と,今までの養育者からの丁寧な対応を基盤とし,乳児は行動を予期できるようになるた め,乳児が主導した働きかけが出現する。9ヵ月になると,間主観性(Trevarthen & Hubley, 1978)が発達し,言語獲得や社会的相互交渉のスキル獲得などコミュニケーションの礎であ る共同注意(Scaife & Bruner, 1975 ; Tomasello, 1995)も発達する。子どもが母親の意図を 理解し始め,共同注意が可能になってくると,指さしなどが出現し,母親と共有しようと する場面がみられるようになってくる(Tomasello, 1995)。そして,母子が場面を共有する ことを通し,子どもと対象の相互作用を母親が媒介する 3 項関係へと発達する。これは絵 本の読み聞かせにおいてもよくみられる行為である。
石崎(1996)は,実際に母子相互行為の会話パターンを絵本の読み聞かせ場面において検討 している。その結果,最初は母親主導型であったのが,子どもが 2 歳になるころから,母 親主導のみではなく,母子交代型が成立していると述べている。母親は子どもが能動的に 参加する足場を作り,次第に子どもが中心となって活動していくように導いているという ことが示唆されている。
さらに読み聞かせ場面における母子相互行為として,棚橋・阿部・林(2005)は,文字を読 むことが出来ない子どもにとって,絵本を楽しむための橋渡しをしてくれる媒介者の存在 が必要であると述べている。媒介者としての大人が感じ取った「絵本の世界」は子どもに
4
伝わり,今度は子どもの感じ取った世界が大人に跳ね返ってくる。子ども独特の面白い読 みに大人も笑ったり共感し,絵本の世界を共有する楽しさが生まれると,大人は媒介者と してだけでなく,一緒に絵本を楽しむ同志となる。子どもだけでなく大人にとっても,そ れは至福のひと時となり,絵本を楽しむ醍醐味となることが示唆されている。
また,ブックスタートプロジェクトのパイロットスタディとして 3 歳までの乳幼児の追 跡調査を行った秋田(2004)の研究において,生後4,5ヵ月の赤ちゃんは追視が生じてくる 時期であり,赤ちゃんは絵本をじっと見ようとしており,赤ちゃんが養育者の読み声の心 地よさを聞いて楽しむことが指摘されている。そして,1歳半の乳児の親279人に子どもの 様子をたずねた結果,絵本経験頻度の高い家庭と低い家庭では,絵本経験頻度が低い家庭 では,子どもが「なめる・かじる」「集中しない」頻度が高く,反対に経験頻度が高いと「子 どもがじっと見る」などの集中や,「絵本の言葉の繰り返し」,「擬音語擬態語をまねる」と いった言語反応や「指さし」,「登場人物と同じ身振り」をするという非言語活動を行って おり「同じ絵本を何度も見ようとする」行動の頻度が高いことが指摘されている。乳児は まず絵本をものとしてかじってみたり,さわってみたりするが,その後指さしや身振りな ど,自らの身体を介して絵本の絵に関わり,そして絵本に描かれた言葉に出会い,こうし た過程をどの家庭においても2,3歳ごろまでに通り,経験によってそれらの行動が消失し ていることが示されている。このような経験を通して子どもは絵本の楽しみを感じ取り,
絵本の世界を母親と共有しながら我がものとしていくと言えよう。
読み聞かせ場面が母子のコミュニケーションの場となっていることと,さらに子どもの 年齢の特徴も示した横山(1997)の研究では,3歳~4歳代の子ども4名(男女各2名)とその 母親に,各家庭で日常的に行われている就寝前の読み聞かせを 1 年間カセットテープに録 音し,その対話をカテゴリーに分け分析したところ,日常的に行われている絵本の読み聞 かせ場面では,子どもにとって,単に絵本の内容を伝える場としてのみではなく,絵本を 挟んで母子が向き合い,子どもの興味に応じて,また登場人物に自分や家族を重ね合わせ たり,時に子どもの日常や過去を振り返りながら,様々な対話が交わされるコミュニケー ションの場として機能していることが明らかにされている。また,3~4 歳代の読み聞かせ の特徴として,多様なやり取りが交わされ,特に 4 歳代に入ると絵本のストーリー以外の 対話が活発になることが示唆された。
また,母親の読み聞かせ方にも年齢によって差がみられることが,秋田・無藤(1996)
の研究の第 2 調査によって指摘されており,その研究によると,母親の絵本の読み聞かせ 方と子どもの年齢に伴う変化がみられ,子どもとの話し合いや内容の説明を重視する「会 話型」の読み聞かせ方と,読めるところは子どもに読ませたり,1人で読めるように読み方 を教える「一人読み促進型」の読み聞かせ方という2タイプの読み聞かせ方が抽出され,「一 人読み促進型」よりは「会話型」の読み聞かせのほうが3歳から 6歳頃の幼児期に全般的 に行われることが多いこと,横断的に年齢変化を見ると「会話型」の読み聞かせは年長児 になると次第に減少し,「一人読み促進型」の読み聞かせは増えていくという変化,子ども
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の発達に合わせて読み聞かせ方が変わっていくことが示唆された,という報告がなされて いる。
また,母親の読み聞かせ方だけでなく母子相互作用の対話を通した子どもの語りに焦点 をあてた,黒川(2009)の研究では,2歳と4歳の子どもとその母親10組を対象に,母から 子どもへ子どもの気に入っている絵本を読み聞かせる「読み聞かせ場面」と子どもが語り 手となる「発展場面」を設定し,各場面をビデオ録画により記録し,母子対話の中で発展 する子どもの「語り」の発達的変化を検討した。その結果,「読み聞かせ場面」では2歳児 は 4 歳児に比べ,絵本を介しての母子相互作用が活発であり,対話の中での母子の「共同 作業」としての2歳児の「語り」がみられ,4歳児は母親と目に見える活発な相互作用は見 られないが,ストーリーを視線で追うなど内言活動が活発で,母親の「足場かけ」による
「語り」の形成,さらに言語だけでなく,動作を伴う多様な表現がみられ,4歳児は考えな がら語る「自己内対話」や文字を意識した「語り」が特徴的で,母親だけでなく不特定多 数への「語り」へつながることが示唆された。
これらのことから,絵本の読み聞かせをするさい,子どもの年齢によって母親は読み聞 かせ方を変化させ,それに伴い子どもとのやりとりにも年齢によって変化がみられること が示された。そして,子どもが母親の媒介を通して,絵本からどのように情報を受け取っ ているかをみるためには,黒川のように読み聞かせ場面だけでなく,その後の絵本を題材 として子どもが語り手となる「発展場面」も含める必要があると考えられる。
以上のように母子の相互作用としての絵本の読み聞かせに関する先行研究を外観したが これらのことから,母子が共有している絵本の読み聞かせ場面の構造は,Vygotsky(1978) の3項関係の典型的事例であるといえよう。Vygotskyの3項関係とは,田島(1996)による と,『人間が外界の対象に働きかけるときに道具使用(媒介)が単に活動を容易にするとい うのではなく,道具使用が活動そのものを変形し,形作る,という意味で,人間の活動は その媒体を考慮することなくしては理解できず,そのため人間活動は「主体-対象」とい う二者関係ではなく,「主体-媒体(道具)-対象」という3者関係(3項関係)と捉えな ければならないこと。その意味で,「道具に媒介された行為」は,人間活動を捉える上で分 離することのできない最小の分析単位とみなされるべきこと』であると述べている。つま り,子どもが主体,対象が絵本,媒介を母親として,絵本を母子が共有することを通し,
子どもと絵本の相互作用を母親が媒介すると考えられる。この3項関係は,言語獲得の中 核となる人間独特の高次精神発達,あるいは文化獲得ないし,文化的学習の必須条件であ ると捉えられており,子どもの様々な発達の基盤となり,その後の言語発達や認知発達と 関連してくると述べられている(Tomasello, 1986)。そして子どもは,他者や対象から直接 学ぶだけでなく,他者を介して自ら様々な理解を広げることができるようになると言われ ている(Tomasello, 1995)。
さらにこれらは,Vygotsky(1978)の最近接発達領域の概念とも関連していると思われる。
子どもの発達には,現在のレベルと現在形成中のレベルがあり,現在形成中のレベルは未
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完成のレベルとして潜在している。おとながその未完成のレベルに気づき,子どもが自力 でできないところを,支援や協力することで,子どもは次第に自力でできるようになって いく。このことから,母子の絵本の読み聞かせが母子の共有場面であり,子どもの発達の 足場となっていると考えられるが,絵本の読み聞かせの構造について実証的に検討してい る研究は少なく,絵本の読み聞かせの構造について実証的に明らかにすることは意義深い ことであると言えよう。
ⅱ)母子相互行為の機能モデル
上記のL.S.Vygotskyの3項関係を,Cole(1996)のモデルに当てはめてみる(Figure 2-1
参照)。このモデルはどのような機能を果たしているのかというと,「子どもは母を介して 世界と相互作用することができる」ということを「A 」の図は表しており,「B 」は「母は 絵本を通して世界との相互作用を媒介することができる」こと,そして「C 」は,「子ども が絵本を介して世界と相互作用することができる」というのが目標構造を表している。こ の「C 」を可能にするためには A とB のシステムが存在していることを前提に,「A’:子 どもと世界の相互作用を母親が媒介し」,「B’:母親は次に,絵本を用いて世界との相互作用 を行う」ことにより,子どもは 2 重システムを確立し,世界と絵本による情報を統合し,
目標の「C 」が獲得され「C’ 」になっていくと考えられる。これが絵本の読み聞かせの機 能のモデルであり,この絵本の読み聞かせの機能によって子どもは様々なものを獲得して いくと考えられる。それでは,このような機能をもつ絵本の読み聞かせによる母子相互行 為は実際に子どもの発達にどのような意義をもたらすのであろうか。第 2 節において,読 み聞かせの構造と機能が子どもの発達にどのような意義をもたらすのかを先行研究と照ら しあわせて概観していく。
7 Figure 2-1 Cole(1996)のモデル
8
第 2 節 読み聞かせの構造と機能の発達及び子どもの発達への影響 に関する先行研究
2-1 読み聞かせの構造と機能が子どもの発達に対してもつ意義および関連研究
読み聞かせが子どもの発達に対してもつ意義として,幼稚園教育要領(1998)では,「絵本 に親しむことによって,想像する楽しさを味わったり,イメージや言葉に対する感覚を養 う,保育者や友達と心を通わせる」ことが書かれている。実際に4ヵ月児の親460 人(男 性227人,女性232人)を対象に質問紙調査を行った横山・秋田(2002)の研究では,「子ど ものゆったりとした情緒的な結びつきを大切にすること」を意義としてあげている。また 秋田・無藤(1996)の研究では,母親293名,年長児118名(男64,女54),年中児120名
(男58,女61),年少児の母親(男32,女22,不明1)を対象に質問紙調査を行ったとこ ろ,幼児の母親の多くは「空想・ふれあい」という読み聞かせ過程の内生的意義や,「本好 き・楽しむ」という感情的側面を重視していることが示されている。この結果より,「空想 したり,また親子のふれあいをする」ことと「文字を覚え,文章を読む力や生活に必要な 知識を身につける」という 2 種類の意義を読み聞かせの意義としてあげている。これらの ことから読み聞かせの意義は,大きく分けて「親子のふれあい」と「文字などの知識を身 につける」という2つがあると考えられる。
まず,その「親子のふれあい」としての意義に関連して,佐々木(2004)は,絵本の読み聞か せの意義は,「絵本をめくりながら表情を通して,視線を通して,言葉の抑揚・音韻・リズ ムを通して向き合う者の二つの心は通じ合い,その繰り返しの中でお互いの理解と信頼は 育まれていく。このことは,同じ経験内容を分かち合うことが可能になるための,コミュ ニケーション回路を開発する」と述べている。
また,川井・高橋・古橋(2008)の研究では,幼稚園で「絵本の読み聞かせボランティア活 動」を実施している保護者へのインタビューをし,その結果,本の読み聞かせを行った親 子では,そうでない親子と比べ親子間の話題や身体接触を含むコミュニケーションの増加 が顕著にみられ,親子の絆を深め,本への親近感を増やし,知的な好奇心をもたらすこと が明らかになった,という報告がなされている。
次に「文字などの知識を身につける」という意義に関連して,秋田ら(2004)は愛着尺度を 用いて値の高い親子と低い親子での読み聞かせによる言葉のやりとりの相違を検討した。
その結果,愛着が安定していると,「子どもの声をきく」「子どもの声や話を復唱する」と いうように子どもの声を受け入れ応じながら,そこに「説明を加える」「生活経験を話す」
「身振り手振り」をつけるなどをして楽しんでいることが示され,子どもを主体にしなが らも絵本を介して対話をしていることが示唆されている。
これらのことから,絵本の読み聞かせ場面は,母子が一つの絵本を共有するという母子
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の共有場面であり,絵本を介し親子の良好なコミュニケーションがなされるための最適の 場であり,読み聞かせが親子のふれあいや情緒的コミュニケーションを促し親子の絆をふ かめ,また本への興味を増やし知的好奇心を子にもたらし,それによって文字を覚え,言 語発達につながっていくと考えられる。実際に,絵本の読み聞かせと子どもの言語発達と の関連は,1970 年代後半より多くの研究者によって報告されている(石川・前川,2000)。
それでは具体的に絵本の読み聞かせは子どもの言語発達にどのような影響を与えているの であろうか。その知見をみていく。
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2-2 絵本の読み聞かせと子どもの言語発達について
言語の基本形式というのは,話しことばによる相互行為が基本であり(Vygotsky, 2001),
子どもが言語を獲得するには,身近な養育者との相互作用,養育者のことばかけが極めて 重要な役割を果たしている(岩立・小椋, 2002)。そして,その基盤となる生後9ヵ月頃に成 立するといわれている母子の共同注意がみられることで,身振りでのコミュニケーション や大人の模倣が可能となり,この共同注意が言語発達に大きく貢献すると考えられている (Tomasello, 1995)。この共同注意行動は,Bruner (1983)によると,「対象に対する注意を 他者と共有する行動」であり,2つの段階があると説明している。第1段階は生後2ヵ月の ころで,乳児が養育者と直接視線を合わせる行動で,この段階は,乳児と養育者の 2 者間 での相互による注意の共有であり,注意共有の主導権は養育者であることが特徴である。
それに対して第2段階の6,7ヵ月以降では,ひとつの対象や出来事を乳児と養育者が一 緒に見るといった共同注意行動も成立するようになり,母子が 1 つの対象を見るという 3 者間での注意の共有であることが特徴である。そしてその主導権を乳児の側でももてるよ うになることも第 2 段階の特徴であり,これがより確定的になるのは,指さし行動が見ら れ始める9ヵ月から1歳の頃といわれている。そしてこの他者との注意の共有を基盤とし,
乳幼児の言語的コミュニケーションの発達へとつながっていくのである。言語的コミュニ ケーションにはジェスチャーや発話などがあるが,発話は語いからなっており語いの学習 が不可欠である(吉田,2011)。Tomasello(1995)は,語い獲得は,先行,基礎,促進の3つ のプロセスを経るとしている。先行プロセスとは,乳児の発話の分割処理と指示対象の概 念化である。モノや出来事についての感覚運動的相互行為によって,対象の理解である概 念化が進むのである。基礎プロセスとは,共同注意というおとなと子どもの共通のコミュ ニケーションの土台を確立し,おとなの伝達の意図を理解する。促進プロセスは,語の対 比(同義語の対比較)と言語的文脈の理解が中心となる。よく似た 2 つの語の使い方の違 いを聞くことによって,2つの語の示す概念が異なる広がりをもつことを理解するようにな る。このようなプロセスを経て語の学習がほぼ完成する。このような語い獲得の背景にあ るのはどのようなものなのか。
Cole, M. (1996) は,「子どもが言語的コミュニケーションを得るためには,言葉を聞くだ
けでなく,その言葉が役だっている活動に参加しなければならず,日常的な活動において 言語は,互いの協調的な関係をつくり維持し,身振りと他の行為との間のギャップを埋め,
さらに予想や解釈を微調整することができるための必須の手段である。おとなは,子ども が言語によって媒介される文化的に組織化された活動に参加するよう手はずを整え,それ が可能になるようにすべきである。」と述べている。この言語獲得のために必要な条件とし て,Bruner(1988)は,人間には言語獲得の過程において社会的な相互作用を重視し,言語 獲得援助システム=LASS(Language Acquisition Support System)が備わっているとし ている。養育者は子どもが言葉の機能,語い,統語的規則を発見しやすいように様々な手 がかりを与え,言語獲得の足場となるコミュニケーションの場を作っている。
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さらにBruner(1988)は,子どもが自分自身のコミュニケーションの意図を示し,他人の
意図をどのように図ればいいかを理解出来るようになるためには,そしてコミュニケーシ ョンから発話へと連続するためには大人の発話や初期の発話の相互作用を調整する言語的 コミュニティが重要だとし,これを助ける媒体がフォーマット,つまり大人とこどもとが 共応して言語を伝え合うことが出来るようにするパターン化された場面であると考えた。
そしてその場面として,よく使用されているのが絵本の読み聞かせ場面であると考えられ る。
フォーマット(型・形式の意味)とは,日常的な反復される相互作用のパターンであり,
それにのっとっておとなと子どもとは,お互いにあるいはものと,何かを行う。フォーマ ットは,語い文法的発話の前に現れるため,それは,コミュニケーションから言語への過 程における重要な媒体となると考えられる。
実際に絵本場面での調査を行ったNinio & Bruner (1978)は,母親と8ヵ月から1歳6ヵ 月になるまでの子ども達を対象とし,絵本の読み聞かせ場面での母子のやりとりを縦断的 に調査した結果,母親の読み聞かせの仕方には一定のフォーマットが形成されており,母 親の会話は「注意喚起」(みて!),「質問」(これは何?),「ラベル付け」(それは○○よ),
「フィードバック」(そうね)という4つの基本的会話に分類されるということを報告して いる。そしてこのフォーマットは,言語発達や会話のやりとりを促すのに適した方法であ ると考えられる。
さらにNinio(1983)は,このフォーマットを語い教授フォーマットと命名し,1歳5ヵ月
から1歳10ヵ月までの子どもと母親20組を対象として横断的に読み聞かせ場面の調査を 行った。その調査で,子どもがラベリングをすることができなかったものが再び現れると,
母親は自らラベリングをして,子どもに対し言ってみせるという行動が現れたが,子ども が以前にラベリングをすることができたものには,「これは何?」という質問を行ったりし て,子どもに答えさせており,母親が教授フォーマットを使用・調節し,子どものラベリ ング能力を産出しているということが認められ,絵本の読み聞かせ時のフォーマットが子 どもの語い獲得に影響していると主張した。
それに対し外山(1989)は,1歳5ヵ月から2歳2ヵ月までの間の子どもとその母親5組を 対象に読み聞かせ場面を縦断的に調査した結果,絵本の読み聞かせにおいて,子どものラ ベリングの正誤に関係なく,母親自らがラベリングを行う傾向にあり,母親が自分のペー スで読み進めていく過程に子どもが自然と巻き込まれて名称を獲得していくこと,子ども は絵本の読み聞かせ場面でのやりとりを通じて絵本の読み方のみならず,文化的諸要素を 習得していくということを示している。
また,村瀬・マユー・小椋・山下・Dale (1998)らは,10,12,15,18,21,24,27ヵ 月の子どもとその母親66組を対象に,横断的に3冊の絵本を介して母子の会話を5分間観 察した。その結果,絵本場面での母子によるラベリングにおいて,子どもは月齢の増大と 共に,母親からの援助が少ないもとでのラベリング遂行者となり,母親は子どもの月齢増
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大とともに,足場作りの度合いを弱め,より複雑な会話構造へ子どものラベリングを組み 込むという教授法をとる,ということを明らかにした。
さらに石崎(1984)は,1~3歳の各8組の母子を対象に4冊の絵本での相互交渉場面を分 析し,1歳児では「物の名前」が話題の中心であったが,2歳児では「行動」に関する話題 が中心となり,3歳児ではさらに話題の幅が広がっていくことを明らかにしている。そして,
絵本の読み聞かせ場面において母親はコミュニケーションを通じて子どもの語い発達を促 すフォーマットを作り,子どもの月齢の増大と共にそのフォーマットは変化していくとい うことを示唆している。
これらのことから,絵本の読み聞かせ場面が子どもの語い獲得を促す足場を作り易い場 面であると考えられる。
これらの研究以外にも絵本の読み聞かせが母子の行動と子どもの語い発達へどのような 関連があるのかを年齢ごとに検討したものとして岩崎・田島・佐々木(2010)の研究がある。
この研究では,1歳,3歳,5歳児とその母親47組を対象に,子どものお気に入りの絵 本を使用し,読み聞かせ場面における,母親の行動や子どもの行動および言語発達との関 係について母子の行動評定と語い発達(表出言語,理解言語,言語概念)の指標としてKIDS 乳幼児発達スケールを使用して分析を行った。その結果, 1歳児では,母親の足場作り行 動が多いほど子どものスムーズなやりとり行動が多くなり,母親の子どもを尊重する行動 が多いほど子どもの積極的行動も多くなることが認められており,母子相互交渉がより活 性化されていることが示唆されている。母親の行動と子どもの言語発達指標との関連にお いては,母親の子どもを尊重する行動が多いほど,子どもの理解言語,表出言語,概念得 点が高くなることが示されている。母親は子どもを尊重した読み聞かせをすることにより,
子どもは,自分のペースで絵本に接することができるようになる。その結果,やりとりを 通じて自己の内部に他者とのやりとりを内面化するという自己内対話活動(Vygotsky,
2001)が起こり,言語発達へとつながっていくことが示唆された。1歳児の読み聞かせ場面
は,構造的には母親と子どもがやりとりを通じて絵本を共有する共同注視の場面(Tomasello,
2006)であることが示唆されている。
3歳児においては,1歳児と違い,母親の足場作り行動および子どもを尊重した読み聞か せ行動をしない方が,子どもの積極的参加行動が多くなることが認められている。母親の 行動と子どもの言語発達指標との関連においては,母親が子どもを尊重した読み聞かせを しない方が,子どもの理解言語,表出言語,概念得点が高くなることが示されている。こ のことから,3歳児は自己内対話活動が活発に始まるため(Vygotsky,2001),母親は働きか けを多くせず,淡々と読み聞かせをした方が,子どもの自己内対話活動が活発になり,言 語発達の基盤となっていくためではないかということが示唆されている。
5歳児においては,3歳児と同様に,母親が足場作り的な読み方をしない方が,子どもの 積極的参加行動が多くなることが認められている。母親の行動と言語発達指標との関連に
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おいては,母親が子どもを尊重した読み方をしない方が,子どもの理解言語,表出言語得 点が高くなることが認められた。ただし,言語概念得点のみにおいては,母親が子どもを 尊重した方が,子どもの言語概念得点も高くなることが認められた。これは,5歳児は自己 内対話活動と社会的対話を上手く使いこなしているため,子どもが自己内対活動をしてい るときは,母親は足場作りや子どもを尊重しない読み聞かせ方をし,子どもが社会的対話 をしているときは,母子相互交渉が活発になっているので,子どもを尊重した読み聞かせ をした方が,子どもの言語発達の基盤となっていくということが示唆されている。
また岩崎ら(2010)と一部同じ調査者を含む,田島ら(2010)の研究においても,1歳,3歳,
5歳児とその母親計53ペアを対象に,乳幼児期における読み聞かせ活動の在り方の変容過 程と母子行動の変化との関連,子どもの認知的発達との関連について明らかにするために,
読み聞かせに関する質問紙による検討が行われている。その結果1歳児では,母親が何か を教えようとする関わりである教育的志向をもって読み聞かせを行った方が,子どもは言 語を介した自己制御の獲得が増加することが示されている。これは,母親が子どもに読め るところは子どもに読ませたり,字に注目させたり教えながら読むといった教育的志向に 基づく読み聞かせを行うことで子どもが絵本に興味をもつようになったり,新しい言葉が わかったり,泣いたり癇癪をおこすことが少なくなるといった言語を介した自己制御の獲 得が多くなることを示している。このことから,1歳は社会的対話プロセスが内部に内面化 されていく段階であることが報告されている。3歳児と5歳児においては,母親の教育的志 向の低さが,子どもの言語を介した自己制御の獲得を増加させていることが認められてお り,このことから子どもの内部での自己内対話活動が促進される段階であるということが 主張されている。さらにこの研究では,「歌いかけ・読み聞かせ活動の構造と機能の発達過 程」を明らかにすることに着手し,「2段階・5ステップ」の発達モデルを提起している(Table 2-1)。
この「2段階・5ステップ」発達モデルを詳細にみていくと,第1段階のステップ1の0 歳代は前半と後半にわけられ,0歳代前半をステップ1-1「母子一体感をベースとした2 項関係の形成作りの時期」,ステップ1-2「共同注視の形成作りの時期」としている。これ は,前半は2項関係における母子一体感を楽しませる働きをもちながら,後半は共同注視 の形成作りに焦点化した働きが想定されているためである。ステップ2の1歳代において は,「言語刺激の自己内対話的再構成の時期」としている。これは,ステップ1を基盤とし て,両活動ともに,共同行為で共有された言語刺激が,次第に子ども自身の内部に内面化 され始める状況が想定されているためである。
第2段階のステップ3の2歳代では,共有した言語刺激の自己内再構成を通して,さら なることばの意識化・対象化とことばを使った自己表現活動の展開が想定されている。ス テップ4の3歳代では,機能としてはステップ3と変わらないが,ステップ3に比べると より個人的活動に重点がおかれている。ステップ5-1の4歳台では,ステップ3に比べて 個人的活動と自己表現活動を通した社会的活動の調整を計る行動が想定されている。そし
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てステップ5-2の5歳代以降において,読み聞かせ活動がもつ機能(言語リテラシーの獲 得)が完成するとともに,積極的に社会的活動を展開していく時期を迎えると想定されて おり,この「2段階・5ステップ」という段階を踏んで発達していくことの普遍性を仮定し ている。本研究においても,大まかにはこの2段階・5ステップモデルに沿った発達をして いくと仮定することとする。
以上の研究や理論から,絵本の読み聞かせ場面は,母親が子どもの語い獲得を促すフォ ーマットを作りやすい場面であり,子どもは母親とのコミュニケーションを通じて語いを 獲得していくと言えよう。そしてそのフォーマットは子どもの年齢に応じて変化していく ものであると言えよう。しかし,読み聞かせ時の母親のフォーマットは直接子どもの語い 発達に影響するのであろうか。母親がフォーマットを作っても,子どもの方がそれを受け 取らなければ,子どもに影響を与えないのではないだろうか。母親がフォーマットを作り,
子どもと共有するためには,それを成立させるためのものが必要なのではないか。この謎 を紐とくものとしてVygotsky(2001)の一般的発生原理にそって考えてみたい。
Vygotsky(2001)は,理論の大前提として,人間独特の高次精神活動は文化獲得ないし文 化的学習であるととらえ,個人の発達を理解するためには,その個人の社会的関係を理解 しなければならないと述べている。この理論によれば,「子どものことばというものは,精 神間的機能から精神内的機能への,すなわち,子どもの社会的集団的活動形式から個人的 機能への移行現象の一つである。これらの機能は,最初は,共同活動の形式として発生し,
その後でのみ,子どもによって自分自身の精神活動の形式に移される。」としている。また 田島(2003)においても,「子どもの文化的発達におけるすべての機能は,2度,2つの水準 に現れる。最初は社会的水準であり,後に心理的水準に,すなわち,最初は精神間機能と して人々との間に現れ,後に精神内機能として子どもの内部に現れる」としている。つま り,まず,母子間で実際のやりとりが行われ(精神間機能),子どもは次第にこのやりとり を自分の中に取り込み,心内化し,頭の中で母とのやりとりを想定して自分ひとりで行動 できるようになってくる。そして今度は頭の中でもう一人の自分とのやりとりをしながら
(精神内機能)行動するようになるのである。この精神内機能を自己内対話活動(Vygotsky,
2001)といい,母親がフォーマットを作り子どもと共有するために必要なものであると考え られる。そしてこの自己内対話活動の出現には母親とのやりとりである対人関係の成立が 重要であり,そのためには母子で対人関係が成立する基盤として,言語獲得以前にみられ る前言語的コミュニケーションの重要性が指摘されている(岩立・小椋,2002)。
以上のことから,前述の母子相互行為の研究からの知見も含め,まず母子相互行為にお ける読み聞かせによって前言語的なコミュニケーションが行われ,その後のコミュニケー ションの成立につながるような相互作用のパターンがでてくる(岩立・小椋,2002)ことで対 人関係が成立する。そしてその対人関係を基盤として自己内対話活動がおこることで,は じめて子どもの語い発達へとつながっていくのではないかと考えられる。子どもの自己内 対話活動,そして子どもの語い発達へと影響するための媒介物として,子どもの対人関係
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を作る前言語的コミュニケーションの発達があるのではないだろうか。次より,この前言 語的コミュニケーションの発達について概観していく。
0歳代前半
<母子一体感をベースとした二項関係の体制作りの時期>
母の語りかけや読み聞かせが子どもの注意や興味を引き、
母子の共鳴的発声やバブリングを通したやりとりを通して 母子の一体感を楽しむ。
0歳代後半
<共同注視の体制作りの時期>
本を介した対話的交流で、社会的対話・共同行為を通して
母子が共同で世界をみるための体制(共同注視)を構築すると共に 母子の絆を完成させる。
Step2
1歳代<言語刺激の自己内対話的再構成>
読み聞かせ(親と子が本を介して共同で”実体験”に世界を見る行為)が、
子の内部に内面化されつつある「自己内対話」のプロセスの段階(母語の 獲得が盛んになる)
Step3
2歳代<「言葉の対象化」と象徴遊びへの展開>
自己内対話的再構成の定着を基盤に、
ことばそのものへの興味・関心が生まれ、本の内容の描画や ごっこ遊びなどの象徴的活動・自己表現活動が盛んになる
Step4
3歳代<脱文脈的ことばの獲得と「素語り」活動への展開>
物語を全場面を通して語る「素語り」活動や、作品活動などにより、
文脈に埋め込まれたことばが次第に脱文脈化されてくる。
4歳代以降
<文字を介した読書活動への展開>
絵日記活動などを通して、文字が描画などと同じ自己表現活動の 一手段として定着し、読書が「自分自身への読み聞かせ」活動として 機能し始める。
5歳代以降
<言語リテラシー獲得の完成の時期>
読書に必要な言語リテラシー能力の獲得が果たされるとともに、
読書で蓄えられた認識や言語操作能力・知識を使って、
社会的なコミュニケーション能力の向上へとつながる。
Step1
Step5
第1段階
第2段階
Table 2-1 読み聞かせの構造・機能の発達段階 (田島ら, 2010)